147 ドラゴンの縄張り 修
シルルンたちはドラゴン種の縄張りに入ったところで休憩していた。
「……本当に龍族をペットにするつもりなのね」
漆黒のペガサスの表情から焦りの色が窺える。
「うん、下位種でもいいからペットにしたいんだよね」
「あなたも相当強いと思うけど、龍族の強さは別格よ……」
漆黒のペガサスの言葉に上位種であるカティンやキル、ターコイズが不安そうな表情を浮かべている。
「俺も青いドラゴンとずっと戦っていたから言うが、とにかくデカくてタフだぞドラゴンは……」
「まぁ、ヤバかったら逃げるし、そのためにここで休憩してるからね」
シルルンはしたり顔で言った。
彼はいつでも逃げれるようにドラゴン種の縄張りに入ったところで休憩し、様子を窺っているのである。
シルルンたちはしばらく様子を見ていたがドラゴン種は現れず、進軍を開始した。
左右には森が広がっており、正面の見通しが良く、岩山が点在する平原をシルルンたちは進んでいく。
「縄張りに入ったらドラゴン種がすぐに襲い掛かってくるものだと思ってたけど、どうやらそうでもないみたいだね」
「あぁ? ある程度は侵入してからじゃないといちいちめんどくせぇからじゃねぇのか?」
「言われてみれば確かにそうかもね……」
「……き、来たわよ」
『気配探知』を所持している漆黒のペガサスが空を見つめており、すでにシルルンも空から近づいてくる魔物の群れを『魔物解析』で視ていた。
「あれは龍種には違いないけどワイバーン種だね」
ワイバーン種の群れは100匹ほどで凄まじい速さで接近してくる。
「あぁ? 何か違うのか?」
「さぁ? ワイバーン種を見るのは僕ちゃんも初めてだから分からないよ」
「ドラゴン種には前脚、後脚、翼があるけど、ワイバーン種には後脚と翼しかないのよ。まぁ、飛ぶことに特化しているのがワイバーン種ね」
「へぇ、そうなんだ」
だが、ワイバーン種の群れが50メートルほどの距離まで迫ったところでピタリと動きを止めて墜落し始めた。
「あぁ? なんであいつらは墜落してんだ?」
ペットたちも状況についていけずに驚きの表情を浮かべている。
「あはは、僕ちゃんが「飛ぶのを止めろ」って命令したからだよ」
「なっ!?」
ペットたちの顔が驚愕に染まる。
「『魔物号令』か……ていうか、龍族にも効くのかよ……」
「ま、魔物号令……? そ、それってまさか……」
「うん、魔物に命令できる能力だよ。だけど、僕ちゃんより弱い魔物だけだけどね」
「そ、そんな能力を持ってるなんて……」
漆黒のペガサスは呆然とシルルンを見つめている。
シルルンたちは地面に激突しても、動けないままのワイバーン種の群れへとゆっくりと近づいていく。
ワイバーン種は黒色が最も多いが緑色や黄色、青色、赤色など鱗のカラーバリエーションが豊富だった。
「君達、2匹がこの群れの主力だよね?」
シルルンは青色と赤色のワイバーンに『魔物契約』でコンタクトを試みた。
「な、なんだ!? この頭に直接、響く声は!? なぜ身体が動かないんだ!?」
「『威圧』でもないのに不思議よね……」
青色のワイバーンは焦りまくっているが、赤色のワイバーンは開き直っているのか堂々としたものだった。
「へぇ、さすが上位種だね。自我意識があるんだ。声が聞こえるのも君達が動けないのも僕ちゃんの能力なんだよ」
「な、なんだと!?」
「……ふ~ん、それで私達をどうするつもり?」
「うん、君達2匹には僕ちゃんのペットになってもらおうと思って話しかけたんだよね」
「ば、馬鹿なっ!? 龍族である我らが人族ごときのペットになどなれるかっ!!」
「分かったわ。その代わり、仲間達を見逃してほしいのよ」
「――なっ!?」
青色のワイバーンは驚愕の眼差しで赤色のワイバーンを見つめている。
「うん、分かったよ」
「……それで私達はなぜ動けないの? ペットになるんだから教えてくれてもいいでしょ?」
「『魔物号令』って能力だよ。僕ちゃんより弱い魔物に命令できる能力なんだよね」
「あはははははっ!! そのぐらいの能力を持っててくれなきゃ仕えるには値しないわよ」
「じゃあ、君達をペットにするけどいいよね?」
「……いいけど、約束は守ってよね」
「うん」
シルルンは青色のワイバーンと赤色のワイバーンを見ただけで、巨大な透明の結界を作り出して包み込み、一瞬でテイムに成功した。
「な、なんなんだ……この至福に包まれたような高揚感は……」
「……さすがね、全く抗うことができなかったわ」
「あはは、これからよろしくね」
シルルンが『魔物号令』を解くと、動けるようになったワイバーン種たちの視線がシルルンに集中した。
「次期、リーダーを伝えてくるわ」
赤色のワイバーンは仲間達の元に歩いていき、しばらくすると黒色の個体を先頭にワイバーン種の群れは飛び立っていった。
「マ、マジかよ……」
「す、すごいです!! こんなに大きい龍族が仲間になったですぅ」
ダイヤとシーラは2匹のハイ ワイバーンを見上げて絶句している。
上位種である2匹のワイバーンの全長は10メートルを遥かに超えているのだ。
「う、嘘よ……飛龍族とはいえ龍族よ……それがこんなにあっさりとペットになるなんて……」
漆黒のペガサスは驚きのあまりに放心状態に陥った。
「これからよろしくね」
「……よろしく頼む」
シルルンの元に歩いてきた2匹のハイ ワイバーンが上位種であるカティン、キル、ターコイズ、漆黒のペガサスに視線を向けて言った。
「……」
カティンたちは無言のまま頷いたのだった。
「あら? 龍族がいるじゃない……でも、龍族にしては小さすぎるわね……」
龍族は卵から孵った時点で全長1メートルを超えているからだ。
「あはは、ドーラは突然変異のミニ ドラゴンなんだよ」
「プリュリュ?」
シルルンの横でふわふわと飛んでいたドーラはハイ ワイバーンたちをマジマジと見つめている。
だが、興味が失せたようで視線を逸らした。
「ミニ ドラゴン……? 聞いたことがない個体名ね」
「たぶん、全ての種族にミニシリーズはいると思うんだよ、極めて稀だけど……ただ生まれたばかりは小さい上に弱いことが多いから殺されてるから知らないだけなんだと思うんだよね」
「……その口ぶりだと生き残れば強いみたいにとれるけど、その子は強いの?」
「うん、君達よりもドーラのほうが強いよ」
「馬鹿なっ!? あり得ん……あり得るはずがない……」
「ふ~ん、面白いじゃない」
「まぁ、戦いになればドーラの強さが分かると思うよ」
「じゃあ、その戦いを楽しみにしてるわ」
こうして、2匹のハイ ワイバーンをペットにしたシルルンは再び進軍を開始する。
「ていうか、龍族ってあんまりいないんだね」
シルルンたちの進軍速度は早いが、岩ばかりでドラゴン種の姿など微塵もなかった。
「そりゃそうよ。あんなのがうようよしてたら大変なことになるわよ」
「あはは、飛龍族でも龍族は怖いんだ?」
「当たり前よ!! 龍族こそが全ての種族の頂点なんだから」
「まぁ、ステータスの数値だけで言えばそうだろうね。僕ちゃんはダーク ドラゴンのステータスを視たことがあるからね」
「……だったら私の言うことが分かるでしょ」
「……」
(でも、戦いはステータスの高さだけじゃないからね……訳の分からない魔法や能力に足元をすくわれることもある……)
シルルンは心の中でそう反論したが、めんどくさいので口には出さなかった。
「皆、止まって!! あの岩山の反対側におそらく龍族がいるわ……本当に龍族をペットにするつもりなの?」
漆黒のペガサスが探るような眼差しをシルルンに向けると、その言葉を聞いたペットたちの視線もシルルンに集中した。
「うん、もちろんだよ。でも、狙ってる下位種じゃなくて通常種が3匹いるみたいだね。下位種はいないのか聞いてみよう」
シルルンは躊躇なく歩いていき、ペットたちは躊躇いながらも追従する。
シルルンたちは見上げるほど巨大な岩山の反対側に回り込んでいくと3匹の巨大なドラゴンが佇んでいた。
3匹のドラゴンの鱗の色は緑色でいずれの個体もその全長は10メートルを超えていた。
「やぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「……人族の魔物使いか……何のようだ?」
3匹の中で一回り体が大きい個体がシルルンを一瞥した後、ペットたちに目を向けながらそう返した。
「へぇ、さすが龍族……通常種なのに自我意識もあって人族語も話せるんだ」
「プリュリュリュリュッ!!」
ドーラはシルルンの横でふわふわと飛んでいたが、3匹のドラゴンを見た途端、一番大きい個体に向かって一目散に飛んでいった。
「あはは、どうやらドーラは同種を初めて見て興奮しているようだね」
シルルンはドーラの後姿を温かい眼差しで見つめている。
「プリュリュ!! プリュリュ!! プリュリュ!!」
ドーラは一番大きい個体の顔の周りをゆっくりとくるくる飛行しながら鳴いている。
「漆黒の個体……ダーク ドラゴンの幼体か……? いや、それにしては小さすぎる」
「ドーラは突然変異で生まれた個体でミニ ドラゴンなんだよ」
「聞いたことがないな……」
「ミニシリーズは極めて稀な存在だからね」
「……それよりも答えてやるから用件を早く言え」
一番大きいドラゴンは苛立ちを露にした。
「……」
シルルンは怪訝な眼差しで一番大きいドラゴンを見つめており、ドラゴンたちがどこか落ち着きがなく、焦っているように思えた。
「僕ちゃん龍族の下位種をペットにしようと思ってるんだけど下位種はどこにいるの?」
「基本的にこの縄張りに下位種はいない……いるとしたら幼体ぐらいなものだろうな」
「えっ!? なんでなの?」
シルルンはビックリして目が丸くなる。
「下位種は嵐と共に旅をするからだ」
「え~~~っ!? マジで!?」
(そういえばレッサー ドラゴンと遭遇したときは嵐だったね……)
「嵐と共に旅をして通常種に至った者だけがここに戻ってくるんだ」
「……そ、そうなんだ。下位種がこの縄張りにいないんなら君達がペットになってくれないかい?」
「はぁ? なんで俺達がお前のペットにならないといけないんだ……」
一番大きいドラゴンは呆れ顔だ。
「プリュ!! プリュ!!」
「ほらぁ、ドーラも一緒に行こうって言ってるよ」
「ふっ、お前は可愛いな」
一番大きいドラゴンは目を細めてドーラを見つめている。
「……へぇ、ドラゴン種って凶暴だと思ってたけど君は優しいんだね」
「俺はこの縄張りでは弱いからな……龍族は縄張りの中心に向かうほど強い個体がいる。故に龍族には領土欲がないんだ」
「なるほど……龍族にとって縄張りの中心にいることが強さの証明ってことなんだね」
「察しがいいな……その通りだ」
「だったら、ドーラと僕ちゃんが組んで戦えば中心にかなり近づけると思うんだよ。君達がペットになってくれないなら行ってみようかな」
「おい、冗談はいうな……ここから先は俺達でも死を意識するほどの領域だ。それにだ……こんなに可愛い奴が強い訳ないだろう」
「でも、ドーラは君達より遥かに強いんだよ」
「おい、いい加減にしろ……」
「えぇ~~~っ!? だって本当なんだよ!!」
「……このまま問答しても埒が明かん。そこまでいうならそのドーラとやらに俺を攻撃させてみろ」
「うん、分かったよ」
シルルンは思念でドーラに「手加減して攻撃しろ」と命令した。
「プリュ!!」
ドーラは凄まじい速さで一番大きいドラゴンの顔面に体当たりし、『物理軽減』を貫通して一番大きいドラゴンはあまりの威力にひっくり返った。
「なっ!?」
その光景を目の当たりにした漆黒のペガサスとハイ ワイバーンたちは目を剥いて驚いた。
「プリュ!! リュ!! リュ!! リュ!!」
ドーラははしゃいでいるようで飛び回っている。
「……な、なんて威力のある体当たりなんだ」
起き上がった一番大きいドラゴンはマジマジとドーラを見つめている。
「いっとくけど、ドーラはそれでも手加減してるんだよ」
「なっ!?」
一番大きいドラゴンはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
「プリュ!!」
ドーラはシルルンの元に戻ってきて、シルルンは優しくドーラの頭を撫でた。
ドーラはとても嬉しそうだ。
「……なぁ、それほどの魔物を使役できるんだなら俺達など必要ないんじゃないのか?」
「僕ちゃんは魔物使いだからいっぱいペットを増やしたいんだよね」
「……弱くてもか?」
「あはは、そんなの関係ないよ。でも、強くなりたいなら僕ちゃんのペットになったほうが近道だと思うけどね」
「ペットか……それもいいかもしれんな……元より俺達はここから離れようと思っていたからな……」
しかし、その時だった……
唐突に巨大な魔物が飛来したのだ。
その魔物の全長は20メートルを遥かに超える巨体で、鱗が緑色のドラゴンだった。




