172 険しい山道での戦い
東に進行したエレメンタル種の群れは険しい山道に進行する。
最初に攻め込まれたのはコックローチ種だった。
彼らは素早いが物理攻撃が主体でエレメンタル種に対して攻撃手段がなく、防戦一方だった。
だが、彼らの上位種が現れたことにより状況は変わる。
コックローチ種は下位種のほとんどを殺されたが、通常種は『魔法吸収』を所持しており、耐えに耐えて上位種の到着を待っていたのだ。
ハイ コックローチはポイズンの魔法やデスの魔法を所持しており、エレメンタル種に対して反撃が開始される。
しかし、ハイ コックローチの数は10匹ほどしかおらず、その反撃は微々たるもので逆に集中攻撃を浴びる。
だが、これが間違いだったのだ。
エレメンタル種の群れの大半は下位種と通常種で、その攻撃はバラバラだった。
彼らは魔法による攻撃を行わず、体を変化させた攻撃のみを行うべきだったのだ。
コックローチ種の通常種以上は『魔法吸収』を所持しており、魔法による攻撃は体力を回復させるだけで、コックローチ種と戦う上で一番肝心なことを知らなかったのだ。
それは彼らが『適応』を所持していることである。
故にエレメンタル種の攻撃はコックローチ種に対して、全く効かなくなったのだ。
エレメンタル種の群れはコックローチ種への攻撃を諦めて、進路を北に変えて進行する。
しかし、『火吸収』と『土吸収』を手に入れたハイ コックローチという爆弾を背後に抱えることになったのだった。
エレメンタル種の群れはアント種と対しながら、さらに北に進行してセンチピード種、スコーピオン種とも戦いを繰り広げる。
彼らがこのような戦い方ができるのは上位種がいるからだ。
ハイ ファイアー エレメンタルは溶岩に変わった大地を媒体に、ハイ アース エレメンタルは大地を媒体にして下位種や通常種を無限に『召喚』しているのだ。
だが、その上位種を狙って怒り狂った無敵のハイ コックローチたちが攻撃を仕掛けている。
しかし、それでもエレメンタル種の群れはアント種、センチピード種、スコーピオン種を地上から消し去り、二手に分かれた。
一方はそのまま東に進行し、もう一方はアント種の地下の巣に攻め込んだのだ。
東に進行したエレメンタル種の群れは森のエリアを瞬く間に火の海に変え、そこに生息していた動物系の魔物たちを皆殺しにしてさらに東に進行する。
エレメンタル種の群れはそのままの勢いで攻め込んだ。
それはつまり、ホーネット種、クリケット種、ビー種、ジャイアント スパイダー種の4種族と同時に戦うことを意味する。
彼らはそれぞれに物理攻撃以外の攻撃手段を所持しているが、一番最初に劣勢に陥ったのは意外にもジャイアント スパイダー種だっだ。
ジャイアント スパイダー種は『強酸』を吐いてエレメンタル種を溶かして殺していたが、『強酸』は連続使用が困難で巨体の体が仇となり、敗れ去った。
そしてビー種も劣勢だった。
彼らはウインドの魔法と『毒針』で対抗しており、何よりも数が多く空も飛べるので開戦当初は拮抗した戦いになっていたが、エレメンタル種が空にも展開すると空の優位性を奪われて数を急速に減らされていく。
この険しい山道において2強である、ホーネット種、クリケット種は互角の戦いを繰り広げていた。
ホーネット種の通常種以上はオールラウンドで、ステータスの値、物理、魔法、能力、飛行可能と弱点はなかった。
彼らは『毒霧』を撒き散らし、毒をくらってエレメンタル種が苦しむ様を見ながら嘲笑っている。
クリケット種は最強個体であるヤブキリ種とリオック種がいなければ、グラスホッパー種と共に滅びていた。
だが、この2種はやはり強く、『魔歌』でエレメンタル種を次々に同士討ちにさせており、エレメンタル種の群れは混乱状態に陥っていた。
一方、クリケット種の縄張りに攻撃を仕掛けていたフロスト ホーネットは、押し寄せるエレメンタル種の群れを目の当たりにして、急いで巣に帰還する。
「な、なんということだ……」
フロスト ホーネットは放心した虚ろな顔になる。
巣が破壊されて巣の中から溶岩が流出しているからだ。
彼は『以心伝心』でクイーンに何度もコンタクトを試みるが返答はなかった。
ビー種が開戦当初に互角に戦えていたのは、クイーン率いるホーネット種たちがいたからだ。
「私はなんという間抜けなんだ……」
(本隊のクイーンが危惧していたのはこのことだっのだ……それを事前に上位種から聞いていたのに……)
フロスト ホーネットは絶望感に打ちひしがれた。
周辺は巣だけではなく、何もかもが焼き尽くされ溶岩に変わっており、フロスト ホーネットが率いる部隊を視認したエレメンタル種の群れが襲い掛かる。
50を超える上位種たちと2000を超える通常種が個々に迎撃するが、フロスト ホーネットは動かなかった。
上位種たちは再三にわたり、『以心伝心』でフロスト ホーネットに指示を求め、ようやく返ってきた指示の内容が「本隊と合流せよ」というものだった。
彼らはこの内容に対して動揺したが、クイーンが死んだことを理解しており、意を決して旅立って行った。
「ここにおられたかフロスト ホーネット殿っ!!」
険しい表情を浮かべたキング ビーがフロスト ホーネットの元に駆けつける。
その傍らにはクイーン ビー1匹しかいなかった。
「言うまでもなくここは危険ですぞっ!! 早々に立ち去りましょう」
「……いや、私はいい」
「な、何を言っておられるかっ!?」
キング ビーは驚きのあまりに血相を変える。
「……私はクイーンと共にここで滅びるつもりだ。私などに構わず、キング ビー殿こそ早々に立ち去られよ」
「何を腑抜けておられるかっ!!」
キング ビーは声を張り上げてフロスト ホーネットに頭突きを叩き込んだ。
これにはクイーン ビーも驚きの表情を見せた。
だが、それでもフロスト ホーネットは全く動く気配がなかった。
「これを見られよっ!! クイーン ホーネット様があなたに託したものだっ!!」
キング ビーは自身のモフモフの中からクイーン ホーネットから預かったものをフロスト ホーネットに手渡した。
「こ、これは卵……?」
フロスト ホーネットは訝しげな表情を浮かべている。
卵の大きさは10cmほどで、彼はいまさら下位種が生まれる卵を託される意味が分からなかった。
「その卵は出陣前のクイーン ホーネット様があなたへと託されたものです。小さいのでおそらくプリンセスだと思われますな」
「――なっ!?」
フロスト ホーネットはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
「時間を掛ければ複製を産み出すことは可能ですが、時間がなかったんでしょうね……」
悲痛な表情を浮かべたクイーン ビーが言った。
プリンセスはクイーン候補なので、死んだクイーンと比べるとその能力は低いと言わざるを得ない。
だが、そんなことはフロスト ホーネットにとって些細なことだった。
「私は今度こそクイーンを護ってみせる!!」
号泣するフロスト ホーネットは瞳に強い決意をにじませている。
「それでこそフロスト ホーネット殿だ。それで本隊は我らを受け入れてくれるでしょうか?」
「おそらく受け入れてはくれるでしょうが、私にはプリンセスがいるので本隊に行くつもりはありません」
「……ではどうなさるおつもりか?」
キング ビーは探るような眼差しをフロスト ホーネットに向ける。
「私は前に誘われた人族を頼ろうかと思います」
「なっ!? 人族の下につくおつもりかっ!?」
「現状でプリンセスを護り育てるにはそれが最良だと思うのですよ。もちろん、プリンセスを育てることを了承してもらえたらの話ですが、キング ビー殿は私に構わず、本隊と合流したほうがよろしいかと」
「えっ!? い、いや、私もお供いたします」
キング ビーは苦虫を噛み潰したような顔をした。
彼はホーネット種に仕えてきたが、信用できないというのが彼の本音だった。フロスト ホーネットがいないならなおさらだ。
「では、急ぎましょう」
こうして、フロスト ホーネットたちはシルルンの元に向かったのだった。
ジャイアント スパイダー種とビー種を滅ぼしたエレメンタル種の群れは北に進行する。
クリケット種は西から攻め込まれていたが、南からも攻め込まれて滅びた。
だが、実際のところはこのような状況なのにも拘わらず、北からホーネット種が攻め込んだことが滅んだ最大の要因だった。
ヤブキリ種やリオック種は強いが、所詮、上位種止まりで、エンシェントがいることで発生する守護個体であるカース ホーネットに勝てるはずがなかった。
これにより、地上ではホーネット種とエレメンタル種の全面戦争に移行する。
ホーネット種はいまだ縄張り内にエレメント種の進入を許していなかった。
カース ホーネットが事前に100を超える上位種を縄張り内に配置していたからだ。
高レベルの上位種たちはサイクロンの魔法を連発しており、巨大な竜巻に巻き込まれて切り刻まれたエレメンタル種の群れは次々に掻き消えていく。
カース ホーネットはクリケット種の縄張りだった上空で配下も伴わずに戦況を観察しており、エレメンタル種の群れは一斉にカース ホーネットに襲い掛かる。
だが、カース ホーネットは『暗霧』『呪霧』『死霧』を放ち、周辺は黒い霧に包まれる。
黒い霧に触れたエレメンタル種の群れは『暗霧』により、視界は暗闇に包まれ『呪霧』により、ステータスの値が著しく低下して恐怖状態に陥った。
黒い霧は広範囲に広がっていき、視界を奪われ弱体化したエレメンタル種の群れは、『死霧』の紫の霧に触れて抵抗できずに次々と即死していく。
現在、確認されている守護個体であるキラー マンティス、デス スパイダー、カース ホーネットはステータスの値的には拮抗しているが、戦えばカース ホーネットが勝利するだろう。
そんなカース ホーネットが上空に10匹ほどいるのだ。
しかも、クイーンを護るカース ホーネットたちはレベルをカンストしており、ホーネット種内のカース ホーネットの数は30を超えているのだ。
エレメンタル種の群れを率いる上位種たちは、コックローチ種に続いてホーネット種にも勝てないことを悟り、後退し始めたのだった。
アント種の巣に進行したエレメンタル種の群れは、遭遇するアント種を皆殺しにしながら全てを焼き尽くして突き進む。
ハイ アントの群れが放った『毒霧』により、進行速度は緩んだがそれは一時で、後方からエレメンタル種が無尽蔵に押し寄せて、ハイ アントはおろか、ロードやキング、クイーンも焼き殺してアント種は滅んだ。
エレメンタル種の群れはアント種を滅ぼしても洞穴を突き進む。
そして、ホーネット種と遭遇して戦闘になる。
だが、地上には上位種を配置していたカース ホーネットも、さすがに地下からの進行は予測できずにいた。
そのため、地下の戦力はアント種に対する者たちしかおらず、劣勢だった。
無限に等しい物量を前に低レベルの上位種では対抗できずに倒されていき、エレメンタル種の群れは突き進む。
だが、その進行を阻む魔物が姿を現した。
その個体は3匹いて雪のように真っ白でクイーンのように気品があり、美しい魔物だった。
フロスト ホーネットから進化した、超激レア個体であるスノー ホーネットである。
全長は6メートルを超える巨体で、フロスト ホーネットのように芋虫のような形態ではなく、雀蜂のそれだ。
さらに後方には怒りに顔を歪めたエンシェント ハイ ホーネットの姿があった。
スノー ホーネットたちは『吹雪』を放ち、無数に散らばる雪と凍てつく冷気がエレメンタル種の群れに襲い掛かり、エレメンタル種の群れは一瞬で凍りついて動きを止めた。
エンシェント ハイ ホーネットはサイクロンの魔法を唱え、巨大な竜巻が凍りついたエレメンタル種の群れを砕いてなお、直進してエレメンタル種の群れは切り裂かれて一瞬で粉々になった。
スノー ホーネットたちは進行を開始し、後方から多数のホーネット種たちが駆けつけて形勢は一気に逆転する。
続々と押し寄せるエレメンタル種の群れは一斉に魔法を唱えて攻撃を仕掛けるが、スノー ホーネットたちは『水壁』『氷壁』で防いでおり、ホーネット種たちが反撃して、最早、一方的な展開になっていた。
アント種の縄張りだった地点までスノー ホーネットたちは進行すると、ハイ コックローチたちがエレメンタル種の上位種たちと戦いを繰り広げていた。
前後から挟撃されているエレメンタル種の戦力は、最早、この場にいる数しかいなくなっていた。
ハイ コックローチたちは稲妻のような動きで、エレメンタル種の上位種たちの攻撃を躱しながら魔法を唱えて攻撃しており、着実に上位種たちを仕留めている。
だが、エンシェント ハイ ホーネットの姿を視認したハイ コックローチたちは凄まじい速さで撤退した。
しかし、彼らはエンシェント ハイ ホーネットの前にいた。
エンシェント ハイ ホーネットが所持する『空間消去』で空間を消されて目の前に移動させられたのだ。
ハイ コックローチたちは砕け散るか頭からバリバリと食われて一瞬で全滅したのだった。
残ったエレメンタル種の群れもホーネット種たちに一掃され、険しい山道の戦いはホーネット種が勝利したのだった。
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