12 大穴への進軍 修
「ちょっとどうなってるのよ?」
パールは鋭い眼つきで睨んでピクルスを問い詰めていた。
一週間が経過してもシルルンが学園に帰還しないからだ。
「い、いや、テイムの修練に行ったんだから一週間以上かかってもおかしくないよ」
(こ、怖ぇ……)
ピクルスは思わずたじろぐ。
「ハイウルフが二匹も同行してるのになんでそんなにかかるのよ」
「いや、魔物を狩りに行ってるわけじゃないからね……」
「シルルンが前に森に行ったときは馬やスライムを連れてきてたじゃない。魔物使いなら簡単なんでしょ?」
「いや、シルルンは別格。ていうか彼は天才だと思うよ」
その言葉に、パールは眉を顰める。
幼い頃からシルルンは武術、学術など全てが及第点だったからだ。
「でも同行している二人はシルルンより格上の魔物使いなんでしょ?」
「まぁ、戦闘目的で順列をつければそうなるけどね」
「ほらやっぱりね」
パールは満足そうな笑みを浮かべた。
「俺が言いたいのはテイマーとしての資質のことだよ。俺は馬ですら二年かけてやっと思い通りに命令させることができるようになったけど、いまだにペット化に成功したことはないんだよ。ペット化するとお互いに言葉が理解できるようになるらしいけど俺は一度もない」
ピクルスは決まりの悪い顔をした。
つまり、彼の職業は【街人】なのだ。
「……」
パールは再び不機嫌そうな顔に戻る。
「知らないかもしれないけど【魔物使い】は上級職なんだよ。つまりシルルンは動物使い科にきて二ヶ月で【動物使い】をすっ飛ばして、自力で【魔物使い】になった資質の塊みたいな奴なんだよ。同行してるテックやミーラは先祖代々からの魔物使いの一族で幼い頃から英才教育されてるいわばエリートだけど、その二人がシルルンを別格扱いしているからやっぱりシルルンは天才なんだよ」
「――っ!?」
(魔物使いが上級職……)
パールはショックを露わにした。
だが、幼い頃からシルルンを知る者として過大評価が過ぎるとパールは疑念が拭えなかった。
何かあればすぐに逃走するのがシルルンであり、そんなシルルンが天才だといわれても彼女に認められるはずもなかった。
ちなみに、彼女の職業は下級職の【剣士】だが、それでも十五歳までに下級職に転職できる者は少なく逸材であることは間違いない。
「まぁ、時間はかかると思うけど冒険者風の美人が一緒についていったみたいだから戦力的には安心だと思うよ」
「なっ!? あの女が一緒って聞いてないわよ!!」
パールは忌々しげな表情を浮かべている。
「えっ? そこ重要?」
ピクルスは面食らってぽかんとする。
「大問題よっ!!」
(すぐに森に行かないといけないわね)
パールはピクルスをキッと睨みつけて、足早に去っていった。
しかし、ハイ ウルフが二匹とリザがついているのであれば、普通に考えれば森へ向かう必要はないはずだが、そのこと自体にパールは全く気づいていなかった。
しかし、それはある意味、仕方のないことだとも言える。
シルルンの幼馴染たちは親同士が勝手に決めた婚約者候補だった。
誰と誰がということではなく、誰と婚約が決まっても本人の意思は関係ない。
良縁があり、家の繁栄に繋がるのであれば、当然のように幼馴染以外の家とも婚約するだろう。
そういう環境で育っているのでパールの場合、恋愛感情が芽生えることはなかった。
パールが幼馴染たちに初めて出会ったのは六歳の時だった。
クリスとガルは武術も学術も卓越しており、武術に関してはパールも及ばないレベルだった。
しかし、それは当たり前の話で、彼らは家の威信をかけて英才教育を施されているからだ。
この二人も地獄のような日々を過ごしてきたのだろうとパールは思っていたのだった。
だが、シルルンだけは違った。
シルルンは全てが及第点レベルで、それ以上を求められると逃走するのだ。
女幼馴染たちはそんなシルルンを目の当たりにして愕然としたが、それと同時に彼女らは腸が煮えくり返る思いだった。
彼女らにとって最悪の事態はシルルンが婚約者に選ばれることであり、そうなる未来を想像した彼女らは心の底から恐怖した。
それゆえに、パールたちは修羅と化したのだ
彼女らは泣いて逃げ惑うシルルンを執拗に追いかけて強制的に鍛えたのだ。
それは訓練という名の虐待で苛烈を極めた。
シルルンは何度も死線を彷徨って、その度にポーションで傷を癒される。それが何度も繰り返されたのだ。
彼はこの経験によりトラウマを植え付けられたのだ。
しかし、パールが十歳の時にシルルンの家から婚約候補の辞退が各家に伝えられた。
よくあることなので幼馴染たちは別に驚くことはなく、他に良縁がみつかったぐらいに考えていた。
だが、実際はシルルンが家出して逃走したからだった。
パールは親にシルルンの家は他に良縁がみつかったのかと何気なく聞いてみると意外な答えが返ってきた。
あの家は、家の繁栄を諦めたのだと。そして、シルルン自身が家を継ぐ意思が皆無なのだという。
パールはこの話を聞いて絶句した。
そんなことが許されるはずがないにも拘わらず、シルルンの家はそれを許したのである。
そんなことが可能なのかと彼女は思うが、どう考えても無理な話だった。
しかし、それをやってのけたシルルンに良くも悪くもパールが一目置いた瞬間だった。
パールは足早に女子寮に向かっていた。
しかし、彼女はハズキに呼び止められて、学園長が全体集会を行うので全員グラウンドに集合とのことを告げられる。
「この急いでる時になんだというのよ!?」
パールは苛立ちを露わにした。
全体集会は理由なく欠席すると退学もありえるのだ。
彼女は悔しそうに固く唇を噛みしめるのだった。
戦士科のグラウンドには、一年生から四年生の生徒たちが集まっていた。
「一体、なんの話があるんだよ?」
「そんなの知るわけないだろ」
「学園長が全体集会で話すのなんて初めてなんじゃないか?」
突然の全体集会なので生徒たちはにざわついていた。
しばらくすると、教官たちと学園長が姿をみせる。
学園長は場が静まるのを待ってから語り始めた。
「ん~~~、南東の森で行方不明者が多発しておるのを皆は知っておるかの? うちでも百人以上の生徒がまだ帰ってこぬ。生きておると信じたいが難しいじゃろな」
学園長は沈痛な面持ちでそう告げた。
生徒たちは驚きの表情を見せる。
彼らは南東の森に入って帰ってこない生徒がいることは知っていたが、それが百人以上いるとは知らなかったのだ。
「それでじゃ、王より書状が届き南東の森に行くのは控えるようにと書状には書かれてあった。だから、森に行くのは禁止とする。どうしても行くというなら男子生徒はこのアウザー教官を倒してから行くんじゃな」
その言葉に、学園長の傍らに進み出たのは、武学最強のアウザー教官だった。
彼の体は筋骨隆々に鍛え上げられており、顔は厳つく、その顔からは凶悪犯罪者を連想させる。
あだ名をつけるとしたら悪党が最も適切だろう。
「どうした、かかってこぬのか?」
男子生徒は震え上がり、目の中に絶望の色がうつろう。
すでに腕に覚えがある生徒たちはアウザー教官に挑んで全員敗れ去っていた。
当然、クリスやガルも挑んで一方的に打ち負かされている。
そもそも、これほどの実力者がなぜ武学の教官を勤めているのかは謎だった。
「ん~~~女子生徒で、どうしても行きたいというなら儂とチュ~じゃ!! もちろん、口と口とで一時間じゃ!! 本気じゃぞ?」
学園長はニヤリと笑い、女生徒たちは害虫でも見るような目で学園長を睨んだ。
「まぁ、そのぐらい今の森は危険じゃということじゃ。情報では森の中に大穴が各地にできており、その穴に引きずり込まれるらしいのじゃ。王は大穴に軍を派遣しその数五千じゃ。王がどれだけ本気か分かるじゃろ? 森に行ったおぬしらを助ける余裕などないから邪魔するなということじゃ。ちなみに今の森にはハイ スパイダーも徘徊しているらしいぞ」
学園長は話し終えると教官たちと共にグラウンドを後にした。
全体集会終了と同時に生徒たちは一斉に騒ぎ出した。
「今、森はどうなってんだ?」
「五千ってどんだけ本気なんだよ!!」
「ハイ スパイダーは無理だろ……」
「なんでそんなのが徘徊してんだよ」
生徒たちの話題は尽きなかった。
そんな中、パールは教官にシルルンの安否の情報はないかと尋ねた。
だが、その様な情報はなかった。
彼女は森に向かうと教官に主張したが、森へ行っても軍が包囲しているので入れないと言われて、結局、待つしか方法はなかったのだった。
トーナの街から南東にある森の中では、大穴周辺の魔物の討伐が大規模に行われていた。
冒険者ギルドが発した入場制限は一転して、指定した大穴周辺の魔物の討伐依頼に変更されたのだ。
指定した大穴とは、ベータが発見した大穴のことである。
この大穴周辺に限って討伐依頼が出されているので、各キャンプ村から冒険者たちや狩人たちが殺到した。
この魔物討伐依頼は通常の報酬額の二倍が提示されており、討伐した魔物の首をもっていけばその場で換金される。
現在、軍は大穴を中心として、そこから二キロメートル四方の四つ角に拠点を設営していた。
四つの拠点が完成すると、外からの魔物の進入を防ぐために拠点を柵で繋ぐ予定だ。
軍はこの作業に二千名の兵を投入していた。
軍の本営は森から五キロメートルほど離れた森の外に陣取っている。
そして、軍の調査隊の先行部隊が大穴に突入を開始した。
魔法使いがライトの魔法を唱えて、光り輝く球体が大穴内部を照らす。
光り輝く球体が照らす範囲には魔物の姿はなかった。
魔法使いたちは次々にナイトビジョンの魔法を唱えて、兵士たちは暗視が可能になる。
ナイトビジョンの魔法の効果は最低でも三日間は継続する。
だが、それを超える進軍もあり得るので、兵士たちは松明も所持していた。
A隊五十名がロープをつたって慎重に下りていく。
A隊は三百メートルほど下りたところで、直径百メートルほどの広さの部屋に下り立った。
魔物の気配はない。
A隊はこの部屋をAポイントと名付けた。
部屋からは一本だけ洞穴が掘られており、幅、高さ共に五メートルほどの洞穴だ。
この洞穴をAルートと名付けた。
さらに下りてくる途中の百五十メートル地点に洞穴が二ヶ所発見された。
森方向に掘られている洞穴をBルート、トーナ方向に伸びている洞穴をCルートと名付けた。
A隊隊長はここまで調査すると斥候を放って調査内容を報告した。
A隊はAポイントにて待機する。
その調査報告を元に新たな部隊が出撃し、指示が出された。
A隊(兵士五十名と斥候五名と魔法使い一名)はAルートへ。
B隊(兵士五十名と斥候五名と魔法使い一名)はBルートへ。
C隊(兵士五十名と斥候五名と魔法使い一名)はCルートへ。
各隊がそれぞれのルートに進軍を開始する。
次に工兵隊五十名がAポイントに拠点を設営し、予備兵五十名、衛生兵五十名、僧侶五十名、魔法使い五十名、斥候五十名がAポイントにて不測の事態を想定して待機した。
A隊は、先鋒としてA分隊十名が先行した。
洞穴の幅、高さ共に五メートルほどの通路なので、戦闘になった場合を想定して十人ぐらいが戦いやすいだろうという判断である。
A分隊は洞穴を慎重に進んでいく。
洞穴の作りはしっかりしており、ただ掘られただけのものではなく踏み固められたように硬い。
A分隊は途中で休憩も挟み四十キロメートルほど進んだが、いまだ魔物の姿は確認できなかった。
予定では五十キロメートル地点で、同行している一名の斥候を現状報告のために帰還させてA分隊は待機だ。
「魔物確認!! おそらくレッサー ラットで数は三匹」
先行している斥候が魔物の出現に声を張り上げた。
「いや、大きさから見て通常種のラットだろう」
兵士の一人が自信満々に反論した。
「距離およそ五百メートル!!」
斥候は緊張した面持ちで叫んだ。
「ふっ……」
(だからなんだというのだ……四十キロも進軍した結果がたかがラット三匹だと?)
顔を顰めた分隊長が鼻で笑う。
「敵、来ます!!」
斥候の緊迫した声が響き渡り、兵士たちが恐ろしく真剣な表情で分隊長を見つめて命令を待つ。
「蹴散らしてやれ!!」
分隊長は自信ありげな表情で命令を下した。
「はっ!!」
兵士たちは抜刀して接近するラットたちに身構えた。
「――っ!? 前方から敵多数接近っ!!」
斥候は声と表情を強張らせる。
「なんだとっ!?」
分隊長が声を張り上げた瞬間、地面から触手のような魔物が多数出現し、兵士たちの足に絡みついて動きを阻害した。
レッサー アースワーム(ミミズの魔物)だ。
虚をつかれた兵士たちにラットたちが襲い掛かる。
「ぎゃあああぁぁ!!」
ラットたちに噛みつかれた兵士たちはレッサー アースワームたちが脚に絡まり、安易に動くことができなくなる。
「クソッ!! 離しやがれっ!!」
兵士たちは剣でレッサー アースワームを斬り裂くが、前方から接近する多数の魔物の群れが兵士たちに襲い掛かる。
「うぁあああぁあああああぁぁ!?」
「ぎゃああああぁぁああああああぁぁ!?」
兵士たちは次々に魔物の群れに噛みつかれて身体から血飛沫が舞い、さらに多数のレッサー アースワームが兵士たち絡みついた。
「なっ、なんだあれはっ!?」
天井を駆ける魔物の群れを目の当たりにした分隊長は目を剥いて驚愕した。
レッサー モール(モグラの魔物)だ。
十匹以上のモール種たちが兵士たちの頭上を駆け抜けて、後方に回り込んだ。
その群れの中に一際大きい個体がいた。
通常種のモールだ。
その全長は三メートルを超える巨体なのだ。
モールはアースの魔法を唱えて、無数の岩や石が兵士たちに直撃して、兵士たちは吹っ飛んで倒れた。
レッサー モールの群れは倒れた兵士たちに食いつき、兵士たちは身体から力が抜け落ちて行動不能に陥った。
レッサー モールは『麻痺牙』を所持しており、牙には麻酔の効果があるのだ。
退路を断たれたA分隊が、Aポイントに戻ることはなかった。
A分隊が進軍してから二日が経過していた。
AポイントでA分隊からの連絡を待つA隊隊長は重い口を開いた。
「十名で出撃させたのが裏目に出たか……全軍で出撃する」
その言葉に、兵士たちは表情を強張らせて頷いた。
A隊隊長は予備兵から十名を補充してAルートへ進軍する。
A隊は四十キロメートル地点で、多数の軍の支給品を発見した。
兵士たちは支給品を回収し、しばらくその場に留まったが魔物が現れることはなかった。
A隊は警戒しながら進軍し、五十キロメートルほど進んだところで広い部屋に出たが魔物の姿はなかった。
部屋は直径三百メートルほどの広さで、兵士たちが部屋の内部を調べると三本の洞穴が掘られていた。
A隊隊長はこの部屋をA1ポイントと名付けた。
そして三本の洞穴を
A1aルート
A1bルート
A1cルート
と名付けて、後方連絡に斥候一名をAポイントに帰還させた。
A隊隊長は三本のルートの前に斥候たちを配置して、警戒態勢をとっていた。
そして、一時間ほどの時間が経過した頃、斥候の緊張した声が部屋に響いた。
「A1aに魔物の気配あり!! おそらくレッサー ラット!! 数は三十以上!!」
「半包囲して迎え撃つぞ!!」
A隊隊長は声を張り上げて十名の部隊を五つ編成し、各隊はA1aルートの洞穴前を半包囲した。
「来ます!! 数五十以上!! さらに増加!!」
「レッサー ラットなどものの数ではない。殲滅しろ!!」
A隊隊長は各部隊に命令した。
五十を超えるレッサー ラットの群れは洞穴から次々と飛び出して、兵士たちに襲い掛かるが兵士たちは剣で斬り殺していく。
「A1bルートから魔物多数接近!!」
「A1cルートからも魔物多数接近!!」
斥候たちは恐怖に顔を歪めて声を張り上げる。
「なんだと!?」
(このままでは魔物に回り込まれて挟撃されることになる……)
A隊隊長は考え込むような顔をした。
「半包囲を解き密集隊形をとる!! 壁を背にして魔物を迎え撃つぞ!!」
A隊隊長は声を張り上げた。
兵士たちは即座に半包囲を解いて隊長の元に集結し、壁を背にして密集隊形をとった。
だが、A1bルートから出てきた魔物の群れはA隊に突撃するが、A1cルートから出てきた魔物の群れはAポイントに繋がる洞穴の前に陣取った。
つまり、退路を断たれたのだ。
しかも、A1a、A1bから魔物の群れは途切れることなく出現し、A隊に襲い掛かる。
「隊長!! このままではジリ貧です。一点突破して洞穴の出口を目指すべきです!!」
「ぐっ、仕方がないな……俺が先頭を切る!! お前らは俺の後に続け!」
A隊隊長は決死の表情を浮かべて部隊の前に進み出る。
だが、天井から五匹のモールが下り立った。
モールたちは一斉にアースの魔法を唱えて、無数の岩や石がA隊隊長に襲い掛かる。
「ぎゃぁああぁぁああああああああぁぁ!!」
数え切れないほどの岩や石が身体中に直撃したA隊隊長は、見るも無残な姿に変わって即死した。
隊長を失ったA隊は、その後、少しの魔物を倒したがそれだけだった。
Bルートを進んだB隊は、三十キロメートル地点で直径三百メートルほどの部屋を発見した。
そこでレッサー ラット百匹ほどと戦闘になったが、あっさり勝利してその部屋をBポイントと名付けた。
Bポイントから、さらに三本の洞穴が掘られており、その三本の洞穴を
Baルート
Bbルート
Bcルート
と名付けた。
B隊隊長は斥候一名を情報把握のために後方に戻し、B隊は警戒態勢をとっていた。
三本の洞穴からは数は少ないものの魔物が現れて襲い掛かってくるが、B隊が各洞穴の前で待ち構えて対処するほどではなかった。
「深度が百五十メートルほどの地点だから魔物が少ないのか……?」
そう呟いたB隊隊長は即座に決断した。
「部隊を三つに分けて進軍する。あくまで偵察だ。無理だと判断すれば迷うことなく撤退しろ」
B隊隊長が作戦を説明した。
「はっ!!」
兵士たちは即座に分かれて三部隊が編成された。
BaルートにB1分隊 兵士十五名と斥候一名
BbルートにB隊本体 B隊隊長を含めた兵士二十名と斥候一名と魔法使い一名
BcルートにB2分隊 兵士十五名と斥候一名
「お前はここに残り、後続部隊に説明をしろ」
B隊隊長は斥候に命令した。
「……はっ!!」
(こんなところに一人かよ……)
斥候は不安そうな表情を浮かべている。
「……安心しろ。三本のルートを同時に進軍するのだから、ここに魔物は現れようがないからな」
不安がる斥候にそう説明したB隊隊長は進軍の号令をかけて、各部隊がそれぞれのルートに進軍を開始したのだった。
Baルートに進軍したB1分隊は、途中で魔物に遭遇して戦闘になったものの難なく進軍していた。
Bポイントから三十キロメートルほど進んだところでB1分隊は部屋を発見したが、部屋の前で待機していた。
彼らは部屋に入るべきか検討しているのだ。
だが、結局は偵察しなければ意味がないとの結論に達し、B1分隊は慎重に部屋の中に入った。
すると、部屋の広さは直径三百メートルほどで、中央にレッサー ラットの群れが五十匹ほど佇んでいた。
「あれはスパイダー種!?」
B1分隊長は目を見張る。
彼は座学でレッサー スパイダーは脅威に値しない弱い魔物だが、進化したスパイダーはもっと弱いと教わった。
この内容に、B1分隊長は何がいいたいんだと顔を顰めたが、その後に続く言葉を聞いて戦慄を覚えた。
そのスパイダーが上位種に進化すると、戦闘職の最上級職ですら倒すことが困難な化け物になると。
そのため、スパイダーを発見したならば、何をおいても必ず殺せと彼は教わったのだ。
レッサー スパイダーとスパイダーは大きさに変わりはないが、多数ある眼が全て赤色の個体がスパイダーだ。
「まずは中央のレッサー ラットを殲滅する。赤い眼のスパイダーは必ず殺すんだ。俺に続け!!」
B1分隊長は決死の形相で突撃し、レッサー ラットの群れに斬り込んだ。
「隊長に続けっ!!」
兵士たちも隊長を追いかけて、レッサー ラットの群れに突進する。
レッサー ラットたちの攻撃がB1分隊長に集中するが、兵士たちは分散してそれぞれがレッサー ラットをおびき寄せて、広い空間を生かして確実に倒していく。
結果、B1分隊は全ての魔物を殲滅し、死者の数は〇名だった。
B1分隊は部屋を調べると天井に洞穴が掘られていた。
「この洞穴は地上に繋がっているかもしれんな」
B1分隊長は後方に斥候を放ち、後続を待つために待機したのだった。
Bbルートに進軍したB隊本体は、三十キロメートルほど進軍すると部屋を発見した。
B隊本体は部屋に突入すると、部屋の広さは直径三百メートルほどで、部屋の中央付近に五十匹ほどの魔物の姿があった。
さらに、この部屋には洞穴が三本掘られていた。
一本は天井へと続き、もう一本は真っ直ぐ掘られており、最後の一本は地下へと伸びている。
「魔物の群れを貫くぞ!!」
B隊隊長が号令を掛けるとB隊本体は突撃し、部屋中央に展開する魔物の群れを貫いた。
だが、真っ直ぐ掘られている洞穴と地下に続いている洞穴から、魔物の群れが姿を現した。
「よし!! 反転して再度突撃だ!!」
B隊隊長は満足げな表情で兵士たちに指示を出した。
しかし、二つの洞穴から出現した魔物の群れは、反転するB隊本体に襲い掛かり、B隊本体は混乱状態に陥った。
「おかしいだろ!? なぜ攻撃を受けている!? どこから現れたんだ!?」
B隊隊長は困惑して叫んだ。
混乱からB隊本体が回復することはなく、一人が倒れて、やがてまた一人、そしてまた一人と倒れていき、B隊本体は全滅した。
Bcルートに進軍したB2分隊は、十五キロメートルほど進軍したところで二十匹ほどの魔物と遭遇したが、これを難なく殲滅し、さらに十五キロメートルほど進軍したところで、直径三百メートルほどの部屋を発見し、魔物が十匹ほどいたがそれも殲滅した。
この部屋は先に続く洞穴は掘られておらず、天井から伸びる洞穴のみだった。
「この洞穴を調べるためにも後続を待たねばならん」
B2分隊長は後方に斥候を放って、待機したのだった。
C隊はトーナ方向に伸びるCルートに進軍していた。
だが、三十キロメートルほど進むと部屋があったが部屋の前でC隊は待機していた。
部屋に展開する魔物の数が百を超えているからだ。
部屋の広さも直径五百メートルを超えており、魔物の大半がレッサー モールだった。
C隊隊長は『麻酔牙』で兵士たちが行動不能に陥って、進軍に支障をきたすことを懸念して、斥候を帰還させ増援を要請した。
トーナ方向に伸びる洞穴は首都トーナの街を直撃する可能性があり、増援は即座に認められて兵士三百名(内五十名は工兵隊)が到着した。
C隊隊長は工兵隊と斥候たちを部屋の前に残して、C隊は部屋の中に突撃して瞬く間に部屋の制圧に成功した。
この部屋をCポイントと名付けたC隊隊長は、先に伸びる洞穴が一本しかなかったのでその洞穴をCルートと名付けた。
C隊は先へと進軍したが、工兵隊はCポイントに残って拠点作成を開始した。
しかし、C隊が三十キロメートルほど進軍したところで、直径五百メートルほどの部屋を発見し、その部屋には千匹を超える魔物の姿があった。
C隊隊長は再びに後方に斥候を放ち、援軍を待つのだった。
Bポイントに残された斥候は、不安げに部屋の中央を歩き回っていた。
彼はAポイントが魔物に制圧されて、Bルートからも魔物が現れる可能性を考慮し、四つの洞穴を確認するために部屋を歩き回っているのだ。
だが、歩くことに疲れた彼は動かずに四つ洞穴を確認できる場所を発見して、そこから洞穴を観察していたがしばらくすると地面に座り込んでいた。
B隊が進軍してから二十四時間以上が経過しており、斥候はずっと睡魔と格闘していたがその睡魔に負けて眠りに落ちた。
「あううっ!?」
唐突に尻に激しい痛みが走った斥候は悲鳴を上げた。
彼は尻を確認するとレッサー アースワームが尻に噛みついており、即座に剣でレッサー アースワームの体を斬り落としてその場から離れた。
だが、身体を分断されてもレッサー アースワームは尻に噛みついたままだ。
斥候は短剣を抜いてレッサー アースワームの頭部に短剣を何度も突き刺すと、激しい痛みと共にレッサー アースワームは力尽きて地面に落ちた。
しかし、斬り落とした胴体は動き回っている。
斥候は怒りに任せて剣で胴体を斬り裂き、レッサー アースワームは沈黙した。
彼は噛まれた尻を触ってみると、ごっそり肉がなくなって血塗れだった。
地面に盾を置いた斥候はズボンとパンツを脱いで盾の上で四つん這いになり、鞄からポーションを取り出して尻にポーションを慎重に流し込むと激しい痛みが徐々に消えた。
この様なケースは、Aポイントの拠点でも発生していた。
長く地面から動かないでいると、地中から姿を現したレッサー アースワームが噛みついてくるのだ。
特に睡眠時が狙われやすく、彼らがどの様にして場所を特定しているのかは分かっていない。
そのため、Aポイントの拠点では、アースワーム種対策として地面に石材や鉄板を置いて進入を阻んでおり、他の拠点でも今後はそうなるだろう。
「ぷっ!! こんなところで何やってんだお前!?」
唐突に声を掛けられた斥候は驚愕して声が聞こえた方向に顔を向けると、Baルートに進軍した斥候がにやけた顔で立っていた。
彼の現在の格好は、四つん這いで尻丸出しだった。
「い、いや、これはレッサー アースワームに尻を噛まれて……」
斥候は恥ずかしさのあまりに顔が真っ赤に染まった。
「ぎゃはははははははっ!!」
Baルートに進軍していた斥候は腹を抱えて地面を転がった。
ちなみに、軍内で斥候のあだ名が、ケツになったのは言うまでもない。
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ラット レベル1 全長約120センチ
HP 140~
MP 50
攻撃力 80
守備力 50
素早さ 60
魔法 無し
能力 統率 毒爪 毒牙
ラットの毛皮 1000円
レッサー モール レベル1 全長約1メートル
HP 110~
MP 5
攻撃力 60
守備力 35
素早さ 40
魔法 無し
能力 麻痺牙 強食
モール レベル1 全長約3メートル
HP 600~
MP 60
攻撃力 150
守備力 70
素早さ 130
魔法 アース
能力 統率 麻痺牙 毒爪 毒牙 強食
レッサー モールの毛皮 3000円
モールの毛皮 8000円
レッサー アースワーム レベル1 全長約2メートル
HP 200~
MP 5
攻撃力 5
守備力 30
素早さ 10
魔法 無し
能力 巻きつき HP回復
兵士 レベル1
HP 300~
MP 0
攻撃力 100+武器
守備力 60+防具
素早さ 60+アイテム
魔法 無し
能力 極稀に統率




