191 ビー種の卵
「このトマトはあんまりおいしくないデス……」
「デシデシ……」
プルとプニは不満げにトマトをムシャムシャと食べている。
シルルンたちはメローズン王国内の街を巡り、余剰作物や食料品、家畜の買い付け、装飾品の魔導具などを買い漁っており、トーナの街の土地もさらに買い足していた。
ちなみに、メローズン王国内にはキャンプ村のような小さな村や街は無数にあるのだが、シルルンたちは大規模な街しか回っていない。
「あはは、余剰作物は廃棄品も含まれてるから、当たり外れはあるだろうね」
シルルンは新しく買った土地の上空に浮かんでいた。
「空に浮かんで分かったのは、南から北に風がふいてることだよ……要するにこの風のせいで土が砂になってるみたいだね」
シルルンは『念力』で作った足場の上にのっていたが、その足場を坂道に変えて滑り落ちていく。
「すごいスピードデス!!」
「デシデシ!!」
「速いデチュ!! 速いデチュ!!」
「デチデチ!!」
プルたちは嬉しそうな表情を浮かべており、シルルンたちは地面に下り立った。
「もう一回デチュ!! もう一回デチュ!!」
「デチデチ!!」
プルルとプニニは瞳を輝かせている。
シルルンは『念力』で螺旋状の坂道を作成し、プルルとプニニを『念力』で掴んで坂道の頂上に落とすと、プルルとプニニは凄まじい早さで螺旋状の坂道を滑りながら大喜びしているしている。
プルルとプニニは地面に滑り落ちると、プルとプニにもう一度頂上に連れて行けと強請っている。
プルとプニは、プルルとプニニを頭にのせて空へと上昇し、『触手』を伸ばして見えない螺旋状の坂道を探り当てて頂上に辿り着き、プルルとプニニはピョンと跳び下りて坂道を滑り出した。
「あはは、実際に石で滑り台を作ってみたら、子供たちに人気が出そうだね」
坂道を滑るプルルとプニニを見つめるシルルンが微笑んだ。
10回ほど螺旋状の坂道を滑ると、プルルとプニニは満足したようでシルルンの元に戻ってきた。
シルルンは『念力』で地面をぶっ叩くと大穴があいて、周辺は砂煙に包まれた。
彼は構わずに大穴の中に飛び下りて、指で地面を触った。
「うん、岩盤まで届いたね」
満足げな笑みを浮かべるシルルンは、思念でプルたちに周辺の砂を『捕食』してくれと指示を出した。
頷いたプルたちは、シルルンの肩から跳び下りて、一斉に砂を『捕食』していく。
とんでもない早さで砂は消え去っていき、シルルンは跳躍して『念力』で足場を作って空中に浮いており、彼は空から『捕食』する砂の範囲をプルたちに指示を出していく。
しばらくすると、シルルンが新たに購入した土地の全ての砂が『捕食』され、巨大過ぎる大穴が出現した。
ちなみに、シルルンが買い足した土地は20億平米で、シルルンが所持していた土地から北の土地を購入したのだ。
シルルンはプルたちの頭を優しく撫でていく。
プルたちはとても嬉しそうだ。
巨大な大穴に視線を向けるシルルンは覚悟を決めたような顔をしていたが、しばらくするとシルルンたちはラーネの『瞬間移動』でその場から掻き消える。
シルルンたちは鉱山のシルルンの部屋に出現し、シルルンは大穴を見て動きを止めた。
そこには30cmほどのモフモフが30匹ほどいて、茸に食いついていた。
「へぇ、どうやら卵が孵ったみたいだね……それにしても綺麗な色だね」
「レッサー ブルー ビーデシ!!」
プニは『解析』でモフモフを視て言った。
レッサー ブルー ビーは、パステルブルーのモフモフとネオンブルーと黒のボディで非常に美しい蜂だ。
彼らは茸を一つ食べ終わると、茸を一つ抱えてトコトコと巣に戻っていく。
シルルンはテーブル席に腰掛けて、レッサー ブルー ビーを『魔物解析』で視た。
「うん、特に変わった魔法とか能力はないね……まぁ、下位種の段階じゃ強いかどうかも分からないけどね」
「でも、レッサー ホーネットよりステータスは低いデシ。下位種ではレッサー ウォスプが一番ステータスが高いデシ」
プニはフフ~ンと胸を張る。
「あはは、そうなんだ」
シルルンはプニの頭を優しく撫でる。
プニはとても嬉しそうだ。
「あのう……お伺いしたいことがあるのですが……」
シルルンは振り返ると、そこにはクイーン ビーの姿があった。
「ん? どうしたの?」
「茸の数が少なくなっているので、大丈夫かと思ったんです……」
クイーン ビーは申し訳なさそうな表情を浮かべており、シルルンは大穴に視線を向けると大量に積まれていた茸が少なくなっていた。
「あぁ、卵が孵ったから供給が追いつかなくなったんだね。アメーバたちには言っておくから、どんどん食べていいからね」
「あ、ありがとうございます」
クイーン ビーは深々と頭を下げた。
「それより、綺麗な子供が生まれたよね」
「そ、そうなんです。生まれた子たちは青い子ばかりなんですよ。ですが、一匹だけ黒い子が生まれたんです」
クイーン ビーは体にしがみついている黒いまんまるしたモフモフを、爪で掴んでシルルンたちに見せた。
「クシローコーパーデシ!! 強いデシ!!」
プニは『解析』で黒いまんまるしたモフモフを視て、ビックリしたような顔をした。
「へぇ、確かに強いね。たぶん、突然変異個体だろうね」
シルルンは『魔物解析』でクシローコーパーを視て言った。
クシローコーパーは熊蜂の魔物で、全長は60cmほどだが生まれたばかりなのに『剛力』を所持していた。
シルルンたちの言葉に、クイーン ビーは瞳を輝かせる。
「……こ、この子が大きくなれば火精霊との戦いに貢献できそうで、よ、良かったです」
クイーン ビーは嬉しそうだ。
彼女は数十万もの仲間たちが、火精霊たちに殺された恨みを忘れてはいないのだ。
「あぁ、言ってなかったね……ファイヤー エレメンタル種たちは僕ちゃんたちが滅ぼしたからもういないんだよ」
「……えっ!?」
クイーン ビーは呆けたような顔をした。
「あはは、だから君たちは戦わなくていいんだよ」
「えっ、で、でも、火精霊たちは空を覆い尽くすほどの数がいたはずですが……」
クイーン ビーは戸惑うような表情を浮かべている。
「うん、四十万ぐらいはいたと思うけど、皆殺しにしたんだよ」
「――っ!?」
クイーン ビーはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
彼女はシルルンの元に匿われて、安全な場所を与えられ、とりあえずは満足していた。
だが、近い将来に火精霊たちが、ここにもやって来るという不安をずっと抱えていた彼女は、キング ビーが判断を間違えたのではないかという疑念を覚えていた。
つまり、大軍であるホーネット種を頼るべきではないかと彼女は思っていたのだ。
しかし、キング ビーの判断は間違っておらず、目の前のマスターは想像を絶する化け物なのだということを彼女が理解した瞬間だった。
「まぁ、君たちの数が増えたら、外に出て巣を作ってもいいからね。ここのエリアは僕ちゃんの縄張りだから」
「あ、あのう……雀蜂族はどうなったのでしょうか?」
「ホーネット種のクイーンと話をして、不戦の契りを交わしてるから心配しなくていいよ」
「……さ、さすがです」
消え入りそうな声で呟いたクイーン ビーは瞳を輝かせており、彼女は一気に不安が解消されて、小躍りしたくなるのを必死で踏み止まる。
「戦わなくていいのでしたら、私たちは何をしたらいいのでしょうか?」
「う~ん、逆に聞くけど戦わないときは何をしてたの?」
「い、いえ、私たちは常に狩りをして、食料を蓄えていましたので……」
「その蓄えてた食糧は魔物の死体ばっかりなのかい?」
シルルンは探るような眼差しをクイーン ビーに向けた。
「いえ、果物や花の蜜を集めて蜂蜜も作っていました」
「それだ!! 君たちには蜂蜜を作ってもらうよ」
「は、はい……わ、分かりました」
クイーン ビーはすぐに満足げな笑顔で頷いた。
シルルンは立ち上がって部屋から出ていき、食堂に向かって歩いていく。
彼は思念でグレイ(ゴーレム)たちに「食堂に集まれ」と指示を出す。
シルルンが食堂に到着すると、グレイたちはシルルンの元に歩いてきた。
「シルルン様、どうされたのですか?」
ゼフドが探るような眼差しをシルルンに向ける。
「丁度いいところにいて良かったよ。僕ちゃんは防壁を二重にしようと思ってるんだよね。だから、ゼフトたちは防壁から南の魔物を倒してほしいんだよ」
「なるほど、分かりました」
視線をグレイたちに向けるゼフドが納得したような顔で頷いた。
彼はシルルンが動き出したと勘ぐったが、建築要員のグレイたちがいるので、それ以上の追求はしなかった。
シルルンは、グレイたちを引き連れて、拠点から出て西に向かって歩き出したのだった。
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