表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
大穴攻略編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/300

31 勇者セルド 修


 A3ポイントには穴を埋めるための資材が大量に運び込まれており、放置されていたアラクネの死体ごと大穴は塞がれて、工兵隊が地面に鉄板を敷き詰めたのだった。


「大穴を塞ぐ作業が完了したとのことです」


 側近の報告に、ロレン将軍は硬い表情で頷いた。


 精鋭部隊が進軍してから上位種は出現していないが、包囲陣の前にはいまだ二千匹以上の魔物の群れが存在し、軍も二千名の兵士で包囲陣を敷いているのである。


 包囲陣に押し寄せる魔物の群れをロレン将軍は考え込むような表情で眺めている。


 彼はA3ポイントを国で例えるならば、首都のようなものだろうと思案していた。


 つまり、部屋の許容を超えた魔物の群れが食料を求めて洞穴を進むと、どのルートを進んでも必然的にA3ポイントに辿りつくのではないかと彼は考えていたのだ。


 そのため、魔物たちは制限なくA3ポイントに集まってくるので、今の戦力では現状の選択が最善だとロレン将軍は思っていた。


「君がロレン将軍かい?」


 男は涼しげな笑顔でロレン将軍に話し掛けた。


「貴様、見ない顔だな……何者だ!!」


 側近が相手を射抜くような鋭い眼光を向ける。


「王から何か聞いてないかい?」 


「お前が代わりとなる戦力なのか?」 


「俺の名はセルド。聞いたことはないかい?」


「……セルド!! まさか孤高の勇者セルドか!?」


 ロレン将軍は驚きのあまりに血相を変える。


 セルドが左腕を前に突き出すと左腕が金色に輝く。


「し、失礼しました!!」


 顔面蒼白になった側近は即座に地面に肩膝をついて跪き頭を下げた。


「勇者殿、よ、よく来てくれた!!」


(これで我々の勝利は確実だ)


 恭しく敬礼したロレン将軍は歓喜に打ち震えている。


「勇者殿が来るのなら教えてくれてもいいのにな……王も人が悪い」


 ロレン将軍はかすかな苦笑を滲ませる。

 

「ここには上位種もいると聞いていたがどうやらいないようだね」


「数日前まではいたんだが全て倒した。だが、いつ現れてもおかしくはない」


「へぇ……君が倒したのかい?」


 セルドはロレン将軍の目を正面から覗き込む。


「いや、冒険者たちが倒したんだ」 


「なるほど。その冒険者たちに会ってみたいね。まだいるのかい?」


「いや、すでに先に進んでいる」


「ここが最前線だと聞いていたがどうやら違うらしい」


「ああ、そうなるな」


「なるほど……それより君はいい体をしているね。鎧を脱いでみてくれないか?」


「わ、分かった」


(勇者に体を見てもらえることなど一生に一度あるかないかだろうな……)


 ロレン将軍は緊張した面持ちで鎧を脱いだ。


「うん、いい体をしているね。どうやら鍛錬は怠っていないようだね」


 セルドは怪しい笑みを浮かべながら、ロレン将軍の手や腕はそこそこに体を触り始める。

 

「ああ、毎日の鍛錬は欠かさずやっている」


 しかし、ロレン将軍は困惑の表情を浮かべていた。


 セルドが胸や尻を執拗に触るからだ。

 

「君はどうやら体に何か不調をきたしているね」


「な、なぜそれを!?」


 ロレン将軍は純粋な驚きに満ちていた。


「まぁ、力を抜いてリラックスしなよ。やれるだけのことはやってみるから」


「よ、よろしく頼む……」


 ロレン将軍は申し訳なさそうに頭を下げる。


「それで討伐隊を率いているのは誰なんだい?」


「ヒーリー将軍だ」


「ヒーリー将軍? それは女かい?」


「あぁ、女性の将軍だ」


 途端にセルドが不機嫌そうな顔になったが、それを側近は見逃さなかった。


「上位種を倒した冒険者たちも同行してるんだよね?」


「ああ、ラーグ隊、リック隊、ホフター隊が同行している」


 その言葉に、セルドは嬉しそうな表情を浮かべていたが、側近は不審げ眼差しをセルドに向けていた。


「なるほど。ラーグ隊とホフター隊の名は聞いたことがあるよ。どの洞穴に進んだのかな?」


「一番左の洞穴だ」


「分かった。追いかけてみるよ」


 踵を返したセルドは洞穴に向かって歩いて行った。


「将軍はどこかお体が悪いのですか?」


 側近が真剣な硬い表情で尋ねる。


「ああ、少しな……だが仕事に支障はない」


「どうかご自愛ください」


「ああ、分かっている。だが、勇者というのはやはりすごいものだな。体を触っただけで体の不調が分かるとはさすがとしか言いようがない」


 その口調からは、ロレン将軍が勇者を深く尊敬しているのがありありと窺えた。


「将軍、あえて言いますがあの勇者はゲイです。体に不調があるのではないか? と言ったのも体を触るための口実だと思われます」


「なっ!?」


 目を大きく見張ったロレン将軍は絶句したのだった。




  












  

 学園ではテックとミーラが大穴から帰還してから初めて、シルルンのスライム小屋を訪れていた。


 大穴から帰還した彼らは心身共に疲れ果てており、回復するまでに時間を要したのだ。


「よう、もう体は大丈夫なのか?」


 ピクルスは軽く眉を顰めている。


「まぁ、なんとかね。シルルンさんはまだ戻ってないみたいだね」


 その言葉に、ピクルスは一瞬怪訝な表情を露にした。


 シルルンを“さん”づけしているからである。

 

「それでどうだったの? 大穴の中に落ちて彷徨っていたって聞いたけど」


 青いスライムを優しく撫でながらキュリーが視線をミーラに向けた。


「そうね、大穴に落ちる前に私とテックは死に掛けてるけど、大穴は本当に最悪だったわ」


「死に掛けたってどういうことなの?」


 キュリーとピクルスは驚きの表情を見せる。


 その話の内容にハズキたちやスラッ子たちも聞き耳を立てている。


「森で休憩していたらいきなりマンティス種たちに襲われて、風の刃に切り裂かれたのよ。それで私とテックが意識を失ってそれで終わり」


 ミーラは胸を切られたような仕草を表現した。


「お、終わりってそれでどうなったの?」


「リザさんとシルルンさんがマンティス種たちを倒したのよ。私たちは意識がないから分からないわ」


「そ、そうなんだ……でも、ハイ ウルフを連れて行ってたんでしょ?」


「トーラスとシレンは辺りを警戒させてたんだよ。けど、マンティス種は風属性の遠距離攻撃を得意とする魔物でね……遠距離から風属性の攻撃でバッサリとやられたんだよ」


「あとになってリザさんから聞いたんだけど、私たちは助からないと途中で諦めたって言ってたわ」 


「じゃあ、どうやって助かったの?」


「それはシルルンさんがうまく立ち回って助けてくれたのよ」


 ミーラは両手で頬を押さえて顔を紅潮させる。


「カマキリの魔物はそんなに強いのか?」


「マンティス種は狡猾だからね。近接戦をさけて遠距離攻撃を仕掛けてきたらしい。それに下位種が三匹と通常種一匹の四匹相手だからね」


「ほんとに虫なのかよ……」


 ピクルスは目を見張る。


「湖で出会ったマーメイドさんも駆けつけてくれたみたいなのよ」


「マ、マーメイド!? じゃあマーメイドが助けてくれたんだ」


 キュリーの顔がパーッと明るくなる。


「ううん、マーメイドさんもバッサリやられちゃったみたいなの。それも私たちより酷くて体が二つに裂けたっていってたわ」


「なんだよ、マーメイド弱いな。じゃあ、どうやって助かったんだ?」


 ピクルスは探るような眼差しをミーラに向ける。


「だから、シルルンさんが戦いながら私とテックとマーメイドさんを回復させて、下位種のマンティスを全滅させたのよ」


「マ、マジかよ……シルルンすげぇなっ!!」


「シルルンさんがいなかったら私たちはこの世にはいなかったのよ」


「ねぇ、さっきから思ってたんだけどミーラはシルルンのことが好きになったの?」


 キュリーは訝しげな眼差しをミーラに向ける。


 だが、この発言にパールは眉を顰めた。


「と、と、とんでもないわ!! そういうのじゃなく、私はシルルンさんを尊敬してるのよ。命を助けられた大恩人だし」


「ふ~ん……そうなんだ……」


 キュリーは不審げにミーラを見つめている。


「で、大穴のほうはどうだったんだ?」


「まさに地獄だったよ。シルルンさんが魔物の少ないほうに誘導してくれてたから助かったけど、軍と合流する前の戦いは何度ももうダメだと思ったからね」


「そ、そんなにヤバイのか……」


「食料がなくなった状況で、前に千匹、後ろに千匹の魔物の群れに挟まれて絶対絶命の戦いを半日は続けてたからね」


「おいおい、いくらなんでも千匹は言い過ぎだろう?」


「じゃあ、言い直すよ。千匹以上の魔物だよ。だから僕らの生還は奇跡だと言われてるんだよ」


「マ、マジかよ……」


 ピクルスは閉口する以外になかった。


「私はあれがカッコ良かったと思ったわ」


「シルルンさんがトーラスとシレンを率いて魔物の群れに突っ込んだときだろ?」


「うん、そう!!」


 ミーラとテックは互いに笑い合っている。


「ねぇ、何の話?」


 キュリーが不可解そうにミーラに尋ねた。


「洞穴から広い部屋に出たと思ったら千匹ぐらいの魔物の群れと、マンティス種の大群が戦闘を繰り広げていたの。私たちはすぐに柱の裏に身を隠したのよ」


「す、すごい状況ね……」


「そこに魔物の群れを足止めしてたシルルンさんとシレンが部屋に到着したのよ。シルルンさんはシレンとトーラスを率いて魔物の群れを貫いてマンティス種と戦ったのよ」


「マ、マジかよ……」


 ピクルスとキュリーは呆然として身じろぎもしない。


「……ねぇ、シルルンってそんなに強いの?」


「当たり前よ!! 千匹もの魔物の群れに突撃してキュリーは生還できる?」


「できないわよ……」


「シルルンさんはそれをやってのけたのよ!! それに迷惑ばっかりかけてる私に一言も文句を言うこともなく、逆に気遣ってくれた心も強い人よ」


 そう捲くし立てたミーラはうっとりした表情を浮かべている。


「私のイメージではすごく貧弱で小動物のイメージなんだけど……」


「それは仮の姿よ……あれほどの偉大な人が一般人と一緒にやっていくための苦肉の策なのよ」


「ホ、ホントにそうなの?」


 キュリーは疑念を抱かずにはいられなかった。


「私たちはハイ ウルフを使役できるのに心が折れた……たけど、シルルンさんは戻ってきてないのは彼が強いからよ。まぁ、一緒に旅に出たらその片鱗はすぐ見えるわよ」


 ミーラは自身満々に言い放った。


 こうして、大穴での出来事をミーラとテックは延々と話し続けるのだった。












挿絵(By みてみん)


注、無理矢理、側面図に描いてるので実際の位置とは異なる。



 討伐隊たちはA4ポイント(溶岩の部屋)から先に進軍しており、A4ポイントには先に掘られている洞穴が三本あった。


 A4aルート

 A4bルート

 A4cルート


 この三本のルート中で、真ん中のA4bルートが地面の幅と高さが三十メートルほどもあり、ヒーリー将軍はA4bルートの先に主がいると推測し、A4bルートへの進軍が決定したのだ。


 軍が十キロメートルほど進んだ辺りで百匹ほどの魔物の群れと遭遇し、上級兵士たちが対応して殲滅したが、三十キロメートル地点で千匹ほどの魔物の群れと戦闘になる。


 その魔物の群れの全てが通常種であり、その大半がモール種とセンチピード種でしかも高レベルだった。


 軍の聖騎士たちが前面に出て魔物の群れと戦いを繰り広げるが、天井や壁から突破される。


 あまりの魔物の数に中間を進軍するラーグたちも突破されて、後方を進軍するシルルンたちに魔物の群れが襲い掛かったのだ。


「おいおいっ!! 百匹はいるぞ!!」


 表情を強張らせるベータは庇うようにスラッグの前に出る。


 天井を駆けるモールの群れにシェルリングが『斬撃衝』を放ち、風の刃に切り裂かれた六匹ほどのモールが血飛沫を上げて天井から落下した。


 プルたちも一斉に攻撃魔法を唱えて、魔法が直撃した魔物の群れが地面に墜落するが、残りの魔物の群れはシルルンたちに目掛けて突進する。


「ブリザー!!」


 エベゼレアがブリザーの魔法を唱えて、地面を駆ける五匹ほどのモールが凍りついたが、魔物の群れの勢いは止まる気配がない。


 天井を駆ける二十匹ほどのモールが一斉にアースの魔法を唱えて、無数の岩や石がシルルンたちに襲い掛かる。


 シルルンたちは難なく降り注ぐ石や岩を回避したが、スラッグを庇ったベータたちが岩や石に打ちのめされて血反吐を吐いて地面に突っ伏した。


 シェルリングが『斬撃衝』を連続で放ち、風の刃が天井のモールたちを切り裂いて、十匹ほどのモールたちが血飛沫を撒き散らしながら地面に墜落する。


 しかし、残りのモールたちが散開して天井からアースの魔法を唱え続けて乱戦へと移行する。


「お、お怪我はありませんか!?」


 イネリアは真っ青な顔でスラッグの元に駆け寄った。


「俺は大丈夫だがベータが……」


 背骨が折れているベータはあり得ない方向に体が曲がって痙攣しており、彼の仲間たちも全身を骨折して今にも死にそうだ。


「ひぃいいぃ!! 重症だね……」


 シルルンの肩からプニがピョンと跳び下りてベータたちの傍に移動し、プニはヒールの魔法を唱えてベータたちの傷を瞬く間に癒した。


「す、すまねえな……さすがに死んだと思ったぜ」


「ていうか、あれぐらい回避できなきゃ、これから先はもっとヤバイと思うんだけど大丈夫なのかい? 次は死んじゃうかもしれないよ?」


「ここまで来ちまったんだ。いまさら戻るのも無理だ……」


 ベータは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


 天井からモールたちがアースの魔法を唱えて、数知れないほどの岩や石がシルルンたちに襲い掛かる。


「マジックリフレクトデス!!」


 プルはマジックリフレクトの魔法を唱えて、七色の盾がシルルンたちの前面に展開して岩や石が跳ね返ってモールたちに激突し、モールたちは地面に落ちてのたうち回る。


 シルルンは「マジックシールドの魔法をベータたちに掛けて」と思念でプニに指示を出す。


 頷いたプニはマジックシールドの魔法を唱えて、ベータたちの前に透明の盾が展開する。


「ありがてぇ!」


「じゃあ、頑張って逃げ回ってね」


 シルルンたちが前線に戻ると、すでに百匹ほどいたモールの群れは十匹ほどまで減少しており、その十匹もシェルリングが巨大な鎌で斬り殺してモールの群れは殲滅されたのだった。


 シェルリングはモールたちの死体を食い散らかしており、プルやブラックもモールたちの死体を『捕食』している。


 モール百匹を討伐したシルルンたちは、イネリアから二千万円の討伐金を受け取り、シルルン、リザ、エベゼレアで分配してから進軍を開始したのだった。


 




 










  


 シルルンたちは中間を進軍するラーグたちを追いかけて進んでいた。


 だが、地面には凄まじい数の魔物の死体が転がっており、シルルンたちは追いかけているだけなのにも拘わらず、ラーグたちに追いつくことはできなかったのだ。


 先頭のシェルリングは大鎌で魔物の死体を突き刺して食べながら進んでおり、その後ろを追従するブラックも負けずに魔物の死体を『捕食』している。


「……」


(いったいどこに魔物が入ってるんだろう……)


 不可解そうにシルルンはブラックを眺めている。


 先行する軍やラーグたちに魔物たちの大半が倒されており、シルルンたちは天井や地面から出現する魔物を倒しながら進んでいるだけなのである。


 だが、その魔物たちも先頭を進むシェルリングが倒しているので、最早、進むだけで金が発生する道を歩いているようなものでシルルンは笑いが止まらなかった。


 シルルンたちがさらに三十キロメートルほど進んだ地点で、軍やラーグたちが待機しており、そこで休憩になる。


「おそらく、この先に主がいる可能性が高いと軍は考えているらしい」


 軍の会議から帰還したスラッグが真剣な硬い表情で話を切り出した。


「マジかよ!? またマジックシールドを頼む」


 ベータはシルルンに対して深々と頭を下げた。


「了解。ついでにシールドも掛けとくよ」


「ここまで奇跡的に死者が出ていないみたいだ。皆の生還を祈る」


 スラッグがひどく神妙な顔つきで皆の顔を見渡したのだった。


 それから数時間の休息後、軍は進軍を開始した。


 軍が五キロメートルほど進軍した地点に部屋を発見し、その部屋の広さは直径五キロメートルほどで、中央には二千匹を超える魔物の群れが佇んでいた。


 そして、部屋の最奥には巨大な魔物の姿があり、全長八メートルを超える巨体のハイ モール三匹が確認された。


 ハイ モールは軍が大穴の主と推定している魔物である。


「ハイ モールの一匹は俺たちの隊が討伐する」


 即座にラーグが声高らかに宣言した。


「当然、俺たちも一匹もらう」


 それに呼応するようにホフターが自信に満ちた表情で言い放つ。


「では残る一匹は俺たちだな」


 リックは平然と言ってのけた。


 彼らは隊を率いて部屋に突入して、魔物の群れに目掛けて突進した。


「我々の標的は中央の魔物の群れだ。全軍突撃せよ!!」


 ヒーリー将軍が号令をかけると、ベル大尉が軍を率いて出陣する。


「ひぃいいいぃ!! よくあんなところに突撃する気になるよ」


 シルルンは「シールドの魔法とマジックシルードの魔法をベータたちに掛けて」と思念でプニに指示を出す。


 プニはシールドの魔法とマジックシルードの魔法を唱えて、ベータたちの前に透明の盾が二つずつ展開する。


 それを見届けたシルルンたちは部屋に突入したが、部屋の出入り口付近で様子を窺っている。


 ラーグたちは魔物の群れを貫こうと突撃を繰り返しており、ベル大尉率いる部隊が魔物の群れと戦端を開く。


 だが、魔物の群れは人数が多いベル大尉の部隊を標的と定めて襲い掛かり、ベル大尉は円陣を敷いて防御に徹することになる。


 その片脇を悠然と歩く男がいた。


 アウザーである。


 アウザーが槍を振るうたびに三十匹ほどの魔物が真横に斬り裂かれ、血飛沫を上げて絶命していく。


 しかし、天井から巨大過ぎる魔物が三匹降下した。


 全長十八メートルを超えるハイ センチピードが出現したのだ。


 その内の一匹がベル大尉の部隊にペトリファイの魔法を唱えて、黄色い風が上級兵士たちの体を突き抜ける。


 五名ほどの上級兵士が一瞬で石化し、ハイ センチピードは凄まじい速さでベル大尉の部隊に体当たりを繰り出した。


「ぎゃあぁああああぁああぁぁ!!」


「うわぁあああああぁぁああああああぁぁ!!」


「がぁあああああああぁぁああああぁぁ!!」


 ベル大尉が組んだ円陣は中央突破されて崩壊し、上級兵士たちの絶叫が折り重なる。


 そこに魔物の群れが襲い掛かり、上級兵士たちは為す術なく魔物の群れに食い殺されていく。


 残る二匹のハイ センチピードの一匹がシルルンたちに向かって移動し、残りの一匹がアウザーに向かって突撃する。


 アウザーは全く動じておらず、彼が放った槍の一撃により、ハイ センチピードは体を縦に真っ二つに斬り裂かれて、おびただしい量の血を撒き散らして沈黙した。


 シルルンたちを敵と定めたハイ センチピードは猛然と突き進む。


「ひぃいいいいいいっ!! でかっ!! でか過ぎるっ!!」


 シルルンは驚きのあまりに血相を変える。


「サンダーデス!! サンダーデス!!」


「エクスプロージョンデシ!! エクスプロージョンデシ!!」


「アース!!」


 プル、プニ、ブラックが一斉に攻撃魔法を唱えて、胴体が爆砕したハイ センチピードが耳をつんざくような奇声を上げる。


 ハイ センチピードに瞬時に詰め寄ったシェルリングは、大鎌の連撃を振るってハイ センチピードをメッタ斬りにしており、リザとエベゼレアがハイ センチピードの胴体に剣の連撃による猛攻を加えるが、ハイ センチピードの高い守備力の前にほとんどダメージを与えていなかった。


 見兼ねたラーネが戦線に加わると、ハイ センチピードは瞬く間に解体されて巨大な肉片と化す。


 その光景を目の当たりにしたリザとエベゼレアは戦慄を禁じ得なかった。


 シェルリングは大鎌を巨大な肉片に突き刺して食らい、プルとブラックも巨大な肉片を『捕食』したのだった。


 一方、魔物の群れを突破したラーグたちはハイ モールと戦闘を繰り広げていたが、ハイ モールは彼らが想定していたよりも弱かったのだ。


 そのため、ラーグたちは終始圧倒して勝利を収めており、彼らが視線を軍に転じると軍の陣形が崩壊して魔物の群れに強襲されていたのである。


「……どうやらハイ センチピードの仕業だね」


 ラーグは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


「おいおい、どう考えてもあっちのほうが強いだろ……なぁ?」


「……そのようだな」


 ホフターの言葉に、リックは同意を示して苦々しげに頷いた。


 ラーグたちは意を決して再び魔物の群れに突撃したのだった。


 円陣の中央で指揮を執るヒーリー将軍は、必死の形相で指示を飛ばして円陣を再構築している。


 ベル大尉は聖騎士たちを率いてハイ センチピードと戦いを繰り広げているが、暴れまわるハイ センチピードの動きすら止めることはできないでいたのだった。

 

 そんな中、洞穴の出入口から新たな魔物が姿を現した。


 真ん中の眼が稀に青く光るハイ スパイダーが現れたのだ。


「ひぃいいいいいいいいぃ!! 最悪だっ!! あれは僕ちゃんたちが彷徨っている時に出くわしたハイ スパイダーだよ」


 シルルンはの顔が驚愕に染まる。


「フフッ……あの子ったらこんなところまで追いかけてきたのね」


 ハイ スパイダーは部屋の出入り口前で多数ある眼を動かしていたが、唐突にシェルリングに目掛けて矢のごとく疾駆した。


 瞬時にシェルリングは後方に跳躍して距離を取ったが、ハイ スパイダーは目にも留まらぬ速さでシェルリングに肉薄して前脚の爪を繰り出した。


 その刹那、光り輝く風の刃にハイ スパイダーの体が切り裂かれて真っ二つに裂ける。


「ファイヤミラクル」


 洞穴の出入口からセルドがファイヤミラクルの魔法を唱えて、灼熱の業火がハイ スパイダーを焼き尽くし、ハイ スパイダーは一瞬で炭へと化した。


 セルドは歩を進めたが、眉を顰めてラーネの前で歩みを止める。


「お前は怪しい感じがするな……何か混ざってるのか?」


 セルドは射抜くような鋭い眼光をラーネに向ける。


「あぁ……あっ……」


 蛇に睨まれた蛙のように萎縮したラーネは真っ青な顔でガダガタと震えている。


「もう、ダメだよダメッ!! ラーネは僕ちゃんのペットなんだからね」


 シルルンがセルドとラーネの間に割って入る。


「こいつが君のペット? 本気で言ってるのかい?」


「うんうん、そうだよ」


 セルドはシルルンの目を正面から覗き込んだ。


 その目は心の奥底さえも見抜くような眼差しだった。


「……どうやら、操られている訳ではなさそうだ」


「あはは、だから言ってるじゃん。ラーネは僕ちゃんのペットだって」


「だが、その顔は覚えた。その意味は解るな?」


 セルドが鋭利で容赦のない視線をラーネに向けると、ラーネはシルルンにしがみついてこくこくと頷いた。


「俺は冒険者ギルドのギルドマスターでスラッグという者だ。君は一体何者なんだ?」


「俺の名はセルド。聞いたことはないか?」


「セルド……まさか孤高の勇者セルドかっ!?」


 スラッグはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。


 セルドは歩きながら背中に背負った長剣を抜き放つ。


「エクスカリバー!!」


 セルドは長剣を振るって『エクスカリバー』を放ち、光り輝く風の刃が暴れ狂うハイ センチピードの体を縦に切り裂いて、、ハイ センチピードは血飛沫を上げながら崩れ落ちた。


「つ、強ぇ!! こ、これが勇者の力か!?」


 ベータが感嘆の声を上げる。


「サンダーミラクル!!」


 セルドはサンダーミラクルの魔法を唱えて、凄まじい稲妻が魔物の群れに降り注ぎ、二百匹ほどの魔物が一瞬で炭になり、アウザーやラーグたちが攻勢を強めて魔物の群れは殲滅されたのだった。


「一体何が起こったのだ!?」


 困惑して辺りを見渡したヒーリー将軍の視界には、セルドがラーグたちに向かって歩いていく姿が見えたのだった。


「初めまして勇者セルド」


 神妙な表情を浮かべるラーグは恭しく一礼した。


 その言葉に、ホフターとリックは驚きを隠せなかった。


「君が聖騎士のラーグかい? 噂は聞いてるよ」


「マジかよ!? あんた本当に勇者セルドなのか?」


「君がホフターだろ? 君の噂もよく聞くよ。ハイ ウルフ二匹を使役する格闘家がいるってね」


 セルドは会心の笑みを見せたが、彼の好みではないリックへの言葉はなかった。


「あなたがあの孤高の勇者セルド殿なのか!?」


 ヒーリー将軍は嬉しそうに尋ねた。 


「ああ、そうだ。君のこともロレン将軍から聞いているよ」


 しかし、悠然と歩いてきたアウザーがセルドと対峙する。


「貴様、本物か?」


 アウザーは切るような鋭い視線をセルドに向けた。


 その刹那、アウザーは槍を真横に振るったが、セルドは長剣で受け止める。


「ほう……俺の一撃を受けるか」


 アウザーは不敵な笑みを浮かべているが、セルドは全身をつらぬいて走る戦慄を禁ずることが出来なかった。


 身を翻したアウザーは上級兵士たち向かって歩いて行く。


「……恐ろしい男だ。彼は一体何者なんだい?」


 額から汗が噴出しているセルドは緊張した面持ちでスラッグに訪ねる。


「武学の教官らしい」


 セルドは信じられないといったような形相だ。


「それにしても本当に助かった勇者殿。あなたが来てくれなければ私の兵士たちは全滅していたかもしれん。それに主も討伐できたことだし、ロレン将軍に良い報告ができるというものだ。礼を言わせてくれ、ありがとう」


 ヒーリー将軍は深々と頭を下げた。


「君は勘違いをしている。主はまだ倒せていない。あそこを見てみろ」


 セルドが指し示す方角に全員の視線が集中し、誰もがそれを目の当たりにして血相を変える。


 ハイ センチピードを屠った『エクスカリバー』が直撃した部屋の壁に、隠された洞穴が露出していたからである。


「えっ~~~~っ!? マジで!?」


(やっと帰れると思ってたのに……)


 この事態にシルルンはうんざりした表情を浮かべたのだった。


 ちなみに、シルルンたちは上位種一匹と通常主を百匹ほど倒したので、合計で三千万円ほど稼いでおり、一人あたり一千万円の取り分になっていた。


 この戦いで上級兵士が八十名、魔法師が八名、司祭が五名、ラーグ隊の大怪盗が一名、ホフター隊が四名、リック隊の重戦士二名と格闘家一名が戦死していたのである。


 軍やラーグたちは戦死者たちに哀悼の意を捧げたのだった。

面白いと思った方はブックマークや評価をよろしくお願いします。


ミラクルの魔法について


いわゆるミラクル系といわれる魔法系統で、ほんの一握りの天才が使用できる魔法であり、全ての魔法に使用できるとされているのである。


 ミラクル系の魔法は通常魔法の5倍から10倍の威力があるとされ、複数の魔法を融合して放つことも可能とされている魔法なのである。


例 ファイヤボール+サンダー=ライトニングボールミラクル


ハイ モール レベル1 全長約8メートル

HP 1200~

MP 200

攻撃力 300

守備力 200

素早さ 200

魔法 アース スリープ

能力 統率 麻痺牙 毒爪 毒牙 HP回復 豪食


ハイ モールの毛皮 2万円




ハイ センチピード レベル1 全長約18メートル

HP 1400~

MP 200

攻撃力 550

守備力 350

素早さ 300

魔法 コンフューズド ペトリファイ

能力 剛力 毒牙 堅守 猛毒


ハイ センチピードの殻 10万円

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。 リンクをクリックしてもらえるとやる気が出ます。 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 色々な意味での人外大集合..............(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ