313 プルの憂鬱
領地内での農作業を終えたプルたちは、自宅に向かって飛行していた。
彼らの仕事は様々な場所から土を採取し、土置き場に溜めることと、その土を使用して試作農地を作ることである。
土置き場の土には採取場所が記されており、試作農地でルーミナがトマトを栽培して土が評価されるのだ。
これにより、ルーミナに良い土と判断された土は、プルによって地形が変わるほど採取されるのである。
「トマトがおいしいデチュ!! おいしいデチュ!!」
プルの頭の上でプルルが幸せそうにトマトをバクバクと食べている。
農地ではケンタウロス種たちが農地を耕しており、人族の女たちが楽しげにトマトの収穫を行っている。
プルの領地では、全ての農地をプルが所有しているので、住民全員で全ての農地を管理しているのである。
「こんな穏やかな日々が送れるなんて上層にいた頃には想像もできなかったわ」
「こんな日がずっと続けばいいのに」
「続くわよ。プル様はとても強いし、プル様が仕える王は常軌を逸した強さだとクイーン様が言ってたもの」
ケンタウロス種たちの雑談が聴こえていたプルは不満そうな表情を浮かべており、仕事を手伝っていた彼女らの子供たちがプルルに気づいて駆けてくる。
「プルル、遊ぼ!!」
「馬鹿、違うだろ。輸送に行くんだよ」
「プルルも来るよね?」
下位種である彼らの言葉は殺牛語なので、本来ならプルルに通じないが、プルルは『言語』を所持しているので理解できるのだ。
「パパ!! 行ってくるデチュ!!」
プルルは元気よく跳躍してケンタウロス種の子供の背に乗り、プルルたちはトマト倉庫に向かって駆けて行った。
それを見送ったプルは一人帰路につく。
彼の家は未だグレイたちが作成した直径30センチメートルほどの家のままである。
家に到着したプルは家の中に入る。
「……住民が貧弱すぎて戦いに行けないデス」
憂鬱げに溜息を吐いたプルは地面をのたうち回りたい衝動を必死に堪えている。
彼はすでに領主であることに飽きており、貴族になったことを後悔していた。
だが、投げ出すことは彼の矜持が許さなかった。
そのため、彼は新たな住民を探す決意をし、その住民の候補はケンタウロス種のオスと彼の同族のスライムである。
プルはケンタウロス種の生息場所は知らないが、スライムは知っているので、スライムを探しながらケンタウロス種も探せばよいと考えて、テレポートの魔法を発動して転移した。
彼が出現した場所はトーナの街から南にある森だ。
「ぷるぷるる……ぷるぷるる……ぷるぷるる……」
瞼を閉じたプルはスライム語で周辺にいるかもしれないスライムたちに呼び掛ける。
しばらくすると、一匹のスライムが現れたのでプルは口からトマトを取り出してスライムに与えた。
スライムは嬉しそうにトマトを食べており、プルは一時間ほど呼び続けたが三匹しかスライムは集まらなかった。
この森はカース・ホーネットたちが暴れ回ったことで強い魔物たちが激減したことにより、自然発生で下位種の魔物が激増し、熾烈な縄張り争いが続いているのだ。
その様な状況下で最弱のスライムが生き残ることは難しく、三匹しかいなかったのだがそんなことはプルは知らないのである。
プルは三匹のスライムを口の中に保護し、上空からケンタウロス種を探したが発見できずに領地へと帰還した。
彼はすぐに農地へと赴いて虫を大量に採取し、シルルンから学んだやり方で貧弱なスライムたちに虫を踏ませてレベルを上げにかかる。
プルはスライムたちにひたすら虫を踏ませていると、いつまで続ければいいのかという疑問が生じ、その疑問を発端に新たな問題も浮上する。
「『鑑定』系の能力がいるデス……それに貧弱なスライムたちを護る家もいるデス」
考え込んで結論に達したプルは「領地まで来てくれ」とグレイたちに思念を送ると、グレイたちはすぐにプルの領地にやってきた。
「プルルにそっくりの家を作ってほしいデス」
プルが『触手』を長く伸ばして家の大きさを示したが、グレイは微妙な表情を浮かべている。
プルとプルルは大きさが違うだけで姿は瓜二つだからである。
グレイは体の中から宝玉を取り出して『亜空間』を発動し、開けた空間から尋常ではない量の石と砂が流れ出た。
彼が『亜空間』が付加された宝玉を所持している理由は、身に着けられる腕輪や指輪に比べて人気がないのでシルルンが与えたからである。
グレイたちは染料を石や砂に混ぜ合わせて瞬時に家を作り上げる。
彼らの技術は造形だけでなく着色まで完璧だった。
これにより、家の横幅が100メートルほどもある、プルに瓜二つな家が誕生した。
「お礼のトマトデス」
プルはトマトを口から大量に取り出したが、グレイはトマトに見向きもしなかった。
「そうだったデス!! グレイたちは鉄しか食べなかったデス!!」
トマトを口の中に収納したプルは鉄の塊を大量に取り出して地面に置くと、グレイたちは嬉しそうに鉄の塊を体内に吸収して去っていったのだった。
後はスライムたちの強さを知る手段だと考えたプルは、スライムたちを連れてゲートの魔法で転職の神殿に転移する。
とりあえず彼は転職の神殿の水晶玉に触れることで、スライムたちのステータスを確認できると考えたのである。
だが、思わぬ問題が発生してプルは考え込んだ。
ステータスの確認は本人しかできず、自我意識がないスライムたちには内容すら理解できないからだ。
何か解決策はないかとプルは自身のステータスを水晶玉で見ていると、『三重職』の効果を知って閃いたのだ。
あと二つ職業に就けることをだ。
プルの脳裏に瞬間的に浮かんだのはプニの職業で、彼は下級職から順に転職できる職業を確認したが【魔物使い】はなかった。
「プルは【魔物使い】になれないデス……」
プルはしょんぼりしていたが、【魔物使い】に就けなくても鑑定系の能力や魔法がある職業でも問題ないことに気づく。
彼は再び下級職から職業を確認していく。
「【似非入道】……これは鑑定系がないデスね」
下級職で転職できる職業は一つしかなく、プルは上級職の一覧を見ていく。
「【剣客】があるデス!! でも【チョウチンアンコウ】はなんでカタカナなんデスか?」
プルは【剣客】を気に入ったが、鑑定系の能力や魔法はなく、【チョウチンアンコウ】は『挑発』しか能力がなかった。
【剣客】を保留にした彼は最上級職の一覧を確認する。
「【達人】があるデス!! 【チンパンジー】もあるデス!! 猿に変身できるデス!!」
プルは【チンパンジー】の能力である『猿化』の効果を確認して大はしゃぎだ。
彼は【チョウチンアンコウ】を目にしたことで、【チンパンジー】という訳の分からない職業が表示されている異常さに全く気づいていなかった。
プルは躊躇なく【チンパンジー】と【達人】に就いて帰還したのだった。
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