114 シルルンが買った土地① 修
シルルンは鉱山にある拠点の部屋で寝転がりながら酒を飲み、ダラダラと過ごしていた。
「そういえば、リジルたちが鑑定してくれた魔導具がまだまだたくさんあったよね……」
シルルンは思い出したように呟いた。
現在、シルルンの部屋にはプル、プニ、ブラック、ラーネとプルルとプニニ、スケルトンしかいない。
マーニャたちは防壁を越えてタイガー種を狩っているが、そんなことはシルルンは知らない。
シルルンは魔法の袋から魔導具が入った袋を取り出し、袋の中に視線を向ける。
だが、魔導具が大量にありすぎて急に面倒になったシルルンはが入った袋を魔法の袋に戻したが、プリン王子をアダック城に連れ帰った報酬として、三つの魔導具を貰ったことを思い出した。
彼が選んだ魔導具は【転移の魔法陣】と【祝福の短剣】だ。
【転移の魔法陣】は黒い布で作製されており、表面に青白く光輝く魔法陣が描かれていて二枚で一組だ。
大きな魔法陣が一組と小さな魔法陣が二組の合計三組が箱の中に入っており、一組の魔法陣を地面に設置すると双方向への転移が可能になるのだ。
鑑定書に記載されている内容の中に、魔法陣の大きさを超えると転移できないと記されており、シルルンがこれを選んだ訳は永久式の魔導具だからだ。
【祝福の短剣】は制限式の魔導具で、日に百回ヒールの魔法が使用できるミスリル製の短剣だ。
一回辺りの回復量は五十ほどだが、シルルンは短剣のスキルが高いので選んだのだ。
シルルンはこの二つの魔導具を選んだ時点で、不要な魔導具が大量にありすぎて探すのが面倒になり、しばらく地面に座り込んでいた。
すると、プルが「これが欲しいデス」と瞳を輝かせて魔導具を持ってきた。
シルルンはうんざりしていたので了承し、プルが持ってきた魔導具は【スゲェ剣】と鑑定書に記されていた。
「すげぇ」
鑑定書に目を通したシルルンは思わずそう呟いた。
【スゲェ剣】は細身の剣で、柄の部分に青色の宝石のような物がはめ込まれた綺麗な剣だ。
しかも、『燕返し』が付加されているのだ。
『燕返し』は剣速を変えずに剣の軌道を変えることができる能力だ。
そのため、連撃を得意とする戦闘職の者たちからすれば、喉から手が出るほど欲しい剣なのである。
シルルンは魔法の袋から祝福の短剣と転移の魔法陣を取り出して、祝福の短剣を身につけた。
ちなみに、【スゲェ剣】はすでにプルが体内にて保管している。
シルルンは思念でメタルゴーレムとストーンゴーレムのグレイ、アースゴーレムのブラウンたちを呼び寄せる。
シルルンたちは部屋の中でしばらく待っていると、グレイたちがシルルンの部屋に到着した。
「隣に部屋を作るから周辺の鉄を回収してよ」
シルルンはメタルゴーレムに指示を出した。
メタルゴーレムは周辺の鉄を水のように移動させると、自身の前に巨大な鉄の塊が出現した
「じゃあ、次は高さは天井までで、横幅と奥行きが二十メートルの部屋を作ってよ」
その言葉に、ブラックは口から大量の土を吐き出し、グレイは吐き出された土を使用して一瞬で部屋を作製した。
「う~ん、やっぱ早いね」
満足げな表情を浮かべるシルルンは魔法の袋から大量の鉄を次々に取り出して地面に置いた。
メタルゴーレムは巨大な鉄の塊と大量の鉄を水のように伸ばして、床と天井を鉄で覆った。
シルルンは魔法の袋から鉄の塊を五百個ずつ取り出して、メタルゴーレムとグレイに渡した。
メタルゴーレムとグレイは喜んでいるが、ブラウンたちは不満そうにしている。
「転移の魔法陣を設置するから部屋に扉がないのが問題だね」
シルルンは顔を顰めた。
これまでグレイたちが作製した部屋には全て扉はなかったが、部屋の中が丸見えでも男性陣は気にしていなかったのだ。
メイたち女性陣は部屋の中が見えないように出入り口を麻の布で覆っている。
麻の布は、シルルンが持ってきた麻ボルトを、丁度いい長さにカットして使用しているのだ。
ちなみに、メイとセーナは裁縫のスキルが高く、元娼婦たちや手先が器用な女雑用たちに裁縫を指導している。
そのため、ボロを纏っていた女雑用たちの服が、少しずつまともな服に変わりつつあるのだ。
シルルンたちはグレイたちを引き連れて調理場に移動した
すると、メイとガダン、ホフマイスターが調理場の前で話し込んでいた。
「……やはり、シルルン様にお願いするべきかと……食料の方はストックがあるので当面の間は問題がないにしても、鉄がなければ武具の修理もできなくなりますし、ポーションの方は死に直結するかと……」
ホフマイスターは深刻な表情を浮かべている。
「私からシルルン様にお願いしてみましょうか?」
「いや、待ってくれ。王に願い出るときは全力を尽くした後じゃと思うとる」
ガダンは思い詰めたような表情を浮かべている。
「ん? 何かあったの?」
シルルンは訝しげな表情でガダンに尋ねた。
「いえ、現段階で王のお耳に入れるほどの話ではありません」
その言葉に、メイとホフマイスターは微かに表情を曇らせた。
「そうなんだ。何かあったら言ってよね」
シルルンはにっこりと微笑んだ。
彼らは輸送手段に関しての議論を行っていたのだ。
ガダンはラーネの『瞬間移動』で輸送を行っていたが、ラーネは輸送を行うことに拒否を示した。
彼女が輸送を手伝っている間に、シルルンがダンジョンに転移していなくなったからだ。
鉱山拠点への輸送は採取隊のみで行うことも可能だが、多数の採取隊が鉱山拠点から離れることになる。
そのため、鉱山拠点の守りが薄くなることを懸念したガダンは採取隊を動かせずにいたのだ。
見るに見兼ねたホフマイスターは「シルルン様が一緒ならラーネ殿も輸送を手伝ってくれるはずだ」と進言するが、ガダンは首を縦に振らなかった。
彼からすれば王であるシルルンの手を煩わせたくないという強い思いがあるからだ。
「で、ガダンのところには大工さんとかいるよね?」
「もちろんいます」
「じゃあ、僕ちゃんが作った部屋には扉がないから扉をつけてほしいんだよ」
「なるほど、そんなことなら簡単ですのですぐに手配しましょう」
「うん、お願いするよ。あとどの部屋の鍵か分かるように扉と鍵には番号をつけてほしいんだよね。鍵は二本作って一本はメイに渡してほしいんだよ。メイは予備の鍵を管理してね」
「はい」
メイは嬉しそうに頷いた。
「はっ、そのように伝えておきます」
「あと、僕ちゃんの個室の隣に新しい部屋を作ったんだけど、その部屋の鍵は3本作ってほしいんだよね」
「了解しました」
「じゃあ、料金はメイから受け取ったらいいからね」
拠点運用資金としてシルルンは魔法の袋から金貨袋を二十袋(二億円)をメイに手渡した。
「王よ、その様な気遣いは無用ですぞ」
「えっ!? だってガダンからは食料をもらってるから他の代金はちゃんと払うよ」
「王よ、前にも言いましたが儂は王の奴隷なのです。例えば王の仲間の奴隷が魔物を倒して素材を手に入れたとします。その素材は王のものです。違いますかな?」
「……まぁ、それはそうだね」
「ですから、気遣いは無用なのです」
「でも、ガダンは大量の奴隷を養ってるのに大丈夫なのかい?」
シルルンは不安そうな表情を浮かべる。
「全く問題ありません。儂は大量の奴隷を抱えておりますが武器屋やポーション屋も経営しています。儂は王の奴隷ですので本来は武器屋やポーション屋も王のものなのです。ですから儂は武器屋やポーション屋は王から運営を任されていると解釈しており、利益が出ているうちは王から代金を受け取る訳にはいかないのです」
「……分かったよ。でも、お金が足らなくなったらちゃんと言ってよね」
「はっ。それでは儂は大工の手配をしてきますのでこれで」
ガダンはシルルンに深々と頭を下げると踵を返して歩き出した。その後をホフマイスターが続く。
「宿屋はうまくいってるの?」
「はい、何の問題もありません」
メイは平然と言ってのけた。
五軒の宿屋は、メイとセーナが指導した女雑用たちが働いているのだ。
ちなみに、宿泊料金は食事なしで一日千円だ。主に採取隊やスコットたち、一部の稼いでいる採掘者たちが宿泊している。
「そ、そうなんだ……」
逡巡したシルルンは踵を返して歩き出した。
「……シルルン様、何かお悩みがあるんではないでしょうか?」
メイは怪訝な表情でシルルンに尋ねた。
「えっ!? うん……優秀な人が足りてなさそうだから、ガダンのとこから貸してもらうか奴隷を買おうか迷ってるんだよ」
「なぜ優秀な人材が必要なのでしょうか?」
(相談してほしい……もっと頼ってほしい……)
メイはそう思っていたが口には出せなかった。
しかし、メイに全てを丸投げしている状態なので、シルルンはこれ以上は仕事を増やせないと考えていたのだ。
「僕ちゃんスライム屋をやっててその周りに店を出そうと考えてるんだよ。その店を任せる優秀な人材がいるんだよね」
「シルルン様、トーナの街に店を出すおつもりなら信用できる者でないと店のお金を持ち逃げされる可能性があります。ですので私が適任だと思います」
メイとセーナは、元娼婦たちの他に女雑用たちの中から優秀な五人を育てているが、メイはあえて自分の名を挙げた。
本来は育てている優秀な五人にシルルンの店を任せればいいのだが、まだ信用に値するか定かではない。
そのため、鉱山拠点の仕事を優秀な五人に振り分けて、シルルンの店には自分が動けばいいのだとメイは考えたのだ。
「えっ!? メイは仕事がいっぱいあるからもう無理でしょ?」
「いえ、拠点にはセーナさんがいますし、問題はありません」
「そ、そうなの?」
シルルンはジト目でメイを見つめる。
「問題ありません」
メイは涼しい顔をしている。
「分かったよ。そこまで言うなら任せるよ」
シルルンたちはラーネの『瞬間移動』で掻き消えた。
トーナの街のシルルンの家の前に出現したシルルンたちはスライム屋に向かって移動して店の中に入る。
「お客は来てるの?」
「そうですね……お客様はご来店されますが儲かるというほどではありませんね。やはり、立地条件が悪いかと」
唐突に店を訪れたシルルンたちに全く動じずにイネリアが答えた。
「そうなんだ。まぁ、それはなんとかするつもりだよ。で、スライム屋の周りに店を出すつもりだからメイを連れてきたんだよ」
「メイです。よろしくお願いします」
メイはイネリアに対して深々と頭を下げた。
「イネリアよ。正直助かるわ。この辺りはスライム屋しかないのよ」
イネリアはうんざりしたような表情を浮かべている。
スライム屋から一番近い商店は第二区画だが、東に六十キロメートルほどの場所にあるからだ。
「あはは、隣に店を作るからもう大丈夫だと思うよ。預かってる鍵をちょうだい」
イネリアは大工から預かっていた鍵をシルルンに手渡した。
シルルンたちはスライム屋から退店し、スライム屋の隣にある建物の前に歩を進めた。
「この二軒は飯屋と宿屋、あとなんでも扱う雑貨屋をやろうと思うんだよ」
「……すごく大きな建物ですね」
メイは建物を見上げて唖然とした。
二軒の建物は同じ大きさで二階建てだ。
横幅、奥行きの長さはそれぞれが百メートルで敷地面積は一万平米になる。
「じゃあ、これが店の鍵だよ。メイは中に入って何が必要か書き出してほしいだよ」
シルルンは二本ずつある鍵を一本ずつメイに手渡した。
「分かりました」
「僕ちゃんは家の裏側にいるから何かあったらきてね。それと一応ガードとしてメタルゴーレムをメイにつけるよ」
「ありがとうございます」
メイはにっこりと微笑んだ。
シルルンは思念で「メイを護れ」メタルゴーレムに指示を出し、メイたちは店の出入り口に向かって歩いていったのだった。
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