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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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81 ミニ キャット


 リザは巨大な大穴を背に魔物たちと対峙していた。


 巨大な大穴とは、西側の防壁近くにあるシルルンがあけた穴のことだ。


 彼女は単独でスコーピオン種の群れに突撃して二十匹ほど斬り殺したが、残った三匹のスコーピオンは高レベルで手強かった。


 リザは鋼の剣を鞘に収め、ミスリルソードを抜き放って不敵に笑った。


 スコーピオンたちは一斉にリザに襲い掛かった。


 それと同時にリザも突撃して真ん中のスコーピオンに二段回転斬りを放ち、スコーピオンは顔面を斬り裂かれて右鋏が宙に飛び、リザはその勢いのまま突き抜けた。


 左右のスコーピオンは勢い余って大穴に転落しそうになるが、なんとか踏み止まった。


 身を翻したリザは、背後を晒している右のスコーピオンに突撃して、剣の連撃を繰り出してスコーピオンを滅多切りにしてスコーピオンは身体がバラバラになって即死した。


 だが、真ん中のスコーピオンが怒り形相でポイズンの魔法を唱えて、緑色の風がリザに襲い掛かる。


 リザは左に跳躍して緑色の風を躱したが、左のスコーピオンが尻尾を振るって『毒針』がリザに襲い掛かる。


 しかし、リザは空中で体を捻って『毒針』を躱し、地面に着地すると同時に二段回転斬りを放ち、左のスコーピオンは胴体と頭を斬り裂かれて、真ん中のスコーピオンはリザに目掛けて左鋏を振り下ろした。


 リザは剣で左鋏を斬り落して剣の連撃を放ち、真ん中のスコーピオンは胴体から血飛沫を上げて動かなくなった。


 左のスコーピオンは奇声を上げながら鋏を振り回してリザに突撃した。


 リザは一瞬でスコーピオンと肉薄して剣で左右の鋏を斬り落し、二段回転斬りを放ってスコーピオンの体は三つに分かれて即死した。


「……全然ね」


 リザの表情は鬼気迫る。


 彼女の欲しいものはシルルンの横に並べる強さだ。


 しかし、それは果てしなく険しい道だということを彼女は知っているのだった。


 一方、リジルは防壁の上から『千里眼』でリザの戦いを視ていた。


「またリザさんが一人で無茶な戦いをしてるわよ」


 リジルは心配そうな表情を浮かべている。


「何度も誘っているのですが、返ってくるのは一人でいいという返事です」


 ラフィーネは弱りきった表情を浮かべている。


「まぁ、私たちは盾だけど、リザさんはシルルン様に追いつきたいのよ」


「……だろうな」


 アキの言葉に、ゼフドは同意を示して頷いて場に静寂が訪れた。


 リザはシルルンの仲間たちの中では弱くはないが強くもなかった。


 シルルンとラーネを除けば、最上級職の魔法戦士であるラフィーネが、ステータスの値だけで言えば一番高い。


 しかし、攻撃力ではブラたち剣豪が一番高く、守備力ではブラ隊の重戦士やアミラたちが一番高く、素早さでは格闘家のヴァルラが一番高い。


 リザが驚異的なのは下級職の剣士であるにもかかわらず、仲間たちと大差がないことだ。


 彼女が無茶を繰り返すのは、上級職に転職できなかったからだ。


 そのため、剣士のレベルを上げることでしか強くなる方法がなかった。


 だが、レベル三十を超えると、途端にステータスの伸びが悪くなるというのが通説だ。


 そして、現在のリザのレベルは四十だ。


 故に高レベルの彼女は、仲間たちと一緒に戦っても得られる経験値は僅かで、少しでも多くの経験値を獲得するために一人で戦うしか方法はなかった。





















 日が暮れ始めた頃、防壁の前にはビビィたちの姿があった。


「確かこの辺だろ。よし、ここだ」


 メットは防壁から垂れ下がるロープを発見してよじ登っていく。


 彼は防壁の上から下りるときに、防壁に杭を打ってロープを垂らしていたのだ。


 レッサー レザー アーマーがロープを掴むとメットは、ロープを引き上げてレッサー レザー アーマーを防壁の上まで引き上げる。


 その次にロープを掴んだのはハディーネだ。


 彼女もビビィたちと一緒に狩りをしていた。


 レッド(ホーネット)は前脚でビビィを掴んで飛行して、防壁の上まで運んでいく。


 ビビィは空に浮かんで瞳を輝かせた。


 レッドはタマたちも防壁の上まで運んだ。


 タマたちは空に浮かんで瞳を輝かせている。


 ビビィたちは基本的に下位種の魔物を狙って狩りをしていた。


 前衛のマルとキュウにハディーネが加わって前衛の安定度が増しており、後衛のビビィとレッサー レザー アーマーの火力も高く、盗賊のメットが油断なく辺りを警戒しながら次の魔物に導いていた。


 さらに空から攻撃できるレッドもいるので、隊として考えるとバランスがとれており、はっきり言って強かった。


 だが、レッドは気分屋だった。


 彼は後衛に下がって動かなくなったりもするし、突然ホーネットの頭を外して中から出てくることもあるのだ。


 ホーネットの中にレッドが入っていることを知らなかったビビィは、夢にうなされたという。


 ビビィたちは防壁の上から下りて、拠点がある洞穴へ移動してシルルンの個室を訪ねた。


 だが、シルルンはいなかった。


 ビビィたちは辺りを見回して、魔車に向かって歩き出した。


 すると、メイがアース ゴーレムのブラウンとストーン ゴーレムのグレイに、水が入った樽を持たせて通り過ぎていった。


 ビビィたちは三台並んでいる一番近い魔車の中に入ってみると、一番後ろの座席にシルルンたちはいた。


「むっ、シルルン見つけた」


 ビビィたちはシルルンの傍まで歩いていく。


「ん? どうしたの?」


 シルルンは酒を飲みながら尋ねた。


 プルとプニはお気に入りの絵本『ぶちのめしてやる』を何度も読み返しており、ブラックはシルルンと一緒に酒を酌み交わしていた。


「ボス、これが今日の戦果です」


 メットは討伐部位の入った袋をシルルンに手渡した。


 冒険者ギルドの討伐依頼は、対象の魔物の首をもっていかないと依頼達成にはならない。


 だが、シルルンは倒した魔物が分かればいいという基準にしており、討伐した魔物の部位でいいのでかさばらずに済んでいた。 


「うん。僕ちゃんがいない場合はメイに代わりをやってもらうように言っておくよ。それで何匹倒したの?」


「下位種22匹、通常種3匹です。それで今日は朝から夕方までですね」


「じゃあ、五十七万円だね」


 シルルンは魔法の袋から金貨五枚と銀貨七十枚を取り出して、ビビィに手渡した。


 リザとビビィはシルルンに雇われる形で守備隊をやっていた。


 日当は五万円で、下位の魔物は一匹一万円、通常の魔物は一匹十万円だ。


「ハディーネには迷惑料として二百万円を渡しておくよ」


 シルルンは魔法の袋から金貨袋を二つ取り出して、ハディーネに手渡した。


「えっ!? あ、ありがとうございます」


 ハディーネは申し訳なさそうな表情で金貨袋を受け取った。


「じゃあ、リンゴを二十個買うわ」


 ビビィは銀貨六枚をシルルンに手渡した。


「へぇ、計算もできるようになってきたね……」


 (ビビィが金の計算ができるようになってきたのは、メットが教えてるからだろうね……)


 シルルンはメットを一瞥し、魔法の袋からリンゴを二十個取り出して、ビビィに手渡した。


 ビビィは嬉しそうにすぐにリンゴにかぶりついた。


「メットはビビィの奴隷になる気はない?」


 (ビビィの奴隷になったほうが待遇はいいだろうし、ビビィが湖に帰らずに冒険者をやっていくなら仲間が必要だからね……)


 シルルンは探るような眼差しをメットに向けた。


「いや、俺はボスについていきます。ボスをころころ変えるつもりはありません」


 メットは眉根を寄せて真剣な顔で答えた。


「そ、そうなんだ……」


 シルルンは複雑そうな顔をした。


 報酬を受け取ったビビィたちは魔車から出ていったが、ハディーネだけは残っていた。


「聞いてくださいシルルンさん。私は『剛力』に目覚めていたんですよ!!」


 ハディーネは興奮して鼻息が荒い。


「えっ!? そうなの!?」


 シルルンはビックリして目が丸くなった。


 『剛力』は攻撃力が二倍になる激レア能力で、戦士系の者たちが喉から手が出るほど欲しい能力だ。


 ちなみに『豪力』という攻撃力が三倍になる能力も存在し、超激レア能力だ。


「私はエンシェント ハイ イーグルにやられた後、意識はなかったんですが何か聞こえたような気がしたんですよ。聞き取れたのは『褒賞ギフトを与える』みたいな声が聞こえたんです」


「えっ!? マジで!? それは間違いなく勇者の褒賞ギフトだよ」


 シルルンは驚いたような顔をした。


「えっ!? そうなんですか!?」


 ハディーネは驚きのあまりに血相を変える。


 彼女は能力に目覚めたことがないので、能力に目覚めるときには勇者の声が聞こえるものだと思っていた。


 しかし、実際に能力に目覚める過程は千差万別で、シルルンのような目覚め方や何の前触れなく目覚める場合もある。


「うん。僕ちゃんたちもその声を聞いたから間違いないよ。エンシェント ハイ イーグルを倒したから能力をもらえたんだよ」


 その言葉に、シャツの中にいるラーネがピクッと動いた。


「でも、私は倒していませんよ」


 ハディーネは驚いてきょとんとする。


「うん、だから僕ちゃんも驚いているんだけど、たぶん、倒した仲間という括りでもらえたのかもしれない。遥か昔の勇者が『褒賞』でエンシェント級を倒した者たちに能力を与えるようにしたらしいからね」 


「そ、そういうことだったんですか」


 ハディーネは納得したような顔をした。


「あはは、よかったね。『剛力』は激レアだし、戦闘職のハディーネにも合ってるよ」


「はい、ありがとうございます」


 ハディーネは嬉しそうに微笑んで、魔車から出て行ったのだった。



 















 ラーネはシルルンのシャツの中で目覚めた。


 シルルンたちは魔車の中で眠っているが、ラーネは音も立てずに魔車から出ていき、シルルンの個室に移動した。


 ラーネは口から漆黒の包丁を取り出して、漆黒の包丁を口にくわえた。


「……なるほど」


 (意識がある状態ならクロロの体から漆黒の包丁にも移れるし、その逆も可能なのね)


 ラーネは納得したような顔をした。


 だが、彼女は漆黒の包丁に『集魂』という力があることを知らなかった。


 『集魂』は殺されたときや即死級の攻撃を受けて意識が無くなった時点で発動し、魂が漆黒の包丁に一瞬で移動する。


 しかし、殺された場合の漆黒の包丁への移動には、多数の命を絶つ必要があるのだ。


「それで……」


 ラーネは意識を集中して自身の能力を視た。


 (『身体具現』……?)


 ラーネは呆けたような表情を浮かべていたが、一変して歓喜の表情に変わった。


「やったわ!! これで人型になれる!!」


 ラーネは『身体具現』を発動すると、自身の前に塊が出現してどんどん膨らんで大きくなっていく。


 そして、出来あがったのは人族の女の体だった。


 その姿はラーネがアラクネだった頃の容姿に似ており、髪の色は薄い紫色で顔は整った顔立ちで胸はでかく、妖艶な雰囲気を醸し出していた。


 ラーネは漆黒の包丁を経由して、作成した体に憑依した。


 すると、ガラス球だったような瞳が輝き始めて光が宿った。


「フフッ……どうやら問題はないようね」


 ラーネは手足を軽く動かした後、嬉しそうな顔をした。


「!?」


 クロロはラーネがいなくなったことにより目を覚まし、キョロキョロと辺りを見回している。


 ラーネはクロロから猫耳とシッポを外して、自身につけた。


 クロロはスライムとは思えぬ凄まじい速さで、個室から出て行った。


 ラーネは漆黒の包丁を拾い上げて腰につけ、上機嫌に目を細めて部屋から出て行った。











 


 








 シルルンは魔車の中で目を覚まし、ムクリと上体を起こして不快そうな顔をした。


「……遊ぶなら外でやってよ」


 その言葉に、プルとプニ、そしてクロロは魔車の中で飛び跳ねて遊んでいたが、魔車から出て行って外でも飛び跳ねている。


「ていうか、プルとプニはともかく、ラーネまで一緒に飛び跳ねてるよ」


 シルルンは外を眺めて、不可解そうな顔をした。


「フフッ……私はここにいるわよ」


「えっ!?」


 シルルンは声が聞こえたほうに視線を向けて、面食らったような顔した。


 そこには十センチメートルほどの小人が、シルルンの肩に全裸で座っていたからだ。


「『身体具現』で体を作ったのよ」


 ラーネはしたり顔で言った。


「ええ~~~~~~~っ!! マジで!?」


 シルルンの顔が驚愕に染まる。


「ハディーネが能力をもらえた話を聞いて、それなら私も貰えているはずだとピンときたのよ」


「……じゃあ、外でプルたちと跳ねまくってるのはクロロってことだよね」


 シルルンは納得したような顔をした。


「フフッ……そうよ」


 ラーネは満足げに頷いた。


 シルルンは『魔物解析』でクロロを視た。


 すると、クロロのレベルは九十九になっており、ステータスの値が全て百になっていた。


「クロロのレベルが九十九になってるんだよね。なんでか分かる?」


 シルルンは訝しげな眼差しをラーネに向けた。


「たぶん、私が魔物を大量に倒したからじゃないかしら」


「……それって憑依された者も強くなるってことじゃん」


 (この現象を何かに使えないかな……)


 シルルンは難しそうな顔をした。


「そうね。ハディーネも強くなってるはずよ」


「う~ん……考えてみたけどうちの仲間たちはそれなりに強いから、使いどころがないね……」


 シルルンは残念そうな顔をした。


「……そうね」


「で、ラーネは裸だからとりあえず、これでも着てなよ」


 シルルンは魔法の袋からシャツと半ズボンとサンダル、そして、鉄の剣をラーネに手渡した。


 ラーネは元のサイズに戻って服を着たあと、再び小さくなってシルルンの肩に座った。


 シルルンたちが魔車から出ると、プルとプニはシルルンの肩に戻ったが、クロロはどこかに跳ねて行った。


「おはようございますマスター」


 ブラたちの髪は湿っており、頬はほんのり赤くなっている。


「うん、おはよう」


「お風呂を作って頂き、本当にありがとうございます。これで毎日でもお風呂に入れると女性の方々はマスターに感謝してます」


 ブラたちは深々と頭を下げて、魔車の中に入っていった。


 シルルンは思念で「洞穴から出るな」とクロロに指示を出し、シルルンたちはラーネの『瞬間移動』で姿が掻き消えたのだった。


















挿絵(By みてみん)


いい加減な地図^^



 シルルンたちは鉱山仙人がいた場所に出現し、そこから南下した場所にある森に向かっていた。


 ブラックの速さは凄まじく、シルルンたちはすぐに森に到着した。


 この森の直径は二百キロメートルほどあり、シルルンたちは森の外周を回ってみたがキャンプ村はなかった。


 シルルンはブラックから下りて魔法の袋からアダマンソードを取り出し、剣で目の前に生える巨大な木を斬った。


 すると、巨大な木は簡単に切断され、ゆっくりと倒れて森に轟音が響いた。


「あはは、やっぱりアダマンはとんでもない斬れ味だね……」


 (魔法の袋に木は入るのかな?)


 シルルンは倒れた巨木を両手で持ち上げて、魔法の袋に入れると巨木はすんなりと入った。


「へぇ、木は入るんだ」


 シルルンは意外そうな顔をした。


「フフッ……木を集めるの?」


「うん、薪にしたり木で何か作ったりできるからね」


 ラーネはしがみついていたプニから離れて地面に下りると、元のサイズに戻って剣を鞘から抜いて森に突撃して東の方角に進んでいく。


 すると、巨木が次々に倒れていき、森に響く轟音が遠ざかっていった。


「……まぁ、ラーネに任せておけばいいか。ブラックはラーネが斬った木を回収してよ」


 シルルンは地面に座り込んだ。


「フハハッ!! 簡単ですな」


 ブラックは次々に巨木を『捕食』しながら森の奥に消えていった。


「やるデス! やるデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニは肩からピョンと跳び下りて、巨木の前に移動して『触手』の先端を拳のような形に変えて、巨木をぶっ叩いた。


 すると、ピシャンッというような音が鳴り響き、拳が直撃した箇所が砕けて巨木は倒れた。


「やったデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニは嬉しそうにピョンピョンと跳ねていたが、次の巨木の前に移動して巨木をぶっ叩いた。


「プル、プニ!! 木を倒したら『捕食』するんだよ」


「わかったデス!」


「デシデシ!」


 プルとプニは巨木を倒しながら西に向かって進んでいき、シルルンだけがその場に残された。


「……」


 シルルンはしばらく座って待っていたが、立ち上がって巨木を斬り始めた。


「ん? クワガタ発見!!」


 シルルンは倒れた木にしがみついていたクワガタムシを捕まえて、魔法の袋にクワガタムシを入れるとすんなりと入った。


「えっ!? マジで!? 虫は入るのかよ!?」


 (魚は入らないのにどういう基準なんだよ……)


 シルルンは不可解そうな表情を浮かべていたが、魔法の袋からクワガタムシを取り出した。


「生きてるよ……虫がいけるなら虫系の魔物もいけるかも」


 シルルンはクワガタムシを空に放し、倒れている木を回収して巨大な木を斬り倒しながら北に向かって進み始めた。


 すると、レッサー アメーバが佇んでいた。


「おっ!? アメーバじゃん。ほしかったんだよね」


 シルルンは透明の球体を作り出し、透明の結界でレッサー アメーバを包み込んで一瞬でレッサー アメーバのテイムに成功した。


「う~ん……」


 シルルンは思念で「君の名前はエメラリー」と伝えると、エメラリーは嬉しそうにシルルンにまとわりついた。


 アメーバ種はスライム種と同様に様々なカラーバリエーションがあり、彼がエメラリーと名付けたのは、色がエメラルドグリーンだったからだ。


 シルルンは巨木を斬り倒して倒れた木を回収しながら進んでいた。


「エメラリーは倒れた木を『捕食』できるかい?」


 エメラリーは倒れた木の前まで移動して、『捕食』しようとしたができなかった。


「プルたちはできるのになんでだろ?」


 (レベル? 個体の強さ? それとも種族かな?)


 シルルンは考え込むような表情を浮かべており、エメラリーはしょんぼりとしている。


「あはは、別にできなくてもいいんだよ」


 シルルンはエメラリーの頭を撫でる。


 エメラリーは嬉しそうだ。


 すると、前方からレッサー アントが姿を現し、エメラリーはレッサー アントに向かって突撃した。


 だが、エメラリーの動きよりも早く、シルルンが一瞬でレッサー アントに肉薄して左手でレッサー アントの頭を掴んで魔法の袋に強引に入れようとした。


 しかし、レッサー アントを魔法の袋に入れることはできなかった。


「やっぱり、虫でも魔物はダメか」


 シルルンはレッサー アントを地面に叩きつけると、レッサー アントは砕け散った。


 エメラリーは辺りに散らばったレッサー アントの身体を『捕食』していく。


 シルルンたちは一時間ほど進んでいるとリンゴの木を発見した。


「へぇ、この辺りはリンゴの木が密集しているみたいだね」


 シルルンは『念力』でリンゴの木からリンゴを引きちぎって一口食べた。


「うん、甘くておいしいけど、これを全部もぎ取るのはめんどくさいよね」


 シルルンは眉を顰めた。


 だが、エメラリーは興味津々といった様子でリンゴを見つめており、シルルンは『念力』でリンゴの木からリンゴを引きちぎってエメラリーに渡した。


 エメラリーは嬉しそうにリンゴを『捕食』した。


 シルルンは『念力』でリンゴの木を押すと、難なく傾いて根っこがむき出しになった。


「あはは、これは引っこ抜けるね」


 シルルンは『念力』でリンゴの木を持ち上げて引っこ抜き、魔法の袋に入れた。


 すると、リンゴの木はすんなりと魔法の袋の中に入った。


「……うん、木が入るんだから当然入るよね」


 シルルンは満足そうな笑みを浮かべながら、『念力』で手当たり次第にリンゴの木を引っこ抜いて魔法の袋に入れていく。


「二百本ぐらいは取ったよね……そろそろいいかな」


 シルルンは満足げに微笑んだ。


「ん?」


 (何かいる?)


 シルルンは怪訝な顔で視線を転じた。


 すると、視線の先にはキャット種が三匹いて、赤いキャット種がシルルンを見つめていた。


「えっ!? キャット種じゃん!!」


 シルルンは面食らったような顔をした。


 キャット種とドック種は極めて珍しい魔物だ。


 彼らの数が少ないのはラット種程度の強さしかなく、ラット種と比べると著しく繁殖力が低いからだ。


 その反面、動物の猫や犬は人族の村や街で、魔物にならなかった動物として好まれて飼われていた。


 だが、数が極めて少ないだけで猫や犬の魔物はいるのだが、それを知る人族は少ない。


 エメラリーはキャット種たちに気づき、キャット種たちに目掛けて突撃した。


「ダメ!!」


 シルルンはエメラリーを左手で制し、エメラリーは動きを止める。


「う~ん……なんで逃げたり、襲い掛かってきたりしないんだろ」


 シルルンは訝しげな表情を浮かべている。


 赤いキャット種は燃えるような赤毛で、瞳はルビーのように赤く、その姿は凛として美しかった。


「にゃーにゃー」


 赤いキャット種はシルルンを見つめて、静かに鳴いている。


 シルルンは苦笑して、頭を掻きながら『魔物契約』を赤いキャット種に放った。


「助けてくれないか……お願いだから助けてくれないか……もう、私には時間がない……せめてこの子たちだけでも助けて欲しい……お願いだから助けてくれないか」


 赤いキャット種はそう繰り返していた。


「えっ!? 自我意識があるのかよ!?」


 シルルンの顔が驚愕に染まる。


 シルルンは『魔物解析』で赤いキャット種を視た。


 すると、体力が十六まで減っていた。


「……通常種で自我意識に目覚めてるのは珍しいね」


 シルルンは一瞬で赤いキャットの横に移動して、視線を赤いキャットの身体に向けた。


「要は背中の傷が致命傷ってことか……」


 シルルンは合点がいったような顔をした。


 そこに、巨大な木の陰から魔物が姿を現した。


 アリゲーターだ。


 エメラリーはシルルンの前に移動して、警戒態勢を取っている。


「アメーバーではあいつには歯が立たない!!」


 赤いキャットはそう叫んで、アリゲーターを睨みつけた。


 小さいキャットたちは慌てて赤いキャットの後ろに身を隠した。


「まぁ、そうだろうねぇ」


 シルルンは『魔物解析』でアリゲーターを視た。


 すると、レベルは二十四、攻撃力は四百五十で『剛力』を加算すると、攻撃力は九百になる。


 これはとんでもない数値だ。


 それに対して赤いキャットは、レベル二十二で高いレベルだが、攻撃力は百六十だった。


 同じ通常種であるにもかかわらず、種族の差は絶望的格差を生んでいた。


「私はあなたたちをもう護ってあげられない……早く逃げなさい」


 赤いキャットは小さいキャットたちを逃がそうと後ろ脚で押し出したが、小さいキャットたちは赤いキャットの後ろ脚にしがみついて離れない。


 アリゲーターは大口をあけて赤いキャットに目掛けて突進した。


「あはは、やらせないよ」


 シルルンは雷撃の弓で狙いを定めて稲妻を放ち、青白い稲妻がアリゲーターに直撃してアリゲーターは黒焦げになった。


 さらに空から稲妻が落ちてきたが、アリゲーターはすでに炭に変わっていた。


「い、一撃!? そんな嘘でしょ……」


 赤いキャットは放心したような表情を浮かべている。


「相変わらず、凄まじい威力だよ」


 シルルンはニヤリと笑い、身を翻して歩き出した。


 だが、シルルンの背中のシャツが引っ張られ、シルルンは振り返る。


 すると、キャットがシルルンの背中のシャツをくわえていた。


「……お願いです……せめてこの子たちだけでも助けてください……もう私は助からない……お願いです」


 赤いキャットは必死に縋るように言った。


「……」


 シルルンは『魔物解析』で赤いキャットを視た。


 すると、体力がさらに減って十になっていた。


 シルルンは魔法の袋からポーションを取り出して、赤いキャットの背中の傷にポーションを流し込むと血が止まった。


「き、傷が塞がった!?」


 キャットは信じられないといったような表情を浮かべている。


「これで傷は塞がったから死にはしないよ」


 シルルンは再び踵を返して歩き始めると、エメラリーがシルルンの後を追いかける。


「……私たちをあなたの保護下において下さい」


 赤いキャットは去り行くシルルンの背中に向けて言葉を発した。


 その言葉に、シルルンは足を止める。


「やはり、私の言葉を理解しているのですね……ですが、あなたの声は私に届かないということですか」


 赤いキャットは悲痛な表情を浮かべている。


「いや、そうじゃない。僕ちゃんが君に伝わるように返さなかっただけだよ」


 シルルンは『魔物契約』で赤いキャットに返した。


 彼は『魔物契約』でキャットの声を聞いているだけで、話すときは普通に人族語で話していた。


 その理由はひとつ。


 赤いキャットに自我意識があるからだ。


「えっ!? こ、これはあなたの声ですか!?」


 赤いキャットは目を大きく見張った。


「僕ちゃんの保護下においてほしいということは、僕ちゃんのペットになるという認識でいいのかな?」


 シルルンは探るような眼差しを赤いキャットに向ける。


「……ペット? 意味は分かりませんが、あなたに仕えたいと思っています」


「うん、ならいいよ。似たような感じだからね」


「えっ!? よいのですか!?」


 赤いキャットはキョトンとした表情を浮かべている。


 シルルンは透明の球体を作り出し、透明の結界で赤いキャットたちを包み込んで、一瞬でテイムに成功した。


「こ、この心の底から湧き上がるような昂ぶりはいったい……」 


 (こ、これがペットになるということなの……?)


 赤いキャットは歓喜に打ち震えた。


 ちなみに、シルルンのテイム技術は狂ったように高いので、親愛度が百パーセントを超えているからこうなるのだ。


 そのため、一般の魔物使いがテイムに成功しても親愛度は低く、すぐに野生化してしまう値なのだ。


「う~ん、名前は赤いからレッド……いや、レッドはもういるから……いるから……名前はスカーレット」


 シルルンは難しそうな表情で言った。


 その言葉に、スカーレットは嬉しそうに頷いた。


 シルルンは安堵したような表情を浮かべていたが、小さいキャット種たちに視線を向けた。


「ん? 毛色が紫じゃん!? 名前はパプル……いや、パプルもいる……いるから……だからバイオレットだね」


 シルルンは自嘲気味に微笑んだ。


 バイオレットは嬉しそうにシッポを激しく振っている。


 シルルンは虚脱したような表情を浮かべていたが、視線を最後の一匹に転じた。


「えっ!? なんだこれ? 子供なの?」


 シルルンはびっくりして目が丸くなった。


 全長は三十センチメートルほどしかなく、毛色は真っ白でぬいぐるみのような姿をしており、敵がいなくなって安心したのか地面にひっくり返ってゴロゴロしていた。


 シルルンは真っ白なキャットを抱き上げた。


「まーっ!!」


 真っ白なキャットは元気いっぱいに鳴いた。


「いや、そこはにゃーだろ……」


 シルルンはにんまりと笑いながら『魔物解析』で真っ白なキャットを視た。


 すると、種族はミニ キャットで、ステータスの値はスカーレットよりも低く、魔法はウォーターのみだった。


「こ、これって突然変異種じゃないの?」


 (けど、中途半端だね……アラクネやフロスト ホーネットと比べると激しく見劣りする……キャット種だからかな?)


 シルルンは複雑そうな表情を浮かべていたが、『魔物解析』で真っ白なキャットを視ていく。


 すると、能力を十個も所持していた。


「なんだこれ!? こんなの視たことないよ!?」


 (『危険察知』『回避』『威圧』『堅守』はよく視るけど、『風刃』『壁盾』『結界』『伸縮自在』は視たことがない……さらにヤバイのが『必中』と『全特効』だね)


 シルルンは考え込むような顔をした。


 『必中』は言葉通り、必ず当てることができる能力で、軽減系の能力すら貫通できるのだ。


 さらに極めつけは『全特効』だ。


 特効系はあらゆる攻撃が三倍になる超激レア能力だ。


 例えば『蛇族特攻』のように一種族のみに対して、効果を発揮するのが基本だ。


 次に『人族特攻』『魔物特攻』『亜人特攻』『獣人特攻』『亡者特攻』(アンデット)『魔族特攻』『天使特攻』のように、広範囲の種族に効力を発揮する能力が挙げられる。


 だが、『全特効』は全ての生物、物に効力を発揮するのだ。


「う~ん……名前は……そうだねぇ……まーって鳴くからマーニャだね」


「まーっ!!」


 マーニャは嬉しそうにシルルンの胸に飛び込んで、シャツの中に入って襟首のところから顔だけ出している。


「マスター!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニはふわふわと飛んできてシルルンの肩にのった。


 それとほぼ同時に、ラーネとブラックが『瞬間移動』でシルルンの傍に出現した。


 エメラリーやスカーレットは、ラーネたちを見つめて困惑した表情を浮かべている。


「仲間になったデスか?」


「デシデシ!!」


 プルとプニは期待の眼差しをシルルンに向けた。


「うん、そうだよ」


 プルとプニは大喜びして、興味深げにエメラリーを見つめている。


「プニはスカーレットの傷を治してよ」


「デシデシ!!」


 プニは『浮遊』でふわふわと飛んでいき、スカーレットの傍まで移動し、ヒールの魔法を唱えて、スカーレットの傷が全快した。


 シルルンは自身の肩に戻ってきたプニの頭を優しく撫でた。


 プニは嬉しそうだ。


「ブラックはこの辺りの土を『捕食』してよ」


 ブラックは頷いて、周辺の土を瞬く間に『捕食』していき、それを目の当たりにしたエメラリーは放心状態に陥った。


 シルルンはペットたちに自己紹介させた後、ラーネの『瞬間移動』で掻き消えたのだった。 



 

 














 シルルンたちは拠点の前に出現し、洞穴の中に入った。


「シルルン様、おかえりなさいませ」


 メイはにっこりと笑ってシルルンに声を掛けた。


 メイと元娼婦たちは髪が濡れて頬が紅潮している。


「うん、ただいま」


「盗賊のリジルさんたちや元娼婦の方たちが奴隷証書で契約されていないことを気にしています。どうか御一考をお願いできないでしょうか」


 メイは神妙な顔でシルルンに耳打ちした。


「えっ!? そ、そうなんだ、考えとくよ……」


 (なんでだよ!?)


 シルルンは困惑した表情を浮かべている。


 彼は拠点が安定すれば、盗賊たちや元娼婦たちを解放しようと考えていたからだ。


「……で、新しいペットを連れてきたんだよ。エメラリーおいで」


 エメラリーがもそもそとやってくる。


「ひっ!?」


 エメラリーを目の当たりにしたメイたちは、恐怖に顔を歪めて後ずさる。


 アメーバ種はドロドロしているので、一般的には気持ち悪がられる傾向にある。


「あっ! ダメダメ!! そんな風に怖がるとエメラリーが気にするからダメだよ」


 エメラリーは落ち込んで、しょんぼりとしている。


「も、申し訳ありません……」


 メイたちの顔に戸惑うような表情が浮かんだ。


「あはは、気をつけてくれたらいいよ」 


 シルルンはエメラリーの頭を優しく撫でた。


 エメラリーは嬉しそうだ。


「それで、まだペットはいるんだよ。スカーレット!! バイオレット!! 入っておいで」


 スカーレットとバイオレットは洞穴の中に入ってきて、シルルンの横で歩みを止めた。


「うわぁ~~!!」


 メイたちは感嘆の声を上げた。


「……猫の魔物はいないと本に書いてあったのですが、猫の魔物ではないのでしょうか?」


 メイは軽く眉を顰めている。


「うん、そういうことになってるけどほんとはいるんだよ」


 シルルンはフフ~ンと胸を張る。


「赤毛でとっても綺麗」


「凛としてて気品を感じるわ」


「こっちの紫毛の子も綺麗よ」


「スカーレットとバイオレットってすごく響きがいいし、すごく合ってると思う」


 元娼婦たちは大はしゃぎだ。


「あの……シルルン様のシャツの襟首から顔を出している猫のぬいぐるみは買ってこられたのでしょうか?」


 (気にせいでしょうか……動いたように見えましたが……)


 メイは不可解そうな顔をした。


「まーっ!!」


 マーニャは元気いっぱいに鳴いた。


「えっ!? このぬいぐるみは鳴くんですか!? どのような仕掛けなんでしょうか?」


 メイはマーニャをマジマジと見つめ、異変に気づいた元娼婦たちもマーニャをじーっと見つめている。


「いや、ぬいぐるみにしか見えないけど、キャット種の突然変異種なんだよ。名前はマーニャ」


「まーっ!!」


「なっ!?」


 メイたちの顔が驚愕に染まる。


「あはは、抱いてみるかい」


 シルルンはマーニャをシャツの中から引っ張りだし、メイに手渡した。


「まーっ!!」


 マーニャはメイに抱かれてひっくり返り、腹を見せながらメイの腕に頭を擦りつけている。


「……こ、これは、とても可愛いですね」


 メイは慈しむような眼差しでマーニャを見つめている。


「ぬ、ぬいぐるみが動いてる……」


「うあぁ~っ!? この子は人懐っこくて滅茶苦茶可愛い!!」


「つ、次は私に抱かせてください!!」


「ちょっと、次は私よ!!」


「まーっ!!」


「あはは、大人気だね。この四匹はしばらく洞穴で遊ばせておくから仲良くしてあげてね」


「はい!!」


 メイたちはこぼれるような笑みを浮かべた。


 シルルンは思念で「ここにいる六人を護るのが仕事で、できるだけ目を離すな」とスカーレットたちに指示を出し、スカーレットたちは頷いたのだった。


 

















 キャンプ村から東の方角にあるポリストンたちのキャンプの前には、ポロンたちの姿があった。


「これが今日狩った分の分配金だ」


 男はポロンに硬貨袋を手渡した。


「ありがとう」


 ポロンはにっこりと微笑んだ。


「今日は本当に助かった。また組んでもらえると助かる」


「ポロンちゃんまたな!!」


「また組んでくれよな、絶対だぜ!!」


 男たちは踵を返してキャンプに向かって歩いていくが、男たちの一人がポロンの手を握り締めた。


「気安くポロンに触るな!!」


 女は怒りの形相で右の拳を男の腹に叩き込んだ。


「ぐはぁ!? なんて女だ……ポロンちゃんとは大違いだぜ!!」


 男は苦痛に顔を歪めて、腹を摩りながら仲間たちを追いかけていく。


「ちぃ、うるせぇよ!!」


 女は忌々しそうな表情を浮かべている。


 彼女の名はヘレン。職業は格闘家でポロンの相棒だ。


 ポロンたちは元々は六人いたが、すでに四人は戦死しており、現在はポロンとヘレンだけになっていた。


 この鉱山では仲間が死ぬと選択に迫られる。


 物価が地上の街や村のおよそ三倍以上であり、素材の買い取りも地上の街や村の半値で仲間が死ぬとすぐに仲間を募集するか、他のパーテイに入れてもらうかしないと途端に稼げなくなり、死か奴隷落ちが待っているのだ。


 だが、例外も存在する。


 その代表格が回復手段を持つ者だ。


 地上ですらポーションやキュアポーションの値段は跳ね上がっており、この鉱山では入手すらできないのが現状だ。


 彼女らが仲間を増やさないでいられるのは、ポロンが上級職の司祭だからだった。


 ポロンたちは回復手段をもたないパーテイと積極的に組んで狩りに赴いていた。


 ポロンは戦死する者を少しでも減らしたいと考えており、狩りに出かけないときは拠点で傷ついた者たちを格安で治療しているので男たちに抜群の人気があった。


「その魔物はすげぇ便利だよな……まさか魔物が運搬作業をしてくれるとは思わなかったからな」


 ヘレンはポロンの傍にいる魔物たちに視線を向けて、感心したような表情を浮かべている。


 数日前の魔物たちは、ポロンたちが魔物から剥ぎ取った素材を抱えて歩いているのをじーっと見つめていた。


 その日の夜、彼らは多数の木の枝を板のように『糸』で束ねた荷台を作成していた。


 次の日にポロンたちが狩りに出かけると、魔物たちは『糸』で荷台を引っ張ってついてきていた。


 彼らはポロンやヘレンが魔物の素材を抱えていると、ポロンたちの身体をよじ登って魔物の素材を奪って荷台に載せたのが始まりだった。


「ふふふ、良い子なのよ」


 ポロンはこぼれるような笑みを浮かべながら、魔物たちにパンを与えている。


 そこに、ワーゼが嬉しそうな表情を浮かべて、ポロンたちに向かって歩いてきた。


「なぁ、ポリストンを見てないか?」


 ワーゼはポロンたちに尋ねた。


「見てないさ。私らもさっき戻ったところだからねぇ」 


「ていうか、魔物の数が増えてないか?」


 ワーゼは視線を魔物たちに向けて、驚いたような顔をした。


「そうなのよ。仲間を連れてきちゃって」


 ポロンは嬉しそうな表情を浮かべている。


 現在、ポロンの傍にはレッサー ラットとレッサー スパイダー三匹がいるのだ。


「マジかよ……いよいよ魔物使いくさくなってきたな」


「なれたらいいと思ってるわ」


 ポロンははにかんだような笑みを浮かべている。


「何になれたらいいんだ?」


 そこに、ポリストンが暗い表情で歩いてきた。


「私が魔物使いになれたらいいって話よ」


「……そういうことか」


 ポリストンは思いつめたような表情を浮かべていた。


「今日はオリバーのところに行ってきたんだ。この前入った新人を見によぉ」

 

「……それで?」

 

 ポリストンは探るような眼差しをワーゼに向ける。


「ありゃ、強いぜ!! そいつらのリーダーがアントンっていう男なんだが、俺と一緒で剣豪でよ、もう一人が重戦士で、後衛が司祭と魔法師。さらにスコーピオン二匹を従えた魔物使いもいるんだ」

  

「……」


 ポリストンは硬い表情でワーゼの話を聞いている。


「もしかしたら、オリバーたちより強いかもな」


 ワーゼは満足げな笑みを浮かべている。


「なら、ちょうどいいな……」


「あぁ? 何がちょうどいいんだ?」


 ワーゼは訝しげな眼差しをポリストンに向けた。


「スコットたちの代わりにだ」


「おいおい……アントンたちは確かに強いが、そりゃあ、スコットたちがかわいそうだろ」


 ワーゼは呆れたような表情を浮かべている。


「スコットたちが戻ってきてない……おそらく殺られたんだよ」


 ポリストンは沈痛な面持ちで言った。


「なっ!? スコットたちがか!? な、何に殺られたんだよ!?」


 ワーゼは雷に打たれたように顔色を変える。


 ポロンとヘレンは信じられないといったような表情を浮かべている。


「……それは分からん。俺はスコットたちが狩りに行った場所に行ってみたが、そこには何の手がかりもなかった。だが、何があるか分からんのが冒険者だろ」


「んなこたぁ分かってる!!」


 ワーゼは声と表情を強張らせた。


「まぁ、このエリアには上層に繋がるルートもある。そこの魔物が押し寄せたのかもしれん」


「あいつらがそんなんで殺られる玉かよ!? あいつらを殺れるとしたら上位種ぐらいなもんだぜ」


「だったら、上位種に殺られたんだろ。俺たちがたまたま出くわしてないだけで上位種はいるんだからな」


「ぐっ……」


 ワーゼは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「……アントンたちの話はともかく、お前の隊がスコットたちの代わりに大連合を率いてもらうことになると思う」


 ポリストンはワーゼの目を正面から見据えながら言った。


「クソが……」


 ワーゼは憤怒の表情を浮かべている。


「今後は狩りに出る場合には、連合以上で出たほうがいいかもしれんな……」


 ポリストンは腹立たしそうに言ったのだった。


 彼はその日のうちにスコット隊が壊滅したことを発して、仲間たちに動揺が駆け抜けた。


 そして、スコット隊の代わりに、ワーゼ隊が大連合を率いることが決まったのだった。

面白いと思った方はブックマークや評価をよろしくお願いします。


ハディーネ 戦士 レベル29

HP 700

MP 0

攻撃力210+鉄の剣

守備力130+白い皮の鎧

素早さ120+白い皮のブーツ

魔法 無し

能力 剛力


クロロ スライム レベル99 全長約30センチ

HP 100

MP 100

攻撃力100

守備力100

素早さ100

魔法 無し

能力 捕食


エメラリー レッサー アメーバ レベル12 全長約1メートル

HP 360

MP 60

攻撃力 50

守備力 70

素早さ 50

魔法 無し

能力 捕食 溶解液 酸



レッサー キャット レベル1 全長約80センチ

HP 80~

MP 50

攻撃力 50

守備力 30

素早さ 50

魔法 無し

能力 危険察知 回避



キャット レベル1 全長約150センチ

HP 160~

MP 60

攻撃力 90

守備力 50

素早さ 70

魔法 無し

能力 危険察知 回避 威嚇



バイオレット レッサー キャット レベル3 全長約80センチ

HP 100~

MP 55

攻撃力 55

守備力 35

素早さ 55

魔法 無し

能力 危険察知 回避



スカーレット キャット レベル22 全長約150センチ

HP 260~

MP 120

攻撃力 160

守備力 100

素早さ 160

魔法 無し

能力 危険察知回避 威嚇 堅守



マーニャ ミニ キャット レベル1 全長約30センチ

HP 60~

MP 40

攻撃力 120

守備力 20

素早さ 60

魔法 ウォーター

能力 危険察知 回避 威圧 堅守 風刃 壁盾 結界 伸縮自在 必中 全特効



マジックアイテムや魔道具について


マジックアイテムや魔道具は厳密には違うのだが、特殊効果がある物という認識で世の中に広まっているのだ。


故にどっちのいいかたで話すかは人によって、もしくは知識によって違うこともある。


マジックアイテムや魔道具は大きく分けて3種類に分類される。


吸収型、制限型、永久型に分類される。



吸収型


吸収型は何かを吸収することで力を発現する。

主に使用者の魔力を吸い上げる型が主流だが、漆黒の包丁のように命を食らう吸収型も存在する。



制限型


制限型は使用回数があり、それを超えると使えなくなるのだ。

しかし、使用回数はあるものの、時間が経てば使用回数が回復する制限型も存在する。



永久型


永久に力を発現する。

無論、激レアなのはいうまでもない。



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