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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
大穴攻略編

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11 マンティス ☆ 修修

 

 シルルンたちは森の中心部を目指して進んでいた。


 依然としてテイムに成功したのはレッサー ピルバグ四匹だけだが、プルとプニはレッサー ピルバグたちの背に乗って楽しそうに遊んでいる。


 シルルンたちは森の中を進んでいくと、レッサー バタフライ(蝶の魔物)と遭遇した。


 ミーラはバタフライ種をペットにしたいと考えており、テイムを試みたが失敗して悔しがっていた。


 その後は魔物と遭遇することなくシルルンたちは進んでいくと大きな湖に差し掛かる。


「ん? 岩場になんかいるね」


 リザたちの視線が湖の岩場に集中し、岩場にはマーメイド種たちが腰掛けていた。


 シルルンたちに気づいたマーメイド種たちは悠々と湖に飛び込んで湖の中に消えたのだった。


「今の見た!? マーメイドよ!! 初めて見たわ!!」


 リザは興奮を抑えられずに叫び、テックとミーラも歓喜に表情を輝かせている。


 だが、シルルンは水際に座り込んで、バシャバシャと両手で水を叩き始めた。


「え~~っ!? 出てきてよ。聞きたいことがあるんだよ!!」


 シルルンは不満げな表情で水を叩き続けている。


「いくらなんでもそんな呼び方じゃ出てこないんじゃない?」


 リザは不審げな眼差しをシルルンに向けている。


「水中からこっちを見てるんだよ」


 シルルンは自信ありげな顔をした。


「嘘ぉ!?」


 目を見張ったリザは目を凝らして湖を見つめるが何も見えなかった。


「湖の中に魔物がいることは分かりますが、それがどんな魔物かは分かりませんね」


 テックの言葉に、ミーラも同意を示して頷いた。


 彼らは『魔物探知』で魔物の位置を探ることができるが、探知した魔物を『魔物解析』で視るという発想そのものがなかった。


 『魔物探知』は魔物の場所を探るだけ、『魔物解析』は目の前の魔物を視るだけだと考えているからである。


 だが、シルルンは無意識に『集中』『魔物探知』『魔物解析』を同時に発動しており、マーメイド種たちの位置を捉えていた。


 ちなみに、『魔物探知』『魔物解析』は【魔物使い】に就くと目覚める能力である。


 一般的な魔物使いの『魔物探知』の探知範囲は半径五十メートルほどの円形で、『魔物解析』で魔物を視ることができる距離は十メートルほどだ。

 

「大きい水デス」


「デシデシ」


 湖の広さに驚いていたプルとプニは湖に飛び込んで遊び始めると、水中に影が浮かび上がり、マーメイドが姿を現した。


「ほ、本当にいたんだ!?」


 リザの顔が驚愕に染まる。


「スライムを連れてるなんて不思議な人族ね」


 マーメイドは視線をプルたちに向けて優しげに目を細める。


 彼女は腰より長い金髪を後ろで束ねて端正な顔立ちをしているが、長い髪で隠れてはいるが胸は丸出しだった。


「あはは、助かるよ。出てきてくれて」


(干し肉や果物なんかはマーメイド種にとって珍しいかも)


 シルルンは鞄から干し肉や果物を取り出して、金髪のマーメイドに投げ渡す。


 すると、湖の中から青髪のマーメイドが姿を現した。


 彼女は、金髪のマーメイドと比べると幼くて可愛らしい容姿をしている。


「むっ、何その食べ物? ちょうだいちょうだいっ!!」


 金髪のマーメイドから果物を受け取った青髪のマーメイドは果物にかぶりついて目をパチクリさせた。


「ロパロパ、レッサー ビートル、レッサー マンティスを見たことない?」


 シルルンは金髪のマーメイドに尋ねる。


「そうね、その三種族ならここから西の浜辺で、水を飲みにきているのを見かけたことがあるわ」


 金髪のマーメイドは少し考えるような仕草を見せてから答えた。


「マジで!! 助かったよ。じゃあ、バイバ~イ」


 シルルンはにっこりと微笑んで湖に背を向けた。


「ちょっと待って!! この食べ物をもっとちょうだい!!」


 青髪のマーメイドは物欲しそうな表情で声を張り上げた。


 シルルンは鞄から果物を取り出して、青髪のマーメイドに投げ渡して湖を離れたのだった。




















 西の浜辺に到着したシルルンたちは周辺を探索して開けた場所を発見した。


「ここを拠点にしようか」


 リザたちは頷いて野営の準備に取り掛かる。


 食事を済ませたシルルンたちは鬱蒼とした森の中を進んでいくと、巨樹が生い茂る林に行きあたる。


 その巨樹には多数の果物が実っており、その果物をレッサー ビートルが食らっていた。


 ビートル種は果物や花の蜜を好む草食系の魔物だ。


 テックはトーラスに攻撃を命じて、レッサー ビートルを弱らせてテイムを試みたが失敗に終わる。


「……残念。次に期待ね」


 レッサー ビートルの死体に近づいたリザはレッサー ビートルの死体を解体し、レッサー ピルバグの背中に固定した袋の中に殻を収納した。


 彼女はシルルンのレッサー ピルバグを荷物運びの荷魔にしているのだ。


 シルルンたちはその後もレッサー ビートルと数回遭遇したが、テックとミーラはテイムに失敗している。


 ビートル種は強い魔物なので、テイムするには高い技術が求められるのだ。


 日が暮れ始めるとシルルンたちは拠点に引き返したが、その途中でアリゲーター種に遭遇した。

 

 数は二匹で、片方は下位種だが、もう片方は通常種だった。


 アリゲーターの全長は四メートルを超える巨体で、『剛力』と『堅守』を備えた魔物だ。


 『剛力』は攻撃力が二倍になる激レア能力である。


 そのため、アリゲーターは通常種であるにも拘わらず、『剛力』を反映させるとその攻撃力はハイ ウルフを上回っていた。


「いけっ!! トーラス!!」 


「いきなさい!! シレン!」


 テックとミーラはペットたちに命令する。


 トーラスとシレンはアリゲーターに目掛けて突撃し、リザもそれを追いかけた。


 レッサー ピルバグたちはシルルンの前まで移動して、丸くなって防御体勢をとり、レッサー アリゲーターが大口を開けてシルルンに目掛けて突進する。


「ビリビリデス!」


 プルは『ビリビリ』を放ち、電撃を受けたレッサー アリゲーターは大口を開けたまま痺れて動きが止まる。


「ブリザーデシ!」


 プニはブリザーの魔法を唱えて、氷と冷気がレッサー アリゲーターの口の中に直撃し、体の内部が凍りついた。


 シルルンは鋼のクロスボウで狙いを定めて矢を放ち、矢がレッサー アリゲーターの口の中を通り抜けて腹の中を貫通した。


「ファイヤーボールデス!」


 プルはファイヤーボールの魔法を唱え、大きな火弾がレッサー アリゲーターの口の中に直撃し、レッサーアリゲーターは黒焦げになって力尽きた。


 一方、シレンは前脚の爪を振り下ろし、前脚の爪がアリゲーターの胴体に命中したが、、アリゲーターは構わずに大口をあけてシレンに突進する。


 シレンは容易くアリゲーターの突進を避けたが、アリゲーターは勢いあまって巨木に突っ込んだ。


 しかし、アリゲーターは巨木に噛みついて、そのまま身体を横に高速回転させる。


 巨木は噛まれた箇所が消え去り、だるま落としのように一メートルほど落下した後、バランスを保てずに横に倒れた。


 動物の世界でわには、咬合力において地上最強なのだ。


 鰐が獲物に噛み付いてから回転して肉を引き千切る技をデスロールという。


 アリゲーターはシッポでなぎ払いを繰り出し、リザとトーラスは後方に跳躍して回避してリザはアリゲーターの背に攻撃しようと飛び込もうとした。


 だが、逆方向からアリゲーターのシッポのなぎ払いが繰り出されて、リザは咄嗟に跳躍してシッポを躱し、トーラスとシレンは同時にアリゲーターに襲い掛かる。


 トーラスがアリゲーターの首元に噛みつき、シレンが前脚の爪の一撃をアリゲーターの胴体に叩き込んだ。


 アリゲーターは苦し紛れにシッポを振るってシレンを攻撃するが、トーラスに首元を噛みつかれて思うように身体を動かせずにシッポの攻撃にキレはなく、シレンに難なく躱される。


 シレンは前脚の爪を何度もアリゲーターの胴体に叩き込み、リザは剣の連撃を繰り出してアリゲーターの身体を斬り裂いていく。


 これにはアリゲーターも為す術は無く絶命し、トーラスとシレンに食い散らかされたアリゲーターの体からは血飛沫がほとばしっていた。


















 拠点に戻ったシルルンたちは食事をとって休息していた。


 レッサー ピルバグたちは拠点を中心に落ち葉や枯れ木を貪欲に食べ続けており、拠点の周辺は土に変わっている。


 昼寝をしていたシルルンは不意に危険を察知して、腹の上で寝ているプルとプニをを抱えて素早く横に転がると、その場所に風の刃が突き刺さる。


 即座にシルルンは視線をテックたちに転じると、テックとミーラは地面に突っ伏して地面には血の海が広がっていた。


「マジで!?」


 シルルンの顔が驚愕に染まる。


 すると、森の中から三匹の魔物が姿を現した。


 レッサー マンティス(カマキリの魔物)だ。


 シルルンは寝ぼけているプルとプニを素早く巨木の後ろに放り投げると、拠点周辺を見回っていたトーラスとシレンが主人の元に駆けつける。


 トーラスとシレンはシールドの魔法を唱えて、テックとミーラの前に透明の盾が出現し、彼らは続けざまにシールドの魔法を唱えて、自分たちの前面にも透明の盾を展開する。


 一方、風の刃を躱していたリザはレッサー マンティスたちに向かって突進したが、トーラスとシレンに動く気配はなかった。


 意識を消失する前のテックとミーラは、彼らに周辺の警戒と主人の護衛を命じていたからだ。


 そのため、新しい命令がない限り彼らは動きたくても動けなかった。


「これはやばい状況だね……」


 トーラスとシレンの状況を理解したシルルンの表情がわずかに曇る。


 リザはレッサー マンティスたちと戦いを繰り広げていたが、その内の一匹がシルルンに目掛けて風の刃を放つ。


 風の刃がシルルンに襲い掛かり、シルルンは上体を捻って風の刃を躱した。


 風の刃の正体は『斬撃衝』という能力だ。


 『斬撃衝』が最も厄介な点は、鎌の攻撃と『斬撃衝』のモーションが全く同じで区別できないことで、これを考慮しないで鎌の攻撃を受けると『斬撃衝』の餌食になる可能性がある。


 シルルンは鋼のクロスボウで狙いを定めて矢を放ち、矢はレッサー マンティスの脳天を貫通した。


 だが、レッサー マンティスは『斬撃衝』を放ち、風の刃がシルルンに迫る。


 虫系の魔物は頭を貫かれた程度では死に至ることは少なく、そこが厄介なところである。


 シルルンは素早く横に転がって風の刃を回避したが、転がった地点に風の刃が迫っていた。


「――っ!?」


 シルルンの目の中に絶望の色がうつろう。


 だが、二匹レッサー ピルバグが猛然と駆けてきて、その内の一匹がシルルンの前で丸くなり、風の刃をその身に受けた。


 草を食らうために徘徊していたレッサー ピルバグたちが、主人の危険を察知して急いで戻ってきたのだ。


 しかし、風の刃が直撃したレッサー ピルバグは体が半壊して痙攣している。


「た、助かったけど、無茶したらダメだよ」


 シルルンは心配そうな表情を浮かべている。


 もう片方のレッサー ピルバグは丸くなって体当たりを繰り出して、レッサー マンティスは弾け飛んだ。


 素早く鋼のクロスボウで狙いを定めたシルルンはレッサー マンティスに目掛けて矢を放ったが、それと同時に森の中から風の刃がシルルンに向かって飛んできていた。


 矢はレッサー マンティスの胴体を貫通して尻から矢が飛び出したが、風の刃の射線上にはレッサー マンティスも入っており、レッサー マンティスの首を刎ね飛ばした風の刃がシルルンに迫るが、シルルンは慌ててしゃがんで風の刃を避ける。


 頭が無くなったレッサー マンティスは、胴体から血が噴出して地面に倒れて沈黙した。


「あ、あぶねぇ!? 仲間関係ないのかよ!?」


 シルルンは信じられないといったような表情を浮かべている。


「敵デスか?」


「デシか?」


 寝ぼけていたプルとプニが目を覚ましてシルルンの肩に跳びのった。


「プニはレッサー ピルバグの傷を治してから、テックとミーラをヒールの魔法で治療してほしいんだよ」


「分かったデシ!! ヒールデシ!!」


 プニはヒールの魔法を唱えて、体が半壊していたレッサー ピルバグの傷が全快した。


「森の中に潜んでいる魔物の存在が厄介だね」


 表情を強張らせたシルルンはプニの頭を撫でる。


 プニは嬉しそうにシルルンの肩から跳び下りて、テックとミーラの傍に移動した。


 テックとミーラは『斬撃衝』を体に受けており、両者共に出血多量で意識を消失していた。


「小さき者よ我が主人に何の用だ?」


 トーラスは思念でプニに問い掛ける。


「マスターに言われてヒールの魔法で傷を治しにきたデシ!!」


 プニは思念でトーラスに返した。


 だが、思念の会話が成立するのは、マスターとペット間のみである。


 つまり、マスターが違うペット同士で思念が伝わることはなかった。


 両者は渋い顔で見つめ合っている。


「……ヒールデシ!!」


 痺れを切らしたプニはシルルンの指示を実行するためにヒールの魔法を唱えて、テックの体の傷が塞がり血の流出が止まった。


「なに!? ヒールを使えるのか小さき者よ。ならば主人が回復するまで守ってやろう」


 プニの前面に移動したトーラスが庇うように立ちはだかると、森の中から風の刃がプニたちに向かって接近していた。


 シレンはウインドの魔法を唱えて対抗し、相殺しきれなかった風の刃がトーラスの透明の盾に防がれた。


 一方、この戦いをじーっと見つめる何者かの目があったが誰も気づいてはいなかった。


 リザはいまだレッサー マンティスたちを倒すことができないでいた。


 その理由は、彼女がレッサー マンティスたちに前後を挟まれている状況で、近距離から放たれる『斬撃衝』を警戒して今一歩踏み込みが甘くなっていたからだ。


 後方にいるレッサー マンティスが『斬撃衝』を放ち、リザは横に跳躍して風の刃を躱すが、レッサー マンティスたちも横に移動して、リザを前後に挟む戦術を崩さない。


 それでもリザは目前の敵を追い詰めるが、そのタイミングで森の中から風の刃が飛んできて追い込みきれないでいた。


 彼女は実質三匹を相手にしている状況なのだ。


 シルルンは徘徊していた三匹目のレッサー ピルバグと合流し、リザの応援に駆けつける。


 一対三だった戦力差が、六対三になる。


 この展開を面白くないと考える魔物が森の中にいた。


 その魔物は森の中から飛び立って、シルルンたちの前に下り立った。


 通常種のマンティスである。


 マンティスの全長は二メートルを軽く超えており、『統率』『能力軽減』を所持していた。


 『統率』は指示を出す際に、強制力が働く能力で知性が上昇するという副次的効果もある。


 『能力軽減』は能力による攻撃を三十パーセントの確率で無効にできる能力だ。


 これらの能力は常時発動しているわけではなく、能力者の意思により発動の有無を選択できる。


「やっぱり、下位種じゃないと思ってたんだよ。レッサー ピルバグが一撃で半壊するのはおかしいからね」


 シルルンは合点がいったような顔をした。


 シルルンたちと対峙するマンティスは苛立たしげな表情を浮かべていた。


 彼は森の中から不意打ちの『斬撃衝』での奇襲を行ったが、テックとミーラには命中し、シルルンとリザには躱されたという結果に終わった。


 彼からすればこの結果は成功といっても差し支えないと考えていた。


 テックたちに重症を負わせたことにより、トーラスたちを釘付けにできたと彼は思ったからだ。


 マンティスは手下たちにシルルンとリザを攻撃するように命じて、彼自身は森に潜んだ。


 これにより、彼が森から攻撃すればシルルンたちは敵が三匹だと認識しているので容易く『斬撃衝』を当てることが可能であり、テックたちに止めを刺さなければ遠距離から一方的に『斬撃衝』でトーラスたちをなぶり殺せると彼は考えたからである。


 だが、彼の狡猾な計画は狂い始める。


 このままでは計画が完全に破綻すると考えたマンティスは、早急にシルルンたちを殺すために姿を現したのだ。


 そんな中、ピョンピョンと跳びながらシルルンたちの間に割って入る魔物の姿があった。


 その魔物は数日前に湖で遭遇した青髪のマーメイドだった。


 シルルンたちとマンティスたちは対峙して睨み合っていたが、青髪のマーメイドが姿を現したことが皮切りになり、リザは凄まじい速さでマンティスに目掛けて突進し、それをマンティスたちが迎え撃つ。


 シルルンは鋼のクロスボウで狙いを定めて矢を放ち、時を同じくしてレッサー マンティスがシルルンに『斬撃衝』を放った。


 矢はレッサー マンティスの胴体を貫通したが、風の刃はシルルンの身体をかすめた。


 シルルンは後方に跳躍して距離を取り、鋼のクロスボウを巻き上げて矢を装填する。


(全力で動けばプルが吹っ飛ぶ……でもプルを下ろしたらプルが狙われる)


 険しい表情を浮かべるシルルンは鋼のクロスボウの狙いをレッサー マンティスに定めた。


「スリープ!!」


 青髪のマーメイドはスリープの魔法を唱えて、黄色の風がリザの後方にいたレッサー マンティスの体を突き抜けて、レッサー マンティスは抵抗にできずに眠りに落ちた。


 しかし、マンティスが『斬撃衝』を放ち、風の刃が青髪のマーメイドの体を切り裂き、身体が二つに裂けた青髪のマーメイドは血飛沫を上げて崩れ落ちた。


「こ、このぉおおおおおおおおぉぉ!!」


 その光景を目の当たりしたリザは憤怒の形相でマンティスに目がけて突撃する。


「マジで!?」


(マーメイド弱すぎるだろ……)


 困惑するシルルンは思念で「目の前のレッサー マンティスを攻撃」とレッサー ピルバグたちに指示を出した。


 レッサー ピルバグたちは一斉にレッサー マンティスに向かって突撃し、シルルンは走りながら鋼のクロスボウで狙いを定めて矢を放ち、矢は眠りに落ちているレッサー マンティスの胴体を貫通した。


「ファイヤデス!!」


 プルはファイヤの魔法を唱えて、激しい炎がレッサー マンティスの体を包み込み、眠りから覚めたレッサー マンティスは全身を炎に焼かれて絶叫した。


「ファイアーボールデス!!」


 プルはファイアーボールの魔法を唱えて、大きな火弾がレッサー マンティスの体を焼き焦がし、レッサー マンティスは炭になって崩れ去った。


 急いで青髪のマーメイドに駆け寄ったシルルンは、二つに裂けた青髪のマーメイドの身体を強引に繋ぎ合わせて、鞄からポーションを取り出して繋ぎ合わせた傷口にポーションを流し込む。


 青髪のマーメイドの体は繋がったが意識は回復していない。


 シルルンは青髪のマーメイドを肩に担いで全力で走り、テックたちがいる場所に移動する。


「ヒールの魔法で回復して」


 青髪のマーメイドをミーラの横に寝かせたシルルンはプニに指示を出す。


「ヒールデシ!!」


 プニはヒールの魔法を唱えて、青髪のマーメイドの体力が全快し、シルルンは視線をリザとレッサー ピルバグたちに転じた。


「まずはレッサー マンティスを倒したほうが良さそうだね」


 シルルンは全力で走ってレッサー ピルバグたちの傍に移動する。


「『ビリビリ』デス!!」


 プルは『ビリビリ』を放ち、電撃が直撃したレッサー マンティスは痺れて動きを停止する。


 レッサー ピルバグたちは一斉に突撃して体当たりを繰り出し、体当たりを受けたレッサー マンティスは地面を激しく転がった。


「ファイヤデス!!」


 プルはファイヤの魔法を唱えて、激しい炎がレッサー マンティスの全身を焼き尽くし、レッサー マンティスは奇声を上げて焼死した。


 一方、激昂したリザの猛攻を空に上昇してマンティスは回避する。


 上空からマンティスは嘲笑いながら『斬撃衝』を放ち続けており、遠距離攻撃手段がないリザは悔しそうに風の刃を躱している。


 しかし、唐突にマンティスの体に激痛がほとばしった。


 シルルンが地上から矢を放ったからだ。


 この瞬間、マンティスの空での優位性は失われた。


 マンティスは怒りの形相で上空からシルルンに目掛けて突撃した。


「『ビリビリ』デス!!」


 プルは『ビリビリ』を放ち、電撃がマンティスの体に直撃するがマンティスは止まらない。


「ビ、『ビリビリ』が効かないデス!!!」


 プルはショックを露わにした。


 マンティスに『ビリビリ』が効かなかったのは『能力軽減』で無効化されたからだ。


 ちなみに、シルルンは『魔物能力耐性』という似た能力を所持しているが、この能力は魔物が使用する能力のみに効果を発揮するので、汎用性という意味では『能力軽減』の方が上位になる。


 素早くシルルンの前に移動したリザはマンティスの鎌の一撃を剣で受け止めた。


「望むところよっ!!」


 リザは目に殺気をみなぎらせて剣を横一線に薙ぎ払うが、マンティスは紙一重で躱した。


 後方に跳躍したシルルンは鋼のクロスボウでマンティスに狙いを定めて矢を放ち、矢はマンティスの脳天に直撃して突き抜けた。


「ファイアボールデス!」


 プルはファイアボールの魔法を唱えて、大きな火弾がマンティスの胴体に直撃し、マンティスは炎に焼かれて奇声を上げる。


 怒り狂ったマンティスはシルルンに向きを変えて凄まじい速さで突撃した。


 しかし、リザは瞬時にシルルンの前に移動して庇うように立ちはだかる。


 マンティスは鎌を交差させて『斬撃衝』を放ち、二発の風の刃がリザに襲い掛かるが、リザは意に返さず凄まじい速さで突進した。


 二発の風の刃を体を捻って紙一重で躱したリザはその刹那、一瞬マンティスに背を向けた形から流れる様に回転して剣を振るったが、マンティスは鎌で剣を受け止める。


 リザとマンティスはそのまま近接戦になり、火花が散るような激しい斬り合いが続く。


「動きが速過ぎて魔法が使えないデス」


 プルは不満そうな顔をした。


 『集中』を発動したシルルンは鋼のクロスボウで狙いを定めて矢を放つ。


 矢は激しい攻防を繰り広げているリザの横を通り抜けてマンティスの身体を貫いた。


 一瞬硬直したマンティスの隙を見逃さなかったリザは剣でマンティスの左の腕を切断してから首を刎ね飛ばす。 


 だが、マンティスは胴体から大量出血しているにも拘わらず、残った右の鎌でリザに襲い掛かるが、最早、その動きは鈍く、リザは剣でマンティスの身体をバラバラに斬り裂いて、マンティスは肉片に変わったのだった。


「ふぅ、なんとか勝てたね」


 安堵したシルルンはプルの頭を撫でる。


 プルは嬉しそうだ。


 だが、いまだ怒りが収まらないリザは鬼の形相を浮かべており、それを横目にシルルンはテックたちの傍に移動した。


 テックたちは整った呼吸をしているが、目を覚ます気配はない。


「プニのヒールの魔法がなかったら危なかったよ」


 シルルンは優しげな顔でプニの頭を撫でた。


 プニは嬉しそうにシルルンの肩にのる。


 しばらくするとリザは憂欝そうにシルルンの傍に座ったが、テックたちには視線を向けずに俯いたままだ。


「とりあえず、息はしてるからあとは目を覚ますのを待つだけだよ」


 その言葉に、リザは大きく目を見張る。


 彼女は三人とも助からないと思い込んでいたからだ。


 リザは不意打ちの『斬撃衝』を回避して、視線をシルルンたちに転ずるとテックたちは地に突っ伏していた。


 一秒でも早くテックたちを治療するためにリザはレッサー マンティスたちに突撃した。


 しかし、戦いが長引くにつれて彼女の脳裏にもう助からないという思いがかすめた。


 さらに青髪のマーメイドが体を二つに切り裂かれてたことにより、冒険者として高い経験を積んでいるはずのリザは冷静さを失って逆上してキレたのだ。


 あの状況でシルルンがレッサー マンティスたちを倒し、三人の回復までこなしていたことにリザは驚きを禁じ得なかった。


 シルルンは学生で実戦経験もほとんどないはずなのに信じがたい手腕だと、リザはシルルンを熱い眼差しで見つめるのだった。



 















 

 シルルンは複雑そうな表情で干し肉を食べていた。


 彼はできるだけ早くこの場所から離れたいと思っていたが、青髪のマーメイドの意識が戻らないので、この場所から離れることができずにいたのだ。


 すると、金髪のマーメイドがピョンピョンと跳びはねて近づいてきた。


 シルルンは金髪のマーメイドに、青髪のマーメイドが目を覚まさない理由を説明したのだった。


「この子は無茶ばかりするのよ……」


 金髪のマーメイドは深刻な表情を浮かべている。


「この子を治療してくれてありがとう。とにかく連れて帰るわ」


 金髪のマーメイドはシルルンに深く頭を下げる。


「うん、元気でね」


 シルルンは鞄から果物を取り出して、金髪のマーメイドに手渡した。


 金髪のマーメイドは青髪のマーメイドを抱えて、湖に帰って行ったのだった。

















 シルルンたちは意識が回復しないテックとミーラを、トーラスとシレンの背に乗せて野営しやすい場所に移動していた。


 翌日、シルルンたちが昼食をとっていると、テックとミーラの意識が回復して目を覚ました。


「あれ? 僕はいきなり斬りつけられたような気がしたのですが……」


 テックは身体を触って確かめて怪訝な表情を浮かべている。


「……私もそんな気がするんだけど……?」


 ミーラは目がとろんとしてまだぼんやりしている。


「覚えてないの? あなたたちはレッサー マンティスの『斬撃衝』に切り裂かれたのよ」


 リザが大きな溜息を吐く。


 テックたちは起きた出来事を聞いて驚愕し、シルルンとリザに返しきれない恩を受けたと思うのだった。


「――あっ!?」


 服が破けて胸が少し見えていることに気づいたミーラは赤面して声を上げる。


 ミーラは慌てて鞄から予備の服を出して羽織る。


「レッサー マンティスのテイムはどうするの?」


 シルルンは探るような眼差しをテックとミーラに向ける。


 テックとミーラは二人揃って頭を振り、無理だと示した。


「まぁ、余裕をみてもう一日休んでから学園に戻ろうよ。とりあえず、飯でも食って休みなよ」


 シルルンはにっこりと微笑んだ。


 テックとミーラは頷いて、命が助かって良かったと感謝の涙に暮れるのだった。



















 シルルンは単独で探索に赴いていた。


 彼はテックたちが回復するまでの時間をロパロパの捜索にあてていたが、昨日も発見できなかったのだ。


 明日は学園に帰還するので、今日がタイムリミットだった。


 シルルンは『魔物探知』で周辺を探りながら湖周辺に重点をおいてロパロパを捜していると、壁のような岩場が見えてくる。


 シルルンが『魔物探知』で岩場を探ると、岩場の裏側に多数の魔物を探知した。


 岩場の裏側にそっと移動したシルルンは岩場の上から覗いてみると、そこにいたのはロパロパ種の群れだった。


「う~ん、小さいね」


(これじゃあ、乗れないね)


 シルルンは不満そうな顔をする。


 ちなみに、レッサー ロパロパの全長は六十センチメートルほどだ。


 シルルンは岩場の上からロパロパ種を観察していると、通常種が混ざっていることに気づいた。


 数は三匹で、黄色と茶色と黒色だ。


「黒がいいね。けどどうやってテイムしようかな……」


 シルルンは思い詰めたような表情を浮かべている。


 不用意に近づくと一斉に酸を浴びせられるからだ。


 逡巡したシルルンは十センチメートルほどの石を拾い、黒いロパロパに目掛けて石を投げる。


 石は黒いロパロパの体に当たり、素早く振り返った黒いロパロパはシルルンを視認した。


 黒いロパロパは岩場の斜面を凄まじい速さで駆け上がる。


「ひぃいいいいいぃ!! 速っ!! 速過ぎるっ!!」


 恐怖に顔を歪めたシルルンは慌てて岩場を下って平地に躍り出て、全力で走って森の中に逃げ込んだ。


「速いデス!! 追いつかれるデス!!」


 振り返ったプルが驚きの声を上げる。


 シルルンが振り返ると黒いロパロパは真後ろにいた。


「ひぃいいいいぃ!?」


(やべぇ!? 溶かされる!?)


 シルルンは泣きそうな顔で辺りを見回し、すぐ先にある巨木に跳躍してしがみついた。


「ビリビリデス!」


 プルは『ビリビリ』を放ち、電撃が黒いロパロパに直撃したが、シルルンはミスリルダガーを木に突き刺しながら木を登っていく。


 横に伸びる枝の上に立ったシルルンは黒いロパロパの姿を捜すと、黒いロパロパは体が痺れて動けなくなっていた。


「へっ!?」


 シルルンは呆けたような表情を浮かべていたが、我に返って木から跳び下りた。


「えい、えい、やぁ!!」


 シルルンは紫色の球体を作り出し、紫色の結界で黒いロパロパを包み込み、一瞬でテイムに成功した。


「ふぅ、危うく溶かされるとこだったよ」


 シルルンは膝から崩れ落ちてへたり込み、安堵の笑みを浮かべてプルの頭を撫でた。


 プルは嬉しそうだ。


 シルルンは黒いロパロパの頭に乗ってリザたちの元に帰還した。


 黒いロパロパを目の当たりにしたリザたちは絶句し、シルルンは黒いロパロパに安易にブラックと名付けたが、ブラックは嬉しそうだった。


挿絵(By みてみん)


 ブラック

面白いと思った方はブックマークや評価をよろしくお願いします。


レッサー バタフライ レベル1 全長約60センチ

HP 100~

MP 40

攻撃力 20

守備力 20

素早さ 30

魔法 エクスプロージョン

能力 幻惑


レッサーバタフライの粉 1000円

(採取時に吸い込むと錯乱するので注意が必要)



マーメイド レベル1

HP 200~

MP 100

攻撃力 30+武器

守備力 30+防具

素早さ 20+アイテム

魔法 スリープ アンチマジック ウォーター

能力 危険察知


レッサー ビートル レベル 全長約1メートル

HP 150~

MP 20

攻撃力 80

守備力 80

素早さ 40

魔法 無し

能力 強力


レッサービートルの殻 1500円



レッサー アリゲーター レベル1 全長約2メートル

HP 200~

MP 10

攻撃力 150

守備力 120

素早さ 40

魔法 無し

能力 強力



アリゲーター レベル1 全長約4メートル

HP 500~

MP 60

攻撃力 300~

守備力 200

素早さ 100

魔法 無し

能力 剛力 堅守



レッサー アリゲーターの皮 3000円

アリゲーターの皮 5000円



レッサーマンティス レベル1 全長約1メートル

HP 150~

MP 30

攻撃力 90

守備力 50

素早さ 60

魔法 無し

能力 威嚇 斬撃衝



マンティス レベル1 全長約2メートル

HP 600~

MP 60

攻撃力 300

守備力 150

素早さ 150

魔法 無し

能力 統率 威嚇 斬撃衝 能力軽減



レッサーマンティスの鎌 5000円

マンティスの鎌 10000円


レッサー ロパロパ レベル1 全長約60センチ

HP 200~

MP 30

攻撃力 10

守備力 10

素早さ 40

魔法 無し

能力 捕食 酸 疾走 HP回復



ロパロパ レベル1 全長約120センチ

HP 500

MP 150

攻撃力 50

守備力 100

素早さ 200

魔法 アース マジックドレイン ダークネス

能力 捕食 強酸 疾走 HP回復



ブラック ロパロパ レベル22 全長約120センチ

HP 800

MP 260

攻撃力 120

守備力 160

素早さ 400

魔法 アース ダークネス

能力 捕食 強酸 疾走 HP回復 能力軽減



シルルン 魔物使い レベル12

HP 200

MP 0

攻撃力 50+ミスリルダガー 鋼のクロスボウ

守備力 20+白ぽいシャツと黒っぽい半ズボン

素早さ 100+サンダル

魔法 無し

能力 逃走癖 集中 危険探知 魔物探知 魔物解析 魔物能力耐性 

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― 新着の感想 ―
[一言] ブラックが思った以上に可愛い(笑) 人魚は迷惑になってる!
[良い点] プルとプニが可愛い [気になる点] 戦闘参加モンスターと人が多くてこんがらがります。 [一言] 漫画で読みたいです。
[良い点] 戦いに集中していて、声も出ないのが、 緊張感がありますね。 シルルンのスピードが尋常じゃないですね、 回復させるために全力疾走してる感じでした。 [気になる点] ただ、問題があるとしたら、…
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