15 ヒーリー将軍 修
A1ポイントにバルレド将軍率いる上級兵士千名が到着した。
この千名の【上級兵士】たちは選りすぐりの集団であり、メローズン王国が誇る最精鋭部隊である。
彼らの装備は赤で統一されており、彼らを率いる指揮官は最上級職で最強の一角である【聖騎士】十名だ。
バルレド将軍と聖騎士たちは一際大きい軍幕の中に入っていったのだった。
「おいおい、精鋭部隊も来てるじゃねぇか。国境の守りは大丈夫なのか?」
「そんだけ、この大穴がヤバイってことだろうよ」
「でもよぉ、今回は味方なんだろ。戦場で出くわしたら俺は真っ先に逃げだすぜ」
「がはははっ!! 全くだ」
最精鋭部隊の出現に傭兵たちは驚きを隠せなかった。
A1ポイントには馬車による運搬で続々と物資が運び込まれており、それから一日が経過して各ルートの偵察隊が帰還した。
最初に帰還したのはA1bルートに進軍した偵察隊だった。
偵察隊隊長は将軍たちに偵察結果を報告した。
「アント種と共存しているのか……」
(他種が作った巣すら取り込む統率力は侮れんな)
主であると推測されるハイ モールに対してドレドラ将軍は戦慄を覚えた。
次に帰還したのはA1cルートに進軍した偵察隊だった。
全滅したと考えられていたのでこれには将軍たちも驚愕した。
帰還した偵察隊の数は十名ほどで、生還した兵士たちは酷くやつれ果てて挙動がおかしく何かに怯えていた。
この偵察隊は隊長が戦死しているので、将軍たちは軍幕から出て生還した兵士たちの元に移動した。
「いったい、何があったんだ?」
ヒーリー将軍は訝しげな表情で兵士たちに尋ねた。
「た、隊長は、お、俺たちを庇って、糞の山になった……」
恐怖に顔を歪めて震えている兵士は小さな音にも敏感に反応して戦々恐々としている。
「どういう意味なんだ?」
ヒーリー将軍は困惑した表情を浮かべている。
「これでは話になりませんな。【司祭】を呼びましょう」
ヒーリー将軍の側近は【司祭】を召集した。
司祭はトランクィライズ(鎮静化)の魔法を唱えて、兵士たちは落ち着きを取り戻した。
そして彼らは事の顛末を語りだしたのだった。
「便所とヘドロ種か……それは厄介だな……デアウドーリゼーション(消臭)の魔法で臭いを消して、攻撃魔法で攻撃するしかないか」
ドレドラ将軍は深刻な表情を浮かべている。
「今戦わずとも主を倒してからでも遅くはないと思いますが……」
「そのほうがよさそうだな……」
ヒーリー将軍の言葉に、ドレドラ将軍は同意を示して頷いた。
最後に帰還したのはA1aルートに進軍した偵察隊で、偵察隊隊長から将軍たちは報告を受けた。
「……食料庫だと」
ヒーリー将軍は憤怒の形相を浮かべており、ドレドラ将軍とバルレド将軍の全身からは凄まじい殺気が噴出していた。
さらに、回収した遺品を調べると頭蓋骨の数だけでも四百を超えていた。
将軍たちは主の討伐が終わり次第、一つ残らず部屋を占領して魔物を皆殺しにすると心に誓ったのだった。
これらの情報を検討した結果、将軍たちは深度が一番深いアント種の部屋に進軍することが決定して軍議は終了した。
進軍する将軍や冒険者
ヒーリー将軍 兵士 千名
ドレドラ将軍 兵士 六百名
ベル大尉 上級兵士 百名
工兵隊 百名
冒険者や傭兵 九百名
A1ポイント防衛
バルレド将軍 上級兵士 九百名
兵士 三百名
冒険者や傭兵 百名
注、無理矢理、側面図で描いているので実際の位置とは異なる
ヒーリー将軍は部隊を率いて進軍し、五十キロメートル地点で部屋を発見して部屋の中に突入した。
部屋の広さは直径一キロメートルほどもあり、これまでに発見された部屋の中では最大規模だが魔物の姿はなかった。
「五十人編成の部隊を十組編成して、部屋の出入り口を半包囲するように包囲陣を構築させろ」
ヒーリー将軍は側近に指示を出した。
側近は即座に部隊を編成して、包囲陣を展開させた。
ヒーリー将軍は本陣として百名の兵士と共に包囲内の真ん中に布陣しており、その後方には弓兵百名が待機していた。
即座に鉄板を抱えた工兵隊百名が包囲内に突入して、鉄板を地面に敷き詰めていく。
この鉄板の四隅にはボルト固定用の穴があいており、四隅にボルト固定用の穴があいた小さな四角いプレートを使用して鉄板を連結させている。
この作業は包囲内が完了すると、洞穴の地面にも行われた。
作業終了と同時に、ドレドラ将軍が兵士五百名を率いて進軍を開始した。
ドレドラ将軍率いる部隊が包囲陣を抜けてしばらく進軍すると、レッサー アントの群れと遭遇した。
数は十匹ほどだ。
レッサー アントの全長は一メートルほどで『毒牙』『以心伝心』を所持しており、体を覆う殻は硬い。
『以心伝心』は、この能力を所持している者同士で、意思の疎通が可能になる能力である。
兵士たちは即座にレッサー アントの群れを殲滅した。
だが、それを感知したかのようにアント種の大群が現れて、兵士たちに向かって一斉に襲い掛かった。
その数は千匹を軽く超える。
「全軍後退だ!! まともに受けずに流しながら後退せよ!!」
ドレドラ将軍は号令を掛けた。
兵士たちはアント種の突撃を正面から受けず、斜め後ろに後退しながら包囲陣まで誘導した。
アント種の前衛は三百匹ほどのアントで固められており、その全長は二メートルを超えている。
ドレドラ将軍の部隊を突破したアントの群れは、包囲陣に目掛けて一斉に突進した。
「うわぁあああぁぁあああああああぁぁ!!」
「ぎゃぁああああぁぁああああぁぁぁ!!」
アントの群れの突撃をまともに受けた正面の包囲陣が弾け飛び、包囲陣を形成する三部隊が崩壊寸前に陥った。
「なんて破壊力なの……兵士二百で包囲陣の正面を修復させよ!!」
表情を強張らせたヒーリー将軍は側近に指示を出す。
側近は即座に斥候を飛ばし、洞穴から二百名の兵士が包囲陣の正面に駆けつけて包囲陣は修復される。
包囲陣を攻撃するアント種の群れに対して、ドレドラ将軍率いる部隊はアント種の群れの側面に回って攻撃を仕掛けた。
だが、包囲陣に押し寄せるアント種の群れは横に広がり始めて、部屋の壁にまで到達した。
アント種の群れは壁から包囲内に次々と進入し、天井にも駆け上がる。
包囲内に進入したアント種の群れは兵士たちの背後から襲い掛かり、兵士たちは前後から挟撃されて混乱状態に陥った。
「壁からの進入を許すなっ!! 背後に回られるぞ!!」
弓兵たちは一斉に矢を放ち、無数の矢が天井を駆けるアント種の群れや、包囲内に進入するアント種の群れに突き刺さったが、刺さるだけで致命傷には至らない。
天井を駆けるアント種の群れは、兵士たちに狙いを定めて一斉にダイブした。
「ぎゃああああぁぁああああああぁぁ!!」
「うぁあああぁぁあああぁぁ!!」
「がぁああああぁぁあああああああぁぁぁ!!」
アント種たちに圧殺された兵士たちの絶叫が折り重なる。
レッサー アントの体重は百キログラムを超えており、アントの体重は五百キログラムを超えるのだ。
そんなものが三十メートルほどの高さから直撃すれば、【兵士】といえども一溜まりもなかった。
「……お、おい、これはヤバイんじゃねえか?」
「で、どうすんだ?」
「いや、ここはしばらく様子見だな……」
「だよなぁ」
洞穴から戦いを静観している傭兵たちに動く気配はない。
「壁から来るのを食い止めるぞ!!」
「俺たちも行くぞっ! 上に気をつけろ!!」
「続けっ!!」
だが、冒険者たちは包囲内に一斉に突撃した。
彼らは右壁と左壁に分かれて【弓使い】【弓豪】【魔法使い】【魔法師】が、壁から包囲内に進入するアント種の群れに矢と魔法攻撃を放った。
その破壊力は凄まじく、矢はアント種たちの体を貫き、炎がアント種たちの体を焼いて、アント種の群れは次々に地面に転がった。
冒険者たちの矢がアント種の体を貫いたのは単に矢の違いだ。
弓兵が使用する矢は木製だが、冒険者たちは鉄以上の矢を使用しているからだ。
地面に落とされたアント種たちは、冒険者たちに囲まれて斬り殺されていく。
冒険者たちは壁をよじ登ろうとするアント種たちを集中的に攻撃し、包囲内に進入するアント種たちは激減した。
これにより、兵士たちは混乱から回復して包囲陣は再構築されたのだった。
だが、依然として包囲陣の前にはアント種の大群が押し寄せていた。
負傷した兵士たちが洞穴内に撤退すると洞穴から兵士たちが出撃し、それを繰り返して戦闘を継続していた。
すると、天井を凄まじい速さで駆ける巨体の魔物たちが、包囲陣に目掛けて接近して包囲内に下り立った。
その魔物は上位種のハイ アントだった。
数は三匹だ。
ハイ アントの全長は四メートルを超える巨体なのだ。
ハイ アントたちは本陣の兵士たちに目掛けて一斉に『毒霧』を吐いた。
「うわぁああああぁぁあああああああああああぁぁぁ!!」
「ぎゃああああぁぁああああああぁぁ!!」
「あぐっ……ひぐぅうううぅぅ……」
「ひぐっ、ひぃひぃ、ぐっ……」
緑色の霧に包まれた兵士たちは喉を押さえて地面をのたうち回り、苦悶の声を上げた。
毒を吸い込んだ兵士たちは必死の形相で呼吸を行うが、呼吸できずに次々に地面に突っ伏していく。
「これは神経毒だ!! 僧侶隊に治療させろ」
ヒーリー将軍は側近に命令し、側近は斥候を洞穴に放ち、洞穴から僧侶隊が駆けつける。
僧侶隊はキュアの魔法を唱えて、兵士たちは毒が浄化されて一命を取り留めた。
しかし、その間にもハイ アントたちは暴れまわっており、『毒霧』を浴びた弓兵たちや冒険者たちが続出していた。
そのため、アント種たちが壁や天井から進入するのを食い止めていた弓兵たちや冒険者たちの攻撃の手が止まり、包囲内に進入したアント種たちが本陣に突撃して本陣は混乱を極める。
包囲陣の中に押し寄せるアント種たちは一斉に冒険者たちに襲い掛かる。
「攻撃の手を止めるなっ!! どんどん入ってくるぞっ!!」
「く、くるなっ!!!」
「ぎゃあああああぁぁあああああああぁぁ!!」
「うわぁあああぁぁあああああぁぁぁ!!」
「ひぃいいぃ!! た、助けてくれっ!!」
「い、嫌だぁあああぁぁ!!」
総崩れとなった冒険者たちはアント種たちに捕らえられて食料庫に連れ去られる。
「出撃するぞ」
洞穴から戦いを静観していたベル大尉は不快そうに声を荒げた。
彼女の職業は【聖騎士】である。
「はっ」
【上級兵士】十名は真剣な硬い表情で頷いた。
包囲内に突入したベル大尉たちはハイ アントたちに向かって進軍した。
ハイ アントはベル大尉を視認すると猛然と突撃した。
「お前たちは残りのハイ アントたちを攻撃しろ」
ベル大尉は上級兵士たちに指示を出し、上級兵士たちは二手に分かれてハイ アントたちに突撃した。
ハイ アントは前脚の爪をベル大尉に目掛けて振り下ろしたが、ベル大尉は爪の攻撃を難なく避けた。
ベル大尉は剣を横薙ぎに払ってハイ アントの左前脚を斬り裂いて左前脚が宙に舞う。
ハイ アントは構わずに『毒霧』を吐き、緑色の霧がベル大尉に直撃したように見えたが、ベル大尉は後方に跳躍して緑色の霧を躱していた。
凄まじい速さでに突撃したベル大尉は一瞬でハイ アントの右側面に回り込み、剣の連撃を繰り出してハイ アントの左中脚、左後脚を切断した。
左脚を全て切断されたハイ アントの体が傾いた瞬間、ベル大尉は剣でハイ アントの首を刎ね飛ばし、ハイ アントは胴体から血飛沫を上げた。
だが、それでもハイ アントは体を引きずりながらベル大尉に接近し、右前脚を振り上げた。
「ウインド!!」
ベル大尉はウインドの魔法を唱えて、風の刃がハイ アントの胴体を切り裂いて、胴体から血飛沫が噴出したハイ アントは動かなくなった。
一方、二手に分かれた上級兵士たちは、ハイ アントたちを包囲して斬り刻み、すでに肉片に変えていた。
上級兵士たちに向かってベル大尉が歩いていくと、『毒霧』を浴びて呼吸困難に陥った一人の上級兵士が地面に片膝をついて苦しそうに呼吸していた。
「この者に光の加護をっ!! キュア!!」
ベル大尉はキュアの魔法を唱え、たちどころに毒が浄化された上級兵士は顔色が戻った。
「ありがとうございます」
上級兵士はベル大尉の前で跪いて頭を垂れた。
「蟻など恐るるに足らぬっ!! 立ち向かえ兵士たちよ!!」
ベル大尉は『鼓舞』を発動して声を張り上げた。
「おおぉぉおおおおぉおおおおおおおぉぉ!!」
著しく低下していた兵士たちの士気が『鼓舞』によって一気に上昇し、兵士たちは気合の声を上げる。
ハイ アントたちが倒されたことにより、本陣は混乱から回復したのだった。
「よし、負傷兵を洞穴へ収容させろ」
ヒーリー将軍は側近に指示を出し、側近は工兵たちに負傷者を洞穴へと運ばせる。
そこにドレドラ将軍率いる部隊が包囲内へと帰還した。
彼らが帰還した理由は、重傷者数が百名を超えたことにより、遊軍としての移動が困難になったことによるものだ。
「直ちに負傷兵を洞穴内部に収容しろ。まだ戦える者は包囲陣の薄い箇所を支援してやれ」
側近に指示を出したドレドラ将軍は洞穴に向かって歩いていったのだった。
「ベル大尉は私より強いかもな。まだ底知れぬ力を秘めていそうだ」
「ご冗談を。【魔法戦士】であるヒーリー将軍が負けるはずがありますまい」
ヒーリー将軍の言葉に、側近は恐ろしく真剣な表情で答えた。
【魔法戦士】は最上級職の一つだが、特性といえば『魔法耐性』だけだ。
そのため、魔法を使える者が【魔法戦士】と偽って名乗ることもあり、他の最上級職より軽視されることがあるのだった。
一方、冒険者ギルドのギルドマスターであるスラッグは洞穴から戦いを静観していた。
「あの【聖騎士】は強いな。君とどちらが強い?」
眉を顰めるスラッグは冒険者に切り出した。
「それは分からないけどウチに欲しい人材だね」
冒険者はにこやかに微笑んだ。
彼の名前はラーグ。職業は聖騎士だ。
彼はスラッグが強いと考えている十組の冒険者たちの内の一組である。
「ふっ、聖騎士などただの壁だろ」
黒一色の冒険者の男は見下すような冷笑を浮かべる。
彼の名前はゾル。職業は最上級職の【暗黒剣士】だ。
一説では【聖騎士】は防御型で、【暗黒剣士】は攻撃型だといわれているが、いまだにどちらが強いか結論はでていない。
「言ってくれるね」
ラーグとゾルが対峙して睨み合う。
この二人が顔を合わせるといつもこうなるり、苦笑するスラッグは彼らの間に張って仲裁するのだった。
一方、ハイ アントの群れが包囲陣に向かって凄まじい速度で接近していた。
数は五十匹ほどだ。
それを察知したアント種たちは包囲陣の前から左右に分かれて道をあけると、そこにハイ アントの群れが突っ込んだ。
「ぎゃああぁぁあああああああぁぁああああああぁぁぁ!!」
「うぁああぁぁああああああああああぁぁぁ!?」
為す術なく兵士たちは弾け飛び、包囲陣は一撃で粉砕されて崩壊した。
包囲内に進入したハイ アントの群れは一斉に『毒霧』を放ち、緑色の霧を浴びた兵士たちは地面をのたうち回って絶叫した。
「な、なんてことだ……」
呆けたような表情を浮かべていたヒーリー将軍は我に返って撤退命令を発しようとした。
だが、ベル大尉率いる上級兵士百名が崩壊した包囲陣を再構築する。
「さすがはベル大尉だ。すぐに魔法使い隊と僧侶隊に支援させろ」
ヒーリー将軍は側近に命令した。
「はっ」
側近は即座に洞穴内に斥候を放ち、魔法使い隊と僧侶隊がベル大尉率いる部隊の後方に移動した。
「あれは敵の主力だろうな」
ハイ アントの群れを見つめるスラッグは表情を曇らせた。
「……おそらくそうでしょうね」
神妙な顔で頷いたラーグは仲間たちに目配せする。
「行くのか?」
スラッグは探るような眼差しをラーグに向けた。
「さすがにあれは不味いと思いますよ」
ラーグの仲間たちがラーグの元に集結し、ラーグ隊は出撃した。
しかし、巨大な魔物たちが凄まじい速さで飛行して包囲陣に目掛けて接近しており、その巨大な魔物たちは包囲陣の中に飛来したのだ。
それはロード アントだった。
数は三匹だ。
ロード アントの全長は六メートルを超えており、ハイ アントが使用できなかった魔法を所持し、羽が生えているので飛行が可能なのだ。
ロード アントたちは一斉にエクスプロージョンの魔法を唱え、三発の光り輝く球体が本陣に直撃した。
「うわぁあああああぁぁあああああああぁぁ!!」
「ぎゃぁあああぁあああああぁぁ!!」
大爆発に巻き込まれた兵士たちが吹き飛んで五十人ほどの兵士たちが即死した。
「な、なんだあの化け物はっ!?」
「逃げろっ!! 撤退だっ!!!」
兵士たちや冒険者たちは血相を変えて逃げ惑う。
「固まるなっ!! 一時散開!!」
ヒーリー将軍は険しい表情で叫んだ。本陣の兵士たちは即座に散開して距離をとる。
だが、ロード アントたちの移動速度は異常なほどに速かった。
ロード アントたちは一瞬で兵士たちに接近し、前脚の爪の一撃で兵士たちは砕け散り、所構わず『毒霧』を撒き散らし、エクスプロージョンの魔法やブリザーの魔法を唱えて次々に兵士たちを殺していく。
瞬く間に兵士たちはロード アントたちに皆殺しにされて、本陣は側近とヒーリー将軍だけになった。
ロード アントはヒーリー将軍に目掛けて凄まじい速さで突撃する。
「お下がりください将軍っ! ここは私がっ!!」
側近は抜刀してロード アントに向かって突進した。
ロード アントは速度を落とすことなくパラライズの魔法を唱え、黄色い風が側近の体を突き抜けた。
抵抗に失敗した側近は身体が麻痺して動けなくなる。
ロード アントは側近と交差する際に前脚の爪を振るい、一撃で首を刎ねられた側近の首が宙に飛んだ。
側近は胴体から大量の血が噴出して地面に突っ伏した。
「こ、この化け物がっ!!」
激昂したヒーリー将軍は声を張り上げた。
ロード アントはパラライズの魔法を唱え、黄色い風がヒーリー将軍の身体を突き抜けた。
だが、ヒーリー将軍は『魔法耐性』を所持しており、パラライズの魔法を無効化する。
『魔法耐性』は魔法による攻撃を六十パーセントの確率で無効にできる能力だ。
ロード アントはブリザーの魔法を唱えるが、ヒーリー将軍もブリザーの魔法を唱えて、冷気同士がぶつかって相殺される。
「化け物風情が人を舐めるなよっ!!」
ヒーリー将軍とロード アントが対峙して睨み合う。
そんなヒーリー将軍の振る舞いに、見兼ねて声を掛ける人物がいた。
「頭を冷やしなよ。君は指揮官だろ……やるべきことが他にあるはずだ」
ラーグは諌めるようにヒーリー将軍に言い放ち、ラーグ隊がロード アントと対峙した。
「……」
(ロード アントを早急に倒さねば軍は壊滅する……ロード アントを倒せる自信があるのならなぜこっちに来たんだ?)
ヒーリー将軍は不審げな眼差しをラーグに向けている。
ロード アントは三匹いるからだ。
ヒーリー将軍は視線を残り二匹のロード アントたちに転じた。
洞穴の出入口近くにいるロード アントにはすでにゾル隊が対峙しているが、一番遠い場所にいるロード アントは冒険者たちも逃げ出す始末だった。
だが、冒険者たちが背を向けて逃走している中、その流れを悠然と逆行する男がいた。
「馬鹿なっ!? 一人だと!? いけるのか……?」
ヒーリー将軍は雷に打たれたように顔色を変える。
ロード アントは逆行する男を敵と認識し、ブリザーの魔法を唱えて、冷気が男に襲い掛かる。
しかし、男は左手を振るって冷気を掻き消した。
「ほう……」
目を見張ったヒーリー将軍は思わず驚嘆の声を洩らした。
その男は厳つい顔つきで鎧を着込んでおらず、右手に槍だけを持っており、上着には剣十一本のマークが刺繍されていた。
「武学の教官なのか?」
(私と同じ武人のような雰囲気がある男だな……実力者なのは間違いない。あの冒険者が言ったことはあながち間違いではなさそうだ)
一瞬で冷静さを取り戻したヒーリー将軍は踵を返して洞穴に移動し、兵士たちを再編成して本陣として三十名を率いて指揮を執るのだった。
ラーグ隊と対峙していたロード アントは凄まじい速さでラーグに肉薄し、左の前脚の爪を振り下ろしたがラーグは盾で爪の攻撃を受け流す。
ロード アントは『毒霧』を吐き、緑色の霧がラーグに襲い掛かるがラーグは左に跳躍して緑色の霧を避けてから、一瞬でロード アントの右側面に移動して剣を振り下ろした。
だが、ロード アントはラーグの動きを読んでおり、エクスプロージョンの魔法を唱えて、光輝く球体がラーグに襲い掛かる。
しかし、ラーグもロード アントの行動を読んでおり、ラーグは剣を途中で止めて左に大きく跳躍して光輝く球体を躱し、彼は一瞬にしてロードアントの背後に回り込んだ。
ラーグは剣を横薙ぎに振るい、ロードアントの胴体を斬り裂いてから後方に跳躍する。
怒りの形相のロード アントは後方にいるラーグに体の向きを変えた。
「ファイヤ!!」
「ウインド!!」
ラーグ隊の【魔法戦士】二人はファイヤの魔法とウインドの魔法を唱えて、激しい炎と風の刃が背後を晒しているロード アントに直撃し、ロード アントは炎に焼かれて風の刃に胴体を切り裂かれた。
「くらえっ!!」
ラーグ隊の【弓神】は『爆裂矢』を放ち、矢がロード アントの胴体に直撃すると矢は爆発し、矢はロード アントの体を突き抜けた。
【弓神】は最上級職の一つであり、様々な矢による攻撃能力を所持している職業である。
「ファイヤ!!」
「ファイヤ!!」
ラーグ隊の【大魔導師】二人はファイヤの魔法を唱え、灼熱の炎がロード アントの体を焼いた。
「キシャアアアァァアアァァァァッ!!」
火柱に包まれたロード アントは灼熱の猛火に焼かれて、耳をつんざくような奇声を上げた。
「うぉ!! すげぇなっ!!」
「や、やべぇ……」
「なんて火力の魔法なんだ……」
戦いを観戦している傭兵たちや冒険者たちの顔が驚愕に染まる。
【大魔導師】は最上級職の一つであり、攻撃魔法に於いて一線を画しており、その威力は格が違う。
ロード アントは飛び立とうとしたが羽が炎に焼かれ機能せず、怒り狂ってエクスプロージョンの魔法を唱えて、光り輝く球体がラーグ隊に襲い掛かる。
「マジックリフレクト!!」
「マジックリフレクト!!」
ラーグ隊の大魔導師二人はマジックリフレクトの魔法を唱え、二人の前に七色の盾が出現し、光り輝く球体が七色の盾で跳ね返り、ロード アントの体に直撃して爆発した。
「ブリザー!!」
「ブリザー!!」
ラーグ隊の魔法戦士二人はブリザーの魔法を唱えて、冷気がロード アントに直撃し、ロード アントの体を凍らせた。
「我々の勝ちだ」
弓神は『十六連矢』を放ち、十六本の矢がロード アントの胴体を貫いた。
ラーグは凄まじい速さでロード アントに突撃し、剣の連撃を放ってロード アントはバラバラに体を斬り裂かれて血飛沫を上げて絶命した。
「すげぇ!!」
「やりやがったぜ、あいつらっ!!」
冒険者たちや傭兵たちから感嘆の声が上がる。
「見事なものだな。あのロード アントに完勝とは恐れ入ったよ」
スラッグは満面の笑みを浮かべたのだった。
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最上級職の一部
魔法戦士
聖騎士
暗黒剣士
大剣豪
弓神
竜騎士
天馬騎士
聖職者
大魔導師
賢者
アント レベル1 全長約2メートル
HP 250~
MP 50
攻撃力 150
守備力 150
素早さ 50
魔法 無し
能力 統率 以心伝心 毒牙
ハイ アント レベル1 全長約4メートル
HP 500~
MP 60
攻撃力 300
守備力 250
素早さ 100
魔法 無し
能力 統率 以心伝心 毒牙 毒爪 毒霧
アントの殻 2000円
ハイ アントの殻 3000円
上級兵士 レベル1
HP 600~
MP 0
攻撃力 250+武器
守備力 150+防具
素早さ 150+アイテム
魔法 無し
能力 統率 稀に強力 稀に堅守
聖騎士 レベル1
HP 1100~
MP 200
攻撃力 600+武器
守備力 500+防具
素早さ 300+アイテム
魔法 ヒール キュア ファテーグ シールド ウインド ライト 稀にホーリー
能力 統率 鼓舞 堅守 毒軽減
魔法戦士 レベル1
HP 800~
MP 150
攻撃力 500+武器
守備力 300+防具
素早さ 300+アイテム
魔法 ブリザー 稀にファイヤ 稀にウインド アンチマジック ライト
能力 統率 魔法耐性
ロード アント レベル1 全長約6メートル
HP 3000~
MP 600
攻撃力 700
守備力 550
素早さ 400
魔法 エクスプロージョン ブリザー パラライズ
能力 統率 以心伝心 毒牙 毒霧 毒爪 堅守 強酸 魔法軽減
ロード アントの殻 10万円
武学のマーク
剣のマーク 戦士科
弓のマーク 弓使い科
宝箱のマーク 盗賊科
炎と氷のマーク 魔法使い科
光のマーク 僧侶科
竪琴のマーク 吟遊詩人科
馬のマーク 動物使い科
11本の剣のマーク 教官
基本的に複数の課で学ぶ生徒が多いので、自分が付けたいマークを付けても問題ない。人数の多い戦士課の服が一番安く、戦士課の服を買ってマークだけを付け替えることも頻繁にある。
シルルンはプルとプニをモデルに2匹のスライムのマークを作成して付けているが、普段から白ぽいシャツを着ているので、あまり意味がなかった。




