70 勇者の成れの果て
「エンシェント ハイ イーグルを滅ぼしたお前たちに褒賞を与える」
シルルンの脳内に直接声が響いた。
「えっ!? マジで!?」
シルルンはびっくりして目が丸くなる。
プルたちにも声が聴こえてるようで、プルたちは辺りをきょろきょろ見回しながら目をパチクリさせている。
「何がもらえるんだろう?」
シルルンは期待に瞳を輝かせた。
「お前たちに与えるのは能力だ。その力で世界に点在するエンシェントを屠ってほしい……」
そういい残して、声は聴こえなくなった。
そして、シルルンは『念力』に目覚めた。
「あはは、『念力』を試してみようかな」
シルルンはブラックから降りて『念力』で足元に落ちていた石ころを掴んで持ち上げて、石ころを空に上げていくが、十メートルほどの距離で石ころは動かなくなった。
「うん、この能力は当たりだね」
シルルンは嬉しそうな顔をした。
「プルは何をもらったの?」
「『能力防御』デス!!」
プルは誇らしげな顔で言った。
「へぇ、プルは『能力軽減』を持ってるから、『能力防御』と合わさると能力攻撃は効きにくくなったね」
『能力防御』は能力攻撃に対して、効果を半減以下にできる能力だ。
『能力軽減』は能力攻撃に対して、三十パーセントの確率で無効にできる能力だ。
似たような能力だが、その特性は全く違う。
シルルンはプルの頭を撫でる。
「よかったデス!!」
プルは嬉しそうだ。
「プニは何をもらったの?」
「『魔法防御』デシ!!」
「プニは『魔法耐性』を持ってるから、魔法攻撃はほとんど効かなくなったね」
『魔法防御』は魔法攻撃に対して、効果を半減以下にできる能力だ。
シルルンはプニの頭を撫でる。
「デシデシ!!」
プニは嬉しそうだ。
「ん?」
シルルンはブラックに話し掛けようとしたが、ブラックの姿はなかった。
「フハハ!! ここにいますぞ主君!!」
シルルンは『魔物探知』で辺りを探ってみると、ブラックは地中にいた。
「すげぇ!? なんで地中にいるの?」
「我がもらった能力は『透過』で、物体をすり抜けることができるのです」
「えっ!? マジで!? それって最強なんじゃないの?」
シルルンは期待に声を弾ませた。
すると、ブラックは地中からピョコと顔を出した。
「あはは、大当たりだね」
シルルンはブラックの頭を撫でた。
ブラックは嬉しそうだ。
「じゃあ、ゴーレムを捜しに登ってみようか」
シルルンがブラックに乗るとブラックは地中に潜ったが、シルルンたちは地中に潜ることはできずに尻餅をついた。
「……どうやら『透過』が適応されるのは術者だけみたいだね」
シルルンは残念そうな顔をした。
「まさか、勇者ではない者がエンシェントに勝利するとは信じられんなぁ……」
「えっ!?」
シルルンはビックリして振り返る。
すると、そこには幽体のようなフワフワが五匹宙に浮いていた。
「また変なのが出たデス!! サンダーデス!」
プルはサンダーの魔法を唱えて、稲妻がフワフワに直撃した。
彼は目の前のフワフワがデーモンの精神体だと思っていた。
「やめんか!! 死ぬわ!!」
フワフワは怒りの形相で叫んだ。
「あはは、それ以上やったら死ぬからダメ」
「わかったデス……」
プルは不満そうな顔をしている。
「……全く、儂らを誰だと思っとるんじゃ……」
「えっ!? 誰なの?」
シルルンは怪訝そうな顔をした。
「儂らは元勇者だった者じゃよ」
「ええ~~~~~~~っ!! マジで!?」
シルルンは驚きのあまりに血相を変える。
「勇者は人族だけと思ってたけど、フワフワな勇者もいるんだね」
「アホか!! 違うわ!! 勇者は人族以外にはありえん存在だ。無論、儂らも人族の勇者だったが死んだらこうなっただけの話じゃよ」
「まぁ、俺たちはエンシェント ハイ イーグルに挑み、散った勇者だというわけだ」
別のフワフワが言った。
「それを言うなってぇ!! カッコ悪いじゃろ!!」
「あはは、そうなんだ。勇者も負けるんだね」
「まぁな……勇者にも強弱はある。目覚めた能力次第じゃからな」
「ふ~ん、そうなんだ。勇者セルドに会ったことがあるんだけどセルドは強いの?」
「何!? セルドに会ったことがあるのか? あれは強い。間違いなく歴代最強クラスの勇者じゃろうな」
「へぇ~、そんなに強いんだ」
「だが、ホモじゃがの……」
フワフワはボソリと呟いた。
「えぇ!? セルドはホモなの!?」
シルルンは雷に打たれたように顔色を変える。
「まぁな……好みの男がいたら寄り道して、事態が深刻化することも多々あるからな」
「あはは、そうなんだ」
「それにしてもじゃ、お前はほんとに勇者じゃないのか?」
「うん、違うよ。体のどこも金色に光ってないし」
「それは勇者として覚醒したときの話じゃよ」
「私が視てみるわ」
また別のフワフワが言った。
「ないわね……」
「えっ!? 何がないの?」
「君を『人物解析』で視てみたけど『勇者』の能力がないって話よ」
「えぇ~~~~っ!? 勇者って能力だったの!?」
シルルンの顔が驚愕に染まる。
「それよりも、勇者ではない君がエンシェント ハイ イーグルを倒したことがいまだに信じられないけどね」
「まぁ、そのせいで儂らはただ消えるだけじゃがの」
「えっ!? どういうこと?」
「本来なら儂らの力は勇者に集約される。じゃが、お前は勇者ではないということじゃ」
「えっ!? 倒したらダメだったってこと?」
「大局的にみればそうなるじゃろな。勇者は魔物や魔族と戦い押さえこんどる。その押さえが弱くなれば魔物や魔族が増え、世は混沌とするじゃろな」
「ええ~~~~~~~っ!! マジで!? そんな後だしジャンケンみたいなことを言われても倒してしまったものは仕方がないじゃん」
シルルンは不満げな顔をした。
「現存する勇者の誰かが私たちの力を得れば爆発的に強くなるわ。勇者とはそういうものなのよ」
「けど、褒賞を貰えたからいいことじゃないの? たぶん、神様みたいなのがやってるんだから」
「それは遥か昔の勇者が『褒賞』でエンシェントクラスを倒せば能力を貰えるようにしただけの話じゃよ」
「ええ~~~~~~~っ!! マジで!? 勇者は万能過ぎるだろ!! でも、エンシェント ハイ イーグルに負けたあんたらがダメなんじゃないの?」
「まぁ、そうだな」
「おいっ!! それを言うなってぇ!! カッコ悪過ぎるじゃろ!!」
「……そろそろ時間ね」
「えっ!? どっかいくの?」
「もう、寿命が尽きるということじゃ……」
「えっ!? マジで!?」
シルルンは視線をフワフワたちに向けると、フワフワたちは透け始めていた。
「……なんか僕ちゃんのせいぽいじゃん」
シルルンは『魔物解析』でフワフワを視た。
すると、種族の欄に勇者の怨念と書かれていた。
「……怨念? ということは魔物かもしれない……」
シルルンは紫の球体を作り出し、フワフワたちをまとめて紫の結界で包み込んだ。
「い、いきなり何をするんじゃ!?」
「うがぁああああぁあああぁぁ!!」
「きゃあああああぁああああぁぁ!!」
フワフワたちは苦痛の絶叫を上げた。
「……プルとプニの時とは違うみたいだね」
シルルンは全力で『集中』を発動した。
すると、フワフワたちの魂が亜空間に引っ張られている光景が彼には視えた。
シルルンは結界を変形させてフワフワたちの魂を掴んで引っこ抜くと、フワフワたちに魂が戻ってテイムに成功した。
「ふぅ……」
シルルンは額に流れる汗を腕で拭い、『魔物解析』でフワフワたちを視た。
すると、種族が勇者の成れの果てに変わっていた。
「いったい、何がどうなったのじゃ!?」
フワフワたちは驚き戸惑っている。
「テイムに成功したからすぐ死ぬことはないと思うよ」
「なっ!? 儂らは死なんのか!?」
フワフワたちは面食らったような表情を浮かべている。
「うん、たぶんね」
「……しかし、この感覚は……これがペットになったということか……」
フワフワたちは喜びに打ち震えており、彼らは主に仕え役に立ちたいという衝動が心の底から湧き上がっていた。
だが、それでも元勇者だ。
彼らは自分を律し、主であるシルルンを見極めにかかる。
彼らが力を貸すということは、主であるシルルンは勇者と同格になるからだ。
勇者とは人族を守り、対魔物に人生を捧げる存在だ。
その資質の有無を探るため、フワフワたちは魔眼をシルルンに放った。
彼らが放った魔眼は『魔眼判定』だ。
つまり、人族に対して脅威に成り得るかを判定できる能力だ。
判定は白か黒で表示され、白ならば問題はないが、黒ならばその場で処刑される。
しかし、灰色で表示される場合があり、その場合はマーキングされて勇者に監視されることになる。
セルドに『魔眼判定』で視られたラーネは灰色で、セルドの監視対象になっていた。
「……灰色か」
フワフワたちは驚いた様子もなく、むしろ安堵したという感じだ。
彼らは黒が出ることを恐れていたのだ。
シルルンが黒の場合、人族が滅ぶ可能性が極めて高いからだ。
「それで儂らの力をどうするつもりじゃ? こんな姿に成り果てたとはいえ勇者五人分の力を得たのじゃからな」
フワフワたちは探るような眼差しをシルルンに向けた。
彼らは勇者ではないシルルンがエンシェント ハイ イーグルに挑む理由が分からなかった。
そもそも、勝てるはずがないからだ。
だが、勝利すれば勇者と並ぶ名声が得られると彼らは思っていた。
そのため、彼らはシルルンが王になりたいのだと考えた。
本来、勇者は人族同士の戦争に一切介入しないが、彼らは力を貸すつもりだった。
その理由は、シルルンが世界を統べる王になったあとを想定しているからだ。
つまり、魔族たちとの全面戦争だ。
「えっ? もうペット化を解いてるから好きにすればいいんじゃないの?」
シルルンは不可解そうに眉を顰めた。
「な、なんじゃと~~~~っ!?」
フワフワたちはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
「お、お主、欲はないのか!? 勇者の力が五人分じゃぞ!? 大概のことは叶えられる力じゃ」
「え~~~っ!? だってめんどくさそうじゃん勇者って」
「なっ!? めんどくさいじゃと……勇者の力が……」
フワフワたちは呆然として身じろぎもしない。
「で、では、何ゆえ儂らを助けたのじゃ」
「助けたというか、たまたまテイムしてみたら助かっただけの話だよ」
「そ、それだけなのか?」
「うん。けど助かったんだから勇者のところに行ったらいいんじゃないの? 勇者が弱いのは僕ちゃんのせいだとか言われたくないし」
「……」
しかし、フワフワたちは黙り込んでしまう。
「……お主には悪いが儂らは勇者とは合流せんよ」
フワフワは申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「えっ~~~~っ!? マジで!? ていうか、なんでだよ!!」
「こんな姿じゃが儂らはそれぞれが勇者として活動しようと考えているからじゃ」
「えっ!? そうなの? けど合流しないと勇者は弱いままじゃん」
「それは言ってみれば言葉の綾じゃよ。儂らの力が無駄に消えるか勇者の糧になるかという話じゃ。勇者は強い。特に現世の勇者はな」
「ふ~ん、そうなんだ。死にたくないから言ってるんじゃないよね?」
シルルンはジト目でフワフワたちを見つめた。
「ぬう……確かにそれもある。一度死んでさらにもう一回死ぬのは嫌じゃが、悪い話ではないじゃろう。勇者が五人も増えるんじゃから」
「……じゃあ、勇者が弱いのは君たちのせいでいいんだよね?」
シルルンは不審げな眼差しをフワフワに向けた。
「ぬう……そうじゃな……」
「あはは、だったらいいよ。じゃあ、僕ちゃんはいくよ」
シルルンは身を翻して、ブラックに乗ろうとした。
「ま、待って!!」
フワフワに呼び止められて、シルルンは振り返る。
「せめてものお礼として、これをあなたにあげるわ」
フワフワの近くの空間が大きく開いて、そこから青白く光り輝く弓が出てきた。
「すげぇ!? どうなってんのそれ!?」
シルルンは大きく目を見張った。
「『亜空間』という能力よ」
「マジで!? そんな能力があるんだ」
シルルンは青白く光り輝く弓をフワフワから受け取った。
「雷撃の弓よ。本当はもっと強い弓があるんだけど、あなたを『人物解析』で視てみると、あなたは弓神じゃないからミスリル以上の弓は扱えないからそれにしたのよ」
雷撃の弓は薄い青色のミスリルの弓と同様に弦がなかった。
シルルンは雷撃の弓を構えて光の弦を引き絞り、近くにあった岩に狙いをつけると弦を放した。
すると、青白い稲妻が凄まじい速さで飛んでいき、岩に命中すると岩は砕け散り、空からも稲妻が落ちてきて地面に大穴をあけた。
「すげ~~~っ!?」
シルルンは歓喜に顔を輝かせた。
「注意する点は洞窟内や建物の中では空からの稲妻が落ちてこない点よ」
「えっ!? そうなんだ。でも、ありがとう!!」
「儂らもお主に何かを贈りたいが『亜空間』を儂らは使えんから、今度会った時に何かを贈ろう」
「うん、楽しみにしてるよ」
シルルンはフワフワたちを見送って、シルルンたちは山を登り始めたのだった。
しかし、彼は気付いていなかった。
エンシェント ハイ イーグルを倒してフワフワたちをテイムしたことにより、魔物使い十周分の経験値に達していたことを……
条件を満たしたシルルンはレベル九十九の壁を越えて【魔物を統べる者】に目覚めていたのだった。
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ストーンゴーレム レベル1 全長約3メートル
HP 800~
MP 150
攻撃力 230
守備力 200
素早さ 90
魔法 アース ウインド
能力 HP回復 スタミナ回復 砂化 岩化
大量の砂 100kg 100円
ドロップ品
鉄の塊 1個 100円
銅の塊 1個 1000円
銀の塊 1個 1万円
金の塊 1個 10万円
魔石 10万円
魔鉄 100万円
魔鋼 1000万円
銅の塊から下のドロップ品の確率は下にいくほど低い。
 




