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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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154 うさポンの茸 修


 鉱山の拠点の個室で、シルルンはゴロゴロしながら酒を飲み続けていた。


 シルルンが上層から戻ってから三日ほどは仲間たちがシルルンを見張っていたが、シルルンは洞穴から出る気配が全くないので仲間たちも消えた。


「シ、シルルンさんって訓練どころか全く動かないんですね……こ、これじゃあ、奥さんになる人は大変ですね……」


「た、確かにな……強いんだから働いてくれないとな……」


 呆れ顔のポロンの言葉にヘレンも同調して頷いた。


「何を言ってるんだお前らは? シルルンはここのオーナーなんだから働かなくてもいい身分なんだよ」


 スコットはしたり顔で言った。


 彼らはワーゼが戻ってきていないか確認するために狩りに出た後、シルルンの部屋に寄っているのだが、シルルンは毎日、飲んだくれてゴロゴロしているだけだった。


「そ、そういえばそうだったな……」


 ヘレンとポロンは顔を見合わせて苦笑した。


「それにしてもだ……ワーゼはいつになったら戻ってくるんだ?」


「ワーゼが戻ってきたらここから離れるのか?」


 ヘレンは探るような眼差しをスコットに向けた。


「いや、その気はない。ここはいい狩場だしガダンさんの店の武具は安くて高品質だからな」


「それは言えるな……この鋼のナックルは十万で売ってるからな」


「だよなぁ……俺の鋼の剣も十万だ」  


 一般的に鋼の剣や鋼のナックルは通常品質で五十万円が相場で、高品質となると上をいえばキリがないが二百万円ほどが相場だ。


 だが、ガダンは高品質の鋼の武器を十万円で売っていた。


「こんな値段で儲けが出るのかと心配になるよ」


「ここのポイントから出た鉄を材料にしてるから安くできるとガダンさんは言ってたわ」


「なるほどな……それでどうなんだ? 魔物使いになって良かったのか?」


「もちろん、この子たちもいるし魔物使いになれて嬉しいけど、正直、厳しいというのが本音……」


 ボロンは複雑そうな表情を浮かべている。


 彼女の傍にはレッサー スパイダーが八匹とレッサー ラットが二匹いて、彼女が魔物使いに転職できたのはガダンに頼み込んで転移の魔法陣でトーナの街に連れて行ってもらえたからだった。


「だが、スパイダー種が八匹もいるんだ。うまく育ててハイ スパイダーに進化させれれば強力な戦力になるんじゃないか?」


「……うん、それは分かってる。この拠点を護ってる魔物にオティーニルというハイ スパイダーがいるけどすごく強かった。けど、この子たちは戦闘向きじゃないのよ……」


 ポロンは顔を顰めた。


 彼女は狩場でペットたちに攻撃しろと命令するがペットたちは動かなかった。


 だが、彼女が襲われそうになるとペットたちはポロンを護るのだ。


 その理由はポロンがペットたちをテイムしていないからだ。


 司祭だった彼女が独力で成長するには、知識や経験が全く足りなかった。


「だったら、新しく魔物をテイムするしかないんじゃないか?」


「うん……だからホフマイスターさんに頼んで魔物使いを紹介してもらおうかと考えているのよ」


「あぁ、それはいいな。今から行ってみるか?」


「うん」


 ポロンたちがシルルンの個室から出て行くと、入れ替わりにメイが部屋に入ってきた。


 部屋の中はペットたちが暴れて散らかり放題で、メイが毎日のように片づけをしていた。


 メイは散らかった物を片付けていくと自身を見つめる視線を感じるが、気にすることなく作業を続ける。


 その視線の主は床にあいた穴から少しだけ顔を出して、メイをじーっと見つめていた。


 うさポンである。


 メイが気にしないで作業を続けているとうさポンは穴から出てきてシルルンに近づき、魔法の袋の中に自身のモフモフから取り出した何かをせっせと入れている。


 しばらくするとうさポンは穴の中に戻っていった。


「……ふぅ、やっと逃げなくなりました」


 メイの顔に微笑が浮かんだ。


 彼女はうさポンのあまりの可愛さに心奪われたのだ。


 無論、女たちのほとんどが彼女と同様に心を奪われていたが、うさポンはビビリですぐに逃げ出すのだ。


 メイはどの様に接したらいいのか見当もつかず、シルルンに相談した。


 すると、「うさポンはビビリだから、まずは目を合わせるな」という助言をシルルンから聞き、彼女はシルルンが上層から帰還してからずっと実践していた。


「……うさポンちゃんはシルルン様の魔法の袋に何を入れているのでしょうか?」


 そう呟いたメイは床にあいた穴を一瞥して、部屋を後にしたのだった。


 翌日、シルルンはムクリと起き上がった。


 彼は一週間ほど飲んだくれていたが、それは『叛逆』に目覚めた激しい疲労が原因なのだが、そんなことは誰も知らない。


「ん~、なんだか頭がスッキリしたような気がするよ」


 シルルンは辺りを見回してみるとブラックは椅子に腰掛けて酒を飲みながら本を読んでおり、テーブルの上でダイヤとザラも酒を飲んでいるようだった。


「おはようデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニが何かをムシャムシャ食べながら言った。


「うん、おはよう」


 プルとプニは頻繁に『触手』をテーブルのほうに伸ばして何かを掴み、ムシャムシャと食べている。


「マーニャたちはいないようだね……あれ? うさポンとシーラもいないね?」


「うさポンとシーラは穴の中にいるデス!!」


「穴?」


 シルルンは怪訝な顔をした。


「ここデス!!」


 シルルンはプルの後についていくと、テーブルの横に一メートルほどの大穴があいていた。


「ひぃいいぃ!? なんでこんな大穴があいてるんだよ!?」


「プルがあけたデス!!」


 プルは自信満々に言った。


「えっ!? なんでプルが穴をあけたの?」


「うさポンがずっと穴を掘ってたからデス!! でもうさポンは穴を全然掘れなかったデス!! だからプルがマスターに穴をあけてもいいデスか? って聞いたらマスターはあけていいって言ったデス!!」


「デシデシ!!」


 プルとプニは頬っぺたを膨らませて抗議した。


「えっ!? 僕ちゃんが……? まぁ、兎は穴を掘りたがる習性だからね……」


 (……う~ん、帰還してから今日までの記憶が曖昧なんだよね)


 シルルンは大穴を覗き込んでみると、傾斜は緩やかだが長く掘られているようでどこまで掘られているのか全く分からなかった。


 プルとプニは穴の中に『触手』を突っ込んで、何かを掴んでムシャムシャと食べている。


「……さっきからプルとプニは何を食べてるの?」


 シルルンは訝しげな顔した。


「これデス!! この茸デス!!」


 プルは『触手』で掴んだ茸をシルルンに見せた。


「えっ!? 茸を食べてるの!? でも何で穴の中に茸があるんだろう?」


「うさポンが茸を育ててるデス!!」


「デシデシ!!」


「ん……? そういえばうさポンが淡く輝く真っ白な茸を僕ちゃんに渡そうとしてたような……」


 シルルンは複雑そうな表情を浮かべている。


 うさポンは秘宝である淡く輝く真っ白な茸を、シルルンに献上しようとしたが、飲んだくれていたシルルンはそれを丁重に断ったのだ。


「マスターも茸を食べるデスか? この茸はおいしいデス!!」


 プルとプニは『触手』を伸ばして大穴に突っ込み、茸を取ってはムシャムシャと食べている。


「い、いや、僕ちゃんはいいよ。けど、そんなに食べたら茸がなくなるんじゃないの?」


「いっぱいあるからうさポンが食べてもいいって言ってるデス!!」


「この黄茸を食べると少しの間、少しだけ素早さが速くなるデシ!!」


「えっ!?」


 その言葉に、シルルンは耳を疑った。


「プルの素早さは百八十デシ!! でもこの黄茸を食べると百九十八になるんデシ!!」


「マ、マジで!? 数値としては十パーセントか……でもすげぇ茸だよ!!」


 シルルンは嬉しそうな顔をした。


「色の濃い茸はもっと素早さが上がるデシ!!」


「えっ!?」


 シルルンは絶句して身じろぎもしない。


「でも、色の濃い茸はうさポンがあんまり食べたらダメって言ってるデス」


「……たぶん色の濃い茸はレアなんだろうね。ちょっと来てブラック!!」


「どうされた主君?」


 すぐにブラックはシルルンの傍にやってきた。


「うさポンが穴の中でステータスが上がる茸を作ってるみたいだから調べてみたいんだよ」


「ほう、なかなかやるではないか……」


 シルルンはブラックに乗るとプルとプニがシルルンの肩に跳びのり、シルルンたちは穴の中に突入した。


「ライトデス!!」


「ライトデシ!!」


 プルとプニがライトの魔法を唱えて、二つの光の玉が出現し、洞穴内部を照らした。


 洞穴内は入り口よりも大きく掘られており、道幅と高さは三メートルほどもあった。


「へぇ、すぐに茸が生えてるんだね」


 洞穴には色の薄い黄茸がびっしりと生えており、宙に浮いて『飛行』するブラックはゆっくりと進んでいく。


 道は真っ直ぐに緩やかな傾斜が続いていたが左に曲がり始めた。


「螺旋に掘られているみたいだね……それにしてもこれほどの規模の洞穴をよくうさポンとシーラで掘ったものだよ」


「違うデス!! プルとプニがうさポンを手伝ったデス!!」


「デシデシ!!」


「あはは、そうなんだ」


 シルルンはプルとプニの頭を優しく撫でる。


 プルとプニはとても嬉しそうだ。


「ん? なんか緑茸が交ざってる!! レアなんじゃないの!?」


 ブラックから身を乗り出したシルルンは、通り過ぎていく緑茸を凝視している。


「違うデス。もうちょっと進むと緑茸がいっぱいあるデス!!」


「えっ!? マジで!?」


「緑茸は少しの間、少しだけ守備力が上がるデシ!!」


「なっ!? 守備力が上がる茸も生えてるのかよ!?」


 シルルンはあまりの出来事に放心状態に陥った。


 しばらく進むとプルが言ったように黄茸が次第に緑茸に変わっていった。


「すげぇなこれは……こうなると攻撃力が上がる茸があることを期待してしまう……」


「赤茸が攻撃力が上がるデシよ」


「やっぱあるのかよ!?」


 その言葉に、シルルンは歓喜の表情を浮かべた。


「主君、少しスピードを上げますぞ!!」


「うん」


 ブラックは速度を上げて螺旋の道を進んでいき、洞穴に生える茸は緑から赤に変わり、螺旋の道は広大な空間へと繋がっていた。


「マジかよ!? この広い空間の壁一面が茸だらけだよ!!」


 (どこかにうさポンたちがいるはずだけど、どこかな?)


 シルルンは辺りを見渡した。


 するとシーラは魔物と戦っており、部屋の中央にいたうさポンは淡く輝く真っ白な茸に覆い被さって身を挺して護っていた。


 地面から無数にニョキニョキと出現するレッサー アースワームに対して、シーラは大顎で攻撃してレッサー アースワームの身体を分断するが、レッサー アースワームは身体を分断されても平気で動いており、シーラに襲い掛かっている。


 別の場所ではレッサー センチピードが大量に出現してエメラルド色のアメーバと戦いを繰り広げており、さらにレッサー アースワームやレッサー センチピードがあけた地中の穴から、大量のレッサー ラットやレッサーアントが出現して茸を食い漁っていた。


 だが、小さいスライムと純白の騎士がレッサー ラットやレッサーアントを攻撃している。


「エメラリー!! それにプルル、プニニ、トントン!!」


 シルルンは血相を変えて、声を張り上げた。


「ぬう、雑魚が大量に湧いておるわ!!」


「ここにはいっぱい魔物が出るデス!!」


「デシデシ!!」


「えっ!? 知ってたの!?」


 シルルンは驚いたような顔をした。


「プルとプニもここで戦ってるデス!!」


「デシデシ!!」


「……僕ちゃんが寝てる間にこんなことになってるなんて……早くなんとかしないと……」


「フフッ……それなら私が仲間を連れてくるわよ?」


「うん、さすがラーネ!! 僕ちゃんもそれが一番早いと思うよ。じゃあ、ターコイズとアメーバたちを連れてきてよ」


「分かったわ」


 ラーネは『瞬間移動』で掻き消えて、シルルンたちはうさポンの元に飛来した。


「……ポンッ!?」


 うさポンはシルルンの姿を視認し、嬉しそうに瞳を輝かせてシルルンの胸に飛び込んだ。


「あはは、よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」


 シルルンはうさポンの頭を優しく撫でる。


 うさポンはとても嬉しそうだ。


 しばらくするとラーネが、ターコイズと五十匹ほどのアメーバたちと共に姿を現した。


「魔物の群れを攻撃。死体は食べていいからね」


 ターコイズとアメーバたちは嬉しそうに頷いて一斉に魔物の群れに襲い掛かり、魔物の群れは急速に数を減らしていく。


 所詮、下位種の群れなどターコイズとアメーバたちの敵ではないのだ。


 しばらくすると魔物の群れは殲滅され、ターコイズとアメーバたちが嬉しそうに死体を『捕食』している。


「来てくれたんですねシルルンさん!!」


 シーラやエメラリー、プルル、プニニとトントンがシルルンの元に歩いてきた。


「うん、遅れてゴメン」


「えへへ、それはいいですけど魔物の群れは頻繁にやってくるんですよ」


「大量の茸があるから匂いとかで集まってくるんだろね。でも、ターコイズたちにここを護ってもらうから大丈夫だと思うよ」


「それなら安心ですね。これで私とうさポンちゃんは茸の育成に集中できますよ」


「茸の育成? あ、そうか!? そういえばうさポンは『栽培』と『キノコ栽培』、シーラも『栽培』を持ってたよね……」


 シルルンは難しそうな顔をした。


 彼は農業に興味はなく、農業で金を稼ぐつもりもなかったので軽視していたが、多様な能力の重要性を再確認したのだった。


「……この青茸は初めて見るデシ!!」


 プニは青茸を興味津々に見つめている。


「あはは、プニは研究熱心だね」


「こっちには紫や白や黒の茸もあるデス!!」


「――っ!? どこデシか!?」


 プニは慌ててプルの元に駆け出した。


「ここデス!!」


「本当デシ!! すごいデシ!!」 


「まぁ、おそらく色で効果が違うんだろうね」


「プニもそう思うデシ!!」


「それに色の濃い茸もあるから検証には骨が折れそうだよ……まぁ、ここにいても仕方ないからいったん部屋に戻るよ」


 こうして、シルルンたちは『瞬間移動』でシルルンの個室に帰還したのだった。 


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[気になる点] >ポロンが魔物使いに転職できたのはガダンに頼み込んで転移の魔法陣でトーナの街に連れて行ってもらえたからだった。 ガダンが食料や物資を輸送する以外で「転移の魔法陣」を使うのはどうなんだ…
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