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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
大穴攻略編

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25 共闘 修


 魔物の群れと部屋の中央で戦いを繰り広げていたスパイダー種の群れは、魔物の群れを全て食い殺して包囲陣の左側へと攻め寄せた。


 スパイダー種の数は千匹ほどだ。


 彼らは包囲陣を攻撃している魔物の群れの背後から一斉に『糸』を吐き、無数の糸が魔物たちに絡まった。


 魔物たちは糸を引き千切ろうと暴れるが、糸を切ることができずにスパイダー種の群れが一斉に魔物たちに食いついた。


 その光景を目の当たりにした魔物たちは蜘蛛の子を散らすように四散した。


 魔物たちが逃げ出したことにより、包囲陣を形成する兵士たちにスパイダー種の群れが難なく達して戦闘が開始される。


 逃げ出した魔物たちは離れた場所から戦いの様子を眺めていたが、スパイダー種の標的が人族だと理解すると包囲陣に押し寄せた。


 だが、六匹のハイ スパイダーたちは部屋の中央から動く気配はない。


「ハイ スパイダーはなぜ動かん……」


 ヒーリー将軍は訝しげな表情を浮かべている。


「報告致します。五組の冒険者が共闘の意思があるそうです」


 真剣な硬い表情の側近がヒーリー将軍に報告する。


「ほう、五組か……」


「はっ、一組で一匹のハイ スパイダーを倒すとして、残りの一匹は聖騎士五名、魔法師五名、司祭五名で倒せるでしょう。ベル大尉には上級兵士の指揮をとってもらうために残ってもらう予定です」


「分かった。では進軍を開始せよ」


「はっ!」


 側近は即座に突撃部隊を編成し、軍の聖騎士隊が包囲陣から進軍して、包囲陣の正面に展開する魔物の群れを突破し、その後を四組の冒険者たちが追いかけるのだった。


 ちなみに、冒険者たちの数が一組足りないのはホフター隊で、三組だった隊が五組に増えているのは、ヒーリー将軍がスラッグに再び共闘要請を申し出たからだった。


 一方、時間はスラッグと冒険者たちの交渉時に遡る。


 交渉が行われたのは二日前で、ハイ スパイダーの数がまだ五匹の時であり、場所は洞穴内にスラッグたちが設営した天幕の中である。


「ヒーリー将軍から共闘できる冒険者はいないかと再度要請があった。できればあと二組はほしいとのことだ」


 眉根を寄せたスラッグが冒険者たちの顔を見渡した。


「前にも言いましたが私の隊は前衛がいないので、前衛になってくれる隊がいればいつでも協力しますよ」


 そう発言した男の名はゾピャーゼだ。


 集まった冒険者たちの中で唯一の【賢者】である。


 【賢者】は【大魔導師】と【聖職者】の魔法を使用できる職業だが、全てを使用できる者は極めて稀有であり、どちらかに偏るのが一般的だ。


 上記の理由から【賢者】も【魔法戦士】と同様に職業を偽る者が少なからず存在するのだ。


 例えばファイヤの魔法とヒールの魔法を使用できる者が【賢者】を名乗ったとする。


 だが、職業を確認できる施設は転職の神殿なのだが、職業を確認できるのは本人のみであり、他人は視れない仕組みになっているのだ。


 そのため、真偽を確認するには鑑定系や解析系の魔法や能力、あるいはそれに準ずる魔導具が必須であるが、これらを所持する者は極めて稀なのだ。


 これにより、職業の真偽を確かめること自体が困難ゆえに横行しているのである。


 ちなみに、職業を視ることが可能な魔法は、アプレーザルの魔法(鑑定)やアナリシスの魔法(解析)で、能力は『人物鑑定』『人物解析』が挙げられる。


 ゾピャーゼは正真正銘の【賢者】だが、彼のパーティには前衛が存在せず、残りの九名全てが【大魔導師】という異質な隊だった。


 その理由は【大魔導師】たちに偏屈な者が多く、パーティから嫌われて外される傾向にあるからだ。


 そんな【大魔導師】たちをまとめ上げたのがゾピャーゼなのだ。


 それは彼が極めて稀な職業である【賢者】という存在だからこそ可能だったと言わざるを得ない。


「はっ、誰があんたの隊に背中を任せられるんだよ」


「全くだ」 


「前後に敵がいるようなもんだぜ」


 冒険者たちは冷たい態度で次々に不平不満を言い放つ。


 彼らが否定的な訳は、【大魔導師】が放つ魔法が強力な上に広範囲なものが多く、上手く連携が取れていないと魔法に巻き込まれるという事故が起こり得るからである。


「……残念です」


 ゾピャーゼはがっくりと肩を落とした。


「うちの隊はヒーラーさえいたらいくらでも協力するぜ」


 ゴリラのような容姿の女が自信の滲む表情で言い放った。


 彼女の名はミゴリ。職業は【大剣豪】である。


 ミゴリ隊は全員ゴリラのような女で統一されており、魔法を使える者はおらず、全員が戦士系職業という狂った隊なのだ。


「ヒーラーは不足している。自分たちでなんとかしてくれ」


 スラッグは弱りきった表情を浮かべている。


「じゃあ無理だね。ハイ スパイダーはヒールを使う。いやでも長期戦になるからね」


 ミゴリは不満げな表情を浮かべている。

 

「そんなことより、いつハイ スパイダーと戦うんだ?」


 ゾルは不機嫌さを隠そうともせずに言い放った。


「分からん。まず、包囲陣に群がる魔物を殲滅するのを優先すると聞いている。将軍もハイ スパイダーだけなら、こちらから討伐隊を送り込みたいと考えているみたいだが、スパイダー種の群れと魔物の群れが邪魔で躊躇しているとのことだ」


「分かってないな……攻めるほうが強いんだよ!! 後手にまわっていつまで待つつもりだ」


 ゾルは苛立たしげに声を荒げた。


「……魔物の増援が止まらない限り状況は動かんだろうな」


「今から攻め込む奴はいないのかっ!!」


 憤怒の形相で叫んだゾルは冒険者たちを見渡した。


 しかし、誰も応えずに場は重苦しい雰囲気に包まれる。


「より安全な方を皆は選んでるだけの話だよ。確かにスパイダー種の群れと魔物の群れは邪魔だと思うしね」


 誰も言葉を発しない状況にラーグは見兼ねて返答した。


「ちっ!! やってられるかっ!! 飲みに行くぞっ!!」


 ゾルは身を翻して足早に歩いていき、ゾルの仲間たちが後を追いかける。


 さらに二隊の冒険者たちがゾル隊に追従したのだった。


 A3ポイントから地上に出るには百五十キロメートルほどの距離があり、歩いて戻るとなると三日は掛かるが洞穴内は商人の馬車が行き来しており、それに乗ることができれば日程をかなり短縮できる。


 だが、それよりも早い乗り物は、ホース種(馬の魔物)を使役した魔車である。


 ホース種は『スタミナ回復』を所持しているので、問題がなければ四時間もあれば地上に戻ることが可能だが、料金が高額になるので利用者は限られる。


 ちなみに、ホース種は大穴の上に広がる森には生息しておらず、首都トーナの街から西の方角にある森で暮らしているのだ。


「共闘というのが引っかかる」


 華奢な体つきの男が得心のいかないような表情で話を切り出した。


 彼の名はゼネロス。職業は【魔法戦士】である。


「うん、私も思う」


 頷いた女がゼネロスに同調した。


 彼女の名はエベゼレア。まっすぐなアイスブルーの髪を肩まで伸ばしており、職業は【魔法戦士】で、彼女の隊は女だけで組まれている。


「討伐に失敗した隊の取り分はどうなるんだ?」


 ゼネロスは探るような眼差しをスラッグに向けた。


「基本的には助けてもらった時点で報酬は無しだ。リーダーはそこを考えて自力で切り抜けるか、助けてもらう代わりに報酬は諦めるかを判断して欲しい」


「分かりやすいけど共闘というわりには、明らかに全滅しそうな場合でも助けなくていいってことなの?」


「ああ、そうなるな。俺としてはハイ スパイダーに勝てる見込みのある隊にしかこの話はしていないからな」

 

「最初から言っておくが俺の隊は助けたとしても報酬はいらないから危なくなったら声を掛けてくれ。報酬は生き残った者たちで分配してもらって構わない」

 

 ラーグは席から立ち上がって宣言した。

 

「俺の隊も同じでかまわねぇ。ただ、助けてほしい時はでかい声で呼んでくれ。俺の本職は【格闘家】だ。前衛として殴り合ってるから小さい声じゃ聞こえないからなぁ」


 ラーグに同調したホフターはラーグの傍に移動して、彼らは向き合って互いに右腕を交差させてぶつけ合った。


 彼らは馬が合いそうだ。


「ちっ、なんか聞いた俺が小物みたいじゃねぇか……」


 ゼネロスはばつが悪そうに俯いた。


「いや、そんなことはない。報酬は大事だ。仮に報酬が〇ならこんなにも冒険者は集まらなかっただろう。他に質問は無いか?」


「報酬は一匹一千万だよな?」


 ゼネロスがしかめっ面で尋ねた。


「そうだ。できるなら力を貸してほしい」


 スラッグはゼネロスの目を真っ直ぐに見つめて返答を待つ。


「分かったよ、やるよ」


 ゼネロスは仕方ないといった風に承諾した。


「私もやるわ」


 エベゼレアは笑顔で了承した。


 アウザーは終始無言で話を聞いていたが、話し合いが終了すると洞穴の奥へと歩いていった。


 彼は頻繁に洞穴の奥に消えるのだ。


 こうして、ラーグ隊、リック隊、ホフター隊、ゼネロス隊、エベゼレア隊の五隊が共闘して、ハイ スパイダーを討伐することになったのだった。











「本陣に討伐隊がいないわよ!!」


 討伐隊の動向を気に掛けていたゼミナは慌ててホフターに報告した。


「マジかよっ!? ポーションとファテーグポーションをくれ」

 

 鞄からポーション十個とファティーグポーションを取り出したゼミナは、地面に座るホフターの前に置いた。


 ホフターはポーションとファティーグポーションを次々に飲み干して、彼の体力とスタミナが回復する。


「よしっ!! 追いかけるぞっ!! シルルン、お前はどうする?」


 ホフターは熱い眼差しでシルルンの瞳を正面からのぞき込む。


「行くわけないじゃん。頑張ってね~~♪」


 シルルンはにっこりと微笑んだ。


「あほ言えっ!! それでも男かっ!!」


 ホフターは鬼の形相でシルルンを睨みつけた。


「ひぃいいいいいっ!!」


 シルルンは身を翻して逃走し、ホフターはシルルンを追いかけようとしたが、ゼミナに手を掴まれる。


「もう、何やってるのよっ!! 追いつけなくなるわよ」


「ぐっ……分かった」

 

 顔を顰めたホフターは仲間たちと合流して、討伐隊を追いかけたのだった。












 スパイダー種たちの猛攻を受けている包囲陣の左側は崩れかけていた。


「うわぁあああああぁぁ!! た、助けてくれ!!」


「ひぃ、ひぃいいいいぃ!!」


「は、放せっ!!い、嫌ぁあああああぁぁ!! 」


 身体中に糸を絡められて動けなくなった兵士たちは、レッサー スパイダーたちに糸を引っ張られて、スパイダー種の群れの中に引きずり込まれる。


 スパイダー種の群れは一斉に兵士たちに食いつき、兵士たちは生きたままスパイダー種の群れに食われていく


「ぐっ、こいつら弱いはずなのになんて厄介なんだ……」


 険しい表情を浮かべる兵士たちは固唾を呑む。


 スパイダー種の群れは壁や天井からも『糸』を吐き続けており、糸を警戒して兵士たちは後退し、工兵隊が敷いた鉄板内までスパイダー種たちの進入を許してしまう。


 天井に群がるスパイダー種たちは一斉に鉄板に向かって『糸』を吐いた。


「やらせるなっ!! 撃ち落せっ!!」 


 弓兵たちは一斉に矢を放ち、無数の矢が天井を這うスパイダー種の群れに突き刺さる。


 矢を体に受けたスパイダー種たちは次々に天井から落下し、兵士たちが瀕死のスパイダー種たちに止めを刺していく。


 だが、天井や壁に無数に刺さっている矢と、地面に敷かれている鉄板に目掛けてスパイダー種の群れは『糸』を吐き続けており、糸を絡める行為を繰り返している。


 その動きは恐ろしく速く合理的だった。


 瞬く間にスパイダー種は糸の要塞を創り出したのだ。


「ば、馬鹿なっ!?」


「こ、こいつら考えてやがる……」


 信じ難い光景を目の当たりにした弓兵たちに戦慄が駆け抜ける。


 スパイダー種の『糸』には粘着性があるが、『糸』を地面や天井に貼り付けたとしても下地が土なので容易に剥がれることは想像に難しくないことだ。


 そのため、彼らは地面に敷き詰められた鉄板と土にめり込んだ矢に糸を貼り付けて、その糸を絡め合わせて支点にすることにより、糸の剛性を高めて要塞を作り上げたのである。


 糸の要塞からスパイダー種の群れは一斉に『糸』を吐き、無数の糸に絡まった兵士たちは行動不能に陥った。


「た、助けてくれっ!!」


「は、離せ!! うわぁああああああああぁぁ!!」


「ぎゃぁあああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!」


 糸の要塞に次々に引きずり込まれる兵士たちの絶叫が響き渡る。


「撃って撃って撃ちまくれっ!!」


 弓兵たちは一斉に矢を放ったが、矢は糸の要塞を貫通できずに地面に落ちる。


 それを嘲笑うかのようにスパイダー種の群れは糸の要塞に『糸』を吐いて、糸の要塞は瞬く間に拡張されて強化されていく。


 糸の要塞の出現に魔物の群れは呆然としていたが、彼らはスパイダー種が優勢だと判断して、スパイダー種と戦いを繰り広げている兵士たちに一斉に襲い掛かる。


 兵士たちは高い位置から放たれる糸を注視しながら戦っており、魔物の群れの接近に全く気づいていなかった。


 そのため、魔物の攻撃をまともに受けた兵士たちは総崩れになり、最早、包囲陣の左は崩壊寸前だった。


「な、何なのだあれはっ!?」


 驚愕に目を見開くヒーリー将軍は純粋な驚きに満ちていた。


「はっ、糸の要塞かと思われます。魔法使いと魔法師の部隊で焼き払うのがよろしいかと思われます」


「……そうだな。二百名の上級兵士も包囲陣の左に回してくれ」


「はっ!」


 側近は即座に指示を出し、部隊を編成する。


 編成された上級兵士の部隊が包囲陣の左側に急行し、魔法使いの部隊と魔法師の部隊がそれを追いかける。


 上級兵士の部隊は即座に包囲陣を修復し、魔法使いの部隊と魔法師の部隊が一斉にファイヤの魔法を唱えて、炎に焼かれた糸の要塞は燃え上がった。


 だが、スパイダー種の群れは素早く『糸』を吐いて糸の要塞を修復し、魔法による糸の要塞の破壊と糸による糸の要塞の再生が繰り返される。


「クソがっ!! 離せっ!!」


「な、なんて強度なんだっ!?」


「ぎゃあああぁぁあああああああああぁぁ!!」


 無数の糸に絡められた上級兵士たちが力尽くで糸を引き千切ろうとするが、彼らといえどもそれは困難であり、糸の要塞に引きずり込まれた上級兵士たちは糸で口を塞がれて窒息死させられた後、身体中をスパイダー種の群れに食い千切られて肉片と化した。


 すでに兵士たちによって二百匹ほどのスパイダー種が狩られたが、軍側も二百人ほどの戦死者が発生していた。


 しかし、糸の要塞内部では卵から孵化した幼体蜘蛛が兵士たちの死体を食い漁っていた。


 幼体蜘蛛はみるみる大きくなっており、いまだスパイダー種の数は千匹から減少していないのだった。


 








 聖騎士の部隊と五組の冒険者たちは六匹のハイ スパイダーが待ち構える部屋の中央に向かって進軍していた。


 以下はハイ スパイダー討伐部隊の編成内容である。


 聖騎士隊 聖騎士五名 魔法師五名 司祭五名



 ラーグ隊(ラーグは聖騎士) 


 聖騎士一名 魔法戦士二名 弓神一名 大怪盗一名 大魔導師二名 聖職者三名


 

 リック隊(リックは聖騎士、男だけで組まれている)


 聖騎士一名 大剣豪二名 魔法戦士二名 重戦士二名 格闘家一名 聖職者二名



 ホフター隊(ホフターは格闘家)


 格闘家一名 魔物使い九名


 ハイ ウルフ七匹 ウルフ八匹 ビートル二匹


 

 ゼネロス隊(ゼネロスは魔法戦士)


 魔法戦士二名 大剣豪一名 重戦士一名 弓豪一名 盗賊一名 大魔導師一名 聖職者一名 魔法師一名 司祭一名

 


 エベゼレア隊(エベゼレアは魔法戦士、女だけで組まれている)


 魔法戦士二名 格闘家一名 怪盗一名 弓豪一名 大魔導師一名 聖職者一名 魔法師一名 司祭一名

 

 

 聖騎士隊と五組の冒険者たちはゆっくりと移動して、ハイ スパイダーたちに接近していく。

 

 ハイ スパイダーたちは前列に三匹、後列に三匹という形で布陣しており、討伐部隊はどの個体を相手にするか予め決めていたのだ。


 聖騎士隊は前列の正面、ラーグ隊は前列の左、ホフター隊は前列の右、リック隊は後列の真ん中、ゼネロス隊は後列の左、エベゼレア隊は後列の右という具合である。


 各隊が受け持った個体の近くまで接近するとラーグは声を張り上げた。


「よしっ!! 作戦通りに引きつけるぞ! 一斉に撃て!!」


 受け持った個体に目掛けて各隊が一斉に魔法を放つ。


 彼らの作戦は、ハイ スパイダーたちを各隊に誘き寄せたあとは、各自で対応するという大雑把なものだ。


 一斉に放たれた魔法がハイ スパイダーたちを強襲するが、ハイ スパイダーたちは素早く散開しながらウインドの魔法で対向して直撃を避けた。


 ハイ スパイダーたちの動向を注視する各隊は防御体勢を取って待ち構えている。


 だが、散開して各隊に襲い掛かるはずのハイ スパイダーたちは一斉にエベゼレア隊に襲い掛かったのだ。


「なっ!?」


 思いもしない展開にエベゼレアの顔が驚愕に染まる。


 ハイ スパイダーたちは三匹ずつに分かれて、格闘家と魔法戦士に襲い掛かった。


 格闘家に襲い掛かったハイ スパイダーたちは前脚の爪で格闘家の体を貫き、格闘家は何もできずに口から吐血して一瞬で即死した。


 魔法戦士に襲い掛かったハイ スパイダーたちは一斉に前脚の爪を繰り出し、魔法戦士は正面のハイ スパイダーの前脚の爪の攻撃を盾で受け流す。


 しかし、左右のハイ スパイダーが前脚の爪で魔法戦士の体を貫いて、魔法戦士は激痛に顔を歪めて絶叫した。


 エベゼレアが魔法戦士に向かって駆けるが、一匹のハイ スパイダーが進路を塞いでブリザーの魔法を唱え、エベゼレアは横に跳躍して冷気を回避した。


 ハイ スパイダーは凄まじい速さでエベゼレアに目掛けて突撃して前脚の爪を放ったが、エベゼレアは盾で前脚の爪を受け流した。


 だが、その間にハイ スパイダーたちに前脚の爪の連撃を受けた魔法戦士は、首を刎ねられて身体はバラバラに引き裂かれていた。


「このおっ!!」


 その光景を目の当たりにしたエベゼレアは憤怒の形相で叫んだ。


 格闘家を殺したハイ スパイダーたちの一匹が格闘家を頭からバリバリと食っており、残る二匹がエベゼレアに迫るが、距離的に一番近かったリックとホフターが駆けつけて、ハイ スパイダーたちを遮って対峙する。


 魔法戦士を殺したハイ スパイダーたちの一匹が魔法戦士だった肉片を食い散らかしており、残る一匹がエベゼレア隊の弓豪に目がけて凄まじい速さで突撃した。


 弓豪は『三連矢』を放ち、三本の矢がハイ スパイダーに襲い掛かる。


 ハイ スパイダーは弓豪に目掛けて突進しながら斜め前に跳躍して三本の矢を躱した。


 弓豪の後方から大魔導師と魔法師がファイヤの魔法とスリープの魔法を唱え、灼熱の炎と黄色い風がハイ スパイダーに襲い掛かるが、ハイ スパイダーは横に跳んで回避した。


 ハイ スパイダーは瞬く間に弓豪に肉薄して前脚の爪を弓豪の顔面に突き刺し、弓豪は顔が粉砕して脳漿を飛び散らせる。


 左の前脚の爪で弓豪の腹を貫いて持ち上げたハイ スパイダーは、弓豪の死体を盾にして大魔導師と魔法師に向きを変えて凄まじい速さで突進する。


「なんだとっ! これでは撃てぬ!!」


 ファイヤの魔法を唱えようとしていた大魔導師は、詠唱を破棄してテレポートの魔法を唱えた。


 しかし、間に合わずにハイ スパイダーに右の前脚で胸を貫かれ、大魔導師は口からおびただしい量の血を吐いて地面に突っ伏した。


 それを目の当たりにした魔法師は恐怖に顔を歪めて後ずさる。


 ハイ スパイダーは右の前脚の爪で魔法師の胴体を切り裂き、体が上下に分かれた魔法師は下半身から大量の血が噴出して即死したのだった。











 一方、ホフターはハイ スパイダーと対峙しており、ハイ スパイダーは一瞬で間合いを詰めてホフターに前脚の爪を繰り出した。


 左手のミスリルナックルで前脚の爪を弾じきながら踏み込んだホフターは、右拳の『発勁』をハイ スパイダーの頭部に叩き込んだ。


 『発勁』は練った気を浸透させることによって内部を破壊する能力である。


 『発勁』によりハイ スパイダーの頭部が砕け散り、ハイ スパイダーは後退しながらヒールの魔法を唱え続けており、そこに五匹のハイ ウルフたちがホフターの傍に駆けつけた。


「ここは任せた!!」


 その言葉に、ハイ ウルフたちは一斉にハイ スパイダーに襲い掛かかり、辺りを見渡したホフターは次の標的を定めて全力で駆けだしたのだった。


 ハイ スパイダーと戦闘を繰り広げるリックはウインドの魔法を唱えたが、ハイ スパイダーがブリザーの魔法を唱えて、風の刃と冷気が衝突して相殺される。


 一気にハイ スパイダーとの距離を詰めたリックはハイ スパイダーの頭部に目掛けて剣を振り下ろしたが、ハイ スパイダーに前脚の爪で弾かれた。


 ハイ スパイダーは前脚の爪の連撃を放ったが、リックは前脚の爪の連撃をミスリルシールドで受け流すと、二人の大剣豪がリックの元に駆けつける。


「手強いぞ」


 短く発したリックの言葉に、張り詰めた表情で大剣豪たちは頷いて、リックたちはハイ スパイダーと睨み合うのだった。


 聖騎士部隊は格闘家の死体を食べているハイ スパイダーと対峙し、聖騎士たちはハイ スパイダーを囲んで一斉に攻撃を仕掛けた。


 ハイ スパイダーはパラライズの魔法を唱えて、黄色の風が聖騎士たちの体を突き抜けると、一人の聖騎士の体が麻痺して地面に転がった。


「キュア!!」


 聖騎士がキュアの魔法を唱えると、地面に倒れている聖騎士が麻痺から回復して立ち上がる。 


 聖騎士たちは一斉攻撃を行ったが、ハイ スパイダーは前脚の爪で反撃しながらヒールの魔法を唱えて傷を回復し続けており、彼らの戦いは長期戦へと移行したのだった。


 一方、エベゼレアは防戦一方だった。


 彼女はハイ スパイダーが吐いた『糸』を盾で防ぐが、糸を引っ張られて盾を手放した。


 その刹那、ハイ スパイダーは『溶解液』を吐いて、液体を浴びせられたエベゼレアの左腕が溶け落ちる。


「あぐっうううっ!!」


 激しい痛みにエベゼレアは苦悶の悲鳴を上げる。


 ハイ スパイダーは前脚の爪の連撃を繰り出しながらパラライズの魔法を唱えた。


 苦痛に顔を歪めるエベゼレアは前脚の爪の連撃を剣で弾き返したが、黄色い風がエベゼレアの体を突き抜ける。


 しかし、『魔法耐性』を所持しているエベゼレアにパラライズの魔法は効かなかったが、ハイ スパイダーは『糸』を吐を出し、エベゼレアの右腕に糸が絡まった。


「ぐっ!?」


 エベゼレアは咄嗟に左腕で腰の短剣を取ろうとしたが、彼女の左腕は溶けて失われていた。


 糸を引っ張りってエベゼレアを引き寄せたハイ スパイダーは前脚の爪を振るい、エベゼレアは避けようとするが糸に阻害されて間に合わず、彼女の目の中に絶望の色がうつろう。


 だが、その一撃は弾き返される。 


 エベゼレアの目の前には男が立っていた。


 ホフターである。


「後は任せろっ!!」


 振り向きもせずに言い放ったホフターは、エベゼレアの腕に絡まる糸を右のスクリューブローで断ち切った。


 あまりの出来事に、エベゼレアは放心したような表情を浮かべるのだった。


 疾走するラーグは呆然と立ち尽くすゼネロス隊の横を通り過ぎ、肉片に変わり果てた魔法戦士を食らっているハイ スパイダーを目の当たりにして彼は怒りの表情を浮かべて足を止めた。


 だが、最早どうすることもできないと思い直したラーグは再び全力で走るのだった。


 ハイ ウルフたちはハイ スパイダーに着実にダメージを積みかせねていた。


 このままいけば勝利は揺るぎないと彼らは考えていたのだ。


 しかし、しゃがみ込んで跳躍したハイ スパイダーは、天井に『糸』を吐きつけて体を反転させて天井に張り付いた。


 ヒールの魔法を唱えながらハイ スパイダーは真ん中の洞穴に向かって逃走する。


「――っ!?」


 一瞬呆けたハイ ウルフたちは即座にハイ スパイダーを追いかけるのだった。


 一方、時を同じくして、リックたちと聖騎士部隊が戦いを繰り広げるハイ スパイダーたちが、天井にしがみついて真ん中の洞穴に向かって逃走した。


 彼らは慌ててハイ スパイダーたちを追いかけたが、真ん中の洞穴の前にはハイ ウルフたちが佇んでいた。


「ハイ ウルフたちも逃げられたのか……」


 リックは表情を曇らせた。


「俺たちもだ……」


 聖騎士たちは悔しそうな表情を浮かべている。


「そんな馬鹿なっ!?」


 その知性の高さにリックは本当に虫なのかと戦慄に襲われる。


 だが、真ん中の洞穴の中からは、逃走した三匹のハイ スパイダーたちとは別個体であるハイ スパイダーたちが姿を現したのだった。

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