315 サンポル王国軍再び南下①
再びメローズン王国に激震が駆け抜けていた。
メローズン王国から北に位置するサンポル王国のラハイト王が、またもや大軍を南下させたからである。
進軍ルートは前回と同様で東の魔物領を進軍しており、シャダルは十中八九、領内への転進はないと踏んでいるが対策を講じない訳にはいかず、サンポル王国軍の南下と共に再び軍を並行移動させることになる。
進軍するサンポル王国軍の兵力は10万を超えており、兵士は弱くても上級職で、2人に1人が最上級職なのだ。
つまり、5万人もの最上級職がいることになり、ギャンを亡き者にしたいラハイト王の本気度が窺える。
だが、メローズン王国内の南東に位置するラセラの街の辺りで、長蛇の列をなすサンポル王国軍の側面を魔物の群れが強襲したことにより、激しい戦闘状態に陥ったのだ。
魔物の総数は1000匹ほどだが、魔物たちを率いているのが龍族だった。
現在、戦闘状態にあるのは500匹ほどのハイ・ワイバーンと500匹ほどのハイ・ドレイクの群れのみで、ドラゴン種は後方に布陣して動く気配はない。
ちなみに、ドレイク種はドラゴン種と姿は似ているが体の大きさは小ぶりであり、所謂ドラゴン種の劣化個体だが、ワイバーン種よりも強い魔物なのだ。
側面からの攻撃を受けたサンポル王国軍は前後に分断されており、魔物の群れは後方の部隊に攻撃を集中させているので、最早、後方の部隊は全滅寸前だった。
「うがぁあああああぁぁああああぁぁぁ!!」
「……た、助けてくれ!!」
「ひぃぎゃああああぁぁあああぁぁぁ!!」
上空からハイ・ワイバーンの群れが『毒のブレス』を吐き出し、猛毒を浴びせられた兵士たちは悲鳴を上げながら地面をのたうち回る。
「固まるなっ!! 後退するぞ!!」
「うぁああああああぁぁああああぁぁ!!」
「ぎゃあああぁぁぁあああああああああぁぁぁ!!」
兵士たちは一斉に散開したが、ハイ・ドレイクの群れに『炎のブレス』で体を焼かれた兵士たちが瞬時に炭へと変えられ、兵士たちの断末魔の絶叫がいたるところで響き渡る。
そもそも、一般的な最上級職ですら、ハイ・ワイバーンやハイ・ドレイクに対して勝機は微塵もないのである。
一方、前方の部隊の将軍たちは進軍を停止し、防御陣を敷いて魔物の群れを迎え撃っていたが防戦一方だった。
「防御陣が意味をなさない……」
「……龍とはこれほどまでに強いものなのか」
将軍たちは動揺を隠しきれなかった。
そこに、後方の部隊から帰還した斥候が血相を変えて駆けてくる。
「ご報告いたします!! 後方の部隊が壊滅いたしました!!」
「――馬鹿なっ!?」
「開戦してからまだ30分も経っていないのだぞ!?」
将軍たちに衝撃が駆け抜ける。
「ゾゴック王子は逃げおおせたのか?」
「いえ……戦死されました」
「――っ!?」
将軍たちは放心状態に陥った。
彼らはゾゴック王子派だったのだ。
現在の王位継承権第一位はグラブロ王子で、第二位がゾゴック王子だ。
元を正せば彼らはゴック王子派だったが、王位継承権第一位だったゴック王子が行方不明で戦死扱いになっており、ゴック王子の実の弟であるゾゴック王子に白羽の矢がたったという経緯があった。
つまり、強さではグラブロ王子に及ばないと睨んだゾゴック王子派の将軍たちが、ゾゴック王子にギャンを殺害させることで他の将軍たちの支持を得ようとしたが水泡に帰したのだった。
その後、将軍たちは切り札である【死人】たちを投入し、多数のハイ・ドレイクたちを倒したが、知性が低い【死人】たちは最終的にダークネスの魔法を使用して同士討ちによって自滅し、サンポル王国軍は全滅したのだった。
一方、ヒーリー将軍は兵3万を率いて境界線内を並行移動していたが、ラセラの街から東の境界線付近にある砦に移動した。
その砦の前で陣取る彼女の顔は深刻な表情を浮かべていた。
「戦うおつもりか?」
精鋭騎兵の隊長が神妙な表情でヒーリー将軍に尋ねる。
彼はロレン将軍の指揮下にあったが、ヒーリー将軍がシルルンの大ファンだと知って転属を願い出たのである。
これにより、ヒーリー将軍の下にはシルルンファンが集結しつつあった。
「これはどう考えても勇者案件だ。だが、こちらに来るのであれば住民たちが避難する時間を稼がざるを得ないだろうな」
そこに、ヒーリー将軍つきの斥候であるケツが戦場から帰還する。
「サンポル王国軍が全滅しましたっ!!」
「なっ!? 10万の大軍がこれほど早く全滅するのか……」
ヒーリー将軍は戦慄して息を呑む。
「ハイ・ドレイクの群れがこちらに向かって進軍してきています。そして、動きがなかったドラゴン種も動き出しました……最悪の事態です」
ケツは恐怖に顔を歪めている。
ハイ・ワイバーンの群れがこの進軍に加わっていないのは、サンポル王国軍の死体を食い荒らしているからである。
「ぐっ……やるしかないようだな」
ヒーリー将軍は意を決したような表情を浮かべており、それに対して精鋭騎兵の隊長が恐ろしく真剣な表情で頷いた。
しかし、唐突に彼女らの前に一団が出現し、即座に側近がヒーリー将軍の前に庇うように立ちはだかる。
「何者だっ!?」
精鋭騎兵の隊長が怒声を発した。
「控えろ!! こちらは勇者リリーナ様と勇者カリバーン様であるぞ!!」
赤い髪色の女が怒鳴り返す。
「なっ!?」
ヒーリー将軍たちはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
彼女らは速やかに地面に膝をついて頭を下げる。
「私たちがここに来た理由はお分かりですね」
リリーナはにっこりと微笑んだ。
彼女らは、リリーナの『超危険探知』によって危険を探知し、ふわふわ(ホベラ)の『瞬間移動』によってこの場に現れたのだ。
「なんという幸運だ。まさに渡りに船だ」
ヒーリー将軍は感激に打ち震えている。
「それにしても以前にセルドが龍族を叩いたはずなのですがどういうことなのでしょう」
「セルドが動けねぇことを知ってるんじゃないのか?」
リリーナの言葉に、したり顔のカリバーンが答えた。
「そうだとすると厄介ですね」
(もしかすると西の魔族と東の龍族が繋がっているのかもしれません)
嫌な予感を覚えたリリーナは表情を曇らせる。
すると、彼女らよりも先に上空にいた何者かが、上空から凄まじい速度で落ちてきて、辺りは砂煙に包まれた。
砂煙が消え去ると、そこには少年が立っており、彼の首にはモフモフが抱きついていた。
「シルルン!! 来てくれたのか!!」
ヒーリー将軍は歓喜に顔を輝かせる。
「さすがダブルスライム殿だ」
精鋭騎兵の隊長は熱い眼差しをシルルンに向けている。
「あなたがシルルンくんですか。私は勇者リリーナと申します」
「えっ!? マジで!?」
(こんなお婆ちゃんなのに戦ってるんだ……)
シルルンはやるせない気持ちになったのだった。
「それにしてもよくここが分かりましたね」
「!? ……たぶん、寝ぼけてたんだよ」
言われて初めて気づいたシルルンは、どうしてこの場にいるのか考え込んだが見当もつかなかったのだ。
「……えっ?」
この場にいる誰もがこの発言に耳を疑った。
シルルンに記憶がないのは、ジュピターが寝ているシルルンを強制的にこの場に送り込んだからである。
彼女は人族がどうなろうと興味はなかったが、ラセラの街が陥落すれば溺愛するシルサンダーの平穏が脅かされることを危惧したのである。
「グルゥ!!」
ようやく目覚めたミニ・グリフォンのフィンが嬉しそうに鳴く。
「あはは、フィンも来てたんだ。お婆ちゃんはまだ勇者として活動し続けるつもりなの?」
シルルンはフィンの頭を優しく撫でながらリリーナに尋ねた。
「はい。この命尽きるまで活動するつもりですよ。それがどうかしましたか?」
「じゃあ、この茸を食べるかい?」
シルルンは魔法の袋から、黒と紫の斑模様の茸を取り出し、リリーナの前に差し出した。
「な、なんだその怪しげな茸は!? まずは私が試食する」
リリーナの毒見役でもある赤髪の女がシルルンに申し出た。
「ん? 君が食べたら翌日には死んでるからダメだよ」
「――っ!? お前は毒茸をリリーナ様に食べさせるつもりかっ!!」
激昂した赤髪の女が抜刀してシルルンに目掛けて斬り掛かったが、剣を体に受けてもダメージは皆無なのでシルルンは敢えて避けようとしなかった。
だが、フィンが反応して嘴で剣を破壊し、折れた刀身が宙に舞う。
「そんな馬鹿なっ!? この剣はミスリルなんだぞ……」
フィンを見つめる赤髪の女は信じられないといった形相だ。
シルルンはフィンの頭を撫でる。フィンはとても嬉しそうにしている。
「で、この茸は超激レアなんだけどどうする?」
「もらいなさいリリーナ。その茸をあなたが食べれば若返るわよ」
『アイテム解析』で黒と紫の斑模様の茸を視たホベラがリリーナを促す。
「えっ!?」
赤髪の女は頭を鉄の棒で殴られたような衝撃に襲われた。
「……ではなぜ私が食べると死ぬと言ったんだ?」
赤髪の女は不満げな表情を浮かべている。
「その茸を食べると50歳若返るから、あなたが食べれば死ぬことになるのよ」
シルルンの代わりにホベラが答えた。
黒と紫の斑模様の茸はシロが作りだしたのだが、シロの茸のほとんどが難点を抱えていた。
ちなみに、うさポンは10歳若返る光り輝く紫の茸を作りだしたが、10歳未満の者が食べたとしても赤ちゃんになるだけで死ぬことはない。
「この子はリリーナ様のことになるとすぐカッとなるのよ。だから許してあげて」
シルルンの反撃を恐れた青髪の女が心配そうにシルルンに訴える。
「ほ、本当に申し訳ない……」
冷静になった赤髪の女は深々と頭を下げた。
「へぇ……」
(ちゃんと謝れるんだ。ハズキたちみたいにいかれてるんだと思ってたよ)
シルルンは意外そうな表情を浮かべている。
「それではありがたく頂きますね。このお礼は私が勇者であり続けることで返したいと思います」
シルルンから黒と紫の斑模様の茸を受け取ったリリーナは屈託のない笑みを浮かべる。
「うん、その茸は寝る前に食べてね。で、魔物がいっぱいいるけど勝てそうなのかい?」
「当たり前だ!! 俺たちはそのために来たんだぞ」
カリバーンは当然のように答えた。
彼の傍らには巨漢の女の姿もあった。彼女はカリバーン付きの従者として行動を共にしているのである。
「じゃあ、任せるよ。レインジテレポート」
レインジテレポートの魔法を唱えたシルルンは、フィンと共にその場から掻き消えた。
「……えっ?」
これにはリリーナたちはおろか、ヒーリー将軍たちも呆然と立ち尽くしたのだった。
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