109 ガードの仕事の募集 修修
シルルンたちは鉱山拠点の中にあるシルルンの部屋に出現した。
「ふぅ、やっと戻ってきたわ」
「……すごく長い間あそこにいたような気がするわね」
リジルとリザの顔に虚脱したような安堵の色が浮かぶ。
「あれ? ビークスとハイ スパイダーがいないね?」
訝しげな表情を浮かべるシルルンは『魔物探知』で周辺を探ったが、ビークスとハイ スパイダーの気配を探知できなかった。
「フフッ……私がもう一度迎えにいってくるわ」
ラーネは『瞬間移動』を発動して姿が掻き消えた。
「じゃあ、外で待ってようか」
シルルンが部屋から出るとリザたちも後に続く。
シルルンたちがしばらく待っていると、ラーネがビークスとハイ スパイダーを連れて出現した。
「試してみたけれど部屋より魔物が大きいからはじかれるみたいね」
「えっ!? そうなんだ」
(大きなペットも入れるぐらいに部屋を大きくしないといけないね……)
シルルンは顔を顰めている。
「ね、ねぇ、ボス……大きいカブトムシの魔物はボスのペットになってるんですよね?」
「うん、そうだよ」
「で、でも、私たちを見て口から涎が出てるように見えるんだけど……」
リジルは不審げな眼差しをビークスに向けている。
シルルンは視線をビークスに転じると、リジルが指摘したように、ビークスの口から涎が大量に溢れ出ていた。
「あはは、ビートル種は草食なんだけど、ビークスはアンデッドになったから肉食になったんだよ」
「えっ!?」
リジルは思わず耳を疑った。
「そ、それって、私たちを餌と思ってるってことじゃないですか!?」
「まぁ、そうだけど仲間は食べるなって命令してるから大丈夫だよ」
シルルンはにっこりと微笑んだが、リジルたちの顔は引きつったままだ。
すると、シルルンたちを視認したメイとセーナが慌ててシルルンたちの元に走ってきた。
「シ、シルルン様!! お戻りになられたのですね!!」
「うん、ただいまメイ。僕ちゃんがいない間に何かあった?」
「いえ、何もありませんでした」
「そうなんだ。じゃあ、話があるから皆を呼んできてくれないかな」
「はい、分かりました」
弾けるような笑顔を見せたメイは、セーナと一緒に仲間たちを呼びに拠点の奥へと歩いていった。
しばらくすると、シルルンの仲間たちがシルルンの元に集結し、拠点で働く者たちがシルルンたちを遠巻きに眺めている。
「え~とね、僕ちゃんたちがいなくなったのは魔導具をさわってたら転移したからなんだよ。転移した場所はアダックという国のダンジョンで、とりあえず適当な階まで潜ってから帰ってきたんだよ」
「なるほど、どうりでどこを捜しても見つからぬわけだ」
ガダンは合点がいったと一人頷いている。
「で、新しく仲間になった者たちを紹介するね」
「私の名はロシェール!! 主であるシルルン様に剣を捧げた聖騎士だ。よろしく頼む」
ロシェールは声高らかに宣言した。
これに対して、シルルンの仲間たちは聖騎士なら異論はないと考えていた。
「おいおい、聖騎士だってよ!?」
「す、すげぇ、美人だな……」
掘り手の男たちは鼻の下を伸ばしている。
「私はリャンネル。魔族のサキュバス種だが、マスターの強さに惚れてペットになった。以上だ!!」
そう宣言したリャンネルは顔を紅潮させてシルルンに身を寄せた。
ペットなのでシルルンの仲間たちには何の異論もなかった。
「お、おい……ま、魔族だってよ……だ、大丈夫なのか……」
「で、でも、ペットだから大丈夫じゃないのか? ここの魔物も襲ってきたことは一度もないだろ」
「だが、魔族は極悪非道っていうのが通説だぜ?」
「けど、美人だな……」
戸惑う掘り手の男たちは腰が引けたが逃げ出さなかった。
ちなみに、リャンネルはしばらく滞在してからラーネの『瞬間移動』で帰還する予定だ。
「で、ハイ スパイダーとマンティスは、拠点周辺の守りについてもらう契約をしたからよろしくね」
「ほう、それは頼もしいですな。名はあるのですか?」
採取隊の総指揮官であるホフマイスターがシルルンに尋ねた。
「え~っとね、ハイ スパイダーがオティーニル、マンティスがヒュトルという名前だよ」
「私の名はホフマイスター。君らと同じく拠点防衛を任されている者だ。よろしく頼む」
オティーニルの前に移動したホフマイスターは、オティーニルの眼を正面から見据える。
「オティーニルが了解したって言ってるよ」
その言葉に、ホフマイスターは満足げな表情を浮かべている。
「な、なぁ、あの巨大な蜘蛛の魔物はやべぇだろ……」
「く、食われるんじゃないのか!?」
「ていうか、あいつはあんなに近づいて頭がおかしいんじゃないのか?」
掘り手の男たちは今にも逃げ出しそうだが、なんとか踏み止まっている。
「で、カブトムシの魔物はビークスって名前でハイ ビートルなんだよ。だけどアンデッドなんだよね」
シルルンはしれっと言った。
大丈夫なのかとシルルンの仲間たちは困惑した表情を浮かべている。
「マ、マジかよ!? アンデッドだってよ……」
「な、なぁ? あの眼は俺たちを見てるんじゃないのか……」
「よ、涎で地面がびちゃびちゃじゃねぇかっ!?」
「うぁぁああああああああぁぁぁ!?」
恐怖に顔を歪める掘り手の男たちは一斉に逃げ出した。
「ビークスはシャインみたいに防壁を守ってもらうからよろしくね」
不安そうな表情を浮かべるシルルンの仲間たちは頷くしかなかった。
「次はドーラ、メーア、ペーガだね。この三匹はダンジョンの宝箱に入ってた卵から孵化したんだよ」
名前を呼ばれたドーラたちはシルルンのシャツの中から顔を出す。
「ドーラはドラゴンで、メーアはナイトメア、ペーガはペガサスなんだよ」
「ド、ドラゴン!?」
龍族であるドーラに、シルルンの仲間たちは驚きを禁じ得なかった。
「うぉおおおぉぉ!! とうとうドラゴンをペットにされたのですね!!」
シルルンの心象世界の中でドラゴンの虜になったガダンは、興奮して体をブルブル震わせている。
「でも、ドーラとメーアはさわったらダメだよ。上位種より強いから噛まれたら大変だからね」
こんな小さな姿でそれほど強いのかとシルルンの仲間たちは複雑そうな顔をした。
シルルンのシャツの中からドーラを引っ張り出したリザはドーラを抱き寄せたが、ドーラに腕を噛まれても平然とドーラを撫でている。
「ペーガちゃんはさわっても大丈夫なんですか?」
アキがペーガをさわりたそうに顔を紅潮させており、元娼婦たちも同様だ。
「うん、ペーガは問題ないよ」
「あは、ペーガちゃんはモフモフでヌイグルミみたいで可愛い……」
ペーガはアキと元娼婦たちにもみくちゃにされたのだった。
「え~っとね次はスライムの新種がペットになったんだよ。灰色ぽいのがミドル、赤いのがガーネット、黄色がピヨって名前だよ」
「こ、これは大きいですね……」
ラフィーネは恍惚な表情を浮かべてミドルたちを見つめている。
「うん、大きさもそうだけど、スライムメタル種だから鉄みたいに硬いんだよね」
「て、鉄? そ、それはどんな感触なんでしょうか?」
ラフィーネはミドルたちを触りたそうにうずうずしている。
「ミドルたちはスライムメタル種だから触っても大丈夫だよ。」
その言葉に、ラフィーネは嬉々としてミドルに触れた。
「う、うわっ!? 柔らかいのに鉄みたいな感触ですね」
「あはは、餌付けしたいなら鉄をあげたら喜ぶよ。逆にそれ以外はなかなか食べないんだよ」
「……鉄ですか」
ラフィーネはガダンの店に鉄が売っているか聞いてみようと思ったのだった。
「で、僕ちゃんのペットじゃないんだけど、新しいスライムが仲間になったんだよ。名前はプルルとプニニと言うんだよ」
新しいスライムという言葉にラフィーネは敏感に反応し、シルルンを見つめて固唾を呑む。
「プルルデチュ!!」
「プニニデチ!!」
プルとプニの口の中から出てきたプルルとプニニが元気いっぱいに挨拶した。
「えっ!? しゃ、喋れるんですか!?」
シルルンの仲間たちは雷に打たれたように顔色を変える。
「ち、小さいっ!? プルちゃんとプニちゃんの赤ちゃんなんですか!? 赤ちゃんですよね!?」
ラフィーネはプルルとプニニを交互に見つめている。
「う~ん……宝箱から出た卵から孵化した個体だからプルとプニの子供じゃないけど、親とは思ってると思うよ」
「えっ!? 卵からスライムちゃんが孵化したんですか!?」
スライムは分裂して増えるものだと考えていたラフィーネは驚きを隠せなかった。
彼女はスライムの卵を入手し、自身で孵化させて親と思われたいと心の底から思ったのだった。
プルルは自分をマジマジと見つめるラフィーネが気に入ったのか、ラフィーネの肩に飛び乗った。
「う、うわぁ!? プ、プルルちゃんはとても人懐っこいですね!!」
ラフィーネはとろけそうな笑みを浮かべている。
「あはは、プルルは物怖じしないからね。それにプルルはスライムなのに強いから今後が楽しみなんだよ」
「あ、あの、シルルン様、骨の魔物もペットなのでしょうか?」
シルルンの横で佇んでいるスケルトンを目の当たりにして、メイは表情を曇らせている。
「スケルトンはプニニがサモンの魔法で召喚したんだよ」
「そ、そうなんですね」
(シルルン様のペットでなくて良かったです)
スケルトンが不気味で恐ろしい思っていたメイはほっと安堵の胸を撫で下ろした。
「すごいです!! プニニちゃんは召喚魔法を使えるんですね」
ラフィーネは興奮して鼻息が荒い。
「だけど、プニニはスケルトンしか召喚できないみたいなんだよ」
「そ、それでも召喚魔法の使い手は少ないので稀有な存在です!!」
「あはは、確かにそうだと僕ちゃんも思うから、時間があればサモンの魔法を調べてみようと思うんだよね」
こうして、新たに加わった仲間たちの紹介は終了したのだった。
シルルンは自身の部屋で酒を飲んでだらだらと過ごしていた。
彼の部屋は作り直され、シャインやビークスも楽に入れるほど広くなっているが、彼は仲間たちに見張られていた。
彼の仲間たちは再びアダックのダンジョンに赴く可能性を懸念し、シルルンを監視していたが三日が経過して杞憂だったと監視を解いたのだ。
シルルンはふと拠点の防衛力を上げなければいけないことを思い出す。
「う~ん、キャンプ村を拠点にしている冒険者を雇うのが手っ取り早いね」
その言葉に、リャンネルが一緒についていくと駄々をこねたが、シルルンは魔族であるリャンネルがいると誰も寄ってこないと却下した。
シルルンはマーニャやドーラたちを連れて行こうと思っていたが、マーニャたちは頻繁に狩りに赴いているので部屋にいなかった。
彼らはミニシリーズだけで編成された隊なのでミニ隊と呼ばれており、拠点にいる女たちに絶大な人気を誇っているので、出陣時には揉みくちゃにされていた。
ちなみに、プルルとプニニもプルとプニに連れられて狩りに赴いており、プルルは格段に強くなっている。
だが、プニニは弱いままで代わりにスケルトンがレッサー ラットと死闘を繰り返し、高レベルのスケルトンになっていた。
シルルンたちは西にあるキャンプ村にラーネの『瞬間移動』で移動した。
シルルンたちはキャンプ村の東側の出入り口前に出現する。
キャンプ村の周辺にはゴーレム種が多く見られるので魔物使いたちの修練の場になっており、北の方角に進めばシルルンたちが採掘を断念した山がある。
シルルンはブラックから降りて地面に座り込み、魔法の袋から立て札看板を四枚取り出して何やら書き始めた。
暇だったプルルとプニニが何かを見つけたのかピョンピョンと跳ねていき、それをプルとプニが慌てて追いかける。
シルルンは作業に集中しているのでその行動に気づいておらず、立て札看板を書き終わった彼はその内の一枚を地面に突き刺した。
立て札看板にはこう書かれている。
ここから東のエリアで、第3ポイントとなる採掘場を発見したので、ガードの仕事をする人を募集
1日5万円。
下位種1匹討伐5000円
通常種1匹討伐5万円
上位種1匹討伐50万円~500万円
興味がある人はキャンプ村の南側の入り口に集合
立て札看板を立てたシルルンは満足げな表情を浮かべている。
彼は残りの三枚の立て札看板を北側、西側、最後に南側に設置することを予定していた。
だが、唐突に頭に硬い何かが覆い被さってシルルンは思わず悲鳴を上げる。
「ひぃいいいいぃぃ!?」
シルルンは頭に被さった何かを手で掴んで確認すると、レッサー スパイダーだった。
「ぎぃやぁぁあああああああぁぁ!?」
シルルンは恐怖のあまりに絶叫した。
「マスター!! この蜘蛛は元気がないから連れてきたデス!!」
「たぶん、お腹が減ってるデシ!! トマトをあげてみるデシ!!」
「……ていうか、レッサー スパイダーはトマトなんか食べないんじゃない? 食べるとしたら肉だよ肉」
シルルンがレッサー スパイダーを地面に下ろすと、プニがレッサー スパイダーの前にトマトを置いた。
シルルンは魔法の袋から干し肉を取り出そうとしたが、レッサー スパイダーはトマトに食いついた。
「食べたデチュ!!」
「どんどんあげるデシ!!」
プニは口からトマトを次々に出してレッサー スパイダーの前に置いていくと、レッサー スパイダーは凄まじい勢いでトマトを食べていく。
「スパイダー種は肉食だったはずなんだけど変わった魔物だね……」
レッサー スパイダーがトマトを食べているのをシルルンは呆然と眺めている。
「この蜘蛛も連れていっていいデスか?」
「う~ん、テイムしてない魔物は危険だからダメだよ」
シルルンは難色を示す。
「この蜘蛛はおとなしいデス!!」
「連れていきたいデシ!!」
「一緒がいいデチュ!!」
「デチデチ!!」
「……わ、分かったよ。ちゃんと人を襲わないように見張りながら育てるんだよ」
「分かったデス!!」
「デシデシ!!」
プルたちは大喜びしてブラックの頭にレッサー スパイダーを乗せると、その上にプルルが見張り役として乗った。
シルルンたちは予定通りに立て札看板を北側の出入り口前、西側の出入り口前、最後に南側の出入り口前に設置してシルルンは地面に座り込んで冒険者たちが集まるのを待った。
しばらくすると、冒険者風の男たちがシルルンたちに向かって歩いてきた。
「お前がこの看板を書いたのか?」
「うん、そうだよ」
「……本当に第三ポイントを発見したのか?」
「うん。金が大量にあるポイントだから長く稼げると思うよ」
「……にわかには信じ難い話だが、本当だとしても東のエリアにはどうやって行くつもりだ。大連合でもキツイ道程なんだぞ」
「僕ちゃん範囲転移できる魔導具を持ってるから、それで第三ポイントまで転移できるから気にしなくていいよ」
シルルンはにっこりと微笑んだ。
彼はできることなら転移の腕輪のことも、ラーネの『瞬間移動』も知られたくないと考えていた。
だが、冒険者たちを第三ポイントに連れて行くにはどちらかの移動手段が必要で、それならば転移の腕輪を知られるほうがマシだと思ったのだ。
ラーネの奥の手が一撃必殺の瞬間移動斬りだからだ。
逆に言えば、彼女の瞬間移動斬りは少しでも座標軸がズレた状態で『瞬間移動』を行えば、一撃必殺にはなり得ないのだ。
つまり、『瞬間移動』を所持していることを知られると、高速で不規則に動き回って座標軸をズラされる戦法をとられることをシルルンは危惧しているのである。
「おいおい、いくらなんでもそんな魔導具の存在を信じろというのは無理があるんじゃないか?」
「う~ん……だったら来なくていいよ」
シルルンは仕方ないといった感じで答えた。
「な、なんだと!?」
「ていうか、条件は悪くないと思うし、ここで集まらないなら冒険者ギルドに行こうと思ってるからね」
「……お前、冷やかしで言ってるんじゃないのか!?」
冒険者風の男の目は異様に殺気立っている。
「えっ~~っ!? だって僕ちゃんが何言っても信じないんでしょ?」
「だったら、その魔導具とやらを見せてみろ!!」
「うん、いいよ」
シルルンは魔法の袋から転移の腕輪を取り出して冒険者風の男に見せる。
「えっ!?」
冒険者風の男は面食らったような表情を浮かべている。
「この青く光ってる玉を押すと範囲転移するんだよ。まぁ、たぶん三十人ぐらいは転移できると思うんだよね」
「お、おう……」
魔導具を見せられた冒険者風の男は平静を装いながらも内心では焦りを覚えていた。
「そっちに行ってはダメよ!!」
白いローブの女と軽装な女が魔物の群れを追いかけている。
だが、魔物の群れはシルルンたちに目掛けて押し寄せて、シルルンは魔物の群れに囲まれた。
「全部下位種だね」
(だけど僕ちゃん以外でこんな数の魔物を使役する魔物使いを初めて見たよ)
シルルンは驚きを隠せなかった。
「ごめんなさい。散歩をしていたら急にこの子たちが向きを変えたんです」
白いローブの女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「あはは、何もされてないから大丈夫だよ」
「蜘蛛の仲間がいっぱいきたデス!!」
「トマトをあげるデシ!!」
「あげたいデチュ!! あげたいデチュ!!」
「デチデチ!!」
プルとプニは口からトマトを大量に取り出し、プルルとプニニが魔物たちの前に次々とトマトを置いていくと、魔物たちは凄まじい勢いでトマトを食べだした。
「……た、食べ物まで頂いて、ほ、本当にごめんなさい……」
(これじゃあ、私が食べ物を与えていないみたいに思われる)
白いローブの女はひどく羞恥の表情を浮かべている。
「あはは、プルたちが勝手にやってることだから気にしないでいいよ」
白いローブの女はプルたちをうっとりした表情で眺めていたが、何かを思い出したのかはっとしたような顔した。
「……あなたはワーゼという冒険者をご存知ですか?」
ワーゼという言葉にプルたちが連れてきたレッサー スパイダーがピクッと反応したが、それは一瞬でシルルンたちは気付きもしなかったが、プニだけは違和感を覚えていた。
「ん? ワーゼ? たぶん知ってると思うけどそれがどうしたの?」
「やっぱり!! 以前にワーゼからとても強いスライムテイマーを知っていると聞いたことがあるんですよ」
「……ちなみに僕ちゃんが知ってるワーゼは剣豪だったけど合ってる?」
「合ってますよ!! やっぱりあなたが上位種を無傷で倒したスライムテイマーなんですね!!」
「なっ!?」
話を聞いていた冒険者風の男たちは驚きのあまりに血相を変える。
「お、おい……ワーゼさんの知り合いらしいぞ……」
「それもあるが上位種を無傷で倒したって無茶苦茶つぇえじゃねぇか!?」
「ど、どうすんだよ? お、俺たちケンカ売っちまったんじゃないか?」
「おいおい、俺たちというより、お前だろ……ケンカを売ったのは!?」
「そ、そりゃねぇだろ……」
冒険者風の男たちは小声で言い争っている。
「まぁ、ワーゼが何て言ってたかは知らないけど、ワーゼの隊とは中層に来るまで連合を組んでたんだよ。その時に君はいなかったと思うけど今はワーゼと組んでるのかい?」
「いえ、そうではないんですがワーゼは行方不明なんです……」
白いローブの女は悲痛な表情を浮かべる。
「えっ!? なんでなの?」
「私たちは東のエリアを採掘しようと集まった集団なんですが、ハイ センチピードに仲間が殺されて、敵討ちにワーゼたちが向かったのですが、その内の一隊は戻ってきたのですがワーゼは戻ってきていないのです」
「そ、そうなんだ……僕ちゃんもハイ センチピードに出くわしたことがあるけど、あれはデカ過ぎてヤバイ相手だよね」
シルルンは深刻な表情を浮かべている。
「言い遅れましたが私の名前はポロンといいます。そのハイ センチピードは二匹いて高レベルらしいのですがあなたなら勝算はありますか?」
「僕ちゃんはシルルンだよ。まぁ、上位種程度なら高レベルでも余裕だね」
「えっ!? よ、余裕なんですか!?」
そんな答えが返ってくるとは思いもしなかったポロンは面食らってぽかんとする。
「帰りに寄ってみるけど場所はどこなの?」
「い、行って頂けるんですか!! あ、ありがとうございます!! 詳しい場所は分からないんですが、キャンプ村の東側出入り口から北東だそうです」
ポロンは歓喜のあまりに瞳に涙が浮かんでいる。
「う~ん、なるほどね……その辺なら北にある上層に繋がるルートから下りてきてるのかもしれないね」
「仇討ちに向かった仲間にはワーゼの他にポリストンという私たちのリーダーもいるんです。よろしくお願いします」
「うん、じゃあ、今から行ってみるから代わりに君が宣伝しておいてくれないかな?」
「えっ!? 何を宣伝すればいいんですか?」
「うん、僕ちゃんは東のエリアで大規模ポイントを発見したんだよ。そのポイントでガードの仕事をしたい人を募集してるんだよ」
シルルンは自ら地面に突き刺した立て札看板を指差しながら言った。
「なっ!? 採掘ポイントを発見したんですか!?」
ポロンは雷に打たれたように顔色を変える。
「うん。金がガンガン掘れるポイントだから長く稼げると思うんだよ。それで移動方法なんだけど、それは今から見せるから僕ちゃんたちから離れててくれないかな」
ポロンたちと冒険者風の男たちはシルルンに言われた通りに、シルルンから離れて距離を取る。
「ポイントへの移動手段は魔導具での瞬間移動なんだよね」
シルルンが転移の腕輪の青く光り輝く宝玉を押すと地面に白く輝く文字で書かれた魔法陣が展開し、ポロンたちは大きく目を見張った。
「じゃあ、宣伝のほうは頼んだよ」
シルルンたちはそういい残して、その姿が掻き消えたのだった。
「……す、すごい」
「マ、マジかよ……」
ポロンたちと冒険者風の男たちは呆然と立ち尽くしたのだった。
ちなみに、シルルンの部屋に出現したシルルンたちは、ラーネの『瞬間移動』で再びキャンプ村の東側の出入り口に戻り、そこから北東に進んでハイ センチピードを探し回ったが発見できなかったのだった。
ギャンたちはポリストンたちを皆殺しにしてから何食わぬ顔で拠点に帰還していた。
彼らは、自分たちはなんとか生き延びたが、ポリストンたちとははぐれてしまって安否は分からないと弁明し、現在はアントンがリーダーを引き継いでおり、キャンプ場もキャンプ村から南に進んだ場所に変更していた。
そのキャンプ場を横切る男冒険者が数あるテントの中で、一際大きい天幕の中に入る。
「アントンさん、東のエリアで採掘ポイントが見つかったらしいと皆が騒いでいますぜ」
男冒険者がテーブル席の奥に腰掛けて酒を飲んでいるアントンに報告する。
「……へぇ、それは朗報だな。だが、どうやってそこまで行くんだ?」
「へい、それが魔導具による瞬間移動だそうで、瞬間移動するのを仲間たちが見たらしいですぜ」
「瞬間移動だと!? それはすごいな……」
「へい、ポイントを発見したのはどうやらワーゼさんの知り合いらしいですぜ」
「……ほう」
アントンは意外そうな顔をした。
「募集内容はポイントのガードの仕事らしく報酬も悪くないと皆は言っていますがどうしますか? 皆がアントンさんたちの意見を聞きたいと言ってますぜ」
「……迷うことはないだろう。俺たちは東のエリアを採掘するための集まりだ。俺たちでポイントを発見できなかったことは残念だが、報酬が悪くないのなら行ってみるべきだと俺は思うぜ」
「分かりやした。皆にはそう伝えてきます」
男冒険者は満足げな表情を浮かべながらテントから退出したが、それを確認したギャンたちは意地の悪い微笑みを口元に浮かべたのだった。
気に入ってもらえたら応援よろしくお願いします。




