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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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168 山賊対亜人獣人②


 第2ポイントから出撃した獣人たちが、多数の馬車を守りながら隣のエリアに繋がる山道に差し掛かる。


 馬車の荷台には大量の鉱石が積み込まれており、彼らの目的は隣のエリアにあるキャンプ村での買出しだ。


「……止めろ」


 先頭の馬車を操る熊の獣人が低い声で言うと、全ての馬車が停止した。


「ん? 何か潜んでるな……出てきやがれっ!!」


 大猩々(ゴリラ)の獣人が声を張り上げた。


 すると、左右に広がる森の中から人族がぞろぞろと姿を現した。


「……やはり元が獣ゆえに鋭いな」


 ガレンがめんどくさそうに呟いた。


「ぎゃははははっ!!」


「わははっ、なんだ人族かよっ!?」


「弱っちぃお前らが何の用なんだ!?」


 獣人たちは腹を抱えて笑い転げている。


 数は両者共に100ほどだが、彼らは全て動物寄りの獣人だった。


 いうまでもなく、人族寄りの獣人よりも動物寄りの獣人のほうが圧倒的に戦闘能力は高い。


 人族は戦闘系職業に就くことにより魔物と戦うことが可能になるが、獣人は元々強い上に職業にも就くことができるのだ。


 そのため、獣人は戦闘において人族を激しく見下していた。


「ぐぬぬっ、獣ごときが何言ってやがるっ!!」


「ダ、ダメですっ!! パロズン様はまだ万全ではないでしょ!!」


 怒りに顔を歪めるパロズンを、ペルが必死に押さえ込んでいる。


 それを横目に見ながらガレンが前に進み出た。


「……頭はどいつだ? 俺と差しで勝負しろ」


 ガレンの言葉に場は静まり返る。


「ぎゃははははっ!! なんだこいつ!?」


「頭がいかれてんじゃねぇか?」


「ていうかお前らキャンプ村を占拠した山賊だろ? 今攻められてるのを知らね~のか!?」


 獣人たちは嘲うようにニヤニヤしている。


「……知った上での行動だ。そんなことよりお前ら獣人は差しの勝負ひとつもできんらしい……どうやら俺が怖いようだな」


 ガレンは呆れたような表情を浮かべている。


「……なんだと?」


 ガレンの挑発に、馬車の操縦席に座っていた熊の獣人が怒りの形相を浮かべて立ち上がる。


「あんたが出るまでもねぇ」


 大猩々(ゴリラ)の獣人が指をバキバキ鳴らしながら前に出た。


 ガレンは剣を抜き放ち、半身で構える。


 大猩々の獣人は無造作に歩いて距離をつめ、大きく振りかぶった右のパンチを繰り出した。


 ガレンは紙一重で右のパンチを躱して剣の突きを放つが、大猩々の獣人はありえない体勢でそれを避けた。


 両者は攻撃を繰り返し一発も当たらない攻防が続くが、勢い余った大猩々の獣人のパンチが大地を叩き、地面は爆発したかのように飛び散って大穴があいた。


 だが、そんな隙をガレンが見逃すはずもなく、ガレンは『斬撃衝』を放ち、風の刃に腹を切り裂かれた大猩々の獣人は大きく目を見張る。


「お前は大剣豪なのか……?」


 腹を手で押さえて地に片膝をついた大猩々の獣人は驚きを隠せなかった。


「獣のくせに職業を知っているのか……お前はお利口さんだな」


 ガレンが馬鹿にしたように鼻で笑う。


「ぎゃあははははははははっ!!」


「よくできまちたね~~!!」


「1人で立てまちゅか?」


 ここぞとばかりに山賊たちはやり返し、パロズンも「さすがガレンだ」と満足そうに笑っている。


「ば、馬鹿にしやがって……」


 大猩々の獣人は怒りに身を震わせて立ち上がろうとするが、不意に肩を叩かれて振り返る。


「……代われ」


 そこには熊の獣人が立っており、熊の獣人は何も言わずに前に進み出た。


「お前が頭か?」


「……いや、違う。俺だ俺」


 熊の獣人の問いに対し、ガレンではなくパロズンが答えて歩き出し、ガレンとすれ違いざまに「ご苦労だった」とパロズンは声を掛けた。


「はっ」


 ガレンが仲間たちの元に戻ると、ペルが悲痛な表情でパロズンを見つめていた。


 パロズンと熊の獣人は対峙して睨み合う。


「……人族の分際で舐めくさりやがって……格の違いを分からせてやる」


 熊の獣人は身体中に殺気をみなぎらせてパロズンを睨みつけた。


「獣ごときが俺をれるかよ」


 その瞬間、熊の獣人は凄まじい速さで突っ込み、一瞬でパロズンに肉薄して右手の鋭い爪を振り下ろした。


 だが、パロズンは半身になって爪の一撃を躱しながら熊の獣人の頭を右手で掴んで頭突きを叩き込んだ。


 そのあまりの衝撃に、熊の獣人は目が揺れ動いて脱力し、両膝が地についたところで我に返った。


「……そ、そんな馬鹿な」


 熊の獣人は信じられないといった表情でパロズンを見上げている。


「お手っ!! 」


 パロズンは左手の掌を上に向けて熊の獣人の前に差し出した。


「――なっ!?」


 熊の獣人は面食らったような顔をした後、怒りの形相に変わった。


「この獣は躾がなってねぇなぁ……」


 パロズンは呆れ顔だ。


「ぎゃあはははははっ!!」


「さすがパロズン様っ!! 無茶苦茶強ぇ!!」


「ちんちんもしてみろよっ!!」


 山賊たちは活気づき、パロズンは戦闘中なのにも拘わらず、仲間たちの方に振り返って手を振っている。


「舐めるのも大概にしろっ!!」


 熊の獣人は怒りに任せて左の爪を振るうが、パロズンは平然と右手で受け止めて、左手の2本の指を熊の獣人の目に突き刺し、眼球を引き抜いて地面に捨てた。


「ぴぃいぎゃぃやぁああああああああああああああああぁぁあああああぁぁ!!」


 熊の獣人は奇声を上げて、目を押さえながらのたうち回る。


「ピ~ピ~うるせぇんだよっ!! お前らは倒した相手が生きていても頭から食うんだろ。そんな輩が目を失くしたぐらいでいちいち騒ぐなよっ!!」


 パロズンは剣を抜いて、のたうち回る熊の獣人の首を斬り落とし、熊の獣人は胴体から血を噴出させて即死した。


「こ、この野郎っ!!」


 大猩々の獣人がパロズンに殴り掛かろうとするが、足を滑らせて前のめりに倒れ込んだ。


「なっ、なんだこれはっ!?」


 足元に視線を向けた大猩々の獣人は驚きのあまりに血相を変える。


 彼の足元が沼になっていたからだ。


「お前も死ぬか?」


 獰猛な笑みを浮かべたパロズンが、大猩々の獣人の喉元に剣先を突きつけた。


 蒼ざめた大猩々の獣人は顔を激しく左右に振って両手を挙げた。


「ならこれを受け入れろ」


 パロズンは懐から紙を取り出して、大猩々の獣人の前に置いた。


「こ、これは奴隷証書!?」


 大猩々の獣人は雷に打たれたように顔色を変える。


「ここで死ぬか奴隷になるか自分で決めろ」


「……」


 大猩々の獣人は硬い表情で奴隷証書を見つめている。


「仕方のない奴だな……なら俺たちの目的を教えてやろう。それは王を殺してこの国を奪うことだ」


「……お前たちは軍に追われてここに逃げてきたんじゃないのか?」


 大猩々の獣人は渋い表情を浮かべていたが意を決して訴えた。


「傍から見ればそう見えるだろうなぁ。だが、それはそう見せているだけだ」


「……どういうことだ?」


「俺たちの総数は軽く5000を超えている。だから軍が俺たちに追っ手を差し向けても5000以上でなければ俺たちは負けない。ここまではいいか?」


「あぁ」


「俺たちは鉱山に逃げ込んだとみせかけて、実はこの鉱山で兵力を増強するというのが俺たちの頭領ビャクス様のお考えだ。すでにこの鉱山で多数の冒険者や傭兵が俺たちの仲間になっている」


「だが、相手は軍だぞ。本気で勝てると思っているのか?」


「すぐには無理だ。だが、この国は西と東から魔物に攻められている。そして北はサンポル王国を警戒している。このままいけば軍はどんどん疲弊するだろう。つまり、そこまで待ってトーナ城を直撃するというのがビャクス様のお考えだ」


「ぬううぅ……」


「まぁ、その時まで俺たちは軍から逃げているという芝居を続けなくてはならんがな」


「……あんたは強いが頭はどうなんだ? 強いのか?」


 大猩々の獣人は探るような眼差しをパルズンに向ける。


「まず、これを見ろ『流星石』!!」


 パロズンは集中して『流星石』を生成した。


 すると、遥か上空から巨大な石が落ちてきて、地面に衝突して凄まじい爆発が起きた。


「なっ!?」


 獣人たちの顔が驚愕に染まる。


 石が衝突した地面は直径30メートルほどの大穴があいている。


「俺は【土使い】でもある。だが、俺は差しの勝負でビャクス様に負けた」


「――っ!?」


 獣人たちはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。


「ビャクス様は少なくとも水と毒が使える。俺の土だけでもこの強さだ。水と毒が使えるビャクス様は最強だろうな」


 その言葉に、獣人たちは思わず息を呑んだ。


 【土使い】は最上級職の中でも激レア職業で、そのさらに上には【土の化身】がある。


 だが、転職の神殿で転職する場合、【土使い】より【土の化身】のほうが上位だが、同じ最上級職一覧の中に表示されるのだ。


 つまり、どれだけ強さが違っても最上級職より上の職業表記はないことになる。


「ここまで説明してやったんだ。当然、奴隷になるんだろうな?」


「あぁ、もちろん奴隷になるつもりだ」


 大猩々の獣人がそう答えると、他の獣人たちも頷いた。


「お前たちはビャクス様の直属の奴隷だ。だからお前たちに命令できるのはビャクス様だけだ」


 パロズンがペルに目配せすると、ペルはにっこり笑って駆けてきて、獣人たちの前に奴隷証書を置いていく。


「俺はあんたの奴隷でもいいんだけどな……あんたも恐ろしく強いからな」


 大猩々の獣人が熱い眼差しでパロズンを見つめている。


「おいおい、やめてくれよ……もう【乱れ咲きの刑】は勘弁だぜ」


 その言葉に、手下たちは大爆笑したのだった。


 パロズンは獣人たちに鉱石を売って食料を買ってこいと命令し、パロズン隊はキャンプ村に戻らず、再び第2ポイントの動向を監視するのだった。

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