176 シルルン対パロズン 修
「シ、シルルンッ!? た、助けてくれっ!!」
ヒーリー将軍は瞳に涙を浮かべて訴えた。
だが、出た声はかすれており、シルルンはヒーリー将軍を一瞥して怒りの形相を露にした。
「あいつらは悪者のようだね……」
シルルンは山賊たちに向き直り、プニに思念で命令を出し、プニはヒーリー将軍の元にふわふわと飛んでいく。
プニはヒールの魔法、ファテーグの魔法、キュアの魔法を唱え、ヒーリー将軍の体力とスタミナが全快し、麻痺毒と媚薬の状態異常も浄化される。
「き、君はすごいスライムだな……ありがとう」
上体を起こしたヒーリー将軍は、我に返って赤面した。
彼女は全裸であることよりも、将軍である自分が泣き叫んで取り乱したことを恥じたのだ。
ヒーリー将軍は左腕で丸出しの胸を隠して立ち上がり、剣を拾う。
それを見届けたプニはふわふわと飛行してシルルンの肩に戻り、シルルンはプニの頭を優しく撫でた。
プニはとても嬉しそうだ。
「……奴らの中にとんでもない手練れがいる。ここは退くべきだと私は思う……」
だが、ヒーリー将軍の体が浮き上がってふわふわと移動し、シルルンに左腕で抱き寄せられた。
「なっ!? なっ!? ど、どういうことだっ!?」
顔を真っ赤に染めたヒーリー将軍は取り乱してシルルンの顔を見つめる。
「……考えたんだけど、この状況で一番困るのは将軍が狙われることだけなんだよね」
「なっ!? その言いようだと戦うつもりのように聞こえるんだが……」
ヒーリー将軍は怪訝な顔をした。
「もちろん戦うよ。相手は悪者だからね」
「……えっ!?」
ヒーリー将軍は怪訝な表情を深めた。
彼女は自分の耳を疑っていたのだ。だが、いくら待ってもシルルンは何も語らず、ヒーリー将軍は本気なのかと絶句した。
「……き、気持ちは分かるがいくらなんでも無謀だろ……相手は私たちが戦った300、いや、分隊した兵力と合わせると600を超えてるんだぞ」
「そんなに不安なら将軍だけ安全な場所に連れて行くけどどうする?」
シルルンはめんどくさそうな顔をした。
彼はヒーリー将軍を安全な場所に送り届けることにめんどくさそうな顔をした訳ではなく、戦えば勝てることを説明するのが面倒だったのだ。
「……えっ?」
ヒーリー将軍は面食らったような顔をした。
彼女は山賊の手下たちにプライドを粉砕されて不安定になっていた。
そのため、ヒーリー将軍は「目の前に悪がいるのに負けるからといって見過ごすのか?」と暗にシルルンは言っているのだと解釈して決死の表情に変わる。
「ふっ、ここで逃げても誰にも分からないのに君は悪に背を向けないんだな……君とここで散るのも悪くない」
ヒーリー将軍は右手に持っていた剣を左手に持ち替えて熱い眼差しをシルルンに向けた。
「……いや、将軍は落ちないようにしがみついててくれればいいよ」
怪訝な表情を浮かべたシルルンはブラックに命令し、ブラックは凄まじい速さで山賊たちに向かって移動する。
「は、速いっ!?」
血相を変えたヒーリー将軍はなりふり構わずにシルルンに抱きついた。
ブラックは山賊たちの前で停止し、ふわふわと浮いている。
「……空に逃げるもんだと思ってたが、俺たちのところに来てどうするつもりなんだ?」
パロズンは呆れたような表情を浮かべている。
「降参するなら早いほうがいいよ」
その言葉に、山賊たちは呆気にとられたような顔をした。
「……お前、人族のガキのくせにとんでもない度胸だな……俺はそんな奴は好きだぜ、相手してやる」
大猩々(ごりら)の獣人は獰猛な笑みを浮かべてシルルンに向かって歩き出す。
だが、シルルンは『念力』で大猩々の獣人を殴り、大猩々の獣人は弾け飛んだ。
パロズンを守る獣人たちは一瞬だけ表情を変えたが、一斉に凄まじい速さでシルルンに襲い掛かる。
しかし、シルルンは『念力』で獣人たちをなぎ払い、10人ほどの獣人が弾け飛ぶ。
山賊たちは驚愕して息を呑み、その場に緊張感が張りつめる。
ヒーリー将軍は呆けたような顔でシルルンを見つめている。
「くくっ、ガキのくせに強ぇじゃねぇか……まるで俺のガキの頃のようだぜ」
パロズンがシルルンの前に出てきて不敵に笑う。
「君が指揮官かい?」
「そうだ」
シルルンとパロズンが対峙して睨み合う。
「人族なのに強いデシ!! 『剛力』と合わせたら攻撃力は6000を超えてるデシ!!」
プニは『解析』でパロズンを視て思念でシルルンに言った。
「あはは、そういえばプニは『解析』を持ってたんだね」
シルルンは思念でプニにそう言いながら、プニの頭を優しく撫でる。
プニはとても嬉しそうにパロズンのステータスや魔法や能力をシルルンに報告していく。
「おい、女を抱いたまま戦うのか?」
パロズンは訝しげな眼差しをシルルンに向ける。
「悪者は信用できないからね」
「くくっ、面白いガキだ……」
そう言ったパロズンはシルルンの左腕を狙って凄まじい速さで剣を突き出した。
だが、それを視認してからシルルンは『念力』でパロズンの顔面を殴りつけ、パロズンは弾け飛んだが空中で身体を捻って地面に着地する。
「マ、マジかよ……」
パロズンは鼻を押さえて掌についた血を見て驚いており、懐からハイ ポーションを取り出して一気に飲み干した。
その姿を目の当たりにしたヒーリー将軍は目を見張り、無言でシルルンの顔を見つめる。
「……本気でいくぜ」
パロズンは『決死』を発動して黒いオーラを纏う。
「あの男は【暗黒剣士】だったのか……」
「半分正解。あの悪者は【土使い】と【暗黒剣士】の二重職なんだよ」
「つ、【土使い】だと!? それに二重職とは強いはずだ……」
ヒーリー将軍は険しい表情を浮かべている。
パロズンは『石閃』を放ち、とんでもなく巨大な尖った石がシルルンに目掛けて飛んでいくと同時にパロズンも凄まじい速さで突撃する。
シルルンは『念力』で巨大な尖った石を破壊すると、パロズンは巨大な尖った石の後ろに身を隠しながら突っ込んでおり、シルルンに剣の連撃を放つ。
シルルンは魔法の袋からミスリルソードを取り出し、パロズンが放つ剣の連撃を余裕で弾き返しながら『並列斬り』を放つ。
腹を斬られたパロズンは慌てて後方に跳躍する。
「お前……確実にビャクス様より強いな……」
パロズンは腹を斬られたにも拘わらず、羨望の眼差しをシルルンに向けている。
「降参するかい? 手加減するのも難しいんだよ?」
「こ、この俺が手加減されてるだと……」
パロズンは驚きのあまりに血相を変える。
「つ、強い……」
ヒーリー将軍は信じられないといったような顔でシルルンを見つめていた。
だが、彼女は不意に胸が高鳴るのを感じとり、違和感を覚えていた。
家柄が将軍家である彼女は意中の男を両親に紹介する度に激怒された。
彼女が好きになる男は決まってダメ男だからだ。
両親が彼女に会わせたがる男は家柄もよく実力もあり将来有望な好青年ばかりだが、彼女の心がときめくことはなく彼女は仕事に逃げたのだ。
しかし、彼女は疑念を深めていた。
シルルンは学生であるにも拘わらず、英雄と言われるほどの実力者であり、ダメ男ではないからだ。
彼女は逡巡するが疑念を払拭できなかった。
「『流星石』を撃つ……逃げないなら女を下がらせろ」
懐から取り出したハイ ポーションをがぶ飲みしながらパロズンは、射抜くような鋭い眼光をシルルンに向ける。
「『流星石』?」
シルルンは怪訝な顔をした。
「戦略級の攻撃のことだっ!! 逃げるんだシルルン!!」
ヒーリー将軍は必死にシルルンに訴える。
「戦略級ね……一応、『叛逆』を使ったほうが良さそうだね」
シルルンは『叛逆』を発動して身体に紫色のオーラを纏う。
「「なっ、なんだそれはっ!?」」
パロズンとヒーリー将軍は同時に声を張り上げて、その顔は驚愕に染まっている。
彼らは巨大な手で頭を押さえつけられたようなプレッシャーを感じていたからである。
シルルンは何も答えずにブラックから下りて、思念でブラックに指示を出す。
頷いたブラックはヒーリー将軍を乗せて後方に下がっていく。
「む、無茶だっ!! 戦略級の攻撃なんだぞっ!!」
「正直、助かったぜ……女がいたら本気でやれねぇからなぁ」
パロズンは安堵したような表情を浮かべていたが、一転して真剣な硬い表情を浮かべて全力で集中して『流星石』を生成し、遥か上空に巨大すぎる石が出現する。
「防げるもんならやってみろっ!!」
したり顔のパロズンは後方に跳躍してシルルンから遠ざかり、巨大すぎる石がシルルンに目掛けて襲い掛かる。
「お、大きいデス」
「デシデシ……」
プルは空を見上げて驚いているが、プニは羨望の眼差しで巨大すぎる石を見つめており、『擬態』を発動してテレポートの魔法を唱えてシルルンの肩から消えた。
「あはは、確かに大きいね……でも、対処法はいくらでもある」
シルルンは不敵な笑みを浮かべている。
彼はプルとプニの魔法で撃ち落す方法が一番確実だと考えていた。
プルとプニの魔法の威力は戦略級と言っても差し支えないほど威力があるからだ。
それ以外には『念力』で軌道を逸らす方法もあるのだが、彼はあえて『念力』で受け止める方法を選択した。
パロズンが「防げるもんならやってみろっ!!」と言ったからである。
シルルンは『念力』を広範囲に広げていくようなイメージで、巨大すぎる石を包み込んで力を込めて圧縮した。
すると、巨大すぎる石は10cmほどまで縮小してシルルンの掌に収まった。
石は鉄のような見た目に変わっており、シルルンは激しく重かったので石を放り投げると地面に激しくめり込んだ。
「「……へっ!?」」
これを目の当たりにしたパロズンとヒーリー将軍は間抜け面をさらしていた。
「降参するかい?」
シルルンは『叛逆』を解除してしたり顔で言った。
ブラックはシルルンの元に戻り、シルルンはブラックに乗ったが、ヒーリー将軍は地面に両脚で跪いて地面を激しく掘り返しており、シルルンが投げ捨てた石を凝視している。
「なっ、なんだこの石はっ!? 地面にめり込み続けてる上に触ってもビクともしないぞ……」
ヒーリー将軍は驚き戸惑っている。
「どうやったらそんな化け物じみた強さになるんだよ……」
パロズンは呆れたような顔で言った。
「勝てる可能性が極めて低い戦いを覆したらなれると思うよ。例えば君が僕ちゃんに勝つとかね」
シルルンはフフ~ンと胸を張る。
「はぁ? 勝てるわけないだろ……そんなことができるんなら誰だって強く――」
パロズンは言葉の途中ではっとなり、目の前の少年が勝てない戦いを覆してきたのだと理解して背筋がゾっとした。
「……勇者を除いてお前よりも強い奴を知ってるか?」
「うん。アウザー教官だね」
「そ、即答かよ……こうなると俺はいったいこの国で何番目なんだ……?」
パロズンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「お、おいっ!? あれはっ!?」
山賊たちは空を見上げて騒ぎだした。
シルルンたちも視線を空に向けると多数のエレメンタル種が接近しており、山賊たちは大慌てで逃げ始めた。
「ちぃ、もう来やがったかっ!? 南だっ!! 全員南に全力で逃げろっ!!」
パロズンは声を張り上げて、自身にエレメンタル種を引きつけようとアースの魔法を唱えた。
「あぁ? なんで魔法が発現しないんだ!?」
パロズンは顔を顰めて何度も魔法を唱えるが、魔法は発現しなかった。
「こ、これがエレメンタル種か……し、しかもとんでもない数だ……」
ヒーリー将軍は空を見つめて呆然としている。
「あはは、これはほんの一部だよ。もう中層のほとんどがエレメンタル種の縄張りになってるからね」
「えっ!?」
ヒーリー将軍は雷に打たれたように顔色を変える。
「うぁああああぁぁああああぁぁ!!」
「ひぃぎぁああぁぁ!!」
「た、助けてくれっ!!」
エレメンタル種の群れは山賊たちに襲い掛かり、山賊たちの絶叫が折り重なる。
すると、どこかに消えていたプニがシルルンの肩に戻ってきた。
「悪者たちからいっぱい奪ってきたデシ!!」
プニは屈託のない笑みを浮かべてシルルンに思念で言った。
「あはは、そうなんだ。じゃあ、僕ちゃんたちも行こうか」
ヒーリー将軍は慌ててシルルンにしがみつき、ブラックは凄まじい速さで上昇する。
「うぁあああああああぁぁああああああぁぁぁ!!」
ヒーリー将軍の絶叫が響き渡る。
「将軍はどうする? 軍が近くにいるんでしょ?」
シルルンたちは雲の高さまで上昇し、シルルンがヒーリー将軍に尋ねる。
「な、なんて高さだ……い、いや、いるにはいるがこの格好では恥ずかしい……」
ヒーリー将軍は地上に視線を転じて震え上がり、青ざめた顔で頭を振った。
「じゃあ、僕ちゃんの拠点に来るかい?」
「何っ!? シ、シルルンはここに拠点を持っているのか?」
ヒーリー将軍は恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
彼女が顔を赤面させたのは、呼び方を君からシルルンに変えたからだ。
「まぁね、中層にあるんだよ」
「そうか、世話になる」
こうして、シルルンたちは凄まじい速さで拠点に帰還し、ヒーリー将軍は絶叫し続けるのだった。
ビャクスと戦いを繰り広げるラーグ隊とホフター隊は苦痛に顔を歪めて地面に突っ伏していた。
彼らはビャクスの『放屁』により、あまりの激臭に死にかけていた。
その中でラーグとラーグ隊の聖騎士だけが行動することが可能だった。
聖騎士は『毒耐性』を所持しており、ラーグは『能力軽減』も併せ持っているからだ。
ラーグは『物理反射』で戦いを有利に進めていたが、ビャクスが水系の能力で攻撃を始めると一転して劣勢に陥り、『放屁』で勝敗は決したのだ。
ラーグたちは必死の形相で仲間たちにキュアの魔法を唱えて、毒の浄化を試みる。
1回のキュアの魔法では完全に浄化できなかったが、仲間たちはなんとか動けるようにはなった。
仲間たちを治療したラーグたちは、ビャクスを警戒しながら後退する。
ビャクスはそれを見下すような冷笑を浮かべて眺めている。
彼にとってラーグたちなど雑魚でしかないからである。
しかし、その時だった。
遥か上空から巨大な魔物が降り立ったのだ。
ハイ アース ファイヤー エレメンタルである。
その全長は20メートルを軽く超えており、パロズンたちが遭遇した時よりも遥かに巨大になっていた。
後退するラーグたちはその姿を目の当たりにして愕然とした。
「あぁん?」
ビャクスは『水閃』を放ち、無数の強大な水の刃がハイ アース ファイヤー エレメンタルに襲い掛かるが、ハイ アース ファイヤー エレメンタルの前に巨大な石の壁が出現して防がれた。
「ほう……」
顔を顰めたビャクスは『水竜巻』を放ち、とてつもなく巨大な水の竜巻が出現して、巨大な石の壁に激突して巨大な石の壁が削られていく。
だが、ハイ アース ファイヤー エレメンタルの周辺に、突如、5本の火柱が出現した。
その5本の火柱はハイ アース ファイヤー エレメンタルと同じぐらいの大きさで、回転しながら範囲を広げており、水の竜巻も一瞬で蒸気に変えて全てを焼き尽くしていく。
「な、なんて戦いなんだ……」
ラーグたちは後退しながら戦慄を覚えていた。
ビャクスは後方に跳躍し、『水壁』を発動して巨大な水の壁を出現させたが、上空から無数の魔物がビャクスの背後に降り立った。
ハイ アース エレメンタルの群れである。
退路を絶たれたビャクスは背後のハイ アース エレメンタルの群れに『水閃』を放ったが、それと同時に巨大な火柱が水の壁を一瞬で蒸発させてビャクスに襲い掛かる。
だが、巨大な火柱がビャクスに直撃する瞬間、ビャクスの姿は掻き消えたのだった。
5本の巨大な火柱は周辺を焼き尽くして溶岩に変えていく。
すでにキャンプ村も炎に包まれて燃え上がっており、ウェーサたちは南門から脱出したが大量のエレメンタル種に阻まれて焼き殺された。
東門や北門から脱出した山賊たちも上空から降り立ったエレメンタル種に攻撃されて全滅し、南に進軍中のディーダたちもエレメンタル種の群れに攻撃されて焼け死んだ。
西門以外に展開していた軍の部隊もエレメンタル種に焼き殺され、ラーグたちやベル将軍の部隊はエレメンタル種の攻撃を振り切って逃げ果せたのだった。
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土使い レベル1
HP 3200
MP 1200
攻撃力 1600
守備力 1600
素早さ 1600
魔法 アース
能力 二重職 合算 土壁 泥沼 石槍 石閃 土操作 流星石
パロズン 土使い レベル22 暗黒剣士 レベル11
HP 7000
MP 2500
攻撃力 3200+ミスリルソード
守備力 2400+ミスリルファイタースーツ
素早さ 3000+ミスリルブーツ 力の腕輪+3
魔法 アース ファイヤ ポイズン ナイトビジョン ドレイン コンフューズド
能力 二重職 合算 土壁 泥沼 石槍 石閃 土操作 流星石 統率 決死 剛力 能力軽減 毒無効




