182 エレメンタル種との戦い④
シルルンたちは夜通しエレメンタル種と戦いを繰り広げており、朝を迎えていた。
戦果としては上位種を1000匹ほど倒して全滅させており、半数ほどのエレメンタル種を倒していた。
このエリアには10万ほどのエレメンタル種がいるので、数的には5万ほどになる。
「マスター、ミルミルが元気がないわ」
「えっ!? マジで!?」
ラーネの言葉に、シルルンは急停止するようにブラックに伝えた。
ブラックは即座に停止して、ラーネがミルミルを連れてプニの口の中から出てきた。
シルルンは『魔物解析』でミルミルを視る。
「ん? 体力が減ってるね? あれ? 状態が衰弱になってるよ……」
訝しげな顔をしたシルルンは、視線をミルミルに向けた。
「あれ? テイムしたときより、なんか小さくなってない?」
「……たぶん、プニの口の中には水が全くないからよ」
スライムアクアが、プニの口の中から言った。
「あっ、そうか!! 水の精霊だから水がいるんだ」
シルルンは魔法の袋から樽を取り出した。
「これに水を入れたらいいんだよ。誰か樽に水を入れてよ」
「ウォーターデス!!」
プルはウォーターの魔法を唱えて、巨大な水の刃が樽を木っ端微塵に破壊して飛んでいった。
「……ごめんなさいデス」
プルは申し訳なさそうな顔をして、ションボリした。
「あはは、樽はいっぱいあるから問題ないよ」
シルルンは再び魔法の袋から樽を取り出して、視線をプニに向けた。
「私がやるわ」
プニの口の中から出てきたスライムアクアは、『水操作』で水球を作り出し、水球はふわふわと移動して樽の中に入った。
それを見たミルミルは、一目散に樽の中に入って、ふるふると震えている。
「衰弱が消えたデシ!!」
プニは『解析』でミルミルを視て、嬉しそうな顔で言った。
「ということは、かなり厄介だね……」
シルルンは残念そうな顔をした。
彼は全属性をペットにしようと考えていたが、無理だと思ったからだ。
ファイヤー エレメンタル種の場合、火をエネルギーとしているわけで、常に火を焚き続けるのは手間が掛かる。
エアー エレメンタル種とサンダー エレメンタル種にいたっては、どこに行けば風と雷が常にあるのか彼には分からなかった。
そもそも、エアー エレメンタル種とサンダー エレメンタル種の数が増えないのは、エネルギーになる風と雷が発生する場所が少ないからだ。
だが、シルルンは『サンダーウェーブ』、プルとプニは火、風、雷の魔法を所持しているので、エネルギーを供給しようと思えばできるのだが、離れられなくなるので彼はこの3属性のテイムを断念した。
「まぁ、テイムする前に判明して良かったよ。次は北に行ってみよう」
「了解」
シルルンは樽をラーネに渡すと、ラーネは樽を抱えてプニの口の中に入って、ブラックが北に進みだした。
シルルンたちは、エレメンタル種を皆殺しにしながら北の方角に突き進んでいく。
「ん? あれは第2ポイント。どうなってるか見てみよう」
「了解」
ブラックは急降下して、第2ポイントの出入り口前でふわふわと浮いている。
「あはは、さすがにこの状況だったら獣人たちもいないよね」
第2ポイントの出入り口周辺の地面は溶岩に変わっており、その溶岩はポイントの中まで続いている。
「どうするデスか?」
「う~ん、中を調べてみて誰もいなかったら僕ちゃんの拠点にするよ」
「フハハッ!! それはいいですなぁ。縄張りは多ければ多いほどいい」
「とりあえず、周辺の溶岩をなんとかしないとね」
シルルンは魔法の袋から巨大な氷を取り出して、放り投げた。
巨大な氷が溶岩の上に落ちると、大爆発を起こして周辺は水蒸気に包まれた。
「プルもやるデス!!」
「デシデシ!!」
プルとプニは『風殺し』で大気を吸い込み、周辺から水蒸気が消えた。
「できればブリザーの魔法がいいね。ウォーターだと地面が滅茶苦茶になりそうだからね」
「分かったデス!! 」
「デシデシ!!」
プルとプニはふわふわと飛んでいき、溶岩に目掛けてブリザーの魔法を唱えまくっており、シルルンも魔法の袋から巨大な氷を取り出して投げまくる。
溶岩だった大地は一瞬の内に、水浸しになったのだった。
「あはは、中に入ってみようか」
シルルンが第2ポイントの出入り口に向かって歩いていくと、プルとプニは慌ててシルルンの肩に戻った。
シルルンたちは第2ポイントに入ると、中もほとんど溶岩だった。
だが、1匹だけ魔物が佇んでいた。
「あれ? レッサー アース エレメンタルがいるね……自然発生したのかな? ちょうど良かったよ」
シルルンは見ただけで透明の球体を作り出し、レッサー アース エレメンタルを結界で包んで一瞬でテイムに成功する。
レッサー アース エレメンタルは、ふわふわと飛んでシルルンの前にやってきた。
「あはは、君の名前はグラグラだよ。危ないからとりあえずはプニの口の中に入っててよ」
グラグラは丸い形になって、プニの口の中に入っていった。
「じゃあ、ここも元に戻すよ」
「フフッ……面白そうね」
「私もやるわ」
プルとプニは頷き、プニの口の中からラーネとスライムアクアが出てきて、ペットたちは溶岩に目掛けて水や氷を放つ。
こうして、第2ポイントはシルルンが占領したのだった。
第2ポイントを占領したシルルンは、ラーネに頼んでアミラ、ダダ、デテ、シャイン、カティン、キルを呼び寄せた。
「シルルン様、新しい拠点を手に入れたのですね」
シルルンの前で跪いているアミラたちは、嬉しそうな表情を浮かべている。
シャインも嬉しそうな顔をしているが、カティンとキルはそうでもなさそうだ。
ウルフ種は縄張り意識が強い傾向にあるが、スタッグ ビートル種は領土欲が無いに等しいからだ。
「うん、とりあえずはポイントの範囲とまだ採掘できるのかを調べてほしいんだよ」
「はっ」
アミラたちは跪いたまま満足げに頷いた。
「シャインたちはこのポイントの防衛を頼むよ。あとラーネ、スライムアクア、ダイヤ、ザラもお願い。君たちは僕ちゃんと一緒にいても攻撃することが難しそうだからね」
「分かったわ」
ラーネは獰猛な笑みを浮かべている。
「まぁ、このエリアにはまだ5万ぐらいのエレメンタル種がいると思うから、何かあればラーネが『瞬間移動』で僕ちゃんのとこに来てくれればいいからね」
ラーネたちは頷いて、シルルンたちは第2ポイントを後にした。
シルルンたちは上空に浮かび上がる。
「精霊族を皆殺しでいいですな?」
「いや、ここのエレメンタル種は任せて、僕ちゃんたちは隣のエリアに行ってみるよ」
「了解」
ブラックは西の方角に凄まじい速さで移動する。
隣のエリアに到着したシルルンたちは、エレメンタル種の群れに襲い掛かる。
このエリアにいるエレメンタル種は5万匹ほどだった。
シルルンたちはまずは上位種を全滅させて、残りを殲滅しに掛かる。
日が暮れかけた頃には、シルルンたちはエリア内のエレメンタル種を全滅させたのだった。
「う~ん……」
シルルンは北の方角に視線を向けて顔を顰めている。
「どうしたんデスか?」
「うん、このエリアには上層に繋がるルートがあるんだけど、そこにもエレメンタル種がいるんだよ。おそらく上層を攻め取ろうとしてるんだよね」
「ぬう、そういうことなら潰し合いをさせて、我らはさらに西に進んでエレメンタル種を皆殺しにするのがいいですなぁ」
「そうだねぇ、潰し合いをさせるまではいいけど、いったん、みんなのところに戻ってみるよ」
「了解」
ブラックが東に向きを変える。
「マスター!! プニとプルのレベルが100を超えてるデシ!!」
声を張り上げたプニは、嬉しそうに瞳を輝かせた。
「えっ!? マジで!?」
シルルンは雷に打たれたように顔色を変える。
「たぶん、いっぱい倒すとレベル99を超えられるデシよ!!」
「そうみたいだね……」
シルルンは『魔物解析』でプニとプルを視て、複雑そうな顔をした。
レベルは上がらないと彼は思い込んでいたので、プニとプルにはなるべく戦闘させないようにしていたが、完全に裏目にでたからだ。
「もっといっぱい倒して強くなるデス!!」
「デシデシ!!」
プニとプルは『触手』でパンチを繰り出しており、やる気満々だ。
「あはは、西に進めばまだまだエレメンタル種はいるから、いっぱい倒すといいよ」
シルルンはたちは東に進んで、仲間たちの元に戻ったのだった。
「戦況はどんな感じ?」
本営に戻ったシルルンが視線をハイ ウォーター エレメンタルに向ける。
「次の夜までには全滅させることができるだろう」
「まぁ、あと1万ぐらいだからそんなとこだろうねぇ」
シルルンは満足げに頷いた。
1万ならもっと早く倒せると思うかもしれないが、探知系の能力を所持しているのはハーヴェンだけなのだ。
故にハーヴェンの『気配探知』を元にハイ ウォーター エレメンタルは進軍しており、最終的にはエリア内に散っているエレメンタル種に別働隊を送り込む必要があるので時間が掛かるのだ。
現在、ハイ ウォーター エレメンタルたちは戦いながら進軍しており、エリアの中央まで進んでいる。
彼らだけでは4万ものエレメンタル種を倒すことは難しいが、ラーネたちが戦いに参戦していることが大きかった。
「このエリアのエレメンタル種を全滅させたら、隣のエリアの中央から北に進んだところにある上層のルートに向かってほしいんだよ」
「……まだ隣のエリアに進軍もしていないのに、早急すぎやしないか?」
「隣のエリアのエレメンタル種は5万ぐらいだったから、もう全滅させたんだよね」
「なっ!?」
ハイ ウォーター エレメンタルは驚きの声を上げた。
「たぶん、その上層のルートに一番強いかもしれないハイ アース ファイヤー エレメンタルがいるんだよ」
「おい、ちょっと待て。その言い方だとハイ アース ファイヤー エレメンタルは複数いるように聞こえるぞ」
ハーヴェンは訝しげな眼差しをシルルンに向けた。
「最低でも2匹はいると思うよ。上層に1匹と一番西のエリアで1匹は確認してるからね」
「な、なんてこった……」
ハーヴェンは苦虫を噛み潰したような顔をした。
彼が戦ったハイ ファイヤー エレメンタルは高レベルで、手下を無尽蔵に召喚して、溶岩で体力を回復し、回復手段がないハーヴェンは防戦一方だったのだ。
「まぁ、一番西のエリアにいるエレメンタル種は僕ちゃんたちが全滅させるよ」
「ほう……」
「……」
ハイ ウォーター エレメンタルは感心したような声を上げたが、ハーヴェンは絶句していた。
「そのハイ アース ファイヤー エレメンタルというのはどのくらい強いんだ?」
ヒーリー将軍が探るような眼差しをシルルンに向けると、リザやルアンたちの視線もシルルンに集中する。
エレメンタル種の上位種を、シルルンたちが皆殺しにしているので、彼らはその強さを知らなかった。
「う~ん……正面から戦えるのはハイ ウォーター エレメンタルだけだと思うよ」
「そ、そんなに強いのか……私が敗れた山賊の指揮官とどっちが強いと思う?」
「そりゃあ、ハイ アース ファイヤー エレメンタルだよ。ステータスがどれだけ高くても物理が効かないから、それ以外の勝負になるからねぇ」
「だが、あの指揮官には『流星石』という戦略級の攻撃手段があるだろう?」
「たぶん、半分土精霊だから、吸収されるだけだと思うよ」
「……そ、そんな化け物にどうやって勝てるんだ?」
「あはは、プルとプニの火力なら倒せるよ」
シルルンはふふ~んと胸を張った。
「そ、そうだったな……その可愛らしいスライムたちの火力も確かに戦略級だった……」
「とりあえず、今日は僕ちゃんも休むよ。夜が明けたらルアンは僕ちゃんと一緒に西に行こう」
こうして、シルルンは眠りについたのだった。
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