63 ハイ スコーピオン
シルルンとラーネは険しい山道の前に出現した。
「……あんな場所には二度と行きたくないよ」
シルルンは恐怖に怯えたような表情で呟いた。
シルルンたちは最初に登った地点から遠く離れた場所まで移動して、そこから山道を登り始めた。
このルートは傾斜がきつく、鬱蒼と木が生い茂っているが魔物の数は少なく、遭遇する魔物はラット種やフロッガー種などの弱い魔物なのでシルルンたちは難なく登っていく。
シルルンたちは平地に辿り着くと休憩を取って再び山道を登ることを繰り返していた。
三度目の平地に辿り着いたシルルンたちは、休憩の準備に取り掛かる。
すると、シルルンたちに向かってリジルが猛然と駆けてきた。
「前衛がスコーピオン種と交戦中!! 数は二百匹を超えてます!!」
リジルは声を張り上げた。
「えぇ~~~っ!? マジで!? ブラたちだけじゃ対処できない数だよ……」
シルルンは顔を強張らせた。
「シルルン!! 私たちが加勢に行くわ!!」
後衛のリザたちが駆け出した。
ブラたちは巨大な岩を背にして、スコーピオン種の群れと戦いを繰り広げていた。
だが、ブラたちは半包囲されて囲まれており、さらに周辺からスコーピオン種の群れが押し寄せていたが、その側面にリザたちが突撃した。
スコーピオン種の群れは反転して、リザたちに襲い掛かる。
「分散させるわよ!!」
リザは指示を出し、ゼフドたちはスコーピオン種を引きつけながら散開した。
「行くデス!!」
プルはシルルンの肩からピョンと跳び下りて、ブラックの頭の上に着地した。
「フハハッ!! 参る!!」
プルを頭にのせたブラックは、凄まじい速さで駆けていった。
シルルンは視線をプニに向けたが、プニは動く気配がなかった。
プルたちはブラたちを半包囲しているスコーピオン種の群れの背後に回り込んだ。
「エクスプロージョンデス!!」
プルはエクスプロージョンの魔法を唱えて、光り輝く球体がスコーピオン種の群れに直撃し、十匹ほどのスコーピオン種が激しい爆発で吹っ飛んだ。
「アース!!」
ブラックはアースの魔法を唱えて、無数の岩や石がスコーピオン種の群れに直撃し、五匹ほどのスコーピオン種がズタボロになって動かなくなった。
だが、スコーピオン種の群れの半数ほどが反転してプルたちに襲い掛かり、プルたちは後退した。
「ファイヤデス!!」
プルはファイヤの魔法を唱えて、灼熱の炎に身体を焼かれた十匹ほどのスコーピオン種たちは炭になって崩れ去ったが、スコーピオン種の群れは平然とプルたちに向かって突撃した。
ブラックは凄まじい速さで縦横無尽に駆け回り、スコーピオン種の群れを引きつけながら翻弄しているが、ブラックのあまりの速さに頭に乗っているプルが吹っ飛んだ。
「チッ!!」
ブラックは即座にプルの元に駆けるが、プルは『浮遊』で空高く上がっていく。
プルはゆっくりと空を移動し、ブラたちが戦っている頭上で停止した。
「ファイヤデス!!」
「ファイヤデス!!」
「ファイヤデス!!」
プルはファイヤの魔法を連続で唱えて、灼熱の炎に焼かれたスコーピオン種たちは奇声を上げてのたうち回る。
だが、スコーピオンはポイズンの魔法を唱えて、緑色の風がプルに襲い掛かる。
プルは右に移動したが、その動きは激しく遅く緑色の風がプルの身体を突き抜けた。
しかし、プルには効かなかった。
彼は『魔法耐性』を所持しており、魔法攻撃を六十パーセントの確率で無効にできるのだ。
プルは再びファイヤの魔法を連発し、スコーピオン種の群れは焼き殺されていく。
「す、すごい……一方的です……」
ブラの顔が驚愕に染まる。
「……ほう、やりおるわ!!」
ブラックは不敵に笑った。
現時点で四分の一ほどのスコーピオン種を倒しているが、ブラたちの前には五十匹ほどのスコーピオン種がいて、残りはリザたちとブラックが引きつけていた。
「う~ん……放っておいても大丈夫そうだね」
シルルンは薄い青色のミスリルの弓で狙いを定めて風の刃を連発し、無数の風の刃が接近するスコーピオン種たちの身体を貫いて、十匹ほどのスコーピオン種が血飛沫を上げて即死した。
ブラたちは確実にスコーピオン種たちを倒していた。
だが、スコーピオン種たちを押しのけて、巨大な魔物が姿を現した。
「な、なんだあの大きさは!?」
「あ、あれはやばいわよ……」
重戦士たちは驚きのあまりに血相を変える。
上位種であるハイ スコーピオンが現れたのだ。
ハイ スコーピオンの全長は六メートルを超える巨体なのだ。
「サンダーデス!!」
「サンダーデス!!」
プルはサンダーの魔法を連続で唱え、二発の稲妻がハイ スコーピオンに直撃するが効果がなかった。
「ひぃいいぃ!? で、でか過ぎる……しかも、『魔法耐性』と『雷耐性』を持ってるよ」
シルルンは『魔物解析』でハイ スコーピオンを視て、雷に打たれたように顔色を変える。
ハイ スコーピオンは突撃して巨大な鋏をなぎ払い、巨大な鋏が直撃した重戦士たちは弾け飛んだ。
「ぎゃあああぁぁあああああぁぁ!!」
重戦士たちは巨大な岩に叩きつけられ、盾は拉げていた。
ハイ スコーピオンは『剛力』を所持しており、その攻撃力は千二百を超えていた。
ブラたち剣豪が一斉にハイ スコーピオンに突撃して『斬撃』を放ち、風を纏った剣を振るうがハイ スコーピオンは巨大な鋏で弾き返して、尾の一撃を振るった。
「サンダーデス!!」
「サンダーデス!!」
プルはサンダーの魔法を連続で唱え、二発の稲妻がハイ スコーピオンに直撃し、ハイ スコーピオンは一瞬だが動きが鈍り、ブラたちは尾の一撃を紙一重で躱した。
「あ、危なかったです……」
ブラは顔を強張らせて固唾を呑んだ。
「サンダーデス!!」
「サンダーデス!!」
プルはサンダーの魔法を連続で唱え、二発の稲妻がハイ スコーピオンに直撃するが効果がなかった。
彼がサンダーの魔法を多用するのは、シルルンに強い敵にはサンダーの魔法を連発しろと教わっているからだ。
だが、ハイ スコーピオンは『魔法耐性』と『雷耐性』を所持しているので、この場合は能力攻撃が有効なのだが、そんなことはプルは知らないのだ。
不快そうな表情を浮かべたハイ スコーピオンは『毒のブレス』を放ち、緑色の霧がプルに襲い掛かる。
プルは左に移動したが動きは激しく遅く、緑色の霧がプルに直撃した。
「痛いデス! 痛いデス!!」
プルは声と表情を強張らせて上空へと逃走し、全身から体液が激しく噴出した。
彼は生まれて初めて受けたダメージが強力な出血毒で、激痛と恐怖でパニックに陥っていた。
ハイ スコーピオンの毒レベルは高く、十秒ほどで全身の体液がなくなって絶命するのだ。
「ヒールデス!!」
「ヒールデス!!」
「ヒールデス!!」
プルはヒールの魔法を唱えながら、シルルンの元に向かう。
彼はキュアの魔法を所持していないので、代わりにヒールの魔法で体力を回復させているが『浮遊』は移動が遅く、彼の意識は薄れていく。
「……マ、マスター、い、痛いデス……た、助けて……」
プルは意識を喪失して墜落した。
「ひぃいいぃ!? プル!!」
シルルンは顔面蒼白になり、思念で「プルを助けて」とラーネに指示を出し、それと同時にハイ スコーピオンに目掛けて走り出した。
ラーネは『瞬間移動』でプルの傍に出現し、プルを抱きかかえた。
「キュア!!」
「ヒール!!」
ラーネはキュアの魔法とヒールの魔法を唱えて、プルの毒が浄化され体力も全快するが意識は失ったままだ。
「主君!!」
ブラックは怒りの形相で駆けるシルルンに併走し、シルルンはブラックに跳び乗った。
ハイ スコーピオンは巨大な鋏を倒れている重戦士たちに振り下ろすが、格闘家たちが庇うように重戦士たちの前に立った。
「……させるかよ!!」
シルルンは薄い青色のミスリルの弓で狙いを定めて風の刃を連発し、無数の風の刃がハイ スコーピオンの巨大な鋏に直撃して巨大な鋏は破壊された。
「えっ!?」
格闘家たちは面食らったような顔をした。
「ブラック!!」
シルルンは憤怒の形相で叫んだ。
ハイ スコーピオンは凄まじい速さで突っ込んでくるシルルンたちへと向きを変えて、シルルンたちに目がけて凄まじい速さで突撃した。
「フハハ!! スピード!!」
ブラックはスピードの魔法を唱えて、赤い風がブラックの体を突き抜けてブラックの素早さが二倍に跳ね上がる。
「がぁああああああああああぁ!!」
シルルンたちは閃光になり、ハイ スコーピオンと交差して突き抜けた。
シルルンはゆっくりと振り返ったが、ハイ スコーピオンはピクリとも動かない。
ハイ スコーピオンの体は横にズレ落ちて、真横に体を斬り裂かれて血を噴出させて即死した。
閃光になったシルルンはハイ スコーピオンと交差する瞬間に魔法の袋からアダマンソードを取り出し、ハイ スコーピオンを斬り裂いたのだ。
シルルンは素早くアダマンソードを魔法の袋にしまい、彼はこの技の名前を『袋斬り』と名付けた。
要するに魔法の袋を剣の鞘にみたてた居合い斬りのような技だが、技の名前がカッコ悪すぎるのでシルルンは誰にも言っていなかった。
「す、すごい……」
「全く歯が立たなかったあのハイ スコーピオンをたったの一撃で仕留めた……」
ブラたちは信じられないといったような表情を浮かべている。
スコーピオン種の群れは、ハイ スコーピオンが死んだと同時に四散したのだった。
シルルンはすぐにプルの元へと走り、プルを抱いているラーネもシルルンの元に向かっており、シルルンとラーネは合流した。
「プルは!?」
シルルンは不安そうな表情を浮かべている。
「フフッ……大丈夫よ」
「ありがとう!!」
シルルンは安堵したように表情を緩めてプルを抱きかかえて『魔物解析』でプルを視た。
すると、状態異常もなく体力も回復しており、失神しているだけだった。
シルルンたちはブラたちのところまで移動した。
すると、重戦士たちが倒れており、瀕死の重症だった。
「重戦士たちをヒールで回復して」
シルルンはプニに指示を出し、プニは肩から跳び下りてピョンピョンと跳ねていき、重戦士たちにヒールの魔法を順番に唱えて、重戦士たちの体力が全快する。
「あ、ありがとう!!」
重戦士たちは起き上がってプニに頭を下げた。
プニがシルルンの肩に戻って、シルルンはプニの頭を撫でた。
プニは嬉しそうだ。
「フフッ……盾が拉げているじゃない」
ラーネは重戦士たちの分厚い盾を手にとって元の形に戻した。
「……」
(ヤバイ……なんて力だ……逆らったら殺される……)
重戦士たちは身体を強張らせて固唾を呑んだ。
そこに、リザたちや本体のメイたちが歩いてきた。
「うわっ!? 何これ!? あんたたちがやったの!?」
ハイ スコーピオンの死体を見たリザは視線をブラたちに向けて呆れたような顔をした。
「……なるほど、ボスを倒したからスコーピオン種の群れが去っていったのですね」
メイは納得したような顔をした。
「いえ、私たちの攻撃は弾かれて何もできませんでした」
ブラはバツが悪そうに視線をそらした。
「……ラーネがやったのね」
リザが畏怖をもって呟いた。
「いえ、マスターが倒されました」
「えっ!?」
リザたちは放心したような表情を晒していた。
「フフッ……本当よ。私はプルを助けただけだから」
「えっ!? プルちゃんがどうかしたんですか!?」
ラフィーネは驚きのあまり血相を変える。
「ハイ スコーピオンに『毒のブレス』をくらって死にかけたのよ」
「そ、そんなっ!? だ、大丈夫なんですか!?」
ラフィーネは泣きそうな表情で訴えた。
「危なかったけど、今は意識を失ってるだけで大丈夫よ」
「そ、そうなんですね……」
ラフィーネはシルルンに抱かれているプルを見つめて、瞳に安堵の色を滲ませた。
だが、それと同時にスコーピオン種がラフィーネのブラックリストに載った。
スコーピオン種の死体はブラックとプニが全て『捕食』し、数時間後にプルの意識が回復した。
シルルンたちは休憩を済ませて、先に進もうとした時だった。
空から巨大な魔物が飛来し、周辺は大規模な砂煙に包まれた。
砂煙が薄れると、そこには漆黒の巨大過ぎる魔物の姿があった。
「……ド、ドラゴン!?」
仲間たちは驚きのあまりに血相を変える。
シルルンは『魔物解析』でドラゴンを視た。
「ひぃいいいいぃ!? ダーク ドラゴン!?」
(やべぇ……デス スパイダーすら話にならないステータスだよ……)
シルルンは放心状態に陥った。
ラーネは身体を強張らせて固唾を呑んだ。
彼女は大穴でアース ドラゴンに遭遇した時、最強の竜種とはこの程度のものかと嘲笑した。
だが、目の前のドラゴンは化け物でラーネは戦慄を覚えていた。
「わはははっ!! 何だこんなところに人がいたのかよ!?」
その言葉に、シルルンたちは面食らったような顔をした。
すると、ダーク ドラゴンの背中から人が下りてきて、シルルンたちの前まで歩いてきた。
「わはは、ビビッただろ? 俺の名はルーク。大魔物使いだ。そんで、こいつはネーゼイラ」
「なっ!?」
シルルンたちはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
ドラゴンテイマーは極めて数が少なく、メローズン王国内でも一人もいないからだ。
「僕ちゃんはシルルン。大魔物使いってなに?」
「わはは、大魔物使いってのは魔物使いの最上位職のことだ」
「マジで!? 魔物使いに最上位職があったんだ!?」
シルルンは瞳を輝かせた。
「おおよ。だが、簡単じゃねぇけどな」
「条件厳しいの?」
「【白龍の閃き】ってアイテムか『限界突破』っていう能力のどっちかが必要な上に、魔物使いのレベル九九が条件でそこから先は資質次第だ」
「えぇ~~~~っ!? マジで!? そんなの無理じゃん……」
シルルンはしょんぼりした。
彼は自分のレベルが二十程度だと思っているが、実際はすでにレベル九九で、しかも、合計経験値はレベル九九の三周分に達していた。
その理由は、シルルンのペットたちの親愛度が異常に高いため、ペットたちが魔物を倒した経験値もシルルンに加算されているからだ。
つまり、プルが魔物を倒した経験値が百だとすると、シルルンにも同額の百が加算されているのだが、そんなことはシルルンは知らない。
「わはは、当たり前だ!! そんな簡単になれる訳ないだろ。 ……んんっ? お前、肩に乗ってるのスライムじゃねぇか!?」
「えっ!? そうだよ。僕ちゃんスライムテイマーなんだよ」
シルルンはフフ~ンと胸を張る。
「両肩に二匹のスライムに黒いロパロパ……」
ルークは軽く眉を顰めた。
仲間たちは羨望の眼差しをシルルンに向けた。
彼らは【ダブルスライム】の二つ名が国外まで届いていると思ったからだ。
「お前、プヨ系と相性がいいみたいだな。プヨプヨしたやつしかテイムできないんだろ?」
その言葉に、仲間たちは一斉にガクっなった。
「ううん、僕ちゃん、他にもテイムはできるよ」
シルルンは思念でタマたちを自身の前まで呼び寄せて、タマたちがシルルンの前に並んだ。
「おおっ!? マジかよ!? ロパロパがテイムできる時点でおかしいのに他もできるってお前は面白いな……」
「ルークはドラゴンしかテイムできないの?」
「わはは、そんなわけないだろ! そもそも俺がここに来たわけはスコーピオン種をテイムしにきたからだ。この辺にハイ スコーピオンがいなかったか?」
「……」
シルルンたちは気まずそうな顔をした。
「わはは、わりぃわりぃ!! いたとしたらお前ら死んでるわな」
「……ハイ スコーピオンは僕ちゃんが倒して、死体はプニとブラックが食べちゃったよ」
「なっ!? マジでか!?」
(最弱のスライムテイマーがどうやって倒したんだ?)
ルークは不可解そうな表情を浮かべている。
「ダーク ドラゴンがいるのにハイ スコーピオンなんかいるの?」
「わはは、俺はハイブリッドや合成をやってんだ」
「ハイブリッドってなんなの?」
「要するに異種交配だな。別種をつくるのがハイブリッドだ」
「そんなことができるんだ!?」
シルルンの顔がぱーっと明るくなり、ラーネも目を細めた。
「おうよ。俺はハイ スコーピオンとレッサー ジャイアント スパイダーを交配させようと思ってたんだ。体の仕組みは似てるからな。うまくいけば別種が生まれる」
「マ、マジで!?」
「あぁ、マジだ。だが、だいたいの個体は生殖機能を持たず生まれてくるのがほとんどだ。つまり、一代限りだ。それにだ、異種交配は一組試しただけじゃ、分からんのが現実だ。まぁ、十組ぐらい試して、さらにオス、メスが逆でも結果が変わるときもある」
「そ、そうなんだ……」
シルルンはめんどくさそうな顔をした。
「だが、もし成功したら爆発的に強くなる場合もある」
「えっ!? マジで!?」
「マジだ。それが楽しみでやっているようなもんだからな」
ルークは屈託のない笑みを浮かべた。
「でも、激しく弱くなる場合もあるんでしょ?」
「わはは、そりゃ当然ある。だから俺はそうゆう個体は合成するんだよ」
「合成ってなに?」
「『合成』は、アイテムとアイテムを合わせて違うアイテムを作るのが『合成』って能力なんだが、俺がもってるのは『魔物合成』っていう能力だ」
「えっ!? それって、もしかして……」
「そうだ。魔物と魔物を一匹に合わせちまう能力だ」
「ええ~~~~~~~っ!! マジで!?」
シルルンは雷に打たれたように顔色を変える。
「わはは、まぁ、俺はハイブリッド種が生まれた場合、弱くても生殖機能があれば『魔物合成』はしないでそのまま育てる。生殖機能があればそいつは弱くても子供は強くなるかもしれないからな」
「『魔物合成』って簡単にできるの?」
「テイムみたいなもんだ。魔物が弱ければ簡単だが強ければ『魔物合成』自体が失敗する可能性もある。成功してもその魔物が暴走して襲われることもある」
「えぇ!? ダメじゃん」
「それにだ、ハイブリッドと違ってどういう個体が生まれるか予想がつかないのが『魔物合成』だ。ハイブリッドは交配させる魔物が決まっていたら、生まれてくる子供の姿はだいたい似たようなもんだが『魔物合成』は全く予想がつかん」
「『魔物合成』された魔物は意識が二つあるの?」
シルルンは怪訝な顔をした。
「いい質問だ。俺が知るかぎり、統合される場合がほとんどだ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「『魔物合成』は魔物と魔物を合わせるのが基本だが、魔物とアイテムを合わせることも『魔物合成』では可能だ」
「えぇ!? どうなるの!?」
「俺はレッサー ラットに片手で持てる鉄を合成してみたんだ。すると、レッサー ラットの歯や爪が鉄になったんだ」
「ええ~~~~~っ!! マジで!?」
シルルンはびっくりして目が丸くなる。
「それでだ、俺は別のレッサー ラットに二メートルほどの鉄の塊を合成してみたんだ。どうなったと思う?」
「ん~、全身が鉄で覆われたレッサー ラットになったと思う」
「わはは、そう思うだろう!? だが、結果はたまに動く二メートルほどの鉄の山になった」
「えぇ!? マジで!?」
「わはは、それが『魔物合成』だ。結局は魔物の強さとアイテムの量や相性で組み合わせは無限だから、どうなるか全く解らん。ちなみに『魔物合成』は、大魔物使いになれば目覚める能力だぞ」
「そ、そうなんだ……」
シルルンは考え込むような顔をした。
彼はタマたちにミスリルを合成したら、ミスリルのピルパグになるかもしれないとほくそ笑んだが、失敗したときのことを考えて顔を顰めた。
すると、上空から何かが飛んできて、ルークの胸に飛び込んだ。
それは、小さな黒いドラゴンだった。
「わはは、ここまで飛んできたのか。危険だから待っておけと言ったのにな」
ルークは呆れたような表情を浮かべている。
「ねぇ? その黒いドラゴンはネーゼイラの子供だよね?」
「わはは、そう思うだろ。だが、違う。そもそも、ネーゼイラとこいつは生まれた時期は同じだからな」
「えっ!? マジで!?」
「同じダーク ドラゴン種だが、なんでか小さいままなんだ。こいつの名前はバメラってんだ。可愛いだろ?」
「うん、でも、そのサイズじゃ弱いんでしょ?」
「わはは、まぁな。けど、竜種に違いはない。テイムできたら譲ってやってもいいけどな」
「えっ!? マジで!? 僕ちゃん本気だすよ?」
「おうよ、やってみろ」
ルークはバメラを地面に下ろして離れて、シルルンは意を決したような表情を浮かべた。
「えい、やー!!」
シルルンは表情を強張らせて全力で『集中』に力を込めて紫色の球体を作り出し、バメラに叩き込んだ。
「なっ!? 紫の球体包囲型だと!?」
ルークは驚きの表情を見せた。
紫色の結界に閉じ込められたバメラは、炎のブレスを吐いた。
だが、炎のブレスは結界に吸収されて結界が強化され、バメラの魔力を激しく吸収している。
訝しげな顔のルークは『魔物解析』でバメラを視た。
すると、バメラは陥落寸前だった。
「ありえねぇ!? こいつ……スライムテイマーな上にドラゴンテイマーなのかよ!?」
ルークの顔が驚愕に染まる。
「あらよっと!!」
ルークは紫の球体を作り出し、シルルンの紫の結界の上から、紫の球体を被せた。
すると、シルルンの紫の結界が吸収され、残った紫の結界も消えてバメラだけが残った。
「ちょ!? な、何してくれてんの!?」
シルルンは怒りの形相で叫んだ。
「わはは、わりぃわりぃ。まさか、スライムテイマーのお前が、ドラゴンテイムに成功するとは微塵も思ってなかったんだよ、許せ」
ルークは申し訳なさそうな表情を浮かべており、シルルンはルークをジト目で見つめる。
「わはは、代わりに俺のペットをやるからそれで勘弁してくれ」
「……何をくれるの?」
シルルンは不審げな表情を浮かべている。
「わはは、何がほしい。とりあえず、言ってみろ。俺のペットたちを近くの山に連れてきていてな、そこで訓練させてるんだ」
「う~ん……ビートル種がほしいんだけどいるかな?」
シルルンは探るような眼差しをルークに向けた。
彼はクラリドが連れていたビートルを見て欲しいと思っていた。
ビートル種は外見もカッコ良く、強くて硬くて魔法も使えて空も飛べるからだ。
「わはは、ビートルか……ビートルは連れてきていない。だが、スタッグ ビートル(クワガタムシの魔物)なら連れてきている」
「えっ!? スタッグ ビートルでも全然いいよ」
シルルンは嬉しそうな顔をした。
両者の強さは拮抗していて、むしろ、スタッグ ビートル種のほうがビートル種よりも希少なのだ。
「だが、俺が連れてるスタッグ ビートルは上位種だ。まぁ、お前次第だが『譲渡』できなくても俺は責任もたないぜ?」
「うん!! それでいいよ」
シルルンは自信に満ちた表情で言った。
「じゃあ、ちょっと待ってろ。今から呼ぶから」
ルークは思念でスタッグ ビートルを呼び寄せた。
しばらくすると、凄まじい速さで魔物が飛んで来た。
シルルンは期待に満ちた表情を浮かべており、空から魔物がルークの前に下り立った。
だが、ハサミが短かかった。
「……って、オイッ!! メスじゃねぇかコラッ!!」
シルルンは激しい怒声を浴びせた。
「わはは、メスは嫌なのか? メスのほうが希少なんだぞ?」
「ちょっとは考えろよ!! 普通、カブトやクワガタはオスなんだよ!!」
シルルンは憤怒の形相で叫んだ。
「わはは、そんなに怒るなよ」
「絶対、わざとだろ。もういいよ、皆、そろそろ行くよ」
シルルンは吐き捨てるように言って踵を返した。
「わはは、代わりにスライムの情報を教えてやるよ」
その言葉を聞いたシルルンは、ピタッと足を止める。
「どんな情報?」
シルルンは訝しげな目をルークに向ける。
「珍しいスライムの情報だ。確かスライム アクアって名前だったと思う」
「えっ!? マジで!? アクアって水のスライムなの!?」
シルルンは驚いたような顔をした。
「水みたいな透明なスライムだった。俺はスライム適性がないから見送ったんだが、お前ならテイムできるかもな」
「ど、どこにいたの?」
シルルンは興奮気味に尋ねた。
「そうだな……確かここから東に行ったところの上層にいたはずだ」
「マジで!? ちょうど今から東に行くとこだったんだよ。上層に登る予定はなかったけど行けそうなら登ってみるよ」
シルルンはこぼれるような笑みを浮かべた。
「わはは、死ぬなよ。じゃあな!!」
ルークはそう言い残し、ネーゼイラの背に乗って飛び立っていったのだった。
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ハイ スコーピオン レベル1 全長約6メートル(尾の長さを含めると12メートル)
HP 1600~
MP 300
攻撃力 600+剛力=1200
守備力 450+堅守=675
素早さ250
魔法 ポイズン
能力 統率 毒牙 毒針 剛力 堅守 毒のブレス 魔法耐性 雷耐性
ダーク ドラゴン レベル1 全長約20メートル
HP 20000~
MP 8000
攻撃力 8500
守備力 6500
素早さ 5500
魔法 ファイヤボール スリープ エクスプロージョン アンチマジック
ダークネス ドレイン ポイズン デス
能力 炎のブレス 威圧 剛力 痺れのブレス 幻惑 咆哮 幻覚 統率
物理耐性 魔法耐性 能力耐性 闇吸収 毒無効
 




