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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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167/302

167 山賊対亜人獣人①

 時は遡る。


 敗走するパロズン隊は溶岩地獄と化した中間ポイントから離脱して、キャンプ村に到着する。


「ぐっ、気に入らんがさすがウェーサだな。もうキャンプ村を落としてやがる」


 堅牢なキャンプ村の外壁を見つめるパロズンは眉を顰める。


「なんだお前らはっ!?」


「……ん? これはパロズン様ではありませんかっ!?」


「門をけよっ!!」


 手下たちが門を開き、パロズン隊が中に入ると轟音と共に門が閉じられた。


「ビャクス様はどこにおられる?」


 パロズンが手下に声を掛ける。


「はっ、中央の奴隷屋におられます。ご案内しますか?」


「あぁ」


「こちらです」


「ご苦労だった。お前たちはもう休め」


「はっ」


 側近だけに目配せしたパロズンは側近と共に案内役の後をついていくと、道のいたるところで手下たちが酒盛りをしていた。


「ほう、酒か……俺にもよこせ」


 手下からコップを奪い取ったパロズンは樽に入った酒をすくって一気に飲み干す。


「くぅう、身に染み渡るぜ……ガレン、お前も飲んどけ……飲まんとやってられんぞ」


「……はっ」


 側近であるガレンがパロズンからコップを受け取り、ガレンは樽から酒をすくって一気にあおった。


「では、行くとするか……」


 パロズンたちは案内役に先導されて再び歩き出す。


 中央には様々な店が建ち並んでいるが、その全ての扉は破壊されていた。


「……派手にやったもんだな」


「店はほとんど破壊されていますが、今回の戦では死者はいなかったようです」


「全くもって耳が痛い話だな……いったいウェーサはどんな手を使ったんだ……」


 パロズンは苦笑いを浮かべる。


「こちらにビャクス様がおられます。それでは失礼いたします」


 案内役は一礼して去っていった。


 パロズンたちの目前には見上げるような外壁で囲まれた建物があり、扉の前には端整な顔立ちをした女二人が立っている。


「ビャクス様にお会いしたい」


「これはパロズン様、少しお待ちください」


 片方の女が建物の中に入り、パロズンたちは建物の前でしばらく待つ。


「どうぞ中へ」


 パロズンはひどく神妙な面持ちで頷いた。


 女と共に建物の中に入ったパロズンたちが開けた場所を歩いていくと、無駄に豪華な屋敷が建っていた。


 パロズンたちは屋敷の中に入り、一番奥の部屋の前に案内された。


「こちらです」


「あぁ」


 案内役の女は去っていき、その部屋の扉は開放されていた。


「パロズンです。失礼します」


 パロズンたちが部屋の中に入ると、煌びやかな椅子に腰掛けたビャクスと薄手のローブを羽織ったウェーサが立っていた。


「ご報告したいことが二つあります」


 ビャクスの前でパロズンとガレンは跪いた。


「あぁん? 言ってみろ」


「はっ、一つ目はビャクス様から預かった兵を壊滅させてしまいました」


「……な、なんですってっ!? いったい、何があ――」


 血相を変えたウェーサが問いただそうとするが、それをビャクスが手で制す。


「……続けろ」


「はっ、二つ目は俺たちを襲った化け物の群れがここに来るかもしれないということです」


「……ほう」


「俺の説明は以上です。詳しい話はガレンからお聞きください。ガレン俺の首を刎ねろ」


 パロズンは跪いたまま瞼を閉じた。


 その言葉に、ウェーサとガレンは大きく目を見張る。


 ビャクス山賊団には、失敗すれば死あるのみという暗黙のルールが存在するのだ。


 立ち上がって抜刀したガレンが剣を上段に構えたままで動きを止めており、ウェーサは探るような眼差しをビャクスに向ける。


「失敗の是非は俺が決める……ガレン、剣を収めよ」


「はっ」


 ガレンは剣を鞘に収めて再び跪く。


「お前が言う化け物が何も知らない我らに襲い掛かったと想定すると、兵三千よりも甚大な被害を受けると考えた。故に命までは取らんが……乱れ咲きの刑と処す」


「!?」


(殺さないのか?)


 俯いたままのパロズンは信じられないといった形相だ。


「連れて行け」


 ビャクスがそう発すると、部屋の奥から重装備の女二人が姿を現し、パロズンを連行して退出した。


「何か言いたそうだなウェーサよ」


「い、いえ何も……」


 ウェーサは言葉を詰まらせた。


「奴とは差しで戦ったことがある。この俺と差しで戦い生きているのは奴だけだ」


「えっ!?」


 ビャクスの戦闘を見たこともないウェーサは雷に打たれたように顔色を変える。


 彼女が配下に加わった経緯も圧倒的戦力差を前に膝を屈したからである。


 そのため、ウェーサはビャクスの強さに疑念を抱いていたのだ。

 

 無論、個の強さなど数の前では無に等しいことを彼女が理解していることは言うまでもない。


「……」


(どうやら私の疑念は杞憂だったようね。だけど私がパロズンと同様の失敗を犯した時、私はどうなるのかしら……)


 ウェーサは一抹の不安を拭いきれなかったのだった。


















 数日後、50人ほどの手下たちが宿屋の前で刑を終えたパロズンが出てくるのを首を長くして待っていた。


 この50人はパロズンが頭領だった頃からの手下で、それは現在でも変わらない。


 彼らがしばらく待っていると宿屋の扉が開き、オークのような豚鼻の女たちとゴリラのような屈強な女たちに抱きかかえられたパロズンが出てきた。


 その顔は生気を失って酷くやつれており、身体はぶるぶると痙攣していた。


「パロズン様っ!!」


 真っ先に声を張り上げ、パロズンの傍に駆けつけたのが美形で華奢な手下だった。


 だが、この手下はパロズンの女でビャクス対策で男装しているのだ。


 名をペルシアというがこれもビャクス対策でペルに改名している。


「うひひひひっ、いい男が泣き叫ぶ様はいつ見ても興奮するねぇ」


「うひゃひゃひゃ、全くだ」


「また来いよ、しゃぶりつくしてやるからよぉ」


 女たちは下品な笑みを浮かべている。


 ペルは鋭い視線を屈強な女たちに向けながらパロズンを奪い取り、背中に背負って駆け出した。


 彼女は一刻も早く穢されたパロズンを風呂に入れて、身体の隅々まで丁寧に清めたかった。


「……ペル……しゅ、周辺の様子が気がかりだ……任せたぞ」


 そう言い残してパロズンは意識を失ったのだった。


 翌日、パロズン隊が出陣してキャンプ村から東に進んだところで待機していた。


 数は生き残った100人ほどだ。


「パロズン様、本当にお体は大丈夫なんですか?」


 ペルは眉を顰めて心配そうな顔をしている。


「問題ない……それよりも第2ポイントの奴らの動向が気がかりだ」


「……無理はしないでくださいね」


 俯いたペルは怒りに身を震わせていた。


 もとを正せば、ウェーサが悪いのだと彼女は思っていたのだ。


「パロズン様、第2ポイントの奴らが動きました」


 斥候に出していた手下が帰還して、パロズンに報告する。


「やっぱり、動いたか……」


「はっ、奴らは二手に分かれました。片方は東に進みもう片方は南下してキャンプ村を攻撃するつもりだと思われます」 


「……東に進行する部隊はおそらく買出しだろうな。俺たちがキャンプ村を占拠したからな。だが、南下する部隊の狙いは何なんだ?」


 パロズンは逡巡するが明確な答えを得られなかった。


「まぁいい。俺たちは東の部隊を叩く。南下する部隊はウェーサがなんとかするだろう」


 ペルとガレンは頷いて、パロズン隊は東に進軍して隣のエリアに続く道で待ち伏せるのだった。


















 第2ポイントから出撃した亜人の部隊がキャンプ村を目指して進軍していた。


「お、おい!? あれを見ろっ!!」


「おいおいマジかよ!? 亜人たちが攻めてきたのか!?」


「そ、そうみたいだな……すぐにウェーサ様に知らせないとっ!!」


 外壁を守る山賊たちが騒ぎ立て、その内1人が身を翻して駆けていった。


 亜人の部隊はキャンプ村から500メートルほど離れたところで進軍を止める。


「ほう、人数だけはかなりいるみたいだな」


 部隊を率いるオーガが外壁の上にいる山賊たちを見ながら言った。


 亜人部隊の数は500ほどで、ビャクス山賊団の総数は5000を軽く超える。


「突撃しろ」


 オーガの号令でオークの部隊が進軍を開始する。


 その数300。


「撃て撃てっ!!」


 山賊の守備隊長が声を張り上げ、外壁の上から手下たちが一斉に矢を放つ。


 だが、オークの部隊は大盾で矢を防ぎながら進んでおり、その進軍は止まらない。


「ちぃ、魔法だ魔法っ!! 引きつけてから放てっ!!」


 山賊たちが一斉に魔法を唱えて、オークの部隊は炎に包まれた。


 しかし、それでもオークの部隊の進軍は止まらなかった。


「な、なぜ止まらんっ!?」


 オークの部隊は外壁に到達し、門を破壊するために一斉に攻撃する。


「こ、この豚がぁ!! とにかく攻撃しろっ!! 攻撃の手を休めるなぁ!!」


 山賊たちは門を攻撃するオークたちに矢や魔法で攻撃するが、オークたちの攻撃は止まらない。


「ぎゃああぁぁあああああああぁぁ!?」


「うぁぁあああああああぁぁああああああああああぁぁ!?」


 唐突に手下たちの絶叫が木霊する。


「なっ!? ハーピーだとっ!?」


 空を見上げた守備隊長は驚きのあまりに血相を変える。


 ハーピーの部隊が上空から魔法を唱えて、山賊たちは次々に風の刃に切り裂かれて倒れていく。


 数は100ほどだが、魔法の他にも足爪で巨大な岩を掴んで落下させており、その破壊力は凄まじかった。


「状況はどうなってるの!?」


 側近を引き連れたウェーサが鋭い視線を守備隊長に向ける。


「はっ、豚野郎には矢も魔法も効きませんっ!! 空からはハーピーに攻撃させています」


「オークは群れると厄介なのよ。『徒党』で守備力が上がるからね……魔法が効かないのはオークメイジがいるからよ」


「さ、さすがウェーサ様っ!!」


 守備隊長は感嘆の声を上げる。


「ハーピーには弓兵で攻撃しながら魔法師のマジックシールドの魔法と司祭のシールドの魔法で対処。オークにはとにかく魔法で攻撃してオークメイジの魔力切れを待つしかないわ」


 ウェーサの指示の元に山賊たちは動き出す。


「ご苦労だったな」


 ウェーサの側近が守備隊長にそう声を掛けてから守備隊長に蹴りを放った。


「うぁあああああああああああああぁぁああああああぁぁぁ!?」


 外壁から落下した守備隊長は地面に叩きつけられてもかろうじで生きていたが、オークたちに囲まれて斧で斬り刻まれて一瞬で肉片に変わった。


 ハーピーの部隊が上空から魔法を唱えて山賊たちを攻撃するが魔法師が展開したマジックシールドに阻まれる。


 オークの部隊は門を破壊したが、門をくぐってすぐの場所に巨大な落とし穴があり、そこに落下した。


 落とし穴の周りには巨大な石が並んでおり、その巨大な石の上から山賊たちが魔法を唱えて、オークたちを攻撃している。


「ほう、指揮官が変わったか?」


 オーガは訝しげな表情を浮かべている。


「……どうやら、そのようですな」


 側近のオーガも同意を示した。


「こうなると数で劣るこっちが不利だな……増援を寄こせとノラロスに伝えろ。寄こさないと引き上げるとな」


「はっ」


 こうして、戦闘の行方は亜人部隊のボスであるノラロスに委ねられたのだった。

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