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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
大穴攻略編

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20 ハイ マンティス 修


 ドレドラ将軍、死す。


 部屋に到着したばかりの傭兵たちや冒険者たちに衝撃が駆け抜けた。


「マジかよ!? ていうかまたかよ?」


「センチピード種が突然、穴から這い出てきたらしいぜ?」


「はぁ? 穴ってどこの穴だよ!」 


「アースワーム種が包囲内の地中からあけた穴らしい……」


「……信じられん話だな。千人いたんだろ?」


「センチピードはコンフューズドの魔法を使うからな。混乱した兵士たちが同士討ちしたんだろうな……」


「マジで!? そりゃやべぇなっ!!」


「キュアの魔法かキャアポーションで対処できるが、どちらにせよ混乱してるから自分では対処できないのが問題だな」


「それもあるが、キャアポーションは五万もするから割りに合わん」

 

「そりゃ高けぇなっ!! センチピードはお前らに任せるぜ。俺たちはザコ専門だからな」


 傭兵たちや冒険者たちは騒然としており、ロレン将軍の元にも悲報が届いていた。


「ドレドラ将軍までもが……」


 ロレン将軍は沈痛な表情で頭を抱えていた。


 彼は考えたくはないが、ヒーリー将軍が戦死した場合のことも想定せざるを得なかった。


「……王に新たな将軍を派遣してもらうしかないな」


 ロレン将軍は王に急使を飛ばしたのだった。



















 包囲陣の前には二千匹ほどの魔物が殺到しており、間断なく攻撃を仕掛けていた。


 すでに二千匹ほどの魔物を倒しているにも拘わらず、包囲陣の前には二千匹もの魔物がいるのだ。


「一向に魔物が減らんな……こうなると下手に兵を動かせんな」


 ヒーリー将軍は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


 彼女はこの状況を打破するために上級兵士の部隊を遊撃として放ちたいが、予備兵がなくなることを恐れていた。


 ドレドラ将軍の死因もつまるところ、予備兵がいなかったからだと彼女は思っているからだ。


 一方、包囲内では天井と壁から進攻してくる魔物を弓兵が撃ち落としており、弱った魔物を傭兵たちや冒険者たちが狩っていた。


「ヒャッハー!! 稼ぎ時だぜ!!」


「全くだ、笑いが止まらんぜ!!」


「オイっ!! それ俺のだぞ!!」


「ああぁん! やんのかコラッ!!!」


 傭兵たちや冒険者たちは奪い合うように魔物を倒していた。


 彼らの一部が揉めている訳は、矢の攻撃ですでに絶命している魔物が原因だった。


 魔物の首さえ奴隷秘書に持っていけば、自分で殺さなくても金になるからだ。


 包囲陣に押寄せる魔物は次々に倒されているが、減る気配がなく、部屋の奥にある洞穴から続々と現れる。


 だが、魔物の数は変わらないが、種は変化していた。


 兵士たちはラット種の群れを倒すと、代わりにレッサー フロッガーの群れが現れた。


「ペッ!!」


「ペッ!!」


「ペッ!!」


「ペッ!!」


 レッサー フロッガーの群れは包囲陣の兵士たちに目掛けて、一斉に口から液体を吐いた。


 兵士たちは液体を避けたが、浴びた者たちの顔色が変わる。


「これは『酸』だっ!!」


「ちぃ、剣が錆びて激しく劣化してやがる!!」


「『酸』は盾で防ぐんだっ!」


 兵士たちは盾を前面に構えた。


「プッ!!」


「プッ!!」


「プッ!!」


「プッ!!」


 さらにレッサー フロッガーの群れは一斉に液体を吐いた。


 兵士たちは液体を盾で受けたが、兵士たちの顔色が変わる。


「なっ!? 盾が溶けてるぞ!! 『酸』だけじゃない『溶解液』も吐き出してるぞ!!」


「『酸』か『溶解液』どっちか分からんぞ!」


「どうしたらいいんだっ!?」


 兵士たちは驚き戸惑っている。


「ぎゃあああああああああああああぁぁぁ!!!」


「うぁあああああああああぁぁ!!」


 いたるところで兵士たちの絶叫が木霊した。


 兵士たちは『酸』と『溶解液』の二択攻撃の前に盾を前面に出して防ぐしかなく、足元が疎かになったところをセンチピード種やスネーク種に食いつかれたのだ。


「上級兵士に援護させろ」


 ヒーリー将軍は側近に命令する。


「はっ」


 側近は即座に上級兵士五十名を編成して、フロッガー種の元に向かわせた。


「負傷者は後ろに下がれっ!!」


 上級兵士たちは包囲陣の最前列に出て、包囲陣の修復に掛かる。


 だが、唐突に上級兵士が倒れた。


「ケケケケケケケケケッ!!」


 後方にいるエイプ種(猿の魔物)の群れが、倒れた上級兵士を見て嘲笑っている。


「お、おい、頭に矢が刺さってるぞ……」


「あっちを見てみろ!! エイプ種の群れだ」


「笑ってやがるっ!!」


「あのくそ猿が!!!」


 兵士たちは憤怒の表情を浮かべている。


「大盾を持たせた兵士に弓兵を守らせて、矢でエイプ種を攻撃しろ」


 ヒーリー将軍は側近に命令する。


 側近は即座に工兵隊に指示を出し、洞穴内から大盾を運び込ませて大盾兵を編成して弓兵と共に前線に送り出した。


 これは効果覿面で、矢の一斉攻撃でエイプ種の群れは倒れていく。


 だが、しばらくするとエイプ種も大盾を持つ個体が現れた。


「なっ!? こうも早く対策をとってくるとは……」


 ヒーリー将軍は驚きを禁じ得なかった。


「上級兵士三百でエイプ種を討て」


 ヒーリー将軍は側近に命令した。


「はっ」


 側近は即座に上級兵士の突撃部隊を編成に掛かった。


「ぎゃああああああああああああぁぁぁ!!」


「うぁぁああああああああぁぁぁ!!」


 包囲内に展開する傭兵たちや冒険者たちの悲鳴が木霊する。


 レッサー エイプの群れ四百匹ほどが大盾を前面に展開しながら、包囲内に目掛けて一斉に矢を放ち、多数の矢が傭兵たちや冒険者たちに降り注いだのだ。


「うひぃ、ケツに刺さった!! 抜いてくれ!!」


「馬鹿か!! 先に洞穴へ逃げ込むぞ!!」

 

「本営は何やってんだ!? やられ放題じゃねぇかっ!!」


 傭兵たちや冒険者たちが悲鳴を上げながら洞穴内に逃げ込んでいく。


「そんな馬鹿な……」


 ヒーリー将軍は信じられないといったような表情を浮かべている。


「突撃部隊の準備が整いました」


 側近の言葉に、ヒーリー将軍は無言で頷いた。


「目標は後方にいるエイプ種四百匹だ!! 突撃せよ!」


 ヒーリー将軍は号令を掛けて、聖騎士が指揮する突撃部隊が進軍を開始した。


「中央の洞穴より、ラット種が五百匹ほど出現!!」


 丸出しが声を張り上げた。


 ちなみに丸出しとはレッサーアースワームに尻を噛まれた斥候のことだ。


 彼は二つ目の便所部屋を発見し、ただ一人その情報を持ち帰ったことで、ヒーリー将軍にその能力を認められて彼女つきの斥候に昇進した。


 このような昇進は異例のことだが、斥候の生存率が極めて低いことが原因だった。

 

「一体、どれほどの数の魔物がこの大穴にいるというのだ……」

 

 ヒーリー将軍は苦々しげな表情を浮かべて、丸出しに目配せした。


 丸出しは敬礼して踵を返し、洞穴の出入口に向かって駆けていく。


「この部屋内ならば好きに魔物を討伐しても構わないとのことです」


 丸出しはヒーリー将軍からの伝言を冒険者たちに伝えた。


「やっとかよ」


「まぁ、そろそろだとは状況的に思ってたがな」


「まず、この矢の雨を止めるぞ!!」


「行くぞ、オラッ!!」


 これにより、冒険者たちや傭兵たちが独自に動き出した。


 聖騎士率いる部隊が包囲陣に群がる魔物を突破し、後方に布陣する大盾を前面に展開するレッサー エイプの群れ四百匹に突撃を慣行した。


 レッサー エイプの群れを統率しているのは、通常種のエイプたちだ。


 エイプ種の群れは聖騎士率いる部隊に目掛けて矢を一斉に放つが、聖騎士率いる部隊も大盾をもっており、これを防ぐが足が止まった。


 そこに、二番目の洞穴から新たに出現した魔物の群れ五百匹が、聖騎士率いる部隊の左側面に突撃した。


「なんだと!?」


 聖騎士は即座に部隊を二つに分けて、上級兵士二百名をエイプ種の群れに突撃させて、自身が率いる部隊は左に方向転換して魔物の群れ五百匹に攻撃を仕掛けた。


 中央の洞穴から出現していたラット種五百匹が、エイプ種の前に移動し、包囲陣に攻撃を仕掛けていた魔物の群れの三百匹ほどが反転して、聖騎士率いる部隊に襲い掛かった。


「ぐっ……」


 聖騎士は苛立たしげに眉を顰めて、上級兵士百名を左に方向転換させた。


 この一連の魔物たちのおかしな動きは、エイプの『魔物扇動』によるものだ。


 『魔物扇動』は自分より格下の魔物を操る能力だ。


 レッサー エイプの群れの後ろで五匹のエイプが指揮を執っており、さらにその後ろには十匹のエイプ ソーサラーが控えていた。


 エイプ ソーサラーは攻撃魔法と回復魔法を所持しており、ヒールの魔法で傷ついた仲間を回復していた。


「これではエイプ種に届かん!! さらに上級兵士三百を向かわせろ!!」


 ヒーリー将軍は忌々しそうな表情で側近に命令した。


「はっ」


 側近は即座に突撃部隊の編成に掛かる。


「左から四番目の洞穴からラット種の群れが約千匹が接近!!」


 丸出しは声を張り上げた。


「なっ!?」


 ヒーリー将軍は軽く目を見張ったが、ラット種なら包囲陣を突破されることはないと判断した。


「突撃部隊の準備が整いました」


「突撃せよ」


 側近の言葉に、ヒーリー将軍は号令を掛けて、突撃部隊が進軍を開始した。


「左から五番目の洞穴からレッサー マンティス約五百が出現!!」


 丸出しが新たな魔物の増援を叫ぶ。


「馬鹿なっ!? レッサー マンティスだと!!」


 (このままでは包囲陣が『斬撃衝』でズタズタに引き裂かれる……)


 ヒーリー将軍は考え込むような顔をした。


 一方、レッサー マンティスの群れの出現に、洞穴の出入り口前で戦いを観戦している冒険者たちや傭兵たちに動揺が駆け抜けていた。


「何をそんなにびびってるんだよ?」


「たかがカマキリだろ?」


「いや、数が問題だ」


「即死レベルの風属性の攻撃を撃ってくる」


「それが五百だぞ」


「マジかよ!? ヤバイじゃねぇか!!」


「だから、ヤバイんだよ!!」


 傭兵たちや冒険者たちがレッサー マンティスの出現に騒ぎ立てている。


「さすがにこれは不味いな……」


 ラーグは難しそうな表情を浮かべて、本営の近くで静観していた。


 ラーグの仲間たちも心配そうな顔で、ヒーリー将軍の采配を見守っていた。


「さらに増援っ!! マ、マンティスが約百匹です!!」


 丸出しは不安そうな表情で叫んだ。


「なんだと!?」


 (最早、撤退するしかない……)


 ヒーリー将軍は深刻な表情を浮かべて、側近に上級兵士たちを呼び戻すように指示を出した。


 側近は即座に斥候たちを招集して、上級兵士たちの元に斥候たちを放った。


「ひいいいいぃぃ!? さらに増援です!! あ、あれはハイ マンティスです!!」


 丸出しの顔が驚愕に染まる。


「この大穴はどうなってるんだっ!!」


 ヒーリー将軍は思わずヒステリックに叫んだ。


 ハイ マンティスの体は血のようにどす黒い赤色で、その全長は六メートルを超える巨体で魔法も所持していた。


 ハイ マンティスは洞穴から姿を現し、部屋を見渡した。


 だが、ハイ マンティスに動きはない。


「ケケケケケケケケケッ!!」


 エイプたちはマンティス種の出現に、嘲うような笑みを浮かべており、『魔物扇動』でラット種千匹を操って、ラット種五百の前に移動させた。


 これにより、エイプ種の前にはラット種が千五百匹ほどいることになる。


 斥候たちが上級兵士たちに接触し、上級兵士たちは後退して、聖騎士率いる部隊と合流した。


 しかし、ハイ マンティスに動きはなく、マンティス種の群れも動く気配はなかった。

 

 エイプたちはラット種の群れを操って、マンティス種の群れに向かってゆっくりと進み出した。


 聖騎士率いる部隊は突撃部隊三百名と合流して後退し、魔物の群れ五百匹と三百匹が聖騎士率いる部隊を追いかけながら攻撃を仕掛けている。


 エイプたちはラット種の群れを盾にして、マンティス種の群れと対峙した。


 数的には、マンティス種六百匹対ラット種千五百匹とエイプ種四百匹になる。


 マンティス種の群れに動きはないが、エイプたちは『魔物扇動』を発動して目が怪しく輝いた。


 すると、マンティス種たちが動き出し、エイプ種の群れの後ろに並んだ。


 だが、残ったハイ マンティスに動きはなかった。


「ケケケケケケケケケケッ!!」


 エイプたちはハイ マンティスに顔を向けて、人を馬鹿にしたような高笑いを上げた。

 

「あれはどういうことだ?」


 ヒーリー将軍は怪訝な眼差しを側近に向ける。


「おそらく、エイプたちが『魔物扇動』でマンティス種の群れを操っているのでしょう」


「そんなことが本当に可能なのか……」


 ヒーリー将軍は得心のいかないような顔を浮かべている。


 聖騎士率いる部隊は包囲陣までの撤退に成功し、本営と合流した。


 エイプたちは部隊を再編成してから、包囲陣に向きを変えて移動を開始した。


 一番前がラット種の群れ、次がマンティス種の群れ、その次がエイプ種の群れで、エイプたちとエイプ ソーサラーたちは最後尾に布陣している。


 だが、ハイ マンティスは不敵な笑みを浮かべていた。


 唐突にマンティス百が一斉に空に飛び上がって反転し、一斉に『斬撃衝』を放った。


 無数の風の刃がエイプたちとエイプ ソーサラーたちに直撃して、エイプたちとエイプ ソーサラーたちは一瞬で肉片に変わった。


 エイプたちが死んだことにより、レッサー マンティス五百とラット種の群れ千五百の精神操作が解かれた。


 レッサー マンティスの群れは一斉に振り返って空に飛び上がり、『斬撃衝』を放って無数の風の刃がエイプ種の群れに襲い掛かり、エイプ種の群れは何もできずに切り裂かれて皆殺しにされた。


 マンティスの群れはエイプ種の群れを全滅させると、一斉に反転して空中から『斬撃衝』を放った。


 無数の風の刃がラット種の群れに降り注ぎ、ラット種の群れは為す術なく一方的に切り裂かれて全滅し、マンティスの群れは地上に下りて、魔物たちの死体を食い散らかしている。


 冒険者たちや兵士たちは状況についていけずに呆然としていた。


「何が起こったのだ……操られていたのではなかったのか!?」


 ヒーリー将軍は戸惑うような表情を浮かべている。


「マンティス種は狡猾な魔物です。おそらく術に掛かったふりをして騙し討ちをしたのでしょう」


 側近は恐ろしく真剣な表情で答えた。


「虫が騙し討ちをするのか……」


 ヒーリー将軍はショックを露わにした。


 彼女は座学でマンティス種について学んだが、狡猾な魔物という言葉に疑問を覚えていた。


 だが、ヒーリー将軍はマンティス種を目の当たりにして、納得せざるを得なかった。


 今まで動く気配を見せなかったハイ マンティスが、羽を広げて飛び上がり、凄まじい速さで包囲陣の前に飛来した。


 ハイ マンティスは魔物の群れに大鎌を振るってから、デスの魔法を唱えた。


 大鎌に真横に斬り裂かれた三十匹ほどの魔物たちは、体が横にズレ落ちて血飛沫を上げて即死し、紫色の風が魔物たちの体を突き抜けて、六十匹ほどの魔物たちが脳神経を破壊されて力なく地面に突っ伏した。


 ハイ マンティスの周辺にいる魔物たちは、金縛りにあったようにピクリとも動けず固まっていた。


 彼らが動けない理由は、ハイ マンティスが『威圧』を放っているからだ。


 『威圧』は強さが同格以上でないと、恐怖に萎縮して動けなくなる能力だ。


「あぁ、あぅぅう……」


 当然、兵士たちも『威圧』を受けて奥歯をガチガチと鳴らし、その顔は恐怖に歪んでいる。


 だが、不意に『威圧』が解かれた。


「うわぁあああああぁぁあああああああああああぁぁぁぁ!!!」


 兵士たちは絶叫し、腰を抜かしてへたり込んだり、失禁する者が続出して、魔物たちも一斉に四散した。


 このハイ マンティスはいにしえの時代を生き抜いてきた高レベルのハイ マンティスであり、『威圧』ひとつとっても次元が違った。


「うろたえるな兵士たちよ! 立ち上がれ!!」


 ベル大尉は声を張り上げて『鼓舞』を発動し、兵士たちは混乱状態から回復した。


 上級兵士たちはヒーリー将軍を囲むように布陣する。


 しかし、ハイ マンティスに動きはない。


「何をしにきた人族よ」 


「なっ!? 人族語を話せるのかっ!?」


 ヒーリー将軍は雷に打たれたように顔色を変える。


 ハイ マンティスの声を聞いた兵士たちや冒険者たちも驚愕し、辺りは騒然となる。


「……無論、この大穴の魔物の殲滅だ」


「ほう、我を前にしてできると思っているのか?」


 周辺から音が消え去り、その場が激しい緊張感に包まれた。


「王の勅命であり、国民を守るためには引くわけにはいかぬ」


 ヒーリー将軍はゆっくりと歩き出して、ハイ マンティスと対峙した。


 両者は睨み合い、一触即発状態になった。


 マンティス種たちはすでに魔物の死体を食うのを止めており、羽を広げて臨戦態勢にあった。


「お、おい……やばすぎるだろこれ?」


「……おっぱじまったら、すぐ洞穴に逃げ込むぞ」


 傭兵たちは身体を強張らせて額から汗が噴き出していた。


 だが、ラーグはヒーリー将軍とハイ マンティスとの間に割って入った。


「聞きたいことがある。君たちの拠点はこの大穴か? それとも地上の森にあるのか?」


 ラーグは探るような眼差しをハイ マンティスに向けた。


 ラーグの後ろには、ラーグ隊が控えている。


「それがどうしたというのだ?」


 ハイ マンティスは眼だけをラーグに向けて答えた。


「魔物の殲滅とは言ったけど、それはこの大穴を拠点にする魔物のことで、地上を拠点にする魔物は含まれてない。つまり君たちが地上の森を拠点にしているならば、現段階で戦う理由がない。俺たちの第一目標はこの大穴を拡張し続けてる主の討伐なんだよ」


「将軍っ!! 冒険者に交渉をやらせてよいのですか!!」


 側近は怒りの形相でヒーリー将軍に進言した。


「私はこの部屋にいる魔物を好きに狩ってよいと命令を出している。いまさら交渉だけはこっちでやるとは言えんだろう……」


 (魔物は滅ぼすしかないと思っていたが、主の討伐が最優先である以上、戦闘回避も視野に入れるべきか……)

 

 ヒーリー将軍は複雑そうな表情を浮かべている。


「ほう、この大穴の主の討伐だと? それこそできると思っているのか?」


 ハイ マンティスは失笑した。


「もちろん、できるさ。それで君たちの拠点は森なのかい? それともこの大穴なのかい?」


 ラーグの問いに、兵士たちや冒険者たちの視線がハイ マンティスに集中し、兵士たちや冒険者たちは固唾を呑んだ。


「我らの拠点は森だ」


 その言葉に、その場にいる全員が安堵の溜息を吐いた。


「ならここは引いてもらえるかい? お互い戦ったら甚大な被害が出ると思うからね」


「ほう、我らに引けというのか」


 ハイ マンティスは洞穴の出入口を一瞥した。


 彼はそもそも引くつもりだったのだ。


 だが、人族の集団の中に極めて強大な力を持つ者がいることに気づいたハイ マンティスは、自分から近づけば姿を見せると考えたが、その人族は洞穴の中から動く気配がなかった。


「そうしてほしい。君たちにこの部屋は不要だろ? 俺たちはここを拠点に加えて主を目指すつもりだ」


「……」


 ハイ マンティスは不機嫌そうな顔で押し黙っていた。


 彼はすでに交渉には興味はなく、どうすればその人族が洞穴から出てくるのかを考えていた。


「大穴内では互いに不戦でどうだい? そっちがよければ共闘してもいいと考えている」


 ラーグは真剣な表情で言った。


「共闘だと!? ふざけるなっ!!」


 怒声が聞こえた方向に、兵士たちや冒険者たちの視線が集中する。


 そこには、悠然と歩く凶悪な顔をした男の姿があった。


 アウザーである。


 兵士たちはアウザーに道を譲り、アウザーとハイ マンティスが対峙した。


「お前が王か?」


 ハイ マンティスは言うと同時に右の大鎌を凄まじい速さで振り下ろした。


 だが、アウザーは左手の拳で大鎌を弾いた。


「その程度か?」


 アウザーは見下すような冷笑を洩らした。


「す、すげぇ……」


「あの大鎌の一撃を素手で弾き返した!!」


 兵士たちや冒険者たちは感嘆の声を上げた。


 ハイ マンティスは左の大鎌の一撃を繰り出すが、アウザーの槍が一閃。


 ハイ マンティスの左の大鎌が宙に舞い、斬られた左腕から血飛沫が上がって大鎌が地面に突き刺さった。


「馬鹿な……!?」


 (これまでの幾千、幾億の戦いの中で我の腕が斬り落とされたことなど一度たりともなかった……この人族はいったい何なんだ……)


 ハイ マンティスは全身が凍りつくような衝撃をうけた。


 しかし、後方で臨戦態勢だったマンティス種の群れは、眼に殺気をみなぎらせて空に飛び上がった。


 だが、ハイ マンティスは振り返り、マンティス種の群れを睨みつけるとマンティス種の群れは地面に降下して動きを止めた。


 その行動から、ハイ マンティスが一対一の勝負にこだわりがあるのが窺えた。


「ほう」


 アウザーは地面に槍を突き刺して腕を組んでおり、口角に笑みを浮かべた。


 ハイ マンティスはドレインの魔法を唱えて、緑色の風がアウザーを包み込んだ。


 アウザーは腕を組んだままだ。


 ハイ マンティスは即座に地面に刺さった大鎌の切断面に自身の腕を合わせると、アウザーを包んでいた緑色の風がハイ マンティスに戻っていって、ハイ マンティスの体力が回復して腕も引っ付いた。


「小賢しいわ!!」


 アウザーは怒りを露にした。


 ハイ マンティスはデスの魔法を唱え、紫色の風がアウザーを突き抜けた。


「気がすんだか?」


 アウザーは蔑むような口調で言った。


「待ってくれアウザー殿!!」 


 ヒーリー将軍は悲痛な表情で訴えた。


 ハイ マンティスは渾身の力を込めて右の大鎌を振り下ろし、大鎌の一撃がアウザーに直撃したかのように見えた。


 だが、実際はアウザーの体が瞬く間にハイ マンティスの体を突き抜けて、アウザーはハイ マンティスの後ろに立っていた。


「なんだ?」


 アウザーは振り返って訝しげな顔をした。。


「そのハイ マンティスは特別だ。殺すには惜しい」


 ヒーリー将軍は思い詰めた硬い表情で訴えた。


 彼女は一対一の戦いにこだわったハイ マンティスならば共闘できると思ったからだ。


「すでに遅いわ」


 アウザーは身を翻して悠然と洞穴に引き返し、ヒーリー将軍はハイ マンティスを見て大きく目を見張った。


 ハイ マンティスの体が真横に両断されてズレ落ちたからだ。


 ハイ マンティスは身体から激しい血飛沫を上げて絶命したのだった。


 















 マンティス種の群れは肉片に変わった魔物の死体を食い散らかしていた。


 ハイ マンティスは動く気配がなかった。


 だが、その顔は愕然としていた。


「……」


 (……人族にはあんな化け物が存在するのか!?)


 ハイ マンティスは生まれて初めて恐怖していた。


 さきほどの戦いはハイ マンティスの『未来予知』が見せた結果だった。


 このまま人族に向かって飛び立てば、ハイ マンティスはアウザーに無惨に斬り裂かれる。


「……」


 (どう動くべきか……)


 ハイ マンティスは意識を集中させて『未来予知』を発動したのだった。

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レッサーフロッガー レベル1 全長約1メートル

HP 90~

MP 5

攻撃力 55

守備力 30

素早さ 60

魔法 無し

能力 毒牙 溶解液 酸



フロッガー レベル1 全長約1.5メートル

HP 200~

MP 40

攻撃力 140

守備力 70

素早さ 120

魔法 スリープ

能力 毒牙 溶解液 酸



レッサー スネイク レベル1 全長約3メートル

HP 200~

MP 10

攻撃力 120

守備力 80

素早さ 50

魔法 無し

能力 威嚇 毒牙 巻きつき



スネイク レベル1 全長約8メートル

HP 600~

MP 100

攻撃力 250

守備力 150

素早さ 120

魔法 無し

能力 威嚇 毒牙 巻きつき強力



レッサー エイプ レベル1 全長約1.5メートル

HP 100~

MP 5

攻撃力 50

守備力 35

素早さ 40

魔法 無し

能力 以心伝心



エイプ レベル1 全長約1.5メートル

HP 250~

MP 60

攻撃力 110

守備力 90

素早さ 100

魔法 無し

能力 統率 魔物扇動 以心伝心



エイプ ソーサラー レベル1 全長約1.5メートル

HP 250~

MP 200

攻撃力 100

守備力 100

素早さ 110

魔法 ウインド ブリザー ヒール

能力 統率 以心伝心



ハイ マンティス レベル1 全長約6メートル

HP 1400~

MP 200

攻撃力 650

守備力 300

素早さ 400

魔法 ドレイン デス

能力 統率 威圧 斬撃衝 能力耐性 魔法耐性 極めて稀に未来予知


ハイ マンティスの鎌 100万円

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔法無効は、能力片方確率で通るんですか? [一言] 設定集にまとめて細かく出すのは控えた方がいいかと思います。まだ読みはじめなのでこの後の内容も楽しませて貰います。
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