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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
学園武祭編

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188/303

188 ジェリーの冒険 修

挿絵(By みてみん)


いい加減な世界地図。




 マジクリーン王国の南西の浜辺は魔物で埋め尽くされており、海からも魔物が続々と上陸している状況だ。


 これに対してマジクリーン王国軍は総力を挙げて迎撃にあたり、冒険者や傭兵も召集されて戦いを繰り広げており、浜辺は地獄と化していた。


「最早、ここまでか……メイ……もう一度君に会いたかった……」


 男は口から大量吐血し、地面に突っ伏して動かなくなった。


「お前は逃げるんだ!!」


 男は声を張り上げたが、クラゲの魔物は瞳に涙を浮かべて動かない。


「行けっ!! 行くんだ!! なんとしても生き延びろ!!」


 それでもクラゲの魔物は動かず、魔物の群れが一斉に『溶解液』を吐く。


 男は身を挺してクラゲの魔物を護り、液体を浴びた身体が溶け落ちる。


「!?」


 血相を変えたクラゲの魔物は男に駆け寄った。


「最後の命令だ……逃げて……師匠の元に行くんだ……」


 男は満足げな笑みを浮かべてクラゲの魔物の頭を撫でていたが、その手はだらりと垂れ下がって地面に落ちた。


 魔物の群れは一斉に『溶解液』を吐き、液体を浴びせられた男は体が溶けて跡形もなく消え去った。


 クラゲの魔物は大粒の涙を流しながら身を翻し、その場から逃げ去ったのだった。



 











 赤い髪色の女冒険者は立ち止まり、振り返って訝しげな顔をする。


「クラゲの魔物がずっと私たちの後をついてきているのよ」


「ふふっ、私たちを襲って食べようとしてるのかもね」


 青い髪色の女が馬鹿にしたような顔でにやりと笑う。


「笑いごとじゃない!! リリーナ様が襲われたらどうするんだっ!!」


 赤い髪色の女冒険者が青い髪色の女に食って掛かる。


「害があれば斬り捨てればいいだけじゃない。あの体の大きさだと所詮、下位種でしょ?」


 青い髪色の女は自信ありげな表情を浮かべている。


 クラゲの魔物は冒険者たちから五十メートルほど離れた距離を保って追従しており、冒険者たちが停止したり、振り返ったりするとクラゲの魔物も動きを止めて、素知らぬ顔で辺りを見回しているのだ。


「話を逸らすなっ!! 私はリリーナ様に危険が及ぶかもしれないと言ってるんだ!!」


 赤い髪色の女冒険者は憤怒の形相を浮かべている。


 彼女らはいわゆる勇者一行というやつだ。


 勇者一行に加わるには勇者を尊敬、あるいは畏敬、崇敬する者たちの中から勇者に認められた者だけが共に行動することを許される。


 つまり、勇者はパーティを組んでいることが当たり前で、セルドのように単独で行動するのは極めて珍しいことなのだ。


「だから、害があれば殺せばいいと言っているだろう。リリーナ様は無益な殺生は好まないからな」


「ぐっ……」


 赤い髪色の女冒険者は苦虫を噛み潰したような顔をして押し黙る。


 現在、リリーナ一行はマジクリーン王国から元ポラリノール王国に向かって移動していた。


 次の日、赤い髪色の女冒険者が振り返ると、クラゲの魔物は10メートルほどの距離まで近づいていた。


 赤い髪色の女冒険者が鋭い視線をクラゲの魔物に向けると、クラゲの魔物は驚き戸惑っていた。


 さらに次の日、クラゲの魔物は青い髪色の女の横に並んで嬉しそうに多数ある『触手』を大きく振りながら一緒に歩いていた。


「……」


(このクラゲ、意外に図太いな……)


 赤い髪色の女冒険者は呆れたような表情を浮かべている。


 リリーナ一行は元ポラリノール王国の境界線に差し掛かるところで停止した。


 辺りは開けた場所で馬車から数人の女たちが降りてくる。


「まぁ、あなたがピンクのクラゲちゃんね」


 そう言ったのは、腰がくの字に折れ曲がった老婆で、勇者であるリリーナは齢八十を超えているのだ。


 クラゲの魔物は嬉しそうに多数ある『触手』を上下に動かしてアピールする。


 このクラゲの魔物は言うまでもなくジェリーである。


「リリーナ様……一応、魔物ですのでお気をつけください」


 赤い髪色の女冒険者は庇うようにリリーナの前に立つ。


「この子は大丈夫ですよ……おそらく、人族の魔物使いに使役されていたのでしょう」


「なるほど……ということはマスターが殺されて、マジクリーン王国から逃げてきたということでしょうか?」


 考え込むような素振りを見せた青い髪色の女がリリーナに尋ねる。


「その可能性が高いと思いますね……」


 リリーナは『読心』でジェリーの心を探る。


「……やはり、このクラゲちゃんはペットだったようですね。マスターの最後の命令でメローズン北西の難民キャンプに向かってる途中で、シルルンという者を探しているようです」


「シルルン!?」


 リリーナの言葉に、フワフワ(ホベラ)が驚きの声を上げた。


「あら? ホベラはシルルンという者を知っているのですか?」


「そのシルルンという者が肩に2匹のスライムをのせているか、探ってみてくれないかしら?」


 シルルンという言葉に、ジェリーは嬉しそうに『触手』をゆっくりとクネクネさせて踊った。


「……スライムをのせているようですよ」


 『読心』でジェリーを探ったリリーナがにっこりと笑う。


「だったら私が知っているシルルンですね。エンシェントを屠って私たちを解放したのがシルルンなんです」


「えっ!?」


 リリーナたちは驚きのあまりに血相を変える。


「ということは、そのシルルンという人物は四人目の勇者なのですか?」


 青い髪色の女は興味津々といった顔つきでホベラに尋ねると、リリーナたちの視線がホベラに集中する。


「そう思うのも仕方がないけど、彼は勇者じゃないのよ」


「……そ、そうなんですか」


 青い髪色の女は残念そうな顔をしているが、リリーナは訝しげな表情を浮かべていた。


「リリーナがそんな顔をするのも無理ないわ。私は彼に出会って勇者そのものが懐疑的になったから」


「そうでしょうね……私は赤子の頃から勇者をしているけれど、勇者以外がエンシェント級の魔物に勝利したという話を一度も聞いたことがないもの」


「エ、エンシェントってそんなに強いのですか?」


 青い髪色の女が緊張した面持ちでホベラに尋ねる。


「私たちが挑んだエンシェント ハイ イーグルは、私を含めて五人の勇者が犠牲になったのよ」


「それなのに、勇者でもないシルルンという者がそのエンシェントを倒したのです」


「た、確かにおかしいですね……」


 青い髪色の女は困惑したような表情を浮かべている。


「私はシルルンを調べてみたのよ。するとシルルンは武学の三年生で、まだ十五、六歳の少年なのよ」


「なっ!?」


 リリーナたちは雷に打たれたように顔色を変える。


「これは私の見立てだけど、シルルンはカリバーンより、遥かに強いと思うのよ」


 その言葉に、リリーナたちは大きく目を見張った。


「俺がどうしたって?」


 いつの間にか姿を現した金色の鎧で着飾った男が、探るような眼差しをホベラに向ける。


 即座に勇者ではない者たちが、地面に膝をついて頭を下げる。


「あなたより、強い少年がいるって話よ。カリバーン」


「おい、フワフワさんよぉ、俺を侮るなよ? 人族で俺に勝てるのはセルドぐらいなもんだぜ」


「別に侮ってはないわよ。だけど、何事にも例外は存在するものよ」


「そいつの名は何て名だ?」


「シルルンという少年よ」


「一応、覚えておくぜ……それより何だこのクラゲは? 殺すのか?」


 カリバーンは両手でジェリーを掴んで、目線の高さまで持ち上げる。


 ジェリーの目は虚ろで、死んだようにピクリとも動かない。


「そのクラゲはメローズンまで行くつもりなのよ。シルルンを捜しにね」


「さっき言ってた奴の名前じゃねぇか……」


 カリバーンはそっとジェリーを地面に下ろしたが、ジェリーは慌ててリリーナの後ろに隠れた。


「カリバーン、あなたにはメローズンの鉱山に行ってほしいのです」


「鉱山? 相手は何だ?」


 リリーナの言葉に、カリバーンは顔を顰める。


「ちょっと待って。その前にもう一度、『超危険探知』で鉱山を探ってほしいのよ」


「分かりました」


 リリーナは素直に頷いて『超危険探知』でメローズンを探る。


 『超危険探知』は世界規模で、危険を探ることが可能なのだ。


「おかしいですね……脅威を感じないです」


「でしょうね……エレメンタルを全滅させたのはシルルンよ」


「なっ!?」


 リリーナたちは面食らったような顔をした。


「その鉱山にはシルルンの拠点があるみたいで、拠点を護るためにシルルンがやったのよ。ただ、確実に全滅させられるか分からなかったからカリバーンと合流するまで報告しなかったのよ」


「そういうことでしたか……でしたらカリバーン、あなたは私たちと一緒にここで待機ですね。それにしても、シルルンくんは素晴らしいですね」


 リリーナは屈託のない笑みを浮かべている。


 支援タイプである彼女は『超危険探知』で世界を探り、その脅威レベルに応じて勇者を派遣しているのだ。


 そのため、セルドもカリバーンも魔物を倒すとリリーナの元に集結する。


 勇者は三人しかおらず、独自に動くと後手に回るからだ。


 ポラリノール王国が滅んだ原因の一端は、勇者たちの連携が取れていなかったことが挙げられる。


 これにより、勇者たちは連携するようになったのだ。


 さらにリリーナは『世界保存』と『未来予知』を所持しており、脅威レベルが極めて高い場合、その国の近くまで赴いて『世界保存』を発動するのだ。


 『世界保存』は発動すると、発動時の時間に戻せるという超激レア能力だ。


 だが、時間を戻せるのは発動してから二十四時間以内という制限があり、主に勇者が魔王と相対するときの保険として発動されるのだ。


 そして、リリーナたちがマジクリーン王国まで足を運んだ訳は、現在、脅威レベルが極めて高い戦いがマジクリーン王国で繰り広げられており、リリーナが『世界保存』を発動したからである。


 つまり、セルドと魔王(エンシェント ハイ シーワスプ)が戦ったのだ。


 『魔王』も、『勇者』と同様に能力なので、全ての魔物が唐突に魔王に目覚める可能性があるのだ。


 今回の場合、エンシェント級の魔物が魔王に目覚めたので、さすがのセルドも大苦戦の上での勝利だった。


 だが、魔王は倒したが海からは無数の魔物がマジクリーン王国に攻め寄せており、セルドはその対応に追われている状況だ。


「いや、俺はこのクラゲと共にメローズンに行く」


 カリバーンは、リリーナの後ろに隠れているジェリーを掴み脇に抱えて歩いていったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 次は魔王なのですね。 勇者カリバーンはシルルンに会って何を思うのだろう。 (/ー▽ー)/フフフ
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