128 森の魔物の討伐④
森の南のエリアではロレン将軍率いる兵士3000が布陣し、魔物を討伐していた。
ロレン将軍は兵士10人1組の隊を100隊ほど編成し、本営に接近する少数の魔物の群れを討伐させ、それと同時に大規模な魔物の群れを捉えるために大量の斥候を放っており、斥候が100を超える魔物の群れを捉えた場合には倍の数の兵士を編成して殲滅させているのだ。
「……失礼します」
ルーミナ将軍は本営の中心部に設けられた一際大きいテントの中に入る。
テントの中ではロレン将軍と側近3人がテーブルをはさんで相対しており、ロレン将軍が側近に指示をだして1人がテントから出て行った。
「……ルーミナ将軍か……やはり『瞬間移動』というのは便利なものだな。まぁ、掛けてくれ」
側近2人が椅子から立ち上がり、ルーミナ将軍に敬礼する。
ルーミナ将軍はロレン将軍の言葉に頷いて椅子に腰掛けた。
「それで南西と南東の様子はどうなんだ?」
「南西はゼネロス隊が行方不明になりました。おそらく、全滅したと思われます。代わりにシルルン隊が到着しましたが、そのシルルン隊も姿を消しました」
「……ゼネロス隊については残念だとは思うがそもそも無茶な配置だからな……だが、シルルン隊はなぜ姿を消したんだ?」
「シルルン隊が消えたので現在は拠点を破棄していますが、拠点を護っていた者たちから聞いた話では、シルルンは神話級の魔物であるフェンリルをペットに加えており、3人だと思われていた仲間も20人ほどに増えていて単独で東に進んだようです」
「……さすが英雄に名を連ねるだけのことはある。まぁ、俺はシルルンがハイ マンティスを連れているのを見ているからそれほど驚きはしないがな」
「私は驚いていますよ。ハイ マンティスとは格が違いますからね。フェンリルは上位種よりも上の存在なのですよ?」
「ははは、頼もしいじゃないか。それほどの力を持つ者が我が国の英雄なのだから」
ロレン将軍は満足そうな笑みを浮かべている。
「だからこそです。シルルンは国外でも評価されはじめてるんですよ。実際にアダックのカスタード王がシルルンを欲しがっていますからね」
「それはいかんなぁ……だが、我が国の王は賢明な方だ。何か手を打っておられるだろう」
「そうだといいのですが……」
「南東のほうはどうなんだ?」
「……第三拠点作りに失敗したので当面、第二拠点から動けない状態ですね」
「それほど魔物の数が多いのか?」
「確かに魔物の数も原因ですがハイ クラブとロブスターが現れたからです。その戦いでリック隊とゾル隊に死者がでています」
「……リック隊に死者がでたのか……クラブであの強さだから上位種となると想像を絶する強さなのだろうな……」
「あえて言わしてもらいますが戦うのは避けたほうがよろしいかと……ゾピャーゼという冒険者が『鑑定』でロブスターを視たところ攻撃力が3200だったと言っていました。この数値は最上級職でも全く相手になりません」
「3200だと!? それでは話にならん……」
「……ですので速やかに撤退できるようにしておいたほうがよいと思うのです」
「……確かにな。撤退の手順は考えておこう……だが、俺はそのような強い魔物と戦う必要があるのか疑問に思っている」
「どういう意味ですか?」
ルーミナ将軍は怪訝な表情を浮かべる。
「布陣して日数が経過する度に俺はある疑惑がより深くなってきたんだ」
元々この森の魔物の討伐は森の中で200を超える魔物の群れが暴れ回っているという冒険者の報告から始まったのだ。
冒険者ギルドが調べたところ、暴れ回っている魔物は500以上の群れも確認され南下しているとの報告を受けたシャダル王がロレン将軍に討伐の命を出し、ロレン将軍が冒険者ギルドに協力要請を発したのだ。
「……」
「俺は魔物の群れがユユカの街を襲う可能性を考えて森の南に布陣したが、魔物の群れがユユカの街を襲う気配はない」
「……えっ!?」
突拍子もない発言にルーミナ将軍は戸惑うような表情を浮かべる。
「魔物の群れは南下傾向にあると思われているが、実際は縦横無尽に移動しているんだ。つまり、魔物の群れが南下して森を出たとしてもユユカの街を襲わないと俺は考えている」
「……興味深い話ですね」
「だが……この森で何かが起こっていると俺は思うがそれが何なのかまでは分からないがな……」
「失礼します!! 魔物の群れ500ほどが接近中とのことです」
テントの中に入ってきた側近が敬礼して顔を強張らせている。
「その魔物の群れの進路を具体的に言ってくれ」
「はっ、まだ数キロ離れていますが東から西に進行中で、進路を変えなければ我が軍から100メートルほど離れた地点を通過すると思われます」
「……迎撃準備を整えろ。だが、出撃せずに本営の前で待機させておけ」
「はっ!」
側近はテントから慌しく出て行った。
「俺も出る……試してみるには丁度いいからな」
ロレン将軍は身支度を整え、ルーミナ将軍と側近を引き連れてテントから出ると、すでに本営の前には1000人の兵士たちが布陣しており臨戦態勢が整っていた。
「……まだ遠いな」
東の方角を一瞥したロレン将軍が呟いて歩きだし、布陣する兵士1000人の横を迂回して兵士たちの正面でその歩みを止めた。
「なっ!?」
これにはルーミナ将軍、側近、兵士たちの顔が驚愕に染まる。
「敵500進路変えずに接近中!! 距離300!!」
斥候が声を張り上げ、兵士たちに緊張が走る。
「ここは奴らの側面を強襲するのが定石かと……」
「……いや、まだ待機だ」
側近の提案を首を振って否定したロレン将軍は魔物の動向を注視する。
「敵500進路変えず!! 距離100!!」
動揺した兵士たちは互いに顔を見合わせて、なぜ指示がないんだと布陣した兵士たちの前で仁王立ちするロレン将軍の背中に兵士たちの視線が集中する。
「……このまま待機だ」
「――っ!?」
正気なのかと思わずルーミナ将軍と側近は驚きの眼差しをロレン将軍に向けた。
そして魔物の群れは進路を変えずにロレン将軍たちの前方を通り過ぎていったのだった。
「……」
兵士たちは臨戦態勢を維持したまま遠ざかる魔物の群れを見つめていたが、完全に視界から消えたのを確認すると一気に脱力した。
「……なぜ魔物は襲ってこなかったのですか?」
ルーミラ将軍は信じられないといった表情を浮かべている。
「それは俺にも分からん……だが、数日様子を見て変化が無いなら帰還するつもりだがな」
「……」
なぜそうなるのか理解できないルーミラ将軍は怪訝な表情を浮かべている。
ロレン将軍が踵を返すと兵士たちは瞬時に二つに分かれて道を空け、ロレン将軍はゆっくりと歩き出し、ルーミラ将軍と側近が後を追う。
兵士たちを通り過ぎてテントの中に入ろうとしたその時に、異変を感じたロレン将軍は反射的に振り返る。
大地が揺れ動き、地中から轟音が響いて土が大きく盛り上がって爆発し、布陣する兵士たちの前に巨大過ぎる魔物が姿を現した。
兵士たちはあまりの恐怖に顔面蒼白になって後ずさる。
ハイ コーコナット クラブ(ヤシガニの魔物)が地中から現れたのだ。
ハイ コーコナット クラブの全長は20メートルを軽く超える巨体で、ロブスター種と匹敵する強さを持つ魔物なのだ。
辺りを見回したハイ コーコナット クラブは兵士たちを視認して巨大な鋏を振り下ろした。
たったの一撃で20人ほどの兵士の身体がぐちゃぐちゃに飛び散り、ハイ コーコナット クラブは兵士目掛けて突撃した。
「うぁあああぁぁああああああああああああぁぁぁ!?」
「ぎぃいゃああああああああぁぁぁあああああああああああああぁぁぁ!?」
布陣している兵士たちは中央をぶち抜かれて100ほどの兵士が弾け飛んだ。
「……な、なんだあの化け物は!?」
「……あれはコーコナット クラブ種です!! 1人なら私の『瞬間移動』で運べますのでロレン将軍は私につかまって下さい。」
「ありがたい提案だが断る……俺は兵士たちを少しでも多く逃がしたいからな……」
ロレン将軍の言葉に側近は真剣な顔で頷いた。
「全軍に告ぐ!! 散開して撤退しろ!! 集結地点は南!! 森の外にて待機しろ!!」
側近が声を張り上げ、撤退の知らせを聞いた兵士たちは蜘蛛の子を散らすように四散した。
反転したハイ コーコナット クラブは右に向きを変え、逃げ惑う兵士たちに突撃して兵士たちは為す術なく肉片と化していく。
ハイ コーコナット クラブは20メートルを超える巨体なのにも拘わらず、その動きは凄まじく速く、必死の形相で逃げる兵士たちを背後から貫いて弾き飛ばして肉片に変えていき、瞬く間に兵士たちは500人ほどが即死する。
「ぐぬぬっ……」
「将軍……我々も撤退いたしますぞ……」
憤怒の表情を浮かべるロレン将軍に側近が怒りに身を震わしながら言った。
「……分かっている」
ロレン将軍は踵を返して歩き出す。
その後ろをルーミナ将軍と側近が追いかけ、上級兵士500人も後を追う。
ハイ コーコナット クラブは執拗に兵士たちを攻撃し、完全に逃げ切るまでに3000人いた兵士たちがその数を半数まで減らされたのだった。
面白いと思った方はブックマークや評価をよろしくお願いします。
ハイ コーコナット クラブ レベル1 全長約20メートル
HP 4600
MP 1300
攻撃力 1200
守備力 700
素早さ 450
魔法 シールド ウォーター アース アンチマジック ファイヤ
能力 鉄壁 剛力 再生 風刃 魔法耐性 治癒 水無効 HP回復
ハイ コーコナット クラブ レベル20 全長約26メートル
HP 9000
MP 3100
攻撃力2000
守備力1500
素早さ670
魔法 シールド ウォーター アース アンチマジック ファイヤ
能力 鉄壁 剛力 再生 風刃 魔法耐性 治癒 水無効 HP回復 毒無効 物理耐性




