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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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119 ペットたちへの魔法や能力の譲渡 修


「こりゃあ、しんどいぜ……次はもたないかもな……」 


 纏っていたボロ布が破け去り、全裸に近い格好になっている基本的にヘタレは肩で激しく息をしながら呟いた。


 彼はシルルンの心象世界の中にある青い炎から、青いドラゴンが姿を現す度にそれを撃激していた。


 だが、その戦いは劣勢の一途をたどっていた。


 彼が放つ掌底は、対象をヘタレにすることで戦意を挫くことが可能なのだ。


 しかし、青いドラゴンが『ヘタレ無効』に目覚めたことにより、彼の掌底が効かないという深刻な事態に陥っていた。


 彼らの戦いの影響により、最近のシルルンはキレやすく尊大な態度をとる場面が見られるようになった。


 つまり、基本的にヘタレが戦いに敗れて、青い炎の中から青いドラゴンが完全に姿を現わすと、シルルンが本来の力と心を取り戻すことになるのだ。


 息を整えた基本的にヘタレは視線を青い炎へと移すと、そこには青いドラゴンの前脚が突き出ていた。


「……さっき撃退したばかりだろが!!」


 うんざりした基本的にヘタレは苛立たしげに声を荒げた。


 それでも彼は決死の形相で青いドラゴンを迎撃するのだった。


 一方、シルルンの仲間たちが寝静まった深夜に、鉱山拠点の防壁の上に立って腕を組んだまま虚空を睨む者がいた。


 シルルンである。


「フフッ……皆が揃ったわよマスター」


「……ああ」


 シルルンが振り返るとペットたちがズラリと並んでいた。


「今からする話は誰にも言わないでほしい……俺の仲間たちには特にな」


 シルルンがペットたちを見渡しながら承諾を促すと、ペットたちは硬い表情で頷いた。


 彼は一人称が俺に変化していることに気づいておらず、基本的にヘタレが劣勢であるがゆえに、これまでのシルルンと本来のシルルンが混ざり始めているのだ。


「アダックのダンジョンでプニが『略奪譲渡』という能力を手に入れた。この能力は他者から魔法や能力を奪い他者に与えることもできる能力だ」


「なっ!?」


 ラーネとシャインが驚きのあまりに血相を変える。


「俺が今までこの能力の存在を皆に言わなかったのはどんな弊害があるか分からないからだ。だがマルとバイオレットの献身で無茶をしなければ問題ないことが分かった」


 ペットたちの視線がマルとバイオレットに集中し、マルとバイオレットは誇らしげに胸を張っている。


「まぁ、分かったことは魔法や能力に相性があるってことだ」


「……相性が悪ければどうなるのかしら?」


「所持できる数が減り、最悪、体が爆発する」


「――っ!?」


 ペットたちに動揺が駆け抜けて、皆一様に不安げな表情を浮かべている。


「だが調整すれば問題ない。現にマルとバイオレットは元気だ……まぁ、強くなりたいと考えるなら現状で欲しいと思う魔法や能力を一つ考えてみるんだな」


「『剛力』はあるかしら?」


 即座に反応したのがラーネだった。


 ラーネは探るような眼差しをシルルンに向けている。


「『剛力』はいっぱいあるから問題ないデシ!!」


 プニがふふ~んと胸を張る。


「譲渡するから俺の前に来い」


 満足げに頷いたラーネはシルルンの前に進み出る。


「体が爆発しそうになったらすぐに言え」


「フフッ……分かったわ」


「プニタッチデシ!!」


 プニが『触手』を伸ばしてラーネの体に触れた。


「……ほんとに譲渡されたの?」


 変化を感じないラーネは訝しげな声を上げた。


「『魔物解析』では『剛力』が増えている。ラーネの攻撃力は四千九百だが『剛力』により九千八百になっている。これで楽にデス スパイダーに勝てるだろう」


「フフッ……フフフフッ……フフフッ……」


 その言葉に、ラーネは恍惚として我を忘れる。その光景を目の当たりにしたシャインは意を決してシルルンの前に歩き出した。


「マスター、我も『剛力』がほしいです」


 シルルンは快諾した。


「プニタッチデシ!!」


 プニが『触手』を伸ばしてシャインの体に触れる。


「……なるほど、確かに実感はないですね」


「それが普通だ。問題がある場合のみ体に変化が起きる」


「はっ、ありがとうございます」


 シャインは満足そうに元の位置に戻っていった。


「……我は第一に素早さ、第二に状態異常の回復やスタミナの回復、第三に遠距離を攻撃できる魔法か能力を所望します」


 シルルンの前に移動したビークスが思念でシルルンに提案した。


「悪くない」


 シルルンは同意を示して頷いた。


 ビークスは『剛力』と『鉄壁』を所持しているので、不安要素は素早さだからだ。


「素早さが上がる魔法や能力の予備はないデシ」


 プニは『俊足』を所持しているが、一つしか所持していないので譲渡する気はなかった。


「状態異常の回復ならキュアの魔法、スタミナの回復ならファテーグの魔法があるデシ!! 遠距離を攻撃する魔法はたくさんあって能力なら『斬撃衝』があるデシ!! どれがいいデシか?」


「……それではキュアの魔法でお願い申す」


 逡巡したビークスは思念でシルルンに伝えた。


 彼はどちらの魔法を選択するかで悩んだが、使用頻度の高いキョアの魔法に落ち着いたのだった。


「プニタッチデシ!!」


「ありがとうございます」


 アンデットなので感性が乏しいのかビークスは淡々とした口調で頭を下げて列に戻った。


「ぬう……我は『飛行』がほしいですぞ主君!!」


「ほう……」


 ブラックが空を飛ぶという発想がなかったシルルンは感嘆の声を洩らした。


「『飛行』はまだあるからいいデシよ。プニタッチデシ!!」


「ぬ、ぬう……こ、これはなかなか……プニよ感謝する!! フハハハハハハッ!!」


 ふわふわと浮かび上がったブラックは一気に空高く上昇し、凄まじい速さで『飛行』して夜空に溶けて消えたのだった。


「……」


 シルルンたちは呆然と夜空に見入るしかなかった。


 それからしばらくの時が経過しても、ペットたちから声が上がることはなかった。


 この状況に、シルルンはひとまずペットたちが強くなりそうな魔法か能力を譲渡させようと思案した。


「レッドにはファイヤの魔法だ」


 プニがレッドにファイヤの魔法を譲渡する。


「スカーレットには『鉄壁』」


「『鉄壁』はもってないデシ。『堅守』ならいっぱいあるデシ……」


「スカーレットは『堅守』を持っているからな……」


(そういえば役立たずの『能力合成改』があったな……)


 『能力合成改』を発動したシルルンの目前にはウィンドウが出現し、そのウィンドウに[対象]と記載された項目が空白だった。


 シルルンは[対象]をプニに変更すると、プニが所持する全ての能力と数量がウィンドウに表示された。


「『堅守』は一つあればいいのか?」


「……デシデシ」


 そう応えたプニは不思議そうな表情を浮かべている。


 『堅守』の数が百十六と表示されていることにシルルンは軽く目を見張ったが、能力一覧の中から『堅守』を選択すると数が百十五に減り、ウィンドウの[能力①]と記載された項目に堅守と表示された。


 シルルンは能力一覧の中から『堅守』を連打すると数が百六まで減ったが、ウィンドウに[合成能力]と記載された項目が『鉄壁』に変化した。


「なるほどな……能力を視てみろ。『鉄壁』が増えているはずだ」


 プニは素早く能力を確認するとなかったはずの『鉄壁』が増えていた。


「『鉄壁』があるデシ!! すごいデシ!!」


 プニは瞳を輝かせて大はしゃぎだ。


「その『鉄壁』をスカーレットに譲渡しろ」


「……い、嫌デシ嫌デシ!! 『鉄壁』は一個しかないから嫌デシ!!」


 ふるふると体を震わしたプニは切実な表情で訴えた。


「そういえばプニはコレクターだったな」


 『能力合成改』を発動したシルルンは『堅守』を連打してさらに『鉄壁』を十個合成した。


 だが、彼は『堅守』の数量を見て違和感を覚えていた。


 十一個の『鉄壁』を合成したのだから『堅守』の数量は残り六個になるはずだとシルルンは思ったからだ。


 しかし、『堅守』の数量は二十六と表示されているのだ。


 ちなみに、能力にはレベルがあり、レベルが高い能力ほど合成する数が減るのだが、そんなことはシルルンは知りもしない。


「もう一度能力を確認してみろ」


「……すごいデシ!! 『鉄壁』が十一個もあるデシ!!」


 能力を確認したプニは尊敬の眼差しをシルルンに向けている。


 シルルンはプニの頭を優しげに撫でた。


 プニはとても嬉しそうだ。


 シルルンは『鉄壁』をスカーレットに譲渡させて、タマ、キュウ、ミドルたちには無難に『魔法耐性』を譲渡させた。


 これにより、魔法に耐性を得た彼らは前衛としてさらに活躍できるだろう。


 シルルンは魔法や能力を次々にペットたちに譲渡するようプニに指示を出していく。


 以下はペットたちに譲渡させた魔法や能力。


 エメラリーにはインビジブルの魔法

 マルにはヒールの魔法とキュアの魔法

 バイオレットにはカースの魔法と『堅守』『回避』

 プル、プルルとプニニ、クロロとパプル、グレイたち、マーニャやドーラたちには魔法や能力の譲渡を行っていない。


 シルルンがプルに譲渡を行わなかった理由は、プルは『飛行』を譲渡されているので興味がなかったからだ。


 プルルとプニニは親であるプル、プニが決めることだと彼は考えており、クロロとパプル、グレイたちは戦闘要員ではないから不要だとシルルンは判断したのだ。


 だが、シルルンは『魔物解析』でマーニャやドーラたちを視て絶句したのだ。


 彼らはなぜかレベルが上がって強くなっていたからだ。その中でもドーラの強さが際立っており、シャインに迫る数値をたたき出していた。


 シルルンは彼らの成長が楽しみになったので、譲渡を保留したのである。


 しかし、リジルのペットであるシアンが熱い眼差しをシルルンに向けていたが、シルルンは彼の熱い眼差しを無視した。


 譲渡に失敗するとシアンが一撃死に至るからだ。


「トントンを強くしてほしいデチ!!」


 プニニが必死そうに声を上げた。


「トントン? 誰のことだ?」


(それにしても豚みたいな名前だな……)


 シルルンは苦笑する以外になかった。


「サモンの魔法で呼んだスケルトンの名前がトントンデチ!! トントンは戦って強くなったデチ!!」


「所詮はレッサー スケルトンだろ」 


 面倒くさそうにシルルンは『魔物解析』でトントンを視た。


「レベル九十七だと!? どういうことだ?」


 シルルンは不審げな眼差しをプニニに向けた。


「パパと一緒に狩りに行ってトントンは強くなったデチ!! だからもっと強くしてほしいデチ!!」


「なるほど、そういうことか……」


 シルルンは我を忘れて逡巡していた。 


 彼は冒険者ギルドに赴く前にサモンの魔法のことを調べようと図書館に足を運んだのだ。


 だが、ブラックがいたので入室を拒否されて、彼は本屋でサモンの魔法の本と召喚師の本を購入した。


 それによれば、サモンの魔法と『召喚』は呼び寄せた魔物の違いに大差はないが、前者は魔力に依存するが後者は魔力に依存しないということだった。


 つまり、前者は体内から全ての魔力が消失すれば消滅し、後者はいつまでも存在するということである。


 この点の理由からサモンの魔法よりも『召喚』が上位といえるだろう。


 しかし、【召喚師】はサモンの魔法と『魔物格納』を所持しているので、呼び寄せた魔物に対して魔力を供給できなくなれば魔物を格納できるので、魔物を育てることが可能なのだ。


 そして、サモンの魔法は事前に儀式を行って魔物と契約する必要があるが、『召喚』はその必要がない。


 この点でもサモンの魔法よりも『召喚』が優れているといえる。


 だが、プニニは儀式による契約をしておらず、「スケルトンしか選択できない」と言ったのだ。


 これにより、プニニが所持するサモンの魔法は一般的なサモンの魔法とは完全に異なることになる。


 シルルンは『魔物解析』でプニニを視たことにより、トントンが消滅していない理由に気が付いた。


 それはプニニが『大気変換』を所持しているからだ。


 『大気変換』は大気を魔力に換えるとんでもない能力である。


 そのため、プニニが魔力切れを起こさないので、トントンに永続的に魔力が供給されることによりトントンは消滅しないのだ。


 しかし、シルルンはトントンについて解明できていないことがあった。


 それはトントンがレベル九十七であるにも拘わらず、進化していないことや下位種であるはずなのに上位種とステータスの値が変わらないことに関してだ。


 シルルンは上記のことはプニニが特別な個体だからだとひとまず棚上げし、これからのプニニの成長が楽しみだと彼は思わずにはいられなかった。


「――っ!?」


 プニニに『触手』で頬をつつかれたシルルンは我に返る。


「……まずは『剛力』だな」


 プニニは上機嫌に微笑んだ。プニは『剛力』をトントンに譲渡する。


「……トントンは大丈夫なのか?」


「大丈夫デチ!!」


 プニニとトントンは思念での会話が可能なのだ。


「それなら次は『鉄壁』だろうな」


 プニは『鉄壁』をトントンに譲渡する。


「……まだいけるのか?」


「まだまだいけるってトントンが言ってるデチ!!」


 その言葉に、シルルンは次々に魔法や能力を譲渡するようにプニに指示を出した。


 以下はプニがトントンに譲渡した魔法や能力


 『統率』『回避』『斬撃衝』『HP回復』『MP回復』

 シールドの魔法、マジックシールドの魔法、ヒールの魔法、キュアの魔法、ファイヤの魔法、アンチマジックの魔法


「マジかよ……」


 シルルンは驚きを隠せなかった。


「トントンは強いんデチ!! 武器も欲しいデチ!!」


 プニニは歓喜に顔を輝かせている。


 シルルンは魔法の袋から鉄の剣を取り出してトントンに手渡した。


 だが、トントンが鉄の剣をシルルンに返し、シルルンは驚いて我知らずにトントンの顔を見た。


 すると、トントンの顔は無表情だが、舐めるなよ? とでも言いたげな顔をしていると彼には思えた。


「……」


(こいつ、賢くなってやがる……)


 シルルンは『統率』をトントンに譲渡させたのが失敗……いや、良かったのだと思い直した。


 彼はメイがトントンの顔が怖いと言っていたのを思い出し、スパイダー種のクイーンにもらったゴミの中を重点的に探した。


 そして、シルルンが発見したのはホワイトミスリルで作られた剣と全身鎧と盾だった。


 シルルンは装備をトントンに渡した。装備を着込んだトントンの姿は気品溢れる騎士のようだ。


 彼が全身鎧を選んだのはトントンの顔が兜で隠れるからだ。


「強そうデチ!! 強そうデチ!!」


 仕上げに青いマントをトントンに羽織らせたシルルンは満足げに頷いた。


 こうして、ペットたちの夜の集会は閉会したのだった。

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