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4 困惑 修


 動物使い科の三年生の生徒数は現在百名ほどだが、入学当初は千名ほど在籍していた。

 

 だが、三年も経たずに十分の一まで生徒数が減少している事実からして、甘い考えで彼らが進路を選択したといわざるを得ない。


 現在、在籍している百名ほどの生徒たちは、最初から畜産業を営むつもりで学んでいた者たちと言えるだろう。


 学園では馬を筆頭に多数の動物が飼育されているので、本気で取り組めば様々な技術を身につけるのは難しくはない。


 そのため、彼らは個人で馬を所有し、馬を交配させて良馬を生産し、販売することを学園も認めているのだ。


 つまり、彼らが卒業する頃には稼げる技術を習得しているということになる。


 だが、動物使い科を去った生徒たちの大半は、最終的には上級職である【魔物使い】として冒険者になることを夢見ていた。


 彼らはまず、下級職である【動物使い】に就くために猛獣の捕獲を思案する。


 猛獣は森に生息していることがほとんどだが、同時に魔物も徘徊しているので、彼らだけでは魔物を倒すことは不可能だ。


 これにより、彼らは森を探索するために戦士科と交渉することになる。


 交渉材料は、調教された馬を貸し出すことだ。


 戦士科では馬に騎乗して走らせる訓練もあり、よく調教された馬は良い交渉材料になり、騎兵を志望する者にはなおさらだ。


 ここで彼らは馬の飼育や調教の重要性を知ることになり、森を探索するには体を鍛えることを余儀なくされる。


 そのため、効率良く体を鍛えるために戦士科にも所属し、最終的には戦士科に転科することになるのだ。


 なぜなら、猛獣を捕獲しても武装した戦士科の生徒にすら勝てない事実を、戦士科に所属して自ら気づくからである。





















「ええ~~~~~~~っ!! マジで!?」


 動物登録の仕組みをピクルスから聞いたシルルンは驚きのあまりに血相を変える。


 動物使い科は馬だけでも約六千頭、その他には牛や羊、鶏や兎にいたるまで多種の動物を飼育している。


 だが、約六千頭の馬の内、千頭は主に四年生の私物であり、残りの五千頭に対して、生徒と馬を登録して飼育する仕組みだ。


 つまり、現状では登録できる馬が存在しないので、シルルンが飼育する馬がいないということになる。


 それはシルルンと一緒に編入した一年生たちも同様だったが、彼らは補助として馬の飼育を手伝うことを決めたが単位としての評価は無いに等しい。


「けど僕ちゃん自分で馬を育てたいんだよね」


 シルルンは不満そうな表情を浮かべており、仕方なく、ピクルスは馬の値段や四年生たちが行っている商売をシルルンに説明したのだった。


 その中でシルルンはスライムの話に興味を持つ。


 スライムは女性に大人気で愛されている存在なのだ。


 学園で飼われているスライムは巨大な飼育小屋で百匹ほどが暮らしており、その飼育小屋の中は公園のような作りになっているので、スライムの飼育小屋はデートスポットや女生徒たちの癒しの場にもなっているのである。


 スライムも馬と同様に登録制で、スライムを捕獲して登録すると空いている飼育小屋の使用を許される。


 シルルンがスライムに興味を示した理由は儲かるからだ。


 スライムには命名権と占有権があり、前者は金を払ってスライムに名付けることを意味する。スライムに人気があれば競売にいたることもある。


 後者は一番高額な金を支払った者が月単位でスライムを独り占めできる仕組みだ。月単位なのでスライムに人気があれば永続的に収入が見込めることになる。


 スライムは基本種といわれる青色、緑色、黄色が最も多く、それ以外の色の個体はレア種で命名権と占有権の値段も跳ね上がるのだ。


 彼らは猫のように気まぐれで懐かない個体がほとんどで、それがいいという女性も多いが、寄ってくる人懐っこい個体は珍しく人気は高くなる。


 スライムの捕獲自体は簡単だが、素手で掴むと激しく嫌がって暴れ、疲れ果てて死んでしまうこともある。


 そのため、スリープの魔法で眠らせて誘拐するのが一般的な捕獲方法なのだ。


 これ以外に【魔物使い】がテイムするという方法がある。


 だが、スライムのテイムは【魔物使い】の第一段階として誰もが試みるが失敗に終わる。


 スライムのテイム難度はドラゴンに匹敵するといわれているからだ。


 そのため、学園の飼育小屋で飼われているスライムは全て捕獲されたものになる。


 そのスライムたちを護り、世話をしているのがスラッ子と呼ばれる存在だ。


 彼女らがスライムのファンたちにスライムの接し方を指導しており、スライムのファンたちが最初に教えられることが、スライムに触れてはいけないということである。


 スライムたちに触ることは簡単だが、スライムを手で掴んで持ち上げたり、抱いたりするとスライムは激しく嫌がり、人に近づいてこなくなるので絶対にしてはいけない行動だからだ。


 これにより、スライムたちを眺めて癒されることが基本行動になる。


 そして極めて稀にだが、スライムがファンの膝の上にのってくることがある。


 これをファンたちの間では光臨と呼んでおり、その時間の長さや回数を競うのもまたファンの醍醐味なのである。


 ちなみに、スライムを飼育するのは簡単で、彼らは雑食なので飼育小屋に草、土、石、水を置いておけば問題なく飼育することが可能なのだ。しかし、水を切らすと徐々に縮んで死んでしまう。


 一方、戦士科の校舎の廊下をシルルンは俯き加減で歩いていた。


 彼は馬の購入を考えていたが、馬の価格が安くても二百万円からだと聞いて幼馴染たちに相談しようと戦士科に足を運んだのだ。


 すると、二人の男生徒がシルルンに向かった歩いてきた。 


 金髪の男生徒の名前はクリスで、青髪の男生徒の名前はガルだ。


 彼らは知勇兼備、眉目秀麗の本物のエリートたちである。


「どうしたんだい暗い顔して?」


 爽やかな笑顔を浮かべるクリスがシルルンに尋ねる。


「動物使い科で何かあったのか?」


 ガルは真面目な硬い表情を浮かべている。


 だが、クリスたちを目撃した多数の女生徒たちがざわめき始めた。

 

「きゃ~~~っ!! クリス様とガル様よ!!」


 女生徒たちが黄色い声を上げてクリスたちに殺到した。


 彼女らはクリスとガルのファンたちである。


「……ううん、別になんでもないよ」


 一瞬むっとしたような顔をしたシルルンは馬鹿らしくなって相談する気が消え失せたのだ。


「そうか何かあったらいつでも声を掛けろよ。力になるからな」


 ガルはシルルンの目を真っ直ぐに覗き込む。


「俺たちは仲間なんだからいつでも声を掛けてくれ」


 そう言うと、クリスとガルは女生徒たちの集団に囲まれて流されていった。


「……」


 それを無言で見送るシルルンは意を決して旅立ったのだった。

面白いと思った方はブックマークや評価をよろしくお願いします。


スライム レベル1

HP 3

MP 1

攻撃力 1

守備力 1

素早さ 1

魔法 無し

能力 捕食 極稀に統率をもつ個体もいる。


スライムは下手をすればドブ鼠に負ける可能性もある。

彼らは最弱な魔物として有名だが弱すぎるために魔物とすら認識されていない。


ちなみに、捕獲は誰でも行えるが、テイムは【魔物使い】特有の技術だ。

【魔物使い】が魔物のテイムに成功すると、その個体はペット化する。

ペット化された魔物は主人と思念での会話が可能になる。



 

スライムのファンについて



ファン


大多数がこれで、スライム好きな集団。


愛好家


スライムを溺愛し、大金を払ってでもスライムと触れ合いたい集団。


スラッ子


スライムの世話を使命と感じている集団。昔はスラッ娘と呼ばれていたが男も増えてきたために改名された。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほどスライムに徐々に近づく理由が出来そうな、ひねくれ具合がシルルンになんかあるというか、そもそも魔物使いという職業そのものが結構歪だというか、何にしても面白いですね。 [気になる点] …
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