113 異種交配 修
ラーネの『瞬間移動』により、シルルンたちは薄暗い開けた部屋に出現した
「な、なんだここは!?」
ワーゼは動揺して声と身体を強張らせる。
「う~ん……またここか……」
シルルンはうんざりした表情を浮かべている。
彼らは無数のハイ スパイダーたちに囲まれており、その数は千匹を軽く超えている。
二匹のハイ スパイダーがシルルンの顔に接触寸前の距離でシルルンを凝視しているが、前回のような恐怖心はシルルンにはなかった。
この場所はトーナの街から南下した森の地下にある。
つまり、森の大穴の最深部の一つであり、スパイダー種の本営だ。
部屋の最奥にはスパイダー種のクイーンの姿があり、その傍らにはスパイダー種で最強のデス スパイダーたちがクイーンを護っている。
「フフッ……ジャイアント スパイダーとの交雑はどうなったのかしら?」
「……お前には礼を言わねばならんようだな」
「ということは上手くいってるのね!!」
ラーネは弾けるような笑顔を見せる。
「まぁ、概ねはな……」
クイーンは現状を憂いで言葉を濁らせた。
スパイダー種には上位種以上の強さを持つ突然変異個体が三種いる。
ポイズン スパイダーとアラクネ、デススパイダーだ。
だが、アラクネは生殖機能自体がなく、ポイズン スパイダーとデススパイダーは生殖機能はあるが、オスしか生まれないという問題が生じていた。
これにより、このオスたちとハイ スパイダーのメスを交配させるという実験を繰り返していたが、卵が孵化することはなかった。
このため、スパイダー種は生殖行動によって突然変異個体を増やせないという事態に陥っていたのだ。
ちなみに、ポイズン スパイダーはハイ スパイダーから突然変異するが、デス スパイダーとアラクネは基本種が産んだ卵から孵化した時点でデス スパイダーであり、アラクネなのだ。
しかし、ラーネがジャイアント スパイダー種を連れてきたことで状況は好転し始める。
ポイズン スパイダーは、ジャイアント スパイダーのペアの傷を癒し、専用の部屋と大量の餌を用意した。
ジャイアント スパイダーのメスは一度の産卵で二十個ほどの卵を産んだ。
これはスパイダー種からすれば数は少なく、スパイダー種は下位種でも二百個ほどの卵を産むのである。
ポイズン スパイダーは孵化した個体を選別した。
最も強い個体のペアとそれ以外にだ。
彼はラーネが連れてきたペアの部屋に弱い個体たちを残し、この部屋の管理をアラクネに任せた。
ポイズン スパイダーは強い個体のペアを連れて別の部屋に移動し、強いジャイアント スパイダー種の育成に専念した。
アラクネはハイ スパイダーたちと共に、ジャイアント スパイダー種たちを連れて前線の部屋へと移動した。
この部屋に攻め込んでくる魔物は様々だが、強い魔物はハイ スパイダーたちが倒し、弱い魔物はジャイアント スパイダー種たちが倒しており、それらの死体を食べることによりジャイアント スパイダー種たちは爆発的に数が増えた。
アラクネはジャイアント スパイダー種の上位種が五ペア発生した時点で交雑実験に着手した。
彼女はジャイアント スパイダー種たちに階級ごとに部屋に入るように指示を出し、ハイ スパイダーたちに全ての階級と交雑しろと命令した。
交雑は、一ペアでの検証結果では判断基準にならないことを知っているアラクネだからこそのやり方だ。
結果、一パーセント以下という確率で、ハイ スパイダーのオスとレッサー ジャイアント スパイダーのメスという組み合わせのみで新種が誕生した。
しかし、新種はオスのみしか誕生せず、この新種をどのメスに交配させても卵が孵化することはなかった。
つまり、この状況がクイーンの憂いの種なのだ。
ちなみに、ポイズン スパイダーやデス スパイダーとジャイアント スパイダー種のメスの組み合わせも新種は生まれることはなかった。
そして、新たに誕生した個体名はイビル スパイダー。
ステータスの値はポイズン スパイダーを上回り、ジャイアント スパイダーから継承した『剛糸』に、スパイダー種の魔法や能力までも所持する恐ろしく強い個体だ。
すると、二匹の蜘蛛の魔物がシルルンたちに向かって歩いてきた。
「な、なんだあの化け物は……?」
ワーゼは驚きの声を上げた。
「あれはアラクネっていう魔物なんだよ」
だが、そういうシルルンもアラクネたちを目の当たりにして表情を曇らせていた。
アラクネたちの上半身が腐った女の死体のような姿であり、ラーネがアラクネだった頃と比べると酷すぎるからだ。
「マ、マジかよ……」
ワーゼは絶句して後ずさる。
「クイーンから聞いているわ。大蜘蛛族を連れてきてくれてありがとう」
アラクネはラーネの手を握って満面の笑みを浮かべているが、蜘蛛語なのでシルルンには何を言っているのか解からなかった。
「フフッ……どんな子が生まれたのかしら。見てみたいわね」
だが、ラーネは自分以外にもアラクネが存在していたことに対して動揺を禁じ得なかった。
「名前はイビル スパイダー。上にいるわよ」
その言葉に、イビル スパイダーは天井から降下する途中で回転して地面に着地した。
イビル スパイダーの全長は七メートルを超える巨体で、体色は緑色と灰色のストライプ柄だ。
この様な体色になった理由は、スパイダー種の体色が緑色でジャイアント スパイダー種の体色が灰色だからだろうと推測できる。
「マ、マスター!! イビル スパイダーはどのくらい強いの?」
「うん、かなり強いね……デス スパイダーには及ばないけどシャインよりは強いと思う」
(ルークが言ってた大当たりがこれなんだろうね……僕ちゃんもハイブリットをやってみたくなったよ)
この様な結果を予想していなかったシルルンは驚きを隠せなかった。
「そ、そんなに強い子なのこの子は!?」
(イビル スパイダーの数が増えればマンティス種を撃退して、逆にマンティス種の拠点に攻め込むこともできるわね)
ラーネは獰猛な笑みを浮かべている。
「うふふ、ありがとう。今度は赤い蜘蛛を連れてきてくれたのね」
「!?」
(赤い蜘蛛だと!?)
ワーゼは周辺を見回したが赤い蜘蛛は自分しかいなかった。
彼は体が蜘蛛なのでアラクネが喋る蜘蛛語も理解できるのだ。
「フフッ……理解が早くて助かるわ」
ラーネはしたり顔でほくそ笑む。
唐突に多数のハイ スパイダーたちにワーゼは囲まれて体を拘束された。
「なっ!? いきなりどうしたんだ!?」
「フフッ……あなたはなんでもするって言ったわよね。だったらここで子作りに励んでほしいのよ」
「こ、子作りだとっ!? ま、待て待て待て待てぇ!? 俺は人族だそ!!」
ワーゼは強引にハイ スパイダーたちを振りほどこうとした。
「乱暴にしてはダメよ。あなたの周りにいるのは全てメスなんだから」
「な、なんだと!?」
驚愕したワーゼは慌てて体から力を抜いた。
「フフッ……その子たちは蜘蛛族で言えばみんな美人の子たちなのよ。悪い気はしないでしょ?」
「ば、馬鹿を言うなっ!? さっきも言ったが俺は人族なんだぞ!! 蜘蛛と子作りなんかできるか!!」
しかし、ハイ スパイダーのメスたちは一斉にフェロモンを放出し、ワーゼは頭がクラクラして生殖器が反応してしまう。
「なっ!?」
ワーゼは愕然としたが、それでも必死に意識を繋ぎ止めて耐え抜いてみせた。
「メスが出すフェロモンに対してここまで耐えるなんてすごい精神力だわ。その力も新種に受け継がれると思うと楽しみで仕方が無いわ」
不気味な笑みを浮かべるアラクネはワーゼの傍までゆっくりと歩いていき、『魅了』を発動して瞳が怪しく光った。
ワーゼは抵抗空しく傀儡子に落ち、多数のメスたちに引きずられて洞穴の奥へと消えていった。
メスにとって優秀な個体を生むことは強さと並んで評価が高く、その地位は確固たるものになる。
イビル スパイダーを生んだレッサー ジャイアント スパイダーのメスは新参者であるにも拘わらず、安全な場所で大量の餌を与えられて戦う必要もないのだ。
そのため、ハイ スパイダーのメスたちは新種を生むためにワーゼに群がったのである。
「ん? ワーゼはどこに行ったの?」
蜘蛛語が分からないシルルンは不可解そうな表情を浮かべている。
「フフッ……ワーゼは子作りにいったのよ。だからしばらくは戻らないと思うわ」
「えぇ~~~~っ!? マジで!? ていうかワーゼは人族だろ!?」
シルルンは驚きのあまりに血相を変える。
だが、彼はワーゼが子供が欲しいと考えているなら蜘蛛の子供しか望めないのだと理解した。
しかし、この様な考え方はシルルンがペットたちのことを自分の家族だと思っているからこそ成立するが、常人ではこんな発想にはいたらないことは言うまでもない。
「それでマンティス種との戦いはどうなってるのかしら?」
ラーネが探るような眼差しをクイーンに向ける。
「……膠着状態が続いておったが奴らは戦線拡大に踏み出した。現在、三本のルートで激しい攻防が続いておる」
クイーンは重々しい口調で話を切り出した。
マンティス種のクイーンは膠着状態が続いていることに激怒し、本営から新たな攻撃部隊を出撃させた。
だが、新たに編成されたマンティス種の攻撃部隊は、膠着状態が続いている戦場には姿を見せなかった。
スパイダー種の本営に繋がるルートは、シルルンたちが進軍したルート以外にもさらに二本のルートが存在するからだ。
つまり、この二本ルートの存在をマンティス種が暴き、そのルートにマンティス種の攻撃部隊が攻め込んだのだ。
「……ということは食料調達用のルートの存在がばれたのね」
ラーネは忌々しげな表情を浮かべる。
そこに、魔力を消耗した多数のハイ スパイダーの群れが帰還した。
しかし、ハイ スパイダーの身体の中に潜んでいた魔物が、ハイ スパイダーの身体を突き破って姿を現した。
その魔物の姿は、上半身が蟷螂で下半身は大雀蜂という異形な体の魔物だった。
即座にハイ スパイダーたちが異形な魔物に襲い掛かるが異形な魔物は鎌を乱舞し、十匹ほどのハイ スパイダーたちは一瞬でバラバラに斬り殺された。
「……下半身が雀蜂族の上位種にそっくりね」
(どうやら蟷螂族は雀蜂族とのハイブリットに成功したようね)
ラーネが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
それを目の当たりにしたデス スパイダーたちはクイーンを庇うように立ちはだかって警戒を強める。
ハイ スパイダーたちは異形な姿をした魔物に次々と襲い掛かるが、鎌の斬撃の前に一瞬で解体されてまるで相手になっていない。
「ケケケケッ!! 無駄だ無駄!! 俺が来たからにはお前らは滅びることが確定している」
異形な姿をした魔物はしたり顔で高らかに宣言した。
この魔物の個体名はマンティスモドキだ。
その全長は八メートルを超える巨体で、体色は警戒色である黒と黄色のストライプ柄だ。
その身体の色は凶悪な虫である大雀蜂を連想させる。
ラーネはマンティス種とホーネット種のハイブリットと推測したがそれは間違いだ。
マンティスモドキのような姿をした虫は、虫の世界でも実在する。
その個体名はカマキリモドキである。
カマキリモドキの生態は、卵から孵化したカマキリモドキの幼虫が蜘蛛に寄生しながら養分を吸い取り、蜘蛛が産卵すると卵に移動し卵を食べて成虫になる。
つまり、完全な蜘蛛の天敵なのである。
ハイ スパイダーでは相手にならないと判断したイビル スパイダーが、凄まじい速さで突進して戦いに割って入った。
だが、マンティスモドキは『斬撃衝』を放ち、風の刃がイビル スパイダーの体を切り裂き、イビル スパイダーは身体が縦に二つに分かれて呆気なく一撃で即死した。
「……面白いじゃない!!」
憎悪と怒りで顔を歪めたラーネが凄まじい速さで突撃し、マンティスモドキに一瞬で肉薄して紅蓮の剣を振るうが、鎌で弾き返されてラーネは激しく後方に吹っ飛んだ。
「――なっ!? なんて力なの!?」
ラーネは吹っ飛びながらも『瞬間移動』を発動させてその姿が掻き消える。
次の瞬間、ラーネが現れたのはマンティスモドキの背後で、出現したと同時に最高速に達した紅蓮の剣の刀身がマンティスモドキの首に直撃した。
ラーネの【瞬間移動斬り】は『瞬間移動』してから剣を振るのではなく、剣を振って剣速が最高速に到達した瞬間に『瞬間移動』で巧みに位置調整し、出現したときには剣の刀身が首の横にあるので回避不能なのだ。
「……効かねぇなっ!!」
「そんなっ!? 嘘よ!?」
ラーネはショックを露にした。
マンティスモドキは振り向き様に鎌の薙ぎ払いを繰り出し、ラーネの身体は空中にあり、『瞬間移動』も使用不能でラーネは目の中に絶望の色がうつろう。
だが、その刹那、間一髪でシルルンが割って入って鎌による攻撃を氷撃の剣で弾き返した。
「……マ、マスター!?」
ラーネは驚いてきょとんとする。
「ラーネたちはマンティスモドキに絶対に勝てないから下がってて!!」
『反逆』を発動させたシルルンが振り向きもせずに言い放ち、ラーネは何度も頷きながらその場から離れた。
「ケケケッ!! なんで人族がここにいる? さっきの獣人に見える女は蜘蛛族が化けてるんだろうがお前は違うだろ。餌として連れてこられたのか?」
マンティスモドキは嘲うような笑みを浮かべているが、内心では警戒していた。
(……人族ごときがなぜ俺の攻撃を弾き返せる?)
マンティスモドキは言動とは裏腹に、侮るなと百戦錬磨の勘が警鐘を鳴らしていた。
だが、マンティスモドキは蟷螂語で喋っているので、シルルンには何を言っているのか分からなかった。
シルルンは鋭い眼光をマンティスモドキに向けると、紫色の球体が出現してマンティスモドキは紫色の結界に包まれた。
「あぎぃっあぁぁあぁぎぃやあああぁぁああぁぁああぁ!!」
紫の結界に包まれたマンティスモドキは棒立ちになり、耳をつんざくような奇声を上げた。
その奇声を耳にしたスパイダー種たちは、不安を掻き立てられて本能的に後ずさる。
シルルンが放った紫色の結界は、紫の結界の完成形であり、遥か昔の魔物使いたちが魔を絶つために開発した【退魔の結界】なのだ。
【退魔の結界】に包まれたマンティスモドキは紫の結界の効力により急激に魔力を奪われ、退魔の力によりその存在自体を拘束され、破魔の炎に焼かれるのだ。
だが、唐突に【退魔の結界】が消滅し、マンティスモドキは気が狂いそうな激痛から解放されて面食らってぽかんとする。
しかし、目の前にいたはずのシルルンの姿はなく、マンティスモドキは困惑して振り返る。
そこにはシルルンの姿があったが、マンティスモドキは身体を動かしたことにより、身体が横にズレて三つに分かれて即死した。
シルルンはゆっくりと振り返りながら、魔法の袋に氷撃の剣をしまう。
彼は【退魔の結界】で動きを止めながら、目にも留まらぬ速さで『並列斬り』を袋斬りで放ったのだ。
「……」
(恐ろしい組み合わせだよ)
シルルンは思わず息を呑んだ。
彼はラーネの【瞬間移動斬り】やハイ ゴーストの『死の手』とテレポートの組み合わせ、スケルトンプリンセスの『魔法必中』とデスの魔法の組み合わせを目の当たりにして、自分も何かそんな組み合わせはないかとずっと模索していたのだ。
そして、検証を行ったのがこの技で、シルルンはこの組み合わせを【極悪斬り】と名付けたのだった。
「倒したデチュ!! 弱いデチュ!!」
「食べるデチ!!」
プルルとプニニがプルとプニの口の中から飛び出し、マンティスモドキの死体の死体に向かってピョンピョンと跳ねていく。
だが、プニが素早く『飛行』し、マンティスモドキの死体を『死体吸収』で吸収した。
「食べたデチュ!! ずるいデチュ!!」
「デチデチ!!」
プルルとプニニが飛び跳ねながら頬を膨らます。
「この死体は珍しいからダメデシ。珍しくない死体なら食べてもいいデシ」
プニはプルルとプニニに分かるように人族語で言った。
「……分かったデチュ」
「……デチデチ」
プルルとプニニは不満そうな顔をしたが、素直にプルとプニの口の中に戻った。
シルルンたちはラーネたちに向かって歩を進める。
「マスターお疲れ様!! あんな化け物を倒せるなんてさすがマスターね」
ラーネはとろけそうな笑みを浮かべてシルルンに抱きついた。
「あの魔物はマンティスモドキって名前で、たぶん、蜘蛛族の天敵だね」
「……えっ!? 天敵……」
ラーネの表情に驚きだけでなく焦りが混ざる。
「うん、だって『蜘蛛族特攻』と『蜘蛛族無効』を持ってたからね」
「『蜘蛛族無効』……」
ラーネは深刻な表情を浮かべる。
『蜘蛛族特攻』は蜘蛛族に対してどの様な攻撃手段も三倍になり、『蜘蛛族無効』は蜘蛛族からどんな攻撃を受けても百パーセント無効になるのだ。
「だから、ラーネの【瞬間移動斬り】も効かなかったんだよ」
「……マスターがいなかったらクイーンは殺されてたってことね」
沈痛な表情を浮かべるラーネは、クイーンの傍に移動して事情を報告した。
だが、クイーンは人族語で喋らないだけで人族語を理解しており、シルルンとラーネが話している時点で、ラーネが報告する内容は理解していた。
しかし、報告内容を聞いていたデス スパイダーとアラクネはそんな化け物が存在するのかと戦慄が駆け抜けた。
「……まずは礼を言わねばならぬな、人族の少年よ感謝する。褒美は何がいい?」
クイーンが人族語で話を切り出した。
シルルンはビックリして目が丸くなる。
「えっ!? 何がいいって言われても何があるのか分からないから答えようがないよ」
クイーンは逡巡しているようで返答がないが、プニはイビル スパイダーの死体をじーっと見つめている。
「……ならば武具はどうだ? 我らからすればゴミで褒美として渡すのは気が引けるがお前たち人族からすれば有用かもしれん」
「あはは、じゃあ、それでいいよ。あとイビル スパイダーの死体も欲しい」
「いいだろう」
「マスターありがとデシ!!」
話を聞いていたプニは大喜びして、イビル スパイダーの死体を『死体吸収』で吸収する。
彼は『魔物解析』でイビル スパイダーを視ており、どうしても『剛糸』が欲しいと思っていたのだ。
シルルンはプニの頭を撫でる。
プニはとても嬉しそうだ。
「過去にマンティスモドキと戦ったことはないわよね?」
ラーネは探るような眼差しをクイーンに向ける。
「一度だけある……我らが蟷螂族に敗れ地上から姿を消したときだ。なぜ群れ最強のデス スパイダーの攻撃部隊が全滅したのか分からなかったが、今思えばあやつの仕業だったんだろうな」
シェルリングは、頭が変わったと推測していた。
だが、実際にはクイーンは変わっていなかったのだ。
スパイダー種の戦術が変わったのは、著しく減った数を立て直すためにとった苦肉の策だったのだ。
「フフッ……だったらマンティスモドキはもういないってことね」
ラーネの顔に張り付いていた強張りが消える。
「だが、新たに生まれる可能性は〇ではない……今後のためにも対策を考えねばならんな」
「だったら、クイーンがいる部屋に入るには厳しいチェックをした上に、一部の者しか入れないようにしたほうがいいし、あとは強い種族と手を組むか、クイーンだけでも逃げれるように緊急脱出手段を考えたらいいんじゃないの?」
「……ほう」
すぐに具体的な対策案を出してきたことに、クイーンはこれが人族かと驚きを禁じ得なかった。
しかし、緊急脱出ルートはすでにあり、クイーンはそれを口に出さなかった。
だが、シルルンが言った緊急脱出手段とはラーネの『瞬間移動』のような転移できる手段のことだった。
脱出ルートがあったとしてもマンティスモドキが追ってくれば逃げ切れないからだ。
「……チェックに関してはアラクネにやらせるとしよう。だが、我らと組める種族など存在するのか?」
「う~ん、問題はそこなんだよね……相性とかを考えなくていいのなら一番いいのはホーネット種なんだよね」
「雀蜂族だと!? お前は我らを舐めているのか?」
クイーンは思わず失笑した。
「えっ!? ホーネット種は強いじゃん」
「だったら何故に三つ巴になっていないのだ?」
「えっ!? なってないの?」
「なっておらぬ……まぁ、弱いとは思わんがな」
「あれ? ここのホーネット種が弱いのかな? 鉱山にいるホーネット種は強いんだよ」
「……鉱山? ここではないのか……」
「うん、鉱山にはエンシェントがいたんだよ」
「何だと!?」
(なぜ人族がエンシェントの存在をが知っている!?)
クイーンは動揺を隠せなかった。
「あれに勝てる魔物はなかなかいないと思うんだよね」
「……当たり前だ。だが、エンシェントがいるなら我らと釣り合いがとれる」
「でも、交渉内容はどうするのよ?」
「エンシェントがいるのなら確実に我らでいうところのデス スパイダー級の魔物がいるはずだ。こちらとしてはその魔物が欲しいが、相手には何のメリットもないから交換に応じることはないだろうな」
「じゃあ、通常種のホーネットを連れてくるから育ててみたら? 上位種にして高レベルにしたら結構強いと思うんだよ」
「ほう……我らの命令を聞くとは思えんがその辺は大丈夫なのか?」
「うん、僕ちゃんのペットにしてから連れてくるから大丈夫だよ。でも、大事に育ててほしいんだよね」
「なるほどな、お前は魔物を使役できるんだったな……お前とは長い付き合いになりそうだ……」
こうして、クイーンとの会談が終了したシルルンたちは、アラクネに先導されてゴミ捨て場に案内される。
ゴミ捨て場になっている部屋の直径は百メートルほどあり、そこからさらに洞穴が掘られていて無数にゴミ捨て場があるのだ。
アラクネは全てゴミだから好きなだけ持っていけばいいと言い残し、その場から立ち去った。
シルルンはプルたちに全て『捕食』して魔法の袋に入れてくれと指示し、ゴミ捨て場から武具が全て消え去った。
この武具は冒険者たちが食い殺されて残った残骸なのはいうまでもない。
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イビル スパイダー レベル1 全長約7メートル
HP 6000~
MP 1200
攻撃力2000
守備力2000
素早さ 1200
魔法 ヒール ブリザー パラライズ エクスプロージョン ポイズン スロー
能力 統率 威圧 剛糸 毒牙 毒爪 毒霧 溶解液 強酸 強力 堅守 魔法耐性
ポイズン スパイダー レベル1 全長約8メートル
HP 5000~
MP 700
攻撃力 1600
守備力 1300
素早さ 1500
魔法 ヒール ブリザー パラライズ エクスプロージョン ポイズン スロー
能力 統率 強糸 猛毒 猛毒爪 猛毒牙 猛毒霧 溶解液 強酸 毒無効 能力耐性
デス スパイダー レベル1 全長約10メートル
HP 10000~
MP 2500
攻撃力 3500
守備力 2000
素早さ 2000
魔法 ヒール ブリザー パラライズ エクスプロージョン デス ポイズン スロー デスペイン
能力 統率 威圧 強糸 毒牙 毒爪 毒霧 猛毒 剛力 堅守 毒耐性 物理耐性 魔法耐性 能力耐性
マンティスモドキ レベル1 全長約6メートル
HP 1300~
MP 300
攻撃力 600
守備力 300
素早さ 400
魔法 ドレイン デス ファイヤ
能力 共生 統率 威圧 斬撃衝 蜘蛛族特攻 蜘蛛族無効 能力耐性 魔法耐性
マンティスモドキ レベル37 全長約8メートル
HP 9000~
MP 3800
攻撃力 2500
守備力 1700
素早さ 2100
魔法 ドレイン デス ファイヤ
能力 共生 統率 威圧 斬撃衝 蜘蛛族特攻 蜘蛛族無効 能力耐性 魔法耐性 剛力 回避
ラーネが一撃で激しく吹っ飛んだのは『剛力』を所持している上に『蜘蛛族特攻』を所持しているからで、この時のマンティスモドキの攻撃力は蜘蛛族に対して15000という恐ろしい数値になっているのである。
ちなみにカマキリモドキはこの作品では強いように書いているが、実際は体長が2、3cmしかないので虫としては弱い。
イビル スパイダーの糸(1m) 判定不能
ポイズン スパイダーの糸(1m)判定不能
デス スパイダーの糸(1m) 判定不能
マンティスモドキの鎌 判定不能




