140 仲間たち 修
「私の攻撃が全く当たらない……ラーネ殿が言っていたのはこういうことだったのか……」
ロシェールは大きく肩で息をしている。
「わはは、聖騎士の姉ちゃんは突っ込む癖があるから俺とは相性が悪いだろ」
「次は私よ!!」
「天馬騎士の姉ちゃんか……」
アキはバーンに目掛けて凄まじい速さで突っ込んで2本の剣を振るった。
「……踏み込みは抜群だが剣に力が乗ってねぇ」
アキが振るった2本の剣をバーンは右手に持つ短剣で弾いた刹那、アキの後ろに回り込んで左手に持つ短剣をアキの首元に近づけた。
「……そ、そんな」
アキの顔が驚愕に染まる。
「次は俺だ」
ゼフドは【決死】を発動して黒いオーラを身体に纏った。
「ほう、いきなり奥の手か……いい判断だ」
ゼフドは凄まじい速さで突撃して一瞬でバーンに肉薄して大剣を振るうがバーンは紙一重で躱した。
「わはは、当たったらやべぇ一撃だな」
ゼフドはさらにスピードを上げて大剣の連撃を放つがバーンはその全てを回避した。
「お前はまだその力に慣れてないだろ……どんどん使ってその力を磨くんだな」
ゼフドが大剣をなぎ払った瞬間にバーンは一瞬でゼフドの懐に潜り込み、左の拳をみぞおちに叩き込んだ刹那に回転して右手の裏拳を顔面に叩き込んでゼフドは吹っ飛んで尻餅をついた。
「――っ!?」
ゼフドは信じられないというような表情を浮かべている。
「……今のはリザの技に似ているな」
ロシェールは驚きの表情を浮かべている。
「……二段回転斬りって技だったか? ……まぁ、俺のは打撃だけどな」
バーンはリザを見つめてにんまりと笑った。
「……私の技なんか簡単に真似できるって言いたい訳?」
リザは射抜くような鋭い眼光をバーンに向けた。
「わはは、良さそうな技だからパクらせてもらった。俺はそうやって今まで生きてきたからな」
「……」
リザは押し黙ったまま何も言い返さなかった。
「それにしてもバーンさんは強いですね」
ラフィーネはいやに感心した顔つきでバーンを見ている。
「……全くだ。無骨なパワーファイターのような外見なのにその実は洗練されたテクニカルファイターなのだからな」
「俺は傭兵だからどっちかって言うと対人戦のほうが得意だからな……それにお前らとはキャリアが根本的に違うだろ……」
バーンは昔の戦いを思い出し、虚空を見つめて口から涎を垂れ流している。
「……またか、そろそろ昼時だ。拠点に戻るぞ」
虚空を見つめて口から涎を垂れ流しているバーンを放置して、リザたちは拠点に向かって歩いていく。
リザたちはタイガー種との戦いに備えて上層から下りてくる魔物の群れと戦って腕を磨いており、時間の都合が合えば対人戦も想定して訓練しているのだ。
拠点に到着したリザたちは食堂まで進み、各自、好きな食べ物を皿によそって空いたテーブルについた。
「……シルルン様はまだお戻りになっていないようだな」
「空からの捜索だから今回は早いと思っていたけど、ハイ ウォーター エレメンタルを捜すのに時間がかかっているのかもね……」
「……確かスライムなんとかというのも捜す予定じゃなかったか?」
「スライムアクアちゃんです!!」
ラフィーネがロシェールに向かって静かにだがハッキリと言った。
「……スライムアクアはルークでも見つけることができたのよ。シルルンなら楽に見つけられると思うからハイ ウォーター エレメンタルを捜すのに手間取ってると思ったのよ」
「確かに主が魔物に敗れることなんか想像できないからそうなんだろうな……」
そこに悲痛な表情を浮かべたメイが仲間たちの元にやってきた。
「マーニャちゃんやドーラちゃんたちを見ていないでしょうか?」
「……そういえば昨日の夜の段階でドーラはいなかったわね」
「そうなんです。昨日の夜からマーニャちゃんたちがいなくなったんです」
「タイガー種の縄張りにいるんじゃないのか? ヌイグルミたちはタイガー種と頻繁に戦っているだろ」
「シャインさんに聞いてみましたがマーニャちゃんたちがタイガー種の縄張りに行くときはビークスさんもついて行くそうで、そのビークスさんも昨日から見ていないそうなんです」
「……じゃあ、どこに行ったというのよ?」
リザたちは怪訝な表情を浮かべている。
「……分からないんです」
メイは肩を落として去っていった。
「ここにいたかゼフドよ」
メイと入れ替わりに険しい表情を浮かべたガダンとホフマイスターがやってきた。
「……何の用だ?」
ゼフドは訝しげな目をガダンに向けた。
「トンチャックを憶えているか?」
ガダンは真剣な硬い表情を浮かべており、ホフマイスターは何か言いたそうな顔をしたが結局、何も発しなかった。
「あぁ、憶えている……俺が殺したからな」
「なっ!?」
ゼフドの発言に驚愕したリザたちは顔色を変えた。
「あの戦いは街の外での戦いであり、仕掛けたのはトンチャック自身だからか分からんが国に動きはない。だが、トンチャックの奴隷だった戦闘職の者たちがお前を殺そうと捜していた」
「ほう……そいつらはどこにいる?」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
ガダンは探るような眼差しをゼフドに向けた。
「無論、全て殺す。俺はシルルン様の盾でもあるが矛でもある……故にシルルン様に害を及ぼす輩はことごとく俺が斬る!!」
「……ほう」
その発言にガダンの口角が微かに上がった。
「で、そいつらはどこにいるんだ? 俺に言ってくるぐらいだから掴んでいるんだろ?」
「……こうなることを予想しておられたガダン様のご命令で、我ら採取隊がすでに捕らえて牢屋に閉じ込めている」
「ほう……手間を取らせたようだな……」
「捕らえたトンチャックの奴隷は100人ほどで、牢屋に閉じ込めておいたことが功を奏したようで我らを狙わないことを条件に開放した。無論、信用できるわけがないからガダン様の奴隷にした上でだがな。だが、100人の内の10人はいまだ君への復讐心を消せないでいる」
「そういうものだ……」
「しかし、私はこのまま牢屋に閉じ込めておけばいいと考えている」
「ホフマイスターよ……お前は分かっておらぬ。死ぬまで復讐の気炎が消えぬ者がおることを」
「その通りだ。仮にシルルン様が殺された場合、俺はそいつを地の果てまで追いかけて死ぬまで狙い続けるだろう」
「ぬう……だとしても今回の場合においては牢屋に閉じ込めておけば問題ないはずだ」
「そんなことをするぐらいなら殺したほうがマシだろう」
「なっ!? 彼らは復讐心を抱いているだけで実際には何もしていないのですよ!?」
「今回はゼフドを狙っているが、王を狙っている輩がいたらお前はどうするつもりだ?」
「シルルン様を直接的に狙って攻撃してくれば我らが倒すだけのことです」
「倒す? 殺すということだろう? 儂は王を狙って準備した段階で殺すべきだと考えておる」
「ぐっ……」
「……あえていうが俺がトンチャックを殺したのは標的を俺に向けるためだ。そうしなければトンチャックはシルルン様を標的にしていたはずだからな」
「なっ!?」
ホフマイスターは大きく目を見張った。
「ゼフドがトンチャックを殺したことについての是非はともかく、儂がここに来たのは牢屋からその10人を解放してやろうと考えたからだ」
「――っ!? ゼフドと殺し合いをさせるおつもりですか!?」
ホフマイスターは険しい表情を浮かべて思わず声を張り上げた。
「その通りだ」
「……いい判断だ」
ゼフドは立ち上がり、不敵に笑っている。
「では行くとするか……」
ガダンは踵を返して歩き出し、ゼフドもガダンの横に並んで歩いていく。
「牢屋はどこにあるんだ?」
「トーナの街だ」
「なっ!? トーナだと!? どうやって行くつもりだ……」
ゼフドは愕然として立ち止まった。
「心配するな。儂は王から転移の部屋の鍵を預かっておる」
「……いつのまにそんなものができていたんだ」
「儂は王から食料の調達を命令されておるからな」
転移の部屋の前に到着したガダンは鍵を使って扉を開けて部屋の中に入り、ゼフドも続いた。
「魔法陣を踏めば王が所有するトーナの街の土地に転移できる」
そう言ってガダンは魔法陣を踏んでその姿が掻き消え、ゼフドも魔法陣を踏んで姿が掻き消えた。
「こっちだ」
ガダンはすでに部屋の外に出ており、ゼフドも部屋の外に出た。
「……防壁が見える範囲全てが王が所有する土地だ。さらに道を挟んだ場所にも土地があり、ここの倍ほどの土地だがそこも王が所有されておる」
「な、なんだと? スライム屋があるだけではなかったのか?」
ゼフドは周辺を見渡して呆然とした。
「トーナの街は特殊でな。第一区画から第三区画に分かれておる……王はこれに対抗して第四区画を創造するおつもりなのだ」
「ほう……さすがはシルルン様だ」
ゼフドは思わず口かどに笑みが浮かんだ。
「儂はすでにルビコの街から撤退してここに拠点を移しておる……主に武具や品薄のポーションで勝負を仕掛けるつもりだ」
周辺にはかなりの数の建物が建ち並んでおり、建設途中の建物も多く見られ、多数のガダンの奴隷たちが行き来している。
「ほう、武具とポーションか……丁度いいな……」
「何が丁度よいのだ?」
ガダンは訝しげな目をゼフドに向けた。
「俺は時が来ればポラリノールに攻め入るからだ」
「馬鹿なっ!? 何の為にだ!? ポラリノールは魔物に滅ぼされておるんだぞ!!」
「ポラリノールはシルルン様の故郷だからだ」
「――なっ!?」
ガダンはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
「だが……まだ同志はほとんど集まっていないがな……」
「何? そうなのか……しかし、そういうことなら儂も協力は惜しまんつもりだ」
「……助かる」
「礼などいらんわ。王の故郷を取り戻すのだからな……さて、行くとするか」
そう言ってガダンは歩き出し、ゼフドも後に続く。
しばらく歩くと建物はなくなり、開けた場所に出た。
だが、それでもガダンは足を止めずに歩いていき、巨大な建物が見えてきたところでガダンは足を止めて振り返った。
「お前はここで待っておれ。ここに捕えている奴隷を連れてくる」
「……分かった」
ガダンは再び歩き出して巨大な建物の中に入っていった。
「それにしてもでかい建物だな……牢獄なのか?」
巨大な建物は横幅が100メートルを超えており、遠目から見ても堅牢な作りであることが窺えた。
ゼフドがしばらく待っていると巨大な建物から10人ほどの男たちが姿を現した。
ガダンがゼフドに向かって歩き出すと男たちも追従し、ゼフドと10メートルほど離れたところでガダンたちは歩みを止めた。
「手錠を外してやれ」
「はっ」
武装したガダンの配下が男たちの手錠を順番に外していき、大きな麻袋を男たちの前に置いていく。
「どういうことだ?」
男たちの一人が訝しげな眼差しをガダンに向けた。
「あそこに立っているのがトンチャックを殺した男だ」
「な、何ぃ!? それは本当なのか!?」
男たちは驚きのあまりに血相を変えた。
「お前たちを牢獄の中で殺してもよかったが、気概ある者をただ殺すのはあまりに忍びないのでな……解放してやるから好きにしろ」
「……恩に着る」
男たちは麻袋から自身が身につけていた装備品を取り出して身に着けると、全員がゼフドに向かって歩き出してゼフドと対峙する。
「お前がトンチャック様を殺したゼフドか?」
「そうだ」
「……そうか」
男たちは一気に殺気立った。
「俺は悔いている……なぜあの時についていかなかったとなぁ……先生を殺ったのもお前なのか?」
「そうだ……逆に聞くがあんたらのような気概ある者たちがなぜトンチャックごときの為に命を捨てるんだ?」
「……確かにトンチャック様の評判が悪いのは知っている。だが、俺たちが奴隷であるにも拘からず、トンチャック様は敬意を払って接してくれた。ただ、それだけのことだ」
「そうか……」
そう言うと同時にゼフドは黒いオーラを身体に纏った。
「なるほど、お前は【暗黒剣士】だったのか……」
だが、男たちは顔色一つ変えずにゼフドに向かって一斉に斬りかかった。
迎え撃つゼフドはその場からほとんど動かずに次々と襲い掛かってくる男たちの首を大剣で刎ね飛ばしていき、10人全員が首から大量出血して倒れ、勝負は一瞬で決着したのだった。
「……全く躊躇がなかったな」
「当たり前だ。俺に言わせれば中途半端に生かしておくから話がややこしくなる……だが、この者たちの埋葬は丁重に頼む」
「くくく、お前に言われるまでもないわ」
こうして、シルルンの知らないところでトンチャックの奴隷だった者たちは殺されたのだった。
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