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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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67 『反逆』 修


挿絵(By みてみん)


 シルルンたちは激しい戦いの中にあった。


 それもそのはずで、彼らのいる場所が上層に繋がるルートの前だからである。


 言うまでもなく、上層から多数の魔物が下りてくるので本来なら避けるルートだが、エリアの北側以外はタイガー種の縄張りなので彼らに選択の余地はなかった。


 その北側の中でシルルンは採掘されていない可能性が高いのは上層に繋がるルートの先だと睨んでいた。


 そのため、シルルンたちは東に向かって進んでおり、北の上層から下りてくる魔物をラーネが単独で迎え撃ち、シルルンは単独で東に先行して魔物の数を減らしていた。


 シルルンの仲間たちは円陣を組んで東へと進んでいるが、多数の魔物の群れに攻撃されており、その進軍速度は遅かった。


 円陣の北側はブラ隊が守っており、その後方には男盗賊が状況を見守っている。


 ラーネは上層に登って魔物の群れを迎撃しているが魔物の数は千を超えており、さすがの彼女も全ての魔物を倒すことは不可能でラーネを突破した魔物の群れがブラ隊に襲い掛かっていた。


 円陣の東側はリザが守っており、その後方にはビビィ隊が控えている。


 先行しているシルルンが魔物の数を大幅に減らしてはいるが、北側の次に魔物の群れが押し寄せていた。


 ここにも男盗賊が配置されて戦況を見守っている。


 円陣の西側はアキとアミラたちが守っており、西から進軍する魔物の数より、ブラたちがさばききれない魔物の数の方が多く、ここにも男盗賊が配置ている。


 円陣の南側はゼフドだけで守っており、西側、東側の討ち漏らしが押し寄せていた。


 ここにも男盗賊が配置されて戦況を見守っている。


 そして、円陣の中央ではリジルが指揮を執っており、その傍らにはメイと元娼婦たちが待機していた。


 ここにも男盗賊が待機しており、四方に放った盗賊たちと連絡を取り合っている。


 リジルは盗賊たちの情報を元に、遊撃であるラフィーネとヴァルラに指示を出していた。


 だが、西側を突破したレッサー センチピードが、メイや元娼婦たちに目掛けて襲い掛かる。


「ひ、ひぃいいいいいぃぃ!?」


 元娼婦たちは目を剥いてヒステリックな声を上げる。


 しかし、アミラが槍でレッサーセンチピードの頭を突き刺し、レッサーセンチピードは痙攣して動かなくなった。


「悪い悪い!! 倒したつもりだったんだが虫の生命力を舐めてたよ」


 頭を掻きながらアミラは決まりの悪い顔をして、西側に戻って行った。


「ううっ……こ、怖い……」


 元娼婦たちは互いに抱き合いながらガタガタと震えている。


「大丈夫です。必ずシルルン様がなんとかしてくれます」


 自信に満ちた表情のメイが元娼婦たちを優しく宥める。


 東へと進む彼女らは魔物の群れに全方位から攻撃されており、その攻撃は空や地中も含まれている。


 そのため、彼女らはいつ全滅してもおかしくない状況なのである。


 だが、魔物たちは連携が取れておらず、数の少ない魔物の群れにも襲い掛かっているので彼女らが壊滅を免れている側面もある。


「姐さん!! 東にウルフ種二十匹!!」


 声を張り上げた男盗賊が東側に駆け戻っていく。


「北にいるラフィーネさんを東に!!」


 リジルは傍に控える男盗賊に指示を出す。


「了解!!」


 男盗賊は頷いて北側に駆けていった。


 一方、リザはウルフ種の群れと戦いを繰り広げていたが、五匹ほどのウルフ種がリザを突破した。


「だいぶ討ち漏らしたわね」


 だが、マルとキュウが丸くなってウルフ種たちに体当たりを叩き込み、三匹のウルフ種が激しく吹っ飛んで地面を転がる。


「ウォーター!!」


 タマに乗ったビビィがウォーターの魔法を唱えて、水の刃がウルフ種の体を貫き、ウルフ種は血飛沫を上げて倒れた。


 タマの後ろに隠れているレッサー レザーアーマーは矢を放ち、矢はウルフ種の頭部を貫通して、ウルフ種は即死した。


 意外にもビビィが雇ったレッサー レザーアーマーは大活躍していた。


 彼は当初、木のクロスボウで魔物を攻撃していたが、木のクロスボウはボロボロですぐに壊れた。


 代わりの武器は木刀しかなく、彼は木刀で魔物を攻撃したが一撃で木刀が折れた。


 消沈した彼がとぼとぼと歩いていると彼ははっとしたような顔をした。


 レッサー レザーアーマーは「木のクロスボウが壊れたらこれを使うといいよ」というシルルンの言葉を思い出し、タマの元に走る。


 タマの背中にはミスリルクロスボウと大量の鉄の矢がくくりつけられていたのだ。


 ミスリルクロスボウを得たレッサー レザーアーマーはその正確な射撃の腕も合わさって、次々に魔物を倒していき、今ではリザも実力を認めるほどになっていた。


「どうやら、私は必要なさそうですね」


 北側から駆けつけたラフィーネは状況を確認して身を翻したのだった。

















 ラーネは間断なく押し寄せる魔物の群れを倒していたが、さらに上層から魔物の群れが出現する。


 しかも、三部隊もだ。


 数は左から順に二百、百、二百だ。


 左はラット種やフロッガー種の魔物の群れで、真ん中はスコーピオン種やセンチピード種の虫系の魔物の群れ、右はタートス種を前衛としたアリゲーター種やスネーク種の群れだ。


「フフッ……まずは右ね」


 (次いで真ん中の百を倒せばいい……左はスルーしても問題なさそうね)


 ラーネは妖艶な笑みを浮かべて右の魔物の群れに突撃して『威圧』を全開で放った。


 上位種を超えた存在の本気の『威圧』が放たれて、前衛のタートス五十匹ほどが金縛りにあったように動きを止めた。


 下位種程度の魔物なら、そのまま死んでもおかしくないほどのプレッシャーだ。


 ラーネが普段の戦闘で『威圧』を使わないのは、仲間たちの負担になるからなのは言うまでもない。


 ラーネは漆黒の包丁を一閃。


 三十匹ほどのタートスが真横に両断され、体から血飛沫を上げて即死した。


 そこにアリゲーター種の群れやスネーク種の群れが押し寄せたが唐突に身体が動かなくなり、パニックに陥った。


 彼らは呼吸もままならず、得たいの知れない恐怖心で思考が塗りつぶされて、逃げ出したいが身体はピクリとも動かなかった。


 だが、スネーク種たちは冷静に状況を観察していた。


 彼らの上位種が『威圧』を所持しているので、彼らはその効果を知っているからだ。


 しかし、この『威圧』は彼らの上位種を遥かに上回っており、スネーク種たちは動かぬ身体で辺りを必死に探っていた。


「エクスプロージョン」


 ラーネはエクスプロージョンの魔法を唱えて、光り輝く球体がスネーク種の群れに直撃し、五十匹ほどのスコーピオン種が激しい爆発に巻き込まれて消滅した。


 これを目の当たりにした魔物の群れは発狂して奇声を上げた。


 ラーネは漆黒の包丁で恐怖に震える魔物の群れを、一方的に斬り裂いて皆殺しにした。


 すると、百匹ほどの魔物の群れと二百匹ほどの魔物の群れが通り過ぎて行った。


「フフッ……逃がさないわよ」


 ラーネは獰猛な笑みを浮かべて『瞬間移動』で掻き消えた。


 スコーピオン種やセンチピード種の群れの前に現れたラーネは、漆黒の包丁で片っ端から魔物の群れを斬り裂いて、顔や体が返り血で赤く染まっていく。


「フフッ……」


 ラーネは恍惚な表情を浮かべている。


 彼女は何よりもこの体は強いと思っていた。


 ラーネはスパイダー種で最強のデス スパイダーを超えることを夢みていたが、それが叶うことはなかった。


 だが、彼女はこのまま強くなり続ければデス スパイダーを超えることも夢ではないと実感していた。


 ラーネは百匹ほどの魔物の群れを殲滅すると、さらに上層から二百ほどの魔物の群れが出現した。


「フフッフフフッ……」


 ラーネは殺戮衝動を抑えきれず、新たに出現した魔物の群れに凄まじい速さで突撃したのだった。



















 シルルンたちは魔物の群れに凄まじい速さで突っ込んで、シルルンが剣で魔物の群れを斬り裂きながら突き抜けた。


 魔物の群れには五匹ほど残っているが、彼はあえて殲滅しなかった。


 この辺りには百ほどの魔物の群れが五つほど点在しており、群れの一つ一つを殲滅していると効率が悪いからだ。


 シルルンはミスリルソードから薄い青色のミスリルの弓に持ち替えて、次の魔物の群れに目掛けて風の刃を撃ちまくって魔物の群れのボスを真っ先に狙い撃ちして倒しており、魔物の群れを混乱させてから魔物の群れに突撃することを繰り返していた。


「う~ん、こんだけ魔物が多かったら誰もこの辺には来たことないかもしれないね……」


 (それだけにこの辺の魔物を粗方倒さないと、上層から下りてくる大量の魔物に挟撃されて仲間たちとの移動は不可能だね)


 シルルンは難しそうな顔をしていたが、プルとプニに視線を向けた。


 先ほどからプルとプニが沈黙しているからだ。


 シルルンはプルたちの魔力切れを恐れており、魔力が三分の一にならないように指示を出していた。


 ここでのシルルンの基本戦術は、プルたちの魔法攻撃の後にシルルンが風の刃で数を減らして、残った敵に突撃して粗方倒すというものだ。


 シルルンはプルとプニの魔力が回復するまで遠距離から黙々と風の刃を放って魔物の数を減らしていく。


 しばらくすると、全く動かなかったプルとプニがポヨンポヨンと動き出す。


 シルルンたちは魔物の群れに突撃し、シルルンは剣で魔物の群れを斬り裂いていく。


 魔物の群れを倒したシルルンたちは、別の魔物の群れに向かって突撃する。


「エクスプロージョンデス!!」 

「エクスプロージョンデス!!」


「エクスプロージョンデシ!!」 

「エクスプロージョンデシ!!」


 プルとプニはエクスプロージョンの魔法を唱えて、四発の光り輝く球体が魔物の群れに直撃し、魔物の群れは激しい爆発に巻き込まれて吹っ飛んだ。


 シルルンは薄い青色のミスリルの弓を構えて、風の刃を撃とうとしたが撃つのをやめた。


「あれ? 魔物が全滅してる……」


 シルルンは不可解そうな顔をして『魔物解析』でプルとプニを視た。


 すると、プルのレベルが七十八、プニのレベルが七十二まで上がっており、多数の魔法と能力が増えていた。


「えっ!? 無茶苦茶レベルが上がってるじゃん……MPなんか二千を超えてるし……」


 (ここで魔物を倒しまくってたから、急激にレベルが上がったみたいだね……)


 シルルンは嬉しそうな表情を浮かべており、さらに『魔物解析』でプルとプニを視ていくと『魔力増幅』と『並列魔法』を発見した。


 『魔力増幅』は魔法の威力が二倍なる能力で、さらに時間をかけて魔力を練れば最大で三倍になる。


 『並列魔法』は二つの魔法を同時に唱えることができる能力だ。


 彼はプルとプニが動かなくなったのは魔力切れではなく、魔法や能力に目覚めていたのだろうと確信した。


「あはは、すごい能力に目覚めたね」


「よかったデス!!」


「デシデシ!!」


 シルルンは満面の笑みを浮かべながら、プルとプニの頭を撫でた。


 プルとプニは嬉しそうだ。


「はっきり言って『魔力増幅』と『並列魔法』は強過ぎるよ。百匹程度の魔物の群れなら魔法一発だからね」


 シルルンは有頂天になってシルルンたちは魔物の群れを攻撃しながら、さらに東へと疾走したのだった。

















「このまま維持できればいいけど……」


 リジルは極度の緊張に顔を強張らせながら呟いた。


 彼女の脳内は『危険察知』の警鐘が永遠に止まらず、彼女は気が狂いそうだった。


 現在、北側には二百匹ほどの魔物の群れが押し寄せており、ブラ隊とラフィーネ、ヴァルラが応戦していた。


 魔物の群れは弱い部類の魔物なのでなんとか対処できているが、北側から溢れた魔物たちが西側と東側に展開しており、彼女らは休む暇もなく戦い続けていた。


「さて、そろそろいくか……」


 ハーヴェンは東側にゆっくりと歩き出した。


「えっ、ここにいてほしかった……」


 リジルは不安そうな表情を浮かべている。


 だが、彼女はハーヴェンが東側にいくことで、東側の守りが安定するだろうと思い直した。


「西側に五十ほどの魔物が迫ってる!! それに北側からの魔物もかなり流れ込んでるから状況的にヤバイ!!」


 男盗賊は血相を変えて叫んで、西側に駆け戻って行った。


「ヴァルラさんに西側の応援を頼んだほうがいいかしら……それともラフィーネさんかしら……」


 リジルは考え込むような表情を浮かべている。


「ヤバイぜ!! 合わせて百匹ほどの魔物が近づいてきてるぜ!!」


 今度は東側の男盗賊が声を張り上げた。


「なっ!? そっちにはハーヴェンがいるでしょ!?」


「いや、来ただけでそのままどっかにいっちまったぜ。とにかく援軍を頼む!!」


 男盗賊はそう言い残して東側に駆けて行った。


「そ、そんな……ど、どうしたらいいのよ……」


 リジルは放心状態に陥った。


 彼女は北側からラフィーネとヴァルラを外せば、北側が耐えきれるのか分からなかった。


 しかし、間違えれば円陣が崩壊し、この場にいる者に死が訪れる。


「あ、姐さん……」


 リジルの傍らにいる男盗賊は、心配そうな顔でリジルを見つめていた。


 そもそも、無茶な話なのだと彼は思っていた。


 リジルは彼らのボスだったが、連合の指揮すらしたことがないからだ。


 だが、彼はリジルに指揮を任せたラフィーネの判断も正しいと歯がゆく思っていた。


「……ま、まず、ヴァルラさんを西側の応援に……そして、ラフィーネさんを東側の応援に」


 リジルは思い詰めた硬い表情で言ったが、その身体はガタガタと震えていた。


「待ってください。西側に応援を送るのであれば、ラフィーネさんにするべきだと思います」


 元娼婦たちを宥めていたメイが、唐突に発言した。


「……こ、根拠はあるの?」


 リジルは訝しげな眼差しをメイに向けた。


「言い方を変えればヴァルラさんを北側に残すべきです。なぜならば北側に押し寄せている魔物の群れはラット種やフロッガー種だそうです。であれば毒を癒すキュアの魔法を所持しているヴァルラさんが適任です」


「えっ!? キ、キュア!?」


 リジルは驚きのあまりに血相を変える。


 彼女は誰がどんな魔法や能力を所持しているか知らなかった。


 しかし、メイが手帳を片手に職業や能力や魔法、どういう経緯で仲間や奴隷になったのかを話せる範囲で教えてほしいと仲間たちに聞いて回っていたのを彼女は思い出した。


「東側はどうするの?」


 リジルは探るような眼差しをメイに向けた。


「東側はシルルン様がお戻りになられるので問題ありません」


「なっ!?」


 リジルたちは面食らったような顔をした。


 彼女らは東側に視線を向けたが、シルルンの姿は全く見えなかった。


「ほ、本当にボスは戻ってくるの?」


 リジルは戸惑うような表情を浮かべている。


「必ずお戻りになられます」


 メイは自信に満ちた表情で言った。


「だったらあなたに任せるわ……」


 (この状況で全く動じていないのはすごいわね……)


 リジルは複雑そうな顔をした。


 メイはすぐに指示を出し、ヴァルラが北側に残り、西側にはラフィーネを応援に出し、東側はシルルンの帰りを待つ。


 彼女は『統率』の上位の能力である『指揮』を所持しており、その片鱗が垣間みえる一幕だった。




















 シルルンたちは急いで仲間たちの元に戻っていた。


 調子に乗ったシルルンが『魔力増幅』と『並列魔法』を試しまくっていたせいで、仲間たちから離れすぎたからだ。


 だが、そのおかげで『魔力増幅』と『並列魔法』を使った魔法の一撃で、二百匹ほどの魔物を倒せることが確認できた。


 これは最早、戦術級の威力だ。


 さらに『魔力増幅』は、三倍の威力に達するには三十秒ほどの時間が掛かることも分かったのだ。


 戦闘において、この三十秒が早いのか遅いのかは微妙なところだとシルルンは思っていた。


 シルルンは『魔物探知』で前方の魔物の数を探る。


 本来、『魔物察知』や『魔物探知』は自身を中心に円形の範囲でしか探れない。


 しかし、彼は円形を直線的に伸ばして、仲間たちのところまでの魔物の数を探っていた。


 これはシルルンが魔物使いで感覚的なことが得意であり、『集中』を所持しているからに他ならない。


 『集中』は弓を使う職業の能力だと思われているが、彼は無意識に『魔物探知』と『集中』を合わせて使用することでこれを可能にしていた。


「ひぃいいいいぃ!! や、やばいっ!! 効率なんか考えないで殲滅しとけば良かったよ」


 シルルンは前方を『魔物探知』で探り終えて顔を強張らせた。


 百匹ほどの魔物の群れが仲間たちに向かって進軍しており、この魔物の群れは彼が倒さなかった魔物の生き残りだった。


 シルルンたちは凄まじい速さで突き進んでいたが、シルルンの『危険探知』が警鐘を鳴らし、シルルンは咄嗟に剣で攻撃を受け止めたがあまりの威力に弾け飛んだ。


「ぬぅ!? 主君!?」


 ブラックは慌ててシルルンの元に駆けつけて、シルルンは空中で体勢を立て直してブラックの頭に乗った。


「あぁ!? 人族かよ!!」


 ハイ タイガーは忌々しそうに言った。


 しかも、数は三匹だ。


「ひぃいいいぃ!? ま、また出たよ!?」


 シルルンは雷に打たれたように顔色を変える。


 彼がこの様な事態を招いた原因は北側にはハイ タイガーの縄張りがないという思い込みと、『魔物探知』と『集中』で前方を探って『危険探知』が疎かになっていたからだ。


「さっきから、うるせぇ音を出してるのはお前らがやってたのか!?」


「……」


 (たぶん、プルとプニの魔法攻撃のことを言ってるんだろうね……)


 シルルンはむっとしたような顔をした。


 彼はハイ タイガーたちから逃げることは可能だと考えていた。


 だが、彼が仲間たちの元に逃げれば、ハイ タイガーたちが追ってきて仲間たちを危険に晒す。


 だからといって彼が別のところに逃げたり、ハイ タイガーたちと戦っても百匹ほどの魔物の群れは円陣に到達し、仲間たちは無事では済まない。


 シルルンは激しいジレンマに襲われるが、長考する時間すらなかった。


「何よりも優先すべきは仲間たちの命だよ……だから絶対に仲間は見捨てない!!」


 シルルンは意を決したような面持ちで叫んだ。


 彼はこれまでの弱い自分と断固たる決意がせめぎ合い、相反する思考がシルルンの脳をスパークさせた。


 すると、シルルンは暗闇の中に立っていた。


 この感覚を彼は知っている。

 

「ていうか、またかよ……」


 シルルンは何も見えない暗闇の中で感覚だけが研ぎ澄まされて「よくぞたどり着いたと……」と懐かしい声が聞こえたような気がした。


 その言葉に、彼は父親の言葉を思い出した。


「シルルンよ、逃げるのは悪くはない。だが、お前に本当に守りたいもの、それは意思でも人でも何でもいい。それができたときにお前はそれを守れるのか?」


 彼はその問いかけの意味が解ったような気がした。


 シルルンは幼いときから基本的にヘタレという性格な上に、やる気の値が三という絶望的な状況から抗い続けてきたのだ。


 それが、報われるときがきたのだ。


 シルルンは点いてない蝋燭に突然、火が点いたような感覚に襲われ、渦巻く激しい青い炎に体を一瞬で焼き尽くされてシルルンの体は新生させる。


 そして、シルルンは我に返る。


「時間は掛けられない……一瞬で片を付けるよ」


「――ぬうっ!?」


 ブラックは雷に打たれたように顔色を変える。


 彼が顔色を変えたのはシルルンの言葉にではなく、シルルンから迸る圧倒的な気配と自分の体の変化にだ。


 ブラックはシルルンにダークネスの魔法を唱えるつもりだったが、最早その必要はないと口角に笑みが浮かんだ。


 プルとプニも自身の体の変化に気づいており、シルルンをじーっと見つめている。


「フハハ!! さすがは我が主君。心昂ぶりますなぁ」


「ぶちのめすデス!!」


「デシデシ!!」


 ブラックは不敵な笑みを浮かべており、プルとプニも戦闘態勢に入る。


「おいおい、こいつらやる気だぜ?」


 片目のハイ タイガーは人を馬鹿にしたような薄笑いを浮かべた。


「あぁ!? こいつらやる気がぎょ……」


「おい!! 何言ってんだ。ちゃんと話せ」


 片目のハイ タイガーは顔を顰めた。


 しかし、ハイ タイガーの首がズレ落ちて胴体から大量の血を噴出し、ハイ タイガーは即死した。


「なっ!?」


 ハイ タイガーたちは驚きのあまりに血相を変える。


「サンダーデス!!」


 プルはサンダーの魔法を唱えて、巨大な稲妻がハイ タイガーに直撃し、黒焦げになったハイ タイガーは身体が麻痺して棒立ちだ。


「ウインドデシ!!」


 プニはウインドの魔法を唱え、巨大な風の刃がハイ タイガーの身体を貫き、ハイ タイガーは体が縦に二つに裂けて血飛沫を上げて即死した。


「ば、馬鹿なっ!? 何がどうなってんだ!?」


 片目のハイ タイガーの顔が驚愕に染まる。


 だが、彼の言葉はそれが最後になった。


 片目のハイ タイガーはすでに、首がズレ落ちて即死しているからだ。


「フハハハ!! 最早、お前らなど相手にならぬわ!!」


「やったデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニは大喜びしてシルルンの肩の上で、ピョンピョンと跳ねている。


 シルルンが目覚めた能力は、統率系、最上位の一角とされる『反逆』という超激レア能力だ。


 同列に『覇王』や『鬼神』がある。


 『反逆』は全てのステータスが二倍になる能力だ。


 つまり、『反逆』を発動すると攻撃力、守備力、素早さ、魔法、能力が二倍になり、武具や魔導具などの効果も二倍になる。


 『反逆』は統率系の能力なので、能力者が『反逆』を発動時、同じ効果を他者に与えることができるのだ。


 さらに『反逆』の特異なところは魔法や能力の攻撃を受けると耐性がついたり、奪ったりすることがあるのだ。


 これは、同列の『覇王』や『鬼神』にはない『反逆』だけの特性なのだ。


「じゃあ、仲間たちのところまで一気に駆け抜けるよ」


 シルルンたちは閃光になり、一瞬で消え去ったのだった。 


















 この戦いの一部始終を見ていた者がいた。


 ハーヴェンである。


 彼は『気配察知』でエリアを探ると、東の方角にハイ タイガーを捉えた。


 ハーヴェンは東に移動し、ハイ タイガーたちがバラけるのを待っていた。


 すると、そこにシルルンたちが現れて、ハイ タイガーたちと対峙した。


 彼はシルルンたちに加勢するつもりだったが、勝負は呆気なく決着した。


 ハーヴェンにはシルルンが何をしたのか全く分からなかった。


 シルルンは『袋斬り』を放っただけだが、『反逆』の効果でブラックの素早さが格段に上がっており、最早ハーヴェンにすら視認できないレベルに達していた。


「……この少しの間に奴の身に何があったというのか?」


 ハーヴェンは考え込むような表情を浮かべていたが、身を翻してシルルンたちがいる方へとゆっくりと歩き出した。


「くく、これだから人族は厄介なんだ……」


 ハーヴェンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるのだった。

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プル スライムメイジ レベル78 全長約20センチ

HP 770

MP 2600

攻撃力 100

守備力 120

素早さ 150

魔法 ファイヤ ファイヤボール サンダー エクスプロージョン アンチマジック マジックリフレクト マジックドレイン ポイズン ナイトビジョン ヒール スロー デス

能力 捕食 統率 HP回復 MP回復 ビリビリ 魔法耐性 浮遊 触手 火のブレス 連続魔法 毒耐性 魔力増幅 物理耐性 能力軽減 並列魔法



プニ スライムメイジ レベル76 全長約20センチ

HP 880

MP 2500

攻撃力 150

守備力 130

素早さ 160

魔法 ヒール キュア ファテーグ パラライズ シールド マジック シールド ブリザー エクスプロージョン マジックドレイン ウォーター ライト ウインド ホーリー ディスペル ターンアンデット

能力 捕食 統率 HP回復 MP回復 魔法耐性 浮遊 触手 瞑想 水のブレス 連続魔法 魔力増幅 物理耐性 能力軽減 並列魔法


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