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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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111 今後の展開 修


「君はすごいな!! あのギャンと真っ向から殺り合えるなんて」


 スコットが感嘆の声を上げながらシルルンに向かって歩いてきており、その後方には赤い蜘蛛であるワーゼの姿もある。


「あはは、スライムにされちゃったけどね」


「そ、そうなのか? 俺はアントンを殺すことに必死だっから知らなかったよ。……しかし、あのギャンの動きは最上級職の戦闘職、いや、それ以上に思えた。ギャンは魔物使いではなかったのか?」


 スコットはいかにも解せないといった表情を浮かべている。


「う~ん、もしかしたらギャンは『二重職』を持ってるのかもしれないね」


「に、二重職!? そんな能力が存在するのか……」


 スコットは驚きを禁じ得なかった。


「まぁ、何にせよ、助かったぜシルルン。心から礼を言わせてもらうぜ。ありがとう」


 ワーゼはそう言うと少しだけ低い体勢をとる。


「えっ!? なんで僕ちゃんの名前を知ってるの!?」


 これにはシルルンはおろか、ポロンとヘレンも困惑している。


「わはは、俺だ俺!! ワーゼだ」


「え~~~~っ!? マジで!?」


 シルルンは目を剥いて驚愕した。


「なんでそんな姿になってんの?」


「ギャンに蜘蛛にされたからだ」


「……そ、そうなんだ。元に戻れるの?」


「いや、無理らしい、ルークがそう言っていた」


「えっ!? ……ルークって【大魔物使い】のルークのこと?」


「何? ルークを知っているのか?」


「うん、黒いドラゴンを連れてるでしょ?」


「あぁ、そうだな……なら話は早い。俺は蜘蛛になって彷徨っているところをルークに拾われたんだ。俺はなぜか赤い蜘蛛だったらしくルークの目に留まったらしい」


 ワーゼは蜘蛛に姿を変えられた時点では下位種で体色は緑だったが、運良く通常種に進化したするとなぜか体色が赤色だったのだ。


 これはギャンによって魔物に変えられた者が進化時に全て体色が赤色になるのか、それとも突然変異なのかはサンプル数が少なすぎて不明だ。


「ルークの狩場は上層にあって俺はそこでルークに鍛えられたらしい。そして俺が上位種に進化したときに俺の記憶が戻ったんだ」


「……そ、そうだったんだ」


「俺もルークもビックリしたぜ。なんせ俺は蜘蛛になってるし、ルークはテイムした魔物が人族とは思いもしなかったからな。それで俺はルークに事情を話したらルークは俺とのペット契約を破棄して行ってこいと言ったんだ……ルークはいい男だよな、俺が女だったら惚れてるかもしれないぜ」


「……」


(そうかなぁ……ルークは嘘つきだからなぁ……)


 シルルンは不服そうな表情を浮かべているが、あえて何も言わなかった。


「ルークは俺を黒いドラゴンに乗せて上層からここまで連れてきてくれたんだ。そして俺は上空から投下されて、とりあえず、キャンプ村の周辺を探っていたら、スコットとアントンが戦っているのが見えたんだ。だがよ、何の因果か知らんがシルルン、お前がいてくれて本当に助かったぜ。俺とスコットだけだったらデーモンに殺られてたからな」


「あはは、まぁ、デーモンぐらいなら余裕だからね。で、ワーゼの体は本当に戻せないの?」


「あぁ、ルークはそう言ってたな。ルークが言うには俺が下位種のままだったらキュアの魔法や『解呪』で元に戻せたらしいが、俺が進化したせいで蜘蛛と完全に混ざったから無理らしい」


「……そうなんだ」


 シルルンは深刻な表情を浮かべている。


「俺のことを心配してくれてるみたいだが、俺はこの方が都合がいいんだ。なんせ強いからな」


「えっ!? そ、そうなの?」


 シルルンは面食らったような顔をした。


「シルルン、お前に聞きたいんだがギャンはどうなったんだ?」


「う~ん、ハイ サキュバスが影の中に連れてったんだけど、ハイ ヘドロの剣で斬ったからすごいヒーラーがいないと死んでると思うけどね」


「何ぃ!? そうなのか!? それでハイ ヘドロの剣ってのはどういう剣なんだ」


「僕ちゃんが持ってる剣で最強の剣なんだけど、効果は人型に特効で即死を含めた二十ぐらいの状態異常が一回斬りつけただけで発生するんだよ」


 だが、彼が所持している剣はアダマンタイトソードやオリハルコンで作られたファイヤオリハルソードなどの属性剣もある。


 そのため、最強という言葉には、武器の専門家や有識者からすれば物議を醸すことになるだろう。


「状態異常が二十だと!?」


「それでキャンの野郎はのたうち回っていやがったのか!! ざまぁねぇな!!」


 ワーゼは豪快に笑ったのだった。


「さっきも言ったけどたぶんだよ。すごいヒーラが仲間にいたら助かってるかもしれないからね」


「すごいヒーラか……だったらギャンの野郎は生きてるかもしれんな。なんせギャンはビャクスの一味だからな」


「ビャクス? なにそれ?」


「……おいおい、知らねぇのかよ? ビャクス山賊団だ。とんでもねぇ数の山賊団でな、ここから隣の西のエリアにキャンプ村があるのは知ってるだろ?」


「うん」


「今はビャクスに占領されてるんだ」


「えっ!? マジで!?」


「俺たちは西のキャンプ村にいたんだがビャクスたちに攻撃されて逃げてきたんだ。ポリストンが言うには奴らの兵力は四千以上らしい。だが、軍が動いているという話もある」


「へぇ、軍が動いてるんだ」


「いずれにせよ、ギャンが生きているか死んでいるかは分からんが、俺が動くとすれば軍が負けたときだな」


「……ワーゼたちはこれからどうするの? 西のキャンプ村が占領されたんならここも占領される可能性があるよね?」


「そうだ。それはポリストンが一番危惧していたことなんだ」


「だよねぇ」


「だが、ここが攻め込まれる確率よりも同じエリア内にある亜人、獣人が支配している採掘ポイントが狙われる確率が高いとポリストンは言っていた」


「う~ん……確かにそうだよね。キャンプ村から北にいけばポイントがあったのを忘れてたよ……けど、ワーゼはこれからどうするの? ポロンたちは僕ちゃんとこに来るんだよ、ね?」


 シルルンはポロンに視線を向けて確認を促すとポロンはにっこり笑って頷いた。


「僕ちゃんとこ? なんだそれは?」


 ワーゼは蜘蛛なので表情は分からないが、スコットは怪訝な表情を浮かべている。


「僕ちゃん、東のエリアで第三ポイントって言っても差し支えない採掘ポイントを発見したんだよ」


「馬鹿なっ!? ポイントを見つけると言っていたがもう見つけたのか!?」


 これにはワーゼは絶句したのだった。


「あはは、だから僕ちゃんはここでガードの仕事をする人を募集してたんだよ」


「……ていうか、シルルン。お前には最初から驚かされてばかりだな……全く呆れた奴だぜ」


 ワーゼはおそらく呆れたような顔をしているのだと考えられるが、蜘蛛なのでその表情は分からなかった。


「俺たちがいなくなってからかなりの時間が経っていると思うが、あれからどうなったんだ?」


 スコットは探るような眼差しをポロンに向ける。


「……」


 だが、ポロンは俯いたままでスコットの問いに答えなかった。


「……結果だけ言えば私たち以外は全滅だ」


 ヘレンがひどく神妙な顔つきでポロンの代わりに答えた。


「――なっ!?」


 スコットはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をして、ワーゼは驚きすぎて放心状態に陥る。


「あんたたちが戻ってこなくなって、アントンがリーダーになってから拠点を南に移したけど、仲間たちの不審死は続いたんだ」


「……」


「だけど、ギャンたちが拠点にいるのに仲間たちが戻ってこない場合もあったんだ。今思えばギャンがデーモンを使役して仲間たちを殺してたんだな。ていうか、ギャンたちはその気になればいつでも私たちを殺せるのになぶって遊んでたんだ!!」

 

 ヘレンは怒りに打ち震えている。


 重い空気が辺りを包み込んで誰も何も発することができなかったが、しばらくするとヘレンは落ち着きを取り戻したのだった。


「ワーゼ、お前はこれからどうするつもりなんだ?」


「……そうだな、もう仲間はお前たちしかいないし、体もこんなだ……俺はシルルンのところに行こうと思うが魔物の俺が行っても大丈夫なのか?」


「うん、全然問題ないけどガードの仕事をするの?」


「あぁ、そのつもりだ」


「でも、ワーゼは蜘蛛だからお金を稼いでも意味ないんじゃないの?」


「なっ!? ……い、言われてみれば全くその通りだな」


 ワーゼはこの体ではかね自体を持ち歩けないし、使うこともできないと思ったのだった。


「だよねぇ、ワーゼはルークといたときは何を食べてたの? やっぱり、魔物を食べてたの?」


「いや、通常種のときはそうだったと思うが俺の記憶が戻ってからは肉だな。ルークが肉を焼いてくれたからな」


「えっ!? そうなんだ。だったら、肉を買うためにお金を稼げばいいね」


「……だが、この体では金を管理できんな」


「あはは、だったらポロンに管理してもらったらいいじゃん。ポロンは魔物使いなんだから」


「……そのことなんですが、シルルンさんに調べてもらいたいことがあるんです」


 ポロンは意を決したような面持ちでシルルンに言った。


「ん? 何を調べてほしいの?」


「私の周りにいる魔物たちがギャンに変えられた魔物かどうかを調べてほしいんです」


 ポロンは思い詰めた硬い表情を浮かべている。


 シルルンは『魔物解析』でポロンの傍にいる魔物たちを視た。


「全て下位種の魔物だよ」


「そ、そうなんですね……」


 だが、ポロンは得心のいかないような表情を浮かべている。


 彼女は魔物たちが自分の仲間だったから集まってきたと考えていたが、違うとなるとどういうことなのか見当もつかなかった。


「ん? どうしたの?」


「あの……私は魔物使いではなくて司祭なんです」


「えっ!? 司祭なの!?」


 魔物使いだと勝手に思い込んでいたシルルンは自分の耳を疑った。


「はい……だから、なぜ魔物たちが私に寄ってくるのか考えていたんです」


「えっ!? だったら魔物使いに目覚めつつあるんじゃないの?」


「そ、そうなんでしょうか?」


「いや、分からないけど、魔物を見てステータスを視たいって強く念じるとステータスが視えない? それとか魔物を捕縛する鎖か結界が出せないか試してみたら?」


 その言葉に、ポロンは戸惑いながらも頷いて試してみたが不可能だった。


「う~ん……転職の神殿で転職できる職業を確認したほうがいいかもしれないね。もしかしたら魔物使いに転職できるかもしれないからね」


「そ、そうですね」


「だが、魔物使いも希少な職業だが、司祭も今の状況では希少な職業だ。それにもしかしたら最上級職の聖職者にポロンなら転職できるかもしれないから俺はもったいないと思う」


 スコットとワーゼの話を聞いて、ポロンは真面目な硬い表情を浮かべて考え込んでいる。


「で、スコットはどうするの? 僕ちゃんとこに来るの?」


「あぁ、もちろん行くつもりだ」


「そうなんだ。だったらいつから来れる?」


「……そうだな、一度拠点に戻って生き残った仲間がいないか見て回った後、仲間たちを埋葬してからになるから明日の夕方ぐらいなら大丈夫だろう」


「うん、明日の夕方に迎えに来るよ。じゃあ、僕ちゃんから離れてね」


 ワーゼたちはシルルンから離れると、シルルンは【転移の腕輪】で魔法陣を出現させる。


「バイバ~イ!!」


「マ、マジかよ!?」


 シルルンたちは魔法陣と共に姿が掻き消えて、ワーゼとスコットは呆然としたのだった。



















 タイガー種の縄張りに攻め込んでいたハーヴェンは、第三ポイントに帰還して防壁を見上げて呟いた。


「なんだこの壁は?」


 ハーヴェンは怪訝な表情を浮かべている。


「貴殿が我がマスターと不戦の契約を交わしたハーヴェン殿か?」


 ハーヴェンは視線を防壁の上に向けると、そこには金色の狼と巨大な虫の姿があった。


「……なんだお前は?」


「我が名はシャイン。タイガー種からこの防壁を護る役目を負った者だ」


「ほう……」


(防壁とはこの壁のことか?)


 ハーヴェンは跳躍して防壁の上に着地し、シャインはハーヴェンの傷の少なさに軽く目を見張る。


 タイガー種と回復手段なしで戦い続けてこの程度の傷しか受けていないことに、彼はまさに歴戦の勇者だと戦慄を覚えたのである。


 ハーヴェンの傷をヒールの魔法で治療しようかとシャインは進言しかけたが、その言葉を慌てて飲み込んだ。


 ハーヴェンは彼の主であるシルルンと同格な存在だからだ。

  

「……では、こちらへ」


 シャインは「しばらく任せた」と思念でビークスに伝えると、ビークスは「了解した」とシャインに返した。


 シャインが防壁の階段を下りていくとハーヴェンも後に続く。


 彼らが拠点内を進んでいくと、多数の人族が建物から出入りしていた。


「……」


(なぜ人族がこんなにもいるんだ?)


 ハーヴェンは不可解そうな顔をした。


 シャインとハーヴェンが洞穴の出入り口前に到着すると、洞穴内部から多数の女たちの黄色い声が轟いた。


 すると、洞穴の中からマーニャ率いるミニ隊が姿を現し、防壁に向かって進軍し始めた。


 ミニ隊は恐ろしく強くビークスと共に防壁を超え、頻繁にタイガー種を狩っているのだ。


 無論、ミニ隊だけでもタイガー種は狩れるが、ビークスが同行している訳は肉を食うためだ。


 つまり、肉を食べないとビークスは大量の涎を垂れ流すので難民たちが不安がるからである。


 彼らはタイガー種を狩りまくっているので、格段にレベルが上がっているのは言うまでもない。


 ミニ隊の出陣を見送ったシャインとハーヴェンは、洞穴の中に入って通路を進んでシルルンの部屋に到着して中に入った。


「マスター、ハーヴェン殿をお連れしました」


「えっ!? マジで!?」


 シルルンの部屋にはペットたちの他にワーゼたちの姿もあり、シルルンとテーブルを囲んで酒を飲んでいた。


 無論、ワーゼは蜘蛛なので椅子に座れないのでシルルンの横で樽に入った酒を飲んでいる。


「――なっ!?」


 シャインとハーヴェンの姿を目の当たりにしたワーゼたちは驚きのあまりに絶句する。


「……あの防壁はなんだ? 俺がいたときには人族もあんなにいなかったはずだ」


「防壁はゴーレム種に頼んで作ったんだよ。あと、人族は『瞬間移動』で連れてきたんだよね」


「『瞬間移動』だと!?」


 声を強張らせたハーヴェンは、これだから人族は厄介なんだと思わずにはいられなかった。


「話をする前に傷を治さないといけないね」


 シルルンは思念で「ハーヴェンの傷を治して」とプニに指示を出した。


 プニはシルルンの肩から素早く『飛行』してハーヴェンの背中の少し上で浮遊しており、ヒールの魔法とファテーグの魔法を唱えた。


 一回ずつの魔法でハーヴェンの体力とスタミナが全快し、プニは再びシルルンの肩に戻ったのだった。


 シルルンはプニの頭を優しく撫でる。


 プニはとても嬉しそうだ。


 体力とスタミナが一割を切っていたハーヴェンは、プニの魔法力の高さに驚きを禁じ得なかった。


「で、タイガー種はどんな感じなの?」


「奴らは俺の推測よりも数が多く、皆殺しにするにはまだまだ時間がかかりそうだな……」


「ふ~ん、そうなんだ。縄張りをもってるハイ タイガーは倒せたの?」


「三匹だけだ。だが、俺が殺したのは浅いエリアの奴らで、深いエリアにいる奴らは一筋縄ではいかないだろうな」


 ハーヴェンが言う浅いエリア、深いエリアとは拠点の防壁から南にいくほど深いエリアになるということである。


「えっ!? 三匹も倒したの!?」


 シルルンは驚きの表情を見せる。


 ハーヴェンは敵が単独になるのを待ってから戦うことが基本戦術だ。


 戦場は密林地帯で身を隠し易い地形だが、ハーヴェンは全長が八メートルを超える巨体なので身を隠せる場所は限られ、不測の事態に陥ることも少なくはなかったのである。


 彼の戦術的に『擬態』『隠密』やインビジブルの魔法を所持していれば狩りの成功率が著しく上昇するが、彼の所持している能力は『潜伏』だ。


 『潜伏』は、『察知』『探知』やディテクト(探知)の魔法で捉えることはできないが、姿は丸見えだだという欠点がる。


 ちなみに、『隠密』は中途半端な能力だと言われており、その所以は凝視すれば発見される可能性があるからだ。


 『隠密』は主に最上級職である【大怪盗】【忍者】【くノ一】が目覚める可能性がある。


「だが、縄張りは縄張りをもたないハイ タイガーにすでに奪われているだろうな」


「う~ん……それは仕方がないよね。それで、提案なんだけど僕ちゃんもタイガー種を滅ぼすのに協力したいんだよね」


「なんだと!? お前は戦わないんじゃなかったのか?」


 ハーヴェンは不審げな表情を浮かべている。


 だが、シャインはやっと反転攻勢に出るのかと思わず口角に笑みが浮かぶ。


「うん、確かにそう言ったけど、僕ちゃんたちも強くなってて僕ちゃん以外でもハイ タイガーを倒せるペットも増えてるからね」


「ほう……」


 (金色の狼と防壁の上にいた虫、そして俺と奴か……)


 確かにかなりの戦力になるとハーヴェンは不敵な笑みを浮かべた。


 だが、彼はシルルンの戦力の全てを知らないので、ラーネやマーニャがハイ タイガーを倒せることなど知る由もなかった。


「まぁ、すぐには無理なんだけどね。まず拠点の防衛力を上げるために冒険者を雇う。それで安定したら上層に行くからその後になるね」


「条件が二つある」


「えっ!? 条件があるの?」


 シルルンは意味が分からず困惑した。


「まず一つ目は俺と一緒に行動してハイ タイガーを倒すことだ」


「ん? なんで?」


「俺が上層から下りてきた理由の一つが、ベホルソンをタイガー種に殺されたからだ。ベホルソンは俺と唯一、互角に戦える強者だった……まぁ、生涯のライバルというやつだ。だが、ベホルソンは俺と戦って弱ったところを多数のタイガー種に襲われて殺されたらしい。ベホルソンといつも一緒にいたメスがベホルソンの首を口にくわえて俺のところにもってきたんだ……首を俺の縄張りに埋めさせてくれとな」


「……」


 ハーヴェンの話に引き込まれたシルルンは思わず息を呑んだ。


「俺はベホルソンの無残な姿を見て呆然としながらも、こうも思った……隙をみせたベホルソンがしくじっただけだと……だがなぁ、何度、自分にそう言い聞かせても……言い聞かせても気は晴れやしねぇ……釈然としねぇんだよ!! だから俺はベホルソンを殺した野郎をぶち殺しにきたんだよ!!」


 冷静なハーヴェンが話の後半から声を荒げ、感情を剥きだしにして叩きつけるように言い放った。


 場に重い空気が辺りを包む。


 シャインは冷静そうなハーヴェンがこうまで内面を晒すのかと驚きを隠せなかった。


 だが、それと同時に彼はシルルンとハーヴェンがそれほどまでの信頼関係で繋がっているのかと心に羨望のさざなみが立った。


 シルルンは席から立ち上がってハーヴェンの傍に歩いていく。


「う、うん、うん……僕ちゃんもハーヴェンの友達を殺した奴を捜すのに協力するよ!!」


 シルルンは瞳に涙を浮かべて鼻水を垂らしながら、ハーヴェンの前脚を掴んで激しく上下に振っている。


「お、おう……」


 若干引き気味のハーヴェンが戸惑いながらそう応えた。


「……要するに一つ目の条件は、ハーヴェンの友達を殺した犯人を僕ちゃんたちが殺さないように、ハーヴェンと一緒に行動しろってことだよね」


「……そ、そうだな」


 (その友達ベホルソンという表現はやめろ……)


 ハーヴェンはそう思ったが口には出さなかった。


「それで、二つ目の条件はなんなの?」


「二つ目はここに拠点があるお前たちにも関係がある話だ」


「えっ!? どういうこと?」


 この場にいる全員の視線がハーヴェンに集中する。


「ハイ ファイヤー エレメンタルが復活し、この中層に迫っているという話だ」


「ハイ ファイヤー エレメンタル?」


 シルルンは怪訝な表情を浮かべている。


「そうだ。遥か昔、上層の奪い合いでエレメンタル同士が戦い、その戦いは中層まで広がって全面戦争になった。その戦いでハイ ファイヤー エレメンタルが敗れて中層から去ったが、再び、力を蓄えて復活したというのが俺の見解だ」


「う~ん、それは厄介な話だね……タイガー種を倒しても全然安全にならないじゃん」


「……それでだ、タイガー種を滅ぼしたら縄張りはお前にくれてやるから、俺と一緒にエレメンタル種と戦え。これが二つ目の条件だ」


 ハーヴェンはシルルンの目を真っ直ぐに見つめて返答を待つ。


「うん、分かったよ」


 シルルンは快諾した。


「ほう……えらく簡単に応じるんだな」


「僕ちゃんはこの拠点を手放すつもりはないし、攻めてくるなら全力で叩き潰すよ」


「くくく、いい気概だ」


 ハーヴェンは満足げな笑みを浮かべた。


 彼も上層に残してきた子供たちをなんとしても護りたいと考えており、シルルンと気持ちは同じだった。


「それで、そのエレメンタルは強いの?」


「あぁ、奴らには物理が効かない上に火を吸収するからな……魔法や能力で攻撃するしかない……そして、最も厄介なのが『召喚』で無制限に手下を呼び寄せることだ」


「無制限か……それは厄介だね……火だから水に弱いんだよね……」


「その通りだ。前回、勝てたのはハイ ウォーター エレメンタルがいたからだ」


「あぁ、そうか、エレメンタル同士の戦いだったんだよね。そのハイ ウォーター エレメンタルはもういないの?」


「生きていれば上層にいるはずだ」


「えっ!? 上層にいるんだ!! 僕ちゃん上層に用事があるからその時に捜してみるよ」


「ハイ ウォーター エレメンタルは俺たちの縄張りにはいない。いるとしたらここから北の上層だろうな」


「あはは、ちょうど良かったよ。僕ちゃんもここから北の上層に行くつもりだったからね」


「くくく、ここから北の上層は俺たちのような統治者はいないはずだ。だから逆に混沌としているだろうな。まぁ、せいぜい気をつけるんだな」


 ハーヴェンはそう言って個室の隅に移動して眠りについたのだった。


「マスター、それでは我も持ち場に戻ります」


 シルルンは頷いてシャインは個室から出て行った。


「シルルン……お前も次から次へと大変だな……」


 ワーゼの発言に、スコットたちは同意を示して頷いた。


「それにしてもタイガー種とエレメンタル種か……協力したいのはやまやまだが俺では力不足だな……」


 スコットは申し訳なさそうな表情を浮かべてシルルンから視線を逸らした。


「俺はいつでも力を貸すぜ。この体ならそこそこ戦えるだろうからな」


「うん、気持ちはありがたいけどワーゼでもハイ タイガーには勝てないし、エレメンタルとも相性が悪いからワーゼたちはガードの仕事をしてくれたらいいよ」


「俺たちにとってもここは大切な場所だ。シルルン、俺はなんでも協力するつもりだぜ」


 おそらくワーゼは熱い眼差しをシルルンに向けていると思われるが、蜘蛛なのでその表情は読み取れない。


 だが、ワーゼの言葉にラーネは歓喜に顔を輝かせて、プニの口から飛び出して元の大きさに戻る。


「な、なんだお前!? 小人じゃなかったのか?」


 ワーゼは驚きのあまり声を上げる。スコットたち驚愕に目を見開いている。


「フフッ……私はこの姿が普通なのよ。あなたはなんでも協力すると言ったわよね?」


「あぁ、俺は確かにそう言った。だがそれがどうしたんだ?」


「フフッ……じゃあ、ちょっとつき合ってもらうわ」


 言うと同時にラーネは『瞬間移動』を発動して、シルルンとワーゼと共にその場から掻き消えたのだった。

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