169 山賊対亜人獣人③
「ぽぉおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」
平原を全裸に近い亜人が奇声を上げて猛然と駆けている。
亜人の全長は5メートルほどもあり、手には巨大な朝星棒が握られている。
「矢と魔法で集中攻撃するのよ!!」
キャンプ村の外壁の上にいるウェーサが手下たちに指示を出す。
手下たちは一斉に攻撃して、その全ての攻撃が亜人に直撃したが、亜人は速度を緩めることなくキャンプ村の外壁に身体全体でぶち当たった。
「うぉおおおおっ!? なんて一撃だっ!?」
「頭いかれてやがるっ!?」
「……けど、なんで攻撃が効かないんだ?」
凄まじい衝撃により、堅牢な外壁が激しく揺れ動いていたるところに亀裂が走り、外壁を守る山賊たちが騒ぎ立てる。
「ぼふぼふっ……なかなか硬いんだな……だけど何回もやれば壊せるぼふぅ」
亜人の身体は外壁にめり込んでおり、亜人は力を込めて身体を外壁から引き剥がした。
「……馬鹿だとは思っていたが、ここまでとはな」
亜人部隊を率いるオーガが呆れ顔で言った。
「ば、馬鹿って言うなっ!!」
「じゃあ、阿呆だな。そんなことよりこっちに来いノラロス。すでに門は破壊してあるからな」
「……」
ノラロスは阿呆の意味が分からずに難しそうな表情を浮かべている。
ノラロスとオーガは門のほうに歩いていくと、ノラロスと同時に出撃した亜人部隊の増援が近づいていくる。
数は500ほどだ。
増援と合流したノラロスたちは門をくぐってキャンプ村の中に入る。
亜人部隊は門をくぐってすぐのところに掘られた巨大な落とし穴を、破壊した門や外壁の破片を放り込んで道を作って進んでおり、現在は開けた場所で戦闘を繰り広げていた。
ウェーサは100ほどの手下に護られて外壁の上から指示を出しており、手下を率いているのは3人の側近だ。
「……こんな時にパロズンはどこにいってるのよ」
ウェーサは険しい表情を浮かべている。
亜人部隊の前衛は高レベルのオークで固められており、山賊たちではほんとんどダメージを与えられずにじりじりと後退を余儀なくされる。
山賊たちが戦列を維持できているのは、前線にドM2人がいるからだ。
「な、なんだ!? あのでかいのはっ!?」
オークたちを押しのけて巨人が姿を現し、山賊たちは驚きのあまりに血相を変える。
「はっ、どうせ図体だけだろ。受けてやるから打ち込んでこいっ!!」
ドMの片割れが腰を落として大盾を前面に構えて声を張り上げた。
「お前らのせいで食い物が少なくなったぼふっ!!」
怒りに顔を歪めたノラロスが突進し、朝星棒を振り下ろして大盾に叩きつけ、大盾と共にドMはくの字に曲がって弾け飛んだ。
「……おいおい、マジかよ」
空を飛んでいく相棒の行方を目で追いかけたドMは、信じられないといったような表情を浮かべている。
「ぼふぅ!!」
ノラロスはドMに目掛けて朝星棒を振り下ろし、脳天に直撃したドMは砕け散って肉片に変わった。
「うわぁあああああああぁぁあああああぁぁ!?」
「ひぃいいいいぃ!?」
そのあまりの強さに山賊たちは背を向けて逃げ出した。
「ト、トロールってこんなにも強いものなの……?」
ウェーサは驚きを隠せなかった。
だが、必死の形相で逃げ惑う手下たちに対して、多数の女を侍らせて逆行する男がいた。
ビャクスである。
「あぁん?」
逃げ惑う手下たちを朝星棒で殴り殺しながら近づいてくるノラロスにビャクスは視線を向けると、女たちを手で制して歩き出した。
「ビャ、ビャクス様……」
ウェーサは思わず固唾を呑んだ。
手下たちも驚愕して足を止め、戦いの行方を遠巻きに静観する。
ノラロスは捕まえた山賊を頭からバリバリと食べながら次の獲物を探し、近づいてくるビャクスが目に入ってニヤリと笑った。
「あぁん? 死ね」
ビャクスは『水閃』を放ち、10を超える巨大な水の刃がノラロスを切り裂き、身体のいたるところから血が噴出すが、凄まじい速さで傷が塞がっていく。
「ほう、『再生』か……」
「お前は殺して食うぼふっ!!」
ノラロスは凄まじい速さで距離をつめて左手を伸ばしてビャクスを掴む。
しかし、左手は空を掴み、ノラロスはキョロキョロと辺りを見渡した。
「……後ろだ」
背後から聞こえた声にノラロスは咄嗟に振り返ると、ビャクスは背中を向けて立っており、辺りは黄色い霧に包まれた。
「ひぃぐううぅうううううううぅぅぅううううぅぅっ!?」
霧の中から呻き声が聞こえるが、どちらの声かは見ている者達には分からなかった。
霧が消えると口鼻を押さえたノラロスが仰向けで倒れており、その顔は苦悶に歪んでいたがビクビクッと身体を痙攣させて動かなくなった。
この結果に、その場にいる全員の顔が驚愕に染まる。
「うぉおおおおおおおおおぉおおおおおおぉぉぉ!!」
「強ぇ!! さすがビャクス様だぜっ!!」
「か、かっこいい……」
山賊たちは気持ちが昂ぶって興奮が頂点に達する。
「す、すごい……ビャクス様は【水使い】と【毒使い】なのかしら……」
ウェーサはとろけそうな笑みを浮かべている。
「ば、馬鹿なっ!? あのノラロスが死んだっ!? あいつは【毒使い】なのかっ!?」
亜人部隊を率いるオーガは信じられないといったような表情を浮かべており、彼は即座に部隊を後退させた。
だが、ビャクスは【水使い】ではあるが、【毒使い】ではなかった。
そして、『猛毒』でもなく、彼が放った能力は『放屁』だった。
つまり、豚のごとき醜い男である彼の屁は、致死レベルまで達しているのだ。
「あぁん?」
亜人部隊が撤退していく様を見てビャクスは獰猛な笑みを浮かべた。
ビャクスは『放屁』を放ち、尻から黄色い霧を噴出させて加速し、亜人部隊を突き抜けた。
屁を吸い込んだ亜人部隊は奇声を上げてのたうち回って壊滅し、拠点に帰還できたのは数名だけだった。
「なっ!? ノラロスが死んだのか?」
ディーダは雷に打たれたように顔色を変える。
「あぁ、それも呆気なくな。殺った奴は連中の頭だと思うが、おそらく【毒使い】だ。さらに厄介なことに【水使い】かもしれん」
オーガは深刻な表情を浮かべている。
「……おいおい、そんな奴がここに攻めてくるかもしれんということか?」
「そうなるな……」
「マジかよっ!? 冗談じゃねぇぞっ!! どうするつもりなんだ!?」
「どうするもなにも戦うしかないだろう。それともここを明け渡すのか?」
「……そうだな、それがいいかもしれんな」
「なんだと?」
オーガは面食らったような顔をした。
「そいつはあのノラロスを殺したんだろ? 俺は差しでノラロスを殺せないからな……お前は殺せるのか?」
「……無理だな」
「だよなぁ、殺せるならお前が亜人側の頭だったはずだからなぁ」
「……お前、本当に明け渡す気なのか?」
オーガの目に殺気が走る。
「嫌だとは言わせんぞ。お前たちが撒いた種だろがっ!! 」
ディーダが凄まじい殺気を放ち、両者は睨み合って一触即発の状態になる。
しばらく睨み合いが続いたが、両者は同時に視線を逸らした。
「まぁ、攻めて来たら明け渡すが、どうせ奴らは軍に追われているからな……」
「……なるほどな、一時的に貸してやるということか」
「そういうことだ」
ディーダは山賊の動向を探るべく、キャンプ村を監視させたのだった。
そして、時が経過する。
「いったい、どういうことなんだ? 奴らは攻めて来ないし、商隊も戻ってこない」
ディーダは困惑したような表情を浮かべている。
彼は東のキャンプ村に3度、商隊を向かわせたが戻ってこなかったのだ。
無論、その間も山賊たちは攻めては来なかった。
商隊を襲っているのはパロズンで、ウェーサたちは少数の手下を残して西のキャンプ村に攻め込んでおり、すでに占領しているのだ。
「……考えられるとしたら魔物の仕業か」
「200だぞ200!! 200を皆殺しにできる魔物ってなんだよっ!?」
「さすがに検討もつかんな……次は西のキャンプ村に向かわせてみたらどうなんだ?」
「……そうだな、そうするか。さすがに保存食ばかりで皆も飽きているからな」
こうして、ディーダは西のキャンプ村に商隊を向かわせたのだった。
そして、さらに時は経過する。
山賊たちが占拠していたキャンプ村は陥落し、炎に染まっていた。
エレメンタル種の群れが中層に登ってきたからだ。
キャンプ村を守っていた山賊たちは、西のキャンプ村に逃走しパロズン隊もそれを追いかけた。
エレメンタル種の群れは第2ポイントにも襲い掛かり、ディーダたちは戦ったが全く相手にならずに西に逃走する。
第2ポイントも陥落し、エレメンタル種の群れは全てを焼き尽くして大地を溶岩に変えて、西と東に分かれたのだった。
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