152 拠点への帰還
冒険者風の装備で身を包んだ50人ほどの集団が2つあり、その集団が石で作られた巨大な建物に入っていった。
中に入ったほとんどの者達は休憩室に直行するが、内、2人は別の部屋に向かい扉をノックした。
「入れ」
「失礼します」
2人が中に入ると6人の男達がテーブルを囲んで談笑していた。
「西の状況はどうだ?」
「異常はありませんね。魔物は防壁に近づくことすらできない状況です」
総指揮官であるホフマイスターが、西の防壁の防衛から帰還した採取隊の隊長の1人に尋ねた。
「そうか、冒険者達とも上手くやってほしい」
冒険者とはシルルンがスラッグに依頼して連れてきた200名のことである。
「彼らが来てくれたおかげで我々も楽になりましたよ」
そう言って2人の隊長も空いている椅子に腰掛けた。
「問題は南だな……」
ホフマイスターは顔を顰めて俯いた。
「いやいや、南は無理でしょう……そもそも南は監視だけですし」
「だが、シャイン、ビークスが突破された時のことを総指揮官は懸念されておるのだ」
「そもそも、今は最悪な状況だ。タイガー種に勝てるシルルン様は不在でミニ隊も行方不明だからな」
「……」
場は重苦しい空気に包まれた。
「……いや、マル殿がいる。マル殿はシャイン殿とビークス殿と並ぶ将の列に加わったからな」
「あのでかいピカピカのダンゴムシか……」
「でかいだけだと思ってたぜ」
「しかし、どのくらい強いのか分からないから現状ではシルルン様のお仲間に頼るしかないだろうな……上層からシルルン様がお戻りになられればタイガー種を討伐する話があがっているがそれまで何事もなければいいが……」
「攻めてくるとしたら縄張りをもたない上位種ですぜ。そんなのにシャイン、ビークスが負けるとは思えませんがね」
彼がそう言い切るのはシャインとビークスがハイ タイガーと戦っているのを見たことがあるからだ。
その戦いは一方的でまるで相手になっていなかったのだ。
これまでに攻めてきたタイガー種はかなりの数になるが、その全てをシャインとビークスは倒していた。
拠点の中にはハイ タイガーの毛皮が何枚も敷かれており、解体されたハイ タイガーの肉はとても美味で女雑用達の楽しみの一つであり、シャインの人気は鰻上りだった。
だが、ビークスが南の防壁の護りについてから、その肉はビークスが食っていた。
これにより、ビークスは常時涎を垂れ流しているので、彼にいつ食われてもおかしくはないので皆に恐れられているが、さらに女雑用達に嫌われたのだった。
「……俺が危惧しているのはタイガー種が群れで押し寄せた時のことだ。無いとは言い切れんからな……」
「そ、それは……」
隊長達のほとんどが言葉を詰まらせた。
「それにだ、今は西も安定した狩場になっているが、忘れてはならないのが上層に繋がるルートがすぐ傍にあることだ。どのような強敵が下りてきても不思議ではない」
「そ、そこまで想定しているのですか……」
「無論、シルルン様がおられれば、ここまで想定する必要はないが今はご不在だ……考えねばならんだろう」
「な、なんだと!?」
唐突に隊長の1人が険しい表情で声を張り上げた。
「どうした!? 何かあったのか!?」
場にいる全員の視線が男に集中する。
「部下が『精神感応』で魔物の出現を知らせてきた」
彼の隊は偵察が任務であり、部下達は拠点に近づく者を事前に知るために四方に散って監視しているのだ。
「どんな魔物だ?」
隊長の1人が訝しげな顔で言った。
「ド、ドラゴンだ……」
「ば、馬鹿なっ!?」
隊長達は思わず立ち上がり、絶句した。
「し、しかも3匹だ……それだけでも信じがたいがハイ スタッグ ビートルも2匹いるらしい……」
「なっ!?」
隊長達に戦慄が駆け抜ける。
「場所は西だ……総指揮官の懸念が的中したことになる……私は現場に急行するのでこれで失礼する」
偵察隊隊長は慌しく部屋から出て行った。
残された隊長達は神妙な表情で立ったまま、ホフマイスターを見つめている。
「全軍直ちに装備を整えて西に集結せよ!! 休んでいる隊も含めて全員だ!!」
「はっ!!」
隊長たちは弾かれたように部屋から出て行った。
現在の採取隊の総兵力は国内を回っていた者達と合流して1300名に膨れ上がっているのだ。
「……ここが正念場だな」
ホフマイスターは酷く神妙な顔でアダマンタイトボウを強く握り締めた。
部屋から退出したホフマイスターは足早に建物から外に出た。
この建物はガダンがシルルンの許可を得て拠点の中央に建てたのだ。
名前は採取ギルドと命名された。
「血相を変えてどうしたのだホフマイスターよ?」
「ガ、ガダン様……」
採取ギルドを出たところで、ガダンに声を掛けられたホフマイスターは言葉に詰まる。
「……西にドラゴンが出現したらしいのです」
ホフマイスターは躊躇いがちに言った。
「な、なんじゃと!?」
ガタンの顔が驚愕に染まった。
「ですので、どうかガダン様は洞穴の中にて動かないでいて下さい。私は急ぎますのでこれで……」
身を翻したホフマイスターは西に向かって足早に歩き出した。
「ま、待て待てっ!! 儂も行く!!」
一転して目を輝かせたガタンがホフマイスターと並んで歩く。
主人であるガダンの決定に異を唱えることはできず、ホフマイスターはため息をついた。
「場所が西ということは上層から下りてきたということか……つまり、上層にはドラゴンの縄張りがあると推測できる……行ってみたいものじゃな……」
ガダンは子供のように屈託の無い笑みを浮かべた。
「そんなところに行けば誰も戻ってこれませんよ……しかし、シルルン様がご不在の時によりによってドラゴンが出現するとは……」
「だからこそよ」
「……というと?」
「考え得る可能性で一番高いのが、そのドラゴンは王のペットだということだ」
ガダンは自信満々に言った。
「……そ、それはいくらなんでも飛躍し過ぎかと。ドラゴンは3匹いるらしいですからね」
「ぬおっ!? 3匹もいるのか……さすがは王じゃな……」
全くブレないガダンにホフマイスターは軽く目を見張った。
ホフマイスターとガダンは西の防壁に到着し、防壁の階段を上がって防壁の上から辺りを観察する。
「うぁあああああああああぁぁぁあああああああぁぁぁ!?」
「な、なんでこんなところにドラゴンが出現するんだよ!?」
「か、稼げる狩場だと思ってたらこんな落とし穴があったのか!?」
「は、早く上がれよ!! ぐずぐずするなっ!?」
西の方角から多数の冒険者が必死の形相で防壁を目指して全力で駆けて来る。
冒険者達は防壁の上から垂れているロープを必死で掴んでよじ登っているのだ。
「どういう状況だ?」
ホフマイスターは偵察隊隊長に探るような眼差しを向ける。
「はい、今しがた上層から下りてきたところです。西か南に移動してくれれば良いのですが……」
険しい表情でそう話した偵察隊隊長は再び、視線をドラゴンがいる方向に戻した。
「ぬう……」
つられてホフマイスターとガダンもドラゴンがいる方向に視線を向けた。
「ほう、見事なドラゴンじゃ!! だが2種類いるな……」
「おそらく2匹いるほうがワイバーン種だと思います」
「なら緑色のドラゴンが正真正銘のドラゴンなんじゃな……とうとうドラゴンを従えるとはさすが王じゃ」
ガダンは緑色のドラゴンを見つめていやに感心した顔つきで言った。
「……従えるとはどういう意味なんですか?」
偵察隊隊長が訝しげな顔でホフマイスターに尋ねた。
「ガダン様はあのドラゴンがシルルン様のペットだとお考えなのだ。無論、確証はないがな……」
「なるほど……一理ある。私もなぜドラゴンがいきなり現れたのか考えていたのですが明確な答えに辿り着いていませんからね」
「しかし、飛躍し過ぎだと思わないか? ドラゴンが3匹にハイ スタッグ ビートル2匹だぞ?」
「もちろん思いますよ。だから一理です」
「くくくっ、お主らは分かっておらぬな。この鉱山の中層にドラゴンが頻繁に現れるとは聞いたことがないじゃろう? それにドラゴンが頻繁に現れるならタイガー種が滅ぼされていないのも不思議だと思わんか?」
「ですが、それらについてはここは東のほうなので単に目撃者が少ないからとも言えますし、タイガー種とは盟約を交わしているのかもしれません」
「むう……」
両者の意見を聞いたホフマイスターはうなり声を上げた。
「お前は全く分かっておらぬ。お前の言は推測の類だが儂のは現状のことを言うておる。要するに王はシャイン、ビークス、ドーラというとんでもない化け物を従えておる。そこにあの5匹が加わったとしても何の疑問もないじゃろう。そう思わんか?」
「確かにシルルン様なら可能だと思いますが、だったらなぜシルルン様の姿が見えないのです?」
「それは分からん。だが、儂が言いたいのは王ならあの5匹を従えることは可能だということじゃ。それを認めた上で考えてみろ」
「なるほど……ドラゴンの出現など聞いたことがない場所にたまたまドラゴンが出現したと考えるか、あるいは上層に出向いているシルルン様があの5匹を従えて帰ってきたと考えるかということですか……」
「ぬう、確かにそう言われるとシルルン様が従えているように思えてしまう……」
ホフマイスターはひどく神妙な顔つきを浮かべている。
「うぁあああぁぁぁ!?」
「こっちに来やがった!?」
「ひぃいいいいぃい!? は、早く登れよ!!」
パニックに陥った冒険者達がロープを奪い合い、防壁に登りきった者達がホフマイスター達の横を通り抜けて防壁の階段を駆け下りていく。
「ドラゴンが現れたのは本当なの!?」
そこにリザが駆けつけ、仲間達も次々と防壁の上に駆け上がってくる。
「……すぐそこまで来てます」
リザの問いにホフマイスターが答え、ドラゴン達を目の当たりにしたリザ達は息を呑んだ。
「ここは通さないの!!」
リザ達と一緒に来ていたマルが防壁を跳び下りて大地に下り立った。
「どけっ!! 虫に用はない!!」
マルと対峙する緑色のドラゴンが人族語で言った。
「しゃ、喋った!?」
その場にいる全員が驚きのあまりに血相を変える。
「おおっ!? あのドラゴンは話せるのか!!」
ドラゴン好きのガダンは興奮して鼻息が荒い。
「ダメなの!! 通さないの!!」
5匹を前にマルは全く引かなかった。
「さっきも言ったが虫に用はない。ここに金色の狼がいるだろう。どこにいる?」
「我ならここにいる。龍族が何の用だ?」
防壁を駆けて来たシャインとビークスが防壁から跳び下りて、マルの横に並び立ち、シャイン達とドラゴン達が対峙する。
「あは、これで3対5!! こっちも負けてない!!」
「しかし、これだけの魔物が揃うとすごい迫力だな……」
アキが不敵に笑い、ロシェールが呆れ顔で言った。
「俺と差しで勝負する度胸はあるか?」
「無論だ」
シャインはゆっくりと歩き出し、緑色のドラゴンの前で足を止めて睨み合う。
だが、上層から下りてきた魔物の群れが3つあり、1つは西へ、もう1つは南へ向かったが、残りの1つはこっちに向かって突っ込んできた。
「ぬう、このような場面で攻めてくるとは空気が読めないにもほどがある……」
「どうしますか? 採取隊はいつでも出れますよ」
偵察隊の隊長が探るような眼差しをホフマイスターに向ける。
すでに防壁の下には採取隊の全軍が集結しているのだ。
「あの魔物の群れがドラゴン達に攻撃を仕掛けてくれるのを期待したが、どうやら狙いはこちららしい」
突っ込んでくる魔物の群れ200匹ほどは、ドラゴン達の背後ではなくそこから逸れたルートを進んでおり、防壁を目指していることは明白だった。
しかし、上空から凄まじい速さで200匹ほどの魔物の群れが飛来し、防壁に目掛けて突っ込んでくる魔物の群れに襲い掛かった。
瞬く間に魔物の群れは身体をバラバラに切断されて全滅し、血飛沫が上がって周辺は真っ赤な霧に包まれた。
「なっ!?」
仲間達は驚きのあまりに血相を変える。
「う、嘘でしょ!? あのスタッグ ビートルの群れもドラゴン達の仲間なの!?」
リザの顔が驚愕に染まる。
2匹のハイ スタッグ ビートルの後ろにスタッグ ビートルの群れが並んだからだ。
だが、そんなことは意に介さず、シャインと緑色のドラゴンは睨み合っていたが、不意に緑色のドラゴンがハイ スタッグ ビートルの方に顔を向けた。
「先にハイ ビートルと戦わせろとこっちのハイ スタッグ ビートルが言っている」
「望むところよ!!」
ビークスが受けて立ち、前に進み出るとハイ スタッグ ビートルが凄まじい速さでビークスに目掛けて突撃した。
両者は凄まじい速さで激突したが、ビークスの頭角の一撃をハイ スタッグ ビートルは大顎で挟んで受け止めた。
ビークスはハイ スタッグ ビートルを持ち上げようと頭角に力を込めるがビクともせず、ハイ スタッグ ビートルもビークスを大顎で持ち上げようとしたがビクともせず、両者の力は互角だった。
弾かれたように離れた両者は互いにエクスプロージョンの魔法を唱えて、攻撃するが再び激突して頭角と大顎が幾度もぶつかり合うが、唐突にビークスが動かなくなる。
「なっ!? ビークスが石化した!?」
仲間達は驚きのあまりに血相を変える。
この結果に緑色のドラゴンは不服そうな視線をハイ スタッグ ビートルに向けており、シャインは訝しげな表情を浮かべた。
「そういうことか……この戦いはお前達が勝手にやっていることなんだな」
「な、なんのことだ?」
「お前はキルにやりすぎだと思念で言ったが、その思念は我らにも伝わっているんだぞ」
「なっ!?」
緑色のドラゴンは雷に打たれたように顔色を変える。
「くくく、やはり王のペットだったようじゃな……」
ガダンは満足そうに頷き、ホフマイスターと偵察隊の隊長は絶句したのだった。
「ただいま~!! あれ? なんでビークスが石化してるの?」
そこに大量のアメーバとペット達を引き連れたシルルンが姿を見せたが、シルルンは石化したビークスを呆気にとられた表情で見つめている。
アメーバ達は嬉しそうにバラバラになった死体を『捕食』している。
「えっ!? なんでシルルンが!? どういうことなの!?」
リザは戸惑うような表情を浮かべており、それは仲間達も同様だった。
「も、申し訳ありません……つい出来心で……」
キルは素直に謝罪し、うさポンは石化したビークスに紫の果物を前脚で搾って汁をかけ、ビークスは石化から回復し、戸惑うよな表情を浮かべている。
「えっ!? どういうこと?」
「このドラゴン達が我らに戦いを挑んできて、ビークスとキルが戦った結果なのです」
「あぁ、僕ちゃんがシャインが強いと言ったからか……」
シルルンはウサポンの頭を撫でながら苦笑した。
「まぁ、とりあえず、拠点の中に入るよ」
そう言ってシルルンは跳躍して一気に防壁の上に跳びのり、ペット達もシルルンを追いかけて次々と防壁を登る。
「ちょっとシルルン!! あの魔物達はシルルンのペットなの!?」
血相を変えたリザが魔物の群れを指差してシルルンに尋ねた。
「うん、そうだよ」
「なっ!?」
仲間達はガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
シルルンは防壁の階段を下りていき、洞穴の方に歩きながら、「この防壁の中は僕ちゃんの縄張りだから楽にしてていいよ」とペット達に思念で伝えるとペット達は辺りを探索し始めた。
何の説明もなしに拠点内にドラゴン率いる魔物の群れが押し寄せて、冒険者達が大パニックに陥ったのは言うまでもない。
「シルルン……あんたシャツが血塗れじゃない!? それにプルとプニとブラックはどうしたのよ?」
リザはシルルンの横に並んで歩き、怪訝な表情を浮かべている。
「それについてはご飯でも食べながら話すよ」
一瞬、暗い顔になって立ち止まったシルルンがそう答えて、再び歩き出し、シルルン達は洞穴の中に入った。
「おかえり!!」
「オーナーおかえりなさい!!」
「オーナーが戻ったわよ!!」
久々に戻ったシルルンに掘り手の男達や雑用の女達が陽気に声を掛けた。
シルルンは満足そうな笑みを浮かべながら、食堂の空いているテーブルについた。
「シルルン様、おかえりなさいませ」
メイとセーナが満面の笑みを浮かべており 仲間たちも空いている席に座った。
「うん、ただいま。じゃあ、何があったか説明するよ」
シルルンは上層で起きたことを仲間達に端的に話したが、仲間達は絶句したのだった。
「だからプル達を取り戻すためにマジクリーン王国に行こうと思うんだよ。あそこは海の魔物が多いから湖を探れる魔物がいると思うからね」
「……だったら今度こそ、私達もついていくわよ」
リザの言葉に仲間達も頷いた。
「いや、今回はドラゴンの背に乗って空から行くつもりなんだよね。来たいなら僕ちゃんがマジクリーンに到着してから来るといいよ」
「……」
意味が分からない仲間達は怪訝な顔をした。
「ラーネがいないから瞬間移動は使えないけど、トーナの街に設置した転移の魔法陣を持っていくつもりなんだよね」
「なるほどね……」
「海の魔物はどんなのがいるのか分からないからどんどんペットにするつもりだけど、いっぱい仲間にしたら連れて帰れないから思いついたんだよね」
「分かったわ。それなら私達もマジクリーンで合流できるから納得よ」
リザの言葉に仲間達も満足げな表情で頷いた。
「じゃあ、明日の朝には到着してどこかの宿に転移の魔法陣を設置できると思うからそれまで待っててよ」
そう言ってシルルンは席を立った。
「えっ!? もう行くの?」
「うん、プル達がどうなっているのか分からないから心配だからね……」
シルルンは踵を返して自室の横に建てた転移の部屋に入り、転移の魔法陣を畳んで魔法の袋に入れた。
「マスターごめんなさい!!」
「ごめんなさいデス!!」
「ごめんなさいデシ!!」
「申し訳ない……」
背後から懐かしい声が聞こえたシルルンは振り返ってみると、そこにはプル達の姿があった。
「えっ!? なんでここにいるの?」
何度も腕で目を擦るシルルンにはプル達の姿が見え続けており、シルルンは呆気にとられた表情を浮かべている。
「ある時を境にスライムアクアのマスターとしての力が弱まったのよ。そして今はマスターが完全にスライムアクアを上回ったことで私達は完全にマスターのペットに戻ったのよ」
「あはは、そうなんだ」
言葉とは裏腹にシルルンの目には涙が浮かんでいた。
「マスター……私達を許してくれるかしら?」
ラーネはすがるような眼差しをシルルンに向ける。
「許すも何も今回のことは僕ちゃんが軽率にスライムアクアをテイムしようとしたのが原因だからね……」
「マスター!!」
ラーネは涙を流しながらシルルンに抱きついて恍惚な表情を浮かべており、プル達もシルルンに抱きついた。
「ど~く~デ~ス!! そこはプルの場所デス!!」
プルは左肩にいるダイヤとシルルンの首の間に体を押し込んで、無理矢理にダイヤを押し出そうとしている。
「あぁ? やんのかコラっ!!」
プルとダイヤは体を押し合って左肩の争奪戦が始まった。
「デシデシ!!」
プニも決死の表情で右肩を奪おうとするが、ザラはあっさりと右肩を空け渡した。
結局、プルとダイヤは左肩のポジション争いで揉めに揉めたが、最終的にはジャンケンでプルが勝利して左肩のポジション争いには決着がつき、あぶれたダイヤとザラはラーネと同じく、プニの口の中に移動した。
こうして、プル達はシルルンの元に戻ったが、プニの口の中にはもう1匹、スライムがいてシルルンを見つめていたのだった。
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