149 スライムアクアの隠れ家
話は少し遡る。
上層の頂上にある湖の中に誰にも知られていない洞穴があり、その洞穴を抜けると開けた場所がある。
この開けた場所には水は侵入しておらず、岩の僅かな隙間から空気も供給されているので水中生物でなくとも快適に過ごせる空間なのだ。
つまり、ここはスライムアクアの隠れ家なのである。
プルたちはこの開けた場所で楽しく過ごしていた。
「ずるいデチ!! ずるいデチ!!」
プニニがぷんすか怒って文句を言っている。
プルたちは鬼ごっこのような遊びをしているようだが、ルール無用の鬼ごっこなので能力で劣るプニニがほとんど鬼だった。
ラーネとブラックは凄まじい素早さなので捕まえるのは不可能な上に、ラーネは『瞬間移動』で逃げることも可能でブラックにいたっては『透過』の能力で地中に逃げることもできるので最早、反則だろう。
そして、スライムアクアは水中へ、プルとプニは空中に、残ったプルルも素早さではプニニを遥かに上回っており、勝負にならずプニニは怒っているのだ。
見るに見兼ねたプニが鬼を代わるが結局はプニニが鬼になるのだ。
そんなプルたちだが何の疑いもなく楽しく過ごしていた。
スライムアクアをマスターだと思っているからだ。
だが、それから数日が経過し、一番最初に違和感に気づいたのはラーネだった。
ラーネはシルルンのペットでもあるが奴隷でもある奇妙な存在だ。
現在はスライムアクアのペットであるが、シルルンの奴隷でもあるのだ。
「ねぇ……私達のマスターはスライムだったかしら?」
ラーネが疑問をぶつけたのは一番知性が高いブラックだった。
「フハハ!! それ以外あるまい。貴公は寝ぼけておるのではないか?」
「フフッ……やっぱりそうよね……もう一度寝てくるわ」
「フハハッ!! そうするがいい」
ラーネは寝床に戻って横になる。
(ブラックほどの知性をもってしてもこの状況に違和感を感じていないのは何かしらの能力が働いているとみるべきね……今は騒がずに様子をみるしかないわ)
ラーネはそのまま眠りについた。
そして、次の日の昼になり、プルたちは昼食を食べていた。
「……トントンが心配デチ……会いたいデチ」
「トントン……? 誰のことかしら?」
スライムアクアは怪訝な視線をプニニに向ける。
「プニニが召喚したスケルトンのことデチ!! 1匹でいるから心配デチ……」
「フハハ!! そういえば拠点いたな」
「拠点? それはどこにあるのかしら?」
「この鉱山の中層にある」
「その拠点は誰のものなのかしら?」
スライムアクアは探るような眼差しをブラックに向けた。
「さぁな……それは知らん。だが、そんなことはどうでもいいことだろう」
ブラックの返答にスライムアクアは満足そうに頷いている。
ラーネはこの話を興味がない振りをして聞いていた。
(やはり、おかしいわね……トントンが拠点にいることは知っているのに拠点の持ち主が誰か分からない……)
この時点ではラーネも違和感を感じているが、シルルンの存在を思い出せないでいた。
その日の夜、皆が寝静まった頃にスライムアクアが起き上がり、寝ているプニニを触手で抱えて寝床から出て行った。
ラーネは寝ている振りをしてやり過ごし、スライムアクアの後をつける。
「あなたが悪いのよ……トントンに会いたいなんていうから……そういう発言は皆の記憶を呼び覚ます危険があるから操作させてもらうわね」
スライムアクアの目が怪しく輝き、プニニを触手で抱えたスライムアクアは寝床に戻って行った。
それを見届けたラーネは音もなく『瞬間移動』で寝床に戻る。
スライムアクアは寝床に戻ると辺りを見渡し、プルたちが寝ているのを確認してからプニの頭の上にプニニを戻して寝床についたのだった。
薄目を開けて様子を見ていたラーネは目を開く。
(操作という言葉から精神操作系の能力を所持していることは間違いないわね……これは上手く立ち回らないと私も操作されてしまうわね……)
そう考えたラーネは目を閉じて眠りについた。
翌日、昼飯を食べているときのことだった。
「マスターはスライムじゃなかったと思うデス……マスターはどう思うデスか?」
「デシデシ!!」
無茶苦茶な話の内容だった。
「ス、スライムだったと思うわよ……」
スライムアクアは慌てながらもそう言って誤魔化した。
「フハハッ!! 何を言ってるんだプルとプニよ。主君はスライムではないか!!」
「フフッ……スライムじゃなかったら誰なのかしら?」
(ブラックは変わらないけどプルとプニの記憶が曖昧になってきているわね……テイムの力が弱まってきているのかしら?)
「そうデスか……違うような気がしたデス……」
「デシデシ……」
不満そうな顔をしたプルとプニだがそれ以上は何も言わなかった。
その夜、皆が寝静まった頃、スライムアクアは起き上がり、1匹で外に出て行った。
ラーネも起きており、スライムアクアの後をつけていく。
すると、スライムアクアは水辺の傍でしくしくと泣いていた。
「なぜか分からないけど私の『記憶操作』が効かなくなってきてる……やっと仲間ができたのに1匹に戻るのはもう嫌よ……」
スライムアクアは突然変異で生まれたスライムなのだ。
生まれた時から1匹でプルたちに会うまでも1匹だった。
そのため、何百年もの間、1匹で生き抜いてきたために誰も信じられなくなっていたのだった。
「なるほどね……『記憶操作』で私達の記憶をいじっていたのね……」
(だけどこんな姿を見てしまったら怒れないわね……)
ラーネは『瞬間移動』で寝床に戻ったのだった。
次の日の昼過ぎ、プルたちは小さな湖の前で遊んでいた。
この隠れ家には何本もの洞穴があり、その先には小さな湖があるのだ。
「『ビリビリ』デス!!」
プルは湖に触手を入れて威力を弱めた『ビリビリ』を放つ。
すると、魚が浮き上がり腹を見せた。
「おいちぃデチュ!! いっぱい食べて大きくなるデチュ!!」
「デチデチ!!」
プルルとプニニは『触手』を伸ばして湖に浮いている魚を食べまくっている。
だが、ミニィスライムであるプルルとプニニの体が大きくなることは進化でもしないかぎり不可能だった。
「……ブラックに似ているのが今日はいないデス」
「……デシデシ」
プルとプニは不満そうな顔をしている。
「何? 我に似ているのがいるのか?」
「いるデス!! 赤い奴デス!!」
「デシデシ!!」
プルとプニがいうブラックに似ている生物とはタコのことである。
「――っ!?」
唐突に脳内を駆け抜けた情報にプルたちは目を大きく見張る。
「こ、これは……」
ラーネは思わず、プルたちに視線を向けた。
「やっぱり、マスターはスライムじゃなかったデス!!」
「デシデシ!!」
「……ぬう、そのようだな。だが、なぜスライムを主君だと思っていたのだ?」
「フフッ……今なら思い出せる……マスターがスライムアクアをテイムしようとして『オウム返し』でテイムの結界が跳ね返って私達がテイムされてしまったのよ」
「『オウム返し』……恐るべき能力だな」
「マスターはどこにいるデスか?」
「……プニたちの他にペットはいなかったからマスターは一人ぼっちデシ!! 早く合流しないとマスターが危ないデシ!!」
「フフッ……マスターの所在を視てみたけど、どうやらマスターは頂上の湖から移動したみたい……だけど今は動いていないみたいね」
「ほう、我ら抜きで地上のルートを下山しているとはさすが主君……」
「早くマスターのところに行くデス!!」
「デシデシ!!」
「フフッ……その前にスライムアクアと話をしておいたほうがいいわね」
こうして、プルたちはシルルンのことを思い出したのだった。
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