299話 リバー
お久しぶりです。
とりあえず、一話だけ投稿しました。
なぜかと言うと、
この連載作品は未完結のまま約2年以上の間、更新されていません。
という言葉に、毎回、心を抉られるからです(爆)
要するに、今、二作目の『反転攻勢』を連載しているので、意図なく目にしてしまうんですよ。
なので、『スライムスライム』は『反転攻勢』を連載しているので更新できませんが、『反転攻勢』も一作目と同じ世界が舞台なので、気が向いたら読んでみてください。
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アダック王国では武学の後期イベントが前倒しで開催されていた。
その理由は、プリン王子の国家戦略の一つである軍事力強化の政策によるものだ。
アダック王国には六つの都市があり、それぞれの都市に武学が存在し、そして、国内の優秀な若者が集まるS学を含めた七校で後期イベントは行われる。
後期イベントは、アダック王国内に存在するファーストコアダンジョン内で行われ、その内容は16階より下の階で一ヶ月生き抜くというものだ。
つまり、一ヶ月の生存は当たり前で、下の階に到達するほど評価が高くなるということは言うまでもない。
本来なら後期イベントは四年生のみで行われるが、今年はプリン王子の発令による特例で全学年が対象になっており、獲得できる報酬目当てに志願者が殺到し、ファーストコアダンジョンの地下17階は生徒たちでごった返していた。
その数は三万人にも上る。
後期イベントは最大50名での参加が可能で、腕に覚えのある者たちは地下へと下りていく。
だが、そうでない者たちは報酬金目当てであるために17階から動かない。
一ヶ月生存できれば、卒業認定と1人当たりの報酬金として1000万円が支給されるからだ。
しかし、境界線の防衛というデメリットも発生することになる。
一方、単独で地下20階まで下りていた男生徒が、地下17階まで戻ってきて、同じ武学の生徒たちを捜して歩き回っていた。
彼の名前はリバー。背にはハンマー(棒の先端が鉄球の武器)を背負っており、腰周りにも多数の武器を備えている。
彼は第四武学で最強の男だ。
職業は、使い系最上級職の【武器使い】である。
「リバーさん!? ど、どうしてここに?」
同じ武学の生徒たちの一人が怪訝な表情で尋ねた。
「転移エリアでスタート地点に戻されてな……あそこは攻略法が存在しないからムキになっても仕方がない」
「ま、まだ一週間も経っていないのに、もう20階まで潜っていたんですか……」
生徒たちは驚きを禁じ得なかった。
彼らの周辺には同じ武学の女生徒たちの姿もあったが、リバーを見る彼女らの顔は恐怖に彩られていた。
男生徒たちは思い詰めたように俯いていたが、その内の一人が意を決したように顔を上げて訴えた。
「お、俺たちも一緒に行っていいですか!! お願いします」
「……自己責任だぞ? それでいいならついて来い」
リバーは仕方ないといったような面持ちだ。
「ありがとうございます!!」
10名の男生徒たちは決意に満ちた表情で深く頭を下げた。
リバーたちは16階で食料を買い込んでから、地下へと続く階段を下りていく。
17階から19階までは、特殊な魔物と通常種の魔物、そしてアンデッド種が多く出現する。
その中でアンデッドであるゴースト種の存在が、生徒たちを17階に留まらせている大きな要因だ。
ゴースト種は物理無効だからだ。
一般的な冒険者パーティなら物理攻撃以外の攻撃手段を備えていることがほとんどだが、そもそも攻撃手段としての魔法や能力を所持している者は極めて少数だ。
そのため、17階に留まっている生徒たちの大半が、物理でしか攻撃できない者たちばかりで、彼らがパーティを組んで地下に下りてもゴースト種に遭遇すれば死を意味する。
リバーたちは2日とかからずに20階に到着したが、リバーの仲間たちは肩で息をして疲労困憊だった。
リバーは『気配探知』で魔物の位置を探り、無駄な戦闘を避けて進んでいたが、戦闘は男生徒たちが行っていたからだ。
男生徒たちの全員が上級職だからこそ可能な強行軍で、リバーは男生徒たちを成長させるためにほとんど戦闘に加わらなかったのだ。
「問題はここからだな……お前らはしばらく休んでおけ」
その言葉に、男生徒たちは安堵したような顔をする。
リバーたちは最初の転移魔法陣を踏んでその姿が掻き消えた。
「なっ!?」
通路の先を見つめるリバーの両眼が隠しきれない驚愕に染まる。
「行き止まりだっ!! あ、あれって安全地帯だよな?」
「マ、マジかよ!? 一発目でゴールって俺たち滅茶苦茶運がいいよな」
「前のトライでリバーさんが転移しまくったからだぜ」
男生徒たちは無邪気に喜んでいる。
「……」
(確率的にあり得るのか?)
リバーは難しそうな表情を浮かべている。
「リバーさん行きましょうよ。俺たちが安全地帯に一番乗りかもしれませんよ」
「……そうだな」
リバーは苦笑する以外になかった。
行き止まりの通路を進んだリバーたちは魔法陣を踏んで転移する。
安全地帯に出現したリバーたちは、周囲を見渡して中央に向かって歩を進めると、中央は大混雑しており、その大半が生徒たちだった。
その数3000名ほどだ。
「はぁ? なんでこんなにいるんだよ?」
「いったいどうなってんだ?」
男生徒たちは怪訝な表情を浮かべている。
「……」
(この確率の偏りは明らかにおかしい……何か強大な力が働いているとみたほうがよさそうだな)
真剣な硬い表情を浮かべるリバーは緊張感を高めた。
「リバーさんたちも来てたのか」
10人ほどの第四武学の生徒たちがリバーたちに向かって歩いてきた。
第四武学の生徒たちは300人ほど安全地帯に到達しており、彼らはその生徒たちのリーダーたちだ。
その内の一人が男生徒たちに向かって話し始める。
「ここにいる奴らの大半が転移エリアを一回で抜けてきたって聞いて、俺たちは変だと思って話し合ってたんだ」
「……」
その話を聞いたリバーは何者かの力が働いていると確信した。
「で、リバーさんはどう思う?」
リーダーたちの視線がリバーに釘付けになる。
「お前たちの直感は正しい。ここから先に進むことはあまりにリスキーだろうな」
「や、やっぱりそうなのか……」
「だろうな」
「おかしいと思ってたんだよ」
リバーの見解に、リーダーたちはざわついた。
「お前ら確率は理解してるか? 1万枚のカードがあって1枚が当たりだ。1万人が1枚ずつカードを引いたら誰かが必ず当たりを引くことになる。つまり、この場合の確率は0.01パーセントになる。言い換えれば1万分の1で、1万回やれば1回当たりを引けるということだ」
「お、おう……」
「り、理屈は分かる」
「いくらなんでもそれは簡単すぎるだろ……」
だが、リーダーたちの大半が自信なさげだった。
「この転移エリアを抜ける確率はさきほどのカードのたとえと同じ、1万分の1だと言うのが通説だ。だがそれがどうだ? ここにいる奴らの大半が1度の転移でここにいるという異常事態が起きている」
「……」
ゴクリと固唾を呑んだリーダーたちはリバーの話に聞き入っている。
「俺が確率の話をしたのは、極端な確率の偏りはイカサマを疑うべきだということを言いたかったからだ。つまり、この状況はダンジョンコアが意図的に転移エリアの確率を変動させたとみるべきだろうな」
「なっ!?」
リーダーたちは頭を鉄の棒で殴られたような衝撃に襲われた。
「だ、だけど何のために?」
「意味が分からねぇよ」
リーダーたちは困惑の極みにあった。
「まぁ、それは分からん。だが視点をダンジョンコアに変えて考えてみろ」
「はぁ? ダンジョンコアって……」
「俺がダンジョンコアだったら……」
「そういうことか……俺たちをまとめて餌にしようとしてるんだよダンジョンコアはっ!!」
「――っ!?」
一瞬虚をつかれたような顔をしたリーダーたちは、瞬時に恐ろしく真剣な表情に変わった。
「ここに辿り着けた時点で1人当たり4000万の報酬金は確定している。それを踏まえた上で進退を考えるんだな」
リーダーたちは張り詰めた表情で考え込んでいたが、その内の一人がリバーに問い掛けた。
「……リバーさんはどうするんですか?」
「無論、俺は進む」
リバーは即答した。
リーダーたちは羨望の眼差しでリバーを見つめている。
「だが、お前たちは無理をする必要はない。ここに留まって俺の帰りを待ったほうがいいだろう」
リバーは仲間である男生徒たちにそう勧めた。
「……お、俺たちはこの階の魔法陣まではついて行くつもりです。この階はどのルートを進んでも一つの魔法陣に繋がっているらしいのでやばければ俺たちは撤退します」
「お前たちの命だ……好きにすればいい」
リバーが先へと繋がる魔法陣に向かって歩き始めると、その背を男生徒たちも追いかける。
彼らが魔法陣に到着すると、そこには多数の生徒たちの姿があった。
「おう、行くのか? どのルートにも強ぇオーガたちが待ち構えているみたいだぜ」
顔以外を全身鎧に身を包んだ大柄の男生徒が、リバーたちを値踏みするように見つめながら、リバーたちに向かって近づいてきた。
「ほう……」
「だからここにいる奴らは定期的に物見を放って、オーガたちが引くのを待っているというわけだ」
「……」
(くくっ、涙ぐましい努力だな……)
リバーはそう思ったが表情には微塵も出さなかった。
「俺は第五の頭だ。名はアドム。職業は重装魔戦士だ。で、お前は【ピカリン】に会ったか?」
「いや、興味ないな」
「なぜだ? あのレドスの弟だぜ? 戦ってみたいと思わねぇのかよ?」
「俺は勝てる戦いしかしない主義だ。それが冒険者ってもんだろ」
「……まぁな。俺も勝てるとは思ってねぇよ。だがお前も戦士科なら対抗戦で勝ち上がれば戦ることになってたはずだ」
「いや、俺は戦士科ではないからな」
「あぁ? どう見てもお前は前衛職だろ?」
「俺は戦士科に入り忘れたんだ」
リバーは自嘲気味に微笑んだ。
「!?」
リバーが戦士科に所属していなかったのは、そんな間抜けな理由だったのかと男生徒たちは愕然とした。
「おいおい、そんな奴いるのかよ? ていうか武学はどこかの科に絶対に入る決まりだろ?」
「その通りだ。だから俺は、俺科を作ったんだ」
「な、何言ってんだお前は?」
「無論、入学当初、俺が俺科を立ち上げることを教官たちは認めなかった。だが、話し合えば教官たちは快く承諾してくれた。俺は強いからな」
「ほう、言うじゃねぇか……お前名前は?」
「リバーだ」
「ってことはお前が第四武学の頭か……面白ぇ!! ここで一戦やろうぜ」
「やめておけ……俺と戦れば悲惨な結末を迎えることになる」
「ぬかせぇ!!」
アドムは嬉々として斧を振り上げて突進し、斧をリバーに目掛けて振り下ろす。
だが、リバーの『自動武器防御』が発動し、リバーが帯剣していた剣が勝手に動き出して斧の攻撃を弾き返した。
その瞬間、リバーは攻撃を受けたと認識し、背中のハンマーを掴んで下から突き上げるようにアドムの腹を打ち抜いた。
アドムの体はくの字に曲がって空高く吹っ飛んでから、凄まじい速さで落下して地面に叩きつけられる。
しかし、彼の地獄はこれからだった。
アドムは全身を地面に叩きつけられた激しい痛みにうめき声を上げていたが、次第にハンマーで殴られた腹の痛みが増してくる。
【武器使い】はマジックアッドの魔法を唱え、武器に攻撃魔法を付加して魔法武器で戦うことがほとんどだ。
だが、リバーは自力で『武器付与』と『腹痛』に目覚めており、彼が放ったハンマーの一撃には『腹痛』が付加されていたのだ。
彼の『腹痛』は強度のレベルが三段階あり、ハンマーにはレベル一が付加されていた。
それでも食中毒を起こした程度の痛みがあり、秒単位で痛みは激しさを増し続け、キュアの魔法などで解毒しなければ、治まることはない。
「あぐぅううううううぅぅぅううぅうううううぅぅっ!!」
顔面蒼白のアドムは腹を押さえて悶絶している。
やがて、鬼気迫る表情でアドムは叫びだした。
「た、頼むっ!! み、見ないでくれっ!! 見ないでくれぇえええええええぇぇ!!」
アドムの断末魔の絶叫が迸ると同時に彼の顔が弛緩し、甲高い音と連続したこもった音が鳴り響き、周辺に悪臭が立ち込めた。
「ひ、悲惨過ぎる……」
鼻を覆った生徒たちは顔を背けてその場から離脱していくが、男生徒たちはその場に留まって視線をリバーに転じた。
そこには、邪悪な笑みを浮かべているリバーの姿があった。
彼の信条は、やられたらとことんやり返すというものだ。
そのため、これまで彼を攻撃した者全員が、悲惨な結末を迎えていた。
仮に【鬼畜王】が現存していたら、彼を幹部待遇でスカウトしていたことだろう。
ハンマーを背に戻したリバーは身を翻し、魔法陣に向かって歩き出す。
「待ってくださいよリバーさん」
「さすがっすね!! 第五の頭を一撃なんて」
男生徒たちは嬉しそうにリバーの背を追いかける。
彼らにとってリバーは攻撃さえしなければ、頼れるリーダーであることを彼らは知っているのだった。
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