160 防壁前でのレベル上げ③
シルルン達は防壁に沿って東に進んでいたが行き止まりになり、少しだけ南下して今度は西に進みだした。
「また茸デス!! 追い払うデスか?」
「うん、任せるよ」
「分かったデス!! サンダーデス!!」
プルはサンダーの魔法を唱えて、レッサー マッシュルームタイガーの近くに稲妻が落ちて地面に大穴があいた。
ビックリしたレッサー マッシュルームタイガーはしばらく動かなかったが、我に返ると一目散に密林の奥に逃げて行った。
シルルン達はしばらく待っていると鼠の群れが現れたのだった。
「虎柄の鼠デス!!」
「あはは、レッサー ラットタイガーが数も多くて一番効率がいいね」
シルルンはそう言いながら10匹ほどのレッサー ラットタイガーを『念力』で動けなくした。
動けなくなったレッサー ラットタイガーにフィン達が一斉に襲い掛かり、レッサー ラットタイガーは為す術なく倒せれていき全滅したのだった。
なぜだか分からないが、レッサー マッシュルームタイガーを逃がすと別の魔物が現れる法則にシルルンは気付いたのだ。
その理由はプニがレッサー マッシュルームタイガーが現れる度にテイムを試みていたのだが、ことごとく失敗に終わっていたのだ。
だが、その後、必ず別の魔物の群れが現れるのでこの法則にシルルンが気づいたのである。
現在、プニの頭の上には真っ白なレッサー マッシュルームタイガーがいて、全長は10cmと小さいがプニが初めてテイムに成功した個体で名前はシロと名付けられた。
「よぉ~し、これでフィン達はレベル10を超えたから次はうさポン、シーラ、カイ、ペガサス達だね」
その言葉を聞いたアキがペガサス達の元に駆けて来た。
「あは、ライト、シャドー頑張ってね」
アキはペガサス達に桃を食べさせて頭を撫でている。
「ふ~ん、かなり仲良くなってるね」
「あは、ペーガちゃんには負けますよ」
「まぁ、ペーガは死にかけてたその2匹をヒールの魔法で治したからね。ていうか、ライト、シャドーってのは分かりやすくて良さそうな名前だね」
「えっ!? そうですか!? 名前がなかったので私が勝手にそう呼んでただけなんですが……」
シルルンはペガサス達に「ライトとシャドーという名前は気に入っているの?」と思念で聞いてみると「気に入っている」との返答がきた。
「じゃあ、ペガサス達の名前はライトとシャドーにするよ」
「ありがとうございます!!」
アキは屈託のない笑顔を見せた。
「で、どっちを相棒にしようと考えているの?」
「あは、それについては考えていて、もちろん両方です」
「へっ!?」
シルルンは間抜けな声を出して怪訝な顔をした。
「だってどっちかなんて決められませんよ。だから両方です」
「……まぁ、頑張ってみるといいよ」
「はいっ!!」
「ねぇ、シルルン。ずっと戦いを見て思ってたんだけど、こんな戦いをさせていたら戦術が身につかないんじゃないの?」
訝しげな顔をしたリザがシルルンに言った。
「フィン達は親や仲間に見捨てられて死にかけてたから僕ちゃんは甘やかすんだよ。それに現状で一番大事なのはレベルの高さなんだよね。後はどうとでもなるし、戦闘に特化したペットはいっぱいいるからこれでいいんだよ」
「……レベルの高さ以外はどうとでもなるってどういうことなのよ?」
リザはジト目でシルルンを見つめる。
「おそらくシルルン様か或いはペット達のいずれかが、能力を奪って譲渡する能力を持っているのだと思います」
「えっ!?」
メイの言葉に仲間達は驚愕して自身の耳を疑った。
「やはり、シルルン様のペット達は驚いていないようですから、知っているのですね」
「僕ちゃんはそんなことは知らないよ」
シルルンは頭の後ろで腕を組んで白々しい口笛を吹いており、それを見たプニも頭の後ろで触手を組み、白々しい口笛を吹いている。
「……つまり、プニちゃんがその能力を持っているのですね」
「――っ!?」
シルルンとプニは動揺して固まった。
(やべぇ、なんて洞察力だ。メイを敵にしたら厄介この上ない……)
「……まぁ、仮にそんな能力があったとしても人族にはリスクが高すぎて使えないから意味がないんだよ」
「どういうことでしょうか?」
「まぁ、仮の話だよ。失敗したら爆発して死ぬからだよ」
「……なるほど、そのようなリスクがあるので私達には内緒にしていたのですね」
「さぁ、何のことだか……」
シルルンはこの期に及んでなお、白を切る。
「でも、ペット達には使えるってことよね……」
リザはシャインに視線を向けるとシャインは不自然に目を逸らし空を見つめている。
「おそらく、レベルを上げると譲渡できる能力の種類や数が増えるんだと思います」
「……」
(……すげぇなメイは……まるで知ってるみたいな口ぶりだよ)
だが、それでもシルルンは押し黙ったままで秘密を話さなかった。
「マスター危ないっ!!」
悲痛な表情でラフィーネが声を張り上げ、仲間達の視線がラフィーネに集中する。
仲間達の目に映ったのはハイ タイガーの群れがシルルンに襲い掛かる光景だった。
シルルンの傍にいたリザとシャインは即座に対応して、ハイ タイガーを迎撃するがシルルンに目掛けて突っ込んできたのは3匹で、残りの1匹がシルルンの頭に食いついた。
「シルルン様!!」
「シルルン!!」
「マスター!!」
この光景を目の当たりにした仲間達は凍りついた。
だが、シルルンに突っ込んだハイ タイガーは3匹だが、他にもハイ タイガーは3匹いてルアン、ローズ、ビークスと戦闘を繰り広げている。
リザはハイ タイガーと互角の戦いを繰り広げており、シャインはすれ違いざまにハイ タイガーの首を食いちぎり、ハイ タイガーは体から血を噴出させて即死した。
すぐさまシャインはシルルンに視線を向ける。
「マスターから離れるデス!!」
「デシデシ!!」
プルとプニはハイ タイガーがシルルンに密着しているので魔法が使えず、パンチのラッシュをハイ タイガーに叩き込んでおり、首にしがみついていたうさポンは驚愕してシャツの中に逃げ込んだ。
「あはは、いきなり真っ暗になったけど何が食いついたんだろ?」
シルルンは自身の頭に食いついているハイ タイガーの頭を掴んで引っこ抜き、目の前にもってきて確認した。
「ん? なんだハイ タイガーか……」
シルルンは掴んだハイ タイガーを無造作に地面に叩きつけた。
地面に大穴をあけてめり込んだハイ タイガーは痙攣して虫の息だ。
「……シ、シルルン様?」
そう呟いたメイは戸惑うような表情を浮かべており、ハイ タイガー達の速攻に動くことすらできなかった仲間達は、ぽかんとした表情でシルルンを見つめている。
「……く、臭ぇ!? 強烈に臭ぇ!! ひぃいいいぃ!? 顔が唾液でデロデロじゃねぇか!?」
シルルンはあまりの激臭に地面を転がり回っている。
「ウォーターの魔法で綺麗にするデス!!」
「アホか!? そんなことしたら本体がダメージを受けるだろが」
「じゃあ、どうするデスか? マスターは苦しそうデス!!」
「……もう、仕方ないわね。私がやるわよ」
プニの口の中から水のようなスライムが出てきて、大気中から水分を集めて水の塊を作り出し、転がり回るシルルンの顔を水の塊で包み込んだ。
「あぶぶぶぶぶぶ……」
水の塊は竜巻のように回転していたが、しばらくすると弾けたように四散した。
「あはは、臭くない!! 誰の能力か知らないけど助かったよ」
シルルンが目をあけると水のようなスライムは姿を消していた。
この光景をほとんどの者が呆然と眺めていたが、ラフィーネだけは歓喜に身を震わしていた。
「最初はダイヤちゃんかと思いましたが、プニちゃんの口の中には水のようなスライムちゃんがいます!! でも、マスターはなぜ紹介してくれないのでしょうか……?」
ラフィーネは困惑した表情を浮かべている。
それを見届けたシャインはリザと互角の戦いを繰り広げているハイ タイガーに襲い掛かる。
シャインはハイ タイガーの背後から前脚の爪の一撃を叩き込み、動きが鈍ったところをリザに首を斬り落とされてハイ タイガーは胴体から大量出血して力尽きた。
ルアン達と戦いを繰り広げていたハイ タイガー達もすでに倒されており、仲間達とペット達がシルルンの元に集まってくる。
「あ、あのシルルン様……お怪我はないのでしょうか?」
メイの言葉に仲間達も心配そうな表情でシルルンを見つめている。
「えっ!? 何で?」
シルルンは意味が分からず、メイに聞き返した。
「……えっ、シ、シルルン様がハイ タイガーに頭を噛まれたからです」
「あぁ、そのことか。あはは、僕ちゃんがそんなことぐらいでダメージを受ける訳ないじゃん」
「……」
今度は逆に仲間達がシルルンが言ったことの意味が分からずに沈黙した。
「……おいおい、マジかよ!? 完全な不意打ちでハイ タイガーの攻撃力をもってしても大将にはダメージが与えられないのかよ」
「すごい!! すごいです!! さすが私の主!!」
バーンはどこか遠くを見つめて口から涎を垂れ流し、ロシェールは顔を紅潮させて恍惚な表情を浮かべているが、仲間達はいまだ理解が追いついていなかった。
「全く呆れるぜ。マスターがエルダー ハイ ドラゴンを倒したって言ったのを覚えてないのか? 奴の攻撃力は3万超えってマスターも言ってただろ? そこから推測すると数千程度の攻撃力でマスターにダメージを与えることはできないと分からないか? マスターは最後の最後で奴とガチで殺り合ったんだぞ」
「……」
仲間達はルアンの話を頭では理解していたが、信じ難い話だった。
「……つまり、シルルン様のステータスは3万を超えているということか?」
かろうじでそう返したのはゼフドだが、その数値を口にして馬鹿げているとゼフドは眉を顰めた。
「覚醒したマスターのステータスは最低でもそのぐらいの数値だろうな……」
「覚醒?」
仲間達はその言葉に怪訝そうな顔をした。
「あぁ、マスターは覚醒する。少なくとも俺にはそう見えた。あの心震える戦いをお前達は聞きたいか?」
「聞きたい!!」
仲間達は目を輝かせ声を揃えて言った。
「いいだろう。俺はあの時、2匹の仲間と共に岩陰に身を隠していた。奴に追われていたからだ。奴の価値観は戦いが全てで龍族なら常に戦いに身をおけというのが奴の理屈だった。下位種から進化し自我意識を手に入れた俺は縄張りに戻ってその理屈を聞いて違和感を覚えて仲間と共に中央の最激戦区から身を引いたんだ。だが、俺のような考えの龍族は珍しいようで俺達が縄張りから出るかどうかを話し合っているところにマスターが現れた訳だ……」
仲間達はルアンの話を熱心に聞いている。
「ガハッ!!」
失神していたハイ タイガーが目を覚まして口から大量吐血し、全身から発する激しい痛みに顔を歪めながらヒールの魔法を唱えた。
しかし、魔法は発動しなかった。
「な、なぜ魔法が使えない!?」
ハイ タイガーは愕然としながらも身体を動かそうとするがピクリとも動かなかった。
「あはは、ハイ タイガーに止めを刺すのを忘れてたよ」
シルルンは思念でカイ、ライト、シャドーに攻撃しろと命令し、シーラにも『魔物契約』で攻撃しろと言った。
「えぇ!? こ、怖いですよ!!」
シーラは恐怖で身が竦んで動けなかったが、カイ、ライト、シャドーは突撃し、懸命にハイ タイガーを攻撃している。
「あは、ライト、シャドー頑張れ!!」
皆はルアンの話に聞き入っていたが、アキだけはライトとシャドーの傍で2匹を応援している。
「ほら、うさポン。カイ達が攻撃してるからうさポンも攻撃するんだよ」
シルルンはシャツの中からうさポンを引っ張り出して、ハイ タイガーの傍においた。
「ポポポポポポンッ!!」
巨大なハイ タイガーを見たうさポンは目を剥いて驚き、大慌てで逃げ出した。
だが、シルルンはシャツの中に逃げ込もうとするうさポンを両手でがっちりと掴んで、ハイ タイガーの方に向けた。
「あはは、殴るのが怖かったら『石化』で攻撃すればいいんだよ」
「ポ、ポン……」
その言葉でうさポンは暴れるのを止めたが身体はブルブルと震えている。
「メデューサの『石化』は目を見ないと発現しないからね」
シルルンはうさポンを左腕で抱きかかえ、右手で頭を撫でながら言った。
うさポンは安心したようで身体の震えが止まり、ハイ タイガーの目を見つめて『石化』を放った。
するとハイ タイガーの巨体が一瞬で石になり、カイ達は驚いて攻撃を止めた。
それと同時にうさポンは真っ白に輝く光に包まれたのだった。
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