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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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38/301

38 魔族 修


 難民たちは逃走したシルルンを一時間ほど血眼になって執拗に捜索したが発見できなかった。


「ちっ、なんて逃げ足してやがんだよ」


「……全くだぜ」


「次に見かけたらぶちのめしてやる!!」


「あぁ」


 男難民たちは怒りに打ち震えている。


「……あんたたち馬鹿じゃないの?」


 女難民の一人が呆れたような表情を浮かべている。


「あぁ!? どういうことだ!!」


 男難民の一人が殺意に満ちた眼差しを女難民に向ける。


「さっきの少年は金持ちの家の子で、私たちを見てかわいそうと思って自分の家で雇おうと思ったんだと思うのよ」 


「ちっ、哀れみかよ」


 男難民は悔しそうに固く唇を噛みしめた。


「別にいいじゃない。雇ってもらえるなら哀れみでも同情でもさ。あなた、私たちの今の状況を分かってるの? あなたたちが先走ったせいで良い雇い先を失ったのよ」


「ぐっ……」


 男難民は決まりの悪い顔をする。


「あの少年はビビッてもう来ないと思うけど次に同じようなことになったら、あんたたちは手出し口出ししないでよね。言っとくけどこれは先走ったあなたたち以外の人たちのほぼ総意よ」


 シルルンを追いかけた難民たちに対して、周囲にいる難民たちが忌々しげな表情を浮かべている。


「うぅ……わ、分かったよ。次、同じようなことがあっても、何もしねぇからそんなに睨むなよ」


 男難民たちは気まずそうに俯き加減に視線を逸らした。


「……ほんとに頼むわよ。けどまぁ、そんなに都合よく良い雇い主なんて現れないけどね……」


 女難民は苦笑して溜息をついた。


 しかし、シルルンは頭の後ろに手を組んで、白々しく口笛を吹きながら姿を現した。


「……えっ!? ま、また来たわよ!! 皆は気にしてない振りをしてよ」


 女難民の言葉に、難民たちは頷いたがシルルンに視線をちらちらと向けている。


 シルルンは地面に座り込んで立て札看板を作成しており、しばらくすると立て札看板を地面に突き刺した。


 立て札看板には『スライムを世話する人募集。勤務地トーナの街。日当五千円から。性別年齢、不問。スライム適性を調べるから一人ずつ並んで』と書かれていた。


「ど、どうする? 誰からいく?」


 難民たちは集まって話し合いを始めて、一番手に選ばれた女難民がシルルンの元に歩き出す。


「私は適性あるかしら?」


 女難民はにっこりとシルルンに話しかける。


「いらっしゃい。じゃあ、スライムの前に来て」


「分かったわ」


 女難民はブラックの頭の上にのっているパプルの前に立った。


 だが、パプルはピクリともしなかった。


「あ、パプルが動かないからダメだね。適性ないから次の人どうぞ」


「そ、そんな……」


 女難民は呆けたような表情を浮かべて愕然としている。


 難民たちは次々に適性を試すが、百人ほど試しても誰も反応しなかった。


 彼らは本当に反応するのか疑わしくなり、意地でも見届けたいと思って結果を見守っていた。


「僕はどうでしょうか?」


 二十代ほどの酷く痩せこけた体の男の手にはクワが握られており、これまでピクリともしなかったパプルの体がビクビクと反応した。


「君は合格だね。いつから来れる?」


「ほ、本当ですか!! あ、ありがとうございます!! いつからでも構いません!!」


「おおおおおおおおっ!!」


 結果を見守っていた難民たちから歓声があがる。


「少しここから離れてもよろしいでしょうか? 仲間たちに仕事が決まったと伝えてお別れをすませてきたいのです」


「うん、いいよ。その前にとりあえず、これをあげるよ」


 シルルンは魔法の袋からパン二個とリンゴとミカンを男に手渡し、その光景を目の当たりにした難民たちはゴクリと喉を鳴らした。


「よ、よろしいのですか!?」


 酷く痩せこけた男は驚きの表情を見せる。


「うん、いいよ。君は食べないと倒れそうな感じだからね」


「ありがとうございます!! ありがとうございます!! それでは仲間のところに行ってきます」


 酷く痩せこけた男は何度も何度も頭を下げて、仲間の元へ走っていった。


「えっ!? マジで!?」


 『危険探知』により危険を感じたシルルンは空を見上げて表情を強張らせた。


 難民たちもつられて空を見上げると、そこには魔物の大群が見えたのだった。





















「うわぁあああああああああああぁぁ!?」


「魔物が攻めてきたぞ!!」


 一斉に四散した難民たちは混乱状態に陥った。


 シルルンは『魔物探知』で空の魔物を探ると魔物の数は五百匹を超えており、パプルは危険を感じてブラックの頭の上から跳躍してシルルンのシャツの中に逃げ込んだ。


「これはマジでヤバイ……兵隊さんはどこにいるんだろう?」


 シルルンが周辺を見渡すと、百名ほどの兵士たちが空から迫り来る魔物の群れに向かって進軍していたが、百匹ほどの黒ハーピーたちが兵士たちの前に降下した。


 だが、残りの四百匹ほどの魔物の群れが凶悪な牙を剥き出しにして、急降下を繰り返して難民たちに襲い掛かる。


「ぎゃああああああああああああぁぁ!?」


「うぁわああああああああぁぁ!?」


「は、速えっ!?」


「な、なんてスピードなんだ!?」


 必死に逃げ惑う難民たちの首が次々に宙に舞って絶叫が折り重なる。


 この魔物たちはレッサー ドラゴンフライ(トンボの魔物)の群れである。


 レッサー ドラゴンフライの全長は二メートルほどで、『強力』(攻撃力一・五倍)と『疾風』(飛行速度二倍)を併せ持ち、眼はエメラルドグリーン、身体は黒とエメラルドグリーンのストライプ柄の美しい個体だが、その体型と体色からオニヤンマとギンヤンマがベースだと容易に推測できる。


 ちなみに、虫の世界でオニヤンマは、あの凶悪な大雀蜂オオスズメバチと天敵同士の関係であり、ギンヤンマは時速百キロメートルで飛行可能なのだ。


 つまり、ドラゴンフライ種はオニヤンマの強さとギンヤンマの飛行速度を併せもつ個体であり、虫系の魔物の中では空での戦闘において最強の一角の魔物なのである。


「岩陰に隠れろ!!」


「ぎゃああああああぁぁあああああぁぁ!!」


「うぁあああぁぁあああああぁぁ!?」


 必死の形相で駆ける難民たちは岩陰に身を隠そうとするが、万を超える難民たちが限りある岩陰に身を隠せるはずもなかった。


 レッサー ドラゴンフライの群れは容赦なく難民たちに襲い掛かり、難民たちは為す術もなく、一方的にレッサー ドラゴンフライたちに食い殺されていく。


「おいっ!! 何してる!! 早く逃げろ!!」


「こ、腰が抜けちゃって、う、動けないのよ!!」


「わ、悪いが先に逃げさせてもらうぜ」


 申し訳なさそうな表情を浮かべている男難民たちは近くの岩陰に走る。


 だが、すでに多数の難民たちが岩陰に身を隠しており、男難民たちは押し出されて身を隠すことができずに別の岩陰を目指して全力で駆けた。


 しかし、二匹のレッサー ドラゴンフライが男難民たちに目掛けて凄まじい速さで空から接近していた。


 片方のレッサー ドラゴンフライが岩陰を目指して走る男難民たちに突撃し、男難民たちの首が十ほど宙に舞う。


 そして、もう片方のレッサー ドラゴンフライが腰を抜かして動けない女難民に目掛けて、凄まじい速さで突撃した。


「嫌ぁぁあああぁぁ!!」


 女難民は恐怖に顔を歪めて金切り声をあげる。


 だが、シルルンが薄い青色のミスリルの弓で風の刃を放ち、風の刃がレッサー ドラゴンフライの頭部を撃ち抜いて、レッサー ドラゴンフライは墜落して進地面に衝突した。


 シルルンのことを金持ちの坊ちゃんだと思い込んでいた女難民は呆けたような表情を浮かべている。


「早く逃げて!!」


「こ、腰が抜けちゃって動けないのよ……」


 女難民は悲痛な面持ちで訴える。


「えっ!? マジで!? じゃあ、ブラックに捕まって」


 女難民は素直にブラックに捕まり、シルルンは思念で「身を隠せる岩場まで連れて行って」とブラックに指示を出した。


 ブラックは『触手』で女難民を掴んで岩場に疾走する。


 プルとプニはファイアとブリザーの魔法を唱えて、レッサー ドラゴンフライの群れは羽を焼かれるか、或いは羽を凍らされて四十匹ほどが墜落して地面に衝突した。


 シルルンも風の刃を撃ちまくり、レッサー ドラゴンフライの群れは頭や羽を破壊されて、二十匹ほどのレッサー ドラゴンフライが奇声を上げて地面に衝突した。


 地面をのたうち回っているレッサー ドラゴンフライたちに接近したシルルンは、剣の連撃を繰り出してレッサー ドラゴンフライたちを斬り刻む。


 シルルンたちは風の刃や魔法で百匹ほどのレッサー ドラゴンフライたちを撃ち落し、地面に落ちたレッサー ドラゴンフライたちに止めを刺していく。


 ブラックは巨大な岩を発見して女難民を岩陰に下ろす。


「あ、ありがとう……」


 号泣している女難民が深々と頭を下げると、ブラックはシルルンたちに向かって疾走した。


「飛ぶデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニは『触手』をシルルンの脇の下に絡めて宙に浮きあがる。


「ひぃいいいぃ!! マジで!?」


 プルとプニの『浮遊』で、シルルンたちはゆっくりと上昇していく。


 シルルンは上空から薄い青色のミスリルの弓で狙いを定めて風の刃を撃ちまくる。


「あはは、狙いやすいね」


 シルルンたちは空中の砲台と化し、さらにレッサー ドラゴンフライを二百匹ほど撃ち落した。


 しかし、シルルンたちの背後からレッサー ドラゴンフライが凄まじい速さで接近する。


「後ろから来るから横に避けて」


 シルルンは思念でプルとプニに指示を出す。


「はいデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニは横に移動しようとするが激しく遅かった。


 『浮遊』は素早く移動することは不可能であり、素早く移動するには『浮遊』の上位の能力である『飛行』が必要なのである。


「ひぃいいいいぃ!!」


 身を捻って回避しようとしたシルルンの背中にレッサー ドラゴンフライが直撃し、シルルンたちは吹っ飛んだ。

 

「ぎゃぁああああああああああぁぁぁ!!」 


 シルルンたちはきりもみ状態で落下するが、ブラックがシルルンの落下地点に疾走して、柔らかい体でシルルンを受け止める。


「マスター、ごめんなさいデス……」


「デシデシ……」


 プルとプニは申し訳なさそうな表情を浮かべてしょんぼりした。


「あれ? 全然痛くない!?」


 シルルンは手で背中を触りながら意外そうな顔をした。


 レッサー ドラゴンフライの攻撃力より、シルルンの防御力のほうが高いからである。


 だが、シルルンのシャツの中に隠れているパプルはブルブルと震えている。


 プニがヒールの魔法をシルルンに唱えようとするが、シルルンは必要ないと中断させてプルとプニの頭を撫でる。


 プルとプニは嬉しそうだ。


 シルルンはブラックに乗り、上空のレッサー ドラゴンフライの群れに風の刃を放って次々に撃ち落し、墜落したレッサー ドラゴンフライたちに止めを刺していくのだった。


 一方、黒ハーピー百匹と兵士百名の戦いの行方は兵士たちが劣勢だった。


 黒ハーピーの群れは上空から一斉にウインドの魔法を唱えて、数知れない風の刃が兵士たちに襲い掛かる。


 そんな状況の中でも兵士たちは風の刃を躱しながら弓で反撃を行っていたが、黒ハーピーたちは難なく矢を避けていた。


 矢が黒ハーピーたちに当たらない訳は、兵士たちの弓の錬度が低いこともあるが、黒ハーピーが『回避』を所持しているからである。


 だが、そこに精鋭騎兵百名(上級兵士が騎乗する騎兵)と騎兵二百名が援軍として駆けつける。


 軍は魔物の群れがルビコの街の方角に進軍していることを察知しており、砦から騎兵たちを出陣させていたのだ。


 精鋭騎兵たちは鋼の槍から鋼の弓に持ち替えて、一斉に矢を放つ。


 無数の矢は黒ハーピーたちを貫き、黒ハーピーたちは次々に地面に墜落してのたうち回っている。


「この機を逃すなっ!! 突っ込むぞっ!!」


 兵士たちの隊長が号令を掛けると、怒りの形相の兵士たちは地面に墜落した黒ハーピーたちに突撃を仕掛けたが、黒ハーピーたちは低空飛行で兵士たちに突進して兵士たちを通り抜ける。


「黒ハーピーごときが舐めるなよっ!! 俺に続け!!」


 そう号令を掛けた精鋭騎兵の隊長が精鋭騎兵を率いて黒ハーピーの群れに突撃した。


 兵士たちを通り抜けた黒ハーピーたちは精鋭騎兵たちの横を抜けようとしたが、精鋭騎兵たちには通用せずに鋼の槍に貫かれて討ち取られる。


 上空の黒ハーピーたちに狙いを定めた騎兵たちは鉄の弓で一斉に矢を放ち、無数の矢に貫かれた黒ハーピーたちは墜落し、兵士たちに斬り殺されて殲滅されたのだった。




















 戦場に駆けつけた弓兵二百名はたった一人で奮闘する少年の姿を目の当たりにして戦慄を覚えていた。


「馬鹿なっ!? たった一人でこれほどの数を倒したというのか……」


 すでにレッサー ドラゴンフライの群れは三百匹以上が倒されており、弓兵隊長は弓兵二百を率いて少年の元に歩を進めた。


「むむ!! あなたは【ダブルスライム】殿ではないか!? なんと幸運な!!」

 

「誰?」


 シルルンは目をパチクリさせる。


「私も大穴のA3ポイントにいたんですよ。そこであなたの勇姿を見た者です」


「ぷぷっ、勇姿って……」


 シルルンは呆れたような表情を浮かべて失笑した。


「しかし、人知れずこんな場所で魔物と戦っておられるとは、さすが【ダブルスライム】殿ですな」

 

 弓兵隊長は熱い眼差しでシルルンを見つめており、彼がシルルンのことを深く尊敬していることがありありと窺えた。


「たまたまだよ」


 シルルンは困ったような表情を浮かべるばかりだ。


「はははっ!! ご謙遜を。残りは我らで討ち取るぞ!! 構え!! これ以上魔物の好きにさせるなっ!! 撃てっ!!」


 弓兵隊長が号令を掛けると弓兵たちは一斉に矢を放ち、数知れない矢がレッサー ドラゴンフライの群れの体を貫通し、二十匹ほどのレッサー ドラゴンフライが墜落して地面に衝突した。


 だが、矢が頭や体を貫通しても絶命しないことが虫系の魔物の厄介な特性である。


 地面に衝突したレッサー ドラゴンフライたちは大きな口を広げて凶悪な牙を剥き出しにして、岩陰に隠れる難民たちに襲い掛かる。


「こ、こっちに来たぞ!!」


「うわぁああああああああぁぁ!?」


「ぎゃあああああああぁぁああああぁぁ!?」


 難民たちがクワや木の棒で攻撃するが、そんな攻撃が魔物に通用するはずもなく、難民たちはレッサー ドラゴンフライたちに頭や身体を食い千切られて、瞬く間に難民たちの百人ほどが食い殺される。


「ひぃいいいいぃ!! 何やってるの!? せっかく僕ちゃんが難民の人たちに被害が出ないように確実に殺してるのに!! これじゃあ台無しだよ!!」


 レッサー ドラゴンフライたちに向かって突撃したシルルンたちは、地上で暴れまわるレッサー ドラゴンフライたちを倒していく。


「た、隊長、どういたしますか? 我々が攻撃すれば【ダブルスライム】殿が言ったように難民たちに被害が及びます」


 側近は真剣な硬い表情で弓兵隊長に問い掛ける。


「……構わず撃て」


「し、しかし……」


 側近は戸惑うような表情を浮かべている。


「奴らが空にいようが地面に落ちようが難民たちを襲うのは変わらない。それならば少しでも早く殲滅したほうが被害は少ないだろう。それに墜落した魔物は【ダブルスライム】殿が止めを刺してくれる。いいから構わず撃て!!」


 弓兵隊長は淡々とした口調で答えた。


 側近が重苦しげに号令を掛けると、弓兵たちが一斉に矢を放ち、空にいるレッサー ドラゴンフライの群れを撃ち落していく。


「ひぃいいいいぃ!? またいっぱい落ちてきたよ!!」


 シルルンは驚きのあまりに血相を変える。


 シルルンたちは墜落するレッサー ドラゴンフライたちの元に急行し、やがて、レッサー ドラゴンフライの群れは全滅したのだった。


「ふぅ……なんとか全滅できたようだね」


 シルルンは弓兵たちの元に移動する。


「おおっ!! 【ダブルスライム】殿のおかげで魔物を殲滅することができましたぞ!!」


 弓兵隊長がしれっと言い放った。


 シルルンはジト目で弓兵隊長を見つめていると、精鋭騎兵たちと騎兵たちがシルルンたちの元に駆けつける。


「これはどういうことだ!? 弓兵おまえたちだけで四百匹もの魔物を殲滅したのか?」


 精鋭騎兵の隊長が訝しげな眼差しを弓兵隊長に向けた。


「はっ、我らが駆けつけた時にはすでに【ダブルスライム】殿が大半の魔物を倒していたので、残りを協力して殲滅したまでです」


「何っ!? 【ダブルスライム】殿がおられるのか!?」


「誰?」


 シルルンは訝しげな顔をした。


「私は大穴の最深部まで進軍した者です。【ダブルスライム】殿がアース ドラゴンの腹をぶち抜いた時は度肝を抜かれましたぞ!!」


「えっ!? 僕ちゃんそんなことしてないよ」


 シルルンは呆れ顔だ。


「ふはははっ!! ご謙遜を!! 【ダブルスライム】殿がいたのでしたら、こんな魔物の群れなど瞬殺ですなぁ」


 精鋭騎兵の隊長は熱い眼差しをシルルンに向けている。


「クククッ!! まさか、こんなにも早く全滅させられるとは思いもしなかったぞ」


「――っ!?」


 その場にいる全員が声が聞こえた方角に顔を向けた。


 そこには三匹の魔物が上空に浮いていた。


「……いつのまに現れたのだ?」


 弓兵隊長が驚きの表情を見せる。


「ぐっ、魔族か……」


 精鋭騎兵の隊長は険しい表情を浮かべている。


 数はデーモンが一匹とレッサー デーモンが二匹である。


「いい的だ!! 撃って撃って撃ちまくれ!!」


 即座に弓兵隊長が号令を掛けるが、精鋭騎兵の隊長は苦々しげな表情を浮かべているだけだった。


 弓兵たちは一斉に矢を放ったが、矢はデーモンたちに難なく躱されて、デーモンたちは地上に下り立った。


 レッサー デーモンは人型の生命体に好んで『憑依』する精神生命体である。


 デーモンは『身体具現』で自身の体を具現化しており、その姿は個体ごとに違うのだ。


 レッサー デーモンたちはファイアの魔法を唱えて、激しい炎が弓兵たちを包み込み、二十名ほどの弓兵が炎に焼かれてのたうち回る。


 これを皮切りに戦闘が開始され、精鋭騎兵たちがデーモンに突撃した。


 だが、デーモンがエクスプロージョンの魔法を唱え、光り輝く球体が直撃した十名ほどの精鋭騎兵が爆発に巻き込まれて吹っ飛んだ。


 凄まじい速さで飛行したデーモンは精鋭騎兵たちに目掛けて突撃し、精鋭騎兵たちを真っ向から貫いた。


 中央を貫かれた精鋭騎兵たちの首が宙に舞い、一瞬の内に三十名ほどの精鋭騎兵たちが体から大量の血を噴出して馬から転げ落ちて即死した。


「ば、馬鹿なっ!?」


 精鋭騎兵たちは雷に打たれたように顔色を変える。


 デーモンは最上級職である【聖騎士】と拮抗する強さだと言われているが、このデーモンは高レベルでさらに強かった。


 レッサー デーモンたちが距離を一気につめて、弓兵たちを一方的に剣で斬り裂いていく。


「うわぁあああぁぁああああぁぁ!?」


「ぎゃあああああぁぁああああああああぁぁぁ!?」


 一瞬の内に三十名ほどの弓兵の首が宙に舞い、首がなくなった弓兵たちは胴体から血を噴出させて地面に転がった。


 シルルンは薄い青色のミスリルの弓で狙いを定めて連続で風の刃を放ち、二発の風の刃がレッサー デーモンたちの頭を消し飛ばし、レッサー デーモンたちは動かなくなった。


 すると、レッサー デーモンたちの体から何かがゆらゆらと出現した。


 レッサー デーモンの本体である精神体である。


 精神体には物理攻撃は効果がなく、魔法、能力、魔導具などでしかダメージを与えられないのだ。


「我らを一撃で倒すとは貴様はいったい何者だ!? 」


 レッサー デーモンの精神体がシルルンに問い掛ける。


「エクスプロージョンデス!!」


「エクスプロージョンデシ!!」


 プルたちが魔法を唱えて、二発の光り輝く球体が精神体たちに直撃して、精神体たちは爆発に包まれた。


「ば、馬鹿な……この我ら悪魔族が人族ごときに敗れるとは……」


 精神体たちは次第に薄れていって消滅した。


「何っ!? 敗れたというのか!?」


 デーモンの顔が驚愕に染まる。


 彼は『以心伝心』を所持しており、レッサー デーモンたちが死んだことを理解したのである。


 凄まじい速さで飛行したデーモンはシルルンたちと対峙する。


「お前かっ!! 我が手下を殺ったのは!!」


 デーモンは憤怒の形相で声を張り上げた。


「ひぃいいいいいいぃ!!」


 目を剥いて驚きながらもシルルンは『魔物解析』でデーモンを視ると、そのステータスの値はハイ スパイダーを遥かに上回っていた。


「や、やべぇ!!」


 シルルンの顔が青ざめる。 


 シルルンたちは身を翻してその場から逃走した。


「逃がさん!!」


 デーモンが凄まじい速さでシルルンを追いかける。


「……た、助かったのか!?」 


 弓兵たちは呆けたような表情を浮かべている。


「【ダブルスライム】殿がデーモンを引きつけてくれなければ、我々は全滅していただろうな……」


 弓兵隊長は深刻そうな表情を浮かべており、その言葉に弓兵たちは固唾を呑んだ。


「今頃、【ダブルスライム】殿は、デーモンと激戦を繰り広げているのだろうな……」


 弓兵隊長は熱い眼差しをシルルンが消えた方角に向けるのだった。

面白いと思った方はブックマークや評価をよろしくお願いします。


レッサー ドラゴンフライ レベル1 全長約2メートル

HP 90

MP 10

攻撃力 80

守備力 30

素早さ 120

魔法 無し

能力 強力 疾風


黒ハーピー レベル1

HP 200

MP 30

攻撃力 100+鉄の足爪

守備力 80+皮の鎧

素早さ 100

魔法 ウインド

能力 回避



精鋭騎兵 レベル30

HP 750

MP 0

攻撃力 350+鋼の槍 鋼の弓

守備力 210+鋼の鎧 鋼の盾

素早さ 200+力の腕輪+1

魔法 無し

能力 統率 稀に強力 稀に堅守



魔道具やマジックアイテム


人によって言い方が違うだけで同じ意味だと思われている。

しかし、厳密には定義は違い、要は製法が違うだけのことである。


力の指輪 攻撃力が1%~5%上昇する。(+1で1%、+5で5%)

力の腕輪 攻撃力が1%~5%上昇する。(+1で1%、+5で5%)


レッサー デーモン レベル1 全長約2メートル

HP 700~

MP 400

攻撃力 350+武器

守備力 300+防具

素早さ 300+アイテム

魔法 ウインド ファイヤ ダークネス パラライズ マジックドレイン

能力 憑依 飛行 以心伝心 魔法軽減



デーモン レベル1 全長約2メートル

HP 1200

MP 700

攻撃力 600+武器

守備力 500+防具

素早さ 500+アイテム

魔法 ウインド ファイヤ エクスプロージョン ダークネス パラライズ インビシブル マジックドレイン

能力 統率 憑依 威圧 飛行 以心伝心 魔法耐性 身体具現



デーモン レベル25 全長約2メートル

HP 1700

MP 900

攻撃力 850+ミスリルソード

守備力 700+闇のローブ

素早さ 700+力の指輪+5 魔力の腕輪+5

魔法 ウインド ファイヤ エクスプロージョン ダークネス パラライズ インビシブル マジックドレイン

能力 統率 憑依 威圧 飛行 以心伝心 魔法耐性 身体具現




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