136 上層④ 修
「あれ? 砂の魔物がシルルンさんの肩にのってますね……ペットになったんですか?」
「うん、見た目は砂だけど、これでもスライムで名前はザラだよ」
「えっ!? 砂なのにスライムなんですか!? すごいですね。でもこれでペットの数が101匹になりましたね」
「あはは、まだまだ増やすつもりだよ。そうしないと中層に戻れないからね」
『瞬間移動』を所持しているラーネや【転移の腕輪】を持っているプニがいれば一瞬で戻れるのだが、今はいないので強引に下りるしか手段はないのである。
シルルンは一際大きい巣の入り口を見てみると、ラビットが入り口から顔を少しだけだして様子を窺っていた。
「あれ? あのラビットは小さいね。子供かな?」
一際大きい巣の入り口から顔を覗かせているラビットは真っ白で30cmほどしかなく、シルルンは魔法の袋から赤い果物を取り出して、入り口に転がした。
すると、小さいラビットは赤い果物をじーっと見つめていたが、巣から出てきて赤い果物を食べ始めた。
「うわっ!? このラビットは赤ちゃんですか!? まるまるしててすごく可愛いです!!」
「ていうか、下位種のラビットも通常種のラビットと同じ見た目なのに、この小さいラビットはラビット種に見えないね……」
赤い果物を食べ終わった小さいラビットを、シルルンは両手で掴んで抱き上げる。
「あはは、モフモフだね」
いきなり掴まれてビックリした小さいラビットはイヤイヤして暴れるが、シルルンが魔法の袋から赤い果物を取り出して与えるとうれしそうに食べだした。
シルルンは小さいラビットを『魔物解析』で視てみる。
「ラビットボールって出てるから、やっぱりラビット種の亜種ぽいね……」
シルルンは『魔物契約』でラビットボールにコンタクトを取ってみるが自我意識は確認できなかった。
「……弱いけどモフモフで可愛いね」
シルルンは念じただけで透明の結界を作り出してラビットボールを包み込み、一瞬でテイムに成功する。
ラビットボールはシルルンの腕から離れて、ぴょんぴょん跳ねて一際大きい巣の中へ入って行った。
しばらくするとラビットボールは一際大きい巣から出てきてシルルンに何かを差し出した。
「うわっ!? 眩し!? なんだこれ!?」
「こ、これは宝石ですかね?」
ラビットボールが持ってきた何かは太陽の光を反射して七色に輝いていた。
「この輝きはダイヤモンド……いや……あれ?」
ラビットボールは七色に輝く物体を心配そうに見つめており、シルルンはその物体を凝視するとブルブルと震えていた。
「えっ!? もしかして!?」
シルルンは『魔物解析』で七色に輝く物体を視てみる。
「やっぱり、プルとプニの時と同じだよ!!」
すぐさまシルルンは紫の球体型の結界を作り出して七色に輝く物体を包み込んで、一瞬でテイムに成功した。
「……スライムダイヤモンド……こんなスライムもいたんだ」
シルルンは喜びに打ち震える。
だが……
「……あれ、魂を魔界から引き込んだのになんでだろ?」
テイムに成功したはずのスライムダイヤモンドはピクリともしない。
「ポン……」
シルルンはしゃがみ込んで動かないスライムダイヤモンドを凝視しており、ラビットボールも心配そうに鳴いた。
「こいつの魂はすでに壊れているようだぜ」
「なっ!? 人族語で喋った!?」
あまりの出来事にシルルンたちは驚愕した。
「……へぇ、いきなり人族語で喋れるんだ。動かないから心配してたんだよ」
「だから、さっきも言っただろ!! こいつの魂はすでに壊れていると」
「……えっ!? どういうこと? ……君はスライムダイヤモンドでしょ?」
「いや、違う……俺は『基本的にヘタレ』だ」
「へっ!?」
意味が分からないシルルンは言葉を失った。
「要するに俺はお前の心象世界の中にいたお前の能力だったんだ。だが、俺は死んだと思ったがなぜか生きていてお前が湖の前でずっと泣いているときから傍にいたんだ。お前には俺の姿も見えず、声も届かなかったがな」
「……君が僕ちゃんの能力?」
「そうだ。俺はお前の心象世界の中でずっと青いドラゴンと戦っていたんだ……まぁ、それはいいとして、俺はどうやら魔物の体を乗っ取ることができるみたいだ」
「……つまり、君がスライムダイヤモンドの体を乗っ取ったってこと?」
「そういうことだ。ここに来るまでに俺はいろんな魔物の体を乗っ取ってみたがしっくりこなかった。だが、この体は良さそうだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!! じゃあ、スライムダイヤモンドもいるんだね?」
「さっきもいっただろ……こいつの魂は壊れていると。お前がテイムするのが遅すぎたんだよ」
「……そ、そうなんだ」
シルルンは『魔物解析』でスライムダイヤモンドを視てみると、5個だった能力が10個に増えており、種族名がスライムダイヤモンド/基本的にヘタレになっていた。
「ラーネがクロロに憑依したときと同じだね。ていうか、本当に基本的にヘタレって名前なんだね……」
「まぁな。だが、俺も基本的にヘタレって名前は気に入ってねぇんだよ」
「だろうね……カッコ悪い名前だもんね」
「いや、長すぎるからだ」
「えっ!? 長すぎるからなの?」
シルルンはビックリして目が丸くなる。
「お前は俺の本体だから適当に改名しろ」
「……じゃあ、省略してヘタレはどう?」
「3文字か……なかなかいいな」
「えっ!? ……そんな名前は僕ちゃんが嫌だよ」
「あぁ? お前が決めたんだろ」
「あはは、省略しただけだからね……じゃあ、コンゴウ、ナナイロ、ダイヤのどれがいい?」
「3文字のダイヤだな」
基本的にヘタレは即答した。
「じゃあ、君の名前はダイヤに決まりだね」
「おう」
シルルンは『魔物解析』でダイヤを視てみると、名前はダイヤで、種族名はスライムダイヤモンドに変わっており、名前と種族名が分離していた。
「……その体から一時的に出ることはできるかい?」
「あぁ? そりゃできるだろ……なっ……なぜ出れなくなった!?」
「だろうね……『魔物解析』でダイヤを視てみたら表記が変わってるからね」
「マジかよ……俺はこれからスライムとして生きていくのかよ……」
ダイヤは絶句して身じろぎもしない。
「君が知ってるスライムダイヤモンドは死んじゃったよ。助けられなくてゴメンね」
「ポン……」
ラビットボールは切なそうな声で鳴いた。
「けどダイヤが代わりに体を引き継いだからスライムダイヤモンドは消滅しない。要するにスライムダイヤモンドは生きているとも言えるんだよね」
ラビットボールは不可解そうな表情を浮かべている。
知性の低い彼にはスライムダイヤモンドが死んだことは分かったが、生きているという言葉が理解できなかった。だが、動いているスライムダイヤモンドを目の当たりにした彼は生き返ったのだと勝手に解釈したのだった。
「で、君の名前はポンって鳴くからうさポンだよ」
それを聞いたうさポンは嬉しそうにピョンピョン跳ねて、シルルンの胸に跳びついて首の後ろに回ってしがみついた。
「まぁ、考えてもしょうがねぇ……それよりまず飯だ。この体は死にかけてるんじゃねぇか?」
「確かに小さすぎるからね」
ダイヤの体は3cmほどしかなく、消滅寸前だったのだ。
シルルンは魔法の袋から赤い果物と鉄の塊を取り出して、ダイヤの前に置く。
ダイヤは体を大きく変形させて、両方とも一瞬で『捕食』した。
「どっちかって言うと鉄のほうがうまいな。鉄をもっとくれ」
シルルンは魔法の袋から鉄の塊を100個ほど取り出し、ダイヤの前に置くと、ダイヤは鉄の塊100個を一瞬で『捕食』すると、ダイヤの体がみるみる大きくなった。
「まぁ、こんなもんだろ」
ダイヤは全長20cmほどの大きさになっており、体は饅頭のような姿で透明だが太陽の光を反射して七色に輝き、2つある目は宝石のパライバトルマリンのようにネオンブルーでとても綺麗で宝石のようなスライムだった。
ダイヤは跳躍してシルルンの肩にのる。
2匹のスライムがシルルンの肩にのり、胸に巨大な穴が空いたような感覚だった彼は少しだけだが満たされたような気がした。
こうして、うさポンとダイヤがシルルンのペットに加わった。
「う~ん、たぶんこのエリアにはもう他の魔物はいないようだね……」
「えっ!? まだ西の方角には行ってないじゃないですか」
「西の大半は湖でエレメンタル種やウィンディーネ種がいるんだよね」
「……そうなんですか」
そこに追跡に出していたスタッグ ビートル3匹が帰還するのと同時に、周辺が騒がしくなる。
「あはは、お疲れさん」
シルルンは魔法の袋から赤い果物を3個取り出して、3匹のスタッグ ビートルに与えて頭を撫でる。
スタッグ ビートルたちは嬉しそうだ。
「辺りが騒がしくなったね……何かあったのかな?」
すると、追跡に出ていたスタッグ ビートルたちが「黒亜人が攻めてきた」「黒亜人の攻撃部隊は多数いる」と思念でシルルンに伝える。
「なるほどね。とりあえず行ってみよう」
シルルンたちは攻めてきた黒亜人のほうに歩いていく。
黒亜人の群れは300匹ほどで、無数にある巣のところまで迫っており、アースボールたちが迎撃していた。
アースボールたちはどんどん集まっており、アースの魔法の波状攻撃で黒亜人の群れを圧倒している。
「……また黒ゴブリンと黒オークばっかりだね」
黒亜人の群れはレア種であるソーサラーやシーフも見当たらず、無謀な突撃を繰り返している。
「はっ、どの程度強いのか俺が試してやるぜ」
ダイヤはシルルンの肩から跳び下りてピョンピョン跳ねながら黒亜人の群れに突っ込んで空高く跳躍した。
「『七色の輝き』!!」
上空のダイヤの体が七色に輝いて目が眩むほどの閃光を放つ。
「――っ!?」
これには黒亜人の群れも目が眩んでパニックに陥ったが、味方も目が眩んでいた。
ダイヤは意気揚々とシルルンの肩に戻ってきた。
「まぁ、こんなもんだな」
「め、目が見えないですぅ!?」
「……ていうか、『七色の輝き』は禁止!! 味方も目が眩んでいるからただ混乱するだけだからね」
「なっ!?」
ダイヤは驚きを禁じ得なかった。
彼はずっと1人で戦っていたので、自身の行動が仲間にどのような影響を及ぼすのか考えたことがなかったのである。
「……ならこれはどうだ。『七色光線』!!」
ダイヤの体から七色の光線が放たれ、目に浴びた黒亜人たちは再び、目が眩んで混乱した。
「うん、その攻撃はいいね」
「はっ、攻撃は俺に任せとけ。『ヘタレ光線』!!」
ダイヤの体から真っ黒な光線が放たれ、直撃した黒亜人たちは戦意喪失し、うずくまる者や泣き叫ぶ者、逃走する者が続出した。
この機を逃すまいと大量に集まったアースボールたちが一斉にアースの魔法で攻撃し、黒亜人の群れは大きく数を減らす。
多数いるアースボールたちの中から3匹ほどが前に出てきて、その3匹のアースボールに他のアースボールたちが次々とのっかっていき、10匹がのっかったところで3匹のアースボールは巨大化した。
「お、大きくなりましたよ!! すごい!!」
「あはは、あれは『同種合体』っていう能力だね」
巨大化した3匹のアースボールの全長は5メートルほどになっており、転がって黒亜人たちを轢き殺していく。
「あの砂の塊はなかなかやるじゃねぇか……」
『ヘタレ光線』を撃ちまくっているダイヤが感嘆の声を上げる。
「けど、ダイヤの攻撃はダメージを全然与えてないよね」
「なっ!?」
ダイヤはショックを露にした。
彼は青いドラゴンと『反逆』としか戦ったことがなく、青い炎の中に撤退させればいいと考えていたので、ダメージを与えるという概念がほとんどないのだ。
「攻撃します」
これまで動かなかったザラが思念を発し、『土操作』で地面の土を槍に変える。これにより、20匹ほどの黒亜人が串刺しになって断末魔の奇声を上げる。
「へぇ、ザラはレベルを上げると強くなりそうだね」
「あのぅ、私も戦ったほうがいいんでしょうか?」
「う~ん、今は中層に下りることが最優先だから、シーラは中層でゆっくりレベルを上げればいいと思うよ」
「分かりました」
「なら、俺のとっておきを見せてやる!! 『破壊光線』!!」
我に返ったダイヤは『破壊光線』を放ち、まばゆい閃光が黒亜人たちを貫いて20匹ほどが一瞬で蒸発した。
「へぇ、そんな能力も持ってたんだ」
「当然よ!!」
「あはは、一気に倒すよ!!」
シルルンは「黒亜人を倒せ」と思念で命令し、ペットたちは一斉に黒亜人に襲い掛かって瞬く間に皆殺しにした。
黒亜人の死体はアメーバたちが嬉しそうに『捕食』していき、シルルンたちは黒亜人の拠点に向かって進軍を開始したのだった。
うさポンのイラストです^^
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うさポン ラビットボール レベル1 全長約30センチ
HP 200
MP 100
攻撃力100
守備力100
素早さ100
魔法 スリープ チャーム
能力 疾走 擬態 栽培 キノコ栽培 危険察知
スライムダイヤモンド レベル1 全長約3センチ
HP 100
MP 100
攻撃力 100
守備力 1000
素早さ 100
魔法 シールド パラライズ
能力 捕食 触手 金剛 七色の輝き 七色光線
ダイヤ スライムダイヤモンド レベル1 全長約20センチ
HP 100
MP 100
攻撃力100
守備力1000
素早さ 100
魔法 シールド パラライズ
能力 捕食 触手 金剛 七色の輝き 七色光線 不屈 ヘタレブロウ ヘタレ光線 拡散ヘタレ光線 破壊光線




