195 ジェリーとカリバーン
ジェリーとカリバーンは、メローズン王国の北西にある難民キャンプを目指して進んでいた。
ジェリーは多数ある触手を大きく振って、嬉しそうにカリバーンと並んで歩いている。
彼女は、カリバーンのことを激しく恐れていた。
だが、カリバーンは襲い掛かる魔物の群れを難なく倒しながらジェリーを守っており、水がないと縮んで最終的には死んでしまうジェリーのために、彼は水源を探して休憩しながら進んでいたのだ。
そのため、カリバーンのことを強くて優しい人族だと彼女は思って信頼しているのだった。
ジェリーたちは鬱蒼とした森の中を進んでいくと、草が生え茂る開けた場所に出る。
「おそらく、この森沿いに進んでいけば難民キャンプに着くはずだ」
その言葉を聞いたジェリーは嬉しそうに頷いた。
ジェリーたちは森沿いに歩いていくと、突如、森の中から百人ほどの男たちが現れて、ジェリーたちを遠巻きに囲み、二人の男がジェリーたちに近づいてきた。
「下がってろ」
ジェリーはおろおろしながら頷いて後ろに下がり、二人の男がカリバーンの前で足を止める。
「その金ぴかの鎧を置いていけ。そうすりゃ、無傷で見逃してやる」
髭面の巨漢の男がそう言ったが、手に持っている武器は棍棒で、ボロボロの服を着ていた。
「……お前ら難民だろ。俺に勝てると思ってるのか?」
カリバーンは鋭い視線を髭面の男に向ける。
「お前は馬鹿なのかっ!? 思ってるから対峙してるんだろがっ!!」
竹槍を持った男が声を張り上げた。
「いかれてやがる……」
カリバーンは苦笑する以外になかった。
「行くぞオラッ!!」
竹槍を持った男が叫んでカリバーンに目掛けて突進し、髭面の男もそれに合わせて突撃した。
男たちは竹槍と棍棒をカリバーンに振り下ろし、カリバーンに命中したがカリバーンの姿は掻き消える。
「て、手応えがない!? 残像か!?」
「ちぃ、後ろか!?」
虚を突かれたような顔をした男たちは慌てて振り返る。
「いや、小便だ」
カリバーンは背中を晒して、木に向かって放水している。
「戦う前にちゃんと言っとけよ!!」
「いや、そういう問題じゃないだろ……」
男たちは戸惑うような表情を浮かべている。
「さぁ、やるか……」
身を翻したカリバーンは手を組んで、指をバキバキと鳴らす。
「……お前、ちゃんと手を拭いたんだろうな?」
髭面の男は訝しげな表情を浮かべている。
「知ったことか」
そう言ったカリバーンは一瞬で竹槍を持った男に肉薄し、右の拳で竹槍を持った男の顔面を殴り、竹槍を持った男は弾け飛んで地面を転がって痙攣した。
勇者である彼が、全力で殴って難民ごときが死なないのは『手加減』を所持しているからである。
「す、すみませんでした!!」
それを目の当たりにした髭面の男は即座に地面に突っ伏し土下座して、遠巻きに囲んでいた難民たちも一斉に土下座する。
「あぁ? いったいお前らは何なんだ?」
カリバーンは顔を顰める。
「……見ての通り俺たちは難民です。もう食い物がなくて……とりあえず、売れば金になりそうな物を持ってる奴を見かけたら、多数で囲んで脅してるんですよ」
髭面の男は土下座したままで答える。
「お前らこんなことしてたらいずれ殺されるぞ……分かってんのか?」
「はい、それは分かってます……ですが、俺たちはここでは配給も貰えないんですよ。弱ってる奴らが優先なんで……」
「ほう……」
カリバーンは意外そうな顔をした。
彼は『亜空間』を発動し、空間が大きく開いて、その中から巨大な魔物の死体を二十匹ほど取り出して地面に置いた。
「この魔物はカウ種(牛の魔物)とゴート種(山羊の魔物)だ。解体して食え」
顔を上げた難民たちは呆けたような顔を晒していた。
「あ、ありがとうございます!!」
難民たちは嬉々としてカウ種とゴート種に群がって解体を始める。
通常種であるカウは六メートルを超える巨体で、ゴートも通常種なので二メートルほどある。
「まぁ、しばらくは持つだろう……じゃあ、行くか」
カリバーンがジェリーに顔を向けると、ジェリーは嬉しそうに駆けてきて、ジェリーたちは魔物を解体する難民たちを横目に歩き出す。
難民キャンプに到着したジェリーたちは、シルルンを捜して回ったが見つけることができなかった。
そのため、カリバーンは難民キャンプから一番近い湖を森の中で探し、その湖を拠点にしてシルルンを待つことにした。
ジェリーたちは毎日のように難民キャンプに足を運んで、シルルンを捜していた。
湖は魚などの食用できる生物は狩り尽くされているが、水を飲みに難民たちが訪れる。
その度にジェリーは慌てて湖の中に身を隠していた。
だが、森の中には魔物が徘徊しており、少年が水を飲んでいるところにレッサー ラットが襲い掛かった。
ジェリーは湖から飛び出して、触手でレッサー ラットに触れる。
痺れたレッサー ラットは痙攣しており、少年は驚いた顔でジェリーを見つめていたが、慌てて逃げて行った。
翌日、ジェリーは湖に浮かんでいた。
「クラゲさん!! 昨日は助けてくれてありがとう!!」
そう声を掛けた少年は、深々と頭を下げて去って行った。
ジェリーは嬉しそうな表情を浮かべており、トプンと湖の中に消えたのだった。
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