180 ホーネット種との交渉 修
カース ホーネットは凄まじい速さで空を翔けるが、ブラックは難なく追従していた。
次第にホーネット種の拠点である、丸型の巨大な要塞が見え始める。
カース ホーネットは巣の内部に入り、螺旋状の坂道を下っていき、シルルンたちも追従する。
「ライトデシ!!」
プニはライトの魔法を唱えて、光の玉が出現してプニを追いかける。
「フフッ……雀蜂族の巣の中はこんな感じなのね」
ラーネは興味深げな顔で言った。
部屋の中央には大量のホーネット種が身を寄せ合っており、カース ホーネットは坂道を下っていく。
シルルンたちが部屋を四つほど通過すると、巨大な空間が広がっていた。
「へぇ、地下に入ると森の大穴みたいな感じになるんだね」
辺りを見渡したシルルンは、意外そうな表情を浮かべている。
この部屋の壁には多数の洞穴が掘られており、千を超える通常種が部屋全体に展開して守りを固めていた。
洞穴からは多数のホーネット種が慌しく出入りしており、この部屋が何よりも違うところは、中央に巨大な大穴があいていることだった。
カース ホーネットが部屋の中央にある大穴に近づくと、大穴を守っているホーネット種たちが左右に分かれて大穴が見えた。
「……大胆な作りね」
ラーネは呆れたような顔で呟いた。
「あはは、縦方向に洞穴を掘っても、羽があるから問題ないんだろうね」
シルルンは楽しそうに笑っている。
カース ホーネットは頭から大穴に突入したが、ブラックは脚から突入した。
つまり、シルルンたちは落下しているのだ。
「落ちてるデチ!! 落ちてるデチ!!」
プニの口の中から顔を出したプニニは、楽しそうに瞳を輝かせており、慌ててトントンが両手でプニニを押さえた。
トントンが、プニの口の中にいるのはプニニがトントンを連れていきたいと駄々をこねたからだ。
シルルンは、ブラックに乗れないから無理だと言ったが、彼ははっと閃いて小さくならなくても何でも『捕食』できるプニたちなら、そのままの大きさでも入ることは可能なのではないかという考えに至ったのだ。
実際に試してみると何の問題もなくトントンは、プニの口の中に入れたのだった。
「このまま落下し続けたら、クイーンがいるのかな?」
シルルンは視線を壁に向けると壁にも洞穴が掘られていた。
洞穴を突き進むカース ホーネットは、いきなり、壁の洞穴へと進路を変えた。
「だよねぇ……このままクイーンの部屋に着いたらいくらなんでも無防備すぎる」
シルルンは満足そうな表情を浮かべており、ブラックも壁の洞穴に突入してカース ホーネットを追いかける。
ちなみに、このまま落下し続けた先にある部屋には、カース ホーネットが率いる部隊が待ち受けているのだ。
カース ホーネットに追従するシルルンたちは、それから十を超える部屋を通り抜け、再び縦に掘られた洞穴を通過し、同じようなことを三度繰り返して洞穴を進んでいく。
すると、洞穴の出入口が見えはじめて、カース ホーネットは地面に着地した。
「ここだ」
カース ホーネットは部屋の中へ歩いていき、シルルンたちも追いかける。
「解せんな……なぜ人族を連れてきた?」
部屋の中央にいる銀色のホーネット種が雀蜂語で言い放ち、銀色のホーネット種は訝しげな顔をカース ホーネットに向けている。
「キング ホーネットデシ!! でも弱いデシ」
プニは『解析』で銀色のホーネット種を視て、思念でシルルンに言った。
キング ホーネットの傍には巨大な蛹の姿があり、その周りには十匹ほどのカース ホーネットが巨大な蛹を護っていた。
「この人族は東の虎族を滅ぼしたようで、我らと不戦の契りを交わしたいというので連れてきました」
「ほう、東の虎族をか……」
キング ホーネットは軽く目を見張った。
「はっ、我が上空から探ってみたところ、虎族は消えていたので間違いないかと」
「だが、それだけでは足りぬ」
キング ホーネットがそう言い放つと同時に、二匹のカース ホーネットがシルルンに凄まじい速さで襲い掛かった。
シルルンは『叛逆』を発動して紫のオーラを纏い、襲い掛かるカース ホーネットたちを、氷撃の剣で斬り裂いて、カース ホーネットたちは体を両断されて血飛沫を上げて即死した。
だが、その刹那、シルルンの目の前にエンシェント ハイ ホーネットが出現し、凶悪な牙を剥き出しにしてシルルンに食いつこうとしたが、シルルンは『念力』でエンシェント ハイ ホーネットの顔面を殴り、エンシェント ハイ ホーネットは弾け飛んだ。
しかし、弾け飛んだはずのエンシェント ハイ ホーネットが再びシルルンの前に出現して、前脚の爪を振り下ろした。
シルルンは前脚の爪を躱しながら『念力』でエンシェント ハイ ホーネットの顔面を殴り、エンシェント ハイ ホーネットは顔面が半壊して弾け跳び、シルルンが凄まじい速さで追いかける。
「ば、馬鹿なっ!? エンシェント ハイ ホーネットが押されているのかっ!?」
キング ホーネットは雷に打たれたように顔色を変える。
「王よっ!! エンシェント ハイ ホーネットを止めて下さいっ!! あのままでは殺されてしまう!!」
カース ホーネットは必死の形相で訴えた。
「……あの状態になったエンシェント ハイ ホーネットを我では抑えることはできん」
キング ホーネットは悔しそうに前脚の爪を地面に叩きつけた。
「なっ!?」
カース ホーネットは放心状態に陥った。
だが、巨大な蛹が真っ白な輝きを放ち、輝きが収まるとそこには身体が銀一色に輝くホーネット種の姿があった。
「全く……おちおち蛹にもなってられないわね……」
身体が銀一色のホーネット種は苦々しげな表情を浮かべている。
彼女は思念でエンシェント ハイ ホーネットに戦闘を停止するように命令した。
しかし、エンシェント ハイ ホーネットはすでに身体が半壊して、しかも石化していた。
「おぉ、クイーンよ!!」
「クイーン様っ!!」
キング ホーネットとカース ホーネットは期待に声を弾ませる。
「それにしてもとんでもない奴を連れてきたわね……」
「はっ、おそらく勇者だと思われます……」
「なるほどね……まだ不戦の契りを交わしてくれるならいいけど……」
クイーンは蔑むような目でキング ホーネットを睨みつけて、ため息を吐いた。
「とりあえず、エンシェント ハイ ホーネットは殺してないよ」
クイーンたちの前まで歩いてきたシルルンは、『叛逆』を解除してキング ホーネットを睨みつけた。
「うっ……」
キング ホーネットは狼狽えてたじろいだ。
プニは物欲しそうな顔で、カース ホーネットの死体を見つめている。
「あれ? 君はいたっけ?」
シルルンは一瞬面食らったような顔をしたが、『魔物解析』で銀一色のホーネット種を視た。
すると、クイーン オブ クイーン ホーネットという個体だった。
「へぇ、こんな個体もいるんだ」
シルルンはビックリして目が丸くなった。
「まずはキングがしたことに対して非を認めるわ。何か要求はあるかしら?」
(エンシェント ハイ ホーネットが殺されていないから、まだ交渉の余地はあるはず)
人族語で言ったクイーンは探るような眼差しをシルルンに向けた。
「それなら、まずカース ホーネットの死体が欲しいね」
「それなら構わないわよ」
クイーンは一瞬顔を顰めたが、すぐに取り繕ったような笑顔を見せた。
「マスターありがとデシ!!」
プニは嬉しそうに『死体吸収』で二匹のカース ホーネットの死体を吸収した。
「で、君はクイーンからさらに進化した個体のようだね」
その言葉に、キング ホーネットとカース ホーネットは大きく目を見張った。
「さすが人族の勇者ね……でもこの進化は妾にとっても想定外だったのよ」
クイーンは満足げな表情を浮かべている。
彼女は蛹に逆変態したまでは想定内だったが、そこから羽化できなかった。
だが、エンシェント ハイ ホーネットが殺されると危機感を彼女が抱いたとき、羽化ではなく進化したのだった。
「何か勘違いしてるみたいだけど、僕ちゃんは勇者じゃないよ」
「えっ!?」
クイーンたちはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
「まぁ、仮に勇者がここに来たとしたら、君たちは滅びるしかないよ。勇者は僕ちゃんより強いからねぇ」
「……」
クイーンたちは信じられないといったような表情を浮かべている。
「それで、僕ちゃんと不戦の契りを交わしてくれるのかい?」
「……まず、エンシェント ハイ ホーネットは石化しているけど、治してくれるのかしら?」
「これの汁をかければ治せるよ」
シルルンは魔法の袋から紫色の果物を取り出して、クイーンに目掛けて投げると、クイーンは前脚の爪で器用に掴んだ。
「……こんなもので石化が治る?」
クイーンは意外そうな表情で紫色の果物を見つめており、カース ホーネットが紫色の果物をクイーンから受け取った。
カース ホーネットは訝しげな顔をしながらエンシェント ハイ ホーネットの元のまで歩いていき、前脚の爪で紫色の果物を握りつぶして、汁をエンシェント ハイ ホーネットにかけた。
すると、エンシェント ハイ ホーネットは石化から回復して動き出した。
それを目の当たりにしたクイーンは目を見張り、思念で「妾は大丈夫」とエンシェント ハイ ホーネットに伝えると、エンシェント ハイ ホーネットの姿が掻き消えた。
「面白いわね……妾が知らないことがまだまだありそうね……あなたとは不戦というより、同盟の契りを交わしたいわね」
「う~ん、それは僕ちゃんだけでは決めれないんだよね」
「なぜかしら?」
クイーンは不服そうな顔をした。
「僕ちゃんはスパイダー種と同盟してるからだよ。君と同盟するならスパイダー種のクイーンと話さなきゃならないからね」
「……あなたは人族なのに魔物と同盟してるのね」
クイーンは面食らったような顔をした。
「まぁ、僕ちゃんは魔物を使役できるからねぇ」
「なるほどね……でも妾はあなたと同盟を交わしたいのよ。スパイダー種なんかどうでもいいわ」
プニとブラックを一瞥したクイーンは得心したような顔をしたが、表情は一変して険しいものに変わって、吐き捨てるように言った。
「言っとくけどスパイダー種にもエンシェントはいるんだよ」
「――っ!?」
クイーンたちは驚きのあまりに血相を変える。
「エンシェントは他種族にも存在したのね……本当に面白い」
クイーンは不敵な笑みを浮かべている。
「だから、とりあえず不戦の契りでいいんじゃないかな? とりあえず、スパイダー種のクイーンと話をしてみるし」
「仕方ないわね……」
クイーンは不満そうな表情を浮かべている。
「で、君たちの狩場なんだけど上層しかないと思うんだよね」
「そうね……東はあなたの縄張りだし、西は自然精霊族だから食べれないし……」
「あはは、やっぱりエレメンタルは食べれないんだ。まぁ、西のエレメンタル種は僕ちゃんたちが倒すけど、そうなっても中層や下層には進出しないほうがいいと思うよ」
「……どういうことかしら?」
クイーンは訝しげな眼差しをシルルンに向けた。
「あはは、人族を頻繁に襲ってたら勇者が来るからだよ」
「なっ!?」
クイーンは大きく目を見開いて、絶句したのだった。
「じゃあ、また来るよ」
シルルンは笑顔でそう言うと、シルルンたちは『瞬間移動』で掻き消えたのだった。
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