139 上層⑦
シルルンは森に戻ってペットたちを休ませた後、果物を集めさせていた。
「本当にナーガ種とラミア種の拠点を潰して戻ってくるなんて……正直、驚いているわ」
「まぁ、これでしばらくはナーガ種とラミア種は攻めてこないと思うけど、いずれまた下から上がってくるだろうね」
「少しの期間でも攻めてこないならありがたいことよ……それにしても拠点には上位種がいたはずなのに……」
「あはは、僕ちゃんはペットを一時的に強くする能力を持ってるんだよ」
「そ、それはすごいわね……」
あまり表情を変えないドライアドが驚きの表情を見せた。
「次は黒亜人の拠点を潰すつもりなんだよね」
「そう……黒亜人は数だけは多いから気をつけるのよ」
「うん。だから果物をいっぱいもらっていくね」
「いくらでも持っていって構わないわよ」
そういってドライアドは去って行った。
大量の果物を集めたシルルンはペットたちを率いて黒亜人の拠点に進軍する。
黒亜人の拠点に到着したシルルンたちは入り口の見張りの黒ゴブリンを倒して拠点の中に入った。
「またいっぱいいるね」
「どっから湧いてきやがるんだ?」
「……この拠点は思ったよりも遥かに大きいのかもしれないね」
「でも森で感じるような魔力の源はないと思いますよ」
「う~ん、自然発生で増えてるわけじゃないとすれば黒亜人が大量にいるんだろうね」
黒亜人の群れは300匹ほどでシルルンは思念で精鋭たちに「突撃」と命令した。
精鋭スタッグ ビートルが凄まじい速さで黒亜人の群れに突撃し、続いて精鋭アメーバも突撃する。
「まぁ、なんでか分からないけどほとんどが低レベルだから良い経験値稼ぎになるよ」
300匹 対 20匹の戦いだが瞬く間に精鋭たちは黒亜人の群れを倒していき死体の山が築かれたのだった。
「あはは、楽勝だね」
シルルンは精鋭たちに思念で「十字路まで先行して黒亜人を倒せ」と指示を出し、精鋭たちは先に進んでいく。
アメーバ40匹が一斉に「死体を食べたい」と思念で強請り、シルルンが了承するとアメーバたちは奪い合うように死体を『捕食』し始めた。
アメーバたちが死体を食い終わり、シルルンたちは進み始める。
通路にはいたるところに黒亜人の死体が転がっており、アメーバたちが奪い合いながら死体を『捕食』していく。
シルルンたちが十字路に到着すると通路には凄まじい数の黒亜人の死体が転がっており、精鋭たちが無双していた。
「おいおい、すげぇ数だな……」
「……シルルンさんがいなくても私の仲間はこんな数を倒せるんですね」
「あはは、スタッグ ビートルは強いからねぇ」
シルルンは満足そうな笑みを浮かべている。
十字路には1000匹近い黒亜人の死体が転がっており、精鋭たちが3隊に分かれて各通路の指揮官である黒オーガを倒して精鋭アメーバが黒オーガの死体を『捕食』してからシルルンの元に戻ってきた。
「うんうん、よくやったよ」
シルルンは精鋭たちの頭を撫でていき、魔法の袋から果物を取り出して与えた。
精鋭たちは体力、魔力、スタミナが全快してとても嬉しそうだ。
シルルンも紫色の果物を食べながら思念でアメーバたちに「食べていいよ」と伝えるとアメーバたちは嬉しそうに一斉に死体を『捕食』し始めた。
「前回はここで引き返したが今回も引き返すのか?」
「う~ん、今回は進めるだけ進むつもりだよ」
アメーバたちが全ての死体を食い終わり、シルルンは十字路を左に曲がり進み始めた。
左のルートは一本道で突き当たりに洞穴が掘られているのが見えている。
「うぅ……やべぇ……なんて凶悪な腐臭なんだよ」
シルルンは目を潤ませながら紫色の果物を食べている。
「あぁ? そんなに臭うか?」
「私もそんなに臭いませんよ?」
「魔物の嗅覚はおかしいだろ!? ていうか、このエキサイティングな臭いはまさか……」
シルルンたちは洞穴の前に到着し、洞穴の中に入ってみると巨大な部屋が掘られていた。
「うぅ……やっぱりっ!? 食料庫じゃないかと思ってたんだよ!!」
部屋の中ではあらゆる死体が天井から吊るされており、地面には解体されたパーツが山のように積み上げられて所狭しと並んでいる。
シルルンたちが部屋の中に入っても黒オークたちは無心に包丁を振り下ろして死体を解体しており、部屋の奥のほうではツルハシを持った黒オークの群れが壁を掘っていた。
「突撃っ!!」
シルルンはそれだけ言うと走って通路を引き返し、ペットたちは部屋の中になだれ込んで行った。
黒オークたちはペットたちに攻撃されたことにより敵が侵入していることに気づいて驚愕したが、何もできずに皆殺しにされる。
アメーバたちは黒オークの死体と天井に吊るされた死体、山のように積み上げられたパーツを一斉に『捕食』し始め、スタッグ ビートルたちは次々と部屋から出て行ってシルルンの元に戻っていく。
「……うん、問題なく全滅できたようだね」
シルルンは十字路まで戻っており、蒼ざめた顔で言った。
しばらくするとアメーバたちもシルルンの元に戻ってきた。
「じゃあ、次は右に行ってみようかな」
シルルンたちは十字路を右に曲がって進み始める。
右のルートも一本道で突き当たりに洞穴が掘られているのが見えている。
「今度は何があるんだろうな?」
「ゲボッ!!」
シルルンは唐突に嘔吐して地面に跪いた。
「あぁ? なにゲロ吐いてんだよ」
「ど、どうしたんですか!?」
「く、臭ぇ……臭すぎるっ!? あまりの臭さに堪えることもできずに吐いちゃったよ」
「まぁ、確かにさっきよりは臭いな」
「言われてみればそうですね」
「……ていうか、何がどうなったらこんな臭いになるんだよ!!」
激しい不安に襲われたシルルンは『魔物探知』と『魔物解析』を同時に使用して通路の先を探った。
「……や、やべぇ……ヘドロ種がいる……気づいて良かったよ……」
「あぁ? ヘドロ種? そいつは強ぇのか?」
「……強いというよりヤバイんだよね、特に上位種が……」
「あぁん? どうやべぇんだよ?」
「まず、『物理無効』を持ってるし状態異常系の能力も20を超えてるんだよ……それに魔法もデスを持ってるから運が悪ければ一撃で即死する可能性があるんだよね」
「……そりゃあ、確かにやべぇな」
「まぁ、スタッグ ビートルは『魔法耐性』と『能力耐性』を持ってるからエクスプロージョンの魔法で攻撃すれば勝てるとは思うけど、ここで無理にハイ ヘドロと戦う理由がないから放置するよ」
シルルンが引き返そうとした時、前方から魔物の群れが突っ込んできた。
「はわわわっ!? あれは今言っていたヘドロ種じゃないんですか!?」
「うん、そうだけどあれは通常種の群れだから問題ないよ」
ヘドロの群れは20匹ほどでシルルンは「エクスプロージョンの魔法で攻撃しろ」と思念で精鋭スタッグ ビートルに指示を出した。
魔法の射程範囲に入ったヘドロの群れに対して、精鋭スタッグ ビートルは一斉にエクスプロージョンの魔法を唱え、爆発に巻き込まれたヘドロの群れは体が四散して即死した。
「あぁ? 弱ぇじゃねぇか」
「ヤバイのは上位種って言ってるじゃん」
嬉々として精鋭アメーバたちが飛び散ったヘドロの死体を『捕食』しに掛かる。
「うぅ……あんなのまで食べるんですね……」
「あはは、アメーバ種は嫌いなものはないんじゃない?」
シルルンが踵を返した瞬間、背後から真っ白に輝く光を浴びたシルルンは驚いて振り返る。
すると精鋭アメーバ10匹の内、1匹が巨大化しており上位種に進化していた。
「……まさか先にアメーバのほうが上位種に進化するなんて思ってもいなかったよ」
「でかくなりやがった!? これが進化というやつか……」
上位種に進化した青いアメーバがシルルンの元にやってきた。
「君は緑がかった青だから名前はターコイズブルー……いや、長いからターコイズだよ」
ターコイズは名前を気に入ったようで嬉しそうだ。
「……もしかしてヘドロ種が進化の鍵なのかもしれないね」
「あぁん? だったら攻め込むのか?」
「う~ん……そうじゃない線もあるからとりあえず先に進んでみるよ」
シルルンたちは十字路に戻って直進した。
通路には変わらず黒亜人の死体が散見される。
「……この死体の感じじゃ低レベルそうだね。この拠点には弱いのしかいないのかもしれない」
「あぁ? いいじゃねぇか弱いほうが」
「弱すぎるとあんまり経験値にならないからね」
「あっ!? 洞穴がありますね」
「……う~ん、数は多いけど敵の質は十字路にいたのと変わらないね」
シルルンは『魔物探知』と『魔物解析』で魔物の数と強さを視ながら、精鋭たちに思念で「突撃!!」と命令して精鋭たちは洞穴内部に突入した。
「じゃあ、僕ちゃんたちも入ろうか」
シルルンたちも部屋内部に突入する。
「……すげぇ広さだな……それになんて数だ」
「……だ、大丈夫なんですか?」
「まぁ、勝てると思うよ」
黒亜人の群れは3000匹を軽く超えているのだ。
シルルンは思念で「突撃」とペットたちに命令し、ペットたちも戦いに加わった。
黒亜人の群れは弱く、次々にペットたちに倒させていく。
ペットたちのあまりの強さに恐怖して、一部の黒亜人は先に続いている洞穴へと逃走している。
「あはは、数は力だとも言うけどここまで強さが違うと話にならないね」
「あぁ? そんなことを言う奴がいるのか? そいつは馬鹿なんじゃないのか?」
「もっと数の比率が多い場合の言葉じゃないんですか?」
「まぁ、そうかもしれないね」
しばらくすると黒亜人の群れは全て倒されて死体の山が築かた。
アメーバたちがうれしそうに死体を『捕食』していく。
アメーバたちが全ての死体を『捕食』するとシルルンたちは先に続く洞穴に入って進み始めた。
通路にはこれまでのように死体は転がっておらず、先ほどの戦いから逃走した黒亜人がシルルンたちを目の当たりにして驚愕して更に逃げていく。
「やっぱり、この拠点には弱い個体しかいないみたいだね……」
精鋭たちを先頭にシルルンたちは通路をどんどん進んでいく。
「……なんかずっと坂道を下っているような気がするけど、もしかして下に繋がっているんじゃないかと思えてきたよ」
「あぁ? 下ってどこだよ?」
「そういえばダイヤはここがどこだか知らないよね」
「……よくよく考えてみればそうだな」
「ここは鉱山で下層、中層、上層ってあるんだけどその中でいう上層なんだよね。僕ちゃんたちがいる場所は上層の頂上で下に下りるルートもあるんだけど、このまま進めばもしかしたら下にある黒亜人の縄張りに繋がってるんじゃないかと思ってるという話だよ」
「……ほう、下は黒亜人の縄張りだったのか」
「まぁ、縄張りを持っているのは黒亜人の他にもナーガ種とラミア種やあとケンタウロス、メデューサやペガサス、グリフォン、ドラゴンなんかもいるけどね」
「えっ!? ド、ドラゴンがいるんですか!?」
「うん、いるね」
「……な、なんか怖いと思う反面、見てみたいとも思いますね」
「あはは、下に下りるとルートは4本あるから、とりあえずドラゴンのルートに行くつもりだけどね」
「……えっ!?」
驚いたシーラは体を硬直させて動きを止める。
シルルンたちはどんどん下っていき、黒亜人に遭遇するも黒亜人は逃げていくので戦闘にもならなかった。
しばらく進んでいくとルートは2本に分かれていた。
「どっちに進むんだ?」
「……どっちでもいいけど、とりあえずこのまま真っ直ぐに進んでみるよ」
ルートは真っ直ぐと右方向に伸びているのだ。
シルルンたちは直進し、遭遇する黒亜人は逃げていく。
だが、シルルンたちを見て逃げ出さずに逆に突撃を仕掛けてくる黒亜人の群れがいた。
「へぇ、黒オーガの群れだね。レベルも今までとは違って20台に跳ね上がって上位種並みの強さだよ」
黒オーガの群れは10匹で、凄まじい速さで突っ込んでくる。
「いよいよ敵の主力のお出ましかな……」
シルルンは思念で「迎撃!!」と精鋭スタッグ ビートルたちに命令して、精鋭スタッグ ビートルたちも凄まじい速さで突撃した。
「あぁ? 『反逆』は使わないのかよ?」
「うん、この程度の敵には必要ないし『反逆』は疲れるんだよね……」
戦いは一瞬で決着し、黒オーガ10匹は精鋭スタッグ ビートルの大顎で身体をバラバラにされて血飛沫を上げて即死した。
ターコイズと精鋭アメーバたちが思念で「死体を食べたい」と強請り、シルルンは了承しターコイズと精鋭アメーバたちは1匹ずつ黒オーガの死体を『捕食』して、嬉しそうにシルルンの元に戻ってきて装備品を魔法の袋に吐き戻していく。
「ふ~ん……鋼で作られた武具だね……毎回思うけど魔物にも【鍛冶師】みたいなのがいるのかな?」
「……言われてみればそうですよね」
「あはは、だよねぇ!! 木の武具までは理解できるけど鉄や鋼、ミスリルなんかは高い知識と技術が必要だと思うんだよね」
「奪ってるだけだろ」
「近くに武具を作れる者たちがいるならそうだと思いますが、いないと思いますし何より武具を持っている黒亜人が多すぎると思いませんか?」
「う~ん、そうだよねぇ……じゃあ、やっぱり【鍛冶師】みたいなのがいるんだろうね」
「……おい、ちょっと待て!! 俺抜きで話を進めるな!! 白い虫は何て言ったんだ?」
「私の名前はシーラです!!」
「近くに武具を作れる者がいないし、武具を持ってる黒亜人が多すぎると言ったんだよ。あと私の名前はシーラだと言ってるよ」
「あぁ? 名前があったのか……それは悪かったなシーラ」
「い、いえ……」
「しかし、不便だな……俺の声はシーラに届くがシーラの声は俺には届かない。なんとかならねぇのか?」
「……僕ちゃんはそんな能力は知らないから無理だね」
「ちぃ……」
シルルンたちは無言になって通路を進んでいく。
「さっきの黒オーガの群れは主力だと思うからここから先は油断できないね」
シルルンは気を引き締めて通路を進んでいく。
だが、黒オーガとの戦闘以降、黒亜人とは1匹も遭遇せずに先にある洞穴から光が差し込むのが見えた。
「えっ!? 出口なの!?」
予想と反したシルルンはビックリして目を丸くした。
シルルンたちは洞穴から出てみると外に繋がっていた。
「やっぱり、黒亜人の縄張りに繋がっていたようだね」
道を挟んだ先には森が広がっており、そこには黒亜人の群れが1000匹ほどいてシルルンたちの様子を窺っているが襲ってくる気配がなかった。
「ここが上層の一段下ということか?」
「まぁ、上層をいい加減に言うと僕ちゃんたちがいた頂上を上とするとここは中だね」
「あぁ? なら下もあるのか?」
「うん、魔物の数的にそこが一番しんどいかもしれないよ」
「ほう……で、これからどうするんだ? 進むのか?」
「……いや、戻るつもりだよ。今のペットたちの強さじゃ中層まで辿り着けないからね」
「あぁ? クワガタは充分強いだろ? それでも無理なのか?」
「いったん下りたら戦闘続きになるから上位種がターコイズだけなのが不安なんだよ。せめて4匹……前と後、左右に1匹ずつはほしいよね……」
(シャインかビークス……いや、拠点を護ってるから無理か……マーニャやドーラたちがいればこの戦力でもいけるのに……)
こうして、シルルンたちは再び洞穴の中に戻っていったのだった。
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