79 シルルン不在の会議 ☆
シルルンたちは拠点の防壁前に出現した。
「へぇ、このペースだとあと二日もあれば防壁は完成できそうだね」
(さすがゴーレム種の『HP回復』と『スタミナ回復』はすごいね)
シルルンは嬉しそうな表情を浮かべている。
「シ、シルルン様!! その狼は!?」
アキとゼフドは戸惑うような表情を浮かべている。
「あはは、ハイ ウルフからさらに進化したフェンリルだよ」
シルルンはふふ~んと胸を張った。
「『魔物契約』で協力関係になったのでしょうか?」
ブラは嬉しそうな顔でシルルンに尋ねたが、ブラ隊の面々は呆けたような表情を浮かべている。
「ううん、ペットだよ」
「えっ!?」
その言葉に、仲間たちは意外そうな顔をした。
「そう言えば名前を決めてなかったね……キン、ギラ、ピカ、シャイン、ゴルド……」
シルルンは思念で「キン、ギラ、ピカ、シャイン、ゴルド」のどれがいいかフェンリルに尋ねた。
「はっ、その中ですとシャインがいいかと思います」
フェンリルは即座に思念で返した。
「あはは、そうなんだ。じゃあ、名前はシャインにするよ」
「はっ、有難き幸せ」
シャインは嬉しそうに微笑んだ。
「うわぁ!! すごく綺麗……」
「こ、こんな綺麗な魔物は見たことがありません」
アキとブラは我を忘れたような表情で切なげな吐息を吐いた。
「我が名はシャイン。よろしく頼む」
「なっ!?」
仲間たちは面食らったような顔をした。
「あはは、シャインは強いよ。たぶん、ハイ タイガーより強い」
「――っ!? そ、そんなに強いのですか!?」
ゼフドは大きく目を見張り、仲間たちは息を呑んで絶句した。
「あの触ってもいいですか?」
「わ、私も触ってみたいです」
アキとブラはうっとりとした表情でシルルンに尋ねた。
「あはは、それはシャインに聞いたらいいんじゃない」
アキとブラは熱い視線をシャインに向けた。
すると、シャインは静かに頷き、アキとブラは嬉々としてシャインに抱きついた。
「うわぁ!! モフモフでフワフワ!!」
「……なんて綺麗なんでしょう」
アキやブラが抱きついているのを見た他の女たちも、躊躇しながらシャインを優しく撫で始めた。
「あはは、大人気だね。そろそろ日も暮れるから防壁作業は中断して拠点に戻るよ」
仲間たちは頷いて、シルルンの元に集まった。
「そういえば、ラーネさんはどうしたんでしょうか?」
ブラは訝しげな顔をした。
「『瞬間移動』はできるけど、その話は皆が集まってからするよ」
シルルンたちは『瞬間移動』で掻き消え、拠点前に出現した。
すると、リザやビビィ、ラフィーネやヴァルラ、リジルも拠点の中に入っていくところだったが、リザだけが装備がボロボロで疲れ切っていた。
シルルンは魔車の前に移動し、ハディーネに出てくるように声を掛けて、ハディーネと一緒に拠点の中に入った。
「ていうか、どうやってこんな高さまで掘ったんだよ」
シルルンは天井を見上げながら、坂道を下りていく。
拠点の中は元々の地面から上下に五メートルほどまで掘られており、さらに壁も掘り広げられて大ホールになっていた。
「シルルン様、お帰りなさいませ」
メイはにっこりと笑ってシルルンたちを出迎えた。
「うん、ただいま」
「ボス、後ろの魔物はいったい?」
リジルの言葉に、リザたちは興味深げな眼差しをシルルンに向けた。
「うん。説明したいから皆を集めてほしいんだよ」
「分かったわ。メットは外にいる四人を呼んできて、私はアミラさんたちを呼んでくるわ」
「了解」
メットは走って拠点から出て行った。
シルルンは地面に座り込んで待っている。
「シルルン様。皆が集まったようです」
メイがシルルンに声を掛けると、シルルンは頷いて立ち上がった。
「じゃあ、説明するよ。まず、五匹のゴーレムは『魔物契約』で雇ったんだよ。理由はこの拠点を守る防壁を作成するためだよ。それで、アミラに聞きたいんだけどポイントの範囲は分かったの?」
「はい、この拠点から西には十キロメートルほどで、東には十キロメートルほどが採掘ポイントだと確認しました」
「うん、ありがとう。じゃあ、ゼフドはその辺りまで防壁を作成してよ」
「はっ」
「で、皆が気になってる金色の狼なんだけど、ハイ ウルフの上位種でフェンリル。名前はシャイン。僕ちゃんのペットだよ」
「えっ!?」
リザたちは驚きのあまり血相を変える。
「シャインだ。よろしく頼む」
「しゃ、喋ってる……」
リジルたちは信じられないといったような表情を浮かべている。
「それで真っ黒な珍しいスライムがいたからペットにしたんだよ。名前はクロロ」
シルルンはシャツの中からラーネを引っ張りだして胸に抱えた。
「可愛い!! 可愛すぎます!!」
ラフィーネは顔を紅潮させて黄色い声を上げた。
「それで、ここからがややこしい話なんだけど、僕ちゃんの横にいるのはラーネじゃなくてハディーネなんだよ」
「……はぁ?」
仲間たちは不可解そうな表情を浮かべながら、視線をハディーネに向けた。
「なっ!? 言われてみれば全然別人じゃない!?」
リザの顔が驚愕に染まる。
「では、ラーネさんはどこにいったのでしょうか?」
メイは眉を顰めており、仲間たちの視線がシルルンに集中した。
「フフッ……私はここにいるわよ」
「えっ!?」
「なっ!?」
仲間たちは雷に打たれたように顔色を変える。
「クロロは今はラーネなんだよ」
「はぁ!? なんでそんなことになったのよ!?」
リザは訝しげな眼差しをシルルンに向けた。
「ラーネは精神生命体だからだよ」
「なっ!? 精神生命体って、そんな無茶苦茶な……」
リザはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
「とりあえず、奴隷でも買ってその奴隷をラーネの憑依先にしようかなと思ってるよ。それで、ハディーネは街に帰そうと思ってる」
「……」
仲間たちは放心状態に陥ったのだった。
仲間たちは夜中なのにもかかわらず、洞穴に集まっていた。
シルルンは魔車の中で眠っており、その傍でプル、プニ、ブラック、パプルも一緒に眠っている。
「こんな夜中に集まってもらったのは、皆と話してみたいと思っていたからだ」
ゼフドは仲間たちを見回して言い放った。
「むふぅ、いったい、なんの話なのぉ……」
ヴァルラは大きな欠伸をした。
「俺たちと違ってリザとビビィの二人は奴隷じゃない」
「はぁ!? だから何なのよ!! 私たちにも奴隷になれって言いたいわけ!?」
リザは鋭い眼光でゼフドを睨みつけた。
「いや、あんたら二人は俺たちがいなかった頃からシルルン様の仲間として行動してきたから信用している」
「……当然よ」
「まぁ、聞いてくれ。奴隷にも二通りある」
「奴隷証書のことよね。要するに私たちを疑ってるわけ?」
リジルは不快そうな表情を浮かべており、男盗賊たちと元娼婦たちは顔を強張らせている。
「それもあるが、お前たちは自らが進んでシルルン様の奴隷になったのだから信用している」
「当たり前よ」
「俺が言いたいのは意思の有無だ。」
「つまり、私たちとラフィーネさん、ヴァルラさん、アミラさんたちが信用できないと言いたいのですね」
ブラはむっとしたような顔で言った。
「ですが、それはおかしな話です。私たちは奴隷証書で契約しています。ですから、マスターを裏切ることはありえません」
ラフィーネは不審げな眼差しをゼフドに向けた。
「今はそうだろうな……」
ゼフドはしたり顔で言った。
「今はというのはどういうことでしょうか?」
ラフィーネはいかにも解せないといったような表情を浮かべている。
「これはあくまで俺の推測だから絶対にこうなるとは言えない話だが、シルルン様はこの拠点を安定させたら、おそらくあんたらのような自分の意思にかかわらず奴隷になった者たちを解放しようとするはずだ。なぜならば、シルルン様は奴隷制度自体に疑念を抱いているからだ」
「えっ!?」
ラフィーネたちは驚きの表情を見せる。
「そうなったとき、あんたらはどうするのかを俺は聞きたい」
「……」
ラフィーネたちは顔を顰めて押し黙った。
彼女らは無意識に解放はありえないと考えていたからだ。
「ちなみにシルルン様はスライム屋というのをやるらしい。過剰な武はいらない世界だ」
「……そもそもの話ですが、なぜそのようなことを私たちに聞くのでしょうか? 私たちがどのような決断をしたとしても、あなたには関係のない話だと思うのですが」
ブラは軽く眉を顰めている。
「俺はシルルン様を王にする。故にシルルン様を王とし、それを支え命を捧げる覚悟がある者を集める必要があるからだ」
「なっ!?」
仲間たちは驚きのあまり血相を変える。
「シルルン様はそんなことを望んでいません」
メイは突き放すような口調でゼフドに言った。
「無論だ。だが、俺は奥方様に誓ったのだ。シルルン様を護る盾になると。そういう意味では王というのは最高の盾だと思わないか?」
「……だとしても、シルルン様が望んでおられないことを私は支持できません」
メイは強い口調ではっきりと言った。
「お前はシルルン様の傍にいればいい。だが、俺はシルルン様を王にするために動くがな」
「あは、私はシルルン様に王になってもらいたいわ」
アキは嬉しそうに微笑んだ。
「まずは一人」
アキとゼフドは固い握手を交わした。
「ちょ、ちょっと待ってください!! それはシャダル王に対して謀反を起こすということですか!?」
ブラの顔が困惑に染まる。
「それは違う。俺たちはこの国の西にあったポラリノール王国の出身だ。ポラリノールは魔物に滅ぼされたが奪い返す。そしてシルルン様を王にする」
「……なるほど。ですが、ポラリノール王国は魔物に滅ぼされましたが、王族の血脈は途絶えたのでしょうか?」
ブラは探るような眼差しをゼフドに向けた。
「それは分からん。だが、俺たちはシルルン様をお捜ししているときに各国をまわったが、それらしい噂は聞かなかったがな」
「ですが後から王族の血脈が現れたら、国が割れるのではないですか?」
ブラは不安そうな顔をした。
「国民が一人もいないんだぞ。割れると思うか?」
「えっ!? 一人もいないのですか!?」
ブラは大きく目を見張った。
「城は落ち、全ての街や村は壊滅した。そして、逃げ遅れた国民は全て殺されたのだ。故に魔族と魔物しかポラリノールにはいない。それが魔族に攻め込まれた国の末路だ」
「……確かに国民が一人もいないのでしたら王族がいたとしても関係ないですね。ですが、マスターにどう説明するんですか?」
「無論、シルルン様を王にするために修行の旅にでるというつもりだ。他になければ、俺の問いの答えを聞きたい」
「私は解放されることを望みません。そして、シルルン様のスライム屋さんの警護をしたいと思っています」
ラフィーネはうっとりした表情で言った。
「了解した」
「私たちも解放されることを望みません。ですが、あなたの修行の旅に同行してもよいとのマスターの許可がでれば協力します」
ブラは真面目な硬い表情で言った。
「よろしく頼む」
「私たちも解放は望まない。だから、命令がない限りはここを掘り続けるつもりだ」
「了解した」
「むふぅ、私も居心地がいいからマスターの奴隷でいい……」
ヴァルラはそう答えて、立ちながら眠りについた。
「了解した。できれば他の者たちも答えてくれると助かる」
ゼフドが返答していない者たちに目を向けた。
「私たちは盗賊だからボスのスライム屋を見張るつもりよ」
「了解した」
「私たちは戦えませんし、マスターがいなければ生きていけません……」
元娼婦たちは気まずそうに言った。
「ああ、分かってる」
「私は状況次第ね。シルルンのスライム屋が問題なければそっちに行くかもしれないわ」
「意外な返答だな。だが、よろしく頼む」
「むっ、そこにいけば稼げるの?」
ビビイは手を挙げて質問した。
「稼げないな」
「じゃあ、行かない」
「了解した」
「フフッ……私は両方ね。『瞬間移動』があるから、マスターの様子を見ながらそっちでも戦えるわ」
ラーネはにんまりと笑った。
今の彼女はハディーネからネコ耳セットを返してもらい、ネコ耳とシッポがついたスライムになっているのだ。
いい加減なラーネネコ耳セットの絵^^
「最高戦力のあんたが参加してくれるのはありがたい」
「それまでにこの体をなんとかしたいわね」
「元々『憑依』していたハディーネの体ではダメなのか?」
「私はいいんですけど、シルルンさんにダメだと言われました」
ゼフドの問いに、ハディーネが答えた。
「ならダメだな。憑依先は強いほうがいいのか? 例えばラフィーネとメイではどう違う?」
「フフッ……そうね。誰に『憑依』しても基本ステータスは変わらないのよ。違いは私が所持してない魔法や能力を所持していた場合、私はそれを使えるようになるのよ。だから、マスターに奴隷を買ってもらうときには魔法と能力をよく吟味しないといけないわ」
「……あんたの存在は反則だな」
ゼフドの言葉に、リザたちは同意を示して頷いた。
一般人はどれだけ努力しようと魔法や能力に目覚めずに死んでいくのが普通だからだ。
「そうでもないわよ。実際死に掛けたし」
「えっ!?」
その場にいる全員が面食らったような顔した。
「……あんたほどの者がいったい何にやられたんだ?」
「エンシェント ハイ イーグルよ……」
「……」
その言葉に、ゼフドたちは不可解そうな表情を浮かべている。
「フフッ……エンシェントの存在をどうやら知らないようね」
「あぁ、聞いたことがないな」
ゼフドたちは顔を見合わせているが、知っている者はいなかった。
「エンシェントは基本種の最終形態で、その種の最強の存在だといわれているのよ。極めて高い能力値をもつ上位種だけがたどりつけるらしいわ」
「なるほどな……だが、あんたも恐ろしく強い。その戦いは接戦だったんだろうな……」
「……たった一撃で体を縦に真っ二つにされたのよ」
「なっ!?」
ゼフドたちは雷に打たれたように顔色を変える。
「馬鹿なっ!? ラーネ殿が一撃だと!?」
シャインは放心状態に陥った。
「事実よ。その攻撃のせいで私とハディーネは分離したのよ」
「とても怖い体験でした。体からごっそり力が抜けていくような感覚で私は死ぬんだと思ったとき、意識が消失しました」
ハディーネは恐怖に怯えたような表情を浮かべている。
「……例えるなら人族でいう勇者みたいな存在なんだろう。しかし、そんなものからよく逃げ切れたな」
「たぶん、シルルンが何とかラーネを助けて逃げたのよ」
リザは得意げな顔で言った。
「フフッ……そう思うわよね。私もそう思ったわ……だけど、マスターはエンシェント ハイ イーグルを倒したのよ」
「えっ!?」
ゼフドたちは一瞬耳を疑った。
「……そんな化け物を相手にどうやって勝ったのよ」
リザは信じられないといったような表情を浮かべている。
「意識がない私が知りようもないわよ。だけど、マスターは強さの階段を駆け上がってる最中で、まだまだ強くなると思うのよ」
「そ、そんな……どうすればいいのよ」
リザは打ちのめされたような表情を浮かべている。
「……なるほどな。だから、シルルン様は丸一日過ぎても起きてこられないのだな。外見では分からんが相当にお疲れだったんだろうな。いずれにせよ、俺の聞きたいことは聞けたから今日のところはこれでお開きだ」
こうして、シルルン抜きの深夜の会議は閉会したのだった。
ポリストンは拠点に入ろうとしたが足を止めた。
「あら、訓練は終わったの?」
白いローブに身を包んだ女がポリストンに笑顔を向けた。
彼女の名前はポロン。職業は司祭だ。
「あぁ、とりあえずな……」
ポリストンは軽く眉を顰めて頷いた。
彼らは魔物使いの修練の場でもあるキャンプ村から、東に移動した場所にキャンプを張っていた。
北にいけばシルルンが採掘に失敗した場所がある。
ポリストンは五十人ほどの冒険者たちと訓練を重ねていた。
もちろん、訓練だけではなく、魔物も狩って素材を売ったりもしているが。
彼はここで冒険者を募り、三隊の大連合を編成しようとしているが、うまくいってなかった。
「さっきからあそこに、レッサー スパイダーとレッサー ラットがいるのよ」
ポロンから十メートルほど離れた石の上で、レッサー スパイダーとレッサー ラットが動かずにじっとしている。
「こんな場所だ。珍しいことじゃないだろ?」
「そうだけど、種が違うのにケンカもしないで仲良しなのよ」
ポロンは複雑そうな表情を浮かべている。
「……お前を食おうと隙を窺っているだけじゃないか」
ポリストンはにやけた顔で冗談交じりに言った。
「でも、私が立ち上がると後退して、また座ると石の上に戻ってくるのよ。たぶん、魔物使いがテイムした後、何らかの理由で解放した魔物なのかもしれないわ」
「なるほどな。テイムされた魔物はマスターの言語を理解し、自我意識に目覚めるらしいからな。だが、解放された魔物はどうなるんだ?」
「たぶん、繋がりが途切れるから次第に自我意識を失うんじゃないかしら」
「ならあれは、いつ襲い掛かってくるか分からんな……」
ポリストンは二匹の魔物に視線を転じて、顔を顰めた。
「これ食べるかしら」
ポロンはパンを二つに分けて二匹の魔物に目掛けて投げたが、魔物たちには届かなかった。
地面に落ちたパンは、ポロンと魔物たちのちょうど中間の位置に転がっている。
「おいおい、魔物がパンなんかを食うかよ」
ポリストンは呆れたような表情を浮かべている。
魔物はたちはじーっとポロンたちを見つめていたが、しばらくすると様子を窺いながらゆっくりとパンに近づいてパンを食べた。
「あは、食べた食べた!!」
ポロンは嬉しそうに目を輝かせた。
「パンを食う魔物なんて聞いたことがないぞ」
ポリストンは呆気に取られている。
「たぶん、前のマスターが食べさせてたのよ」
ポロンは嬉々としてさらにパンを二つに分けて、今度は自身の前に置いた。
「……おい、冗談はよせ。司祭のお前が噛まれたら洒落じゃすまないぞ」
ポリストンは恐ろしく真剣な表情で語気を荒げた。
「私は司祭……噛まれても傷も毒も治せるのよ」
ポロンは慈しむような眼差しで、魔物たちを見つめている。
「そういう問題じゃないだろ」
ポリストンは苛立たしげな顔をした。
魔物たちはゆっくりとパンに接近し、パンから一メートルほどの距離で止まり、その視線はポリストンに向けられていた。
「手を出さないでね」
ポロンはポリストンを手で制し、魔物たちを一瞥したポリストンは苦虫を噛み潰したような顔で剣の柄から手を離した。
すると、魔物たちはゆっくりとパンに近づいて、パンを食べだしたのだった。
「やっぱり!! やっぱり、良い子なのよ!!」
ポロンはこぼれるような笑みを浮かべている。
「そ、そんな馬鹿なっ!?」
ポリストンは放心状態に陥った。
「よう、ここにいたのか」
そこにワーゼたちが歩いてきて、ポリストンに声を掛けた。
「……」
ポリストンは呆けたような顔を晒している。
「ん? なんで魔物がいるんだ? ポロンは司祭じゃなかったのか?」
ワーゼは怪訝な顔をした。
「この子たちはお腹ペコペコみたいね」
ポロンは鞄からパンを二つ取り出して、魔物たちに与えた。
「ああ、その通りだ。俺も目の前で起きていることが信じられん……」
我に返ったポリストンは興味深げな表情を浮かべている。
「……マジかよ。司祭がなんで魔物に餌をやってんるんだよ」
ワーゼは怪訝な面持ちを深めた。
「分からん……いろいろ考えてみたがポロンは魔物使いに目覚めつつあるのかもしれん」
ポリストンは難しそうな表情を浮かべている。
「魔物使いか……俺はとんでもなく強いスライムテイマーを知ってるけどな」
ワーゼはしたり顔で言った。
「えっ!? スライムテイマーなのに強いの? すごく珍しいわね」
ポロンは驚いたような顔をした。
「あぁ、肩に乗せてる二匹のスライムが魔法をバンバン撃ちまくるんだ」
「えっ!? スライムって魔法を使えるの?」
ポロンは面食らったような顔をした。
「普通のスライムより一回り小さいが、そのスライムは使ってたぜ」
「へぇ、そんなスライムがいるんだ。すごく見てみたい」
ポロンは瞳を輝かせた。
「俺たちは中層にたどり着くために、そいつらと連合を組んだんだ」
「おいおい、そんなに強いならここに連れてくればいいだろ」
「いや、無理だろ。独自で採掘ポイントを探すって言ってたからなぁ」
ワーゼは渋い表情のままで答えた。
「だが、独自で採掘ポイントを探すとしても西か東にいくことになる。結局の話、大連合を組まざるを得ないだろう」
「まぁ、普通に考えればそうだろうと思うけどよ、あの連中には必要ないように思うがな」
「……なぜそう思う?」
ポリストンは不可解そうな顔をした。
「そのスライムテイマーがほぼ単独で上位種であるハイ スネイルを無傷で倒したからだ」
「なっ!?」
ポリストンは雷に打たれたように顔色を変える。
「まぁ、キャンプ村が二箇所しかないから、そこで会う可能性はあるがなぁ」
「そのときは絶対に引き合わせてくれ。なんとしてでも仲間に迎えたい!!」
ポリストンは興奮で顔が赤らんで鼻息が荒い。
「あぁ、分かったよ。しかし、あいつらはまだ戻ってこないのか?」
「まだ、帰ってきてはいない」
「そうか、もしかしたら採掘ポイントに辿りついたんじゃないか?」
「可能性はなくはないが、おそらく全滅しているだろうな」
ポリストンは沈痛な表情で、首を横に振った。
「くそっ!! やっぱり、そうなのか……」
ワーゼは悔しそうな顔をした。
「あぁ、時間が経ちすぎているからな……それより、新しく入った奴らはどうなんだ?」
ポリストンは探るような眼差しをワーゼに向けた。
「あぁ、全員、上級職だからいけると思うぜ」
ワーゼは自信の滲む表情を浮かべている。
「そうか、オリバーとスコットのところはどうだ?」
「オリバーとスコットのところに入った奴らもいい感じだと言ってたぜ」
「だが、それでも、まだまだ仲間がいる……」
ポリストンは大きな溜息を吐いた。
現在、ポリストンの仲間の数は百人ほどで、大連合の指揮者はポリストン、オリバー、スコットに決まっているが、五十人ほど冒険者が足らない状況だ。
「ポリストン、採掘の話を聞きたいという人たちがきてるわよ」
仲間の一人がポリストンに声を掛けた。
「何人だ!? すぐに行く」
ポリストンは期待に声を弾ませて、仲間の後を追いかけるのだった。
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