304 ファーストコアダンジョン⑤
「で、石化したそのガキはどうするんですかい?」
歩き始めたシルルンの隣に並んだバーンがシルルンに尋ねる。
「う~ん、このまま魔法の袋の中にしまっておくか、プリン王子に渡すかのどっちかだよね。まぁ、後者の場合でも、僕ちゃんの『石化』は【聖職者】程度のキュアの魔法じゃ解けないけどね」
「回復魔法のスペシャリストの【聖職者】より上の職業なんかそうそうないよな……」
「まぁ、【賢者】か【回復師】が上の職業になると思うけど、それでも僕ちゃんの『石化』は解けないと思うよ」
「くくっ、じゃあ事実上『石化』を解くことは無理じゃねぇか」
バーンは満足げな笑みを浮かべる。
シルルンたちはメイたちの傍に移動し、バーンが魔法陣に向かって歩を進める。
そのバーンの背中を見送るシルルンは思い出したようにバーンに話しかけた。
「バーンは強くなりたいかい?」
「当然強くなりたいですぜ」
歩みを止めて振り返ったバーンは即答する。
「それがどんな方法でもかい?」
意味深なシルルンの発言にバーンは一瞬眉を顰める。
このやり取りに聞き耳を立てていたメイとロシェールが、興味深げな表情でシルルンを見つめている。
「俺にとって強さは全てだと言っても過言ではない。だから手段は問いませんぜ」
バーンは不敵な笑みを浮かべている。
「そうなんだ。じゃあ、この茸を食べなよ」
(最近のバーンはやられてばかりだからね……)
シルルンは魔法の袋から七色の茸を取り出し、バーンに手渡した。
「……ペットたちが食べていた茸とは色が違うな」
バーンは薄い反応を示しているが、瞬時にバーンの傍に駆け寄ったメイとロシェールが七色の茸を食い入るように見つめている。
「……ゲシュランさんとピクルスさんが急激に強くなった理由はこの茸の効果だったんですね」
「なるほどな……」
バーンが七色の茸を食べると、メイとロシェールは物欲しそうな表情でシルルンを見つめる。
「……食べるかい?」
シルルンは魔法の袋から七色の茸を二つ取り出し、メイとロシェールの前に差し出した。
「「はいっ!!」」
メイとロシェールは屈託の無い笑顔で声を揃えて即答し、七色の茸を口に運ぶ。
「……おぉ!? す、すげぇ茸だな……確実に強さが増したように感じるぜ」
その言葉に、ロシェールとメイも同意を示して頷いている。
「あはは、この茸は新たな職業に目覚めることができるんだよね。紫の茸よりもレアな茸だからあんまり数はないし、売ったら一つで百億を超える値がつくと思うよ」
「ひゃ、100億っ!?」
バーンたちは放心状態に陥った。
「で、バーンは【毒使い】、ロシェールは【戦女神】、メイは【時使い】に目覚めたようだね」
(たぶん、ピクルスが【愛の王子様】に目覚めたことから推測すると、茸を食べた者の潜在意識が職業に影響しているんだろうね……けどこの職業は茸を食べなくてもいずれ目覚めていたのかが疑問だよ。そう考えると自力で職業に目覚めてるゼフドが一番資質が高いのかもしれないね)
『神探知解析』がバーンたちの職業の情報をシルルンに送り、シルルンは考え込むような表情を浮かべている。
「俺は【毒使い】か……」
「わ、私が【戦女神】!?」
「【時使い】? 聞いたことがない職業です」
「三人とも良い職業に目覚めたね。バーンは『無色無臭の猛毒ガス』が強いし、ロシェールは三人の中で飛び抜けてステータスの値が高い。そしてメイは時間を操れる職業だからある意味一番やばいね」
「さっそく試してくるぜっ!!」
喜びに打ち震えるバーンたちは魔法陣に目掛けて走っていったのだった。
「……」
(だけどロシェールの【聖騎士】が消えている……たぶん【聖騎士】から【戦女神】が派生するっぽいね。けど【聖騎士】の代わりに目覚めた職業はロシェールには言えないね)
シルルンは複雑そうな表情を浮かべている。
ロシェールが【聖騎士】の代わりに目覚めた職業は【落ち武者】だったのだ。
ちなみに、今回のようなケースで職業が消失した場合、代わりの職業に目覚めることは極めて稀なのである。
踵を返したシルルンがペットたちに向かって歩いていくと、そこには笛を奏でて踊る玉の白の姿があった。
ペットたちは楽しそうに玉の白の演奏に聞き入っている。
「殺しますかい?」
疑念が拭えないミドリンだけが、ペットたちから少し離れた場所でその光景を眺めていた。
「……さすがマンティス種だね」
(ていうか、あの玉の白はあざといな……)
満足げにミドリンを撫でたシルルンは玉の白に向かって歩を進めながら、無造作に『念力』で玉の白を掴んで握り潰そうとした。
「きゃぁああああああああぁぁ!? こ、殺される!! 助けてくださいぃ!!」
だが、玉の白は大げさな悲鳴を上げてシルルンのペットたちに助けを求めた。
「可哀想ですよシルルンさん……」
シーラの言葉に、ペットたちも憐憫の眼差しをシルルンに向ける。
「……なんの目的でここにきたんだよ?」
深い溜息と共にシルルンは『念力』を解き、玉の白の方へと視線を向けて口を開いた。
「……み、皆さん、あ、ありがとうございます」
(こ、怖すぎる……)
恐怖に打ち震える玉の白はシーラたちに深くお辞儀をした。
「質問に対して質問で返すようで申し訳ありませんが、あなたほどの強大な力を持つ方がどの様な目的で、ここに訪れたのかをお伺いしたくて私は参りました」
「まぁ、いろいろあるけど一番は装身具の魔導具集めが目的だね」
「そ、そうなのですね……魔導具類は運の値やレベル、ステータスの値が高い者ほど落ち易くなっています」
安堵した玉の白はほっと胸を撫で下ろす。
「へぇ、そうなんだ。あとはダンジョンコアを破壊しようかと思ってるんだよね」
「……えっ?」
恐れていた最悪の事態を耳にした玉の白は放心状態に陥る。
「そ、そんな待ってください!! なぜ王を倒すのですか?」
玉の白は縋るような面持ちで訴えた。
「ん? ついでだよ。僕ちゃんが探している魔導具があるとしたらだいぶ下の階だと思うんだよね」
「そ、その魔導具とはどの様なものなのですか?」
「ある能力を付加させたいんだけど、その能力は『解析』でも視ることができないほど強力な能力なんだよね」
シルルンは魔法の袋から青い勾玉を取り出し、玉の白に見せる。
「なるほど……統率系最上位とされる『鬼神』ですね」
『超解析』で青い勾玉を視た玉の白は神妙な表情を浮かべている。
「へぇ、『超解析』だったら視れるんだ」
『神探知解析』から玉の白の情報を送られていたシルルンは、『超解析』を玉の白が所持していることを知っていたので青い勾玉を玉の白に見せたのだ。
「私ならこの場で『鬼神』を付加させることが可能です。ですが王を倒さないと約束していただけませんか? どうかお願いします」
玉の白はシルルンに懇願した。
「うん、いいよ」
「あ、ありがとうございます!!」
こぼれるような笑みを浮かべる玉の白は口の中からオリハルコン製の腕輪を取り出し、シルルンから受け取った青い勾玉を『超付与』でオリハルコン製の腕輪に付加させた。
金色の輝きを発していたオリハルコンの腕輪は、青い勾玉を吸収したことによって青白く輝いている。
「成功です」
会心の笑みを浮かべる玉の白は『鬼神』の腕輪をシルルンに手渡した。
彼女が『超解析』や『超付与』を所持している理由は、このダンジョンの魔導具類の作製を担当しているからである。
「ありがとう」
シルルンは魔法の袋の中に『鬼神』の腕輪を入れる。
彼が『鬼神』の腕輪を身につけずに魔法の袋の中にしまった理由は、『神探知解析』から『鬼神』の情報を得ていたからである。
つまり、極めて高い精神力を有していなければ、『鬼神』による精神干渉を受けて性格が変質するからだ。
「それではこれで私は失礼いたします」
穏やかな表情を浮かべる玉の白は『瞬間移動』を発動してその場から掻き消えたのだった。
毒使い レベル1
HP 3200
MP 1200
攻撃力 1600
守備力 1600
素早さ 1600
魔法 ポイズン パラライズ
能力 二重職 合算 毒壁 毒霧 毒液 麻痺 毒操作 無色無臭の猛毒ガス 毒無効
戦女神 レベル1
HP 10000
MP 5000
攻撃力 4000
守備力 4000
素早さ 4000
魔法 ライト ヒールボール キュアボール ファテーグボール ホーリー ファイヤ エクスプロージョン アンチマジック
能力 三重職 合算 剛力 鉄壁 鼓舞 貫通 物理耐性 魔法耐性 能力耐性 疾走 飛行 戦女神の祝福
時使い レベル1
HP 3000
MP 2000
攻撃力 1600
守備力 1600
素早さ 1600
魔法 スロー アクセラレイト ストップ
能力 二重職 合算 時間遅延 時間加速 時間停止 時間操作
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