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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
大穴攻略編

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18 落下 修


 シルルンたちは学園に帰還するために森の中を進んでいた。


 『魔物探知』をシルルンが使用しているので魔物には遭遇しないが、魔物を避ける為に回り道をせざるを得ないので移動は遅そくなる。


 シルルンたちが鬱蒼とした森の中をしばらく進むと見晴らしのよい開けた場所に出たので、彼らはそこで休憩を兼ねて昼食をとることにした。


 レッサーピルパグたちは生い茂る草を見つめながら瞳を輝かせている。


 シルルンは彼らにタマ、マル、キュウといういい加減な名前をつけたがタマたちはとても喜んでいた。


 プルとプニはシルルンの肩から跳び下りて、プルがタマの背中に乗り、プニがマルの背中に乗ってタマたちは草が生える場所まで駆けていく。


 彼らは自由時間になるとタマたちの背中に乗って競争して遊んでいるのだ。


 食事を終えたシルルンたちは草原に寝転がってゆっくりと寛いでいると、ミーラの絶叫が響き渡った。


「きぁあああぁぁあああああああぁぁぁぁぁ!?!」


 即座にシレンが声が聞こえた方角へと駆けていき、その後をテックとトーラスが追いかける。


「どうしたんだろ?」


 起き上がったシルルンは顔を顰めた。


 リザはすでに走り出しており、その背をシルルンも追いかけると、そこには地面に巨大な大穴があいていた。


 形は歪だが直径七メートルほどの大穴で、巨大な葉や枝などを使って大穴は隠されていた。


 すでにこの場にはシレン、テック、トーラスの姿はない。


「う~ん、明らかにカモフラージュしようとしてるよね。それに気づかずにミーラは落ちゃったんだね……」


 嫌な予感を覚えながらシルルンは『魔物探知』で大穴内部を探った。


「ひぃいいいいっ!? ダメだこれっ!? どんだけ魔物がいるんだよ!!」


 シルルンは戦慄が電光のように頭に閃く。


「中はそんなにヤバイところなの?」


「魔物の数が多すぎる。『魔物探知』で捉えきれない数なんだよ」

 

「……」


 リザは表情を曇らせた。


 すると、辺りを徘徊していたテックのレッサー ピルパグが、主人を追いかけて大穴に突入した。


 踵を返したシルルンたちは休憩していた場所に戻り、荷物を纏めてタマたちの背中に荷物を括りつけた。


「僕ちゃんは追いかけるからリザは助けを呼んできてほしいんだよ。リザなら一人でも戻れるでしょ?」


「……分かったわ」


 リザは不服そうに頷いた。


「キュウに背負わせてる素材は持てるだけ持っていってよ」


 シルルンはにんまりと微笑んだ。


 リザが高値で売れる素材を鞄に詰め込むと、シルルンは大穴に移動した。


 鞄から松明を取り出して火をつけたシルルンはブラックに乗って大穴に身を投じた。


「ひぃいいいいいいいいいいいいいいっ!?」


 洞穴の傾斜は垂直に近く、落下状態で洞穴を下るシルルンはあまりの恐怖に絶叫した。


 タマたちも身を丸くしてシルルンの後を追いかけている。


 シルルンたちは凄まじい速さで洞穴を駆け抜けていくと広い部屋に出た。


 だが、洞穴の出口は部屋の天井に近い位置にあったために、シルルンたちは空中に投げ出されてから落下したが、ブラックは難なく着地に成功した。


「ふぅ……」


 シルルンの顔に虚脱したような安堵の表情が浮かんだ。


 辺りを見渡したシルルンは炎が見えたので、シルルンたちは炎に向かって移動した。


 そこではトーラスが二十匹ほどのレッサー ラットとレッサー モールを引き寄せて戦いを繰り広げていた。


「やぁ、おまたせ」


 シルルンたちは魔物の群れの横を通り抜けて、テックたちの傍に移動した。


 テックは壁を背にして地面に横たわるミーラにポーションを飲ませており、それをシレンとテックのレッサー ピルパグが護っていた。


 タマたちはシレンたちの横に並んで防御陣を構築した。


「来てくれたんですか!?」


 テックは歓喜に表情を輝かせた。


「うん、まぁね」


「わ、私のせいで本当にすみません……」


 ミーラはぐったりとしており、瞳は涙で潤んでいた。


 彼女は魔物に攻撃された訳ではなく、洞穴の出入口から転落して重症だった。


 天井の高さが五十メートルほどもあるからだ。


 仮にミーラが【魔物使い】ではなく、一般人である【街人】だったら即死していただろう。


「とにかく、リザが助けを呼びに行ってくれてるからそれまではなんとか逃げ回って時間を稼ぐしかないよ」


 シルルンは苦渋の表情を浮かべている。


「でも、リザさんはシルルンさんの後ろにいますよ?」


 テックはきょとんとした表情で言った。


「えっ!?」


 虚を突かれた表情でシルルンが振り返ると、そこにはリザが立っていた。


「ひぃいいいいいいいいいいいいいぃっ!?」


 シルルンの表情から次第に希望の色が蒸発していく。


「ふふっ、間違って落ちちゃったのよ」


 リザはにっこりと微笑んでいたが、抜刀してテックたちの前に立って剣を構えた。


 それを視認したシレンは、魔物の群れに襲い掛かった。


 魔物の群れはトーラスとシレンに瞬く間に殲滅されたのだった。


 シルルンたちは部屋の中を調べると部屋の直径は八百メートルほどで、洞穴が何本も掘られていた。


「う~ん……落ちてきた洞穴の位置が高すぎて松明じゃ場所が分からないね」


 天井を見上げるシルルンは渋い顔で呟いた。


 シルルンたちはこの部屋に居続けるのは危険だと判断して、シルルンの『魔物探知』で魔物の数が少ない洞穴へと進んだ。


 彼の『魔物探知』の範囲は直径一キロメートルが限界で、『魔物察知』はその倍の二キロメートルが限界だった。


 さらにシルルンは『集中』を同時発動させることにより、索敵範囲を円形から直線的に伸ばすことも可能で、その場合、五キロメートルまで索敵可能だが消耗が激しく多用は難しい。


 ちなみに、テックたちによる『魔物探知』の索敵範囲は直径三十メートルほどが限界だ。この点からしてシルルンの資質の高さが際立っている。


「この大穴は規模が大きすぎる……」 


 シルルンは深刻な表情を浮かべていた。


 彼の『魔物察知』ですら洞穴が長すぎて全体を探ることは不可能だからだ。


 そのため、シルルンは『魔物察知』で洞穴を探り、その時点で魔物の数が一番少ない洞穴に入ってシルルンたちは進んでいた。


 だが、想定外の魔物たちが出現することもあり、数が多ければシルルンたちは引き返したりもしているので、どこにいるのか全く分からない状態に陥っていた。


 それでも、シルルンたちは三つ目の部屋に到着し、すでに大穴に落ちてから数日が経過していた。


 部屋の広さは直径八百メートルほどで、部屋に現存する魔物は全部で百匹ほどだが、五つほどの集団に分かれていた。


「どうします?」


 テックは遠慮しがちにリザに尋ねた。


「左の方にいる二十匹を倒して、その奥にある洞穴に逃げ込んで追ってくればそこで迎え撃つのはどう?」


「じゃあ、それでいこうよ」


 リザの提案にシルルンが賛成し、テックとミーラも頷いた。


 リザは部屋の左側に佇んでいる二十匹ほどの魔物の群れに突撃し、トーラスとシレンが後に続く。


 プルとプニはシルルンの肩から跳び下りて、タマとマルに乗って出陣した。


 キュウは荷物を背負っているのでシルルンの傍におり、テックのレッサー ピルパグもテックの傍にいる。


 シルルン、テック、ミーラは奥にある洞穴を目指して、音を立てないようにゆっくりと歩きだした。


 魔物の群れは一瞬の内に十匹ほどがリザたちに倒されて、プルとプニは遠距離から魔法を唱えて、魔物を一匹ずつ倒していく。


 プルとプニは着実にレベルを上げて強さを増しているのだ。


 リザたちは難なく魔物の群れを殲滅するが、部屋の中央に展開していた三十匹ほどの魔物たちがリザたちに気づいて動き出す。


 奥の洞穴から半分ほどの距離まで進んだシルルンたちは、部屋を支える大きな柱の後方に身を隠す。


 シルルンは『集中』『魔物探知』『魔物解析』を同時発動して奥の洞穴内を探る。


「ひっいいいいいっ!! やべぇ!? いっちゃダメだ!! とんでもないのがこっちに来てる!! 早くこっちに来て!!」


 リザたちに向かってシルルンは大声で叫んだ。


 即座に走り出したリザたちは、シルルンたちの傍に移動して大きな柱に身を隠した。


「でもどうするのよ? 隠れても向こうの三十匹はこっちに気づいて近づいて来てるわよ?」


「それは分かってるけど今動くのはヤバイよ。僕ちゃんが合図したら全力で奥の洞穴に逃げ込むよ」


 釈然としない心持ちでリザたちが頷くと、奥の洞穴から巨大な蜘蛛の魔物が姿を現した。


「あれはハイ スパイダー!! 私がやられた奴とは違うみたいだけど」


 リザはハイ スパイダーを睨みつける。


「たぶんリザが戦ったのはレベルの低い個体だよ。けどあの個体は高レベルだからね。あれは大穴に棲みついてる主とかだと思うよ」


 シルルンは恐怖に顔を歪めてガタガタと身体を震わせている。


 しかし、トーラスとシレンは敵意剥き出しでハイ スパイダーを睨みつけており、今にも襲い掛かりそうだ。


「ひっいいいっ!! ダメっ! ダメダメッ!!」


 慌てふためくシルルンはトーラスとシレンの頭や毛を撫でながらトーラスたちを落ち着かせた。


 シルルンたちに向かって移動していた魔物の群れは、ハイ スパイダーに気づいて足を止める。


 ハイ スパイダーは洞穴の前から動かずに、多数ある眼だけがギョロギョロと動いており、その眼が時折り青く光っている。


 周辺に静寂が訪れて緊張感が張りつめた。


 ハイ スパイダーは凄まじい速さで魔物の群れに突進して前脚を繰り出し、三匹のレッサー ラットが前脚に突き刺さる。


 その光景を目の当たりにした魔物の群れはじりじりと後ずさる。


 ハイ スパイダーは凄まじい速さで魔物の群れに肉薄し、もう一方の前脚で四匹のレッサー モールを突き刺して、前脚を口元に運んでバリバリとレッサー ラットを食べ始めた。


 魔物の群れは一斉に四散するが、ハイ スパイダーは凄まじい速さで追いかけて魔物の群れを前脚で突き刺して、次々と食い殺していく。


 最早魔物の群れはハイ スパイダーの餌でしかなかった。


「今だよ!! 奥の洞穴に逃げ込むよ!」


 シルルンの合図で仲間たちは一斉に走り出して洞穴内に逃げ込んだ。


 シルルンたちが振り返ると、魔物の群れはすでに二十匹ほどがハイ スパイダーに食い殺されていた。


「食われる前に僕ちゃんたちは逃げるよ」


 シルルンたちは洞穴の中へと消えていったのだった。


















 C1ポイントに二千名の増援が到着した。


 C1ポイントはすでに攻略済みのC1aルートの他に四本の洞穴が掘られている。


 トーナ方向に掘られている洞穴


 C1bルート

 C1cルート


 森方向に掘られている洞穴


 C1dルート

 C1eルート


 C隊隊長はC1bルートに千名、C1cルートに千名を進軍させたが、残る二本の洞穴には進軍せずに残った兵士三百名で、C1ポイントを引き続き守るに留めたのだった。


 一方、C1bルートに進軍したC1隊千名は、三十キロメートルほど進んだところで部屋を発見した。


 部屋の広さは直径五百メートルほどで、魔物の数は六百匹を超えていた。


 C隊隊長が推測した通り、増援を要請していなければ撤退を余儀なくされる数だった。


 C1隊は即座に魔物の群れに突撃し、魔物を殲滅して部屋の制圧に成功した。


 魔物の群れはレッサーラットが大半を占めており、幸いにも死者は〇名で負傷者が百名ほどだった。 


 この部屋から掘られている洞穴は一本だけで、C1隊隊長はこの部屋をC4ポイントと名付けた。


 C1隊隊長は負傷した百名をC4ポイント残して進軍を開始した。


 C1隊は三十キロメートルほど進んだところで部屋を発見した。


 部屋の広さは直径五百メートルほどで、魔物の数は五百匹ほどだった。


「この部屋には上に繋がっている部屋しかありません」


 斥候はC1隊隊長に報告する。


「このルートの洞穴はここで終わりだ。魔物を殲滅しろ!!」


 C1隊隊長が号令を掛けると、C1隊は魔物の群れに目掛けて突撃した。


 だが、魔物の群れには二十匹ほどのモールの姿があった。


 モールたちのアースの魔法に兵士たちは次々と倒されたが、部屋の制圧には成功した。


 しかし、死者三百名、負傷者五百名という苦戦を強いられた上での辛勝だった。


 C1隊隊長はこの部屋をC5ポイントと名付けた。


 C1隊は負傷者が回復次第、Aルートの援軍として進軍するのだった。


 一方、C1cルートに進軍したC2隊千名は、三十キロメートルほど進んだところで部屋を発見した。


 部屋の広さは直径三百メートルほどで、魔物は百匹ほどしかいなかった。


 しかも大半がレッサー ラットで、C2隊に魔物の群れは瞬く間に殲滅された。


 当然、死者も負傷者も無く、この部屋には先に掘られている洞穴が一本しかなかった。


 C2隊隊長はこの部屋をC6ポイントと名付けた。


 再び進軍を開始したC2隊は三十キロメートル地点で部屋を発見し、部屋の広さは三百メートルほどで、魔物はレッサー モールが十匹だけだった。


「拍子抜けもいいところだ」


 C2隊隊長は失笑した。


 即座に魔物の群れはC2隊に殲滅されたのだった。


 C2隊隊長はこの部屋をC7ポイントと名付けた。


 当然、死者も負傷者もなく、C2隊はAルートの援軍として進軍を開始したのだった。



挿絵(By みてみん)

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