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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
大穴攻略編

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16 冒険者 修


 一方、ゾルは凄まじい速さでの戦いをロード アントと繰り広げていた。


 だが、戦っているいるのはゾルだけで、彼の仲間は腕を組んで隊長の戦いを観戦していた。


 ロード アントはゾルに襲い掛かるが、ゾルは全ての攻撃を躱しながら大剣の一撃を叩き込んでいる。


 【暗黒剣士】は最上級職の中で高い攻撃力と素早さを誇り、物理攻撃に特化した職業なのだ。


「あれ? 今、カスったんじゃね?」


 ゾル隊の剣豪は顔を顰めた。


「馬鹿めっ! 紙一重で躱しておるわ!!」


「ふふっ、坊やにうちはまだ早いんじゃない?」


「ううぅ……」


 ゾル隊の剣豪は羞恥の表情を浮かべる。


 ゾルが圧倒的に優勢だが、勝敗が決するにはまだ時間が掛かりそうだった。


 しかし、ゾルの身体が黒いオーラを纏った。


「おっ!! 久しぶりに見るな」


「えっ? 何が!?」


 ゾル隊の剣豪は不可解そうな顔をした。


「いいから黙って見てろ」


「ううぅ……」


 ゾル隊の剣豪は得心のいかないような表情を浮かべている。


 ゾルが黒いオーラを纏ったのは『決死』を発動したからだ。


 『決死』は一時的に身体能力が跳ね上がり、感覚が研ぎ澄まされて時が止まった様に感じる能力だ。


 ロード アントは凄まじい速さで突撃し、ゾルに対して右前脚の爪を振り下したが、ロード アントの右前脚が宙に舞った。


 その現象にロード アントは一瞬面食らったが、それを見つめるゾルは不敵な笑みを浮かべている。


 ロード アントは左前脚の爪をゾルに振り下ろしたが、今度は左前脚が宙に飛び、一瞬にして両前脚を失ったロード アントが後退しようとした。


 だが、瞬く間にロード アントの左に回り込んだゾルは大剣で右脚二本を斬り落とすと同時に、一瞬で右に回り込んで左脚二本を斬り落とした。


 全ての脚を失ったロード アントは飛行して逃げようとしたが、ゾルに大剣で羽を斬り裂かれて首を刎ね飛ばされた。


 獰猛な笑みを浮かべるゾルは大剣でロード アントの身体を細かく斬り刻む。


「ファイヤ!!」


 ゾルはファイヤの魔法を唱えて、激しい炎がロード アントの肉片を焼いて、ロード アントは為す術なく炭に変わったのだった。


「うおおおおおおおおお!!」


「マ、マジかよ……」


「一人で勝ちやがった……」


 観戦していた冒険者たちは驚きを禁じ得なかった。


「あれが暗黒剣士の『決死』だ」


「す、すげぇ!!」


 ゾル隊の剣豪は感動に打ち震えている。


「まさか一人で倒しきるとはとんでもない強さだな……」


 スラッグは信じられないといったような表情を浮かべている。


「あとは最後の一匹だな。どうなったんだ?」


 ベータは辺りを見渡したが、ロード アントの姿はなかった。


「最後の一匹には武学の教官殿が向かったはずだが……」


 スラッグは周辺を見回して複雑そうな顔をした。


「はぁ? 武学の教官なんて話にならんだろう!! 相手は上位種を超えるロード アントなんですぜ!!」


 ベータは呆れたような表情を浮かべている。


「俺もそう思うが、じゃあなんでロード アントはいなくなったんだ?」


 その言葉に、ベータは何も反論することができなかった。


















 少し時間は遡る。


 迫り来るロード アントから傭兵たちや冒険者たちは必死の形相で逃げていた。


 だが、その状況でそれを悠然と逆行する男の姿があった。


「おい、あいつ戦うつもりかよ? 馬鹿なんじゃねぇか?」


 眼帯の傭兵は呆れたような笑みを浮かべた。


「ふっ、囮になってくれて丁度いいじゃねぇか」


 失笑した短髪の傭兵はにやりと笑う。


 走りながら傭兵たちは嘲うような笑みを浮かべたが、男が気になって足を止めて振り返る。


 ロード アントは凄まじい速さで男に接近し『毒霧』を吐いて、緑色の霧が男を包み込んだ。


「おい、まともにくらったぞ……やっぱり馬鹿だ」


 眼帯の傭兵は拍子抜けしたような顔をした。


「ん? 囮がいないぞ!!」


 短髪の傭兵は面食らったような表情を浮かべている。


 だが、男はロード アントの後方に立っていた。


「おい!! 囮がロード アントの後ろにいるぞ!!」


「マジか!? いつの間に後ろに回ったんだ?」


 短髪の傭兵は理解不能な顔した。


 男はロード アントを一瞥もせずに包囲陣に向かって歩き出したのだった。


「なんだよ! 結局、逃げるのかよ!」


 眼帯の傭兵は苛立たしそうに眉を顰めた。


 ロード アントが動き出した瞬間、ロード アントの上半身がズレ落ちて、胴体から大量の血飛沫が上がってロード アントは即死したのだった。


「あいつが倒したのか……どうやったんだよ!?」


「分からんが、もう逃げなくてもいいみたいだな」


 短髪の傭兵は安堵の表情を浮かべたのだった。


 一方、ヒーリー将軍はロード アントに悠然と立ち向かう男が気になっており、指揮を執りながら男の動向を注視していた。


「一撃だと!?」


 ヒーリー将軍は驚きのあまりに血相を変える。


 彼女には男が毒の霧を浴びたように見えた瞬間、閃光が突き抜けたように思えたのだ。


「いったい何者なのだあの男は……」


 ヒーリー将軍は動揺を禁じ得なかったのだった。






 










 ロード アントを屠った男はハイ アントの群れと戦いを繰り広げるベル大尉率いる部隊の傍に移動した。


 状況は魔法使いの部隊が一斉攻撃を行い、ハイ アントを十匹ほど倒したがまだ四十匹ほど残っている。


 アント種の群れは壁から包囲内に進入して、包囲陣を形成する兵士たちを背後から攻撃しており、それを殲滅するためにドレドラ将軍率いる部隊が包囲内のアント種たちに攻撃を仕掛けていた。


「どけっ!!」


 上級兵士たちを押しのけた男はハイ アントの群れの前に進み出て槍を横に一閃すると、数匹のハイ アントが体を真横に斬り裂かれて血飛沫を上げて即死した。


「なっ!!」


 上級兵士たちの顔が驚愕に染まる。


 理解不能な彼らは戦闘中なのにも拘わらず、呆然と立ち尽くす。


 男は悠然と歩き出し、左右に広がり伸びている左側のハイ アントたちを、槍で雑草でも刈るように斬り裂いていく。


 瞬く間に十匹ほどのハイ アントが斬り殺されて、数秒後には左側に展開していたハイ アントたちは男の槍の攻撃により全滅した。


「そ、そんな馬鹿なっ!?」


 上級兵士たちはショックを露にしている。


 彼らはメローズン王国が誇る最精鋭部隊であり、その彼らでさえも一対一では勝算が薄いハイ アントを男は目の前で瞬殺したのだ。


 それも二十匹匹もだ。


 男は右側に伸びるハイ アントを殲滅するために悠然と歩いていく。


 凶悪犯罪者のような男の顔を目の当たりにした上級兵士たちは我知らずに固唾を呑んでいた。


 過酷な訓練を耐え抜いてきた彼らですら、失禁しそうになる威圧感を男は醸し出していたのだ。


「一体、何が起きたのだ!?」


 ベル大尉の顔に戸惑いが浮かんでいた。


 彼女は右側に伸びるハイ アントと戦う上級兵士をフォローして、次は左側だと視線を向けるとハイ アントは全滅していたのだ。


 代わりに人相の悪い男が悠然と歩いており、怪訝な顔をしたベル大尉は男を目で追いかける。


 異変を察したハイ アントの群れは男に向かって突撃し、凶悪な牙で食いつこうとするが、男の槍の一閃で真横に斬り裂かれてハイ アントたちは血飛沫を上げて絶命した。


 残ったハイ アントたちは一斉に男に襲い掛かるが男に全て真横に斬り裂かれ、男はハイ アントの群れを瞬く間に殲滅したのだった。


 その光景を目の当たりにしたベル大尉は愕然とする。


「私の名はベル。よければあなたの名をお聞かせ願いたい」


「名など既に捨てておるわっ!!」


 男は射抜くような鋭い眼光をベル大尉に向けた。


「名を捨てた?」


(過去にいったい何があったのだ?)


 ベル大尉は訝しげな眼差しを男に向けている。


「アウザー。今はそう呼ばれている」


「――っ!?」


(言うんかいっ!!)


 上級兵士たちは心の中でそう叫ばずにはいられなかった。


 身を翻したアウザー教官は洞穴出入口へと戻っていったのだった。



















 ロード アントたちを倒しても、アント種の群れは包囲陣の前から撤退せずに戦闘は継続していた。


 これにより、ヒーリー将軍の部隊が五百名、ドレドラ将軍の部隊が三百名、冒険者たちが百名の合計九百名が戦死していた。


 そのため、将軍たちは軍議を開いた結果、現状の戦力では包囲陣の維持するだけで限界だと結論し、バルレド将軍に急使を送ったのだった。


 一方、洞穴内部でスラッグは奴隷秘書から魔物の討伐報告を受けていた。


 今回の魔物討伐では魔物の首を奴隷秘書に渡せば、討伐報酬をその場で受け取ることが可能なのだ。


 しかも、討伐報酬は通常の二倍である。


 魔物討伐報酬額


 下位種 一匹五千円×二倍で一万円


 通常種 一匹十万円×二倍で二十万円


 上位種 一匹五百万円×二倍で一千万円


 基本的に冒険者ギルドでは、魔物討伐依頼自体が少ないので、魔物一匹に対して討伐報酬があることは極めて珍しいことだ。


 冒険者ギルドの依頼の多くが素材の採取依頼だからだ。


 そのため、魔物を倒しただけでは金にならないことが多い。


 魔物を狩る場合、素材採取依頼がある魔物かどうかを調べて狩るか、高く売れそうな素材を持つ魔物を狙って狩るのである。


「討伐報酬の未払いが三件あります。理由はロード アントの討伐額が不明だからです」


 スラッグの傍らにいる奴隷秘書が羊皮紙のリストを一瞥して言った。


「ラーグ隊が一匹、次にゾル様が一匹、最後に――」


「ロード アントはいくらになるんだい?」


 奴隷秘書が報告している最中にラーグ隊とゾル隊が姿を現し、ラーグはスラッグに問い掛けた。


「そうだな……」


 スラッグは考え込むような表情を浮かべている。


 上位種以上の魔物討伐は彼にとって想定外の事態だった。


「ロード アントは間違いなく上位種より強かったから一匹一千万円ってとこか」


「つまり、二倍になるから二千万円ってことだよね?」


 にんまりと笑うラーグがスラッグに尋ねた。


「そういうことになるな」


「おおっ!! すげぇなっ!!!」


 聞き耳を立てていた冒険者たちや傭兵たちから感嘆の声が上がった。


「それではロード アントを討伐したラーグ様御一行に二千万円をお支払いいたします。メローズン金貨二百枚のお支払いでよろしいでしょうか?」


「ああ、それでいいよ」


 奴隷秘書から金貨を受け取ったラーグは仲間たちに均等に分配した。


「ゾル様はロード アントを一匹討伐したので二千万円をお支払いいたします。メローズン金貨二百枚のお支払いでよろしいでしょうか?」


「ああ」


 ゾルは奴隷秘書から金貨を受け取った。


「分配金はいくら貰えるんすかね?」


「隊長の一人取りだ」


「あら? 君は何かしたかしら?」


「ううぅ……」


 ゾル隊の剣豪はがっくりと項垂れた。


「最後にアウザー様がロード アントを一匹、ハイ アントを四十匹討伐したので、合計で四億二千万円になります」


「なにぃ!! 四億二千万円だとっ!!」


「マ、マジかよ!?」


 あまりの金額に辺りは騒然となった。


「どけっ!!」

 

 人だかりを掻き分けてアウザーはスラッグたちの傍まで歩いてきた。


「アウザー様にお支払いする金額は合計で四億二千万円になります。メローズン金貨四千二百枚のお支払いでよろしいでしょうか?」


「それで構わん」


 アウザーは奴隷秘書から金貨を受け取り、A1ポイントの方角に消えていった。


「いまのがアウザーか……なんて凶悪な顔をしてやがるんだ」


「ありゃあ、殺しや薬もやってるぜ」


「あぁ、間違いねぇ」


 傭兵たちは緊張した面持ちで固唾を呑んだ。


「彼が一人でロード アントとハイ アント四十匹を倒したのかい?」


 ラーグは神妙な顔で奴隷秘書に尋ねた。


「はい、私が確認しました。ロード アントですら一撃でお仕留めになられました」


「……そんな人族がいるんだね」


 アウザーの底知れぬ強さにラーグは戦慄を禁じ得なかったのだった。

















 C2ポイントから進軍したC隊は三十キロメートル地点で部屋を発見した。


「いったいどこまでこの洞穴は続いているのだ……」


 表情を強張らせたC隊隊長は呟いた。


 その言葉に、兵士たちも動揺を隠しきれずに不安そうな表情を浮かべていた。


 発見した部屋の広さは直径三百メートルほどで、魔物の数は五百匹を超えていた。


「ぐっ……魔物の数が多いな」


 C隊隊長は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「確かに魔物の数は多いですが、この部屋には上方向に伸びる洞穴しか見当たりません」


 斥候は真剣な表情で進言した。


「つまり、敵の増援はないわけか……やもえん、殲滅するぞ!!」


 C隊隊長は意を決したような顔で号令を掛けて、C隊は魔物たちに目掛けて突撃した。

 

 この戦闘は苛烈を極めて制圧には成功したが、生存者は五十名のみだった。


 C隊隊長はこの部屋をC3ポイントと名付けた。


 C隊はC1ポイントまで引き返すと、C1ポイントには三十匹ほどの魔物の姿があった。


 魔物たちは調査していないルートから集まってきたのだ。


 C隊はこれと交戦して殲滅した。


 C隊隊長はCポイントに斥候を送り、Cポイントで待機する三百名の兵士を呼び寄せた


 しかし、C1ポイントにはまだ調査していないルートが四本あり、これを調査するには兵力が足らなかった。


 そのため、C隊隊長はAポイントに斥候を送り、増援を求めたのだった。


挿絵(By みてみん)




 一方、Aポイントにはロレン将軍の姿があった。


 バルレド将軍がA1ポイントに進軍したことにより、彼は本営をAポイントに移したのだ。


 しかも、シャダル王に要請していた増援の兵士五千名を引き連れてである。


「AルートもCルートも苦戦しているようだな」


 ロレン将軍は苦々しげな表情を浮かべている。


 彼はAルートの増援に兵士二千名、Cルートにも二千名の増援をおくり、地上から兵士五百名をC3ポイントに向けて進軍させたのだ。


 ロレン将軍が地上からC3ポイントに兵士を派遣した訳は、C3ポイントから上方向に伸びている洞穴が地上に繋がっていると彼は睨んでいたからだ。


 そのため、C3ポイントの洞穴が地上に繋がっていることが確認できれば、C3ポイントから順に洞穴を埋め直していくことになる。


 これを行わなければ再び魔物が巣くう可能性が極めて高いからである。


 だが、この作業を行うには兵士五百名では全く足らず、とてつもない労力が必要だがロレン将軍は難民を雇えばいいと思案していた。


 現在、他国との境界線付近にある街の周辺には、何十万もの難民が押し寄せているからだ。


 穴埋めの仕事を難民たちに与えることで少しでも難民たちの助けになるだろうとロレン将軍は考えていたのだった。

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暗黒剣士 レベル1

HP 900~

MP 250

攻撃力 800+武器

守備力 350+防具

素早さ 400+アイテム

魔法 ファイヤ ポイズン ナイトビジョン ドレイン コンフューズド 稀にダークネス 稀にサンダー

能力 決死 豪力 能力軽減 毒無効

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