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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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124/302

124 トーナの街から南下した森の南西の様子 修修


「うがぁあああああぁぁ!?」


 ハイ アントが吐いた『毒霧』を体に受けた【重戦士】が顔を苦痛に歪ませて跪く。


 そこに後衛の【弓豪】が『三連矢』を放ち、続けて【大魔導師】がファイヤの魔法を唱える。


 三本の矢がハイ アントの胴体を貫き、動きが鈍ったハイ アントに灼熱の炎がハイ アントの体を包み込む。


 一瞬で炭に変わったハイ アントは断末魔の絶叫をあげることなく力尽きた。


 それを確認した【聖職者】が【重戦士】の毒を浄化しようと動き出す。


 だが、【盗賊】が必死の形相で駆けてくる。


「右からアント種とクラブ種の群れが接近してるわよ!!」


 彼らは五匹のハイ アントと戦いを繰り広げており、前衛である【大剣豪】と【魔法戦士】二人がなんとか押し止めている状況なのだ。


「ぐっ!? さすがにこれ以上は無理だ!! 後退するぞ!!」


 冒険者たちの周辺には多数のアント種の死体が転がっており、ゼネロス隊のリーダーであるゼネロスが指示を出す。


 【聖職者】が神経毒に犯された【重戦士】にキュアの魔法を唱えて、毒が浄化された【重戦士】は顔に虚脱したような安堵の色が浮かぶ。


「きゃぁぁあああああああああぁぁぁ!!」


 だが、唐突に【聖職者】の真下の土が盛り上がり、土の中から這い出てきた魔物に強襲されて【聖職者】と【重戦士】の体が弾け飛んだ。


 地下から【聖職者】と【重戦士】を襲撃したのはハイ アースワームである。その全長は十メートルを超える巨体なのだ。


 頭を振って起き上がった【重戦士】は何が起こったのか分からずに呆然としていたが、すぐに我に返って【聖職者】の元に猛然と駆ける。


 しかし、地面に横たわる【聖職者】の体は全身のいたるところから骨が飛び出して、首や背骨がおかしな方向に曲がっており、すでに【聖職者】は事切れていた。


 彼らは同じ場所で長く戦い過ぎて、ハイ アースワームに所在を探知されたのである。


「……この化け物がぁああああぁぁ!!」


 怒りに顔を歪めた【重戦士】がハイ アースワームに狂ったように鋼の斧を振るう。


 だが、ハイ アースワームが這い出てきた穴から魔物が次々に姿を現す。


「そこをどけぇ!! 焼き殺してくれるっ!!」


 【大魔導師】が声を張り上げるが、怒りに我を忘れた【重戦士】には届かなかった。


 穴から這い出てきたのは通常種のアースワーム三匹と通常種のセンチピード七匹で一斉に【重戦士】に襲い掛かる。


 アースワームたちの攻撃は高い防御力を誇る【重戦士】には全くダメージを与えることができないが、手足に巻きついて【重戦士】の動きを鈍らせる。


 センチピードたちの猛攻を受けて、ようやく囲まれていることに気づいた【重戦士】だが、センチピードがコンフューズドの魔法を唱えて、抵抗に失敗した【重戦士】は混乱して再び理性を失い鋼の斧を振り回す。


 【弓豪】が『三連矢』を放ち、三本の矢がセンチピードの胴体を貫通して血飛沫が上がる。


 怒り狂ったセンチピードは【弓豪】に目掛けて突進し、その動きに連動して四匹のセンチピードが後を追う。


「ファイヤ!!」


 【魔法師】はファイヤの魔法を唱えて、炎に体を焼かれたセンチピードが奇声を上げる。


「くらえ!! 『三連矢』!!」


 【弓豪】が放った三本の矢がセンチピードの頭と体を貫いて、センチピードは突っ伏して沈黙した。


「ファイヤ!」


 【大魔導師】がファイヤの魔法を唱えて、広範囲に広がる炎が四匹のセンチピードの体を焼く。


 だが、二匹は炭となって崩れ落ちたが、残る二匹が炎に体を焼かれながら【大魔導師】に目掛けて突撃する。


「テレポート!」


 【大魔導師】はテレポートの魔法を唱えて、その姿が掻き消える。


 唐突に標的がいなくなり、センチピードたちが面食らって動きを止める。


 センチピードたちが辺りを見渡すと左方向にある大きな石の上に【大魔導師】が立っていた。


 憤怒の形相のセンチピードたちは体の向きを変えて一直線に【大魔導師】に目掛けて突進した。


「燃え尽きろ!! ファイヤ!」


 【大魔導師】がファイヤの魔法を唱えて、灼熱の炎が一瞬でセンチピードたちの体を焼き尽くし、センチピードたちは灰になって崩れ落ちた。


 一方、混乱している【重戦士】は近づく者を斧で斬り裂いており、ハイ アースワームとアースワーム三匹を倒していた。


 残った二匹のセンチピードに【重戦士】が襲い掛かる。


「……な、なんてタフな奴だ。これなら間に合うぜ!!」


 口角に笑みが浮かんだ【弓豪】は鋼の弓を引き絞って、センチピードに狙いを定めて『三連矢』を放つ。


 三本の矢はセンチピードたちの胴体を貫いたが、センチピードたちが体の向きを変えて【弓豪】に目掛けて猛然と突き進む。


 【弓豪】は再び『三連矢』を放とうとするが、彼の真下の土が盛り上がり、土の中から這い出てきたハイ アースワームに強襲されて【弓豪】の体が宙に舞う。


「またか!? だがどう動く?」


(ハイ アースワームか? 手負いのセンチピードか?)


 【大魔導師】は【魔法師】の動向を注視する。


「うぁあああぁ!? ファイヤ!!」


 【魔法師】は自分に最も近いハイ アースワームにファイヤの魔法を唱えて、炎に包まれたハイ アースワームが体を焼かれて地面をのたうち回る。


「ちぃ……そっちか!! ウインド!」


 不満げな顔をした【大魔導師】がウインドの魔法を唱えて、巨大な風の刃がセンチピードの体を縦に真っ二つに切り裂いて、センチピードは体から大量出血して即死した。


「ぐうっ……」


 地面に突っ伏していた【弓豪】が上体を起こして立ち上がる。


 【弓豪】は炎に焼かれてのたうち回っているハイ アースワームに鋼を弓を引き絞って狙いを定めるが、穴から二匹のセンチピードが這い出てきて狙いをセンチピードに変更した。


「ファイヤ!!」


 ハイ アースワームがのたうち回る姿に恐怖した【魔法師】が、射程限界まで下がってファイヤの魔法を唱えて、さらに炎に体を焼かれたハイ アースワームは奇声を上げてのたうち回る。


 前衛が不在の戦いは後衛職からすれば恐怖でしかない。


 彼らが最上級職に至ったとしても、一撃でも受ければ【聖職者】のように即死するからである。


「『三連矢』!!」


 後退しながら【弓豪】は『三連矢』を放ち、三本の矢がセンチピードたちの体を貫いたが、血を噴き出しながらセンチピードたちが【弓豪】に襲い掛かる。


「ぐっ……」


(想定よりも速い!!)


 決死の表情の【弓豪】が次の矢を弓につがえていると彼の前に透明の盾が展開した。


 【司祭】がシールドの魔法を唱えたのだ。


 驚きの表情を浮かべる【弓豪】の傍に【大魔導師】がテレポートの魔法で出現し、出現すると同時にウインドの魔法を唱えた。


 巨大な風の刃がセンチピードたちの体を上下に分断し、大量の血を噴出させて絶命した。


「今のは綱渡りだったな……」


「感謝します!!」


 【弓豪】は尊敬の眼差しを【大魔導師】に向けている。


「きゃああああああああぁぁぁ!?」


 唐突に絶叫が響き渡り、【大魔導師】と【弓豪】が声が聴こえた方向に振り向いた。


 そこには【司祭】が倒れており、その傍らには【司祭】の首が転がっていた。


 その光景を目の当たりにした【大魔導師】と【弓豪】は言葉を喪失する。


 それをやったのが混乱している【重戦士】だからだ。


 魔物を倒して標的がいなくなった【重戦士】が、一番近い位置にいた【司祭】に襲い掛かったのだ。


 未だ混乱している【重戦士】は斧を振り回しながら、次の標的をハイ アースワームに定めて猛然と駆ける。


「……ぐっ、退くぞ!!」


 【大魔導師】がゆっくりと後退すると、【弓豪】も頷いて後退し始める。


「なっ!? 見捨てるんですか!?」


 【魔法師】の声に非難の色が混ざる。


「助ける手段がないのよ!! 混乱を治すにはキュアの魔法が必要なのよ……だけど、もう……」


 【盗賊】と【魔法師】の視線は動かない【聖職者】【司祭】に向いている。


「……そ、そんな……だけど……」


 【聖職者】と【司祭】が戦死し、さらに【重戦士】まで失おうとしている現実に思考が追いつかない【魔法師】は困惑を禁じ得なかった。


 彼らが隊を結成して以来、初めての戦死者だからである。


「行くわよ!! 右から魔物の群れが迫ってるのよ!!」


 【盗賊】が【大魔導師】たちの後を追いかけると、残された【魔法師】も泣きながら【盗賊】の後を追いかける。


 一方、前衛たちは突撃してくるハイ アントを躱しながら後退していた。


 ハイ アントは上位種の中では弱い部類の魔物だが、『毒霧』が厄介なのだ。


 前衛たちは『毒霧』を警戒して接近戦を行わず、後退しながら距離を取って遠距離攻撃で一匹ずつ確実にダメージを与えて倒していく。


 後衛たちが前衛たちに合流すると、ハイ アントは残り二匹まで減っていた。


 ゼネロスたちは遠距離攻撃の集中砲火を行って、ハイ アントたちは殲滅したが、魔物たちの追撃を恐れて彼らは移動し続けていた。


 しかし、三人もの戦死者がでたことにより、重苦しい空気がゼネロス隊を包んでいた。


「……とにかく拠点に戻って態勢を整える必要がある」


「拠点に戻ったところでヒーラーがいないだろ……」


 【大魔導師】が重い口を開いたが、【大剣豪】が悲観的な言葉を返した。


「だからといって退く訳にはいかんだろ!!」


「……もういい……ケンカはするな……俺たちは戦場から離脱する……」


 そう言葉を発したゼネロスは、青い顔で、罪人のようにうなだれる。


「なっ!?」


 だが、ゼネロスに反論する者はおらず、ゼネロス隊は戦場から消えたのだった。
















「お前たちだけなのか? ゼネロスはどうした?」


 『瞬間移動』で冒険者たちの拠点に出現したルーミナ将軍(中将)が冒険者たちに問い掛ける。


「……半日以上経っていますが戻っていません……」


「……なんだと?」


 ルーミナ将軍は苦虫を嚙みつぶしたような顔をした。


 ここはトーナの街から南下した森の南西にある拠点、つまり、シルルンが任されたエリアなのだ。


 拠点といっても冒険者は十人ほどしかおらず、この拠点の役割は魔物がどこまで進行してくるのかを見定めるものなのだ。


 そのため、魔物が進行してくれば拠点の位置はどんどん後退していくことになる。


「……戻ってこないということは全滅したと考えるのが自然だな……ゼネロス隊は自ら志願してここに来たんだからな」


 当初、ゼネロス隊はリックが指揮する南東のエリアに参戦する予定だっが、冒険者が全くいない南西に行くとゼネロスが言いだしたのだ。


 無論、冒険者全員が無理だと言ってきかせたが、ゼネロスは制止を振り切って南西に向かったのである。


 ゼネロスを強行させたのは大穴攻略戦以降についた二つ名のせいだった。


 【棒立ちのゼネロス】


 共闘する冒険者たちがハイ スパイダーと戦いを繰り広げる中、彼だけは何もできずに棒立ちだったからついた侮蔑の二つ名だ。


 しかし、彼は納得していなかった。


 何もできなかったのではなく、何もしなかったのだと。


 石橋を叩いて渡るタイプの彼は、作戦が破綻した瞬間に動くのを止めたのだ。


 次の瞬間、どういう展開になるのか全く予想できなかったのがC3ポイントなのだとゼネロスは振り返る。


 現にさらに三匹ものハイ スパイダーが現れて、アラクネまで出現したのだ。


 現場の状況を知らない冒険者たちはゼネロスを嘲笑うが、仲間たちは誰も離れなかった。


 そして仲間たちが提案したのだ。


 単独での森の防衛は、ふざけた二つ名の払拭にはいいチャンスだと。


 だが、戦線から勝手に離脱した以上、ゼネロス隊が国内で活動するのは難しいだろう。


「ゼネロス隊が戻ってこないのですから、私たちもここを引き上げますよ?」


「いや、それは早計だ。シルルン隊が拠点ここに向かってるからな。お前たちはそれまで拠点を維持してほしい」


「……シルルン隊がここに!?」


 右肩にスライムの模造品をのせた男の表情がぱーっと明るくなる。


「おそらく今日中にはトーナの街から出発するはずだから三日後には到着するだろう」 


「分かりました」


「そうか、なら私は行くとする……任せたぞ」


 そう言うと、ルーミナ将軍は『瞬間移動』を発動してその場から掻き消えたのだった。


 彼女は将として兵を率いて前線に立つことはない。


 それはルーミナ将軍が情報部のトップであり、極めて稀な能力である『瞬間移動』を所持しているからである。


 だが、ルーミナ将軍の『瞬間移動』は日に三回しか使えず、ラーネに比べて著しく性能が劣る。


 それでもシャダル王は逸材だと将軍に抜擢し、情報部のトップに据えたのだった。


「シルルン隊か……」


「だよなぁ……悪いとは言わないがどうせならラーグ隊かホフター隊に来てほしかったぜ」


「そうだよな。そうでもなきゃ、この状況はどうにもならんからな……」


「ていうか、シルルンは本当に強いのか?」


「デーモンを単独で倒したとか聞いたがホントかどうかも分からんからな……」


「何より大穴攻略戦後は大穴にも姿を見せないし、学園にもほとんどいないらしいからな。いったい何をやってるんだという話だ」


「英雄に名を連ねてはいるが運が良かっただけじゃないのか? 運良く大穴の最深部までついていけただけの話だと俺は思うけどな」


 冒険者たちの話を、スライムの模造品を肩にのせている男が呆れた表情で聞いていた。


 彼のファクス。スライムの模造品を肩にのせていることで分かるようにシルルンのファンである。


「お前ら本当に馬鹿だな」


「なんだと!?」


「最深部まで追従した奴はかなりいたはずだが英雄に名を連ねていないよな? お前たちの理屈では最深部まで追従すれば英雄になれるんじゃなかったのか?」


「……ぐっ」


「シルルンさんはアース ドラゴンを倒した功績で英雄に名を連ねることになったんだ」 


「……」


「それにあの聡明なシャダル王が追従しただけの奴を英雄と言うと思うのか? お前たちはシャダル王のことも馬鹿にしてるように思えるがな」


「……英雄のことはそうだとしてもラーグ隊やホフター隊より弱いことは確実だろ」


「いや、単独でデーモンを倒したという噂が本当なら少なくとも同じぐらいの強さだとも言えるだろう」


「それこそありえんだろう!! あの極悪非道のデーモンを単独で倒すなんて……」


「それはお前がそう思ってるだけの話だろう。アース ドラゴンを倒したシルルンさんがデーモンに負けるとは言い難いからな」


 ファクスと冒険者たちが睨み合っていると、唐突に突風が駆け抜ける。


 何事だとファクスたちが辺りを見回すと女が立っていた。


「あんたたちはもう帰っていいってボスが言ってるわ」


「……はぁ? 何をいってるんだお前は?」


 冒険者たちは怪訝な表情を浮かべている。


「私はシルルン隊のリジル。職業は【怪盗】よ。主に魔物の索敵を任されてるわ」


「なっ!? シルルン隊だと!? もう来たのか!?」


 冒険者たちは驚きの表情を浮かべている。


「そうよ。だからあんたたちは帰っていいって言ってるのよ」


「……シルルン隊は三人だと聞いていましたが【怪盗】もいたんですね」


 シルルン隊の到着に満面の笑みを浮かべるファクスがリジルに尋ねる。


「はぁ? 何を言ってるのよ。うちはもっといっぱいいるわよ。あそこを見てみなさいよ」


 リジルが指差した方角に冒険者たちが視線を向けると、そこにはミスリルで装備を固めた女たちが進軍していた。


「なっ!? ミスリルのフル装備だと!?」


 冒険者たちは雷に打たれたように顔色を変える。


「あれはうちの前衛で【シルルンガールズ隊】っていうのよ。通称ブラ隊」


「えっ!? シルルンガールズ隊ってことはシルルン隊とは違うんですよね?」


「……それが同じ隊なのよ。その辺はボスは気にしないのよね」


 リジルは恥ずかしそうに顔を赤面させた。


「シルルン隊は一気に隊員を増やしたんですね!!」


 ファクスは喜びに打ち震えている。


「まだまだいるわよ。次はうちの中衛よ」


 リジルが指差した先にはアミラ、ダダ、デテが先頭を歩き、その後ろにゼフド、アキ、リザ、ロシェール、ラフィーネ、ヴァルラが続く。


「……マ、マジかよ!?」


「……また全員がミスリルのフル装備じゃねぇか」


 冒険者たちはショックを露にしている。


「ふふふ、うちの中衛は強いわよ。なんてったって最上級職が六人もいるんだから」


「えっ!?」


 冒険者たちは驚きを禁じ得なかった。


「……あの赤い鎧はウルツァイトですよね? もしかしてあの人がラーネさんなんですかね?」


「へぇ、少しはうちのことを知ってるみたいね……でも、違うわ。あれはリザよ。職業は【竜騎士】」


「なっ!?」


 極めて稀な職業の【竜騎士】と聞いて冒険者たちは思わず自分の耳を疑った。


「……そ、そうだったんですか。私が知っている情報とはまるで違いますね」 


 興味深げな表情を浮かべるファクスは羊皮紙に何やら書きこんでいる。


「そしてあれがうちのボスとペットたちよ」


 リジルが指差した先には二匹の巨大な魔物が歩いていた。


「な、何なんだよあれは!?」


「……で、でけぇ!?」


「マ、マジかよ!?」


「……片方は狼だよな? もう一匹は猫か? ……いや、ヌイグルミなのかあれは?」


「ていうか、何匹ペットがいるんだ?」


「あ、あの数を一人で使役してるのか……」


 冒険者たちは信じられないといった形相を晒している。


「金色の狼は神話級の魔物でフェンリルっていうのよ。名前はシャインで、もちろんボスのペットよ」


 リジルはしたり顔で言った。


「……スライムテイマーは弱い魔物しかペットにできないと聞いていましたが、どうやらシルルンさんには当てはまらないみたいですね」


 スファクスは興奮して体をブルブル震わせている。


「で、シャインの背に乗っているのがラーネさんよ」


 シャインの背にはラーネが腰掛けており、マーニャもシャインに対抗して『伸縮自在』でシャインと同じぐらいに巨大化してメイを背中に乗せている。


「……あ、あれがラーネさんですか……噂では上位種を倒せる腕だと聞いています」


「上位種なんか楽勝よ!! ラーネさんはうちのNO.1アタッカーなのよ」


「……」


 ファクスは無意識に息を呑んだ。


 巷で流れている噂よりもシルルン隊は遥かに強いのだと彼は確信したのだった。


「まぁ、これで分かったでしょ。あとは私たちに任せてあんたたちは帰るのよ。じゃあね」


 リジルは踵を返して歩き出す。


「ま、待ってください!! 私も連れていってくれませんか!?」


「はぁ? なんでよ?」


 足を止めて振り返ったリジルが訝しげな顔をした。


「わ、私はシルルンさんのファンなんです!! どうかお願いします!!」


 ファクスは真剣な硬い表情で深々と頭を下げる。


「ボスのファンね……それでスライムの偽者を肩にのせてたのね」


「は、はい!! 【ダブルスライム】の熱烈なファンは肩にスライムの模造品をのせてるんですよ!!」


「なるほどね……でもなんで二匹のせてないのよ?」


「……若い男が二匹のせると衛兵に捕まるんですよ。英雄に化けて悪さをしようとしてると思われるようで……」


「……そ、そうなんだ。まぁ、あんただけならいいじゃないかしら。その代わり、自分の身は自分で守るのよ」


「はい!! もちろんです!!」


 ファクスは屈託の無い笑顔を見せた。


「じゃあ、行くわよ」


 リジルがシルルンに向かって歩を進めると、ファクスもリジルの後を追いかける。


 残された冒険者たちはそれを呆然と見送ったのだった。  

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