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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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88 ギャン


 シルルンたちはルビコの街の北側にあるテントエリアに出現した。


 すると、そこにはガダンの手下が十人ほど待機していた。


「お待ちしておりました。ガダン様のお屋敷にご案内いたします」


「うん」


 シルルンたちはガダンの手下たちに先導されて、ルビコの街に入ってガダンの屋敷に到着する。


 ガダンの屋敷は綺麗な石で建てられており、屋敷の門は見上げるほど大きかった。


「へぇ、小さい城みたいだね。僕ちゃんの家とは大違いだよ」


 シルルンは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。


 シルルンたちは屋敷の門をくぐり、手下たちについていくと一際大きい扉の前に案内されて中に入ると、部屋は広く五十人ほどが座れそうな大きなテーブルが中央に置かれていた。


「こちらです」


 シルルンたちは手下たちに案内されて部屋の奥に進んでいくと、手下たちが扉を開けて待っていた。


「どうぞお入りください」


 手下たちは深々と頭を下げて、シルルンたちは部屋の中に入った。


「お待ちしておりました王よ」


 ガダンは緊張した面持ちで跪いて頭を垂れた。


 ガダンの両脇にはゼバルとホフマイスターが控えており、ガダンに倣ってゼバルとホフマイスターは跪いて頭を垂れた


「うん」


 シルルンはにっこりと微笑んだ。


 部屋には小さなテーブルと三人掛けのソファが二つが置いてあり、シルルンたちはソファに腰掛けた。


「それで頼んでた食料はどんな感じ?」


「はっ、現状では日持ちする食料が倉庫十棟分ほど集まっております」


「えっ!? もうそんなに集まったの? あっ、それと座っていいよ」


「はっ」


 ガダンたちは立ち上がってシルルンたちの対面のソファーに腰掛けた。


「王よ、これをお預かりください」


 ガダンはテーブルの上に永久奴隷証書を一枚置いた。


「えっ!? これって奴隷証書じゃん。どういうこと?」


 シルルンは軽く眉を顰めている。


「元奴隷商人である儂のことを快く思っていない者たちへの配慮だと思ってくだされ」


「う~ん……そこまでしなくていいんじゃないの?」


 シルルンは表情を曇らせた。


「王への忠誠を絶対にするためです。どうかお受け取りください」


 ガダンは恐ろしく真剣な表情を浮かべている。


「わ、分かったよ……」


 シルルンは得心のいかないような顔をしながら奴隷証書を手に取った。


 ガダンは奴隷証書に手を置いて、シルルンの奴隷になることを宣言した。


 こうして、ガダンはシルルンの奴隷になった。


「儂はすでに奴隷屋は廃業しました。ですが今までに蓄えた財産があります。具体的には武器屋が十軒とポーション屋が十軒、そして魔物の素材を集める採取隊が全て奴隷でおよそ千六百名と奴隷をスカウトする奴隷がおよそ六百名、武器屋やポーション屋にかかわる奴隷がおよそ二百名、その他の雑用などをこなす奴隷が五百名ほどいます。どうかこの者たちには寛大な処置をお願いします」


 ガダンは張り詰めた表情で訴えた。


「いや、それはガダンの財産なんだからガダンの好きにしたらいいよ」


 シルルンは即答した。


「えっ!?」


 ガダンは面食らったような顔をした。


 彼はシルルンが奴隷を好まないのは理解していたので、奴隷たちは全員解放になる可能性が高いと考えていたからだ。


「あはは、けどポーション屋は気になるけどね。何しろポーションは品薄でなかなか手に入らないし、僕ちゃんの仲間は回復手段をもってる者がほとんどいないからね」


「なるほど……それではポーション屋を見学なさりますかな?」


「うん、そうだね。けどその前に倉庫にある食料が先かな。倉庫はここから遠いの?」


「いえ、倉庫はこの敷地内にあります」


「それで倉庫十棟分の食料はいくらかかったの?」


 シルルンは探るような眼差しをガダンに向けた。


「……王よ、そんなことは気にしなくてもよいのです」


 ガダンは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「えっ!? だってガダンのところは奴隷屋をやめたんだから儲けが減ってるし、多数の奴隷を養ってるんだからその責任があるでしょ?」


 シルルンは不審げな表情を浮かべている。


「……確かにそうですが、儂が食料を買いつけて王に売るのであれば、その関係はただの商人になってしまいます。儂は王の配下ですので王の力になりたいのです」


 ガダンはこれだけは譲れないといったような決死の表情を浮かべている。


「……う~ん、わ、分かったよ……」


 シルルンは納得してはいないが、いったん矛を収めた。


「はっ、ありがとうございます。このガダン、全身全霊をかけて王の力になることをここに誓います」


 ガダンは歓喜に身体を打ち震わせている。


「あっ、そうだ。ガダンにこれを売ってみてほしいんだよ」


 シルルンは魔法の袋から直径一メートルほどの丸みがかった金の塊を取り出して、テーブルの上に置いた。


 だが、テーブルは金の塊の重さに耐え切れずに潰れた。


 金の塊の重さは十トンほどあるからだ。


「あっ!? ごめんごめん……」


 シルルンは決まりの悪い顔をした。


「これは金ですな……しかも純度が極めて高い……」


 ガダンは息を凝らすように金の塊をじっと見つめている。


「……むぅ」


 (この大きさの金でここまで純度が高い金を見たことがない……)


 ホフマイスターは感嘆の声を漏らした。


「王よ、これをどこで入手されたのですかな?」


 ガダンは興味深げな表情でシルルンに尋ねた。


「あはは、僕ちゃん採掘ポイントをもってるんだよ」


 シルルンはフフ~ンと胸を張る。


「……なるほど、どこの鉱山で採掘ポイントを所有されているのですかな?」


「ルビコの街から南にある山だよ」


「……しかし、あの山にはポイントが二つしかないはずです」


 ガダンは不可解そうな顔をした。


「僕ちゃんは三つ目のポイントを発見したんだよ。そのポイントで採掘できたのがその金の塊なんだよね」


「なっ!?」


 ガダンとホフマイスターの顔が驚愕に染まる。


「それで僕ちゃん、そのポイントに拠点を作ってるんだよ」


「ぜ、是非、その拠点を拝見したいですな」


 ガダンは顔が興奮で赤らんで鼻息が荒い。


「うん、別にいいけど先に食料がある倉庫に行ってから、ポーション屋を見学した後でね」


「はっ、ありがとうございます」


 ガダンは満足げな表情で頷いたのだった。


 











 シルルンたちは食料倉庫で食料を調達してから、ガダンたちに案内されて、ポーション屋に移動した。


「ここが儂が所有するポーション屋の中で、一番規模が大きい工房です」


 ガダンは店の中には入らずに、店の裏側に向かって歩き出し、シルルンたちも後を追いかけた。


 ポーション屋は、店と工房が一緒になっている作りで、店の裏側が工房になっており、シルルンたちは工房の中に入った。


 すると、巨大なタルが大量に並んでいた。


「ここにあるタルの中には蒸留水が入っています。通常のポーションを作成するには蒸留水で十分なのですが、この工房ではハイ ポーションの作成を目指しているので、この蒸留水からさらに不純物を取り除く研究を行っているのです」


「ハイ ポーションって作るの難しいんだね」


 シルルンは面倒くさそうな顔をした。


「そうですな。ハイ ポーションの回復量としましては五百ほどが目安であり、五百というのはポーション十本分の回復量なので、値段で比べると全く釣り合いがとれないのですが、それだけに安定して作成できれば大変な旨味があり面白いですな」


 ガダンは期待に満ちた表情を浮かべている。


「次はこちらです」


 ガダンが先導し、シルルンたちは奥の部屋に案内された。


 そこには、様々な素材が大量に保管させている部屋だった。


 棚には素材が入った箱が種類ごとに並んでおり、箱の正面には品名が明示されていた。


 大きなテーブルの上には草やキノコが置かれていて、ガダンの手下たちが乾燥させた素材を粉末に変える作業を行っていた。


「ここはポーションの材料になる素材を置いている部屋で、この素材をいろいろと組み合わせて、新たなポーションの組み合わせがないか研究を行っているのです」


「……ふ~ん、それで新しい組み合わせは見つかったの?」


「はい、最初は一組の組み合わせしか分からなかったのですが、現在は五組の組み合わせを発見しております」


「えっ!? そうなんだ……」


 シルルンは大きく目を見張った。


「はい、すでにハイ ポーションの組み合わせにも目星がついております」


「あはは、すごいね」


 そして、シルルンたちはさらに奥の部屋に案内された。


「ここは魔力を蓄えてポーションを作成している部屋です」


 部屋には木の形をしたような大型の魔導具が何台も設置されており、多数の手下たちが行き来していた。


 ガダンはシルルンたちを大型の魔導具の前に案内した。


「これは大気から魔力を吸収して宝玉に貯める魔導具です」


 魔力を吸収する魔導具は高さがニメートルほどあり、枯れた木のような形をしており、十本ほど伸びた枝の先端には宝玉が装着されていた。


「……ふ~ん、ずいぶん大きいんだね」


 シルルンは目をパチクリさせた。


「このタイプの魔導具は、大気の魔力濃度によって吸収効率が変動するので、魔力をためるには時間が掛かりますね。ですが、より実質的な魔導具があります。ご覧になりますか?」


「うん」


 シルルンたちはガダンに先導されて多数並ぶ大型魔導具のエリアを通り過ぎ、魔導具が並ぶエリアに移動した。


 そこにはタコのような形をした魔導具が並んでおり、多数のガダンの手下たちがタコの脚の先端を握り締めていた。


「この魔導具は大気から魔力を吸収するのではなく、宝玉に触れた者の魔力を強制的に吸収する魔導具なのです」


「えっ!? 人から魔力を取るの!?」


 シルルンは面食らったような顔をした。


「無論、強制的に魔力を吸い取りますが、宝玉から手を離せば魔力を吸収されることはありません」


「ふ~ん、そうなんだ」


 シルルンは納得したような顔をした。


「よっしゃあ!! 五Pいったぜ!!」


「ちぃい!! やりおるわ!!」


 タコの脚の先端を握り締めていたガダンの手下たちが騒ぎ出した。


 彼らはタコの脚の先端にある宝玉に魔力を込めて、その量を競っていた。


 五Pとは、ポーション五本分相当の魔力量で、タコの脚は宝玉が連なってできており、一Pなら宝玉は一つだけ光り、五Pなら五つ光るので一目瞭然だ。


 タコの脚に溜まった魔力はしばらくすると、本体に設置されている巨大な宝玉に流れ込んでいく仕組みだ。


「あなたはなかなか見込みがありそうね。次からは四番機の使用を許可するわ」


 白いローブに身を包んだ女は五Pを出した手下に言った。


 彼女は前開きタイプのローブを着ており、その下には下着しか着ておらず、容姿も良いので手下たちに人気がある。


「っしゃあ!!」


「……ぐぬぬぬ」


 五Pを出した手下は会心の笑みを見せたが、敗れた手下は悔しそうに歯軋りしている。


「……しかし、いい女だよな」


「あぁ……」


 手下たちは視線を白いローブの女に向けて鼻の下を伸ばしている。


「ジレアよ、ちょっといいか?」


 ガダンは白いローブの女に声を掛けた。


「……ガダン様」


 白いローブの女は頷いてガダンの前に歩いてきた。


「王よ、この者の名はジレア。ポーション作成の全体指揮者をやっています」


「……ガダン様、その少年はいったい……」


 ジレアは戸惑うような表情を浮かべている。


「儂はこの方の奴隷になり、仕えることにしたのだ」


「えっ!? そ、それでは私の主人も変わったのでしょうか?」


 ジレアはショックを露わにした。


「いや、お前の主人は儂のままだが、王の勢力に儂らは統合されたと理解しろ」


「……は、はい。……ポーションの研究は今まで通りにできるのでしょうか?」


 ジレアは不安そうな顔をした。


「王はポーションに興味がおありだ。今まで通りに存分に励むとよい」


 その言葉に、ジレアの表情がぱーっと明るくなった。


「……ですが、ハイ ポーションの研究にはまだまだ魔力が足りません」


 ジレアは弱りきった表情を浮かべている。


「タコ(魔道具のこと)が五機もあるのにか?」


 ガダンは軽く眉を顰めた。


「現状の魔力提供者たちでは三番機までが精一杯なのです」


「えっ!? あのタコは同じように見えるけど何かが違うの?」


 シルルンは不可解そうな顔をした。


「はい、主に魔力を吸収する早さと魔力を溜める容量が違います。五番機は十秒にMP一を吸収し、頭の部分にある大型の宝玉にポーション百本分の魔力を溜めることができますが、四番機は一秒でMP一で三百本分の魔力を溜めることができ、三番機は一秒でMP十で五百本分の魔力を溜めることができるのですが、二番機は一秒でMP百、千本分の魔力を溜めることができるのです」


「二番機はヤバイね……一秒でMP百って……」


 シルルンはびっくりして目が丸くなる。


「一番機の説明がないが、一番機はどうなんだ?」


 ホフマイスターは顎に手をあてて、探るような眼差しをジレアに向けた。


「……一番機は旧型で、宝玉に直接ヒールの魔法を使用することで魔力が溜まる魔道具なのですが、ヒールの魔法を三回使用してポーションが一本作成できる量しか魔力が溜まらないので変換効率が悪く、実質的には二番機が最高性能の魔導具なのです」 


「むぅ……なるほどな……それなら魔物を捕縛して二番機の宝玉に触れさせればどうだ?」


「……ここで暴れないような処置をしてくれるなら、こちらとしては願ってもない申し出ですが、捕縛した魔物が暴れてこの魔道具を壊されると大損害になりますよ」


「魔物使いが使う檻を用意すれば問題はないだろう。彼らは魔物を檻に入れて魔物を売り買いしているのだから」


「……魔物使いが使う檻か……一度、仕入れてみるか……」


 ガダンは眉根を寄せて真剣な表情を浮かべている。


「やるデスやるデス!!」


「フフッ……面白そうね、行くわよプニ」


「デシデシ!!」


 プルとプニはシルルンの肩から『浮遊』で浮かびあがり、プニの頭の上には小人になったラーネがのったまま、二番機のほうにフワフワと移動した。


「ス、スライムが浮いてる……しかも、そのスライムに小人がのってるなんて……」


 ジレアは驚きのあまりに血相を変える。


 プルたちは二番機の前で止まり、八本ある脚の前でフワフワと浮いている。


「フフッ……この宝玉に触ればいいのね」


 ラーネは手を伸ばして宝玉に触れた。


「……なかなか満タンにならないわね」


 ラーネは不満そうな顔で宝玉から手を放した。


「……う、嘘でしょ!? あの小人は二十秒も宝玉に手をつけていたわ……しかも、大型の宝玉に魔力が三分の一ぐらい溜まってるし……これじゃあ、計算が合わない」


 ジレアは考え込むような表情を浮かべている。


 計算上、二十秒だと大型の宝玉には十分の一ほどの魔力が溜まるはずだが、三分の一ほど溜まっているので彼女は困惑していた。


「やるデス! やるデス!!」


 プルはやる気に満ちた表情で『触手』を伸ばして宝玉に触れる。


「満タンにするデス!!」


 プルは平気そうな顔で最後まで宝玉から『触手』を離さず、大型の宝玉は満タンになった。


「そ、そんな!?」


 ジレアは雷に打たれたように顔色を変える。


「満タンになったデス!!」


「フフッ……」


 プルとラーネは喜んでいるが、プニは不満げな表情を浮かべていたが、はっとしたような顔をした。


「一番機があるデシ!!」


 プニはフワフワと飛んで一番機の前で止まり、『触手』を伸ばして宝玉に触れるが、触れたままで何もせずに数十秒が経過した。


「ぷにににににににに……ヒールデシ! ヒールデシ!!」


「ヒールデシ! ヒールデシ!!」


 プニは頬っぺたを膨らまして唸っており、『連続魔法』『並列魔法』『魔力増幅』でヒールの魔法を唱えて、大型の宝玉は一瞬で満タンになった。


「あ、ありえないわ……あの溜まりにくい1番機の宝玉が満タンになるなんて……」


 ジレアは信じられないといったような表情を浮かべている。


「満タンになったデシ!!」


 プニは嬉しそうに微笑んだ。


 プルたちはフワフワと飛んでシルルンの肩に戻った。


「……どうやら魔力の残量は大丈夫のようだね」


 シルルンは『魔物解析』でプルたちを視た。


 すると、MPはまだ三分の一ほど残っていた。


 シルルンは安堵したような顔で、プルたちの頭を撫でた。


 プルたちは嬉しそうだ。


「……でも、なぜ二番機の大型の宝玉が満タンになったのかしら……」


 ジレアは得心のいかないような顔を浮かべている。


「それは魔力にも質があるからじゃないのか? 下級職の魔法使いのMP百と最上級職の大魔導師のMP百が同等だとは俺は思わない」


 ホフマイスターは複雑そうな表情を浮かべている。


「私は同じだと考えているのよ。MPとは魔力の量を数値化したものだからよ。MPを百と仮定した二人がいたとして、片方が魔力の質が良いから同じMPでも倍の魔法が使えるというのは魔法力が違うからだと私は思うのよ」


「……ほう」


 ホフマイスターは軽く目を見張った。


「仮にステータスが同じ二人がいたとして、片方が魔力の質が良く倍の魔法を使えるとしたらMPの表記は倍の二百なはずよ」


「むぅ……」


「もっと言えば、力が百の二人がいたとして、力の質が違うからといって倍の重さの物を持てないし、力が百と表記されてるのに実際の力は一ということはありえないのよ。ありえるなら数値化する意味がないわ」


「……なるほどな、確かに数値についてはその通りかもしれん。だが、魔力を保有する者から魔導具を通して魔力を宝玉に溜めるということは、魔力にはやはり質があり、要するに魔導具変換率という数値が存在しているのではないか?」


「なっ!? た、確かにあり得るかもしれないわね……」


 ジレアは難しそうな顔をした。


 シルルンは『魔物解析』でプルを視た。


 すると、魔力変換率という詳細項目が存在し、プルの魔道具変換率は最高値の十だったがシルルンは誰にも言わなかった。


 ジレアは『鑑定』を所持しているが、詳細項目を視るには『人物鑑定』や『人物解析』が必要なのだ。


「まぁ、何にしても二番機と一番機の宝玉が満タンになったのだから、ハイ ポーションの研究も捗るだろう」


「は、はい!! 絶対にハイ ポーションを作成してみせます」


 ガダンの言葉に、ジレアは自信に満ちた表情で言った。


 そして、シルルンたちは『瞬間移動』で掻き消えたのだった。















 シルルンたちは鉱山の拠点前に出現した。


「おぉ、これが『瞬間移動』か……」


「むぅ……」


「これはすごいな……」


 ガダンは感動に打ち震えており、ゼバルは驚愕して辺りをキョロキョロと見回し、ホフマイスターは絶句している。


「ここが僕ちゃんが掘り当てたポイントなんだよ」


「……なるほど、ここに王の拠点を作成するのですな」


 ガダンは興奮して鼻息が荒い。


「……あの石の防壁のようなものは最初からあったものではありませんよね?」


 ホフマイスターは怪訝な表情でシルルンに尋ねた。


「うん、防壁がないと危ないから作ったんだよ」


「なっ!? これほどのものをどうやって……」


 ホフマイスターは驚きのあまりに血相を変える。


「まぁ、このエリアの北側以外はタイガー種の縄張りだから、タイガー種に攻め込まれたらこの防壁があっても意味はないけどね」


 シルルンはシルルンは沈痛な面持ちで言った。


「なっ!? タイガー種……」


 ゼバルは面食らったような顔をした。


「まぁ、強い上位種は縄張りを守っているようだから、攻めてくるのは縄張りをもたない上位種だけどね」


「……し、しかし、タイガー種といえば動物系最強の一角で、やりあえるのはライオン種だけだと聞いています。しかも、下位種が通常種クラスの力を所持すると言われているのでその上位種だと……」


 ホフマイスターは深刻な表情を浮かべている。


「うん、上位種以上の化け物だよ。だから、タイガー種に攻め込まれた時点で終わりだから皆には逃げろと言ってあるんだよ」


「むぅ……」


 ホフマイスターは難しそうな顔をした。


「けど、シャインが防壁を護ってるから簡単にはここには攻めてこれないと思うけどね」


「……そのシャインという者はそんなに強いのですか?」


 ホフマイスターは探るような眼差しをシルルンに向けた。


「うん、僕ちゃんのとこでは二番目に強いんじゃないかな」


「ぜ、是非、お会いしてみたいものですな」


 ホフマイスターは興味深げな顔をした。


「うん、じゃあ、呼んでみるよ」


 シルルンは思念で「シャインは近くにいるかい? いるなら来てよ」とシャインに言った。


 すると、シャインは「近くにいます」と返し、凄まじい速さでシルルンの元に駆けてきたのだった。


「うぉおおぉ!?」


 シャインを目の当たりにしたガダンたちは、恐怖で顔が歪んで後ずさる。


「この金色の魔物がシャインだよ」


 シルルンはシャインの頭を撫でると、シャインは嬉しそうに尻尾を振っている。


「なっ!? シャインとは人ではなくて魔物だったのですか!?」


 ホフマイスターは雷に打たれたように顔色を変える。


「うん、そうだよ」


「こ、このような魔物を使役しているとはさすが王ですな……それにしても美しい魔物ですな……」


 ガダンは興奮して体をブルブル震わせている。


「シャインを呼んだのは仲間に加わったガタンたちを紹介するためなんだよ」


「そうでしたか。我が名はシャインだ。よろしく頼む」


「なっ!? 話せるのか!?」


 ガダンたちは信じられないといったような表情を浮かべている。


「あはは、上位種クラスになると話せる魔物もいるんだよ。まぁ、シャインはハイ ウルフからさらに進化したフェンリルって魔物だけどね」


「むぅ……」


 ホフマイスターは感嘆の声を漏らした。


「王よ、あそこに見える建物はなんでしょうか?」


 ガダンは拠点から東の方角に建てられた建物を指差した。


「あれは家畜小屋だよ。卵やミルク、毛なんかを取れるからね」


「なるほど。それではさらに東にある大きな建物も家畜小屋なのですか?」


「ううん、違うよ。あっちは手前の二軒が難民たちの寝床で、残る八軒は宿屋にしようと思ってるんだよ」


「……王よ、儂に三軒ほど貸してもらえないでしょうか?」


「別にいいけど何するの?」


 シルルンは目をパチクリさせた。


「儂はここに店を作りたいと考えております」


「えっ!? 客もいないのに?」


「……はい。王は先ほど宿屋を作るとおっしゃいました。それはすなわち、近い将来に街のようなものができると考えたからです」


「う~ん、まぁ、拠点を守る冒険者は雇おうと思ってるけどね」


「でしたら尚更ですな。冒険者には武器屋やポーション屋はかかせませんからな。儂に任せてくだされば、ついでに残る五軒を宿屋に変えてみせますぞ」


「えっ!? マジで!? じゃあ、ガダンに任せるよ」


「はっ、それでは三日ほど準備に時間をもらいたいと思います」


「うん、分かったよ」


 こうして、シルルンは三日後にガダンたちを迎えにいき、シルルンの拠点にガダンの店が開店したのだった。



 

















 ポリストンたちはオリバーの仇を討つために、ハイ センチピードが現れた場所に来ていた。


 案内役は、唯一生き残ったアントン隊だ。


 アントンは白を基調とした装備で身を包んでおり、彼の職業は剣豪だ。


 周辺には大きな岩が点在しているだけの開けた場所だ。


 ポリストンたちはアントンの話を参考にして、前回の倍の数である六隊編成で臨んでいた。



 ポリストン隊 六名

 ワーゼ隊 六名

 アントン隊 五名

 A隊 七名(内、魔法師四名)

 B隊 七名(内、魔法師四名)

 C隊 六名(内、魔法師四名)



 ポリストンたちは辺りを警戒しながら索敵するが、ハイ センチピードの姿はなかった。


「どうやら化け物はいないようだな。どうするんだポリストン」


 ワーゼはポリストンの目を真っ直ぐに見つめて返答を待つ。


「……そうだな、この辺りの魔物を殲滅するとするか。化け物が現れたときに他の魔物がいたら邪魔だからな」


 ポリストンは疲れたような顔で言った。


「なるほどな、殲滅するなら隊を分けるか?」


「いや、そんな愚は犯さない。いつ化け物が現れてもいいようにこっちはまとまっておくべきだ」


 その言葉に、仲間たちは真剣な表情で頷いた。


 ポリストンたちは纏まったままで移動しながら、魔物のたちを殲滅していく。


 ここがハイ センチピードの縄張りだからか、魔物の数は少なく魔物たちを殲滅するのに時間は掛からなかった。


「これで見える限りの範囲の魔物はいなくなった。この後はどうするんだ?」


 ワーゼは探るような眼差しをポリストンに向けた。


「そうだな……岩の上にでも上って待つとするか」


「……それしかないか」


 ワーゼは苦虫を潰したような顔をした。


 だが、地面から魔物が姿を現した。


 数は二匹だ。


「なんだセンチピードかよ!! 驚かせやがって」


 ワーゼは拍子抜けしたような顔をした。


「センチピードはコンフューズド(混乱)の魔法を使う。侮るなよ」


 ポリストンは『斬撃衝』を放ち、風の刃がセンチピードの胴体を切り裂いて、センチピードは体を真ん中から分断された。


 だが、頭のついている方のセンチピードは、怒りの形相でポリストンに向かって襲い掛かる。


「ファイヤ!!」


 ポリストン隊の女魔法師はファイヤの魔法を唱えて、激しい炎が頭のついている方のセンチピードに直撃し、頭のついている方のセンチピードは炎に焼かれて絶叫して力尽きた。


「……魔力はできるだけ温存しておくんだ。化け物を倒すにはお前たち魔法師の攻撃魔法が鍵だからな」


「うん、分かったわ」


 ポリストンの言葉に、女魔法師は素直に頷いた。


 もう一匹のセンチピードには、ワーゼとアントンが迎え討ち、センチピードはバラバラに斬り裂かれて瞬殺された。


 ポリストンたちは岩の上に上がり、ハイ センチピードが出現するのを待っていたが、ハイ センチピードは現れずに時間だけが過ぎていった。


「……そろそろ日が暮れてきたな。ここで野営する気か?」


 ワーゼは不審げな顔でポリストンに尋ねた。


「こんなところで野営なんかしたら、寝込みを襲われてお陀仏だろ」 


 言葉とは裏腹にポリストンの顔には微笑が浮かんでいた。


 ポリストンたちは拠点に帰還し、朝早くに再びハイ センチピードの縄張りまで移動した。


 すると、ハイ センチピードの縄張りには、魔物の群れが点在しており、その数は十を超えていた。


「おいおい、昨日とはまるで違うな」


 ワーゼは不愉快そうな顔をした。


「……この魔物の群れと戦って、俺たちが消耗するのは避けたいな」


 ポリストンは厳しい表情を浮かべている。


「なら、拠点に引き返すのか?」


「それが一番無難だが、幸いにも俺たちの存在は魔物に気づかれていない。しばらくの間はここで様子をみようと思う」


 ポリストンは表情を曇らせた。


 しかし、ポリストンたちの背後の地中から、巨大な魔物が姿を現した。


「な、なんだと!?」


 アントンは信じられないといったような表情を浮かべている。


「うぉおおぉ!? そ、想像以上にデカイな!!」


 ワーゼの顔が驚愕に染まる。


「こいつがオリバーたちを殺った化け物なのか?」


 ポリストンは緊張した面持ちでアントンに尋ねた。


「……いや、違うな。こいつはオリバーたちを殺った化け物ではない」


 アントンはハッキリと否定した。


「な、何ぃ!? 違うのか!?」


 ポリストンとワーゼは呆けたような表情を浮かべている。


「どうすんだよポリストン!!」


「どうもこうもない……やるしかないだろ!! 俺の隊とワーゼ隊、アントン隊で奴を引きつける。他の隊は距離をとりながら遠距離攻撃に終始しろ!!」


 ポリストンは指示を出して各隊は一斉に散開し、ハイ センチピードが地中から完全に姿を現した。


 ポリストン隊、ワーゼ隊、アントン隊の前衛たちは一斉に突撃して攻撃するが、ハイ センチピードにほとんどダメージを与えていなかった。


 ハイ センチピードの守備力は『堅守』を合わせると七百を超えているからだ。


 だが、ポリストンは『豪力』で攻撃力を二倍に上げて『斬撃衝』を放ち、風の刃がハイ センチピードの胴体を貫いた。


 大剣豪は『剛力』か『豪力』のどちらかの能力を所持しており、『豪力』は攻撃力が最大三倍になる超激レア能力だ。


 しかし、攻撃力を三倍にするには溜めが必要であり、放つときにも大幅に体力とスタミナを消耗するという欠点がある。


 怒り狂ったハイ センチピードは、ポリストンを標的にして執拗に攻撃を仕掛けるが、ポリストンは紙一重でハイ センチピードの攻撃を躱している。


 その隙にA隊、B隊、C隊はハイ センチピードの背後に回っており、三隊が一斉に攻撃魔法を唱えて、多数の魔法がハイ センチピードに直撃した。


「キシャァアアアアアアアアアアァアァァ!!」


 ハイ センチピードは耳をつんざくような奇声を上げる。


「ちぃい、なんて奇声をあげやがるんだ」


 ワーゼは耳を塞いで忌々しそうな顔をした。


 ハイ センチピードは凄まじい勢いで地中に潜ったが、ハイ センチピードの絶叫を聞いた魔物たちがパニックに陥り、ポリストンたちに向かって突っ込んでくる。


 魔物の数は全て合わせると百を超えていた。


「おい……さすがにこの数はヤバイぞ……」


 ワーゼは深刻な表情を浮かべている。


「作戦変更だ。俺一人でハイ センチピードを引きつける。その間に全員で魔物の群れを倒してくれ」


 そう指示を出したポリストンは、意を決したような表情を浮かべていた。


「そ、そんな無茶よ!!」


 ポリストン隊の女魔法師は悲痛な表情で訴えた。


「無茶は承知だ。だが、やらなければ勝機を失う。問答している時間があるのなら魔物の群れを一秒でも早く倒してくれ」


「わ、分かったわ……」


 ポリストン隊の女魔法師は泣きそうな顔で頷いた。


 ポリストン隊は決死の形相で魔物の群れに突撃した。


「死ぬんじゃねぇぞポリストン!!」


 ワーゼは恐ろしく真剣な顔で叫んだ。


 各隊は一斉に散開して魔物の群れに突撃した。


 すると、ポリストンの前方の地面が大きく膨らんで、ハイ センチピードが姿を現した。


「やれやれ……よく俺を特定できるもんだ……」


 ポリストンは苦々しげな表情を浮かべる。


 ハイ センチピードは凶悪な牙を剥き出しにしてポリストンに襲い掛かる。


 ポリストンは牙を避けてハイ センチピードの顔に剣の連撃を叩き込んで後方に跳躍する。


 ハイ センチピードは凄まじい速さでポリストンを追いかけて、噛み付き攻撃を繰り返す。


 ポリストンは牙を躱しながら『斬撃衝』を放ち、風の刃がハイ センチピードの胴体を貫通し、胴体から血飛沫が上がる。


 だが、ハイ センチピードは構わずにペトリファイ(石化)の魔法を唱えて、黄色の風がポリストンに襲い掛かる。


 ポリストンは後方に大きく跳躍して黄色の風を避けた。


 ペトリファイの魔法が直撃した地面は石に変質している。


「ちぃ、石化は反則だろ」


 ポリストンは顔を強張らせて『斬撃衝』を放ち、風の刃はハイ センチピードの顔に向かって飛んでいく。


 しかし、ハイ センチピードは『風のブレス』を放って、風の刃がポリストンが放った風の刃に直撃し、風の刃は相殺して消えた。


「馬鹿なっ!?」


 ポリストンは驚きのあまりに血相を変える。


 ハイ センチピードは凄まじい速さで突撃して、ポリストンに噛み付き攻撃を繰り出した。


 ポリストンは慌てて避けたが、ハイ センチピードの胴体が凄まじい速さで通過して脚爪がポリストンの脇腹をかすめた。


「ぐっ、さっきまでとは速さが格段に違う……いよいよ本気になったということか……」


 ポリストンは激痛に顔を歪めて脇腹を手で押さえた。


 彼の体は『猛毒』に侵されてすでに傷口は壊死し始めていた。















 魔物の群れに突撃したワーゼたちは戦いを有利に進めていた。


 魔物の群れの大半がラット種、スパイダー種、アント種などの弱い部類の魔物で、さらにパニック状態の魔物たちには同士討ちが発生しており、ワーゼたちは魔物の群れの半数以上を倒すことに成功していた。


 だが、C隊は唐突に出現した二匹の魔物に、全く警戒していなかった後方から、広範囲のファイヤの魔法で体を焼かれ、斬り殺されて一瞬で壊滅した。


 二匹の魔物はC隊を壊滅させると、隣で戦っているB隊に突撃しながら広範囲のファイヤの魔法を唱えた。


 しかし、戦いを有利に進めていたB隊の魔法師たちは、二匹の魔物の接近に気づいており、一斉にマジックシールドの魔法を唱えて、透明の盾を展開して激しい炎を防いだ。


「何よあれ!? 上半身は人型だけど下半身が蛇じゃない!!」


 B隊女魔法師は軽く目を見張った。


 二匹の魔物の上半身は、片方は男のような姿でハルバードを持っており、もう片方は女のような姿で杖を持っていた。


 女のような姿の魔物は凄まじい速さでB隊に接近して『魅了』を放って瞳が怪しく輝き、その瞳を見た男格闘家と男魔法師が誘惑状態に陥って、仲間たちに襲い掛かった。


「ちょ、ちょっと!! いきなりどうしたのよ!?」


 女格闘家は戸惑うような表情を浮かべながら、誘惑状態の男格闘家の蹴りを躱した。


 だが、男のような魔物は凄まじい速さで突っ込んで、一瞬で誘惑状態の男格闘家と女格闘家に接近してハルバードを振るった。


 ハルバードに斬り裂かれた誘惑状態の男格闘家は、肩口から斜めに斬り裂かれて上半身がズレ落ちて、体から血が噴出して即死した。


 男のような魔物は返す力でハルバードを振るって、女格闘家の首が宙に舞い、女格闘家は胴体から大量出血しながら前のめりに倒れた。


 誘惑状態の男魔法師はウインドの魔法を唱えて、風の刃が女魔法師たちに襲い掛かる。


 女魔法師たちは透明の盾で風の刃を防ぎ、女司祭が杖の一撃を男魔法師のみぞおちに叩き込み、男魔法師は悶絶して膝から崩れ落ちた。


 女司祭はキュアの魔法を唱えて、男魔法師は誘惑状態から脱したが失神してその場で倒れ込んだ。


 そこに、A隊の女騎士が血相を変えて駆けつけた。


「なんなの!? あの魔物は!?」


 A隊の女騎士は面食らってぽかんとする。


 さらに、ワーゼたちが魔物の群れを殲滅して、B隊の元に集結した。


「どういう状況だ?」


 ワーゼは張り詰めた表情でB隊に尋ねた。


「……あの二匹の魔物に前衛の二人がられたわ……それにC隊も全滅よ……」


 女司祭は物悲しげに視線を逸らした。


「マジかよ!? クソがぁ!!」


 ワーゼは憤怒の形相で叫んだ。


 二匹の魔物はワーゼたちを視認すると、ハイ センチピードのほうに逃げていった。


「ポリストンを早く、早く助けてよ!!」


 ポリストン隊の女魔法師は縋るような面持ちで訴えた。


「あぁ、分かってる。それにしてもあいつは凄い奴だよ。本当に一人でハイ センチピードを押さえ込めるなんてな……」


 ワーゼは満足そうな表情を浮かべながら、仲間たちに指示を出した。









 ハイ センチピードと対峙して睨み合うポリストンは、全身血塗れで肌はどす黒く変わっており、最早満身創痍だった。


「……やっぱ、上位種ってのは半端ねぇなぁ」


 ポリストンはひどく神妙な面持ちで、ワーゼの言葉を思い出していた。


 ハイ スネイルを単独で無傷で倒したというスライムテイマーのことをだ。


「くくっ……世の中にはとんでもない奴がいるもんだ……」


 ポリストンは自嘲気味に微笑んだ。 


 ハイ センチピードは『風のブレス』を放ち、風の刃がポリストンに襲い掛かる。


「ちくしょう!! こっちはスッカラカンだぜ!!」


 ポリストンは『豪力』で攻撃力を二倍に上げて『斬撃衝』を放ち、風の刃はハイ センチピードが放った風の刃を貫通し、ハイ センチピードの顔面に直撃した。


「キシャァアアアアァァ!!」


 ハイ センチピードは怒り狂って、ポリストンを食い殺そうと凄まじい速さで襲い掛かる。


 だが、ハイ センチピードの背に多数の攻撃魔法が直撃し、ハイ センチピードの動きが止まり、ハイ センチピードは反転した。


「よし、食いついたわ!! できるだけポリストンから引き離すのよ!!」


 A隊の女騎士は思わず口角が上がる。 


 ハイ センチピードの背に魔法の一斉攻撃を仕掛けたのは、A隊とB隊の魔法師八名だ。


 凶悪な牙を剥き出しにしたハイ センチピードは、凄まじい速さでA隊とB隊に向かって突撃した。


 しかし、ハイ センチピードの背に再び多数の攻撃魔法が炸裂して、これにはハイ センチピードも堪らずに絶叫した。


「こっちだぜ」


 ワーゼは冷やかすような口調で言った。


 ハイ センチピードの背に魔法の一斉攻撃を行ったのは、ポリストン隊、ワーゼ隊、アントン隊の魔法師五名だ。


 ワーゼがハイ センチピードからポリストンを引き離すために考えた作戦は、ワーゼたち三隊とA隊B隊の間をハイ センチピードに行ったり来たりさせる作戦だ。


 無論、彼もこの作戦のリスクは承知しており、そのリスクとは攻撃してもハイ センチピードが反転しなかったときのことだ。


 それでもワーゼは、ポリストンの治療が終わるまでもてばいいと考えて、この作戦を強行したのだった。


 ポリストン隊の男司祭と女司祭は、ポリストンの傍に駆けつけて声を掛けた。


「ポ、ポリストン……い、生きてるの……?」


 女司祭はポリストンのあまりに変わり果てた姿に、顔に手を当てて悲愴な表情で声を掛けた。


「聴こえている……早く治療を頼む……」

 

 その声に、女司祭と男司祭は顔に虚脱したような安堵の色が浮かび、すぐに満足げな笑顔で頷いた。


 ポリストンの体を蝕んだ毒は全身に回っており、一回のキュアの魔法では解毒できず、四回ものキュアの魔法を必要としたのだった。


「状況はどうなっている?」


 ポリストンは難しそうな表情で司祭たちに尋ねた。


「魔物の群れはほとんど殲滅して、今はワーゼたちがハイ センチピードを引きつけている」


「……そうか、なら俺たちも加わるとするか」


 司祭たちは嬉しそうな顔で頷き、ポリストンたちはワーゼたちの元に移動した。


「よう、ハイ センチピードはどうした?」


 ポリストンは渋い顔でワーゼたちに尋ねた。


「ポ、ポリストン!!」


 ポリストン隊の女魔法師は弾けるような笑顔を見せた。


「……奴はまた地下に潜りやがった」


 ワーゼは鬱陶しそうに言った。


「そうか、厄介だな」


 ポリストンの表情がわずかに曇った。


「もしかしたら、もう出てこないんじゃないか? お前が与えたダメージと俺たちが与えたダメージを合算すると相当なもんだろ」


 しかし、地面が激しく盛り上がり、再びハイ センチピードが姿を現し、その背には二匹の魔物が乗っていた。


「……言ったそばから出てくるのかよ」


 ワーゼは決まりの悪い顔をした。


「で、あの背に乗ってるヘビみたいな魔物はなんなんだ? あいつらにC隊とB隊の前衛二人が殺されたんだ……」


 ワーゼは怒りに打ち震えている。


「あれは蛇族の一種で詳しいことは分からんが、上半身が男のように見えるほうがナーガ種で、女のように見えるのがラミア種だと思う。いずれにせよ、厄介な相手だぞ」


「お、おい、ちょっと待て。ハイ センチピードの背の傷が粗方治ってやがるぜ……」


 ワーゼは愕然とした表情を浮かべている。


「ナーガ種は男ばかりで戦士系が大半を占めるらしいが、ラミア種は女ばかりで魔法が専門らしい」


「つまり、あの蛇女がハイ センチピードの傷を治したってことか?」


「おそらく、そうだろう」


「マジかよ!? それなら真っ先にあの蛇女をなんとかしない限り、同じことの繰り返しじゃねぇか!!」


 ワーゼは苛立たしそうに叫んだ。


「そういうことだ。だが、ラミア種は『魅了』を使うらしい」


「『魅了』だと!?」


 ワーゼはバタフライに『魅了』されたことを思い出し、思わず額に汗がにじみ出る。


「ラミア種の『魅了』は異性に対して効果があるらしい。要するに女には『魅了』は効かないということだ」


「……だが、ここには女の前衛がいない」


 ポリストンの言葉に、ワーゼは落胆したような声を発した。


 A隊の女騎士は離れたところにいて、ポリストン隊、ワーゼ隊、アントン隊の前衛は全て男だからだ。


「なら、俺がラミアを仕留める」


「おいおい、聞いてなかったのかアントン。男はダメなんだよ」


 ワーゼは呆れたような表情を浮かべている。


「俺は『能力耐性』を所持しているから、あんたたちが戦うよりはマシだろう」


 アントンは自信ありげな表情を浮かべている。


「マ、マジかよ……」


 ワーゼはびっくりして目が丸くなる。


「まぁ、最優先はラミアだが、ハイ センチピードを回復させないようにラミアを遠ざけるだけでもいいけどな」


 ポリストンの言葉の、皆は真剣な硬い表情で頷いた。


 動きがなかったハイ センチピードは、ポリストンたちに目掛けて凄まじい速さで突撃した。


 A隊、B隊の魔法師たちがハイ センチピードの背に目がけて、一斉に攻撃魔法を放ったが、ハイ センチピードの背に乗ったラミアがマジックシールドの魔法を唱えて、透明の盾を展開して魔法を防いだ。


 その結果、ハイ センチピードは反転せずに凶悪な牙を剥き出しにして、アントン隊の重戦士に襲い掛かった。


 アントン隊の重戦士は牙で体を両断されて、胴体から血を噴出させて絶命し、ハイ センチピードは勢いあまって地面に顔面が突き刺さった。


 魔法師たちは一斉に攻撃魔法を唱えて、多数の攻撃魔法がハイ センチピードの胴体に直撃し、ラミアは傷を回復しようとハイ センチピードの胴体に走る。


 だが、アントンが阻止しようと突撃するが、ナーガに間に入られてラミアは後退した。


 アントン隊の魔物使いはスコーピオン二匹にラミアを攻撃するように指示を出して、スコーピオンたちはラミアを追いかける。


 ワーゼはアントンの傍に駆けつけて、ナーガの攻撃に加わった。


 ハイ センチピードは突き刺さった頭を地面から引き抜き、標的であるポリストンを視認して、凶悪な牙を剥き出しにしてポリストンを食い殺そうと襲い掛かる。


 魔法師たちとA隊、B隊の魔法師たちが一斉に攻撃魔法を唱えて、無数の攻撃魔法がハイ センチピードに直撃してもなお、ハイ センチピードはポリストン目掛けて一直線に襲い掛かった。


「この時を待っていたぜ」


 ポリストンは練りに練った『豪力』で攻撃力を三倍まで上げて『斬撃衝』を放ち、巨大な風の刃がハイ センチピードの顔面を貫き、そのまま胴体までも貫いて、ハイ センチピードは断末魔の絶叫が響き渡った。


「や、やったわ!! ハイ センチピードを倒したわ!!」


 仲間たちは歓喜に顔を輝かせた。


 だが、アントンとワーゼはナーガと凄まじい戦いを繰り広げていた。


 アントンとワーゼの『斬撃』はナーガのハルバードに受け止められ、ナーガの放つハルバードの一撃は受けるだけでも体が浮くほど強烈だった。


「こ、こいつ、無茶苦茶強えぇ……」


 ワーゼは額から汗が噴き出し戦慄を覚える。


 しかし、ナーガはハイ センチピードが絶命したのを知ると、ハルバードを一閃して踵を返して、地下に潜って姿を消した。


 ラミアを追いかけたスコーピオンたちは、ラミアに殺され戻ってこなかった。


「なんとか勝てたとはいえ犠牲が多すぎる……」


 ポリストンは沈痛な面持ちで言った。


「……そうだな。だが、オリバーたちを殺った化け物はもっと強いんだろ?」


 ワーゼは重苦しげな表情を浮かべている。


「あぁ、オリバーたちを殺ったのは俺だからな」


 その刹那、アントンは剣でポリストンの首を背後から刎ねて、ポリストンの首が宙に舞う。


 一瞬、周辺の時が止まったような静寂が訪れた。


「いやぁぁあああああぁああああぁあああぁぁ!!」


 女魔法師の絶叫が辺りに響き渡り、ワーゼたちはいまだに何が起こったのか理解できないでいた。


「……ア、アントン貴様っ!!」


 ワーゼは激昂して『斬撃』を放ち、風を纏った剣を横薙ぎに払うが、アントンは平然と剣で受け止めた。


「ぎゃはははははっ!! お前たち冒険者は人を疑うことを知らなすぎる」


 アントンは蔑むような笑みを浮かべている。


「ど、どういうことだ!!」


「くくくっ、要するに俺たちはビャクス山賊団だということだ」


 アントンは悪意に満ちた表情で言った。


「なっ!?」


 ワーゼはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。


「お前ら冒険者は知らんと思うが、俺たちは鉱山に拠点を移してすでにキャンプ村を落としている」


「……あの時、キャンプ村を襲ったのはお前たちということか。だが、なぜ俺たち冒険者を狙う」


 ワーゼは訝しげな眼差しをアントンに向けた。


「敵になる可能性が極めて高いからだ」


「……なるほどな。だから大剣豪のポリストンを先に不意打ちで殺しやがったんだな」


 ワーゼは殺気に満ちた目でアントンを睨んだ。


「いや、今殺したほうが面白いと思ったからだ」


「嘘をぬかすなっ!! お前がポリストンに正面から勝てるわけがないだろ!!」


 ワーゼは『斬撃』で突き繰り出し、風を纏った剣がアントンの顔に目掛けて放たれるが、アントンは容易く剣で弾き返した。


「なぁ、ギャンさんよぉ、このタイミングはなかなかだっただろ?」


「ふっ、そうだな……」


 アントン隊の魔物使いは不敵な笑みを浮かべてアントンの横に並んだ。


「なんだと!? リーダーはアントンじゃなかったのか!?」


「俺はリーダー役を任されていただけだ」


 アントンはしたり顔で言った。


「ウイン――」


 ポリストン隊の女魔法師は眼に殺気をみなぎらせて、ウインドの魔法を唱えようとした。


 だが、それよりも早くアントンは『斬撃衝』を放って、風の刃が女魔法師の体を切り裂いて、女魔法師は体が二つに裂けて即死した。


「なっ!? 『斬撃衝』だと!? お前も大剣豪なのか!?」


 ワーゼは雷に打たれたように顔色を変える。


「そういうことだ。だが、本当にハイ センチピードが現れたときは俺も驚いたぞ、適当に連れてきた場所だったからな」


 アントンは意地の悪い微笑みを口元に浮かべる。


「なっ!? それも嘘なのか……」


 ワーゼは面食らったような顔をした。


「ぎゃははっ!! 全部嘘だ。お前たちの仲間がいなくなった理由は俺たちが殺したからだ」


 アントンは人を馬鹿にしたような高笑いを上げる。


「……こ、このクソ野郎が……絶対に生かしてかえさんぞ!!」


 ワーゼは鬼の形相でアントンに怒鳴りつけた。


「くくっ、お前程度の者がどうやって俺たちを殺るのか教えてもらいたいものだな」


 ギャンは嘲うようにニヤニヤする。


「黙れ!! 魔物がいない魔物使いがほざくな!!」


「なら、見せてやろう」


 ギャンの影の中から魔物が一匹姿を現した。


「ば、馬鹿なっ……デ、デーモンだと!?」


 (デーモンを使役する魔物使いなど聞いたことがない……)


 ワーゼは大きく目を見張った。


「殺れ」


 ギャンはデーモンに命令を下すと、デーモンは凄まじい速さでワーゼの仲間たちに襲い掛かって剣で斬り殺していく。


「このクソ野郎が!!」


 ワーゼは怒りに任せてギャンに斬り掛かった。


 ギャンは『魔劣化』を発動してギャンの瞳が怪しく輝き、その瞳を見たワーゼはレッサー スパイダーに変化した。


 『魔劣化』はランダムで弱い部類の魔物に変化させる凶悪な能力だ。


 魔物に変化すると自我意識もほとんど失われるので、激しい怒りにあったワーゼさえもその怒りが消失し、レッサー スパイダーはあらぬ方向へと動き始めた。


「ぎゃはははっ!? また蜘蛛か!! どうも偏りが激しいな!!」


 アントンは腹を抱えて笑い転げている。


 ワーゼの仲間たちはデーモンに殺されるか、魔物に変化させられて全滅したのだった。

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シルルンの拠点に移動したガダンの手下


ホフマイスター

ゼバル

ツァス


採取隊6隊(300名)

鍛冶職人50名

ポーション職人20名

大工や細工師100名

雑用200名



ハイ センチピード レベル26 全長約25メートル

HP 3900~

MP 530

攻撃力 800

守備力 500

素早さ 450

魔法 コンフューズド ペトリファイ

能力 毒牙 堅守 猛毒 剛力 風のブレス



大剣豪 レベル1

HP 800~

MP 0

攻撃力600+武器

守備力250+防具

素早さ300+アイテム

魔法 無し

能力 剛力/豪力 斬撃 斬撃衝 回避



ポリストン 大剣豪 レベル18

HP 1100~

MP 0

攻撃力 900+ミスリルソード

守備力 300+剣豪の服

素早さ 470+速さの指輪+1

魔法 無し

能力 豪力 斬撃 斬撃衝 回避

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