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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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173 フロスト ホーネットたちの動向


「どうやらここのようですな……今ならまだ引き返せますぞ」


 キング ビーは探るような眼差しをフロスト ホーネットに向ける。


「私の気持ちに変わりはありません」 


「そうですか……我も腹を決めるとしましょう」


 キング ビーは真剣な硬い表情を浮かべたが、クイーン ビーは不安そうな顔をしていた。


「それにしても見事な防壁です。私は人族が持つ技術にずっと前から興味があったんですよ」


 エレメンタル種から逃れたフロスト ホーネットたちは、シルルンの拠点を囲う防壁を空から眺めていた。


「これより先に進めば討たれる可能性がありますので、話し掛けてみますがよろしいか?」


「交渉は私より王であるあなたのほうが相応しいと思いますのでお任せします」


 フロスト ホーネットの言葉にキング ビーは神妙な顔で頷いた。


「我は蜜蜂族の王である。ここにいる人族と交渉したく参った。取次ぎを頼みたい」


 キング ビーは声を張り上げた。


「人族語より魔族語のほうが伝わり易いのではないでしょうか?」


「無論、交互に試すつもりです」


「なるほど」 


 だが、凄まじい速さで何者かが目の前に現れた。


「蜜蜂族が人族に何の用があるのだ?」


 巨大な金色の狼が魔族語で言った。


「――なっ!?」


 フロスト ホーネットたちは驚きのあまりに血相を変える。


「……こ、これほどの魔物がここを守っているのか」


「す、素晴らしい」


 彼らは目の前に出現した金色の狼のあまりの強大さに驚きを禁じえなかった。


「……」


 金色の狼は訝しげな視線をキング ビーたちに向けている。


 いうまでもなくシャインである。


「こ、これは失礼した。単刀直入に申し上げると我らはここにいると思われる人族に配下にならないかと誘われたことがあるのです」


「ほう、その人族の名は分かるか?」


「いえ、名は分かりませんが肩に2匹のスライムをのせており、傍らには黒いロパロパ種がいました」


「ふっ、その方は我らの主であるシルルン様だ。いいだろう、ついて来い」


 シャインは身を翻して防壁を下り、拠点に向かって歩いていく。


「はっ」


 安堵の表情を浮かべるキング ビーたちは、シャインの背を追いかけてふわふわと飛行する。


 拠点の出入口前に到着したシャインは「ここで待っていろ」と言い残し、拠点の中へと入っていった。


 シャインがシルルンの個室の中に入るとゼフド、アキ、バーン、ガダンがテーブルを囲んで酒を飲んでいた。


 後に暗黒四天王といわれる面々である。


 床にあいた穴の周辺には茶色の茸が大量に積まれており、マルたちが美味しそうにムシャムシャと食べている。


 茶色の茸の効果はただ美味いだけなので、穴の中にいるアメーバたちが茶色の茸を収穫して持ってくるのだ。


 シルルンは床に寝転んで酒を飲みながらお菓子を食べており、マーニャたちミニシリーズに懐かれていた。


「マスター、蜜蜂族が尋ねて来ました。お会いになりますか?」


「えっ? 蜜蜂族? 白いのもいるよね?」


 ムクリと起き上がったシルルンは瞳を輝かせた。


 現在、プルたちは穴の中で茸を収穫しており、不在なのだ。


「……羽の生えた芋虫のような個体はいましたが」


「その個体はフロスト ホーネットなんだよ」


「なんと!? あの姿で雀蜂族だったのですか……我はてっきり蜜蜂族の亜種かと思っていました」


「あはは、たぶん激レア個体なんだよ」


 シルルンはシャインの頭を優しく撫でた後、自身の個室から出て行った。


 シャインは嬉しそうにシルルンの後を追いかけ、聞き耳を立てていたゼフドたちも追いかける。


 拠点の前ではホフマイスター率いる採取部隊や冒険者たちが物珍しそうにフロスト ホーネットたちを見つめていた。


「やぁ、待たせたね」


 そう話し掛けたシルルンは面食らったような顔をした。


 クイーン ビーもいたからだ。


「はっ、交渉に応じていただき、ありがとうございます」


 キング ビーは頭を下げた。


「なっ!? あのモフモフ、人族語を喋ってるぞ!?」


「ここに尋ねてくるくらいだから知能が高いんだろうな」


「さ、触ってみたいわね……」


 冒険者たちは血相を変えて騒ぎ立てている。


「うん、でも僕ちゃんのペットになりに来たんだと思ったんだけど違うのかな?」


 シルルンの視線はクイーン ビーに向けられている。


「こちらの条件をのんでいただけるのであれば我らは配下になりたいと考えております」


「ふ~ん、そうなんだ。で、条件って何?」


「我らはないのですが、フロスト ホーネット殿があるようで……」


 キング ビーは視線をフロスト ホーネットに向けた。


「……以前にお誘いを断ったにも拘わらず、ここを訪れたことをお許し願いたい。申し訳ありませんでした」


 人族語で話したフロスト ホーネットは深々と頭を下げた。


「……ほう」


「むぅ……」


 ガダンとホフマイスターから感嘆の声が上がった。


「うん、ていうか、君は人族語を話せなかったよね?」


「はい、あの時は話せませんでしたが、私は『言語』に目覚めたので今は話せます」


「そうなんだ。あの時、君は指揮官だから群れを離れられないって言ったよね? なのになんでここにいるの?」


 シルルンは訝しげな眼差しをフロスト ホーネットに向ける。


「そ、それは無能な私のせいでクイーンが殺されたからです」


「えっ!? ホーネット種が負けるなんてありえないよ!?」


 シルルンは驚きのあまりに血相を変える。


「そ、それはもちろんその通りです。本隊は健在ですが私たちのクイーンは殺されたということです。つまり、私は分隊のほうに所属していたのです」


「へぇ、そういうこともあるんだ」


「はい、極めて稀なことですが……」


「じゃあ、なんで本隊に行かないの?」


「その理由が条件なのです」


 フロスト ホーネットは自身のモフモフから卵を取り出してシルルンに見せた。


「……卵だよね、それがどうしたの?」


 シルルンは訝しげな表情を浮かべている。


「私が本隊に行かないのはこの卵があるからで、いずれは分隊することになるからです。つまり、この卵はプリンセスなのですよ」


「えっ!? そうなんだ」


「はい……無能な私が部隊を率いてクリケット種を攻撃している間にエレメンタル種に縄張りを攻撃され、それを迎撃したクイーンは殺されました。ですが、クイーンは出撃前にこの卵を残していったのです」  


「……」


 シルルンは悲痛な表情を浮かべている。


「私は今度こそクイーンを護ると誓いました。故に私の知る限り一番強いあなたを訪ねたのです。あなたの元でプリンセスを護り育てることは可能でしょうか?」


 フロスト ホーネットは縋るような眼差しをシルルンに向けている。


「う、うん、僕ちゃんのとこでプリンセスを育てたらいいよ」


 シルルンはフロスト ホーネットの前脚を掴んで鼻水を垂らしながら号泣している。


「あ、ありがとうございます!!」


 フロスト ホーネットは瞳に涙を浮かべて深々と頭を下げた。


「我らもあなたに絶対の忠誠を誓います!!」


 キング ビーとクイーン ビーはフロスト ホーネットに倣って頭を垂れた。


「うん。じゃあ、ペットにするね」


 シルルンはフロスト ホーネットたちを見ただけで巨大な透明の球体で包み込んで一瞬でテイムに成功する。


「こ、これがペットになるということなのですね……」


「な、なんだこの湧き上がる高揚感は……!?」


「……こんな気持ちになったのは生まれて初めてだわ」


 フロスト ホーネットたちは戸惑うような表情を浮かべている。


 ちなみにプリンセスの卵も同時にテイムされており、シルルンのペットになっていた。


「そ、それで我らはどの様な仕事をすればよいのでしょうか?」


 キング ビーたちは真剣な硬い表情を浮かべている。


「ん? 特にないよ。君たちは僕ちゃんのペットだからね」


「えっ!?」


 キング ビーたちは驚きのあまりに血相を変える。


「まぁ、とりあえず、ゆっくりすればいいよ。ついて来て」


 そう言うとシルルンは拠点の中に入って行った。


「……」


 キング ビーたちは顔を見合わせて複雑そうな顔をしていた。


 彼らはシルルンの役に立ちたいと心から思っていたが、肩透かしをくらった気分だからだ。


「あのイモムシはなんとなく私に似ている気がするな……」


 事の成り行きを遠巻きに見ていたロシェールは苦笑いを浮かべていた。


「あ、あれが球体包囲型……しかも一度に3匹もテイムするなんて凄すぎます……」


 同じく成り行きを見ていたポロンは驚きを隠せなかった。


 彼女は現在、鎖型でテイムの訓練をしているのでその凄さを実感したからだ。


 キング ビーたちは拠点の中に入ってシルルンの後についていく。


「ここが僕ちゃんの部屋だよ。外に出てもいいけどここに戻ってきたらいいからね」


「はっ」


 そう言ってシルルンは自身の個室の中に入り、キング ビーたちもふわふわと飛行して部屋の中に入った。


「なっ!?」


 キング ビーたちは面食らって動きを止めた。


 巨大過ぎるピルパグ種の姿を目の当たりにしたからだ。


「私の名前はマルなの。この茸は美味しいから食べてみるの」


 マルはにっこりと微笑んだ。


「こ、これは失礼した。我はキング ビーです」


「我はクイーン ビーです」


「私はフロスト ホーネットです」


 我に返ったキング ビーたちは慌てて挨拶を返し、シルルンに視線を向けた。


「あはは、食べていいよ」


「はっ」


 キング ビーたちは穴の傍まで移動して、前脚の爪で茶色の茸を掴んで食べた。


「う、美味いっ!? なんだこの茸はっ!?」


 キング ビーは雷に打たれたように顔色を変える。


「茸がこれほど美味しいものとは知りませんでした……」


 フロスト ホーネットは神妙な顔で山積みされた茶色い茸を見つめている。


「……あの、この茸はたくさん食べてもよろしいのでしょうか?」


 クイーン ビーは物欲しそうな顔で尋ねた。


「うん、いっぱいあるから食べていいよ」


「ありがとうございます!!」


 クイーン ビーは瞳を輝かせて茸をばくばくと食べだした。


「しかし、茸一つとってもこのレベルだと人族の持つ技術というのは計り知れないですね」


「いや、この茸は兎族のうさポンが作ってるんだよ。この穴の中でね」


「兎族がこれを……?」


 フロスト ホーネットは驚きの表情を見せた。


「うさポンは君みたいにレア個体だから特殊な茸が作れるんだよ」


「な、なるほど……」


 その言葉にフロスト ホーネットは苦笑いを浮かべた。


 彼は高く評価されていると感じてその点では嬉しく思えたが、できるだけ早く結果を出さなければいけないと思うのだった。


「で、魔物が食べたくなったらこの穴の中に下位の魔物が出るから狩って食べたらいいよ」


「はっ」


 こうしてシルルンのペットにフロスト ホーネットたちが加わったのだった。





 次の日、シルルンはラーネの『瞬間移動』で上層の湖の前にいた。


 シルルンは辺りを見回してみるが、ウォーター エレメンタルたちの姿はなかった。


「う~ん、ウインディーネたちはいるけどエレメンタル種はいないね……入れ違いになったのかな?」


 シルルンは怪訝な表情を浮かべている。


「湖デス!!」


 プルは湖にダイブするとプニたちも一斉に湖に飛び込んで遊び始めるが、ラーネ、スライムアクア、ザラはシルルンの肩に残っている。


「あぁ? 何だこの冷たい石はっ!?」


「こおりデチュ!!」


「デチデチ!!」


 プルルとプニニは氷をばくばく『捕食』しており、ダイヤも氷を『捕食』した。


「ペッ!! ただの水じゃね~かっ!!」


 ダイヤは口から水を吐き出して不機嫌そうな顔をした。


「あはは、この氷は使えるかもね」


 ブラックに乗ったシルルンは湖の上をふわふわと飛行して、湖に浮かぶ巨大な氷を『念力』で破壊した。


 すると津波のような巨大な波がプルたちに襲い掛かり、プルたちは浜辺に打ち上げられた。


「……ビ、ビックリしたデス」


「デシデシ!!」


「もう一回デチュ!! もう一回デチュ!!」


「デチデチ!!」


「なんてことしやがるんだテメェはっ!?」


 プルたちは騒ぎ立てており、シルルンは破壊した巨大な氷を『念力』でせっせと魔法の袋にしまっている。


「あはは、次いくよ!!」


 その言葉にプルたちは瞳を輝かせて湖に入ったが、プルは浮かんでいる50cmほどの氷の上に跳び乗った。


「次はこれで乗り越えてやるデス!!」


 プルは『触手』を伸ばして水をかいて湖を突き進んでいく。


「――っ!?」


 プニたちは驚きのあまりに血相を変える。


「面白ぇ!!」


 ダイヤは声を張り上げて氷の上に跳び乗り、プニたちも慌てて近くの氷に跳び乗ってプルを追いかける。


 シルルンは『念力』で氷をぶっ叩き、先ほどよりも巨大な津波がプルたちに襲い掛かり、プル、プニ、ダイヤは波を乗り越えたがプルルとプニニは湖の藻屑となった。


「あはは、やるねぇ」


 シルルンは破壊した巨大な氷を素早く『念力』で魔法の袋にしまい込む。


「フフッ……氷を集めてどうするのよ?」


「攻撃手段がなくなったら氷でぶっ叩くんだよ」


「なるほど、確かにファイヤー エレメンタル種には有効かもしれませんね」


「面白そうね」


 ザラとスライムアクアは形を変えてふわふわと飛んでいき、周辺の氷をばくばくと『捕食』し始めた。


 ブラックは凄まじい速さで飛行して新たな氷の上まで移動し、シルルンは再び氷を『念力』でぶっ叩く。


 先ほどと同程度の津波が発生し、シルルンは素早く氷を回収してから湖を直接、『念力』でぶっ叩いてとんでもない津波が発生する。


「お、大きいデス!!」


「デシデシ!!」


「本体は加減を知らねぇのかっ!? だが、突破してみせるっ!!」


 決死の表情を浮かべたプルたちは一発目の波を乗り越えた。


 だが、二発目は倍ほどの高さがあり、波にのみ込まれて湖の藻屑となったのだった。


 プルたちは悔しそうにしていたが、シルルンたちは大量の氷を入手してラーネの『瞬間移動』で掻き消える。


 シルルンたちは険しい山道の前に出現して西に進む。


「あれ? ハイ ウォーター エレメンタルはどこにいるんだろう?」


 シルルンは辺りを見渡すが大地は溶岩のままだった。


「ボスを直接狙いに行ったのかなぁ? とりあえず、西に行ってみようかな」


 シルルンたちは遥か上空まで上がって西に進みだしたのだった。

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