87 ウェダとブレラ
シルルンたちは拠点前に出現した。
「うぉおおぉ!? 本当に場所が変わってやがる……」
「す、すげ~な!? ど、どうなってんだよ……」
「マ、マジかよ……」
掘り手たちは血相を変えて辺りを見回している。
「ここが僕ちゃんの拠点だからついてきて」
シルルンは踵を返して洞穴の中に入っていき、掘り手たちは戸惑いながらもシルルンの後に続く。
拠点の中は女雑用たちでごった返しており、シルルンに気づいたリジルがシルルンに向かって歩いてきた。
「ボ、ボス、また連れてきたの……」
リジルは呆れたような表情を浮かべている。
「うん、とりあえず、掘り手として五百人。それで、アミラたちを呼んできてほしいんだよ」
「了解、ボス」
リジルは風のように消え、代わりにセーナがシルルンの元に歩いてくる。
「……ご主人様、食材が足りません」
セーナは弱りきった表情を浮かべている。
「あはは、だろうね。食材はガダンたちに頼んでるから作れる分だけでいいよ」
シルルンはにっこりと笑いながら、魔法の袋から食材を取り出して石のテーブルに並べていくと、セーナは持てるだけの食材を抱えて調理場に戻っていった。
「ボス、アミラさんたちを連れてきたわ」
「うん、ありがとう。五百人の掘り手さんたちを連れてきたからアミラたちに任せるよ」
「はっ、契約内容はどういったものなのでしょうか?」
アミラは跪いて探るような眼差しをシルルンに向ける。
「うん、掘り手を募集しただけなんだよ。だから素人がかなり混ざってると思うから、給料はアミラたちとメイで決めてくれたらいいよ」
「はっ」
「メイには千人の女雑用さんたちを任せるから、何かできそうな仕事を割り振ってあげてね」
「はい、分かりました」
「で、拠点から東のところに仮の住居を作っておいたから、一番手前の建物に女雑用さんたちに住んでもらって、その隣の建物には掘り手さんたちに住んでもらってよ」
メイとアミラたちは頷き、シルルンは『瞬間移動』で掻き消えたのだった。
シルルンたちはトーナの街の第二区画の商店が並んだ場所に出現した。
彼は活版印刷屋でスライム屋の広告を追加で二百枚作成し、食料品店でスライム屋の広告を貼らしてもらう代わりに食料を根こそぎ買い漁っていた。
すると、店の人から「そんなに食料がほしいのなら農家に売ってもらったらどうか」と助言され、シルルンは第二区画で指折りの大規模農家の情報を入手した。
シルルンたちは大規模農家に向かって疾走し、一瞬で農場に到着した。
そこには、どこまでも続く広大な農地が広がっていた。
「とんでもない規模の農場だね……ここならいっぱい野菜を買えそうだよ」
シルルンは満足げな笑みを浮かべている。
「トマトはどこデスか?」
「デシデシ!!」
プルとプニは物欲しそうな顔でシルルンに尋ねた。
彼らは店で買った野菜や果物を種類ごとに試食しており、その中でトマトがとても気に入っていた。
「あはは、トマトも作ってたらいいねぇ」
「はいデス!」
「デシデシ!」
プルとプニは嬉しそうに頷いた。
シルルンたちは農場に入って道なりに進んでいく。
シルルンは農作業中の人に農場のオーナーの所在を尋ねて、シルルンたちはそこに向かって疾走し、一瞬で到着した。
そこには多数の倉庫が並び建てられており、百を超える馬車が整然と並んでいた。
多数の男たちは馬車の荷台に木箱を黙々と積み込んでおり、シルルンたちはそれを横目に一番大きい建物に向かって進んでいく。
すると、木製のテーブル席に二人の女が腰掛けて談笑しており、シルルンたちはそこに向かって移動した。
「こんにちは。僕ちゃんは農場のオーナーを探してるんだけど、どこにいったら会えるか教えてほしいんだよ」
シルルンはにっこりと微笑んだ。
「この子はあなたの知り合いなのかい?」
服が土塗れの中年の女は怪訝な顔をした。
「……い、いえ、知り合いではありません」
綺麗な服で着飾った若い女は、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに取り繕った。
「私がこの農場のオーナーのヴェダだよ。私に何の用があるんだい?」
中年の女は穏やかな口調で言った。
「うん、僕ちゃん、野菜や果物を買いにきたんだよ」
「……へぇ、買いにきたのかい……私はてっきり、クズ野菜や果物(形の悪いものや虫食いの野菜や果物のこと)を貰いにきたのかと思ったよ」
ヴェダは意外そうな顔をした。
彼女は実際に、物乞いたちにクズ野菜や果物を分け与えていたのだ。
「あはは、違うよ。それで、いくらでどのくらい売ってくれるかな?」
「今年は豊作だからいくらでもあるさ。逆にどのくらい欲しいのかこっちが聞きたいねぇ」
ウェダは探るような眼差しをシルルンに向けた。
「う~ん……それは考えてなかったよ。安く買えるなら買えるだけ買おうと思ってたからなぁ……」
シルルンは困ったような表情を浮かべている。
「……買えるだけって、あんたはうちの規模を分かっていってんのかい?」
ヴェダは呆れたような顔をした。
「トマトは売ってるデスか? トマトを買うデス!」
「あはは、プルがトマトは売ってるか聞いてるんだけど、トマトは売ってるかい?」
「……そりゃ、うちは農家だからトマトも作ってるさ。だけどプルっていうのは誰のことをいってるんだい?」
ヴェダは軽く眉を顰めている。
「あはは、僕ちゃんの肩にのってるピンクのスライムがプルで、白いほうがプニっていうんだよ」
「えっ!? それは飾りじゃなかったのかい!?」
ヴェダは面食らったような顔をした。
トーナの街では、ルビコの街の比ではない数のシルルンの偽者が出没していた。
トーナの街の衛兵たちはシルルンの偽者を一斉に検挙したが、その結果、【ダブルスライム】に憧れて真似をしている者たちと、【ダブルスライム】を語って悪さをしている者たちの存在が明らかになった。
そのため、衛兵たちは「【ダブルスライム】は少年で、ピンクとホワイトのスライムを肩にのせている」と商店や酒場を回って説明し、シルルンを語る偽者は急速に減少した。
プルは『浮遊』でフワフワと移動し、テーブルの上に着地して、口の中に『触手』を突っ込んで金貨を取り出してテーブルの上に置いた。
「えっ!? えっ!?」
ヴェダは戸惑うような表情を浮かべている。
「あはは、プルはその金貨で買えるだけのトマトを買うって言ってるよ」
「魔物使いはペットにした魔物と思念で会話ができるんです」
綺麗な服で着飾った若い女はウェダに説明した。
彼女の名はブレラといい、トーナの街で屈指の大商人だ。
「じゃ、じゃあ、目の前にいるこの少年は……」
ヴェダは視線をシルルンに転じて目を見張った。
「はい、この方は本物の【ダブルスライム】であり、シルルン様です」
ブレラの言動と態度には、シルルンを深く尊敬しているのがありありと窺えた。
「――っ!?」
ヴェダは呆けたような表情を浮かべている。
「まぁ、そう呼ばれることもあるね。それより、金貨一枚でトマトは何個買えるんだい?」
「まあ、まあ、この子が噂のピンクのスライムのプルちゃんかい。なんて可愛いのだろう……」
ヴェダは両手を頬にあて恍惚な表情を浮かべており、プルはそんなウェダをじーっと見つめている。
「……あっ、うちの卸値だとトマトは金貨一枚で、だいだい三千個ぐらいは買えるわね」
ヴェダははっとして、恥ずかしそうに答えた。
彼女はスライム好きで、シルルンを知っているブレラも言うまでもなくスライム好きだ。
「買うデス買うデス!!」
「デシデシ!」
プニは『浮遊』でフワフワとヴェダの前まで移動し、口の中から金貨を取り出してテーブルの上に置いた。
「あはは、プルもプニもトマトを買うって言ってるよ」
「まぁ、本当かい……うれしいねぇ……」
ヴェダは上機嫌に目を細めた。
「で、僕ちゃんもトマトを十万個ぐらい買うよ。あとは何を売ってくれるかな?」
「それほどの数がご入用だとすると、シルルン様は商売を始めるおつもりですか?」
ブレラは困惑した表情でシルルンに尋ねた。
「もし、商売を始めるようならいくら【ダブルスライム】でも売れないね。今年はブレラのところと契約したからね」
ヴェダは渋い顔で言った。
「えっ!? 豊作だからいくらでもあるって言ってたじゃん」
シルルンは不満そうな顔をした。
「もちろん、あるにはある。だが、ブレラと契約した食材についてはトーナの街で商売をする者には売らないということが契約には含まれている」
「これは需要と供給の問題なんです。豊作だからといって例年の二倍の食材を買って市場に流しても、売れなければ買った私が損をするからです。だからといって、卸値を安くすると品物を収穫する人件費や箱詰めする木の箱の梱包料金と釣り合いがとれず、下手をすればヴェダ様が赤字になるのです」
ブレラは真面目な硬い表情を浮かべている。
「ふ~ん……そうなんだ。じゃあ、豊作でいっぱいある野菜や果物はどうなるの?」
シルルンは複雑そうな顔をした。
「保存ができる根の物(ジャガイモ、ニンジン、ダイコンなど)は他の街に売ったりもするけど、運搬費がかさんで儲からないし、足が早い食材は畑にかえして肥料にするしかない」
ヴェダは難しそうな表情を浮かべている。
「え~~~~っ!? マジで!?」
シルルンはびっくりして目が丸くなった。
「……仕方ないんだよ」
ヴェダは苦々しげな表情を浮かべている。
「けど、僕ちゃんトーナの街で野菜や果物で商売するつもりはないから関係ないよ」
「えっ!? でしたら、なぜ大量の食材がいるのですか?」
「うん、僕ちゃんルビコの街で千五百人の難民さんたちを雇ったから大量の食材がいるんだよ」
「なっ!?」
ブレラは放心したような表情を浮かべている。
「……さすがに英雄のすることは違うねぇ。けど、ここからルビコの街までは馬車でも十二日以上はかかるから、足の早い食材は無理だね」
「ううん、僕ちゃんは魔法の袋を持ってるから、その魔法の袋に食材を入れたら腐らないからどんな食材でもいいんだよ」
「なっ!? そんな袋があるのかい!?」
ヴェダは雷に打たれたように顔色を変える。
「その魔法の袋にはどれだけの物が入るのでしょうか?」
ブレラは興味深げな表情でシルルンに尋ねた。
「たぶん、上限はないと思うよ。試しに湖の水を魔法の袋に入れてみたけど、半分ぐらい入ったから怖くなって途中でやめたんだよ」
シルルンは溺死しかけたことを思い出し、恐怖で顔が蒼くなる。
「そ、そのような魔法の袋が存在するのですね……」
(魔法の袋があれば商売のやり方が根本的に変わりますね……)
ブレラは考え込むような顔をした。
「だから畑にかえす予定の食材を全て買い取るよ。あと木の箱の梱包もいらないよ」
「……木の箱の梱包がいらないなら、卸値をもっと安くできるけど、魔法の袋に食材をいれるのは大変になるだろうね」
「うん、それも問題ないよ」
シルルンはフフ~ンと胸を張った。
「そうかい……それならついておいで」
ヴェダは席を立って歩き始めるとブレラも後を追いかけて、その後をシルルンたちがついていく。
シルルンたちは立ち並ぶ倉庫の前を通り過ぎていくと、ウェダは倉庫の前で足を止めた。
「トマトはこの倉庫だよ」
ウェダは倉庫の扉を開けて中に入り、シルルンたちも後に続く。
倉庫の中は冷気を発する魔導具で温度を管理しており、トマトが入った木箱が大量に並んでいた。
「トマトデス!!」
「デシデシ!!」
プルとプニは嬉しそうに瞳を輝かせた。
「木の箱にはトマトがだいたい百個ぐらい入ってるから、プルちゃんとプニちゃんは四十箱持っていっていいよ」
「分かったデス!!」
「デシデシ!!」
プルとプニは『浮遊』でフワフワと木箱の上に移動して、次々にトマトを『捕食』していき、四十箱分のトマトを『捕食』すると、シルルンの肩の上に戻ってきた。
この光景を目の当たりにしたヴェダとブレラは、大きく目を見張って絶句したのだった。
「えっ? もしかして全部食べちゃったの?」
シルルンはびっくりして目をパチクリさせた。
「食べてないデス」
「デシデシ」
プルとプニは『触手』を口の中に突っ込んで、トマトを取り出して嬉しそうにトマトをムシャムシャと食べている。
「……この倉庫にはだいたい二十万個のトマトがあるけどどうする?」
「うん、全部買うよ」
シルルンは思念でプル、プニ、ブラックに全てのトマトを『捕食』して、魔法の袋に吐き出すように指示を出した。
すると、プルたちは凄まじい速さでトマトを『捕食』していき、数分で全てのトマトは『捕食』され、魔法の袋に吐き出されたのだった。
シルルンたちが倉庫から出ると、青いスライムがピョンピョンと跳ねていた。
「あれ? こんなところになんでスライムがいるんだろう?」
シルルンは訝しげな表情を浮かべている。
「まあ!! 来たのね青ちゃん!! さぁ、いっぱい食べるのよ」
ヴェダはこぼれるような笑みを浮かべて、服のポケットから野菜や果物を取り出し、青いスライムの前に置いた。
すると、青いスライムは嬉しそうに野菜や果物を『捕食』し始めた。
「へぇ、馴れてるんだね。ヴェダはスライム適性があるかもね」
シルルンは感心したような顔をした。
「スライム適性? なんだいそりゃ? この青ちゃんは私が子供の頃からこの農場にいるんだよ。農場が広すぎてたまにしか会えないけどね……」
ウェダは寂しそうな顔をした。
「ふ~ん、そうなんだ。ヴェダはスライムが好きなのかい?」
「もちろん、大好きさ」
ヴェダは屈託のない笑みを浮かべた。
「あはは、そうなんだ。僕ちゃん、スライム屋さんをやってるから気が向いたらきてよ」
シルルンは魔法の袋からスライム屋の広告を取り出して、ヴェダに手渡した。
「……スライム屋って、スライムを売ってるのかい?」
「いや、そうじゃなくて、スライムを見たり餌をあげたりするだけだよ。店には百匹ぐらいスライムがいるんだよ」
「ひゃ、百匹!?」
ヴェダは思わず驚きの声を上げた。
「百匹ものスライムちゃんを見るのは圧巻だと思いますよ」
「……ブレラは行ったことがあるのかい?」
「はい」
ブレラは花が咲いたような笑みを浮かべた。
「そうかい……それなら私も時間を作って行ってみようかね」
「その時はぜひ私にもお声を掛けてください」
その言葉に、ブレラは嬉しそうに微笑んだ。
シルルンは大量の野菜や果物を買い占めて、シルルンたちは『瞬間移動』で掻き消えたのだった。
ガダンはキャンプエリアにある拠点に帰還し、配下の者に採取隊のリーダーたちと奴隷スカウトのリーダーたちに召集を掛けるように指示を出した。
しばらくすると、リーダーたちが終結し、ガダンの前で跪いた。
「儂はある御方の配下になることを決めた。故に今この瞬間から奴隷業を廃業する」
ガダンは当たり前のように言った。
「!?」
リーダーたちは大きく目を見張った。
「奴隷スカウトのリーダーたちはここの撤収作業を終えた後、西にあるスカウト拠点も撤収して儂の屋敷に戻って来い」
ガダンは淡々と語る。
奴隷スカウトのリーダーたちは緊張した面持ちで頷いたが、すぐに困惑した表情に変わった。
「……次にトンチャックが死んだ」
ガダンは恐ろしく真剣な表情を浮かべている。
「――っ!?」
採取隊のリーダーたちの顔が驚愕に染まる。
「トンチャックが死んで奴隷から解放された者たちが暴走するかもしれん……暴走したらそれを鎮圧しろ」
ガダンは鋭い眼光を採取隊のリーダーたちに向けた。
「はっ」
採取隊のリーダーたちは顔を強張らせて頭を垂れた。
ガダンはリーダーたちの顔をゆっくりと見渡してから立ち上がり、出入り口に向かって歩き出した。
男騎士と女剣豪はすぐにガダンの後を追いかけた。
だが、採取隊のリーダーの一人に男騎士は腕を掴まれて足を止めた。
女剣豪は振り返って視線を男騎士に向けたが、納得したような表情を浮かべてガダンと一緒に出入り口から出て行った。
「ガダン様はいったい誰に仕えるつもりなのだ?」
採取隊のリーダーは訝しげな眼差しを男騎士に向けた。
彼は採取隊の全体指揮者で、名前はホフマイスターという。
男騎士の名前はゼバルだ。
「両肩にスライムをのせたシルルンという少年です」
「……なぜ、そうなった?」
ホフマイスターは不可解そうな顔をした。
「奴隷スカウトの一人が手柄を立てようと攻撃を仕掛けたからです。そして、ここに乗り込まれて私たちは敗れガダン様を連れ去られ、ガダン様とシルルンが話し合い、ガダン様がお決めになられたのです」
「……脅されたのではなく、ガダン様がお決めになられたんだな?」
ホフマイスターはゼバルの顔を正面から見据えた。
「はい。ガダン様はシルルンのことを王と呼んでいます」
その言葉に、採取隊のリーダーたちは雷に打たれたように顔色を変える。
「……ほう」
ホフマイスターは興味深げな顔をした。
「ですが、トンチャック率いる五十ほどの集団が現れて戦闘になり、シルルンの仲間三人と私とツァスで五十は倒したのですが、トンチャックが雇っていた大剣豪の男に私たちは敗れ全滅したのです」
ゼバルは表情を曇らせて視線を逸らした。
ツァスというのは女剣豪のことだ。
「お前たちがここにいるということは大剣豪は誰が倒したんだ? 詳しく話してくれ」
「シルルンの仲間のゼフドです。ですが、ゼフドも私たちと同様に大剣豪に一度は敗れているのです」
「……話が見えんな……どういうことだ?」
ホフマイスターは怪訝そうな顔をした。
「私たちが全滅した後、シルルンが戻ってきて大剣豪と戦ったのです。圧倒的だった大剣豪が今度は逆にシルルンに圧倒され手も足も出なかったのです。シルルンは自身のペットに傷を回復させるように命令していたようで、私たちのところにも黒いロパロパがやってきて私とツァスの傷を回復してくれました。当然ですが、シルルンの仲間たちのところにもペットは向かっており傷を回復させたのです」
「……なるほど、シルルンが大剣豪を弱らせて、傷を回復したゼフドという者が大剣豪に止めをさしたということだな?」
「話の流れ的にはそうですね」
「……まだ、どこかが違うというのか?」
ホフマイスターは軽く眉を顰めている。
「大剣豪はシルルンに斬られて確かに弱っていましたが、ゼフドが勝てる相手ではなかったのです」
「……何が言いたい?」
「これは私の推測ですが、シルルンがゼフドに力を分け与えたように私には思えた。それほどゼフドは圧倒的に大剣豪を斬り伏せたのです」
「ほう……興味深い話だな。確証はないが、おそらく、そのシルルンという少年は【ダブルスライム】だと私は思う」
ホフマイスターは複雑そうな表情で言った。
「ダブルスライム?」
ゼバルは顔を顰めて首を傾げた。
採取隊である彼がシルルンを知らないのは無理もなかった。
彼らはメローズン王国内の街を回っているが、任務を終えても街の酒場で飲むことはなく、街の人々との接触がほとんどないので噂の類の話に疎いからだ。
「大穴攻略戦で彗星のように現れたこの国の新たな英雄の二つ名が【ダブルスライム】だ。その少年は武学の生徒で肩に二匹のスライムをのせていて、あの凶悪な魔物として知られるハイ スパイダー二匹を瞬殺したことでつけられた二つ名だ」
「なっ!?」
ゼバルと採取隊のリーダーたちは驚きのあまりに血相を変える。
「その実力は英雄ラーグやホフター、リックと肩を並べるほどだと言われている。大穴の主だったアース ドラゴンに真っ先に攻撃を仕掛けたのがダブルスライムで、止めを刺したのもダブルスライムだと言われている」
「……」
ゼバルと採取隊のリーダーたちは目を大きく見開いて絶句したのだった。
「俺はガダン様が仕える人物がどういう人物なのか不審に思っていたが、どうやら杞憂だったらしい」
ホフマイスターは満足げな笑みを浮かべた。
彼は採取隊のリーダーたちに指示を出し、彼自身は採取隊を二隊率いてガダンを追いかけたのだった。
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