135 上層③ 修
1日経過してもシルルンはペットたちに果物を集めさせていた。
アメーバたちがペットに加わったことで、スタッグ ビートルたちが果物をちぎって地面に落とし、落ちた果物をアメーバが拾ってシルルンの元に運んでくるという分業が成立したので効率が上がっているのだ。
シルルンも何もしていなかった訳ではなく、さらにスタッグ ビートル40匹とアメーバ40匹をテイムしたので合計100匹ものペットがいることになる。
「……あの魔物使いは何匹くらいペットにできるんですか?」
100匹もの魔物がいるのでシーラは驚きを隠せなかった。
「何匹でもペットにできると思うよ」
「ま、魔物使いって凄いんですね……」
一般的な【魔物使い】が100匹もの魔物をペットにできるわけがないので、彼の返答は間違っていたがそんなことはシルルンは知らない。
「……う~ん、1日使って果物集めてかなりの量が確保できたから、いったんここから移動して他のペットを探しに行こうかな」
「いよいよ、この森から離れるんですね!!」
シルルンは森で果物を集めているペットたちに「赤い果物をお腹いっぱいに食べてから集合」と思念で指示を出した。
その間にシルルンとシーラも食事を済ませると、ペットたちがシルルンの元に戻ってきてシルルンたちは東へと進軍を開始した。
1時間ほど進軍するとシルルンは魔物の気配を探知する。
「このまま進むとナーガ種とラミア種の拠点があるね」
「えっ!? 意外に近くにあるんですね」
「まぁ、本営は下にあるから1000匹ぐらいしかいないけどね」
「1000匹もいるんですか!? こっちの10倍じゃないですか!!」
「うん、だからまだ戦うには早いから進路を変えるよ」
シルルンたちは進路を北に変えて進軍していく。
1時間ほど進軍するとアメーバ種の群れと黒亜人の群れが戦闘を繰り広げていた。
双方共に200匹ほどの群れだが、明らかに黒亜人のほうが劣勢だった。
「黒亜人も果物を狙って森にやってくるんですよ」
「えっ!? マジで!? ……だけど黒亜人がここにいるとは思わなかったよ」
「あっ!? 黒亜人のほうが逃げ出しましたね……」
黒亜人の群れは大半が黒ゴブリンと黒オークで、レア種であるソーサラーの数も少なかった。
「あはは、遠距離攻撃ができなきゃそうなるよね」
シルルンは「逃走する黒亜人を追跡して拠点をつきとめろ」と思念で指示をだし、3匹のスタッグ ビートルが飛び立った。
アメーバ種は黒亜人の群れを追いかけていたが、途中で諦めて引き返し、シルルンたちの前を通過していく。
シルルンのペットであるアメーバ50匹が一斉に縦長になったり平べったくなったりを繰り返している。
「何かの挨拶みたいなんでしょうか?」
「あはは、そうなんじゃない?」
するとアメーバの群れは去っていくが、1匹の巨大なアメーバが群れから離れてシルルンの元にやってきた。
巨大なアメーバは襲い掛かってくる気配はなくじっとしている。
シルルンが『魔物解析』で巨大なアメーバを視てみると、ハイ アメーバであることが判明し、その全長は6メートルを超えている。
「へぇ、やっぱり上位種なんだ……でも喋れないみたいだね」
シルルンは『魔物契約』でコンタクトを取ってみる。
「……我に敵対する意思はない……我に敵対する意思はない……我に敵対する意思はない……」
ハイ アメーバは同じ言葉を繰り返しているのでシルルンは「こっちもないよ」と返した。
するとハイ アメーバは驚いたのか体をビクッとさせた。
「同胞がいたので挨拶にきたが、森から離れることのないスタッグ ビートルの群れがなぜここにいる?」
「このスタッグ ビートルたちは僕ちゃんのペットだからここにいるんだよ」
「……それほどの数のスタッグ ビートルを使役できるというのか!?」
「まぁね、さっきも言ったけど君たちを攻撃するつもりはないよ。逆に聞くけど君たちはどの魔物と敵対してるんだい?」
「黒亜人だ……奴らは我らの縄張りに頻繁に入ってくるからな……」
「ふ~ん、どっちが優勢なの?」
「今のところは五分だ。だが、全面戦争になれば我らのほうが分が悪い……奴らにはオーガ種とハーピー種がいるからな……」
「あぁ、なるほどね、黒オーガは強いし黒ハーピーは空から魔法を撃たれたら一方的になるもんね」
「……詳しいんだな」
「あはは、まぁ、黒亜人は攻撃する予定だからなるべく数を減らしておくよ」
「それは助かる……できれば黒オーガと黒ハーピーの数を減らしてほしいものだ」
「けど、黒亜人の本営は下にあるからここを叩いてもあんまり意味はないと思うけどね」
「なんだと!? 本営が下にあるのか……」
「えっ!? 知らなかったんだ?」
「あぁ、知らなかった……奴らをどれだけ倒してもうじゃうじゃと湧いてくるのはそういうことか……」
「じゃあ、僕ちゃんたちは行くよ」
「あぁ、同胞たちをよろしく頼む」
ハイ アメーバは北の方角に去っていき、シルルンたちは西に進路を変えて進んでいく。
シルルンたちはしばらく進軍すると北の方角に広大な草原が見えてきた。
「うわぁ~!? こんなところに草原があるんですね!!」
「あはは、行ってみようか」
シルルンたちは進路を北に変えて草原に入っていく。
「ここには動物もいるんですね……うちの森にはいないのに」
草原には鹿や鳥、鼠などがいるがシルルンたちを見て驚いて逃げていく。
「あの小さい山みたいなのはなんでしょうか?」
「なんだろうね……行ってみよう」
シルルンたちが山に近づくと、山は無数にあった。
山は2メートルほどの高さで入り口が掘られてある。
「何かの巣なんじゃないかな?」
シルルンたちは足を止めて山みたいな巣を観察する。
すると、山みたいな巣から丸い砂の塊が出てきて辺りを見回している。
「うわっ!? 何ですかあれ?」
「う~ん、やっぱり巣のようだね。あれはアースボールという魔物みたいだよ」
アースボールは全長30cmほどで砂で作られた球体のような姿をしており、その体には目や口などはなかった。
「強いんですか?」
「いや、魔法は使えるみたいだけど、似たような魔物のアースゴーレムより弱いね」
「えっ!? 魔法をつかえるんですか!? 私は使えないのに……」
「あはは、僕ちゃんも魔法は使えないよ」
「えっ!?」
シーラはビックリしたようでシルルンをじーっと見つめている。
辺りを見回してシルルンたちを発見したアースボールは、コロコロと転がりながら移動してシルルンの前で止まる。
「う~ん、やっぱり鉄が好きなのかな?」
シルルンは魔法の袋から鉄の塊を1個取り出して、アースボールの前に置く。
すると、アースボールは鉄の塊を体内に取り込んで、ウニャウニャと体を変質させた後、コロコロと転がって巣の中に戻っていった。
「て、鉄を食べるんですか?」
「うん、ゴーレム系が好きだったからあげてみたんだよ」
しばらくすると再び、アースボールが巣の中から出てきて巣の前でコロコロと転がっており、巣の入り口から別の魔物が顔を出して様子を窺っている。
「へぇ、ラビットと共生してるんだ」
ラビットは全長1メートルほどで、その姿はドワーフラビットに似ており、モフモフで可愛らしい魔物だ。
シルルンは魔法の袋から赤い果物を取り出して、巣の前に転がした。
鼻をピクピクさせたラビットは躊躇なく両前脚で赤い果物を掴んで食いついて、無我夢中で食べている。
赤い果物を食べ終わったラビットはトコトコと歩いてきてシルルンの前で止まった。
シルルンは優しくラビットの頭を撫でる。
ラビットはとてもうれしそうだ。
「か、可愛いですね」
シーラもラビットの頭を撫でようとするが、前脚がキチキチと音を鳴らし、恐怖したラビットは「ブーーーーッ!!」と鼻を鳴らして威嚇した。
「あはは、その虫の前脚が怖いみたいだね」
「……そ、そんな」
ショックを受けたシーラは放心状態に陥った。
ラビットは身を翻してトコトコと歩き出し、振り返ってシルルンを見つめている。
「あはは、どこかに案内してくれるみたいだね」
シルルンたちはラビットに先導されて歩いていく。
無数にある巣の入り口からラビットが顔を出して様子を窺っており、シルルンは魔法の袋から赤い果物を大量に取り出して巣の入り口の前に転がしながら歩いていく。
赤い果物を食べたラビットたちは大喜びして、シルルンに付き従うスタッグ ビートルたちの背に乗ってついてきており、シルルンは大人気だ。
「うわぁ、すごく懐いてる」
シーラは振り返り、スタッグ ビートルたちの背に乗るラビットの体を優しく撫でようと前脚を伸ばすが、ラビットたちは一斉に「ブーーーーッ!!」と鼻を鳴らした。
「……そんな……なぜなの?」
シーラは絶句して激しく凹んだ。
先導するラビットの足が止まり、そこには一際大きい巣があった。
案内してくれたラビットがじーっとシルルンを見つめているので、シルルンは魔法の袋から赤い果物を取り出して、ラビットの前に転がした。
ラビットは大喜びして赤い果物に食いついて、それを見たスタッグ ビートルたちの背に乗っているラビットたちが一斉にシルルンに群がり、巨大なウサギ団子になった。
「あはは、仕方ないね……」
シルルンは魔法の袋から赤い果物を大量に取り出して地面に転がすとラビットたちは一斉に跳びついてうれしそうに食べている。
「私の仲間たちのことは怖がってないのに、なぜ私だけが怖がられているんでしょうか?」
「スタッグ ビートルたちは僕ちゃんのペットだからだよ。警戒心の強いラビットたちはそれが分かるんだろうね」
「そ、そんな……」
「で、ここはハイ ラビットの巣なのかな?」
シルルンは一際大きい巣の入り口を眺めていると、中からアースボールがピョンピョンと跳んで出てきた。
アースボールは他の個体より一回り小さく、動きに違和感を覚えたシルルンは『魔物解析』で視た。
「えっ!? アースボールじゃない!? スライムアースじゃん!!」
驚きのあまりに血相を変えたシルルンは『魔物契約』でスライムアースにコンタクトを取ってみるが、自我意識は確認できず、続けて『魔物解析』で視る。
「へぇ、スライムなのに意外に強いね」
シルルンは念じただけで紫の結界を作り出してスライムアースを包み込んで、一瞬でテイムに成功した。
スライムアースは砂の饅頭のような姿だが、アースボールと違ってルビーのような真っ赤な目が2つあり、シルルンをじーっと見上げている。
シルルンは魔法の袋から鉄の塊を10個取り出して、スライムアースの前に置いてみるとスライムアースはうれしそうに『捕食』した。
「あはは、君の名前はザラだよ」
ザラは『砂化』で形を変質させて浮き上がり、シルルンの肩にのった。
シルルンはザラの頭を優しく撫でる。
ザラはとても嬉しそうだ。
胸に巨大な穴が空いたような感覚だった彼は少しだけだが満たされたような気がした。
こうして、シルルンのペットにザラが加わったのだった。
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ハイ アメーバ レベル1 全長約6メートル
HP 1200
MP 300
攻撃力 300
守備力 400
素早さ 220
魔法 シールド ポイズン マジックシールド
能力 捕食 溶解液 強酸 HP回復 スタミナ回復 同種融合 分裂
アースボール レベル1 全長約30センチ
HP 300
MP 300
攻撃力 100
守備力 100
素早さ 100
魔法 アース
能力 MP回復 砂化 同種合体
ラビット レベル1 全長約1メートル
HP 100
MP 60
攻撃力 50
守備力 50
素早さ 100
魔法 スリープ
能力 疾走
ザラ スライムアース レベル10 全長約20センチ
HP 650
MP 600
攻撃力300
守備力300
素早さ300
魔法 アース
能力 捕食 触手 砂化 水吸収 砂塵 土壁 土操作 石槍




