22 合流 修
A3ポイント展開図。
包囲陣の前には二千匹ほどの魔物の群れが攻撃を仕掛けており、ヒーリー将軍はマンティス種の動向を注視していた。
マンティス種の群れはラット種の群れに攻撃を仕掛けてラット種たちの死体を食い散らかしているが、ハイ マンティスに動きはなかった。
「マンティス種がラット種を食い終わった後はどうなると思う?」
ヒーリー将軍は探るような眼差しを側近に向ける。
「はっ、このままいけば包囲陣の前の魔物の群れに襲い掛かるかと……」
「……我々はマンティス種に勝てると思うか?」
ヒーリー将軍は真剣な硬い表情で側近に尋ねた。
「はっ、現状では難しいと思われます」
側近は表情を強張らせた。
「だろうな……」
「ですが、マンティス種の群れが包囲陣の前の魔物を攻撃すれば隙が生じます」
「ほう……」
「まず、上級兵士たちを二手に分けてマンティス種を見張らせます。奴らが包囲陣の前の魔物を攻撃すると同時にこちらは上級兵士たちでマンティス種を挟撃するのです。その間に別働隊でハイ マンティスを討つのです」
「だが、別働隊は私と聖騎士六名の編成になると思うがそれで勝てると思うか?」
ヒーリー将軍は訝しげな眼差しを側近に向けた。
彼女も側近が提案する作戦とほぼ同じことを考えていたのだ。
「はっ、我々だけでは五分五分かと……ですので、冒険者に協力要請すべきかと具申いたします」
「なるほどな……」
ヒーリー将軍は考え込むような顔をした。
結局、彼女は側近の提案を受け入れたのだった。
一方、二度目の『未来予知』を使用したハイ マンティスは愕然としていた。
彼は二度目の『未来予知』では動かずに、手下のマンティス種六百匹に包囲陣の攻撃を命じたのだ。
一度目の『未来予知』で殺された腹いせだ。
ハイ マンティスは自分を殺した人族が出てくる前に撤退するつもりだったが、人族の強さは彼の予想を上回っており、結果は手下が全滅する事態に陥ったのだ。
そもそも、彼が手下を率いて大穴に潜った理由の一つは練兵だった。
単に腹いせのつもりがこれでは全く割りに合わないとハイ マンティスは険しい表情を浮かべていた。
彼が『未来予知』を使用できるのは日に二度が限界で、三度目を行うと強制的に眠りについてしまい無防備になる。
つまり、次はないのだ。
手下たちの食事が終わり次第、口惜しいが撤退するのが無難だろうとハイ マンティスは考えていたのだった。
斥候に呼び出されたスラッグは本陣にてヒーリー将軍から交渉を持ちかけられていた。
「ではハイ マンティスと戦える強い冒険者を紹介してほしいということですね?」
「ああ、そうだ。こちらは私と聖騎士六名、魔法師十名と司祭十名だ。できれば二隊以上はほしいところだ」
「分かりました。冒険者たちに話をしてみましょう」
「よろしく頼む」
渋い顔で頷いたスラッグは踵を返して洞穴に向かって歩き出し、洞穴の中に入った彼は奴隷秘書たちの元に移動して、彼が強いと考える十組の冒険者たちと交渉するように奴隷秘書たちに指示を出した。
奴隷秘書たちは即座に冒険者たちの元に赴いた。
だが、冒険者たちにとって、この場合の共闘は好まれることはない。
共闘することによって強大な魔物に挑むという行為は聞こえはいいが、言い換えれば、そうしなければ倒せないほどの魔物に挑むということにもなるのである。
そして、冒険者たちの基本的な行動指針は確実に倒せる魔物と戦うことであり、その点からも反することになり、極めてリスクが高いからだ。
しばらくすると、スラッグの元に奴隷秘書たちが帰還する。
「共闘してもよいという冒険者はラーグ隊、ホフター隊、リック隊の三組です」
「その三隊なら申し分ないな」
スラッグは満足げな笑みを浮かべている。
上記の三隊はメローズン王国内においてその名声は轟いており、この国の英雄なのだ。
ホフター隊は十名の魔物使いだけで編成された極めて稀有なパーティだ。
魔物使いは魔法を使用できる職業よりも少数であり、パーティに魔物使いがいること自体が珍しいのだ。
リック隊のリーダーであるリックは聖騎士で、パーティの編成が戦闘職八名、回復系二名という物理攻撃重視の特殊なパーティである。
スラッグは再びヒーリー将軍の元に赴いた。
「ラーグ隊、リック隊、ホフター隊の三組が共闘するとのことです」
「了解した。いつ戦闘になるか分からないから準備だけはしておいてくれと伝えてくれ」
ヒーリー将軍は安堵したように微笑んだ。
「分かりました」
真面目な硬い表情で一礼したスラッグは洞穴に向かって歩き出したのだった。
「一番左の洞穴から千匹ほどの魔物の群れが出現しました!!」
ケツは緊張をはらんだ声で叫んだ。
「またか!! だが、マンティス種がどう動くか見ものだな……」
ヒーリー将軍は興味深げな表情を見せる。
千匹ほどの魔物の群れはそのままの勢いでマンティス種の群れに向かって突進していく。
ラット種たちを食い散らかしていたマンティス種の群れはその動きを止める。
レッサー マンティスたちは一斉に『斬撃衝』を放ち、無数の風の刃が千匹ほどの魔物の群れを切り裂き、百匹ほどの魔物たちが体バラバラに切断されて即死した。
だが、魔物の群れの勢いは衰えずにマンティス種の群れに突撃して乱戦になる。
「我々に都合のいい展開になってきたな」
ヒーリー将軍は思わず口角に笑みが浮かぶ。
「一番左の洞穴からハイ ウルフが出現っ!!」
「なんだと!?」
(千匹の魔物の群れを率いているのがハイ ウルフなのなら、話がまたややこしくなる……)
ヒーリー将軍は表情を曇らせた。
「同じ洞穴からピルパグが三匹出現!! 人がピルパグの背にそれぞれに乗っています!! 男一名、女二名……」
ケツは困惑を隠せない。
「冒険者なのか?」
顔を顰める側近は鋭く声を発した。
「一人は冒険者だと思われますが、残りの男女は子供……あれは武学の生徒と思われます……」
「そんなことがあり得るのか……」
側近は疑念を抱かずにはいられなかった。
「我々がここにたどり着くまでにどれほどの犠牲を出したことか……それがたったの三人で、内二人は学生だと……?」
ヒーリー将軍は信じられないといった表情を浮かべている。
一方、包囲陣に押し寄せる魔物の群れと戦いを繰り広げている冒険者たちや傭兵たちにざわめきが生じていた。
「おい、聞いたかよ。今度は人が現れたらしいぜ?」
「どこの隊だ?」
「どこの隊というより、学生が交じってるらしぜ」
「マジかよ!? そりゃいくらなんでも間違いだろ……」
冒険者たちや傭兵たちの心には大きな驚きと共に強い疑惑が渦巻いていたのだった。
一方、部屋に進入したリザたちは周辺を見回して愕然としていた。
「……魔物だらけじゃない!!」
前方では千を超える魔物の群れが戦いを繰り広げており、リザは金切り声を上げた。
先に部屋に突入したトーラスはマンティス種の姿を視認して眼に殺気をみなぎらせいる。
「ど、どうします? 引き返しますか?」
テックは緊張のあまりに思わずゴクリと喉を鳴らす。
「シルルンが来るまでここで待つしかないわね……」
リザは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
彼女らはシルルンたちを待つために巨大な支柱の裏側に身を隠したのだった。
「さらに同じ洞穴からハイ ウルフ出現!! さらにロパロパが一匹!! ロパロパに人が乗っていますが少年だと思われます!!」
新たな魔物の出現にケツは複雑な胸中で声を張り上げた。
「またか!? いったいどうなってる!!」
血相を変えた側近は声を荒げる。
「……」
最早驚く気力も消え失せたヒーリー将軍は無表情で何も反応しなかったのだった。
「ウォオオオオォォオオオオオオオォォォ!!」
「フハハハハハッ!!」
部屋に突入したシレンとブラックたちは凄まじい速さで突き進んでおり、リザたちを通り過ぎて魔物の群れに向かって突進していく。
シレンの咆哮を耳にしたトーラスは獰猛な笑みを浮かべて、シレンとブラックたちを追いかける。
「トーラス!! 戻って来いっ!!」
テックは慌ててトーラスに命令したが、怒りに駆られるトーラスに声は届かない。
「――シルルン!?」
リザはシルルンたち追いかけようとしたが、トーラスに先を越されてこの場から動けなかった。
この場から離れればテックとミーラを護る者がいなくなるからである。
洞穴の前から移動したリザたちは再び巨大な支柱の裏側に身を潜めたのだった。
シールドの魔法を唱えたシレンとトーラスは前面に透明の盾を展開しており、横に並んだシレン、トーラス、ブラックたちが魔物の群れに目掛けて凄まじい速さで突撃し、魔物の群れは弾け跳んだ。
魔物の群れの中に突入したシレンとトーラスは、手当たり次第に前脚の爪で魔物たちを切り裂いている。
彼らは前回のマンティスたちとの戦いで自分たちの主人が瀕死にされた恨みを忘れておらず、マンティス種に対して激しい憎悪が剥き出しになっており、魔物の群れを貫いたシレンたちはマンティス種の群れに目掛けて凄まじい速さで疾走する。
レッサー マンティスたちは一斉に『斬撃衝』を放ち、無数の風の刃がシレンたちに襲い掛かる。
「フハハハハッ!! 遅い! 遅いわっ!!」
ブラックは無数の風の刃を難なく回避し、シレンとトーラスは左右に分かれて大きく跳躍して風の刃を躱した。
「マ、マスターどうしたんデスか?」
「デシデシ……」
プルとプニは何度もシルルンに呼びかけているが、シルルンからの返答はない。
「解らんのか? 主君は戦いに集中しておられる。おぬしらも主君を想う配下なら今この場が力の見せどころよっ!!」
「――っ!!」
その言葉に、プルとプニは意を決したような顔になる。
彼らにとってブラックの話の内容はあまり理解できなかったが、自分たちの力をマスターに見てもらって褒めてもらおうと彼らは思ったのだった。
「す、すげぇ!! 『斬撃衝』を全て躱してる……真ん中でロパロパに乗ってる少年がハイ ウルフ二匹を率いているみたいですっ!!」
ケツが感嘆の声を上げる。
「魔物の数は軽く千を超えてるんだぞっ!? それに真っ向からぶつかる気なのかっ!?」
ヒーリー将軍の顔が驚愕に染まる。
「正気の沙汰とは思えんな。馬鹿な真似はやめてすぐ洞穴に引き返すべきだ」
側近は目を閉じて頭を振った。
一方、冒険者と武学の生徒が現れたと聞いたスラッグたちは包囲陣の近くまで足を運んでいた。
「なんとか救出できないか?」
スラッグが切実な表情でベータに尋ねた。
彼はその職業柄からシルルンたちをここで死なすには惜しい人材だと思っていたのだ。
「俺に死ねってことですかい? あんなとこに行ったら間違いなく死にますぜ」
ベータは呆れたような表情を浮かべている。
「……言ってみただけだ」
そう返したスラッグはの顔は心底口惜しそうだった。
マンティス種の群れに対して、ブラック、プル、プニ、シレン、トーラスは一斉に攻撃魔法を唱えた。
魔法による攻撃で三十匹ほどのレッサー マンティスが即死し、ブラックたちは凄まじい速さでレッサー マンティスの群れに襲い掛かった。
憤怒の形相を浮かべるシレンとトーラスが前脚の爪を一撃振るう度に、五匹ほどのレッサー マンティスが砕け散って肉片に変わる。
ブラックと暴走したシルルンは稲妻のような動きで縦横無尽にレッサー マンティスたちを斬り裂いており、巨大な大鎌で体を両断されたかのように体が上下に分かれたレッサー マンティスたちは瞬く間に五十匹ほどが即死した。
そんな凄まじい速さの移動の中で、プルとプニは必死にシルルンの肩にしがみつきながらエクスプロージョンの魔法を連発しており、激しい爆発に巻き込まれた五十匹ほどのレッサー マンティスたちの身体が砕け散って肉片に変わる。
最早、シルルンたちがどの方向に向きを変えても敵ばかりの死地である。
だが、猛威を振るうシルルンたちのあまりの強さに、レッサー マンティスの群れは混乱状態に陥った。
彼らは『斬撃衝』でシルルンたちに攻撃を行いたいが、それを実行すれば『斬撃衝』が同胞に当たる可能性を懸念して実行できないでいた。
そのため、レッサー マンティスたちと戦闘を繰り広げていた魔物の群れが息を吹き返し、混乱状態にあるレッサー マンティスたちに突進してレッサー マンティスの群れはさらに窮地に陥った。
「すげぇ!! 本当に正面から突っ込んだ……百匹以上のレッサー マンティスが瞬殺されました!!」
ケツは興奮して身体を打ち振るわせている。
「……」
その言葉に、ヒーリー将軍と側近は意外そうな顔をした。
しかし、レッサー マンティスたちは羽を広げて飛び上がることで混乱から回復し、空中から狙いを定めて『斬撃衝』を放った。
空から降り注ぐ風の刃に対して、為す術がない魔物の群れは次々に体を切り裂かれて血飛沫を上げて倒れていくが、シルルンたちは難なく風の刃を回避しながら攻撃魔法で反撃している。
「同じ洞穴から魔物の群れが約千匹出現!! さらにその後をスパイダー種約二千匹が追いかけています!!」
ケツは緊張した声で叫んだ。
「いったいどうなっているんだ……」
(この部屋を制圧すること自体が無理な話なのではないのか?)
ヒーリー将軍は戦慄して息を呑んだ。
「ひぃいぃ!! さらにハイ スパイダーが出現!! そ、それも三匹です!!」
ケインは声と表情を強張らせた。
「なっ!!! 馬鹿なっ!?」
ヒーリー将軍は放心状態に陥った。
ちなみに、トーラスと戦いを繰り広げていた魔物の群れが急に反転したのは、この二千匹のスパイダー種の群れとハイ スパイダーたちの接近を察知したからである。
「あれは私たちが遭遇した奴とは違うわね」
洞穴から出現したハイ スパイダーたちをリザは鋭い眼光で睨んでいる。
「……そ、そうなんですか?」
ゆっくりと歩くハイ スパイダーたちの姿を目の当たりにしたテックとミーラは、ガチガチと歯の震えが止まらずに今に泣き出しそうだ。
一方、これまで大きな動きをみせなかったマンティスたちが羽を広げて飛び上がり、一気にスパイダー種たちの上空まで移動した。
マンティスの群れは上空から『斬撃衝』を一斉に放ち、マンティスたちが放った風の刃は凄まじい威力で、スパイダー種の群れは一瞬で二百匹ほどが切り裂かれて沈黙した。
だが、スパイダー種の群れは構うことなく前方の魔物の群れに攻撃を仕掛けている。
レッサー スパイダーやスパイダーの強さは、レッサー ラットと同程度であり弱い部類の魔物である。
だが、彼らはその弱さを数で補って多数で連携して巧みに『糸』を吐き出し、糸を攻撃対象に絡めて行動不能にするのだ。
この『糸』は伸縮性も高い上に剛性も強く、力で断ち切るのは難しい。
ハイ スパイダーたちはブリザーの魔法を唱えて、冷気が羽を凍らせたことにより、五匹ほどのマンティスがスパイダー種の群れの中に墜落した。
スパイダー種の群れは一斉に『糸』を放ち、無数の糸に絡められたマンティスたちは身動きがとれなくなり、スパイダー種の群れに生きながら食われていく。
これに対して、全く動く気配を見せなかったハイ マンティスが怒りの形相を浮かべていた。
ハイ スパイダーたちに目掛けてハイ マンティスは凄まじい速さで飛行しながら『斬撃衝』を放ち、巨大な風の刃が一匹のハイ スパイダーの胴体を貫いた。
しかし、傷を負ったハイ スパイダーは即座にヒールの魔法を唱えて傷を回復する。
ハイ スパイダーたちはブリザーの魔法を唱えて、冷気がハイ マンティスに襲い掛かるがハイ マンティスは上昇して冷気をやり過ごした。
ハイ マンティスが標的を定めたことにより、レッサー マンティスの群れはマンティスの群れの後方まで一気に移動する。
上空から敵が消えたことによって魔物の群れは動きを止めた。ブラックたちやシレン、トーラスは空を見つめて呆然としている。
「……ん?」
怪訝な表情を浮かべるシルルンは周辺を見回した。
彼はダークネスの魔法から回復したが暴走している間の記憶は無かった。
「チッ!」
ブラックは顔を顰めて舌打ちした。
「ひぃいいいいいいいっ!! なんで魔物の群れの中にいるんだよ!? トーラス!! シレン!! ここから逃げるよ!!」
驚愕に目を見開いたシルルンは即座に指示を出し、シルルンたちは反転して魔物の群れに突撃した。
トーラスとシレンは後方に飛び去ったレッサー マンティスの群れに視線を向けると、スパイダー種の群れの姿があった。
これにより、マンティス種はスパイダー種と交戦することを選択したのだと彼らは理解し、レッサー マンティスたちを殺戮したことで彼らの溜飲は下がっていた。
冷静さを取り戻したトーラスとシレンはシルルンたちを追いかけたのだった。
「マ、マスター?」
プルは不安そうな表情でシルルンを見つめた。
「ん? どうしたのプル?」
シルルンはプルの頭を優しく撫でる。
「マスターがもどったデス!!」
「デシデシ!!」
プルとプニは嬉しそうに微笑んだが、これまでの記憶がないシルルンは不思議そうな表情を浮かべている。
シルルンたちは魔物の群れを突破し、シルルンは視線を洞穴の方角に転ずると、そこではスパイダー種とマンティス種が激戦を繰り広げていた。
「ひぃいいぃ、やべぇ……」
(あっちはダメだね……あんなとこに行ったら死ぬだけだよ……)
シルルンは背筋を震わせた。
「シルルンこっちよ!」
声が聞こえた方向にシルルンは顔を向けると、大きな支柱の裏にリザたちが身を隠しており、シルルンたちはリザたちと合流した。
「やぁ、無事だったんだね」
シルルンは瞳に安堵の色を滲ませる。
「それはこっちのセリフよっ!! いきなり魔物の群れに突っ込んだ時はどうなることかと心配したわよ」
リザはキッとシルルンを睨みつけた。
「えっ!? 何のこと? それより、あっちで軍が戦ってるみたいだから魔物の群れを突破して軍と合流しようよ」
目をパチクリさせているシルルンは軍の方角を指し示した。
「えっ!? ここに軍が来てるんですか?」
テックは呆けたような顔をした。
「うん、魔物を突破できたらやっと帰れるよ」
シルルンはにっこりと微笑んだ。
「ううぅ……」
ミーラは手を口にあてて嗚咽を漏らし、テックはミーラを優しく抱き寄せる。
「準備はいいかい? 魔物の群れは壁側が一番薄いみたいだからそこを突破するよ」
緊張した面持ちでリザたちは頷き、シルルンたちは包囲陣の魔物の群れに向かって突き進んだ。
「ロパロパに乗った少年の一団がこっちに突っ込んで来ます!!」
ケツは釈然としない心境で声を張り上げる。
「冒険者が我々軍に何の用があるというのだ?」
ヒーリー将軍の顔が困惑に染まる。
「……分かりませんが、一応は警戒したほうがよろしいかと」
「いくらなんでも我々を攻撃するほど馬鹿だとは思えないが……ベル大尉!! 上級兵士百名を率いて敵ならば討てっ!!」
「はっ!!」
ベル大尉は即座に上級兵士を率いて包囲陣の前に移動して、シルルンたちを待ち構える。
シルルンたちは包囲陣に押し寄せる魔物の群れの背後に接近し、プルとプニがエクスプロージョンの魔法を唱え、二つの光り輝く球体が魔物の群れに直撃して、爆発に巻き込まれた二十匹ほどの魔物たち吹っ飛んだ。
そこにトーラスとシレンが突撃して前脚の爪で魔物を切り裂いて道を切り開き、背後からの攻撃に晒される魔物の群れは何もできずに倒されていく。
魔物の群れを突破したシルルンたちは包囲陣を形成する兵士たちと対峙する。
「ここに何の用だ!?」
ベル大尉は不審げな眼差しをシルルンたちに向けた。
「僕ちゃんたちは敵じゃないよ!! 攻撃しないで!!」
シルルンは必死の形相で訴えた。
「……通してやれ!!」
上級兵士たちにベル大尉が命令すると、上級兵士たちはふたつ割れた。
「ありがとう!!」
シルルンたちが包囲内に踏み入ると、兵士たちは包囲陣を再構築して道を塞いだのだった。
包囲内の端のほうに移動したシルルンたちは安堵したように表情を緩めた。
「あはは、これで帰れるね」
「は、はい」
涙を浮かべて頷くテックとミーラは抱きしめ合って喜びに打ち震えている。
「君たちは何者なのだ。冒険者ではないのか?」
ベル大尉は不可解そうな表情でシルルンたちに尋ねた。
「僕ちゃんたちは武学の生徒だよ。森で魔物をテイムしてたら大穴に落ちて彷徨ってたんだよ」
「学生があの魔物の群れにこんな少数で突っ込んだのか……」
ベル大尉はショックを露にした。
「とりあえず、ゆっくり休みたいんだけど安全な場所はどこか教えてよ?」
「あ、あぁ……あそこの洞穴の中は安全だ。そこで休むといい」
「ありがとう」
顔に喜色を浮かべるシルルンたちは洞穴の中に移動したのだった。
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