118 転職の神殿 修
真っ白な壁の部屋の中にはシルルンたちの姿があり、彼らの前には巨大な水晶玉が台座に鎮座していた。
「この水晶玉に触れば転職できるんデシか?」
「あはは、そうだけどそれは人族とかの話で、完全な魔物のプニは転職できないんだよ」
「……でも触ってみたいデシ!! なりたい職業があるんデシ!!」
プニは真っ直ぐに水晶玉を見つめており、彼はいつになく真剣だった。
「じゃあ、触ってみたら」
(まぁ、触ったところで何も起こらないしね)
シルルンは微笑みながらプニの頭を優しく撫でた。
「デシデシ!!」
プニはシルルンの肩から『飛行』でシュパっと移動して、水晶玉の前で浮遊しながら『触手』を伸ばして水晶玉に触れる。
「職業の一覧が見えるデシ!!」
プニはにっこりと微笑んだ。
「えっ!? マジで!?」
シルルンは驚きのあまりに血相を変える。
プニは表示された職業の一覧に目を通していき、転職したい職業を発見して瞳を輝かせた。
「これデシ!!」
プニは転職したい職業を『触手』で押して選択すると、白い輝きに包まれた。
「えっ!?」
シルルンは雷に打たれたように顔色を変える。
饅頭のような姿だったプニが人型になっているからだ。
「我が名はプニックス。今後ともよろしく」
プニは人型になっているが顔はスライムだった。
「ひぃいいいいいぃぃ!? プニィーーーーーーーーーーーッ!!!」
シルルンの絶叫が水晶の部屋に木霊したのだった。
「――っ!?」
眠りから覚めたシルルンは大きく目を見張る。
テーブルの上ではプニが皿に盛られた豆を『触手』で掴んで『捕食』している。
「……ふぅ、なんだ夢か」
シルルンの顔に虚脱したような安堵の色が浮かんだ。
「お待たせしましたシルルン様」
「えっ!? う、うん……」
冒険者ギルドからラーネの『瞬間移動』で鉱山拠点に帰還したシルルンは、仲間たちを集めてくれとメイに指示を出し、自室で酒を飲んで待っていたが眠りに落ちたのだ。
彼がメイに仲間を集めさせたのは転職の神殿に赴くためだ。
シルルンがこの時点で転職神殿を訪れる理由は複数あった。
仲間たちはシルルンと行動するようになって一度も転職神殿を訪れていない。(リザは除く)
転職は早ければ早いほど有利。
森の魔物の討伐は数を多く倒す予定でレベルが上がり易い。
転職できれば仲間たちは強くなり、シルルンが上層に赴いている間も拠点を守り易い。
そう考えたシルルンは仲間たちを転職の神殿に連れて行くことを決めたのだった。
だが、転職の神殿に行こうと決めたからおかしな夢を見たのかも知れないと思ってシルルンは苦笑した。
シルルンが自室の外に出ると仲間たちは揃っており、シルルンたちはラーネの『瞬間移動』で掻き消える。
トーナの街には転職の神殿が三箇所あり、シルルンたちが『瞬間移動』で訪れた転職の神殿は、一番近い第二区画の転職の神殿だ。
そして、転職の神殿の内部は三つのエリアに分かれている。
白エリア
基礎職と言われるエリアで【子供】から【村人】【街人】へと転職できる。
【子供】【村人】【街人】はステータスの値に大差ないが、スキルの習得率やスキル値の上昇率が【子供】より【村人】、【村人】より【街人】と僅かだが上昇する。
あまり知られていないが人族の産まれたばかりの職業は【赤ちゃん】なのだが、スキルの習得率やスキル値の上昇率は【街人】より【赤ちゃん】のほうが圧倒的に高い。
だが、大多数の人族が産まれてから二年ほどで【子供】に目覚めることになる。
しかし、小さな村では転職の神殿に訪れることもなく一生を終える者もいるので、そんな村では極めて稀に【赤ちゃん】のまま一生を終える者もいて、天才と呼ばれていることもある。
白エリアの転職料金は一万円。
転職の水晶玉に触れると転職できる一覧と自身のステータスを確認できるのだ。
転職しなかった場合でも自身のステータスを確認しただけで、水晶球使用料金の一万円は払わなければならない。
青エリア
一般職といわれるエリアで【鍛冶師】【細工師】【大工師】【裁縫師】【狩猟師】【漁師】【伐採師】【錬金術師】【炭鉱夫】【開墾師】【農業師】【伐採師】【料理師】【鑑定師】【商人】【メイド】などの様々な職業に転職でき、一番職業の数が多い。
だが、一般職といえども資質がなければ転職できないのである。
目的の職業に転職できなかった場合、転職可能な職業に就くことが多い。
そのため、職業によってはデメリットも発生するので【街人】のままのほうが結果的に良い場合もある。
青エリアの転職料金は十万円。
黒エリア
戦うことに特化した職業に転職できるエリア。
下級職、上級職、最上級職の三つに分類される。
例えば【街人】から【戦士】に転職した場合、その圧倒的な力に驚き戸惑うことになる。
以下は比較しやすいステータスの一覧だ。
街人 レベル1
HP 40
MP 0
攻撃力 3+武器
守備力 3+防具
素早さ 3+アイテム
魔法 無し
能力 極稀に統率
戦士 レベル1
HP 500
MP 0
攻撃力 100+武器
守備力 60+防具
素早さ 60+アイテム
魔法 無し
能力 無し
レッサー ラット レベル1 全長約60センチ
HP 70~
MP 50
攻撃力 40
守備力 30
素早さ 50
魔法 無し
能力 統率 毒爪 毒牙
弱い部類の魔物で最も多いとされるレッサー ラットですら【街人】よりも圧倒的に強く、人族は戦闘系職業に転職して初めて魔物と対等に戦うことができるのである。
下級職の転職料金 百万円
上級職の転職料金 五百万円
最上級職の転職料金 一千万円
ちなみに【兵士】【傭兵】は特殊な職業である。
転職の神殿での転職も可能だが、【兵士】はトーナ城、【傭兵】は傭兵ギルドでの転職も可能なのだ。
トーナ城や傭兵ギルドに設置されている転職の水晶玉には魔導具が繋がれており、強制的に転職させる効果がある。
そのため、転職の神殿で転職した場合と比べると、ステータスの値が低くなることが多い。
この転職は食うに困った難民たちが、転職の神殿で転職する金もなく無理やり転職するための手段なのである。
「じゃあ、お金を渡すから皆並んでね」
仲間たちは頷いてシルルンの前に並んだ。
シルルンは金貨を一枚ずつ手渡していき、仲間たちは転職の神殿に向かって歩いて行った。
リザ、ラフィーネ、ロシェールはその場に留まっており、シルルンはリザが残っている理由が分からずに怪訝な顔をした。
「僕ちゃん買い物に行ってくるよ」
シルルンたちはラーネの『瞬間移動』でその場から掻き消えたのだった。
第二区画で一番大きい武器、防具屋の前に出現したシルルンたちは店の中に入り、ミスリル製品が置かれている区画に移動した。
「これはこれは【ダブルスライム様】!!」
前回、大量に武具を購入したときに対応した店員が、満面の笑みを浮かべてシルルンに向かって歩いてきた。
「う~ん、とりあえずこれを買っとこうかな……」
シルルンはミスリルの剣と鎧一式を指差した。
彼はロシェールが無茶な戦い方をするので、ロシェールのために購入したのだ。
「ありがとうございます!!」
もみ手をした店員が上機嫌に微笑んだ。
シルルンは二億二千万円を店員に支払った。
だが、彼の魔法の袋の中には、前回、大量に購入したミスリル製品以外にも、シェルリングから貰ったミスリルの武具が五セット、アダックのダンジョンでアリスがいた部屋から回収した武具、スパイダー種のゴミ中にも大量のミスリル製品があり、探せばまだあるはずだがそんなことはシルルンは忘れ去っていた。
「ミスリルよりも上の武具はないの?」
「ミスリルより上になるとダイヤモンドか……ウルツァイトになりますね」
「ウルツァイト? それはすごいの?」
「ダイヤモンドよりは上ですが、アダマンやオリハルよりは下ですね」
「へぇ、いいじゃん。在庫はあるの?」
「……ウルツァイトは希少で剣と短剣が一本ずつ、あとは鎧とブーツがありますね」
「全部買うよ」
「ありがとうございます!! お値段は合わせて十四億五千万円になります」
「うん、それとダイヤモンドの在庫はどのくらいあるの?」
「……申し訳ありません、ダイヤモンドも希少で短剣が三本しかありません……」
「じゃあ、その三本も買うよ。あとは……う~ん、ミスリルダガーを五本とミスリルドレスを十着……ミスリルローブが五着、ミスリルシューズが十足でいくらになるかな?」
「……合計で二十二億二千五百万円になりますが……」
店員は戸惑うような表情を浮かべている。
「うん」
シルルンは魔法の袋から金貨袋を次々に取り出して机の上に並べていき、店員が金貨を数えていく。
「……確認できました。それでは商品をお受け取り下さい」
シルルンは買った商品を魔法の袋に入れていくが、ウルツァイトソードを手に取って鞘から抜いた。
「ふ~ん、ダイヤモンドは透明だけど、ウルツァイトは赤いんだね……」
満足げな表情を浮かべるシルルンはウルツァイトソードを魔法の袋に入れた。
「で、もっと強力な武器はないのかな?」
「それでしたらこちらへどうぞ」
シルルンは店員に導かれて歩いていく。
「……やっぱりここか」
シルルンが連れて来られたのは紅蓮の剣を買った高額商品が置かれている区画だった。
「はい、やはり強力な武具はこちらかと……この水弾の剣はいかがでしょうか?」
シルルンは水弾の剣の鑑定書に目を落とすと、水弾の剣は紅蓮の剣の水バージョンだった。
「他にはないの?」
シルルンは訝しげな眼差しを店員に向ける。
「こちらの風絶の剣はいかがでしょうか?」
しかし、これも紅蓮の剣の風バージョンだった。
「いや、そういうことじゃないんだよ。魔法を使えない下級職でも使える強力な武器はないのかな?」
シルルンは不満げに店員に尋ねた。
彼はリザが弱いと言われたことが気に入らなかったのだ。
「なるほど……それでしたらルルーン作の武器はいかがでしょうか?」
「ルルーン?」
シルルンは怪訝な顔をした。
「はい、あなたのように彗星のように現れた天才鍛冶師です」
「……ふ~ん、そうなんだ」
「ルルーンは新しい型を二種類も生み出したのです。それは供給型と魔石型というものです」
「へぇ、知らない型だね」
「鞘に特徴がありまして鞘には魔力を吸収する仕掛けがあり、その部分に魔力を供給することによって魔力を帯びる剣を作り出したのが供給型で、鞘の仕掛けに魔石を使用するのが魔石型です」
「どっちの型でも魔法が使えない下級職でも扱えるの?」
「もちろんです。それがルルーンの売りですからね」
「ルルーンはなかなかやるね」
シルルンは感嘆の声を洩らした。
「ただ、お値段がお高くなっております」
「まぁ、そうだろうね。けど高くても買うつもりだから、どんなのがあるのか見せてもらえないかな?」
「……ルルーンはうちと専属契約しておりますのでお会いになられますか?」
遠慮しがちに店員がシルルンに尋ねた。
彼は【ダブルスライム】が店に来たら工房に連れてきてくれとルルーンに頼まれていたのだ。
ちなみに、ルルーンの工房はこの店の隣にある。
「いや、めんどくさいから遠慮しとくよ」
「そ、そうですか」
店員は残念そうな表情を浮かべている。
「で、では素材は鉄、鋼、ミスリルとありますがどれがよろしいでしょうか?」
「へぇ、ミスリルもあるんだ。当然、ミスリルだね」
「ミスリルはルルーンでも三本しか作成に成功していないのです。今ある在庫はその内の一本で炎の剣です。お値段は五十億になります」
「じゃあ、それを買うよ。あと水弾の剣と風絶の剣もまとめて買うよ」
「えっ!? ……合計で七十億になりますが……」
「うん、問題ないよ」
シルルンは魔法の袋から大量の金貨袋を取り出して机の上に並べていき、店員たちは必死の形相で金貨を数えていく。
「た、確かに七十億を確認しました。それでは炎の剣と水弾の剣、風絶の剣をお受け取りください」
シルルンは水弾の剣と風絶の剣は見もせずに魔法の袋に入れたが、炎の剣の鑑定書には目を通した。
ルルーンの炎の剣は供給型で鞘の真ん中に宝玉のようなものがついており、魔力を所持する者が宝玉に触ると魔力を吸収する仕組みで、魔力を使い切った剣を鞘に収めると自動的に魔力がリチャージされるのだ。
「……」
(いい剣が買えたけどリザに値段は言えないね)
自嘲気味に微笑んだシルルンはラーネの『瞬間移動』で掻き消えたのだった。
シルルンたちは転職の神殿の前に出現した。
「ボス!! やりましたよ!! 私たち全員が【怪盗】に転職可能です!!」
リジルと男盗賊たちが嬉しそうにシルルンの前で跪いた
「あはは、それは良かったね。誰も転職できなかったらどうしょうかと思ってたんだよ」
シルルンはリジルたちに転職料金の五百万円を渡していく。
「ありがとうございます!!」
リジルたちは再び転職の神殿へと駆けていった。
「あのぅ、わ、私たちも【メイド】に転職ができるみたいなんです……」
元娼婦たちは恐る恐るといった様子でシルルンに尋ねた。
「えっ!? そ、そうなんだ……よ、良かったね」
シルルンは戸惑うような表情を浮かべており、元娼婦たちに転職料金の十万円を渡していく。
「あ、ありがとうございます!!」
元娼婦たちは目に涙を浮かべて身体を打ち震わせている。
彼女らはこんな自分たちでも転職していいのだと感激し、転職の神殿へと走っていった。
「シルルン様、ダダとデテは転職できなかったようですが私は転職可能です」
アミラはシルルンの前で跪き、ひどく神妙な顔つきで言った。
「えっ!? アミラは上級職だったよね?」
「はっ、私は【重戦士】ですが最上級職の【重装魔戦士】に転職できるみたいです」
「【重装魔戦士】? 知らない職業だけどやったねアミラ!!」
「は、はいっ!!」
アミラは恥ずかしそうに頬を染めた。
シルルンは転職料金の一千万円を手渡し、アミラは転職の神殿へと歩いていった。
その姿をダダとデテ、そしてブラたちが悔しそうな表情で見つめていた。
「シルルン様、俺たちも転職可能です」
ゼフドとアキがシルルンの前で跪き、不敵な笑みを浮かべている。
「へぇ、さすがだね。ゼフドとアキは確か下級職の【剣士】だったよね? 上級職の何に転職できるの?」
「いえ、俺は最上級職の【暗黒剣士】に転職可能です」
「私も最上級職の【天馬騎士】に転職可能です」
「えっ!? マジで!? やったじゃん!!」
(さすがママに選ばれた逸材だね)
シルルンは上機嫌に目を細めた。
だが、彼は『人物解析』は人をどこまで深く視れるのだろうかと恐怖を覚えたのだった。
「「ありがとうございます!!」」
ゼフドとアキは自信に満ちた表情を浮かべている。
「シルルン様、私とセーナさんも転職が可能です」
メイとセーナがシルルンの前で跪き、セーナは顔を綻ばせているが、メイは思い詰めた硬い表情だった。
「私は【上級メイド】に転職ができるみたいです」
セーナはこぼれるような笑みを浮かべている。
「えっ!? 【メイド】って一般職なのに上の職業があるんだ?」
「はい、そうみたいです。上級一般職と言うようで転職料金は百万円だそうです」
「へぇ、良かったじゃん。じゃあ、メイも【上級メイド】なんだよね?」
「はい……そうなんですが私はもうひとつ転職可能な職業があるんです」
メイの表情からは動揺の色がありありと窺えた。
「えっ!? マジで!? 二つもあるなんてすごいじゃん!! もうひとつは何なの?」
これにはセーナもただならぬ表情を浮かべている。
「……【深淵のメイド】という最上級一般職です」
メイは躊躇いがちに答えた。
「し、深淵……?」
(メイドなのになんで深淵なんてついてるんだよ?)
シルルンは不可解そうな顔をした。
「……シルルン様、私としては【深淵のメイド】に転職したいのですが、転職の料金が一千万円もかかってしまいます」
メイは申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「……いや、お金のことはどうでもいいけど大丈夫なの? なんか呪われそうじゃん?」
「それは大丈夫だと思います。【深淵のメイド】に転職できれば戦闘面でもお役に立てると思います」
メイは恐ろしく真剣な表情を浮かべている。
「……ま、まぁ……呪われないんならいいんじゃない……」
(メイは戦う必要ないんだけどね……)
メイのあまりの迫力に気圧されたシルルンは承諾する以外に選択はなかった。
「ありがとうございます!!」
メイは屈託のない笑みを浮かべた。
シルルンは転職料金を渡し、ゼフドたちは転職の神殿へと歩いていった。
「あとは……」
シルルンは辺りを見渡すとヴァルラはすでにロシェールたちの隣で酒を飲んでいた。
ヴァルラは上級職の【格闘家】だが、最上級職である【拳王】は極めて稀な職業なので転職できなかったのだ。
最後に残ったリザが思いつめたような表情で、躊躇いながら転職の神殿に向かって歩いていったが、途中で引き返してきた。
「……シルルン、一緒についてきてくれないかしら」
リザは弱りきった表情を浮かべている。
「うん、いいよ」
シルルンとリザは転職の神殿へと歩いていく。
転職の神殿の中はごった返しており、シルルンたちは東側の黒エリアに歩を進める。
「お二人で転職部屋をご利用ですか?」
受付の女店員がにっこりと笑った。
「う、うん」
シルルンは戸惑いながら頷いた。
「十二番のお部屋になります。それではこのプレートをお持ちください」
シルルンたちは十二番と書かれたプレートを女店員から受け取って歩き出した。
リザは深刻な表情を浮かべて一言も喋らず、シルルンたちは十二と扉に書かれた部屋に到着して中に入った。
部屋の中は白一色で綺麗な真っ白な石で作られており、中央には巨大な水晶玉が台座に鎮座していた。
シルルンは台座にプレートを差し込むと水晶が淡く輝きだしたが、リザは思い悩んでいるようで動く気配はなかった。
「この水晶玉に触れば転職できるんデシか?」
プニは思念でシルルンに尋ねた。
「あはは、そうだけどそれは人族とかの話で、完全な魔物のプニは転職できないんだよ」
「……でも触ってみたいデシ!! なりたい職業があるんデシ!!」
プニは真っ直ぐに水晶玉を見つめており、彼はいつになく真剣だった。
「じゃあ、触ってみたら……ん?」
シルルンは違和感を覚えて表情を曇らせた。
このやり取りを夢で見たからだ。
「ひぃいいいいいぃ!?」
(この流れだとプニはプニックスという得たいの知れない化け物になっちゃうよ!!)
シルルンは狼狽して悲鳴を上げた。
「デシデシ!!」
プニはシルルンの肩から『飛行』でシュパっと移動し水晶玉の前で浮遊し、『触手』を伸ばして水晶玉に触れる。
「職業の一覧が見えるデシ!!」
プニは嬉しそうに声を張り上げた。
「うわぁあああああああああああああああぁぁぁ!? て、転職したらダメッ!!」
シルルンはうろたえて叫んだ。
しかし、プニは表示された職業の一覧に目を通していき、転職したい職業を発見して瞳を輝かせた。
「これデシ!!」
プニは転職したい職業を『触手』で押して選択すると、白い輝きに包まれた。
「ひぃいいいいいぃぃ!? プニィーーーーーーーーーーーッ!!!」
シルルンの絶叫が水晶の部屋に木霊する。
だが、プニは何事もなかったかのように、そのままの姿でシルルンの肩に戻ってきた。
「へっ!?」
シルルンは人型になっていないプニを見つめて呆然とする。
「なりたかった職業になれたデシ!!」
「……えっ!? えっ!? プニは魔物だから転職できない……はず……だよね……」
シルルンは動揺を禁じ得なかった。
「『二重職』があるから転職できると思ったデシ!!」
「なっ!?」
意表を突かれたシルルンは呆けたような表情を晒している。
「なりたかったのはマスターと同じ【魔物使い】デシ!!」
プニはふふ~んと胸を張った。
「えっ!? マジで!? すごいじゃんプニ!!」
感嘆の声を上げたシルルンはプニの頭を優しく撫でた。
プニはとても嬉しそうだ。
「……どうしたのよ? 大きな声を出して」
顔を顰めたリザがシルルンに尋ねた。
「あはは、プニは『二重職』を持ってて【魔物使い】に転職できたんだよ」
「なっ!?」
リザはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
「……すごいわね……それに比べて私は……」
リザは泣き出しそうな憂鬱な表情を浮かべながら必死に心を落ち着かせようとしていた。
「……ねぇ、シルルン……手を握っててくれないかしら……」
リザは切実な表情で訴えた。
「うん、いいよ」
シルルンは右手でリザの左手を握り締めた。
リザは意を決して右手で水晶玉に触れると職業一覧が表示された。
この職業一覧は水晶玉に触れている者しか視えることはない。
「……ふぅ」
リザは下級職一覧を見て小さくため息をついた。
下位職ですら転職可能な職業が【剣士】しか表示されていないからだ。
だが、それは最初からそうなので彼女は気持ちを切り替え、神妙な面持ちで上級職の一覧を表示する。
「――っ!?」
職業一覧を見たリザは放心した虚ろな顔になる。
上級職の一覧には転職可能な職業がひとつも表示されていないからだ。
リザは危うく膝から崩れ落ちそうになったが、なんとか踏み止まった。
彼女にはなんとしてでもシルルンの隣に並ぶという決意があるからだ。
「どうだったの?」
シルルンが心配そうに尋ねる。
「……やっぱり、ダメみたい」
リザが悲痛な面持ちで弱弱しい声で言った。
「そうなんだ。残念だけどまた次があるよ」
「……そうね」
「まぁ、最上級職が一気に増えてうちの戦力も上がってるからじっくり向き合えばいいよ」
「……」
その言葉に、リザは重苦しげな表情を浮かべていた。
彼女もゼフド、アキ、アミラが最上級職に就いたことで隊としては強くなったと思っていた。
だが、リザはシルルンが危機的状況に陥ると一人で解決しようとすることを危惧していた。
ハイ スパイダーのときも木偶竜のときもそうだったからだ。
彼女が強くなりたいのはそのような決断をシルルンにさせたくないという強い想い一心で、彼女はいつかシルルンの隣に並ぶんだと断固たる決意を固めたのだった。
最後に水晶玉に右手で触れたリザは最上級職の一覧を表示する。
上級職に転職できないのに最上級職が表示されることはないと彼女は分かっているが、淡い期待を抱いて確認したのだ。
リザはシルルンの手を思わず強く握りしめて、シルルンも強く握り返した。
すると、水晶玉には転職可能な職業が二つも表示されていた。
それを目の当たりにしたリザは放心状態に陥った。
全く動く気配を見せないリザに対して、シルルンは緊張した面持ちでリザを見つめていた。
だが、一転してリザが弾けるような笑顔でシルルンに抱きついた。
「やったわっ!! やったわシルルン!! 私も最上級職になれるっ!!」
「えっ!? そうなの!? やったね!! やったねリザ!!」
シルルンも大喜びしてリザを抱きしめたのだった。
シルルンたちは受付でプレートを魔導具に差し込んだ。
「ご利用ありがとうございます……りょ、料金は二千五百二万円です……」
女店員は表示された金額に目を丸くした。
「う、うん……」
(一千万円が何に消えたなのか分からない……)
シルルンは得心のいかないような表情を浮かべながら魔法の袋から金貨を取り出して、二千五百二万円を支払った。
シルルンたちは転職の神殿を後にして、仲間たちの元に移動した。
だが、仲間たちはリザが転職できなかったと思い込んでおり、皆一様に真面目な硬い表情を浮かべていた。
「で、どうだったんだリザ」
ロシェールはそんな彼らの思いなど知らずに直球で問い掛ける。
「ふふふふっ、転職できたわよ」
リザはにやけた顔で言った。
「――っ!?」
いつも一人で無茶な戦いをするリザの姿を見てきたラフィーネ、ゼフド、アキ、リジルは面食らったような顔をした。
「良かったじゃないか!! 何に転職できたんだ!! 【剣豪】か? いや【騎士】もあり得るな!!」
ロシェールは屈託の無い笑みを浮かべており、仲間たちの視線がリザに集中する。
「……最上級職の【竜騎士】よ」
「……えっ!?」
仲間たちは大きく目を見張った。
「りゅ、【竜騎士】だとっ!? すごいじゃないかっ!! これで最上級職は六人になる。この隊は強くなるぞ!!」
ロシェールは無邪気に目を輝かせて微笑んだ。
「ふっ、【竜騎士】か……【剣士】であれほどの腕だったんだ。【竜騎士】ならどれほど強くなるのか楽しみだな……」
「あは、そうね……」
ゼフドとアキは負けるわけにはいかないと心中穏やかではなかった。
だが、シルルンはジト目で上機嫌なリザを見つめていた。
(リザはもうひとつ最上級職に就いているはずなのになんで言わないんだろう? おそらくその職業は、職業固有の能力に『二重職』がある職業だろうね)
シルルンは考え込むような表情を浮かべていた。
リザがシルルンにもうひとつの職業を話さないのは【竜騎士】には自身の力で転職できたと彼女は思っているが、もうひとつの職業はシルルンが関係しているからだと直感したからだ。
そのもうひとつの職業はリザの熱い想いに応えてくれたような職業で、シルルンの力が影響していると分かっていてもリザは選ばれずにはいられなかった。
その職業は【反逆の騎士】だった。
シルルンが『反逆』を所持していることを知っているリザは、直感でシルルンの手を握っていたから発生した職業だと思っていた。
そして【反逆の騎士】にはどうしても彼女が欲しい能力があった。
それは『反逆の加護』だ。
この能力は『反逆』を所持する者から半径百メートル以内にいると攻撃力、守備力、素早さが二倍になるというものだった。
言い換えれば、危機的状況に陥いってシルルンが一人で戦うことを決断しても、リザはこの能力があれば共に戦えると強く思ったからだ。
リザが【反逆の騎士】のことを誰にも言わないのは、シルルンの手を握って水晶玉に触れれば誰でも【反逆の騎士】になれるかもしれないと彼女は思っているからだ。
しかし、それは半分間違いで仮にブラたちがシルルンの手を握って水晶玉に触れても、【反逆の騎士】が表示されることはない。
つまり、【反逆の騎士】に転職するには、何かに抗い続けることが必要不可欠なのである。
「じゃあ、拠点に戻るから皆集まってね」
頷いた仲間たちはシルルンの周りに集まり、シルルンたちはラーネの『瞬間移動』で掻き消えたのだった。
ミスリルソード 3000万円
ミスリルヘルム 3000万円
ミスリルアーマ 8000万円
ミスリルブーツ 2000万円
ミスリルシールド 6000万円
ウルツァイトソード 3億円
ウルツァイトダガー 1億5千万円
ウルツァイトアーマー 8億円
ウルツァイトブーツ 2億円
ダイヤモンドダガー×3 1億5千万円
ミスリルダガー×5 7500万円
ミスリルドレス×10 3億円
ミスリルローブ×5 1億5千万円
ミスリルシューズ×10 1億円
水弾の剣 10億円
風絶の剣 10億円
ルルーン作 炎の剣 50億円
天馬騎士 レベル1
HP 800
MP 800
攻撃力 500+武器
守備力 300+防具
素早さ 600+アイテム
魔法 ウインド マジックシールド アンチマジック キュア
能力 統率 強力 堅守 駿足 MP回復 回避 魔法耐性 燕返し 風刃 風壁
反逆の騎士 レベル1
HP 1000
MP 500
攻撃力 600+武器
守備力 500+防具
素早さ 500+アイテム
魔法 ヘイト シールド ディスペル
能力 二重職 守護 反逆の加護 防御貫通 特攻無効 HP回復
竜騎士 レベル1
HP 1200
MP 300
攻撃力 700+武器
守備力 700+防具
素早さ 400+アイテム
魔法 ファイヤ バニッシュ カース
能力 竜気 竜閃 威圧




